月の刀!御伽総司は突然に!?
俺の屋敷は、セバスチャンゴーレムが留守を預かっていた。
と言ってもセバスチャンの意識思考は当然俺である。
やる事もなくただゴロゴロしているのも苦痛なので、起きている時間はもっぱら工作活動に励んでいた。
客がくれば対応するつもりで残していたのだが、客は一人もこなかった。
結局は今日まで庭に小屋を建てたくらいで、後はオモチャをいくつか製作途中で残している。
またセバスチャンだけになれば続きをする事になると思うが、オモチャはその内お披露目するので期待しておいてほしい。
「凄い。一瞬で戻ってくるなんて‥‥」
「ほっほっほっ!こりゃたまげたわぃ。こんな魔法を人間が使うとはのぉ。策也殿が只者ではないと分かってはおったが、わしが見込んだ通りじゃったわぃ」
「すごい‥‥です!策也さんって何者なんですか?あ、いや、いえ‥‥」
草子は少し混乱しているようで、所々別人のようになっていた。
もしかして猫を被っているのかもしれないな。
乳さえ揉ませてくれればどうでも良いけどね。
「じゃあ俺はしばらく環奈用の剣作りをする。セバスシャンに案内させるから、お前らはのんびりしていてくれ」
三人の事はセバスチャンに任せ、俺は庭の小屋へと向かった。
と言っても、セバスチャンも思考は俺なんだけどね。
何度もいうけど。
さて作る剣は、二本の刀である。
日本刀ってやつね。
洒落じゃないよ?
本当だよ?
セーラー服で戦う環奈には、やはり日本の武士が似合うだろう。
その感覚が分からないってヤツはおそらくいないはずだ。
異論は認めない。
とにかく俺はこれに決めた。
長い刀と短い刀を作るわけだが、普通は打刀と脇指って事になるのだろうか。
でも環奈ならどんな刀でも差無く振り回せるだろう。
大太刀と脇指の二本差しとか格好良くね?
忍者刀を使う環奈ちゃんも見てみたいけれど、出来れば腰に二本差してほしいし、女の子なら短刀ってのも魅力的だけれど、中身爺さんだからそれも却下。
結局最初に良いと思った大太刀と脇指を作る事にした。
しかし大太刀は環奈の体の大きさだと腰の鞘から抜けない可能性がある。
俺は環奈ゴーレムを召喚し、それで居合斬りが可能な最大の長さで作る事にした。
足りない所は魔力を手から吸収し、刃先を伸ばす具現化魔法が自動発動するようにして補った。
鞘の長さから居合斬りの間合いを見る敵がいたら、騙して誘い込む事も可能だ。
普段は脇指で戦うってのもアリだろう。
脇指には魔力によって切れ味を高めるように超音波振動する仕様にしておこうか。
どちらも魔力を使うのだから、環奈の魔力にしか反応しないようにしておこう。
俺は魔法記憶を検索し、環奈の魔力を思い出した。
魔法記憶は普通の記憶とは若干違っていて、思い出す工程が必要になる。
この世界に来てからの全ての記憶は魔法記憶として俺の中にあるが、全て普通に覚えていて活用できるわけではない。
知っているはずだから思い出すという工程が必要なのだ。
俺の頭に保存用の別記憶ドライブが付いているようなイメージで考えてくれればいい。
さて、鍛冶職人スキルなどあらゆる能力を使って、俺は二振りの刀を完成させた。
素材はこの世界で最高の素材である『ダイヤモンドミスリル』という金属だ。
ほぼどんな物を斬っても刃こぼれしないくらい固い超希少なものである。
金を集める中で割と集まってしまったんだけどね。
「我ながら良い出来だ」
大太刀は居合斬りや間合いを広くして戦う時に有効で、脇指はとにかく切れ味を追求したものである。
どれだけ使いこなせるかは環奈次第だが、知能は人間よりも上の黒死鳥だ。
完璧に使いこなしてくれるだろう。
それぞれ大太刀は『三日月刀』、脇指は『朔刀』と名付けた。
「ではもう一つ作っておくかな」
俺は小屋から出ると、今度は小さな家を建てる事にした。
別にこの場に家を建てようというのではなく、冒険の旅先でテントの代わりに使う家を異次元収納に入れておこうと思ったのだ。
野宿は経験しておきたかったのでやってはみたが、やはりあまり良いモノではない。
皆が汗を流せる場所も有った方がいいしね。
とりあえず部屋は、みんなで食事ができる台所が一つと、各自が眠れるカプセル部屋、一応トイレ二つと小さな風呂も備え付ける事にした。
