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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
別れ編
123/184

上杉家滅亡?!

一言関係が無いと言えればいい。

でもそれが兄弟であれば、言えないのかもしれない。

血の繋がりとはやはり大きいのだ。

どれだけ嫌な奴でも、間違った事をしていても、見捨てられないのが家族というものなのだろう。

俺はそれを否定する事ができない。

何故なら、俺も同じ気持ちだから。


「策也、あんたが見て来た状況と報道を総合して考えると、完全に冬馬の暴走なのよね?」

「まあな。冬馬の武装組織、あれは完全にテロ集団みたいなもんだよ。取られた領土を取り戻したいんじゃない。別の目的で動いているよ。それが何かは分からないけどな」

「だったらどうして早乙女はそう言わないんだよ?」

既に上杉の町は二つ目が陥落していた。

ネット上ではもう完全に早乙女の仕業だという事になっている。

しかし未だに早乙女は声明を発表していない。

世界会議の招集も無視だ。

魔人たちも沈黙を守っている。

乱馬は複雑な心境で、早乙女同様何も言えない状況だった。

完全に冬馬の暴走。

罪があるとしたら冬馬と武装組織だけだろう。

もう大人なのだから、親に責任を求めるのもお門違いだ。

本来なら王弟をさっさと始末して終わらせたい。

でもそれは乱馬の弟であり、早乙女の王である竜馬にとっての弟でもある。

このままだといずれは賢神との戦いとなり、確実に死ぬ事になるのだろう。

いくら早乙女最強であっても、イレギュラーな俺やみゆきを除けば賢神は人類最強なのだ。

ミケコは事情を察して動かない。

俺も王として下手には動けない。

仮に動くにしても、地震や火山の噴火で半壊しているような町だから、情報が間に合ってないんだよな。

冬馬の動きがつかめていないのだ。

とにかく早い情報と話す機会が必要だよ。

そうしてこの日、とうとうキョテーの町にて冬馬と賢神が相対するという情報が入ってきた。

『お兄ちゃん!キョテーの町で戦いが始まったみたい。とうとう冬馬さんが賢神さんと戦うよ』

『とうとう来たか。ありがとう禰子』

ようやく足取りが掴めたと思ったら頂上決戦かよ。

地震や火山の噴火で諜報員も避難したりしていたからな。

「ようやく冬馬の動きを掴んだ。もう既に賢神との戦いは始まっているみたいだけどさ」

「これで上杉賢神が勝てば終わるのね」

「流石に冬馬が死ねば早乙女も関係が無いと言えるだろう」

「でも此処まで黙ってきた早乙女の気持ちを考えると、なんだか胸が苦しくなるのだ」

いくら国を裏切った奴でも、兄弟だもんな。

伊集院だって息子を追い詰めてゆくのは心苦しかったはずなのだ。

どうしてそういう事になるかなぁ。

伊集院の場合はおそらく、強い力を手に入れてしまったが故だろう。

力相応の対価を得られなければ不満もたまる。

だとすると冬馬も力を得たのだろうか。

早乙女の中では最強だったと言うが、それだけで賢神に挑むだろうか。

何か嫌な予感がするな。

「俺はすぐキョテーの町に行く!」

「冬馬の魂の回収ね?」

「まあそうなんだけど、嫌な予感がするんだ」

「自分も‥‥そんな感じするっす」

洋裁もそう感じているか。

だからどうって事もないけどさ。

とにかく勝算が無いのに戦争始める馬鹿はいないよな。

普通に考えたら。

「じゃあな!」

俺はそう言って瞬間移動でキョテーの町の上空まで飛んだ。

そこから一気に町に下りて千里眼と邪眼で町中を調べた。

どういう事だ?

神クラスの気配はあるけれど、これは賢神のようで賢神ではない?

