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単発らしき何か(健全枠)

わたしのバディ

作者: レゲーパンチ
掲載日:2023/03/01

【『相棒(バディ)とつむぐ物語』用に作った、単発の短文です】

【この物語はフィクションです】

【登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません】

【現代の日本で暮らす女の子視点での物語です】

 ここは、にっぽん。きょうは、わたしの4さいのたんじょうび。

 いまは、2がつ。そしてここは・・・ん?あれ、は?


 ねぇねぇ、どうしてふるえているの?

 あ、そうだよね。いまはふゆだから、さむいもんね。

 ねぇねぇ、どうしてないているの?

 もしかして、まいご?きみのパパとママはどこにいるの?

 ふーん、そうなんだ。ひとり、なんだね。

 ・・・だったら。わたしと、ともだちにならない?

 おんなのこどうし、なかよくしましょ?

 なんなら、わたしのバディにしてあげる。

 えっ?ああ、バディっていうのはね、あいぼう、っていみなの。

 ええっ?あいぼう、っていうのは・・・う、うん。そういうこと!

 とにかく!きょうからわたしたちは、あいぼうだからね!

 よろしくね、バディ。それじゃあいっしょに、あそぼ?


 よぉし。おんなどうしでやることといえば、これよね?

 ショッピングよ。おんなだけで、おかいものよ。

 といっても、パパがいっしょだけど。

 こどもだけではダメなんて・・・なっとく、いかない。

 いいもん。そのかわり、いっぱいかってもらうからね?

 まずはおかしと、おかしと、それとおかしと・・・。

 えっ、1つだけ!?いやだ!ぜんぶがいいの!

 いやだああっ!かってよ!けち!ひどい!

 う、ううっ、うあああああああああん!

 なんで!パパなんてきらい!わあああああああん!

 わがままじゃないもん!1つじゃダメだもん!

 このこといっしょにたべるんだから!1つじゃダメなの!

 ちがう!うそつきじゃない!うそなんかついてない!いっぱいかってほしいから、そういってるんじゃないの!わたしは、ただ――。

 ・・・だったら。おかしなんて、いらない。

 このこのだけで、いい。わたしは、いらない。

 わたしは、おかしはいらない。このこといっしょに、おやつをたべて、あそびたいだけだから。だから、このこのぶんは、いっぱいかって?

 えっ、ちょっとパパ?や、やめてよ。はずかしいから、あたまをよしよししないでよ。・・・うん、こっちこそごめんなさい。パパ、なかなおりしよ?

 ということで。あれと、これと、それと、あっちと、こっちと、そっちと。ぜんぶ、かってくれるんだよね?・・・だよ、ね?


 ふっ、ちょろい。

 バディ、おぼえておくのよ。これが、なきおとし、ってわざよ。おんながなくのは、けっしてはずかしいことじゃないのよ、ふっふっふ。

 それじゃあ、こんどこそおんなだけで、こうえんで・・・ねぇねぇ、どうしてママがいるの?えっ、こどもだけではダメ?なっとく、いかない。

 うーん、でもママもおんなだから、よしとする。

 それじゃあ、ボールなげしよ?それじゃあ、わたしから――。

 ねぇママ、ライザーボールってどうやればいいの?

 えっ?ああ、パパがいってたの。そういうわざがあるって。

 ええっ?ママもわからないの?うーん、ならいいや。

 それなら、ドライブシュートっていうのをおしえて!これもパパがいってたんだけど、もしわたしがこれをできるようになったら・・・。

 ねぇねぇ、どうしてママはおこってるの?えっ、あとでパパをおせっきょうするって?パパがなにか、わるいことをしたの?

 うーん、でもママのほうがパパよりつよいから、よしとする。

 えっ!?パパのかわりに、ママがおしえてくれるの!?ふむふむ、ひだりてはそえるだけ・・・ねぇママ、ひだりってどっち?


 きがついたら、もうこんなじかん。

 もっとあそびたいけど、おなかがすいたね。

 うん、そうだね。いっしょに、かえろ?

 バディはたのしかった?わたし?たのしかったよ!

 ふむふむ、ここがバディのおうちなんだね。

 だけど・・・ねぇママ、バディをウチにいれちゃダメ?ごはんもいっしょにたべたいし、おふろもはいりたいし、ねむたくなるまであそんで――。

 あ、そうか。あしたまた、あそべばいいんだね。

 だってバディとは、あいぼうなんだから。だからあしたもいっしょ、あさってもいっしょ、えーと・・・ママ、あさってのつぎってなに?

