#08 腕輪
~??? カザ周辺:山岳地帯~
「んふふ。」
今日も星がキレイなのです。
小さい時からこうやって望遠鏡で空に浮かぶ星を見るのが好きだったのです。
旅の途中の野宿は魔物も出やすい場所で危険ですけど、こうやって星が見れるのが大好きなのです!
父は星のつながりで星座になるって色々うんちく垂れてたけどよく分からなかったのです。
私はただ単純にキラキラしててキレイだから好きなのです。
こんな数えきれないほどのキラキラ、それが見れるだけでも私は・・・。
「・・・ん~。」
でもちょっと物足りないのです。
やっぱりオーロラがないと物足りないのです。
母が私たちのいるような寒い国じゃないと見れないって言ってたの、ホントだったのですね。
私の故郷じゃないと・・・。
「・・・ッ!!」
い、いけないのですッ!!
故郷の事を考えるのは禁止なのです!!
今私にはやらなければいけない事があるのです!!
もう遅いし、早く寝ないと・・・!
「・・・。」
でもやっぱりもうちょっとだけ・・・。
~ウルド カザ周辺:平野~
見上げれば満天の星空。
月明かりも照らす綺麗な夜空。
そんな空の下で・・・。
「ガアアアアァァァァァァッ!!!!」
「うああああぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
俺達は戦っていた。
互いに咆哮して思いっきり突撃する。
一気に走り、距離を詰めまず仕掛けたのは・・・。
「グゥッ!!」
「ッ!!」
全く同じ行動だった。
俺と狂戦士は互いに武器ではなく、武器を持っていない左手を突き出し、互いの手の平を鷲掴みにする。
互いの握力は互角でどちらの手が握りつぶされることはなく、互いの膂力も互角でどちらが押されることもなく、拮抗した力は大地にヒビを与え、次第には互いの足場に巨大なクレーターを作ってしまう。
だがこれで終わりじゃない。
「ガアアァァァッ!!」
「オラァァッ!!」
互いに剣と斧による攻撃を撃ち合い、辺りには鉄と鉄がぶつかり合う轟音が鳴り響く。
傍から見ればチンピラ同士の殴り合い、だが実際はそんなものは生ぬるい。
互いに気を抜けば相手の武器が真っ先に自分の身体に食い込む恐ろしい戦いだ。
「チッ。」
埒が明かない。
なので奴の手を引きながら放し、僅かに前に崩れた奴を蹴ってその反動で後ろに跳んで距離を取る。
続け様にハンドボウガンの矢を放つが、奴の小手によって弾かれる。
「ガァッ!!!」
奴は街中でやったように斧で地面を薙ぎ払って地面の土を飛ばしてきた。
「馬鹿がッ!!」
今の俺には通用しねぇ!!
上昇を使って全力で走り、迂回するように奴の右に回り込んで切り込む。
「ッ!!」
「グゥッ!!」
俺が突き出した剣を狂戦士は平手で弾き、そのまま上半身を半回転させて横振りに斧の一撃を放つ。
だが俺はすぐに伏せて躱し、そのまま横回転で足払いをかける。
しかし奴はそれを見切って跳び、振りかぶると宙から地面に落ちる重力を勢いに乗せて拳を真下の俺に向かって叩き込む。
それを俺は身体をずらして回避する。
だがこれも街中で見せたのと同じように拳を叩きつけた地面は軽く地割れの様に周りに亀裂を走らせながら土の塊を巻き上げる。
先程ならばこれで怯んだが今度は逆にこれを俺は利用する。
土の塊を巻き上げる爆風を利用して奴から遠ざかるように跳び上がり、宙返りをしながらズボンの膝のベルトに挿していたナイフを抜いてそのまま奴に投げつける。
攻撃を回避された直後で見切って弾く暇もなかったか、狂戦士は後ろに跳んで回避する。
「・・・。」
「・・・。」
互いに距離が開いて仕切り直しの状態になり、俺と狂戦士は睨み合いになる。
そこで俺は次の攻撃の準備をする。
「・・・。」
俺は剣を横向きに翳し、手を添える。
「雷 剣 接続」
俺は魔法を詠唱する。
すると剣が金色に輝き始める。
「雷光の刃」
詠唱が完了すると落雷の様な轟音と共に剣が雷を纏っていた。
これも上昇同様、指輪によって封印していた技だ。
先程の指輪は魔覚だけじゃなく魔力も封印してしまう代物で、着けている間は魔法を使えなかった。
外した今だからこそ出来る芸当だ。
「?」
それにしても奴の様子がおかしい。
魔法は詠唱中が隙だらけだ。
それを狙って襲ってくると思ったが仕掛けてくる気配が無い。
「ウ・・・ウゥ・・・!」
何やら蹲って震えている・・・?
