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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
別れ編
120/184

縺れる世界の王様

成功者の必須条件は行動力だ。

しかし一度の行動で成功する人は少ない。

成功の可能性を見極め、その可能性に合った数以上の行動が必要になってくる。

成功確率が十パーセントなら、百回行動すればまず間違いなく成功するだろう。

確率が一パーセントなら、千回の行動が必要になるかもしれない。

でも、可能性のある限り行動し続けた者は、いずれ成功を手にする事ができるのだ。

『自分には才能が無かった』

そう言えるのは、死ぬまで行動し挑戦し続けた者だけが言える言葉なのかもしれない。

諦めなければ成し遂げる事ができたかもしれないのだから。

ただし、諦める事も大切と言える。

だって人には寿命が存在し、才能が開花する前に死ぬ事だってあるからね。


連日ネット上は、二つの話題で持ち切りだった。

一つは有栖川商人ギルドが、皇の魔法通信ネットワークサービスを取り扱うようになった事。

博士からのメールを受け、俺は総司や千えるたちと話をした。

反対する者もいたが、俺はあらゆる手を使って説得した。

我々サイドの独占で無くなれば、当然その件での利益は減る可能性があるから反対はするよね。

それでもこの挑戦はするべきだと俺は判断した。

理由は、当然皇国や博士の為でもあるけれど、全体でシェアが伸びれば九頭竜の奴隷が犠牲になる事も減るだろう。

それにもしもこれを断ったら、有栖川が何をしてくるか分からない。

『窮鼠猫を噛む』

弱い国家でも追い詰め過ぎれば反撃してくるのだ。

尤も有栖川は弱い国ではないけれど、少し前の最盛期から比べれば国力は半分以下に弱ってきている。

逆に九頭竜は勢いを増しているわけで、この辺りで少しは有栖川に反撃してもらいたい所でもあった。

もう一つの話題は、『魔王が復活したのではないか』というものだ。

当然早乙女の防衛戦は報道されてきた訳で、その中にリンが倒した魔王の姿があればそのような話も出てきて当然。

そうなると黙っていられないのが伊集院だ。

魔王の進攻で町を二つ壊滅させられたのだから。

当然その矛先は早乙女へと向かう。

世界はなんとなく、伊集院対早乙女、有栖川と皇連合対九頭竜のような様相を呈してきていた。

「争いが争いを呼ぶ‥‥対九頭竜はまだ経済戦争だからいいけどさ、伊集院は止まらないかもな」

正直伊集院はまだまだ手の内を隠しているものと思われる。

映像でミケコたちの戦いも見ているだろう。

それでも大丈夫だと思えば早乙女に報復もあり得るかもな。

「魔人たちを早乙女にやらない方が良かったんじゃないかしら?」

「でも大魔王さんたちが行かなかったら、既に国は無かったかもしれないんだよ」

「結局悪い事をした人はどちらにしても駄目って事でしょうか?」

俺がリンや金魚と話していたら、珍しく千えるがやってきた。

「おはよう。珍しいな朝っぱらから出てくるなんて」

千えるは現在麟堂邸の二階に居候していた。

ただし生活が俺たちとは逆で、午前中は眠っているのだ。

俺は朝の時間にガゼボでニュースチェックとミーティングをする。

その後に出かけ、大抵陽が沈む頃に戻ってくるので千えるに会う事はほぼなかった。

「おはようございます。策也さんにお願いがあってまいりました」

お願いねぇ‥‥。

「いいよ!」

「私、まだ何も言ってないですよ?」

言わなくても分かるのだ。

千えるは決してこちらにマイナスになるようなお願いはしてこない。

最近までの千えるの記憶のほとんどが俺の中にあるわけで、それくらは分かってしまうのだよ。

「そうだな。それでどんなお願いなんだ?」

「旦那の折太郎の勤務先が、神武国から此花のナンデスカに作られた大使館に変更する事になったんです」