 とにかく。わたしたちは、あいぼうだから、ね。

 それじゃあ、またね。・・・あう。

 バディったら、なかないでよ。もう、しかたないなぁ。

 ママ。もうすこしだけ、あそんでもいい?

 うん、ばんごはんが、できるまででいいから。

 それじゃあバディ・・・おしゃべりしよ?

 ふふ。わたしたちは、ずっといっしょ、だからね。


 ふっふっふ。ふふふふふ。

 みてみてバディ!ランドセルよ!

 わたし、もうすぐしょうがくせいになるの!

 ふっふっふ。これでわたしも、おとなのレディね。

 それとも、おねえさん、っていうべき?

 だって。バディよりわたしのほうが、おねえさんだからね。

 えっと・・・バディとあったのは。もう、2ねんまえ?

 バディもおおきくなったけど、わたしもおおきくなったから。やっぱりわたしのほうが、おねえさんだね。ふっふっふ。

 だけど。これだけは、かわらない。

 わたしたちは、あいぼうだから。ともだちだから。

 だから、きょうもいっしょに、あそぼ?

 バディもうれしい?うん、わたしも!

 よぉし、きょうはおにごっこで・・・うわわ!?ちょっとバディ!?まって!まってったら!わたしをおいていかないでくれる!?

 こらーっ!まちなさーい!・・・ぜぇ、はぁ。

 やっぱりバディって、あしがはやいんだね。だけどちゃんと、わたしをまってくれるんだね。ふふ、やっぱりわたしたちって、あいぼうだね?


 ・・・ママ、なに?

 バディ?しらない。あんな子、もうしらない。

 あんなの、ともだちじゃない。もうしらない。

 べつにいいもん。学校でともだちできたから。

 ママは、おこらないの?どうして?

 だってバディったら、わたしのたいそうふくをどろだらけにしたのよ!?あしたのたいいく、どうすればいいのよ!

 バディはまだ子どもだからって、やっていいこととわるいことがあるでしょ!?バディなんてしらない!もうバディなんてあいぼうじゃない!

 ・・・なによ、バディ。そんな目をしてもダメ。ないてもダメ。なきおとしなんて、そんなのつうようしないから。ゆるさない。

 しらないもん。わたしはあしたも学校なの。わたしはあなたよりもおねえさんだから、バディとあそんでいるヒマなんてないの。

 なによ?ないてもダメだって。ゆるさない。

 もうあなたは、あいぼうじゃないの。だからもう――。

 ハァ。わかったから、もうなかないで?

 うん、そうだよね。たいそうふくは、あらえばいいもんね。

 だけど、つぎからはやめてね?やくそく、だからね?


 ねぇバディ。どうしておこってるの?

 あー。それも、そうだよね。

 ごめんね。もうわたしも2年生だから、学校がいそがしくて。

 ここのところ、バディとあそんであげる時間が少なかったね。

 だから、今日はいっしょにあそぼ?

 ・・・うん。ちょっと、いやなことがあって、ね。

 ごめんね、バディ。話を聞いてくれる?

 うん、そうなの。パパとママが、ケンカしちゃって。

 2人には、ちゃんと言ったの。なかよくしてって。

 だけど。パパもママも、わたしの言うことを聞いてくれないの。子供にはかんけいない、って言って。それで今も、ケンカしてるの。

 ・・・もう、いや。だから、今日はバディといっしょにいる。ていうか、いっしょにどこかに行かない?いつもの公園よりも、もっと遠くに。

 それじゃあ、さっそく・・・って、バディ?立ち止まらないでくれる?わたしは家出するんだから、って!?そっちはわたしのウチだよ!?

