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嘘つき英雄と嘘の妹 ~リメイク版~  作者: 野良犬タロ
アステリオン編
65/67

#64 虚像


~とある民間人の女性 王都プロテア:城下町~

 

「ママァ・・・。」

「大丈夫、大丈夫だから・・・!」

 娘を連れて王都を走る。

 娘はまだ八歳で大人の私と一緒の速さで走るには幼く、どうしても二人で走るには遅くなってしまう。

 それでも懸命に安全な場所を求めて走った。

 でも、どこに行けば・・・。

 いいえ、弱気になっちゃダメ!

 この子を守れるのは私だけなんだから・・・!



「もうすぐですモスディア殿!!」

「!!」

 人の声!?



「あ・・・!」

 そこには鎧を纏った人物が誰かを先導していた!

「早くしろ! こんなところ、一秒たりとも居とうない!」

 先導されてるのは使用人らしき人物を数人連れた身なりの良い貴族のような中年の男だった。

 鎧の人達はきっと騎士様だ、きっと安全な場所に誘導してるんだわ!



「助けて下さいッ!!」

 すぐに声を上げて騎士様に駆け寄る!



「ん? なんだ?」

「わ、私たちも連れてってください!」

「・・・。」

「お願いしますッ!!」

 黙り込む騎士様に必死に懇願する!



「おいッ!! 何をやっとるんだッ!! 俺を早く王宮に避難させろッ!! 優先順位を考えろッ!!」

「ッ!!?」

 後ろの貴族の人が大声で騎士様を急かす!

「お、お願いしま

「キャアアアァァッ!!」

「え?」

 悲鳴が聞こえて後ろを見ると・・・!



「グルルルル・・・!」

「ま、ママ・・・!」

 複数の獣人がすぐそばまで娘に迫っていた・・・!



「騎士さ

(テーレ) (カーン) 座標(コードニ) 広域(ヴァスティゾン) 展開(ディプロイメント)

「!!」

 騎士様が魔法を唱えている・・・!

 きっと私たちを獣人から助けてくれて・・・!

絶壁防御(クリフウォール)!!」

「え・・・?」

 騎士様が魔法を唱えたら信じられないことが起きた!



「な・・・!!?」

 私たちと騎士様達の間を遮るように大きな岩の壁が現れた!!



「さぁ急ぎましょう、モスディア殿。」

「え・・・え・・・?」

 壁の向こうから先ほどの騎士様の声が聞こえるが、あまりに現実が信じられず茫然と立ち尽くしてしまう・・・!



「騎士様ッ!! 騎士様ぁッ!!!」

 私は必死に壁を殴りながら騎士様に呼びかける!!



「助けてください騎士様ぁッ!! あなたの望むことは何でもいたしますッ!!  だから

「キャアアアアァァァッ!!!!」

「ッ!!?」

 悲鳴が聞こえて後ろを振り向くと・・・!



「助けてッ!! 助けてママァァッ!!!!」

「ミリアッ!!」



 娘が背中から獣人にのしかかられ、頭を押さえつけられていた!!

「グゥゥ・・・!」

 そして獣人は斧を振り上げていた!!



「ガアアァッ!!」

「ミリアアアアアァァァッ!!!!」

 必死に娘の名前を叫んだが・・・!



「あ・・・!」

 斧は無慈悲に振り下ろされた!!



 周囲に娘の血と思われる赤い液体が飛び散ったその光景を見て全身から血の気が引いた・・・!

「はは・・・あはは・・・!」

 これはきっと夢だ・・・!

 悪い夢を見ているだけなんだ・・・!

 そう言い自分に言い聞かせるが・・・!

「ッ!!」

 先ほど壁を殴った手の痛みがそれを夢だと認めてくれない!!

「グルルルル・・・!」

 獣人は次の獲物を見つけたかのように私に視線を移すと一人、二人とゆっくり私に迫ってくる・・・!

「・・・。」

 既に悟ってしまった。

 今から私はきっと死ぬんだ。

 それが分かると不思議と恐怖がなくなった。



「ッ・・・!」

 いや違う・・・!

 恐怖に勝る感情が湧き上がったからだ・・・!



「うわあああああぁぁぁぁぁッ!!!!!」



 私は怒りで叫んで先ほどの騎士が作った岩の壁を何度も殴るッ!!



