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見た目は一寸《チート》!中身は神《チート》!  作者: 秋華(秋山華道)
血統編
102/184

人魚の肉の謎

商売は、資金と自由があれば案外上手くいくもの。

その両方を奪われていたのが転生前の世界だ。

何をするにも法規制がややこしくて、会社を興すにも弁護士が必要になってくる。

大学奨学金は借金で、社会進出した時にはマイナス資金からスタートだ。

こんな条件下では、若者が活躍なんてできるわけがない。

でもこの世界では、商人ギルドへの登録が必要ではあったが、税も安いし自由度も転生前と比べれば格段に大きい。

ならば成功もほとんど確約されていたようなもので、俺が初めてこの世界で作った店は、現在では世界中に支店を持つ巨大商店グループへと成長していた。

経営はほとんど従業員に任せ、俺は売って欲しい素材や商品を卸していただけなんだけどね。

まあ偶には相談に乗ったりもしていたが‥‥。

そんな相談が、今日久しぶりにあった。

相談をしてきたのは某支店の店長。

なんでも常連のお客様にお願いをされたのでなんとかならないかという話だった。

お願いは『もうすぐ自分は死ぬ。死ぬ前に一度でいいから人魚の肉が食べたい。それを叶えてくれるのなら全ての資産をお譲りする』というものだった。

これを言ってきたのはタダのパンピーではない。

遠江王国の王族の一人だったのだ。

つまり願いを叶えればかなりの金が入ってくる事になる。

さてどうしたものか。

「人魚の肉は腐るほど異次元収納にあるんだよな。問題はこのままじゃ食べられない事だ」

聞いた話によると、人魚の肉には毒があって、その毒をなんとかしないと食べたら駄目だという事。

当然俺は時間のある時に毒の除去を試みたよ。

かなりそれは困難を極めたが、チートの俺には除去できてしまった。

でも何か別の嫌な気配が残っていて、おそらく本当の毒というのはこれなんじゃないかと思っている。

尤も、もうすぐ死ぬと分かっている人になら食べさせて死なれても問題はないわけだけれど、これがただの死を呼ぶものだとは俺には思えない。

もしかしたらすぐには死なず、何年も苦しまなければならない事になる可能性だって考えられる。

それくらい嫌な気配が残っているのだ。

かといって客から求められたら、出来る限りなんとかしてあげたい気持ちもある。

それ以上に、俺自身がこの人魚の肉の謎を解明したいと思っているのだ。

「私も人魚の肉は食べたはずなんだけど、そこは記憶にないんですよね」

「俺も同じだ。食べたはずだけど覚えてないんだ」

ここに千えると俺、二人も人魚の肉を食った者がいるのに何も分からないとか。

千えるじゃないけどやっぱりどういう事か気になるよな。

「だったらもう一度、比丘尼王国へ行くしかないんじゃないでしょうか?」

「そうだな。それに今度は既に不老不死になっているわけだし、俺は別に思考を多く持っている。更に魔法記憶だってある。何かされても回避できる自信がある」

だいたい想像はできているんだよ。

人魚の肉には不老不死、そして記憶を失う効果があるんじゃないかって。

そんなわけで俺は比丘尼王国へ行く事に決めた。

さてしかし、一人で行くのも寂しい。

菜乃と妃子はいるけれど、こいつらはもう俺にとっては一心同体少女隊なのだ。

みゆきを連れて行って万一共倒れがあっても困るし、千えるは今この相談をしただけで連れていけるような相手でもない。

ふと目に留まったのは東江夕凪だった。

夕凪は前までリンの屋敷のメイドをしていたが、リンがこちらに住むようになったので現在は俺の屋敷でメイドをしている。

妄想が趣味のティアマトの魂を持ったお嬢さんだ。

「夕凪!今からちょっと比丘尼王国まで出かけるんだが、一緒にくるか?」

「えっと‥‥空いた時間妄想しててもいいなら‥‥」

「あ、ああ。それは構わないぞ。別に仕事じゃないから来る来ないも自由だし、来るならちょっとした旅行だと考えてもらっていい」

俺がそういうと、夕凪は満面の笑みを浮かべた。

「はい。行きます」

ちょっと可愛かった。

いやかなり可愛い笑顔だった。

まあどの人形も俺の好みで作っているからな。

可愛いのは当然なのだ。

魂を見ろ!