何を考え
「ウオオオオオオオオオオオゥゥゥゥッ!!!!」
「!!?」
急に狼の遠吠えの様に叫び出した!?
何がしたいんだコイツ・・・!
「グウゥゥゥ・・・ゴアァッ!!」
叫ぶのをやめたかと思ったらまた急に走って仕掛けてきた。
「意味分かんねぇよこのキチガイがッ!!」
文句を垂れながら応戦するように突撃する。
互いにぶつかり合う刹那、俺は剣を突き出す。
すると・・・。
「グゥッ!?」
狂戦士は剣を避けた。
「へっ。」
分かってるじゃねぇか。
当たったらどうなるかってなぁ!!
「逃げてんじゃねぇぞコラァッ!!」
俺は続け様に横振り、縦振り、突きを連続で放つ。
「グゥ・・・!」
奴は紙一重で全て躱す。
しかし流石に接近戦を続けられず距離を取る。
だが・・・。
「ガァッ!!」
奴はすぐに地面を蹴って前に出る。
「グオアァッ!!」
斧で思いっきり振りかぶって来る。
どうやら守りを捨ててきたようだ。
だが剣の方が速い。
俺も奴の懐に向かって剣を突き出す。
だが奴は・・・。
「!!」
奴は斧を手放した!
そしてそのまま俺の剣の手を掴みにかかる。
「・・・。」
だがこの手の搦め手を使ってくる相手とも何度も渡り合った。
俺は剣を左に投げ、左手でキャッチして持ち替えて右手を引っ込める。
よって奴の手は空を切る。
そしてそのまま通り過ぎ様に逆手に持った剣で奴の横腹を切り裂く。
「グゥッ!!?」
斬撃は奴の鎧によって阻まれ、まるで効いていないが俺の狙いは『斬撃』ではない。
何故なら・・・。
「グ・・・グガアアアアァァァァァァァッ!!!!」
狂戦士は苦悶の叫び声を上げる。
雷が全身に回って感電したからだ。
鎧は金属だ。
当然雷をよく通す。
防御の為に纏っていたのが仇になったな。
今頃鎧の中は黒焦げに・・・。
「ッ!!?」
安心しかけたが後ろから強烈な殺気を感じて振り向かず、咄嗟に前に跳ぶ。
すると物凄く重い何かが空を切って突風のような風が俺を襲う。
「な!?」
振り向きざまに奴の姿を確認する。
普通に考えれば奴は倒れているはずだ。
だが奴はまだ立っていた。
俺を掴もうとして空ぶっていた体勢からすでにそのまま後ろ回し蹴りの態勢に移っていた。
「ぐッ!!」
咄嗟に両腕でガードしたが蹴りの威力は凄まじく、打撃による衝撃はすぐさま貫通して俺の顔面の左半分を身体諸共吹き飛ばした。
「ぐぁッ!! ぐがッ!!」
身体が地面を何度か跳ねて転がり、その衝撃による激痛が俺の全身を駆け巡る。
「くそっ!!」
無理矢理立ち上がって奴を見る。
「コハアアアァ・・・!」
奴は兜の隙間から黒い煙を吐いてこちらを見ていた。
なんでだ!?
魔法が効かないのか!?