「ふざけるなッ!!! 何が『騎士』だッ!!!  そんなに偉い奴が大事かッ!!! そんなに金が大事かッ!!! 民を守るのが騎士じゃないのかッ!!! ふざけんなあああぁぁッ!!!!」

 クソッタレな岩壁を殴りながら怒りに任せて泣き叫んだ!!



 だが岩壁の向こうから言葉が帰ってくることはない。

 もうあの騎士たちは行ってしまったんだろう・・・!



「くッ・・・うぅぅぅ・・・!」

 だが絶対に()()()()()()()() ()・・・!



 たとえこの身が滅んだとしても・・・!

「呪ってやる・・・!」



 呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる



「呪ってやるうううううううぅぅぅぅぅッ!!!!!」

 あのクソ騎士への怒りの叫びを最後に私の背後から鈍い痛みが走った。




~ネルス 王都プロテア:城下町~


「くそぉ・・・!」

 すぐに部下をかき集めて急行したが既にあちこちから火が上がっていた!!

「副団長!!」

「くッ・・・!」

 どうする・・・まずは、火を消す!?

 いや、待て待て待て!!

 元を絶たなきゃそれこそ焼け石に水だ!!

 いや何足踏みしてるんだッ!!

 バンズ団長なら此処は・・・!



「民間人の保護が最優先だ!! 獣人と相対した場合は民間人を逃がす為の足止め以外は無視だ!!」

「「「はッ!!」」」

「行くぞッ!!」



 俺が号令をかけて走ると兵士達は後に続く!

 よし!

 これでいい!

 ただでさえ騎士団の人数が不足してるんだ!

 戦闘力の高い獣人を討伐なんて無謀を犯すべきじゃない!

 俺は天才じゃないんだ!

 だから俺なりに出来ることをやれば良い!

「ああ! き、騎士様!」

「!!」

 声がする方を見るとそこには民間人が居た!

 老人の男を背負った青年だ!

「大丈夫か!!」

 すぐに民間人の元へ駆け寄る!

「助けて下さい騎士様!!」

「当たり前だ! 他に誰か居ないか!?」

「い、いえ、必死に逃げてきたもんですから・・・!」

「そ、そうか・・・!」

「助けてください騎士様!! 建物の中に避難しても奴ら強引に入ってくるんです!! どこに逃げたらいいか・・・!」

「・・・。」

 城下町には安全地帯はなさそうだ。

 だったら・・・!

「王宮に避難しろ! そっちなら兵士たちの戦力が密集している! 此処よりは、絶対に安全だ!! リッド!!」

「は!!」

 兵士のうちの一人に声をかけるとそいつは力強く返事をする!

「お前が小隊長となってこの人たちを護衛しろ!」

「了解! 兵三人で小隊を組み、指揮を取ります!」

「任せた!」

「おい、集まれ!」

 小隊長となった兵士は数人に声をかけると、すぐに集まって男の周りに集まる!



「さぁ、こっちだ!」

「ありがとう、助かるよ!」

 兵士に連れられて男は王宮を目指して走って行った。



「よし・・・!」

 これでいい。

 城下町はパニック状態。

 民間人はバラバラに逃げているはずだ。

 少しずつこうやって、護衛をつけて、王宮に避難させれば・・・!



「助けてくれぇぇぇぇッ!!!」

「!!?」



 悲鳴にも見た声が聞こえてくると、そこには・・・!



「逃げろぉ!!」

「もうイヤァッ!!」

「死にたくないぃ!!」

「いぃ!!!?」

 そこには大勢の民間人が走ってきていた!!



 男も女も若い男も老人も必死に、こちらへ走ってくる!!

 群れていると言うよりは、まるで一点から逃げてきているかのような走り方だった!

「おい大丈夫か!!」

「ああッ!! き、騎士様ぁ!!」

 逃げてきた奴らのうちの一人に声をかけると、騎士たちに合流できたと安堵してか、民間人たちは立ち所に止まる。

「助けてください騎士様ぁ!!」

「お願い助けて!!」

 民間人たちは立ち所に我先我先と俺に縋りつくように集まってくる!

「うぐ・・・!」

 あまりに予想外だった。

 先程の想定外の規模の民間人たちが逃げてきていた!

 この人たちを守りながら王宮に連れて行くとはできるんだろうか・・・!

 いや・・・やるしかない!

 俺達の騎士団全員の人数を総動員してでも・・・!

 そうやって思考を巡らせていた時だ!!



