#63 不穏
~ギャバラ 王都プロテア:診療所~
「で? 奴はどこに行ったんだよッ!!」
男は早速とばかりにムクロさんに向かってがなり立てるように催促する!
「その前にだ。」
「あ?」
ムクロさんは男の怒号に一切同じ言葉を返す!
「お前、あいつを探してどうしたいんだ?」
「!!」
ムクロさんが質問を投げかけると男は目を見開くがすぐに俯くと・・・。
「・・・ッ!」
何故かブルブルと震えだす!
しかも心なしか、拳をわなわなと震わせてるような感じだ!
「ッ!!」
「え!?」
目の前にかざすように拳を突き出すと・・・!
「ブッ殺すッ!!!!」
「いぃッ!!?」
隣にいる俺がそのやべぇオーラに気圧されるのもお構いなしに男は怒号を上げる!
「ほぉ? 『恨み持ち』か。で?」
ムクロさんは片目を顰めると・・・。
「何の恨みがあるんだ? 言ってみろ。」
なぜか煽るように男に質問を投げかける!
「てめぇに言う必要があんのか!?」
質問がやはりというか挑発に見えたようで、男は話す気は無いようだ。
だが・・・。
「内容によっちゃ教えてやる。」
「ふざけてんじゃねぇぞコラッ!!」
突拍子もなく続くムクロさんの言葉についにキレた男はムクロさんに詰め寄って胸ぐらをつかむ!
「へっ。」
「!?」
何故かムクロさんはビビりもせず不敵に笑ってる・・・!
いや、こんなやべぇ男にガンつけられてよく平気だなこの人・・・!
「おいいのか? 俺の機嫌損ねちゃって。」
「あぁ!!?」
「俺知ってんだぜ? ウルドがどこに行ったか。」
「ええええぇぇ!!!?」
超びっくり新情報!!?
・・・って言うかちょっと待って?
「ムクロさんッ!! あんた例の日の朝言ってたじゃないすか!! 『寝てるうちに兄貴たちどっか行ってた』って!! あれ嘘だったんすか!!?」
「いやいや嘘じゃねぇよ。けど後で聞いたんだよ。その辺に詳しい昔のダチの伝手でな。」
「ほぉ?」
「おっと? 拷問かけて聞き出そうってんならこっちにも考えがあるぞ?」
そう言うと、ムクロさんは白衣の内ポケットからメスを取り出す!!
「ッ!!」
それを使って応戦してくると思った男はとっさに胸ぐらを離して距離をとり、すぐに身構えるが・・・。
「はは! 何構えてんだよ。俺は医者だぞ? お前に挑んで叶うわけねぇだろ。」
「・・・へ。」
男は抵抗が無駄だとわかったのか急に上機嫌になって構えを解く。
「分かってんならどういうつもりだ・・・ッ!?」
言葉の直後に男は目を見開く。
「こういう事。」
「ムクロさんッ!!?」
なんとムクロさんはメスを自分の喉元に突きつけたッ!!
メスの刃先は喉元の角先で止まっており、下手に動かせば今にも突き刺さるんじゃねぇかってくらいの状態だ!!
「何考えてんッスか? ムクロさんッ!!」
つい声を張り上げて袋さんに非難の声をかけてしまう!!
今ムクロさんが言おうとしている事は一目瞭然!!
明らかに『無理に聞き出そうとすれば、自ら命を立ってやる』って意味だ!!
「なんだてめぇ・・・! 気でも狂ったか!?」
「いやいや、正気正気、シラフもシラフよ。」
「いやシラフの人の行動じゃねぇでしょ!!?」
男ががなり立てるとムクロさんは淡々と答える!
それがまた頭おかしくてオレ様の理解でも追い付かねぇ!!
「こちとら世間様から理不尽に仕事奪われて隠居同然の身なんだ。元からいつでも捨てられる命なんだよ。『無敵の人間』舐めんな?」
ヘラヘラと笑っているがどうにも冗談を言っているようには見えない・・・!
確かに言われてみればそうかもしれん・・・!
ムクロさんの身の上はこれでも一週間一緒に居たから大体話に聞いてる・・・!
医者として頑張ってきたのに魔王の脅威が去ってから聖堂協会が幅利かせてきたせいで商売敵として世間から理不尽に放り出されたも同然・・・いつ首を吊ってもおかしくないような状況だ!
けど・・・だけどさッ!!
「ムクロさんッ!! 馬鹿な真似はやめてくださいよッ!!」
「へへ。」
俺が必死に説得するが、ムクロさんはどこ吹く風かとばかりに聞き流して笑ってる!
マジでいつでも死ぬ気だこの人ッ!!