魂を見てその人を判断するのだ。

そうやって見た目に騙されないようにしても、可愛いものは可愛いよね。

「よし、じゃあ行くか」

「策也さん、気を付けて行って来てくださいね」

「そうだな。記憶を失う何かが何処かにあるかもしれないからな」

「はい。所で人魚の肉が食べたいなんて、一体誰の要望なんでしょうか。そんなに気になるって訳でもないのですが、話せるのなら教えてもらっていいですか?」

「別にいいぞ。遠江家の王族だな。王様ではないが店の常連らしいんだ」

俺がそう言うと千えるは少し驚いた表情を見せた。

「遠江に何か‥‥」

俺はそこまで言って気が付いた。

ああ、千えるの記憶を探ったらいたわこの人。

「もしかして私の記憶見ました?」

「いや、見るつもりはなかったんだけど、見えてしまうというか‥‥」

今回店に要望を出してきたのは千えるの爺さんだ。

そういえば千えるは遠江の王族だったんだよな。

「そんなわけで又な!行くぞ夕凪!」

「いつでもどうぞ」

俺は千えるから逃げるように瞬間移動した。

最後に見えた千えるの顔はふくれっ面だった。

さて今回の旅は、ザラタンの大和に乗って海を行く事にした。

理由は簡単で、それ以外に安全に行く術がないからだ。

いや、あるにはあるんだけれど、それは皇国からのルートのみで、他からだと空を飛んでいくのも危険なのだそうだ。

俺と夕凪なら行って行けなくもないけれど、別に無理をする必要もないからね。

「という訳で海神、お邪魔するぞ」

「はい主。それにこの大和は主のものじゃありませんか」

「俺は策也の物じゃないぞ海神。ただの友人で契約しているだけだ」

大和の声は甲羅の基地内でも響くなぁ。

「そうだったな。それは失礼した」

「あー!策也さんが来てるのです!夕凪さんも一緒です。みゆきさんを捨てて新婚旅行でしょうか?!」

兎白め、またとんでもない事をほざきやがって。

「兎白ちゃんこんにちは‥‥夕凪は兎白ちゃんに会いに来たんだよ」

「えっ?そうだったんですね。それじゃあ策也さんは放っておいて兎白と遊びましょう」

「はい。妄想話しようね‥‥」

「よく分からないですが分かったのです!」

妄想話ってなんだ?

つか兎白はそれでいいのか?