「うわぁ来たぁッ!!! 奴らだぁッ!!!」



 民間人たちの群れの最後尾と思われる男が声を上げるとそこには・・・!



「グアアアァァッ!!!」

 獣人たちの集団がこちらに向かってものすごい勢いで走ってきていた!!

「ダメだぁ逃げろぉッ!!」

「慌てるなぁッ!! 王宮だッ!! 王宮へ行けぇッ!!!」

 パニックになって逃げていく民間人たちに必死に声をかけるが、これちゃんと伝わってるのか不安だ・・・!



「グガァァァッ!!」

 不安でやきもきする暇もなく獣人達が今にも民間人たちに追いついて襲いかかろうとしていた!!!



(ウォール)ッ!!!」

 咄嗟に俺が号令をかける!!!



「「「「はッ!!!」」」」

 兵士達は力強く返事をすると横一列に並び、街道を塞ぐ列を作る!



 そして盾を構え腰を踏ん張るように落とす!

 俺も同様に列の中心で縦を構え腰を落とすと魔覚に意識を集中しながら足腰に力を込める!

 同様に兵士達の頬から青白い神経筋が浮かぶ、全員が上昇(ライズ)によって防御姿勢を取った!!

「ガアアァァァッ!!!」

 獣人達が強引に押し通ろうとすると俺と兵士たちは止まったまま奴らの行く手を阻む!

「グゥッ!! グガァァァァッ!!」

 苛立ちながら獣人が手斧やら鉈やらで俺たちに殴りかかるが、俺と兵士たちは攻撃に合わせて盾の向きをずらして奴らの攻撃を防ぎ続ける!



「無理に攻撃するな!! 出来るだけ、いや、何が何でも時間を稼げッ!!」

 日ごろのバンズ団長に叩き込まれた陣形戦法だ!



 有事の際、民間人を避難させるために考えられた戦法だ!

 とはいっても単純な話、道を塞ぎながら奴らの攻撃を防ぎ続ける『肉壁戦法』だ。

 最初から奴らに勝つことを考えていない。

 だがこれでいい。

 俺が出来て俺が考えられる最善の方法だ!

 バンズ団長も多分言うはずだ。

 今俺たちが最優先にすべき事は『民間人の安全』。

 それに街には他の騎士団だってきている!

 うまく時間を稼げれば、あるいは・・・いや、ぶっちゃけそうであってもらわないと困る!



「うわぁッ!!」

「・・・!」

 兵士の一人から今一番聞きたくない声が聞こえる・・・!



 どうやら兜越しにだが、獣人の鉈を喰らったようだ!

「馬鹿ッ!! 怯むなッ!! 絶対に耐えろッ!!」

「わ、分かっていますよッ!! ぐッ!!」

「グワアアァッ!!」

「グガァァァッ!!」

「くッ!!」

「うッ、うおぉッ!!」

 兵士たちは必死に攻撃を防ぎ続けているが獣人たちは吠えかかりながら激しく各々で持った武器で俺たちに殴りかかる!

「くそッ・・・!」

 俺自身も盾を持つ手が奴らの攻撃から攻撃によって与えられる衝撃によって痺れ始める!

 でたらめな馬鹿力だッ!!

 同じ体格の人間とは思えないッ!!

 見た目よりも巨大な魔物を相手にしているような気分にすらなってくる!!

「副団長・・・もう、持ちませんッ!!」

 兵士の一人が弱音を吐き始める!

「弱気になるなッ!! 絶対に耐えろッ!!」

 兵士たちを叱咤するが、俺自身ももう限界が近い!!

 頼むぅッ!!

 この際あの嫌ぁぁなツインズやドラクス団長でもいい誰でもいいから援軍来てくれぇッ!!

 マジ頼むからぁッ!!

 お願いしますッ!!

 そう祈っていると・・・!

「あッ!!」

「えッ!!?」

 兵士の一人が、妙な声を上げる!

 な、何ッ!!?



「グアァッ!!」

「なッ・・・!」

 獣人のうちの一体が兵士の頭を踏み台に上へよじ登って飛び越え、俺たちの防衛網を突破してしまったッ!!



 攻撃に耐えきれずに体制を崩しかけた兵士のところを突破されたみたいだッ!!

「馬鹿ッ!! おい逃すなッ!! 追えッ!!」

「む、無理ッ!! 無理ですッ!!」

「グガァァッ!!」

「くぅッ・・・!」

 慌てて兵士たちに指示を出すが兵士達は他の獣人達の攻撃に耐えるのに精一杯でその場から一切動けないッ!!