「で? どうすんだよ。俺が死んだらこの王都で、あいつの足取り分かる奴はもういねぇかもな? そしたら亡霊にでもなって、てめぇの後ろから『ざまぁみろバァカ!!』って笑ってやるのも面白そうだ。」
「ぐぐ、く・・・!」
男にも状況が理解できたみたいで忌々しそうに歯ぎしりをする!
そんで今にも怒りが爆発して暴れ出しそうなおっかねぇ顔でムクロさんを見てた!
いやこっちがおっかねぇよ・・・!
マジでここから逃げてぇ!!
「チッ! ハァ・・・。」
舌打ち男は観念したように舌打ちをすると、忌々しそうにため息をつきながら後ろ頭を掻く。
そして・・・!
「あいつがセコい戦い方でまぐれ勝ちしたからだよ!」
めんどくさそうに理由を話した!
「セコい戦い方?」
「隠れたり騙したり、とにかく正々堂々戦わなくてムカついたんだよッ!! まともにやり合ってりゃ、俺が
「へッ。」
「何がおかしいッ!!」
ムクロさんが鼻で笑うと男は話を中断してムクロさんにキレ散らかす!!
「隠れたり? 騙したり? 『兵法』の基本じゃねぇか。」
「あぁ!? てめぇぶっ殺すぞッ!!?」
「おぉ殺せ殺せ!」
「ッ!!?」
男が拳を構えて脅しかけても、ムクロさんは『ウェルカム!!』ってばかりに両手を広げる!
「ぐくッ・・・!」
脅しが無駄だと分かって再び男はこめかみを引くつかせながら固まる!
「そんな性根じゃおめぇ、あいつには勝ってねぇよ。何年修行しようとな。」
「馬鹿にしてんのかてめぇッ!!」
「おぉ?」
「くッ・・・!」
再び男がむろさんの胸ぐらをつかむが、ムクロさんは再び自分の喉元にメスを突きつける!
「クソがッ!!」
何度も同じ脅しで身動きを封じられる状況にイラつきながら男は荒々しくムクロさんから手を離す!
「もういいだろッ!! 全部話しただろうがッ!! さっさと教えろッ!!」
男は散々煽られた怒りを凝縮したような視線でムクロさんを睨みつけながら、答えをせかす!
「・・・・・・ふぅぅ。」
ムクロさんは咥えていた煙草に手を添えて煙を吸ってから煙草を外して吐き出すと・・・。
「アステリオンだよ。」
「ッ!?」
ムクロさんから予想外の返答が返ってきた!!
「な、なんでここで言っちゃうんッスかムクロさんッ!! こいつ、兄貴の命狙ってるやつですぜ!?」
「ん。」
「?」
ムクロさんが何故かクイクイッと俺に向かって指で手招きする。
「・・・?」
俺が近づくと何かひそひそ話をしたそうに口の横に手を添えるので、指示通りに耳を近づけると・・・。
(お前・・・本当にウルドがこの男にやられると思うか?)
(え?)
何言ってんだムクロさん???
(こいつの口振りを見るにこいつはあいつの正体を知らねぇ。それで自分が『格上』だと思ってるクチだ。)
(な、なるほど・・・。)
(それに格好から見た感じ、山賊か何かだろう。)
(ほうほう、言われてみりゃ確かに。)
(大方あいつにボコられて捕まった奴が脱獄なり何なりで仕返しに行く口だ。)
(だったらやべぇんじゃないですか!?)
(別に? あいつを狙う理由にしちゃ可愛すぎるからな。)
(なんッスかその理由!!)
「おいさっきから何ヒソヒソしゃべってんだッ!! 言いたいことあるならハッキリ言えやッ!!」
「ヒィィィッ!!」
男がヤベェ声で俺たちにかなり立ててくるッ!!
ムクロさんはいいかもしれないけど、俺はボコボコにされるのなんてまっぴらごめんだよッ!!
「もう欲しい情報は手に入ったろ? なら、さっさと出てけよ」
「ケッ!! ああ出て行ってやるよ! こんなとこ!!」
そう言いながら、男かドアを開けた瞬間・・・。
「へ?」
俺は目の前の光景に目を疑う!
男が開けたドアの先に『何か』がいたからだ!!
「あ? なんだてめぇ、どけよ。それとも・・・。」
男が脅しかけるように何か言おうとした瞬間・・・!
「グガァッ!!」
「ッ!!?」
扉の先の何者かはいきなり何かを振り下ろす!!
「ッ! ・・・てめぇ。」
男は上手く後ろに飛んで躱しながら、着地と同時に構えた!
「何のつもりだ?」
男は目の前の何者かに静かに非難を投げかける。
男に向かって振り下ろされたそれは診療所の床に深々と刺さっていた!
手斧だった!!
そしてその持ち主は・・・。
「グググ・・・!」
唸り声を上げており、妙に長い髪とその頭のてっぺんに犬のような耳があった!