「じゃあここに住めば楽だな。麟堂邸の二階に居候してるのもアレだし、新しい家を建てるか」

「えっ?あ、はい」

「それでお願いとは?」

「それです」

それかぁ。

折太郎が何処まで信用できる奴かは分からないけれど、千えるの旦那なら大丈夫だろう。

それに愛洲とはいい関係を保っていきたい。

ならばここに住むみんなと同じように家族同然の付き合いをしておいた方がこちらとしても好都合。

大使館なんかにいるより此処にいてくれた方が、こちらも何かあった時にすぐに意思を伝えられるしな。

「とりあえず家を建てるか」

俺は立ち上がった。

「えっ?いきなりですか?」

「材料も揃っているし、もう今回で五軒目だ。要望が有ったら聞くけど何かあるか?」

俺はいきなり魔法を発動し、住人が増えても大丈夫なように空けてあった土地に屋敷を建て始めた。

「えー!策也さんが建ててくれるんですか?いや自分で‥‥」

「この場所に部外者はあまり入れたくないからな。サクッと建てるから要望を言ってくれ。今は二・三階の個室だけ靴を脱いで上がる仕様にしているけど、全部土足がいいか?」

「あ、いえ、もう慣れましたから。と言いますか、えっと、お金とか‥‥」

「千えるさん大丈夫よ。策也に任せておけば。大した労力でもなさそうだし」

「そうなんだよ。ここに住む人はみんな家族なんだよ。策也さんはお父さんみたいなもんなんだよ」

お父さんかよ。

まあ実際俺の実年齢は結構なもんだけどさ。

「他のと一緒でいいんだな?」

「はい!」

俺は他の家とほぼ同じ作りで家を建てていった。

材料なんかの準備ができた状態なので、建てるのに三十分もかからなかった。

「もう完成しちゃうんですか?」

「そうだな。後は転移ルームをどうするかだな。俺たちが使っている転移ゲートは、ナンデスカにある国王の屋敷の庭に通じてるんだ。流石に愛洲の人間がそこを使う訳にもいかないよな」

別に自由に使ってもらっても構わないけれど、国家運営に携わっている者すべてが俺の友人や仲間という訳ではない。

国王の屋敷で他国の重鎮がウロウロしていたら、タイーホ案件だろう。

「そうだったんですか?だったらこんな無茶なお願いはするつもりありませんでした」

「いや、地下の転移ルームから大使館まで移動できれば問題ないか。地下の転移ルームを利用できるのは友人や仲間だけだから問題ない。後はそっちの問題だけだ」

「つまり、私たちが此花の中枢に自由に出入りできるようになるのと同時に、逆も然りという事ですね」

「まあそうだな。そっちがそれでいいなら俺としては問題ない」

千えるは少し考えていたが、直ぐに答えを出した。

「分かりました。ただいきなりこられると大使館職員がビックリしますから、来る時は事前に連絡をいただけると助かります」

「了解。だったらこれで完成だな」

行くとしたら俺くらいだろうし、俺の場合は勝手に入って行っちゃうけどね。

それに転移ゲートは通れる人を決める事もできる。

全く問題なんて起こらないだろう。

「じゃあ千える、直ぐに転移ゲート付けに行くぞ。大使館に入る許可と転移ゲートの設置場所を決めてくれ」

「今からですか。もう驚かないって決めてたんですけれど、規格外すぎますね」

「自覚はしている!」

俺はそう言って、千えると共にナンデスカの町中まで瞬間移動した。

それから大使館へと入り、転移ゲートを設置してからまた戻ってきた。

ガゼボではリンと金魚が話をしながらまだそこにいた。

俺たちが戻って来ても気にする様子はなく、子供の話などで盛り上がっているようだった。

俺と千えるは黙って席についた。

「地下の転移ルーム、凄い転移ゲートの数ですね。あんなに多く維持できてるなんて凄いです」

「一応管轄している全ての町に行けるように繋がっているからな。特にナンデスカのホームは俺たちの元祖拠点だしハブとしての役割もある。国内で有事が有ればあそこから何処にでも瞬時に兵隊を送れるって訳だ」