 ままま、まってったら!今パパとママがケンカしてるんだって!わたしでもダメだったのに、バディが言ったところで――。

 パパ、ママ。わたしたちからの、おねがい。

 もうケンカはやめて。バディも、そう言ってるから。


 ふう、ひぃ、はぁ。ああダメ、ドキドキする。

 な、何よバディ。そんな顔しないでよ。

 ふん!バディは子供だから分からないよね。

 今日はそういう日なのよ?バレンタインデーなの。

 私だってもう10才なんだからね?・・・そうよ、悪い?ついでにラブレターも書い、て。あうう、何であんなの書いちゃったんだろ。

 あぁあどうしよ、自分で作っておいてアレだけど手作りチョコなんて初めて作ったから不安で不安で。しかもあの子がいない内に机に置いて、何も言わずに急いで帰っちゃったよ。直に会うのはハズかしいというか、勇気が持てなかったというかでアワワワワ。

 ハァ。いいや、もうヤっちゃったことだから。アレがどうなったかは明日になれば分かること。しかし早く知りたいような、知りたくないようなで。

 ちょっとバディ!?かわいそうな子を見るような目だけはやめてくれる!?まだフられてないからね!?笑うのもダメ!いくらなんでもヒドすぎない!?

 そういうバディこそどうなのよ!?バディには好きな子はいないの!?ねぇバディこっち向きなさいよ!どこ見てんのよ!そっちには何も――。

 えっ、ああ。なんだ、あの子か。

 って、えええええええええええ!?なんで!?

 いやちょっとバディ!?どこ行くの!?えっ、後は2人でごゆっくり、って待って待って!?1人にしないでくれる!?待ってったら!

 あううあうあうああ、どどどどうすれば・・・。

 ・・・チョコ、食べてくれたん、だね。

 えっ、あの子?あの子は、私のバディよ。

 そう、だね。せっかくだから、いっしょに遊ぼ?


 バディ。付き合って、くれる?

 うん、ありがとう。いつもの公園でいいかな?

 ああ、コレ?新しい制服なのよ。

 うん、そうなの。私はもうすぐ、中学生になるから。

 ・・・あっと言う間、だったね。バディと出会ったのは、8年前だったかな?私もバディも、あんなに小さかったのに。私達、ずいぶん大きくなったね。

 あれから、色々あったよね。少しはイヤなこともあったけど、バディのおかげでお父さんとお母さんが仲直りしたり、初めての彼氏ができたりして。

 彼とも、よく遊んだよね。彼もバディのことを気に入ってくれたし、バディも何だかんだで彼のことが好き、だった、から――。

 ・・・彼。もう、いないの。

 遠くの学校に、進学するから。引っ越しちゃったの。

 それで。最後に、私のこの姿を、見せたくて。

 泣くのは、ガマンした。彼も泣かなかったから。笑って、見送った、つもり。ちゃんとさよならが、言えたから、私はこれ、で――。

 う、うあ、あ、ああっ、ああああっ。

 バディ、も。泣いてる、の?うん、そう、だよね。女が、泣くのは、恥ずかしく、ないよね?だから、一緒に、泣いて、いい?

 ・・・ありがとう、バディ。少しだけ、楽に、なれた。 

 あなたが、私の相棒で。本当に、よかった。

 バディには、いつも助けられてばかり、だね。

 これからも。私達は、相棒だからね。


 ふあぁあぁ。眠い。

 あーあ、今日も朝練かぁ。だけど夏の大会が近いからなぁ。

 それに自分で言うのもアレだけど、私って2年の中では上手い方だからね。ふっふっふ、こうなるとスタメン起用も夢じゃないかな?

 なにせ幼稚園の頃からバディと走り回って、足腰はガッツリ鍛えられたからね。昔からバディと一緒にサッカーの練習やってて本当によかったぁ。

 そういえば。最近は部活も勉強も忙しくて、バディと遊んであげられなかったかも。だから今度の休みくらいは一緒に遊ぼうっと。

 さて、そろそろ学校に行く前に。私のいつもの日課を済ませなきゃ。

 おはようバディ。あら、まだ寝てるの?

 いつもは早起きなのに、珍しいわね。

 あれ?バディったら、どうしたの?ご飯ちっとも食べてないじゃないの。これってバディのお気に入りなのに。それに、この、赤いの・・・。

 ねぇバディ?どうしたの?ねぇ?バディ?