「グアァゥアッ!!」

「くそッ!!」

 俺も同様動けないッ!!

 もしあの獣人がさっきの民間人たちに追いついてしまったら・・・!

 そう思った瞬間だったッ!!



「グアアア・・・!」

「え?」

 先ほど兵士を飛び越えた獣人の首が落ち地面に落ちた!



 胴体は腕をダランと下げたかと思えば、そのまま操り糸を失った人形のように力なく倒れた!

 一体何が・・・!



「よく耐えたな!」

「え・・・?」



 突如聞こえた声に俺が気づいた時に既に事が起こっていた!



「グアッ!!」

「ガァッ!!」

「グゲァッ!!」

「えッ!!?」

 俺達を元気に攻撃していた獣人達は急に何者かにズバズバと身体の至る所を切り刻まれる!!



「え・・・?」

「何が起こって・・・!」

 事態が飲みこめず兵士達が戸惑っていたが・・・!

「あ・・・!」

 丁度その犯人と思わしき人物が俺の目の前に居て俺は気づくことが出来た!

 鎧姿で兜まで被って顔は見えないが、身体のラインに合わせて作られた細身の鎧姿、そして鎧の後ろから流れるように下がっているストレートの綺麗な金色の髪、その姿は間違いなく・・・!



「キリア団長ッ!!」

「ふ。」



 俺が呼ぶと団長は得意げに鼻を鳴らしてこちらに振り向く。

「た、助かりました! キリア団長!」

 颯爽と現れて危機を救ってくれた団長に素直に礼を言う。

「先程君たちが逃した民間人だが、我々の騎士団が保護した。」

「今は副団長のエレナに指揮を取らせて王宮に向かわせている。」

「あ、ありがとうございます!」

 助けてくれただけじゃなく、そこまでやってくれるとか至れり尽くせり!

 どんだけイケメンなんだこの団長!

「避難しきれていない民間人はあれだけじゃないだろう。 それに、獣人達を討伐しなければ被害は増える一方、せっかくだ。勝手ながら加勢させてもらうよ。」

「いえいえ!! 勝手だなんてそんなッ! とんでもないッ! キリア団長がいてくれれば百人力ですよ!!」

「ふふん! そうともさ!!」

「!」

 キリア団長は鎧に覆われた胸に手を当て、



「私は近衛騎士第一師団長にして誇りある『ハーネスト家』の現当主、『キリア=アディール=ハーネスト』!! 出来ぬことなど何もないッ!!」

 舞台の女優のようにくるりと一回転しながら天を仰ぐ!



「・・・はは。」

 思わず苦笑いが漏れる。

 顔をも隠す兜で表情は見えないが誇らしげに笑みを浮かべてるのが容易に想像できる。

 相変わらず謙遜のかけらもない人だがそれが逆に今は頼もしくもある。



「さぁッ!! こうしている間にも民草が我々の助けを待っている!! 行くぞ !! ネルス副団長!!!」

「はは・・・ぜ、全隊!! キリア団長に続けぇ!!」

「「「「オオオオォ!!!」」」」

 颯爽と駆け出すキリア団長に苦笑いを浮かべつつ、自分の騎士団を率いてキリア団長について行った。

 



~ウルド アステリオン:遺跡~


「さて・・・。」

 例の行き止まりの辺りに着く。

「・・・。」

  俺が()()()()と思うのは・・・。

「師匠? 此処がどうかしたのですか??」

 メロはわけがわからないようだが・・・。



「うーん、()()()()な場所だね♪」

「・・・。」

 ルタは()()()()いるようだ。



「・・・。」

 俺はこめかみに指を当て、魔覚に意識を集中する。

「・・・。」

 魔力を感じない。

 念のため壁に近づいて手を当てる。



「・・・チッ。」

 ()()()か。



「師匠???」

 メロは尚も分からずポカンとする。

「次だ!」

 俺はすぐさまその場を後にする。

「ハイハーイ♪」

「師匠ぉー! 一体何なのですかぁー!!」

 気の抜けた声で相槌を打つルタとまだ何も分かっておらず半ば避難気味に声をかけてくるメロも俺の後についてきた。




~レイド:王都プロテア~


 あれから俺は結局王都にガキ共を連れてきて孤児院に預け、身の振り方を考えたが冒険者として再起不能であったと言う自覚から冒険者と言う選択肢は除外した。

 かといって田舎に帰ってクソ親父の稼業を継ぐなんて言うことも死んでもお断りだった。

 で、妥協の末考えた結果、結局道中短い旅路を共にしたガキどもにはすっかりつかれてしまったが故に、そいつらの面倒を見ることも悪くないと思って孤児院で働くことにしていた。