「そんな大事な場所を‥‥」

少なくとも千えるに関してはもう仲間だと思っている。

それに折太郎や子供たちに関しても、千えるの二十四年の記憶から問題を起こさせるような事は絶対にさせないと分かる。

国を出ているか出ていないかの違いはあるけれど、金魚だって有栖川に仕える兎束の人間だし、洋裁だって島津の人間だ。

みゆきだって皇だし、乱馬だって早乙女だし、望海なんか今も西園寺なのである。

俺は‥‥日本、いやこの世界では織田だし、全く問題がないよね。

「こうやって愛洲は完全に取り込んでおくのだよ」

「私が策也さんを取り込もうとして、逆に取り込まれていたのですね」

なんとなく予感はあったのだ。

最初に会った時から、得をしていたのは俺の方ではないかと。

「では取り込まれついでに策也さんに相談してもいいですか?」

「相談?」

「はい。実は十年以上前から、愛洲領内で大きな問題が起こっているのです」

「どんな問題なんだ?」

千えるが相談するくらいの問題だ。

さぞ解決困難な問題なのだろう。

「実は愛洲領内には多くの学園があるのですが、どうも自由を否定するような教育がなされているようなのです」

「自由の国で自由を否定か。それは尋常じゃない事態かもな」

国家の方針と民の考えが大きく違ってくれば、そこに対立が生まれるからね。

「はい。学園に関しては、教育を管理する機関が教育内容をチェックし、援助サポートをして全ての民が教育を受けられる体制を取っています。だから本来はそのような事は無いはずなのです」

「だけどそれは起こっている、か‥‥」

援助サポートをして教育管理機関が学園を仕切れば、一見教育内容に問題は起こらないようにも感じる。

でも教育管理機関そのものが腐った場合、それを正す事はできない。

「問題は、教育管理機関が全てを仕切っている所にあるな」

「私もそう思います。それで何度か役員を入れ替えたりしてきたのですが、改善は一時的ですぐに再発するのです」

おそらくそう仕向けたい誰かの力が働いているのだろうな。

そしてそれができるとしたら、おそらくはお金。

今回の場合、二ヶ所にお金が存在し得る。

一つは援助サポートとして国から学園に出るお金。

そしてもう一つは教育管理機関が持つ権力によって生まれるお金。

教育管理機関は、駄目な教育に目をつぶる事でお金を要求できる権力を持っているとも言える。

だから学園は、援助サポートとして国から貰ったお金を教育管理機関に支払う事で、何でも教えられる場所へと変えてしまえるのだ。

俺がもしも有栖川のように愛洲の自由主義が気に食わないと思えば、この手は十分に使えるだろう。

愛洲で適当に学園を作り、教育管理機関に賄賂を掴ませれば自由に自由を否定する教育ができてしまう。

尚且つ援助サポートのおかげで賄賂費用も回収できる。

しかし仮にこれが有栖川の工作だとして、他国を貶める為に民の自由意思を否定させるかねぇ。

それはいずれ経済で力を維持している自分たちの否定にもつながりそうなんだけどな。

転生前の世界で、かつてGHQが日本を共産主義化しようとしたように。

「まずは援助サポートを辞める事だな。学園にはお金を一切出さない」

「そうすると学園の数が足りなくならないでしょうか」

「別に勉強は学園でしなければならない訳じゃない。家庭でも教会でも小さな塾でもいいじゃないか。それにみんながみんな同じ事を学ぶ必要もない。得手不得手もあるしな」

転生前の世界でも、教育無償化とか言いながら援助して、教育レベルが下がる問題があった。

教育機関に限らず、補助金なんて概ね良いモノじゃないんだよね。

簡単にお金が手に入ったら、向上心も何も失ってゆくのだから。

「策也さんが言うなら、一度やってみましょうか」

「そうだな。様子を見ながら徐々に変えて行くのがいいだろう。それとそれでも改善されなければ、教育管理機関は廃止して良いと思うぞ。仕事をしない機関に予算は必要ないよ」