いや、これは・・・なるほど。
「『魔断体質』か。」
魔断体質、文字通り魔力が通りにくい体質だ。
その影響からか、自身で魔力を生成しにくく、魔法の適性が低い代わりに異様に魔法に対する耐性が高い特異体質だ。
恐らく街中でリィナの魔法を喰らっても平然とワットとネカネに反撃できたのもこれが原因だろう。
強い訳だ。
接近戦はパワー、タフネス、技量共に隙が無く、遠距離で戦おうにも魔法に対して耐性が高いから倒しきれない。
奴を倒すにはどうすれば・・・!
「グルルルルル・・・!」
「!!」
突如別方向から唸り声が聞こえて辺りを見渡すと俺と狂戦士の間の左辺りに小規模の狼のような獣の群れがいた。
『矮小狼』、世界各地で見かける狼種の魔物で、人間に危害を加える凶暴な魔物だ。
しかし決して強くはなく、ある程度の経験を積んだ冒険者であれば容易く倒せる弱い魔物だが、そういう自分たちの性質を知っているのか、よくこうして群れを成している事が多い。
偶然通りがかったのかと思うが、此処は平野で奴らが住処にしている森からかなり離れている。
「!!」
思い出すことがあった。
『ウオオオオオオオオオオオゥゥゥゥッ!!!!』
「まさか・・・!」
さっきの狂戦士の遠吠えだ!!
奴がこいつらを呼び寄せたんだ!!
「くそッ!!」
さっき戦いの下準備をしてたのは俺だけじゃなかったって訳かよ!!
~リィナ カザ:大倉庫~
自警団が避難所にしていたのは町の北側に位置する巨大な建物である倉庫。
町の外から仕入れた商人の品物やら自警団用の備品など、様々な物を置いており、食料も置いてあることから、籠城にも適している理由で此処が避難所になっていたようだ。
「ありがとう! あぁ・・・! ホントになんてお礼を言ったらいいか・・・!」
「ぶえぇ!! 母ぢゃぁん!!」
「い、いえそんな・・・!」
泣く子供を抱きしめながらその子の母親に力いっぱいお礼を言われる。
「あ、リィナ!」
「!」
後ろから声がして振り向くとルッカがリガードの腕を取りながら重そうに支えていた。
「どうしたのリガード!?」
「う・・・うぅ・・・!」
リガードの顔は青ざめている。
「矢を投げ返されて毒を受けちゃったんだ・・・幸い、麻痺毒だったから致命傷は免れたけど・・・。」
「そうなんだ。」
「あんたはどうして? ワット達は?」
「えっとそれがーーー。」
ーーールッカに事情を説明した。
「そっか、ウルドを追って・・・。」
「私はこの子を親に送り届けるついでに応援を呼ぼうとしてたの! あ!」
そうだ!!
「ルッカ、あんた索敵出来るでしょ? ウルドは今どこにいるの!?」
「待ってて・・・!」
ルッカはリガードの腕を抱えたまま眉間に指を当てて集中する。
・・・・・・・・・・・・。
しばらくしたがルッカは未だに動かず、答えが返って来ない。
「ねぇルッカ! 分かったの!?」
「駄目・・・!」
「え?」
「町全域の魔力を探知したけどウルドとあいつの魔力の反応がない・・・!」
「えぇ!?」
それってもしかして・・・!
「町の外に出たってこと!?」
「恐らくね。」
ど、どうしよう・・・!
応援を連れて行こうにも場所が分からないんじゃ・・・!
~ルタ カザ:街中~
「ハァ・・・ハァ・・・!」
町の中を走ったが彼は見つからない。
「・・・。」
眉間に指を当て、周囲の魔力を探知する。
駄目だ。
彼の反応は無い。
なら・・・!