 で、今の状況・・・。



「くそッ!! ふざけんじゃねぇぇぇッ!!!!!」

「うわぁぁん!!」

「いやあああぁぁッ!!!」

「助けてぇぇぇッ!!!」



 ガキ共を必死に連れながら王都の街中を闇雲に走っていた!!

 ちくしょうッ!!

 神様が今でもなおこの世界の管理か何かをしてるんだったらマジで恨むぞまじでッ!!

 俺が一体何をしたって言うんだッ!!

 あのふざけたイカレ獣人共の恐ろしさを骨身を持って思い知ったが故に、冒険者を隠居して地に足着いた生活しようとしてたってのに結局獣人と言う不幸は俺を全然逃してくれやしねぇ!!

 なんでせっかく逃げた先の王都にまであのクソ野郎共に追われなきゃいけねえんだよッ!!!

「おじちゃん助けてぇッ!!」

「おじちゃんじゃねぇッ!! 『お兄さん』だッ!!」

「どこに行けばいいの!!?」

「獣人怖いぃ!!」

「大丈夫だ!! ・・・多分。」

「多分じゃこわいよぉ!!」

「仕方ねぇだろッ!! 俺だってどうすればいいかわかんねぇんだよぉ!!!」

 ガキ共連れながら走りつつ励ましの言葉をかけようとするが、結局弱音が出てしまって自分の情けなさがますます呪わしく感じる。



「グワァァッ!!」

「ッ!! あぶねッ!!」

 咆哮とともに降ってくる影に嫌な予感がして咄嗟に影の下のガキを庇って横に跳ぶ!!



「あ”あ”ッ!!」

 何か刃物のようなものが肩に当たって肉をえぐったような感覚が分かると共に激痛が走る!!



「痛ぃってぇッ!!!!」

 あまりの痛みに思わず叫ぶ!!

「くそッ!!」

 その犯人と思わしきやつを見上げながら苦言を漏らす。



「グゥゥゥ・・・!」

「うわぁぁッ!!」

「きゃぁぁぁぁッ!!」

「獣人だぁ!!」

 ガキどもは一斉に悲鳴をあげて騒ぎだす!



「くそッ・・・! くそくそッ!! ふざけんじゃねぇッ!!!」

 もはや目の前に現れた獣人には恐怖どころか怒りが込み上げてきた!!

 俺の冒険者としての人生を終わらせるだけじゃ飽きたらず、尚も俺の人生を蹂躙しようと現れるふてぶてしさ!!

 忌々しくて吐き気がする!!



「くそがッ!!」

 俺はちょうど持っていた剣を構える!



 冒険者を辞めるからと即決で売り払って処分しなくて良かった。

 とは言えだ。

「・・・。」

 俺はガキどもの方をちらっと見る。

 今すぐにでもこのクソ獣人どもの脳天に剣を振り下ろして頭をかち割ってやりたいところだが、現実はそうもいかない。

 こいつらの強さは痛いほど分かってる。

 戦っても勝てる相手じゃない。

 その上逃げようにもガキどもを連れている状態だ。

 どうしても足が遅くなるし、そもそもこいつらの足の速さの前じゃ逃げ切るなんて不可能・・・!



「クソッ・・・!」

 剣を獣人共に向けて威嚇しながら頭をフル回転させて考える・・・!



 腐っても元冒険者だ!

 その経験を全て思い出して考えろ!

 全員が生き残る最善の手を・・・!

「!」

 思考を巡らせているとふと思うことがあった!!