「策也さんって、バッサリいきますね」

「でも今までだいたい上手くいってきたんだよ」

「そうね。策也が関与してから此花も良くなったのは認めるわ」

いつの間にか金魚とリンも話を聞いていたようだ。

そこからは千えるを含め三人で女の会話が始まった。

女三人寄れば(かしま)しい、だな。

子供の話やどうでも良さそうな話をハイテンションで語り合っていた。

こりゃ俺には付いていけない。

俺はそっと席を立った。


午後になって、俺は乱馬のいるゴブリンの洞窟を訪ねた。

乱馬の所を訪ねた理由は、魔力蝙蝠の魔生の魔石を作れるよう研究を依頼していたからだ。

当然アルカディアの賢太の所でも研究させているのだが、既に実験は百回以上失敗を繰り返している。

どうやらかなり難しいらしい。

ならば頼れるのは乱馬と、そして俺自身でなんとかするしかない。

このままアルカディアに任せて実験を繰り返しても、何年何十年かかるか分からないからな。

今有栖川の協力を得てまで博士が大攻勢をかけようと動き出したのだ。

もしも上手く行けば、数年後には魔石不足に陥る可能性もあり得る。

その前になんとかしなければならないと考えていた。

「乱馬どうだ?やはり難しいか?」

「そうだね。原理はそんなに難しくないんだ。この世界の魔導具は一つから六つの魔法が組み合わさってできている。その辺りは策也も作っているから知ってるよね?」

「お、おう」

いや俺の場合イメージで適当にやってるから、細かい事は考えてないんだよ。

魔法記憶を探れば確かにそのような記憶はあるけれど、そこまで考えると逆にややこしくなりそうだから考えないようにしていた。

一応説明しておくと、基礎となる魔法は一つの術式なので、それだけが魔石に刻まれる。

その基礎となる魔法を二つ合わせた魔法、例えば爆裂の魔法なんかは、炎の魔法と爆発の魔法を組み合わせてあるので、魔石に刻む時は線で結ぶ。

三つの時は三角形、四つの時は四角形か十字、五つの時は五芒星か五角形、六つの時は六芒星となる。

この数が多くなれば当然複雑な魔法という事になるわけだが、基本七つ以上の魔法は組み合わせられないとなっている。

少なくとも魔法道具でやった事のある者はいないって事だ。

で、今回の魔生の魔石だが、実は二つの魔法の組み合わせなので割と簡単な部類には入るのだ。

だけどその二つが問題で、両方とも基礎魔法にしてはかなり難しい。

一つは魔物生成魔法。

魂をリセットして新しい魔物の個体として蘇生するような感じかな。

まあでもチートの俺はデフォルトで持っている魔法だったから問題はない。

ちなみにこの魔法によって魔物を生成すると、どんな魔物になるのか分からない。

基本的には数が多い魔物になる可能性が高い。

問題はもう一つ、魂の召喚だ。

これが一つの魔法という事になっている。

それは他の魔生の魔石を調べた結果そうなっていたのだ。

とは言えそんな魂を召喚する魔法なんて、俺の基礎魔法には存在しない。

想像でなんとかするにしても、無から魂なんて生み出せないし、何処からか持ってくるにしてもそれがある場所なんて知らない。

だから最初は別の魔生の魔石にあった術式をそのままコピーして使った。

魔生の魔石は正常に作動せず、何も生まれてこなかった。

少しずつ術式を変えていったが、一向に上手くはいかなかった。

そこで試したのが、産まれてくるはずの魔物の魔石を使うというものだった。

それはゴブリンの魔生の魔石だったので、ゴブリンの魔石で作ってみた。

一度だけ効果を発動したが、直ぐに魔石が砕けて壊れてしまった。

そこでゴブリンキングの魔石を使ったら、今度は上手くできた。

これで分かったのは、おそらくだが最上位種の魔石を使って下級のモノを生む事ができるという事だった。

となると、魔力蝙蝠の魔石を作るには、ヴァンパイアの魔石が必要という事になる。

ヴァンパイアの魔石は一年に一個は手に入れられるので、最近十三個目を手に入れ準備はできていた。

後は魔力蝙蝠を生成する為の魂を召喚する術式だけが必要な訳だが、それがどれだけ研究しても解明できずにいるわけだ。

「その内の一つ、魂の召喚が何処からどのように行われているのかが分からないんだよね」

「ふむ」

俺はゴブリンの魔生の魔石にある術式を邪眼で覗いてみた。

ん~‥‥ウネウネした文字を見ても何も分からない。

俺はやっぱり何となくのイメージでやる派なんだよ。

俳優が役を演じる時、その人がどんな人なのかしっかり掘り下げて演技をするという話はよく聞く。

でも天才はイメージで演じるという話もある。

俺はどちらかというとそっちなのだ。

天才ではないからプロの俳優にはなれないけれどね。

そんな訳で俺はとにかくイメージだ。

イメージで見るのだ。

そうするとなんとなく分かってくるのだから不思議だ。

「あれ?この術式、たぶん暗黒界からの召喚だぞ」