まあ楽しそうだし放っておこう。

「主、今回はどちらに行かれるのですか?」

「海梨か。今回は比丘尼王国までな」

「比丘尼王国ってなんか鎖国している国なんですよね?」

海菜の言う通り、比丘尼王国はほぼほぼ鎖国している国と言われている。

皇国との行き来はあるものの、決まった人しか行けないのだそうだ。

他は亀浦からザラタンに乗って行く場合くらい。

その他のルートは大荒れの自然現象によって行けなくなっていた。

もしかしたら空中都市の防衛システムのような、魔力によるものの可能性もあるとか。

なんにせよ実質ほぼ鎖国状態となっている島国だった。

「かといってそう公言している国でもないからな。入ってくるなと言われている訳ではない」

だから今回は行くんだけどね。

「でもどう考えても入ってきてほしくなさそうですよね」

「海穂よ。禁止されていない事はやっていいんだよ」

そんな訳ないけどな。

転生前の世界ではそう考える人が結構いた。

政治家とか特にな。

アメリカの悪い影響かなぁ。

アメリカって新しい国だし移民の国だから、文化統治が難しい国なんだよね。

だから全て法律としてルールを決めざるを得なかった。

でも日本は世界一長く続く国だから、法律にしなくても『良い事』と『悪い事』がみんなに染みついていたんだ。

一々法律として決めなくても、皆が暗黙のうちに悪い事をしない素晴らしい国だったんだよな。

まあそれを悪い方に使う奴が増えて、日本もドンドン規制だらけになっちゃったんだけどさ。

悪い奴がいなければ法律なんて決める必要がないし、規制が多ければそれだけ悪い奴がいるって見方もできるわけで。

この世界はルールが少ないのに思った以上に安定しているから、少なくとも転生前の世界よりはいい世界なのかもしれないな。

それを俺が壊しちゃってる気もするけどさ。

とりあえず今回は千えるの爺さんの望みを叶える為だという事で、神様には大目に見てもらう事にしよう。

そんな訳で俺は、この日大和でのどんちゃん騒ぎを楽しんだ。

ここに来ると何時も宴会している気がするな。

偶にはみんなにも息抜きしてもらいたいからね。

大和の諸君は別に大した仕事してないけど。

さて大和だが、次の日の明け方には日付変更線を越えて、明後日の朝まだ薄暗い時間に比丘尼王国へと到着した。

表現が難しいけど理解してくれ。

ここに来るまで言われていた通りかなりの嵐が吹き荒れていたが、比丘尼王国が見える所までくれば信じられないくらい穏やかな海になっていた。

「間違いなく人為的なものだな」

「大和なら関係ないですけどね」

海神の言う通り、この海を渡って此処に来られるのはザラタンだけなのだろう。

皇側からなら来る事は出来るって話だけどね。

俺と夕凪は比丘尼王国へと足を踏み入れた。

直ぐに町は見つかった。

俺たちは上空から下りて町へと入った。

「これが比丘尼の町か。雰囲気が少し違う気がするけれど、そんなに違いはないな」

「そうでしょうか?何か目線が気になる‥‥これじゃ安心して妄想できない‥‥」

そうなんだよね。

違いはほぼ無いんだけど、やっぱり俺たちが注目されているようだ。

そして間もなく治安警備隊らしき者たちに取り囲まれた。

「あんたたちこの国の者ではないな?どうやって来たのかは知らないが、この国に部外者は入れないはずだ。とにかく我々に同行してもらう」

勝手に入っちゃダメそうな国に勝手に入ればこういう事にもなるよね。

でもさ、手枷を付けられるのはなんか嫌なんだよな。

直ぐに何とでもできると思うけどさ。

「ついていくのは構わないけど、別に罪人じゃないだからそれは遠慮させてもらうよ」

俺は警備隊が持つ手枷を指さして言った。

「何かをする気なのか?何もする気がないならこれくらい付けてもいいだろう?」

「あんたらが何かする気だから付けようとしているんだろ?」

こういう無茶なロジックで何かをさせようとか、結構いるんだよな。

「とにかくこれは付けさせてもらう!」

「だったら同行できないな。この町は旅の者にいきなりそんなものを付ける国なのか?」

『夕凪、一旦この場から離れるぞ?』

『‥‥‥‥はっ!妄想してました』

相変わらず夕凪はマイペースだな。

「皆さんおやめなさい!」

俺たちがこの場からとりあえず離れようとした時、ちょっと偉そうな婆さんが現れた。

偉そうって言うか、メチャメチャ老けていて生きているのが不思議なくらいの婆さんだった。

「大婆様」

「大婆様がどうして此処に」

警備隊員の言葉から、この婆さんが大婆様と呼ばれる人物である事は理解した。

つまりこの町のトップか?

その大婆様がジロリと俺を睨んだ。

ちょっと怖いぞ。

やっぱりなんで生きてるんだこの婆さん。

スケルトンとゾンビの間に産まれた人間のようだ。

「あんた。姿は違うけど、策也だね?」

「ん?大婆様は俺の事知ってるのか?」

「まあね。それでそっちのは‥‥可愛らしい娘だねぇ。あんたの嫁かい?」

夕凪の事を嫁だと?!