「定員は七人くらいにしておくか。これ以上はパーティーを増やさない方向で‥‥」
家を建てるのも結構楽しかった。
刀を作るのもそうだけど、自分でやれる事を自分でやるのはテンションが上がる。
前世では決められた仕事をして、他は全部買ったりやってもらったりするだけの人が多い世の中だったけれど、多少貧しくともこうやって自分たちでやれる世界の方がやはり良いな。
この日俺は日が暮れるまで夢中になって家を作った。
魔法でやればもっと早く作れたりもするんだけれど、設計やアイデアを考えるのに時間がかかったって所だね。
ちなみに家なんて作らず毎回屋敷に戻ってくれば良いと思うかもしれないが、瞬間移動魔法を、しかも大勢に使うのは結構魔力を消費する。
距離が遠ければ遠いほどそれは大きくなる。
俺の魔力からすればそんなのは大したものではないけれど、走らなくて済む所を一々走る人はいないだろう。
マラソン選手だって普段は歩いて移動するのだ。
そんなわけでより楽をする為に作ったわけね。
そして夜には納得できるものが出来上がった。
この日の夜は一日ゆっくりと過ごした。
草子もリンの事をリンちゃんと呼ぶようになっていたし、親睦も深められたのだろう。
でも何故か大浴場は皆が順番に利用していた。
リンと草子、或いは俺と環奈は一緒に入ってもいいんだけどね。
なんというか、本当ならテンション上がる所なのかもしれないけれど、中身が爺さんと知っていると萎えるんだよなぁ。
部屋も各々別々でゆっくりとした。
偶には一人になりたい時もあるだろう。
まあこれからはカプセルホテルのような小さな部屋にはなるけれど、毎日一人で眠れるんだけどさ。
ちなみに俺の部屋だけはゆったりサイズで作ってある。
俺の家だから当然だよね。
それで次の日、適当に朝食をとった後、昨日瞬間移動魔法を使った場所から冒険の旅を再開した。
次に目指しているバッテンダガヤの町は、ショーシイからは直線距離としては近いが、聞けば普通は『山を迂回する安全な道を行くので割と時間がかかる』という風に説明される。
でも当然俺たちは山岳ルートを直進するのだ。
男ならやはり直進行軍だよね。
男は俺一人な感じだけど。
山道は当然強力な魔物も多い。
「この山は赤目狼の巣のようだな」
「私は戦わなくていいのね」
「ああ。環奈が遊びたいみたいだからな」
環奈と一緒に戦おうとしたリンを俺は静止していた。
この山に入る前に環奈に言われていたから。
『この二本の刀とやら、思いっきり試してみたいのぉ。戦闘はわし一人に任せてもらえんかのぅ』
俺が作ってやった刀を大層気に入ったようで、環奈は今まで見た事がない楽しそうな笑顔で赤目狼を斬り倒していた。
これほど環奈にピッタリの武器を作ってしまうとは、我ながら自分の能力が恐ろしいぜ。
才能とは言わない。
俺の能力は天性のものではないからな。
転生の際に与えられたものだ。
それを才能と言うには抵抗があった。
それにしても驚きは、超音波振動刀である『朔刀』だ。
朔刀で赤目狼の攻撃を受けただけでそのまま完全に切断してしまう。
こりゃ剣を交えるって言葉が成立しない事になりそうだ。
正直俺ですら油断すれば切断されかねない。
おそらくダイヤモンドミスリル以外の素材でできたものなら、ほとんどの物を簡単に切断する事ができるだろう。
吽龍の鎧ですら一刀両断とは言わないまでも、五秒も有れば切断してしまうかな。
正に鬼に金棒を与えてしまったようだ。
ちなみにこの刀の名前は、環奈の魔法が主に闇属性なのでそう名付けた。
闇を斬り裂く三日月のような刀と、朔の中で全てを斬り裂く刀と言う意味。
「環奈さん、本当に強いですね。黒死鳥‥‥勝てる気がしない‥‥」
俺を胸に抱いている草子は、ただただ驚いて戦いを眺めていた。
その表情は、何処か草子ではないような気がした。
なんというか、やはり今までは猫をかぶっていたのかなって思うような表情だった。
俺がそんな事を考えながら草子の顔を眺めている時だった。
全てはほんの僅かな時の中にあった。
リンの後方の茂みから、突然巨大な赤目狼が現れリンに襲い掛かった。
大きさからおそらくこの群れのボスだろう。