 ――お父さん。お母さん。ちょっと庭まで来て。

 バディの様子が、変なの。


 朝練?朝錬どころか遅刻しちゃった。

 放課後も部活を休んで、大急ぎでウチに帰った。

 先生や先輩達には不思議がられたけど、小学校からの付き合いの同級生達が事情を説明してくれたおかげで、理解はしてもらえた。みんなには小学校の頃からバディの話を散々したからね。そりゃあ知られてるに決まってる。

 みんな、後でお礼はする。だけど今はそれどころじゃない。

 カバンは玄関に置いたまま。制服姿で、お父さんの車の助手席に乗って。お父さんも職場の人達に頼んで、午後から有休を取ったらしい。

 着いた先は動物病院。お母さんはバディに付きっきり。

 詳しい話はお母さんがしてくれたけど。私も、色々と聞かれた。

 ・・・知りません。バディが、何才かは。

 だから、推定年齢になります。10才か11才か。

 ・・・知って、ます。それくらいは。

 バディにとって。犬にとって、どれくらいの年齢なのか、くらいは。確かに最近はちょっと歩くのがゆっくりになったし、吠えることも少なくなったけど。

 だけど、昨日までは、ずっと元気で――。

 ええ、それも知ってますよ。だから何です?

 バディはウチの子です。私の相棒です。

 私のバディを。施設に預けるなんて、ありえない。

 私が世話する!私がバディの面倒を見る!

 この子は絶対に死なせない!私が守るんだから!


 おはよう、バディ。

 うん、いいよ。無理して起きなくてもいいから。

 待ってて、すぐに綺麗にするからね。あら、もうシーツが無くなりそう。また買い足さなきゃいけないか。いや、いっそのこと通販で大量買いした方がいいかな?

 ふふ、今日は残さず食べてくれたんだ。

 やっぱりあれぐらい柔らかくした方が食べやすいよね。

 どうしたのバディ?そんな甘えた声出しちゃって。

 いいわよバディ、いっぱい頭を撫でてあげる。

 私の方が、3つか4つは年上だからね。私の方がお姉さんだからね。犬と人間では寿命が違うだなんてツッコみは無しよ?

 よしよし。バディは今日も可愛いわ。女の子だし、中学2年の私より年下なんだから可愛いに決まっている。異論は認めない。

 ・・・ごめんね。もう少し、一緒にいてあげたいけど。

 そろそろ、学校があるから。じゃあ、行ってくるね。

 ふあぁあぁ、今日も朝錬かぁ。だけどバディを言い訳にしてはいけない。バディの世話はずっと何年もやってたんだから、このくらい何ともない。

 昔に比べて、必要な時間が増えただけ。バディと一緒にいる時間が長くなったと思えば、これくらい辛くもなんとも無いんだから。

 それじゃあ、行ってきま・・・ありがとう、お母さん。

 だけど、私は大丈夫だから。本当に辛いのはあの子だから、ね。

 また夕方のお世話は、お願いしてもいい?せっかくスタメンになれたから、部活を頑張りたいの。それに準決勝まで行けばテレビで大会が放送されるから、バディに良いところを見せたいの。


 外飼いしていたバディを、室内飼いにするために。

 ウチの部屋の一室を、バディ専用の部屋として改造した。

 フローリングの床に、ビニールシートを敷いて、カーペットを2枚重ねで敷いて、その上に新聞紙を広げて、そこからさらにペットシーツを敷いて。

 朝と夕方に、汚れたペットシーツと新聞紙を取り換えて、新しいのを敷いて。多めに敷いているから遠慮しなくていいのに、バディはいつも隅っこで用を足している。無理して動かなくてもいいのにね。

 エアコンは付けっぱなし。扉は閉めてるけど、窓は開けたままで。バディの過ごしやすい温度を保ちつつ、空気も常に綺麗にしたいから、こうしている。

 もちろんバディ自身の体も綺麗にしてあげてる。バディは普通の犬よりは少し大きめだから、お母さんだと寝返りをさせるのが大変なの。

 なるほど。動物病院で、ペット用の介護施設を勧められた理由が分かった。私が世話すると言ってはみたものの、私1人だけじゃ無理。

 朝は毎日私がやっている。夕方はお母さんと交代しながら。動物病院に連れて行く時には、私とお父さんの2人掛かりで、どうにか担いで車に乗せて。

 バディが倒れてから、お父さんはお酒を呑むのを控えて、お母さんは節約をより意識するようになった。いざという時に、いつでも車を運転できるようにするために。ペットシーツ代と治療代、そして増えた電気代の負担を抑えるために。