まあ俺のモノではあるけどな。

「違うよ。ちょっと仕事で同行しているだけの子だ」

「‥‥分かった。この二人は私が預かるよ。警備隊は解散解散!」

「は、はい!」

大婆様が言うと、警備隊の人たちはこの場から去って行った。

「あんたが再びこの比丘尼王国に来たって事は、何か聞きたい事があって来たんだろ?とりあえず聞いてやるから家にきな」

「あ、ああ。行くぞ夕凪」

俺と夕凪は、大婆様にただ従って後を付いて行った。

妙な迫力のある婆さんだな。

魔力は結構高いけど、それ以上に底知れない何かを感じさせる婆さんだった。

案内された先は割と質素な屋敷だった。

俺たちは案内されるままに中に入り、応接室に通された。

「他のみんなは出ていきな。私とこいつらだけで話をするから」

大婆様に言われた通り、世話係の者たちは全て部屋から出て行った。

俺たちは大婆様の向かいに並んで座った。

「またここに戻ってくるとか。正直あんたが初めてだよ。それで聞きたい事ってのはどうせ記憶の事だろ?」

記憶の事?

「いや、全くそんな事は考えて無かったんだけど、俺の記憶に関して何か教えてくれるのか?」

どうやらこの比丘尼王国に、俺に過去の記憶がない事と、千えるの記憶が無くなった事に関しての答えがありそうだ。

「そうじゃなかったのかい?じゃあ一体あんたは何しにここに来たんだい?」

「ただちょっと店の客が人魚の肉が食いたいっていうからさ。食べても大丈夫なもんか確認にきたんだ。毒はなんとか取り除けたんだけどさ、他にも何か嫌な感じがしてね。これが何か大婆様は知ってるのか?」

俺がそういうと大婆様はとにかく驚いている様子だった。

「ちょっと待っておくれ。色々と思考がついていってないよ。毒は取り除けたって、それは本当なのかい?」

「まあな。ここでも毒は取り除いて出してるんだろ?」

やっぱり大婆様は驚いていた。

「毒を取り除けるなら、人魚の肉を食べても死にはしないよ。でも俄かには信じられないね。人魚の肉を用意するから、実際に取って見せておくれよ」

「構わないけど、人魚の肉なら俺も持ってるから用意しなくていいよ」

俺はそう言って異次元収納から人魚の肉を一キロほど取り出した。

「人魚の肉まで持っているのかい!そりゃ提供しようとしていた訳だから持っていて当然か。で、見た所まだ毒が入っている肉のようだね」

「分かるのか?だったら見ておいてくれ」

俺は肉に手をかざして魔法をかけた。

こいつの毒は取り除くのが難しいんだよな。

でも俺にかかればあら不思議。

「どうだ?まだ毒は感じるか?」

「いや‥‥完全に除去されている‥‥凄いな!」

「まあそれほどでも。で、これで人魚の肉ってのは食えるのか?まだ何かあるように感じるんだが」

俺がそういうと、大婆様は少し何やら考えているようだった。

そんな姿を見ていると、俺はゲロしそうな気分になった。

見た目完全に屍な婆さんだからな。

直視していたら気分が悪くなるぜ。

チラッと横を見ると、夕凪は一人でどこかの世界へと行っているようだった。

完全に妄想中だな。

でも今はその方がいいかもな。

醜いゾンビを見ているより、夢を見ている方が精神衛生上良いだろうし。

俺もお前を見て精神の安定を図る事にするよ。

「おまえさんの要望通り、人魚の肉、或いはこの王国の事についても話してやっていい。ただし条件がある。今その毒を抜いた人魚の肉を、お前さんとそちらの嬢ちゃん、二人とも食べる事だ。食べたらその後全て知りたい事は話してやる」

こりゃ完全に記憶を奪いに来てるんじゃね?