『グガッ、ゲッ、やめ、あぐ・・・!』

 相棒のウィッツが無惨に殺されていく姿だ。



「・・・ハァ。」

 俺は溜め息をつく。

 思いついてしまったからだ。

 ()()()()()を。

「おい、イド。」

 ガキ共の一人に声をかける。

「え?」

 イドと呼ばれたガキはあの崩壊したエルマの街で焚き火に当たっていた時、ウルドについていくことを懇願したガキだ。

 この中では最年長のガキ共の兄貴分だ。

「何? おっちゃん。」

「街の中を探せばきっとこの事態に気づいてやってきてる騎士や自警団がいるはずだ。その人たちを見つけて安全な場所に案内してもらえ。」

「え? おっちゃんはどうするの?」

「おっちゃんじゃねぇ! お兄さんだ!」

「一緒に逃げないの?」

「・・・。」

「グアァッ!!」

「ッ!!」

「グゥッ・・・!」

 襲い掛かろうとする獣人の進路を塞いで剣を僅かに振って威嚇すると獣人は足を止めて俺を睨む。

「行け。」

 俺はガキ共に指示する。

「おっちゃん・・・!」

「おじちゃん・・・!」

 ガキ共は俺に声をかけてくる。

「行けって!!」

 俺は獣人達から視線を外さず精一杯後ろを指差しながらガキ共に叫ぶ!

 だが・・・。



「おっちゃん!!」

「おじちゃん!!」

 ガキ共は尚も動かず俺に声をかけてくる。



「チッ。」

 まだガキだ。

 状況が分かってない!

 だからガキってのは厄介なんだよ!

「行けっつってんだろッ!! クソガキ共がッ!!」

 やけくそになってガキ共に吠えるように叫ぶ!!

「おじちゃん・・・。」

 だが、ガキどもは動く気配は無い。

 あぁくそッ!!

 もう仕方ねぇッ!!

「この際だから言っとくけどなぁ・・・。」

「え?」

 俺は何の脈絡もなく話し始める。



「俺はガキは大嫌いなんだよッ!!!!」

 吐き出すように叫ぶ!!



「お前ら連れて馬車で移動する時、ピーピー喚いてうるさくてしょうがなかったッ!!

「そんな・・・!」

「どいつも思いつくままにワーワー喋りやがって鬱陶しかったんだよッ!! 正直親父の家業も嫌いだがガキの守りも同じ位大嫌いだったねッ!!」

「おじちゃん・・・!」

 俺が吐き捨てるように罵倒すると後ろから聞こえるガキ共の声は泣きそうな声になる。

 いいぞ泣け泣け!!

「孤児院で働こうと思ったのだって、他に行くあてもなかったから渋々働こうと思っただけだ!! 当面の金ができたらすぐに出て行くつもりだったよ!!」

「おっちゃん・・・。」

 俺がぶちまけるだけぶちまけると後から聞こえるガキどもの声は力ないものに変わっていった。



「もうお前らのお守りうんざりなんだッ!!! さっさと俺の前から消えろッ!! クソガキ共ッ!!」

 俺がガキ共にトドメの一言を放つと・・・。



「行こう・・・。」

「うん・・・。」

 イドがガキ共を先導するように言うとガキ共の去っていく足音が聞こえた。

「ふぅ・・・。」

 俺は安堵のため息を漏らす。

 ・・・と同時に。

「ふぅ・・・ふぅ・・・!」

 呼吸が荒くなり・・・!



「フゥゥゥ・・・フゥゥ・・・!」

 目から滝のように涙が流れた!



 理由なんて言わなくても分かるだろ?

 死ぬのが怖いからだよッ!!

 いやそれだけじゃない―――



―――エルマからプロテアの道中の事を思い出す。


「僕ね!! 大人になったら騎士になるんだ!!」

「私、メロお姉ちゃんみたいな冒険者!!」

「へぇ・・・。」

 休憩がてら、道中の岩陰でガキ共と焚火を囲みながら世間話をしていたら流れでガキ共は将来なりたい物を話していた。

「いいよなぁ・・・お前らは将来の夢があって。」

「おっちゃんは無いの?」

 俺が皮肉気味に言うとイドがポカンと俺に尋ねる。

「おじちゃんは冒険者になりたくてなったんでしょ?」

 先程メロに憧れていた女の子のリリアも訪ねてくる。

「俺だってカッコいいと思うから冒険者になりたいと思ったよ。だけどよ・・・。」

「だけど?」

「結局戦っても勝てない相手はいる。そんな奴らから必死に逃げて・・・そんな俺、ダセェだろ?」

「ダセぇ?」

「カッコよくないって事! だから分かった。冒険者やめるよ。俺は。」

「やめちゃうの?」

「ああ、なんか悪りぃな! 夢ぶちこわすような感じになっちまうけどよ、俺には向いてなかったし。」

「・・・。」

「え?」

 何故かリリアが涙を流していた。



「あああん!! おじちゃんやめちゃやだぁぁ!!」

「え! ちょ!?」

 リリアがいきなり泣き出した!!