 それでも2人とも、不満は言わない。これは私も同じ気持ちだから。

 バディは、ウチの子だから。私達の家族なんだから。

 やれることはなんでもやる。バディのためなら、なんだってやれる。


 夜。バディの部屋に、折り畳みのちゃぶ台と、勉強道具を持って。

 汚れてもいい服を着て、そこで宿題を片付ける。

 少し離れたところにある、私のお古の服を積み上げて作った寝床で。横になったままのバディは、私をじっと見ている。

 宿題が終われば、バディに近づいて。時間の許す限り、傍にいる。

 そういう生活が、高校1年になった今でも続いている。

 バディが最初に倒れたのは、中2の夏前だったから・・・あれからもう、2年以上か。そろそろ秋だから、少しだけ寒くなってきたね。

 ふふ、バディったらいつまでも甘えん坊さんなんだから。もうお婆ちゃんなのに、こうやって頭を撫でてあげるのが好きなんだよね?

 ・・・うん、そうだよね。

 分からない。分かるわけが無い。

 犬の言葉なんて。犬がどう思ってるかなんて。私のことをどう思ってるかなんて。私のことを、相棒だと思ってくれてるかどうか、だなんて。

 最近、ずっと思っていることがある。

 バディはウチの子で幸せだったのだろうか、って。

 体が大きいからずっと外飼いにして、首輪を付けて鎖に繋いで。

 昼の間は家族みんながいないから、ずっと1人ぼっちで。

 夜は夜で、ご飯を用意するけれど、私達は家の中にいて、バディは外にいて。ずっとそうだった。バディをウチで飼ってから、ずっとそうだった。


 バディは何も言わない。

 最後に鳴き声を聞いたのは、いつだっただろうか。トイレをしたくても部屋の隅にすら移動できなくなったのは、いつだっただろうか。

 それでも。私を、じっと見ている。

 私がバディの頭を撫でるたびに。私が声を掛けるたびに。眼だけは、動いて。ずっと私を見てくれている。まるで何かを訴えかけてるみたいだ。

 だけど、分からない。私には、分からない。

 この子を相棒と呼び、小さい頃は毎日のように遊んで。

 毎日ご飯の準備をして、毎朝飲み水を綺麗にして、糞の始末ついでに、バディがいつも寝っ転がっていたお気に入りの場所を掃除して。

 時には、お父さんやお母さんにも手伝ってもらったけど。私がこの子の面倒をずっと見てきた。軽く計算しても10年以上、私達はずっと一緒だった。

 だけど、やっぱり分からない。この子が何を思って、そんな眼で私を見ているのか。私のことを、どう思ってくれているのか。

 私にできることは、ただこの子の傍にいて、体を撫でてあげることだけ。こうするとバディは喜ぶの。これだけは尻尾の動きで分かるから。

 今となっては、尻尾を動かすことすらもできないけど。それでもできるかぎり、ずっとこうする。いや、こうしたい。私がそうしたい、だけ。

 終わりたくない。終わらせたくない。

 認めたくない。そういう日が来るなんてことだけは、絶対に。


 数日後の、夕方。

 お母さんから電話が掛かってきて、部活を途中で抜け出して、大急ぎで帰ってきた。家には、いつもお世話になっている動物病院の先生がいた。

 ぐったりしているバディと、眼が合った。まただ、また同じ眼をしている。

 ・・・だけど。バディが、鳴いた。

 バディの鳴き声なんて、久々に聞いたかもしれない。

 この声は、知っている。バディは甘えん坊さんだから。

 だからこういう鳴き声を出した時は、こうすればいいの。

 頭を撫でてあげる。それでも足りないなら背中も撫でてあげる。

 お母さんは泣き崩れている。私も涙が止まらない。

 だけど、私は笑う。無理して笑ってなんかいない。

 思い出が、溢れかえってきて。少しはイヤなこともあったけど、その全てが大事な思い出。あの日も、この日も、あの時も、この時も。

 2年以上続いた介護の日々も、今となってはその全てが大切な日々。

 私のバディと、相棒と過ごした毎日が。その全てが、愛おしい。

 だから私は、笑う。心の底からの笑顔で、この子を見送る。

 いいよ、バディ。女が泣くのは決して恥ずかしい事じゃないんだから。最期まで、ずっと泣いていいから。そのかわり私も泣くからね。

 ――おやすみ、なさい。今まで、ありが、とう。


 あの子がいなくなって数カ月。また新しい年を迎えて。

 2月になると思い出す。今から12年前の、私が4才の時の誕生日を。バディと出会い、あの子の相棒になった始まりの日を。

 あれから、心にぽっかり穴が開いたような、そんな気持ち。もう誰も住まなくなった犬小屋も、バディを繋いでいた鎖も、散歩用のリードも、買い溜めしすぎたペットシーツも。ずっとそのまま。あの日のまま。