俺はその場所まで一気に移動した。

するとそこには、どことなく乱馬が相馬だった頃に似た男と、賢神のようで賢神ではない何者かが立っていた。

「ん?此花策也?」

「これはどういう事なんだ?賢神のようだが賢神じゃないな」

俺の名を知っていた奴、これがおそらく冬馬だろう。

突き刺さるような魔力は魔人のものと同じだ。

いや、こいつは更にトゲトゲしている。

「賢神だよ。ただし中身は別人だけどな!」

なるほどねぇ。

俺が大魔王に体を乗っ取られたように、賢神も誰かに体を乗っ取られたか。

「それで此花策也とやら。一体何をしに此処へ来たのかな?」

その者はそう言いながら烏帽子頭巾を脱いだ。

顔は確かに賢神だ。

しかし額には魔石が輝いていた。

何かの魔物に体を乗っ取られたようだな。

しかも神クラスの魔物。

流石にそんな奴がいたら賢神でもやられてしまう。

「何をしに、ねぇ。賢神が勝利して戦争が終わる所を見届けに来たつもりだったけど、殺られたとなると目的は変わってしまうな」

「僕を殺そうとでもいうのかい?」

「雑魚に興味はないよ。おいお前!賢神の体を返せ!」

と言って返す奴でもなさそうだけどな。

「僕を雑魚呼ばわりだと!?」

「あいにくだが、もうこの体は私のものだ。魂も食ろうたからな」

魂までも食らわれた後か。

不老不死でもない限り、もう賢神の蘇生は無理か。

「上杉家も終わったのか‥‥」

賢神は『私で上杉家は最後だ』と言っていた。

賢神なら早乙女相手でも楽勝だと思っていたけれど、まさかこんな奴がいたとはね。

「僕を無視するな!」

「五月蠅い黙れ!」

俺は王の命令を発動したつもりは無かったが、冬馬は動きを止めた。

賢神の仇は、親族である俺がとらないと駄目だな。

「悪いけど、お前には死んでもらうよ」

「たわけた事を言う。我が名は『アスモデウス』、魔界の王であるぞ」

アスモデウスね。

確か悪魔王サタンよりも少しだけ下位の悪魔だな。

しかしこいつの方がおそらく佐天よりも先に生まれて成長している。

どうやってこんな奴を手懐けたのかは分からないけれど、テロのような行動を起こしたのは力の裏付けがあったからか。

どうやらミケコたちも町に来たようだな。

武装組織の連中が町で好き放題していたようだが、そちらは任せて良さそうだ。

「じゃあとっとと片づけるか」

俺はいつもの高速移動で背後を取り肩を叩いた。

能力のコピーと同時にアレも発動させる。

「友愛」

俺はすぐにアスモデウスから離れた。

「ん?何をした?かなり速い動きだが、その動きからは攻撃ができないのかな?」

「お前はもう死んでいる」

ちょっと言ってみたかったんだよね、この台詞。

少しでも動けない状況になれば、衛星魔法兵器がお前を消滅させる。

て、それは駄目だろ!

衛星魔法兵器の威力は半端ないから、これじゃ魔石も消滅させてしまうじゃないか!

俺は今アスモデウスから奪った能力を使った。

破壊抹殺(デビルランス)乱れ撃ち!」

全方位から、漆黒の炎を纏った無数の槍がアスモデウスを襲った。

「どうしてその技を?!しかもこの数は‥‥」

かわされたらマズいからね。

全力で行かせてもらいました。

アスモデウスは一瞬にして絶命し、魔石が額から零れ落ちた。

そして自動で魔石を回収すると同時に、そこに空から友愛が降ってきた。

怒りに我を忘れちゃ駄目だよね。

危うく欲しかった魔石を無駄にする所だったよ。

もちろん魂も忘れず回収した。

この魂には賢神の魂も含まれるはずだ。

ちゃんと蘇生してやらないとな。

元の賢神では無くてもさ‥‥。

つか住民カードも残っているのな。

俺は賢神の住民カードも回収しておいた。

「アスモデウスがこうもアッサリと殺られるだと?」

あ、冬馬がいたのね。

「お前なんでこんな事したんだ?せっかく戦いも終わって平和になりかけてたのによ」

「何が平和だ。早乙女は領土を奪われたんだぞ!」

「その領土は奪ったもんだろうが!」

こんな事を言い合っていても不毛だな。

争いが起こる時には、お互い言い分があるものだ。

「くそっ!もう一度召喚してやる!」

冬馬は何やらアイテムを取り出して魔力を高め始めた。

あのアイテムは、召喚を補助するアイテムか?