食べたらおそらく記憶が無くなるのだろう。

でもさ、俺たちに人魚の肉の効果なんて通用しないぜ。

『夕凪、今から人魚の肉を俺たちは食う。でも決して体内で吸収するな。体の中に空間を作ってそこに入れておくだけにしろ』

『うん‥‥じゃあ妄想している‥‥』

本当に分かってるのかね。

まあオリハルコンゴーレムだし、効果は無いと思うけどさ。

「別にいいぞ?全部話してくれるのなら食うさ」

「それでは食ってみせよ」

俺は洋裁の代わりに持っているナイフを取り出し、それで人魚の肉を切り分けた。

「これくらいでいいか?」

「ああ十分だ」

俺はそれを夕凪に渡すと、俺の分も同じくらい切り分けて口へと放り込んだ。

当然それは体の中に作ったただの空間へと置いておく。

俺はみゆきとイチャイチャする時と食事以外は、全てオリハルコン水銀の体で行動している。

人魚の肉の効果なんてあり得ないのだ。

「食べたようだな。すぐに苦しまない所を見ると、毒は確かに除去されておる。人魚の肉の毒は超猛毒でな。食べると三十秒と持たず死ぬはずなんだ」

「そうなんだ」

つまり毒は命を奪うものだった訳か。

となると嫌な気配がするものが、記憶を失くさせる効果といった所か。

そしてその代償として不老不死の効果を得る。

あれ?でもさっきの対応には少し違和感が残るな。

「あんたたちはこれから十年ほど、記憶を失う毎日に苦しむ事になる」

「どういう事だ?」

「人魚の肉を食ったら、十年ほどの間毎日記憶を失うんだよ。その人の能力と基本知識は残るんだけどね。思い出や人間関係の記憶は失われる事になる」

それで十年なのか。

「記憶というのは何処にあるか知ってるかい?」

「そりゃ頭の脳だろ?」

「それじゃ半分だけだ。魂にも記憶は刻まれるのさ」

ああそうだな、知ってたけど。

「人魚の肉を食うと、体の脳にある記憶は完全に消させる。しかし魂の記憶ってのは実は消す方法がなくてね。人魚の肉によって封印される形になるんだ」

「じゃあ俺の昔の記憶ってのは、魂には残っていると?」

「そうだな。人魚の肉じゃなくてもそのような状態になる事はある。例えば大きなショックを受けたり、頭がおかしくなるくらい悲しい事があったりした時だな。でも人魚の肉の効果はそのどれよりも強いと云われている」

記憶を失くす効果としては人魚の肉が最も強いと言いたいのかな。

「この世には、悪人だけど生きていないと困る人もいれば、能力が高過ぎて悪人になられては困る人もいたりするのは理解できるだろ?」

「そりゃな」

もしも俺が悪人で人類なんてどうでもいいと考えれば、世界を一日で終わらせる事も可能だろうからな。

「ここはそういう人を受け入れ記憶を失くさせリセットさせる国なんだ」

なんか色々話してくれるけど、俺が聞きたかった事とは違う気がするんだが‥‥。

「お前は人魚の肉を食って不老不死になったと思っておるようだが、実は不老不死は岩永姫の能力であって、そこで既に不老不死になっているんだよ」

「えっ?マジで?」

「マジだよ。でないと毒のある人魚の肉は食えないからね」

なるほどねぇ。

岩永姫の能力で誰かを不老不死にしてやる事はできる。

でも‥‥。

「不老不死にした人間がその後悪い人にならないように、記憶をリセットして新たな良い人格にするのは必要だろ?その準備を此処でするんだ」

「つまりここは、不老不死になった人の記憶を奪う場所って事ね。そして岩永姫は不老不死にしたりそれを解除したりする人と。それでその人格形成だが‥‥もしかして皇か?」

「そうだ。この後お前たちは皇に送られ、新たな清い人格者となって出て行く事になる。十年後の話だけどな」

そういう流れだったんだ。

「じゃあ俺はなんで六歳の時に此処に来たんだろう」

「決まっている。お前の力は大きすぎるから、清い人格者にする為に送られてきた。どうやら誰かに深い洗脳を施され育ったみたいだからな」

「俺の過去を知ってるのか?」

別にどうでも良かったけれど、ここまで聞かされると気になるよね。

「確か碓氷の最高傑作とか云われていたが、それ以上は知らんな」

碓氷の最高傑作?なんだそれ?