 それなのに。どこかに買い物に行くたびに、気が付けばドッグフードを手に取って。これならあの子が食べそうだな、って思わず買いそうになって。

 ちなみにこれは私だけじゃなく、お父さんとお母さんも。2人とも、バディのために色々と買ってくれてたからね。

 だから。私達は話し合って、あそこに行くことにした。

 私達の、始まりの場所。あの子と出会った場所へ。

 ひとまずは、私だけで。もう私は子供じゃないからね。

 ・・・後悔した。たかが16才の私だけで、行くんじゃなかった。

 あの時の私もそうだった。当時はまだ4才だったから、何も知らなかった。ただ誕生日プレゼントとして犬を飼ってもらえる、という考えしかなかった。

 小学生になってから、少しだけ疑問に思った。思えばバディって何才なんだろう、お父さん達が言っている推定年齢って何なの?って。

 中学に入る前になると、さすがに理解ができた。どうしてバディはあんなところにいたのか、を。それに犬の年齢でいえば母親になってもおかしくないバディに、どうして子供がいないのか、を。

 だってバディは。そういう処置をされたんだから。

 ここから犬を引き取るには、そういう処置をしないといけないから。バディのような子を、ここにいる子達のような動物を増やさないために。


 ここは、私が住んでいる町の、保健所。

 職員さんに連れられて、見せられた場所は・・・知って、いる。そういう話は何度も聞いたことがあるから。だけど、実際に見ると――。

 無理。もうこれ以上、この子達を見ることができない。

 やめて。そんな眼で私を見ないで。

 この子達の眼は、分かる。昔バディをキツく叱りつけた時と同じ眼をしている。いや、それよりももっと酷く、辛い眼をしている。

 この子達に、何があったかは知らない。だけど、それだけの事をされた。おそらくは元々の飼い主達に。それだけの仕打ちを受けたんだと、分かる。

 人間には、犬の言葉は分からないから、推測にはなるけれど。この眼の意味は、人間に対する拒絶、恐怖、憎悪、絶望。深い怒りと悲しみ、そして寂しさ。

 犬だけじゃない。猫もいる。しかも猫に至っては、犬の数倍の数がいる。私は猫については詳しくないけど、この猫達の震える姿を見れば嫌でも察してしまう。

 ・・・知っていた、はずなのに。改めて思い知らされる。これが現実なのか。世の中にはこれだけの捨てられたペット達がいるのか。それだけの無責任な飼い主達がいるのか。しかもこの子達は、みんな数日前にここに連れて来られたらしい。

 そしてこの子達が辿る運命は・・・言葉を濁すつもりは無い。それが紛れもない現実なのだから。この子達は、みんな死ぬ。殺処分される。

 たった数日で。しかも私の住んでいる町だけで、これだけの子達が。つまり日本中だと、1年間だと、そして私が生まれ育った16年の間、で――!?

 震えが止まらない。思わず両膝をついて、両手で頭を抱えて。この込み上げてくる感情は何だろう?酷すぎる現実への拒絶?この子達が抱く感情への恐怖?顔も知らない飼い主達への憎悪?何もできない自分の無力さへの絶望?