「あー! おじちゃんリリア泣かしたー!」

「いーけないんだーいけないんだー!」

「い、いや、これ、俺悪いの!!?」

 ここぞとばかりにガキ共がおちょくってくる!

「泣かしたじゃーん!」

「うぐ・・・!」

 ガキの屁理屈っぽいが言ってることは的外れでもない。

「ごめんって!! 悪かった!!」

 必死にリリアに謝る!

「やぁだぁおじちゃぁん!」

 泣きじゃくりながら俺の服の裾を掴んで揺さぶる。

「いや・・・その・・・。」

 困惑しつつもちょっと嬉しかった。



 こんな夢を諦めきった俺にも必死に夢見させてくれようとしてるのが・・・。



「何ニヤニヤしてんのおっちゃん!」

「!」

 ガキ共の一人に言われて気づく!

 いつの間にか口元がにやついていた!

「キモチワルーイ!」

「ロリコンだぁ!!」

「ロリコーン!!」

「うるせぇ!! そんな趣味ねぇ!! つうか、そんな悪い言葉どこで覚えた!!」



「「「あはははは!!」」」

「笑うなぁ!!」




―――「ふぅぅぅぅ・・・!」


 バカがよぉ、俺のバカッ!!

 柄にもなく器用な嘘ついてさ!!

 こんな泣くくらいなら自分から嫌われるような事すんじゃねぇよ!!

 馬鹿野郎ッ!!

「くッ・・・!」

 必死に涙を拭いながら頭を整理する。

 でもいいんだ。

 これはきっと罰だからだ。

 エルマの街から逃げたとき、大事な仲間、相棒を見捨てて逃げたからだ!!

 だからもう逃げない・・・!

 これはあの時逃げて身勝手に生き残った事への罰だ!!

 甘んじてこの罰を受け入れよう!!



「さぁかかってこいやクソ獣人共ッ!!! こうなったら一匹でも多く道連れにしてやらぁッ!!」

「グガァァッ!!!」

 俺が剣を振り上げて走って向かって行くと迎え撃つように獣人共も俺に向かって飛び掛かる!!



「へッ・・・!」

 悪いな、ウィッツ。

 そっち行ったらすぐ土下座するから許してくれよ?



「ブガッ!?」

「え・・・?」

 予想外のことが起こった!!



 なんと獣人が何かに殴り飛ばされるように吹っ飛んだ!!

 何が起こったんだ!?



「ハッ!! 問答無用で襲ってくる割には雑魚ばっかじゃねえか!! おめぇらは楽しめんだろうなぁ、あ”ぁ!?」

「・・・!」

 先ほどの獣人を殴り飛ばした犯人と思わしき男が戦士の名乗り口上のように獣人を挑発していた!




~ウルド アステリオン:遺跡~

 

 あれから行き止まりの場所を二ヶ所回ったが成果はなかった。

 行き止まりの場所は全部で五ヶ所、そろそろ()()()が出てきてもいい頃だが・・・。



「師匠ぉ~!!」

 メロがうんざりしたようなジレ声を上げる。



「・・・。」

 理由はなんとなく分かる。

 訳も分からず連れ歩かれてりゃ俺だってうんざりするさ。

 だが・・・。



「黙ってついてこい。」

 俺は敢えて何も教えずメロを叱咤する。



 教える必要もない。

 だってそのうち分かるからな。



「!」

 目的地の行き止まりに着いた。

「・・・。」

 俺はまたこめかみに指を当て、魔覚に意識を 集中する。

 すると・・・。



「!!」

 ()()()!!



 壁の向こうに微弱な魔力。

 夜中の宙に漂う蛍の光のような小さな魔力だ!

「ぬぁぁん! もぉ!  師匠ぉ!」

 目の前にメロが回り込むようにして俺の前に立つ。

「さっきから何を探してるのですかッ!! いい加減に教えて下さいです!!」

 とうとう我慢の限界を迎えて怒りまじりに俺に質問を投げかけてくる。

 だが俺は口では答えず・・・。



「へ?」

 メロが間抜けな声をあげる。

 俺が思いっきり突き飛ばすようにメロを押したからだ。



「わわ!」

 突き飛ばされたメロがよろけるように壁に激突するかと思われたその刹那!