でも何か嫌な感じのするアイテムだな。

俺は邪眼で確認した。

悪魔召喚用のピラミッド型クリスタルで、術者の寿命を代償に差し出すもののようだった。

そこまでしてアスモデウスを召喚したのかよ。

俺は冬馬を結界で包んだ。

魔力ドレインの結界、そして拘束する。

「なんだ?魔力が使えない?これは小鳥遊の能力?」

「よく知ってるな。流石は早乙女家、情報はしっかり持っているのな。でも今更気が付いても遅いよ。召喚は阻止させてもらった」

「くそっ‥‥俺なら早乙女なんかよりも強い国が作れると思ったのに‥‥」

どうしようかなこいつ。

やっぱり早乙女の為という訳ではなかったようだな。

でも殺すと早乙女が敵になるかもしれないし、乱馬も悲しむだろう。

どうするかは乱馬と相談か。

俺は魔力ドレインの手枷と足枷を付けてから、神武国の牢獄へと送った。

悪魔召喚用のピラミッド型クリスタルがその場に落ちていた。

これを上手く改造できたら、神クラス悪魔狩り放題じゃね?

一応取っておこう。

「兄上様!武装組織のメンバーは全員捕らえました」

「ありがとうミケコ。全員神武国に送っておいてくれ」

「了解しました兄上様。しかし‥‥辛い結果になりましたね」

「そうだな」

俺はミケコの頭をポンポンと叩いた。

もう少し何かできていれば、こんな結果にはならなかったかもしれない。

後悔してもしゃーなしか‥‥。


さて、今回の一件は早乙女の王弟によるテロだったと発表すればいいだろう。

国家とテロ集団を一緒に考えてはいけない。

テロ集団なんてものは国家組織のフリをして、争いで利益を上げようとする輩だからな。

それを世間に伝えれば丸く収まるはずだ。

ただ問題は賢神が死んでしまった事だよ。

確か直江家が跡継ぎ候補だったと思うが、その辺りの事、俺が話さないと駄目なんだろうなぁ。

叔母が亡くなってしまったのもやっぱ悲しいし、そして面倒くさいし、本当にやってられないよ。

とりあえず俺はヴリトラの地下実験場に移動した。

やる事だけさっさとやってしまおう。

せっかく待望の神クラスの魔石が手に入ったのだ。

早速試してみたいよね。

俺は超再生のベルトのパワーアップバージョンを作ってみた。

「おお!やはり神クラスの魔石が有れば、神クラスの魔道具が作れるぞ!」

なんか複雑な気持ちだよ。

賢神の命と引き換えにこれが手に入った訳だしさ。

素直に喜べない気持ちと、それでも嬉しいって気持ちが交錯していた。

「このベルトはとりあえずリンのと交換だな。これでおそらくタナトスとも互角にやれると思う」

賢神がリンを助けてくれる訳だ。

超再生のベルトのデキに超絶満足だし、帰って寝るか。

おっとどうせここに来たんだ。

アスモデウスの魂も蘇生しておくか。

俺はセバスチャンのゴーレムを取り出した。

流石にこのゴーレムで蘇生すれば、セバスチャンの意思にかなり影響を受けるだろうし、悪い奴にはならないだろう。

俺はスマホで確認する事なく、いきなり蘇生してみた。

駄目ならすぐに蘇生解除すればいいだけだし。

さて、どんな具合に蘇生できるだろうか。

「ん‥‥ここは‥‥ん?策也ではないか?」

そう言ってセバスチャンゴーレムが起き上がった。

「なんだこの体は?」

「お前、アスモデウスだよな?」

どうも様子がおかしい。

先ほど話したアスモデウスとはえらい違いだ。

「何を言っている?私は賢神だぞ?上杉賢神だ!」

「えっ?ちょっと待て!お前アスモデウスに体を乗っ取られ魂を食われただろ?」

「あー‥‥そういえば思い出したぞ。だが案ずるな。どういう訳かあ奴の魂が一瞬弱った隙に私が逆に魂を食ろうてやったわ!はははは!」

はははは、じゃねぇよ!

こっちはもう死んだと思ってショック受けてたんだぞ?

つかなんだよ、魂になっても賢神はチートかよ。

「まあ、賢神が生きてるなら良かったよ」

「ん?これが生きていると言えるのか?体が別人なようだが?」

「あ~‥‥」

もう一度死んでもらえば蘇生で元に戻るかな?