「『獣人』・・・!」
その姿は間違いなく獣人だった!!
「獣人がなんでここに!?」
戸惑いつつも俺もエクスデュランを背中から抜いて構えた!!
「グアァァッ!!」
床から手斧を引き抜くと獣人は襲いかかってきた!!
「いぃ!?」
なんと狙いは俺だった!!
「グァァッ!!!」
「ヒィィィッ!!!」
獣人が横振りに手斧を振ってきたので咄嗟に後ろに回避したが引け腰だったせいか、すぐに尻餅をついて体制が崩れる!
「グアアァッ!!」
「うわぁぁぁッ!!!」
獣人が今にも振り下ろそうと斧を振りかぶった!!
ヤバい!!
ヤバい死ぬ死ぬ死ぬッ!!
「俺を無視してんじゃねぇッ!!!」
「ブガッ!!?」
男が割り込むように獣人を横から殴り飛ばす!!
「グガァッ!!」
吹っ飛んだ獣人は真っ逆さまの格好で近くのテーブルを粉砕する!!
「あ~ららこらら♪ べ~んしょ弁償~♪」
「うるせぇッ!!!」
場違いに茶化すムクロさんに男は逆ギレする!!
け、けど・・・!
「あ、 あんた強ぇんだな・・・!」
「グゥゥゥ・・・!」
「!!」
男の強さに俺が感心する間もなく獣人が起き上がる!
「グワァァッ!!」
ぶっ飛ばされた怒りか、獣人はいきりたって男に襲いかかる!!
だが・・・!
「へッ! ノロマがッ!!」
男は獣人の手斧の横振りを体勢を低くして紙一重で躱し、続けて打ち込んでくる二撃の斜め振りを奴の手首を左手だけで弾くようにして捌く!
「当たらねえよッ!! そんな攻撃なんざッ!!」
「ググガゥァッ!!」
何度も手斧を振っても当たらない攻撃に段々獣人の顔が険しくなる!
イラついてんのが俺でも手に取るように分かる!
「グガァァッ!!」
怒りを爆発させるように吠えると獣人は・・・!
「グゥッ!!」
「あ?」
男に飛びつくと両足を巻きつけるようにしてガッチリと男の胴体を捕まえた!
「ああッ!!」
この状況はマズいッ!!
俺でも分かるッ!!
これじゃあさっきみたいに避けたり捌いたりなんてできないッ!!
「グガァァッ!!」
獣人はここぞとばかりに手斧を振り上げる!
ヤバい!!
今この男がやられたら・・・!
そう思ったら俺の全身から一気に血の気が引いてきたのが分かったッ!!
だが・・・!
「へッ!」
男は何故か笑っていた!!
何で笑っ・・・ え!?
「グゥッ!?」
「えぇ!?」
なんと男は獣人を抱きしめるように掴んでいた!!
そして・・・!
「オォラ・・・。」
まるで宙返りでもすんのかって感じで真っ逆さまに体の上下を入れ替えて床に落下し・・・!
「よっとぉッッ!!!!!」
その落下の勢いを利用して結果的に体を捕まえる形になっていた獣人を頭から床に叩きつけたッ!!
「・・・!」
あまりの急な衝撃に獣人は言葉を出す間もなく全身を柱じゃねえかってくらいにまっすぐピーンってさせながら硬直させてた!!
けど、数秒と立たないうちに力なく海老反りの状態で体を床に横たわらせた!
「へッ! 雑魚が!」
「あ・・・あぁ・・・!」
つ、 強い・・・!
い、いや今回に限っては助かったけど良いのかこれ・・・!
ムクロさんはただのイキったチンピラみたいに言ってたけどどう考えても強い!!
これマズい状況なんじゃないか・・・!?
このままだと・・・!
「あーあー、 人ん家こんなにしやがって、弁償しろよ弁償。」
「うるせぇ!! さっき俺に向かって生意気な態度取った罰だッ!!」
「お、 それはちょっと痛いとこ突かれたな、ハハ!」
「いやそんなこと言ってる場合ッスかムクロさんッ!!」
「あ? 何がだ?」
「ッ!!」
ポカーンとしてるムクロさんを必死に捕まえて耳打ちの格好を取る!!
(あんたどんだけマズいことしてんのか分かってんッスか!?)
(なんだよ??)
俺の言うことにムクロさんは訝しげに聞き返す!
あぁもうッ!!
(こいつマジで強いッスよ!! こんなやつが兄貴のところにたどり着いたら兄貴は・・・!)
(ああ・・・大丈夫なんじゃね? 知らんけど。)
(んな無責任な!!)
(ま、 正直俺の知ったことじゃねぇよ。まぁ、怪我したら治療くらいはしてやるけどな。)
(あんた本当に仕事のことばっかか!!)