「ッ!!」
左腕に嵌められた腕輪を握りしめ、目を閉じる。
「連結開始!!」
言葉を発すると腕輪が光り出す。
「千里の道を外すとも 幾星霜の時を刻むとも 断ち切れぬ糸 断ち切れぬ絆 真なる絆の導きなれば 親なる者への道 照らされん」
腕輪には暴発を防ぐために魔力による錠が掛かっている。
命令を行使する為には暗号を読み上げる必要がある。
しかしそれだけではこの腕輪は力を発揮しない。
力を発揮するには・・・。
「!!」
腕輪がさらに光ると、光は段々と一点に集まり、線の様に細長い光になった。
まるで一点の方向を指し示すかのように。
「・・・!」
成功した!
奴らが仕掛けて来るまでに一日の猶予があったおかげでなんとか発動条件を満たせた!
今発動した能力は腕輪を装備した者同士が互いの位置を知れる力、どんなに離れていても相手の位置が分かる力だ。
「よし・・・!」
私は光の指し示す方角へ走って行った。
~ウルド カザ周辺:平地~
「!!」
なんだ!?
急に腕輪が光りだして・・・!
「ガァッ!!」
「ッ!!」
矮小狼が襲い掛かって来る。
だが・・・!
「グゥッ!!」
狼は狂戦士の腕に噛みつく。
続けざまに他の狼も襲い掛かり、狂戦士の手足に噛みつく。
どうやら集中的に奴をターゲットにしているようだ。
もしかするとだが、先ほどの遠吠えの元が狂戦士だと分かって騙されたことに怒っているのかもしれない。
「馬鹿かよ。」
あまりに間抜けな自滅ぶりに呆れたその時だ。
「ガァァッ!!」
「ッ!!?」
狂戦士は思わぬ行動に出る。
腕に噛みついていた矮小狼を掴んでそのまま持ち上げると振りかぶって思いっきり投げて来やがった!!
「くッ!」
「ギャインッ!!」
狼を斬り払う。
雷の付与が付いているので矮小狼は感電して絶命する。
だが・・・。
「ゴアァッ!!」
「くそッ・・・!」
狂戦士が続けざまに狼を投げて来るのを必死に剣で斬り払い続ける。
こいつの狙いは最初からこれか!!
奴は最初から投擲武器が欲しくてこいつらを呼んだんだ!!
くそったれ!!
何が狂戦士だふざけんな!!
めちゃくちゃずる賢いじゃねぇかこいつ!!
「くっ・・・!」
だが勝機がない訳じゃない!
群れとは言え数に限りがある、全部倒せば奴の攻撃手段は
「ッ?!」
なんて考えてるのが甘いと言う現実がすぐに襲いかかってきた!!
「ガァッ!!」
「ゴアァッ!!」
矮小狼が襲いかかって来た!!
狂戦士に投げられた訳でもなく自分たちの意思で・・・!
「くそッ!! このッ!!」
「ギャウッ!!」
押され気味に下がりながら一体一体を斬り捨てる。
考えてみりゃ当然だ!
狂戦士に投げられてるとは言え、仲間を直接殺してるのは俺だ!
連中から怒りを買わないわけがない!!
しかも・・・!
「グアアァッ!!」
「くッ!!」
奴が投げて来る狼まで相手にしないといけない!!
狼共は俺にとっては厄介な障害物、奴にとっては便利な投擲武器・・・!
圧倒的不利、このままじゃジリ貧じゃねぇか!!
こうなったら・・・!
「ッ!!」
俺は上に向かって跳び上がる。
だがその高さは二階建ての家で言えば二個分の高さともいえる高さだ。
デタラメな跳躍力だろうが、そのカラクリは言わずもがな、上昇だ。
足に集中させ、跳び上がればこのくらいの高さは造作もない。
「ゴアァァッ!!」
狂戦士は狼を投げて来る。
「・・・。」
空中にいるおかげで他の狼に襲われて居ないので難なく狼を斬りはらう。
自発的に襲ってくる狼が居ない分割りと安全な場所だ。
だが羽の生えた鳥でもない俺がこんな上空にいつまでも居られる訳もない。
すぐに跳躍による高度の上昇は終わり、徐々に高度が下がって地面に向かって落下する。
だがそれでいい。
一時的に奴らが手を出せなければそれでいい!