ただこれくらいの魔獣なら、今のリンであれば不意打ちを食らってもどうってことはない。
でもそれを知らない草子は慌てていた。
「麟堂!危ない!」
「えっ?」
草子は俺をほっぽり出して、手をリンの方向へかざした。
次の瞬間リンと赤目狼のボスの間には、大きな砂の壁ができていた。
そして更に地面から槍の形に尖った石が突き出てきて、赤目狼のボスを刺して動きを止めていた。
「ほう。この魔力は妖精魔術か」
俺はほっぽり出された事よりも、草子の魔法に興味があった。
妖精魔術は俺自身も使えるが、他の魔法よりも扱いが難しい。
今草子が使った魔法は、妖精魔術の中で自然系に属する地属性魔法。
それは妖精の力を借りる事によって発動する魔法であるが、普通妖精は常にそこにいるわけではない。
説明が難しいが、妖精はこの世界の中で共生していて、ただ普段は干渉し合えない関係にあるだけだ。
とにかく、見えないけど近くに妖精がいないとすぐにはコンタクトが取れないで、発動すら難しい魔法なのである。
一方普通の精霊魔術というのは、別世界に住む精霊とコンタクトを取るので、直ぐに魔法を発動する事ができる。
別世界だとすぐにコンタクトが取れるというのもおかしな話だが、アメリカ人とは電話で話すが、家族と話すなら家族がいる部屋に移動して話すような感じだと思ってくれればいい。
家族はいなければ帰ってくるのを待ってから話すが、アメリカ人にはわざわざ会いに行こうなんて考えないでしょ?
でも直接会える分妖精魔術の方が効果は増すわけで、草子の作った砂の壁も石の槍も強力だった。
おそらくこれは妖精を使役してるのだろう。
俺は妖精サーチのスキルを使って辺りを確認すると、やはり一人の妖精が草子の頭の上に乗っていた。
大きさは十センチくらいの小さな体で、透明な羽を持つ想像通りのヤツだ。
空を飛び魔法を得意とするという話。
少し想像と違うとするなら、頭がやや大きく見た目が子供っぽい所くらいかな。
さて、動きを止められた赤目狼のボスは、リンが吽龍の爪で斬り裂いてとどめを刺していた。
「草子ちゃん?今私の事を麟堂って呼んだわよね?」
そういえばそう呼んでいたな。
違和感を覚えながら草子の顔を見ると、ばつの悪そうな顔をしていた。
この二人は姉妹かと思うくらい似ている訳で、やはり何かあるように感じた。
「そ、そうだったかしら?リンちゃん‥‥」
凄くぎこちなかった。
「もうバレてるわよ。あんた総司でしょ。どうして女の姿になんてなってるのよ」
「えっ?そうなの?」
なんだか分からないけど、草子が総司?
総司っていえばリンが探していた御伽総司の事だが、どういう事だ?
でも言われて見ればどこかで感じた覚えのある魔力だったような気がする。
ああ、確か最初に御伽総司の住民カードを扱う時、こんな魔力だったわ。
「ふぅ‥‥バレたら仕方ない。僕が御伽総司だって何時から気が付いたんだい?麟堂?」
「ほぼ最初からね。ずっとあんたの魔法は見て来たし感じてもきた。見た目も私にそっくりだし、何かあるとは思ったわよ。というかなんでその見た目なのよ!しかも胸‥‥だけ違うし!」
そうだな。
胸が違いすぎるからその辺りで思考は停止していたな。
「いや、女の子になるって決まった時に、思い浮かんだのが麟堂だったわけでさ」
「えっ?そ、そう。でもなんで女の子になってんのよ!?こっちはもしかしたら死んだんじゃないかって心配してたんだからね。ってか男に戻れんの?」
麟堂が俺と一緒に冒険の旅に出た理由。
それは総司を見つけ出して結婚する為だ。
見つかったのは良かった。
でもその相手が女になっていたわけで、男に戻れるのかどうかは麟堂にとってはとても重要な事だった。
「麟堂は知ってるよね。僕が神の声を聞く予言者だって」
「ええ‥‥でもそれって本当だったの?」
「ずっとそう言ってるじゃん。それで神の声に従って行動する中で、胸の大きな可愛い女性になる必要があったんだ。それでまあ麟堂の見た目に似せて変化したんだけどさ」
「そうなのね‥‥」
麟堂は少し俯いて照れていた。
可愛い女の子で自分をイメージしてもらえたってのは、総司が麟堂を可愛いと思っていたって事だからな。
「それで戻れるの?」