上杉と武田の国境にあるダンジョンで手に入れた『転移の指輪』にある術式と同じ個所がある。

「そうなの?どの部分がそれを現しているんだい?」

「えっと、この左上から六つ、その後二つも一応そうかな」

「なるほどね。この部分は多分共通で良いと思うよ。となるとその後の四つの文字が蘇生対象を現していると思う」

「そうなのか」

なんとなくアレだな。

ゲームのセーブデータを改変する作業に似ている。

どの数字が何を現しているのか、必死にバイナリデータを見て解析していた頃を思い出すよ。

でもあの時は日本語と数字だったから割と見つけやすかった。

今回はウネウネした文字だからこりゃ見つけるのは難しいかもな。

そもそも俺のメインメモリじゃ文字すら知らないわけだし。

結局この日、少しは進展があったかも知れないが実験は失敗ばかりだった。

もっと魔性の魔石を集めて比べて解析するか、或いは魔力蝙蝠の魔生の魔石そのものを解析するかしないと無理かもしれない。

魔界に魔生の魔石を探しに行くか。

そんな事を考えながら俺はマイホームへと戻った。

「お帰り策也」

「みゆき、ただいま。どうしたんだ?何かあったのか?」

みゆきが浮かない顔をしていた。

病気だろうか。

いやこの世界では病気なんてほぼ問題がない。

何故なら簡単に魔法で治す事ができるからだ。

そしてみゆきなら、ほぼどんな病気でも自分で治せる。

それに不老不死で病気とかありえないのだ。

だったら‥‥。

「リンさんたちがガゼボで待ってるって。伊集院に何か動きがあったらしいよ」

「そうか‥‥分かった。ちょっと行ってくるな」

「うん。無理しないでね」

「ありがとう」

みゆきには心配かけないようにしないとな。

つか、とうとう伊集院が動き出したのだろうか。

全く王様は楽な仕事じゃないよな。

政治家の仕事を一手に引き受けるようなものだ。

問題が一つずつ並んでやって来てくれるのならまだ楽だけれど、アニメやドラマのように都合よくはいかない。

常に問題は沢山あって、それらが複雑に絡み合っている。

簡単に『賛成』とか『反対』とか言う事ができていた頃が懐かしいよ。

世の中そんなに単純ではないのだから。

ガゼボにはリンと金魚、それに夕凪や望海、兎白まで集まっていた。

「今日はやけに人が集まっているな」

「そりゃみんな早乙女の事で心配しているのよね」

「とうとう伊集院が声明を発表したんだよ」

「うん‥‥私の妄想とは違う嫌な展開‥‥」

「依瑠さんが心配なの。望海、良くしてもらったの」

みんな冴えない顔をしていた。

とうとう伊集院が早乙女に宣戦布告でもしたのかな。

つか夕凪の妄想と同じ展開になっても、きっと恐ろしい気がするが‥‥。

そして望海は依瑠が心配でここに来たのか。

「それで一体何があったんだ?まだニュースは見てないんだが」

「策也さん、それでも王様ですか!兎白は王様じゃないのに毎日三度の飯よりもニュースを見ているのですよ!」

兎白よ、その程度では自慢にもならないぞ。

三度の飯よりもニュースを見るくらいは、少し世に感心のある者なら普通だ。

「流石兎白だな。じゃあ何があったのか一言一句(タガ)わず教えてくれるか?」

「分かりました。その耳かっぽじってよく聞くのです!えっと‥‥魔王をよこせ!さもなくばお仕置きするぞ!、です」

兎白はやけに達成感のある顔をしているが、それじゃ全然分からんぞ。

「ニュースを見るか‥‥」

「兎白を放置プレイですか!?」

「いやそれ多分間違えているから‥‥」

俺はニュース映像を出した。

『早乙女に通告する。この映像の者は再び復活した魔王であると判断した。この者の身柄をこちらに渡せ。さもなくば伊集院は早乙女に対して武力制裁を考えなければならない』

ふむ、兎白の言った通りだったか。

映像にはリンが倒した魔王、つまり依瑠の魔人姿が映し出されていた。

「どうするのよ策也。このままだと戦争になるわよ」

「もう駄目なんだよ。回避不可能なんだよ」

「依瑠さんを渡せだなんて酷いの。そんな事許されないの」

みんな依瑠とはそれなりに付き合いがあるからな。

友人を差し出さないと戦争だって言われているようなもんだし。

でも、この流れは悪くないぞ。

やっかいな三大国の中では一番慎重な伊集院だ。

これはもしかしたら戦争を回避できるかもしれない。

「リン、この展開は悪くない!俺の舌先三寸で丸め込んでやる!」

戦争回避の可能性が見えた事に、俺は少しテンションが上がってきた。

しかし沈んでる者たちは、俺の反応を受け入れる事ができない様子だった。

それだけで人を殺せるのではないかと思うような冷たい視線を浴びせられた。

「それで、どうしようっての?」

俺はニヤリと笑みを浮かべるのだった。

2024年10月10日 言葉を一部修正

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