 分からない。何か得体の知れないものに押し潰されて、眼も開けられない。やめて、そんな眼で私を見ないで、そんな甘えた声を出さな――。


 ・・・この。鳴き声、は。

 恐る恐る、眼を開ける。この声に、向き合う。

 私の眼の前には、小さな子犬。おそらく生後2~3カ月ほどだと思う。

 そんな子が。私をじっと見ている。震えて、鳴いて。

 あの日のバディと、同じだ。今にして思う。あの日のバディも、そういう目に遭ってここに連れて来られたんだから。怖かったに違いない、はず。

 だけど、この眼は。私を見つめる、この瞳は。

 バディだ。思い出した。最初に、あの日ここで出会った時のバディも、この眼をしていた。室内飼いの介護生活の時のバディも、この眼をしていた。

 この子は確かに震えている。今は2月で寒いから、だなんて理由じゃない。おそらくこの子も、そういう目に遭ったのだろう。

 私を見て怯えている。人間を見て、恐怖している。よく見れば前足の形が少しおかしい。顔にも傷がある。この子に何があったのかは想像したくも無い。

 それでも。この子は、私から眼を背けない。

 私は人間だから、犬の言葉は分からない。

 だけど、この眼は。私を見つめる、この瞳は。

 分かった。そして今になって、バディの気持ちが理解できた。私をどんな眼で、どんな思いで見続けていたのか。どんな思いを秘めていたのかを。


 職員さんにお願いして。この子を抱かせてもらった。

 あれだけ私を見て、怯えていたのに。この子は暴れることもなく、大人しく私の胸元に体を預けて、甘えた鳴き声を出している。

 ・・・ええ。分かった、あなたの気持ちが。

 バディと同じ。生きたい、んだね?

 嫌だ、死にたくない、生きたい、生きていたい。

 この眼の意味は、そういう意味。ようやく、分かった。

 この子は。そして、バディも。生きるために、生きたいために、ずっと私に訴えかけていたんだ。生きようとする意思を、私に伝えようとしていたんだ。

 だから私は、この手を離さない。優しく抱きしめる。

 本当なら、ここにいる子達の全員を抱いてあげたい。頭を撫でて、一緒に遊んであげたい。この子達を助けてあげたい。殺処分なんてさせたくない。

 だけど。これもバディが、教えてくれたから。

 ペットを1匹飼うことが、どれだけ大変なことなのかを。命を育て、守り、愛し、共に生きる相棒となることが、どれだけの責任を持つことなのかを、バディが身を以て教えてくれたから。

 私だけでは。ウチでは。1匹しか、飼えない。

 だからこそ、誓う。ここにいる子達の全員と、私のバディに。

 この子は、私が世話する。何があろうとも、大切にする。

 ・・・そうよ。私達は、今日から相棒よ。仲良く、しよ?


 親を呼んで、然るべき手続きをしてもらって。

 2人とも、この子のことを気に入ってくれた。

 そして私は今、リードを持って。この子と共に散歩している。

 この子は、私の新たなる相棒。だけど私にとってのバディは、後にも先にもあの子だけ。バディはバディ、この子はこの子。同じではない。この子はバディの代わりではない。

 だけど私は、この子と共に生きる。この子の相棒として。

 犬の言葉は、未だによく分からない。

 それでも、私達は相棒だから。お互いを信じて、共に歩いて行く。

 そして、私のバディが教えてくれたことを。絶対に、忘れはしない。


 ――もし、私のこの文章を読んで。

 私も犬を飼ってみようかな、という気持ちになった人がいるのなら。

 ハッキリ言っておく。犬は、ペットは。その程度の気持ちで、飼えるようなものではない。そんな生半可な気持ちでは、絶対に長続きしない。

 この子もバディと同じ。数カ月後に手術を受け、子供を作ることができない体にされてしまう。そうしないと飼うことができないから。

 この子は、そういう運命を背負って生きている。この現実から眼を背けることなく、この子と向き合える者だけが、この子を抱きなさい。

 可愛い子犬時代が終わり、手間が掛かる介護の日々を送ることになっても。最期のお別れの日が来るその時まで、この子の傍にいると誓える者だけが、このリードを手に持ちなさい。

 1つの命に、最期まで責任を持って寄り添うことができると誓える者だけが。共に生きる相棒パートナーとして、その全てを背負える者だけが、この子達を愛しなさい。

 ・・・誓えるのなら、何も言わない。

 だから、一緒に遊ぼ?仲良くしよ?

 ふぅん。あなたの犬も、中々可愛いわね。

 だけどウチの相棒の方が可愛いわよ、ふっふっふ。

 ええ。それでは、また。・・・うん、そろそろ帰ろっか?

 これからも、私達は一緒だからね。だって私達は、相棒なんだから。

テーマの趣旨をガン無視している気がするけれど。


2年以上続いたペット介護の日々も、今となればいい思い出。

それだけは紛れもないノンフィクションです。

ちなみにウチの子の場合は享年16才(推定)でした。


なお、普段の私はノクターンで18禁文章を書いている者なので

18歳未満の方は作者ページを訪れないように、ご注意ください。

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