戻れるのなら元の姿に戻って、国に帰って結婚って事で、リンの旅目的は終了するわけだが、果たして‥‥。
「さあ?魔法で女性になったから、普通なら魔法が解ければ元に戻るはずだ。でも解く方法は今の所分からない。ただこのまま一緒に旅を続けていれば、おそらくは戻れる機会もあるとは思う」
「何それ?つまりとりあえずは今のまま旅を続けなければならないって事?」
「そうなるな。そもそも僕が予言に従っているのは、大切な目的があるからだ。その目的を考えると、おそらく旅は続けなければならないんだ」
「どういう事?」
だんだん見えてきたな。
あの木彫りの熊や、住民カードが俺の物になったのも、そしてあの屋敷も、おそらくは予言に従って用意されていたシナリオなのだろう。
そしてその目的には間違いなく、俺がかかわっているはずだ。
なんせ俺はこの世界に転生してきた勇者みたいなもんだからな。
勇者ではなく賢者だけど。
「僕はこれから起こる厄災を防ぐ為に神の言う通りに行動しているんだ。その厄災とは『魔王の復活』だ」
「えっ?」
へぇ、魔王が復活するのか。
つまりそいつを倒す為には、俺が必要。
更には俺が強くした仲間たちが必要になってくるって話か。
或いはこの先勇者との出会いがあったりするのかもしれない。
「魔王を倒す為には、何処かにあると言われている『聖剣エクスカリバー』を見つけなければならないんだ。だから‥‥」
草子はそう言って俺を振り返った。
「策也さん。エクスカリバーを見つける為の手助けをしてほしいんです。いや、特にこの旅の邪魔をするつもりはありません。予言によればこのパーティーに入っていれば自然と目的へと向かうはずだから」
そういう話ね。
もしかしたら草子が勇者そのものなのかもしれないな。
ただ俺が見る限り、聖剣エクスカリバーが有ったとしても、この草子に魔王を倒せるとは思えないわけだが。
「それはいいけどさ。つまりお前、男って事なんだよな」
俺は今更ショックが襲ってきた。
さっきまで揉んでいたのは男の乳だ。
「うえぇ‥‥」
「はい。そういう事になりますね」
草子は少し申し訳なさそうな表情をした。
くっそ、可愛いじゃねぇか。
見た目はリンを上品に女の子らしくしたような感じだもんな。
胸もでかいもんな。
でも男なんだよな。
「パーティーから今更追い出そうとは思わないよ。でもこれからはちゃんと俺が楽できるように仕事してくれよ」
「ええ任せて下さい。これでも一応妖精魔術師としてはマスタークラスですから」
確かに素の能力で言えばリンよりも上なんだよな。
でも現状スーナシリングを付けていたとしても、阿吽の腕輪を付けているリンの方が圧倒的に強いのは間違いないだろう。
「この中じゃ一番の雑魚だけどな」
「えっ?そうなの?麟堂より僕の方が弱い?」
「策也が言うのだから、多分そうね‥‥」
草子はガックリと肩を落としていた。
気が付いたら魔獣は全て環奈が倒していた。
「ふおっふおっふおっ。なかなかこの剣は素晴らしいぞぃ。気に入ったわぃ。策也殿、お礼にわしの乳を揉ませてやってもええぞぃ?」
「いらんわ!つか月の刀も環奈に使ってもらえればうれしいだろう。さて、戦闘も終わったし、次の町へさっさと行くぞ!そして今度こそ、正真正銘可愛い女の子をゲットするんだ!」
「えっ?やっぱりそうなるの?でもさ、可愛い女の子ばっかりのパーティーだと、変なのが声かけて来ていい加減ウザいのよねぇ」
リンは男性のパーティーメンバーが欲しいようだ。
でも俺は、わざわざ男性メンバーなんて募集したくない。
「その辺はこれで解決だろ?」
俺は霧島ゴーレムと不動ゴーレムを召喚した。
霧島は年齢24歳設定のイケメンで、スーツ姿の男。
不動は年齢30歳設定の巨漢で道着を着ている。
こんな男たちがパーティーにいれば、変な男も声をかけてはこなくなるだろう。
「これ、策也のゴーレムでしょ。はぁ‥‥まあいいわ。本当の女の子が増えるなら、私もその方が楽しくなりそうだからね」
そういえばこのパーティー、女と子供しかいないように見えるけど、実際は男三人に女一人なんだよな。
「むさっ!」
俺は次の町で、今度こそ正真正銘の女の子をパーティーに入れる事を誓った。
2024年10月1日 一部言葉を修正