「雷光 剣 座標 先端 爆散」
落下の最中、剣を構えながら魔法を詠唱する。
すると剣の先端から雷が渦を巻くように現れ始める。
そして今にも地面に激突しようと言う寸前に・・・。
「炸裂放電ッ!!!」
詠唱の完了、激突するかのような着地と共に剣を地面に突き立てる。
すると剣を突き立てた地点から爆発するように雷が全方位に放たれ、周囲に居た狼共を一掃した。
残っている狼は奴に噛みついている一体と何とか雷から逃れ、少し遠めから様子を伺っている一体だけだ。
「ガァッ!!」
先に跳びかかって来たのは様子を伺っていた一体だ。
「失せろッ!!」
難なく狼の牙を躱して剣でわき腹を斬り裂く。
「ッ!」
その瞬間を狙って奴が狼を投げて来た。
「チッ!」
中々厄介なタイミングだがそれでも払うように縦振りで狼を真っ二つに斬り裂く。
狼の身体が左右に分断され、前方の視界が露わになった瞬間・・・。
「ッ!?」
狂戦士が目と鼻の先まで迫っていた。
最後の一体と油断したのを狙って狼を囮に視界を塞いで距離を詰めたな!?
「ガアァァッ!!」
奴は思いっきり右手を突き出し、掴みかかって来る。
「ッ!!」
なんとか反応して右下へ身体をずらして回避する。
「ゴアァッ!!」
体勢が低くなった俺に向かって狂戦士は左拳を振り上げて撃ち落としてくる。
だがそれを俺は更に左へ身体をずらして回避する。
拳は空を切ったがそのまま撃ち落とされた打撃は地面に衝撃を与え、派手に地面を巻き上げる。
それを俺は利用して高く跳び上がった。
剣を逆手に持ち、奴の脳天に向かって逆に撃ち落とそうとしたその時だ。
「ッ!!」
奴は拳を撃ち落とした体勢から無駄なく回転して右脚を振り上げ、突き上げるような蹴りを俺に放ってきた。
その狙いは見事な物で、空中にいた俺では回避しきれない!!
「ぐがぁッ!!」
俺は物の見事にその蹴りを腹部に受けた。
だが・・・。
「・・・へ、へへ。」
俺はほくそ笑む。
奴の蹴りを受けながら吹き飛ばされまいと左手で奴の右脚を掴んで踏ん張っていた。
正直内臓が破壊されたかのような激痛に気を失いそうだったがなんとか耐えた。
『肉を切らせて骨を断つ』。
狂戦士を倒すにはそれくらいの覚悟が必要だった。
俺の覚悟の勝利だ!!
「貰ったァ・・・!」
俺は奴の脚の鎧の隙間に剣を突き入れる。
まさに勝利を確信したその時だった。
「・・・?」
なんだ?
まるで手応えがない。
魔物相手とは言え何度も殺しを経験しているから剣が肉を貫く感覚を誤認する訳がない。
まるで空の箱を貫いたかのような手応えのなさだ。
鎧の中が空洞!?
そんな馬鹿な!!
「ッ!!?」
突如自分の身体がぐらりと横に動く・・・!
しまったッ!!
「ぐがぁッ!!」
脚に捕まっていた俺を奴はそのまま地面に叩きつけた!
背中と後頭部に激痛が走る。
「!?」
だがすぐに身体が浮く・・・と同時に首への圧迫で状況に気づく。
「ぐ・・・が・・・!」
奴は俺の首を掴んで持ち上げて来た。
「こ・・・の・・・!」
すぐに振りほどこうと剣で攻撃しようとするが・・・!