「へぶッ!」

 メロは間抜けな声を上げる。

「いったぁ~! 師匠! 何をするので・・・! へ?」

 頭を打ち付けた怒りの言葉を俺に投げかけようとしたメロだが、またしても間抜けな声を上げる。

 何故ならメロはさっきの壁にはぶつかっておらず、身体を起き上がらせて四つん這いの姿勢になっていた。

 しかし俺から見えるのはメロの()()()()()()

 頭や上半身が見えないのは・・・。



「な、何ですかこれぇ!!!!」

 なんと壁の向こうへすり抜けていたからだ。



「ちょっと、師匠!!? 何ですかこれッ!! なんか、『壁尻』みたいになってるのです!! めちゃくちゃ恥ずかしいのですぅッ!!」

「へぇ~、 メロって『壁尻』知ってるんだぁ♪」

「ッ!!」

 ルタがしょうもない揚げ足を取るとメロの尻が驚いたようにビクッと一瞬跳ね上がる。

「し、しし、知らないのですッ!!! 何デスカーソレ!! ルタハ一体ナニヲイッテルノデスカー!!!」

 ルタが問い詰めるとメロが慌てて見苦しく叫ぶ。

 まぁどうでもいいが、そろそろ説明してやるか。

「これがこの迷路のからくりだ。」

 俺は近くの小石を拾いながらメロの近くに立つと、メロの突き抜けている壁に顔を押し込む。

 すると顔は壁をすり抜けて壁の向こうのメロの上に現れる。

「あ、師匠!」

「こいつは壁じゃない、壁に見せかけた幻覚だ。」

「幻術・・・ですか?」

「そういうことだ。」

 言いながら俺は右手を顔と同じ壁の向こう側にすり抜けさせる。

 手には小石を固めた人差し指と親指の間に乗せていた。



「そんでその犯人が・・・。」

 親指を弾くように開いて小石を飛ばす。



 小石が矢のように真っすぐ壁に跳ぶと近くの壁にぶつかる。

 すると近くに居た小さな何かが驚いたようにふわぁっとその場所から離れていく。

 それは紫色の蛍のように小さく光る何かだった。

「!」

 それを見たメロは目を丸くし・・・。



「妖精・・・!」

「そういうことだ。」

 メロが唖然としている 顔を下に眺めながらやれやれ調子で答える。



「『闇妖精(ダークフェアリー)』、 洞窟とか遺跡とかのダンジョンで見るタイプの妖精だ。」

 淡々と説明する。

 妖精は生息する場所によって様々な種類が存在する。

 川や泉には『水妖精(ウォーターフェアリー)』、森には『緑妖精(グリーンフェアリー)』、そして個体差はあるが妖精の性格って奴は大体妖精の個体によって傾向は決まってくる。

 基本的に妖精って奴はいたずら好きな奴が多い。

 ただそれも些細な子供のイタズラレベルの事が多い。

 だがこの『闇妖精(ダークフェアリー)』においてはそのいたずら好きが歪んでいるせいか、悪意というレベルでタチが悪い。

 こうやって幻覚を見せることによって迷宮の難易度を理不尽に上げるのも、迷宮に迷った奴らが野垂れ死ぬのを嘲笑うためだ。

「あ・・・!」

 メロが状況の変化に気づく。



 先ほど俺たちが体をすり抜けさせていた壁が徐々に薄れるように消えて行き数秒と立たないうちに完全に消滅した。



「妖精の魔法がなくなって幻覚がなくなったんですね!」

「はぁ・・・。」

 メロが『おー』と声を あげている間に呆れてため息をつく。

 しょうもないイタズラもんのせいでとんだ時間を食わされた。



「さっさと行くぞ。」

「ハイです!」

「了解壁尻~♪」

「やめろですッ!!!」

「ハァ、程ほどにしとけ壁尻。」

「師匠もッ!! なんか語尾みたいにしないでですッ!!」

「へ。」

 ルタのしょうもない茶化しに気まぐれで乗っかりつつ、顔を真っ赤にして食って掛かるメロの顔も見ずに鼻で笑いながら先に進んだ。

 


※リメイク前との変更点※

・試練の遺跡に関しては省略

理由:遺跡自体が完全に変更点の為

・プロテア襲撃戦にディラガ&レイド参戦

理由:ディラガやレイドも王都に居る為

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