碓氷ってのは王族の碓氷だよな。

東の大陸の北の端にある国。

何度か山には行った事があるけど、それ以上は知らない国だ。

その内どんな国なのか調べに行ってみるか。

「ところでソロソロ記憶が失われてきただろ?話はこれくらで終わりにしよう。どうせまた忘れるんだから」

「いや、忘れないと思うぞ」

俺は体の中からテレポテーションで人魚の肉をとりだした。

「夕凪も出していいぞ?」

「はっ!策也、夕凪に変な事しちゃダメ‥‥」

夕凪はどうやら妄想の世界で俺を出演させていたようだ。

頼むから時と場所を選んで妄想してくれ。

つか、俺を出演させないで。

夕凪はなんだかんだそんな事を言いながらも、口から人魚の肉を吐き出した。

「どういう事なんだ?」

「夕凪は人間じゃないんだよね。それに俺も自分の体を好きに変化させる事ができる。食べたように見せかけていただけなんだよ」

「なんと‥‥では話した事は全て知られてしまったという事か‥‥」

「まあな」

確かに世界でこんな事が行われてると知られるのはマズイかもな。

罪人を処刑ではなく記憶改造するような事だったり、善人を人間の手で作り出しているようなものだ。

『人権がぁー!』と騒いでいた転生前の世界だったら、これはどう思われるんだろうね。

でもこの世界が思ったよりも荒れていない理由が少し分かったかもしれない。

この世界の一部は善になるように作られていたのだから。

「どうしよう。知られてしまったら‥‥殺すか?」

「俺たちを殺すなんて大婆様には無理だよ。それよりも俺は協力してやってもいいぞ?そもそも記憶リセットの為に不老不死を作ってきたんだろ?でも毒が抜ければ、そうするべきではない人まで不老不死にしなくて済むじゃないか?」

この行いが良いのか悪いのか俺には判断が付かない。

罪人の命を助けるという意味では良いかも知れないけれど、記憶を奪う行為は良しとしていいのだろうか。

或いは記憶をリセットした後、善人になるようにコントロールするのはアリなのだろうか。

教育と考えれば問題はないだろうけれどさ。

まあ分からないなら、今まで上手くいっていたものをワザワザ壊す必要もないだろう。

「協力してくれると?」

「少なくとも今の所はな。これが駄目だと思ったら考えるが、今は有っても良いと思えるしな」

「岩永姫、亀浦、比丘尼、そして皇。お前も此処に加わるって事でいいんだな?」

「そうだな。少なくとも俺は皇とはかなり近い関係にある。親しい友人もいる。これが間違っていると思っても、単純に敵になったりはしないよ。辞めさせる方向に動く可能性はあるけれどね」

「分かったよ‥‥それで毒の除去はどんな感じで協力してくれるんだい?」

「それは‥‥」

俺は毒を除去する魔道具の提案をした。

俺と同じ魔法が使えるリングか、或いはそういう魔導具を作るかの約束をした。

「じゃあな大婆様!」

「ああ‥‥」

「失礼します‥‥」

俺と夕凪は、瞬間移動魔法でマイホームへと戻ってきた。

とりあえずこれで人魚の肉の効果はハッキリしたし、食べるか食べないかは本人に決めてもらおう。

しかし俺の記憶か。

まだ魂には残っているはずなんだよな。

人魚の肉の効果で封印されているだけで。

知りたい気もするが、少し思い出されるシーンを考えると、なんとなく思い出さない方が良いのかもしれないと思う。

両親はきっと、俺に永遠の命を与えたかったんじゃなく、洗脳された記憶を失くさせたかったんだろうから。

それにしても大婆様は、脈絡もなく色々とペラペラ喋ってくれたな。

なんか不自然だったよ。

あれ?そうか。

もしかしたら俺の記憶が無くなる事を理由にして話したかったのかもね。

もしそうならあの大婆様はとんだ食わせ物かもしれない。

良い意味でね。

「策也と一緒に比丘尼王国に行ってから‥‥策也が妄想に何度も出演するんだけど‥‥なんでかな?」

「知るかよ。つか俺を登場させるの禁止な」

「妄想は思い通りにはいかない‥‥」

全てが上手く行ったと思ったけど、一つだけ問題が増えた旅となりましたとさ。

2024年10月9日 言葉を一部修正

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