「!!」
奴の左腕にあっさり阻まれてしまい、更には剣を持つ手首を掴まれる。
「ぐっ・・・!」
追い打ちをかけるかのように握力で俺の手を締め上げて来る。
だが俺も剣を手放すまいと必死に手に上昇を掛けながら力を込めて持ちこたえている。
しかしその抵抗も虚しかった。
剣を手放すまいとして必死になって油断した隙をついて剣の持ち手の一番下の柄頭を弾かれ、あっさり剣を手放してしまい、剣は無惨にも地面に落ちる。
付与により雷を纏っていた剣は俺の魔法の供給を受けられずに雷を失ってただの剣となってしまう。
「ぐげッ!? ぐあぁッ、あぁ・・・!」
急に喉の圧迫感が強くなり、余りの苦しさに脚をバタつかせてしまう!
万事休すの俺に追い打ちをかけるかのように奴は手に力を込め、俺の首を締め上げて来た!!
やべぇ・・・!
このままだとマジで逝っちまう・・・!
だが最悪の状況は更に悪化する。
「グウウゥ・・・!」
「!!?」
狂戦士が唸り声を上げると奴の身体から紫色の煙が噴き出し始める。
まさか・・・この霧は・・・!
「霧・・・魔・・・!」
『霧魔』、魔王の眷属の魔物であり、身体から紫色の煙を発するのが特徴だ。
その霧がまさに最悪級の脅威で、霧を体内に取り込んでしまった生物は細胞を作り替えられ、同じ霧魔になってしまう。
それによってかつて魔王が居た時代、世界規模の感染拡大を引き起こした破滅級に危険な魔物だ!!
魔王を倒したってのにまだ生き残りがいたのか!!
「ぐっ・・・くッ・・・!」
奴がこの後どうするのか分かり、なんとか今の状況から振りほどこうと必死に奴を蹴りながら反撃するがびくともしない!!
「!!」
奴が発していた霧が広がって徐々に俺に迫って来る!!
マズイマズイマズイ!!!
「こ、の・・・放・・・せッ・・・!!」
尚も奴の腕を外そうと掴むが引き剥がせず、蹴りつけても一向に状況が好転しない。
そうしているうちにやがて霧は俺の首元に到達し・・・!
「ぐっ!? があああああぁぁぁッ!!!」
霧は俺の全身を包み込んだ。
瞬間、頭の中に得体の知れない何かが大量に流れ込んでくる!
声のような映像のような、それらが脳内を支配し、元の平地の風景はすでに見えず、元の平地の風の音もすでに聞こえず、何も分からなくなってくる!
なンだこレ・・・わケがわカらなくナっテ・・・!
~ルタ カザ周辺:平地~
「ハァ・・・ハァ・・・!」
光の指す方角は町の外を指していた。
恐らく彼は敵を町から引き離す為にここまで走ってきたんだろう。
「!」
腕輪の光が強くなった!
恐らく近くにいるのだろう。
「ッ!!?」
ようやく彼の姿を捉えたかと思うと目を疑う。
黒い鎧の化け物が彼の首を掴んで持ち上げたまま、彼を魔の霧に包みこんでいた。
「ああ”・・・かっ・・・!」
彼はうめき声を上げながら痙攣している。
霧がかなり浸透して彼を蝕んでしまっている!
このままだと彼は・・・!
「ッ!!」
そうはさせない!
「感応開始!!」
腕輪を握り、命令すると光っていた腕輪は更に光を周囲に放つ。
「聖なる主に乞い願う 親愛なる君を助けんが為 我が心 我が身 彼の地へ送り届けん」
暗号を読み上げると腕輪は更に光り、彼の腕も同様に光り、互いの光は周囲が見えなくなるほど眩しさで埋め尽くした。
「今助けます・・・いえ。」
この言い方は今の状況に相応しくない。
「今助けるよ! お兄ちゃん!!」
私は、この瞬間の為に来たのだから・・・!
~リメイク前との変更点~
・リィナパート&ルタの捜索パート追加
理由:ルタが腕輪でウルドを探せる描写が薄かったため
リィナパート入れたのは魔覚と腕輪の能力の差を見せたかったため
・???(ネタバレ防止の為伏せます)が星を眺めている描写を追加
理由:時系列の都合上