せっかく賢神として復活したのに、そんな事をしたらアスモデウスとして蘇生されるかも。

或いは姿だけアスモデウスの可能性だってあり得る。

ならば‥‥。

「その体オリハルコンだからさ、多分自分がイメージした通りの姿になる事もできると思うぞ?」

「そうなのか?」

すると賢神の姿は、セバスチャンから賢神へと変化した。

その姿は賢神と言うよりは、天照策也だった頃の俺にそっくりな女の子といった感じだった。

賢神は手を鏡に変えて顔を確認する。

「凄い凄い!私が神幻と戦い始めた頃の姿になれたじゃないか?!どうだ?可愛いだろ?」

「え、いや、それ、俺の若い頃にそっくりだし」

「そうなのか?だったらやはり策也は甥で間違いなさそうだの」

「そのようで」

しかしどうするよ。

どうもこうもないか。

「じゃあそういう訳で賢神は無事蘇生されたって事で。上杉領まで送るよ」

「まて策也。私は一度死んだんだよな?」

「まあそうだけど?」

「私は早乙女のに殺られて、それを策也が倒したんだよな?」

「ああ」

「じゃあ上杉領は策也の物じゃないか!」

「ええー!」

ちょっといきなり何言い出すんだこの叔母さんはよぉ。

「今から世界に向けてそのように発表するぞ!これで私も王様とかいうくだらない仕事から解放されるのだな!」

いやちょっと待てよ!

くだらない仕事って、そんな気持ちで王様してたのかよ。

いや実際メチャメチャやりたくない仕事だけどさ、やるからにはちゃんとやらないと駄目だろうが。

「あんた王様向いてないよ!」

「そうだ!だから向いてる策也に譲るんだぞ!」

ガーン!

なんか正しい理屈を言われたような気がしたぞ?

この会話、俺は一体どこで間違えた?

こいつに王様を続けさせなきゃ駄目じゃないのか?

でもやる気の無い奴にやらせたら、民が可哀想だ‥‥。

「分かったよ‥‥引き受けるよ‥‥」

「ラッキー!言ってみるものだな」

「冗談だったんかーい!」

俺は思いっきり手の甲で賢神にツッコミを入れてしまった。

やっぱこの人俺の叔母さんだわ。

何か波長が合うもん。

「では策也、お主の家に案内せい」

「なんでだ?」

「これから厄介になるからに決まってるじゃないか!」

「なんで決まってるんだ?」

「それは、なんか策也と一緒にいると楽しい事がありそうだからな」

さいですか。

まあ部屋は余ってるし別にいいけどさ。

「あ、これ返しておくよ」

俺は拾った賢神の住民カードを渡した。

「おお!私のカードではないか。これがプラチナに変わるのが楽しみだの」

それどこかで聞いた事のある話だな。

それにしても変な世界だ。

みんな王族や貴族にあこがれているけれど、実際にやってる奴は辞めたいと言う。

地位や名誉を求めるのか、それとも自由を求めるのか。

人それぞれ幸せは違うって事だよね。


そんなわけで俺は賢神をマイホームへと連れて帰った。

「えっと、俺の叔母さんの上杉賢神くんだ」

「えー!叔母さんなのに若いよー!」

みゆきよ、そんなわけないだろ。

あ、でもこれくらいの差がある姉妹だっているよな。

「おお!この子が策也の嫁か!凄く可愛い子じゃないか!私の嫁に欲しいくらいだぞ!」

何とんでもない事を軽く言ってるんだこいつは。

ほらほら、あそこで見ている夕凪が新たな境地を開いたみたいだぞ。

こりゃしばらく妄想タイムで使い物にならないな。

「わたしは策也の嫁だから、賢神ちゃんの嫁にはなれないんだよ」

みゆきよ、見た目に騙される事勿れ。

賢神ちゃんなんて呼ばれる年ではないのだよ。

「策也の嫁ちゃん、いい!実にいいぞ!これからもそう呼んでくれたまえ」

「よくわかんないけど、わたしはみゆき。賢神ちゃんよろしくね!」

まあなんか知らんけど仲良くなったみたいだし良かったな。

こうして俺に、新たな仲間が加わった。

死んで甦った叔母さんだけど、一応身内って事でいいんだよね?

仲間はみんな家族みたいなものだと思っていたけれど、みゆきと子供以外の本当の家族が増えて、俺はなんだか最高に嬉しく感じていた。

2024年10月10日 言葉を一部修正

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