(当たり前だろう腐っても医者だからな。)
ったく、プロ意識高いのかドライすぎるのかマジでわからんわこの変人め・・・!
「だから言いてぇことあるならはっきり言えっつってんだろッ!!」
「ヒィィィッ!! すんませんッ!!」
「それにしても・・・。」
ムクロさんはさっきの戦いで伸びてる獣人の前でしゃがみ込むと渋そうな顔で獣人を眺める。
「な~んで獣人がこんなところに居んだ?」
「ケッ! 興味ねぇよ!」
ムクロさんの疑問を男はめんどくさそうに突っぱねる。
「それになんか錯乱してたし・・・。」
「知らねぇッスよ! 獣人が頭おかしいことなんて今に始まったことじゃねぇでしょ!?」
獣人なんて縄張りに入った途端に身ぐるみ剥ぎ取る蛮族らしいじゃねぇか!!
そんな奴らが頭おかしいなんて何を当たり前のことを・・・!
「それでも口くらいは聞けるだろ?」
「何が言いてぇ。」
「フッ・・・。」
男が問いかけるとムクロさんは不敵に鼻で笑う!
「!!?」
こ、これは・・・!
明らかに何か知ってるような物知り顔だッ!!
俺の勘がビンビンにそう言ってる・・・!
一体これからムクロさんの口からどんなやべぇ真実が・・・!
「分かんねぇ!!」
「ズコオォッ!!」
まさかのムクロさんの発言に盛大にズッコケる!!
「何ッスか!! 結局分からないんじゃないッスか!!」
「分かんねぇもんは分かんねぇよ! 仕方ねぇだろ!」
「じゃあ威張んなッ!!」
「けどな?」
「「?」」
ムクロさんは伸びてる獣人に視線を戻すと薄ら笑みを浮かべて・・・!
「不可解なことがあるならそのままにしとくわけにもいかねぇだろ? 案外、調べれば面白ぇことが分かるかも知んねぇぞ?」
「趣味悪いッスよムクロさん・・・!」
「はは、かもな。」
「興味ねぇ、勝手に解剖なりなんなりやってろ。俺は行くからな。」
そう言って男は診療所を出て行った。
「あ・・・。」
えっと・・・どうしよう・・・!
ムクロさんの手伝いした方がいいのかな・・・。
けどあの男を好き勝手にさせとくわけにもいかないし・・・でも俺じゃ止められるわけでも
「行けよ。」
「え・・・?」
ムクロさんは床を頭でぶち抜いた獣を床から引っこ抜きながら俺の考えを見抜いたように言ってきた!
「此処に居たってお前に出来る事なんかねぇよ。」
「ひどくないッスかムクロさんッ!!?」
「それに・・・。」
「へ?」
「お前、あの様子じゃ道中の魔物やら賊やら相手にできねぇだろ。そんなの蹴散らせる奴についてかなきゃウルド達に追いつくなんざ夢のまた夢だ。」
「う・・・!」
言われてみればその通りだ・・・!
あの男を兄貴に合わせるのは気が引けるけど、俺が兄貴の元に戻るには他とない唯一のチャンスでもある!!
例えるなら、『二度と次の便があるのかわからない渡りの船』だ!!
「分かったら行け。」
「あ、ああ!」
俺は急いで診療所の出入り口に走るが出口の前で一度止まる!
そういえば言いそびれてたな!
「ありがとな! ムクロさん!!」
「へいへい、さっさと行け。」
面倒臭そうに俺の礼を突っぱねてムクロさんは奥の部屋へ獣人を運んで行った!
「よし・・・!」
もう後方に憂いなし!
グズグズしてたらあの男も 見失っちまう!
すぐに追いかけよう!!
「いざ
「ぎゃああああああぁぁぁぁッ!!!」
「いやああああぁぁッ!!!」
「助けてくれぇぇぇッ!!!」
「いぃッ!!」
診療所のドアを開けた瞬間、叫び声が聞こえたかと思ったら目の前の光景がとんでもないものだった!
建物のあちこちから火の手が上がり床の壁は勿論の事、道のレンガの地面も破壊し尽くされて穴だらけだった!
「!!?」
あんまりの合計に気づかなかったが、診療所を出てすぐ横にさっきの男がいた!!
俺も追いかけようとしてたから寧ろ助かったけど・・・!
「面白ぇ・・・!」
目の前の光景に男はなぜか嬉しそうに笑みを浮かべていた・・・!
「あ、ああ・・・!」
なぁんか嫌ぁ~な予感・・・!
「グガアアアァァッ!!!?」
「ッ!!?」
いきなり正面から獣人が・・・!
「うわあああああぁぁぁッ!!!!」
~ウルド アステリオン:地下遺跡~
第一の試練(?)、『ミノス神の挑んだ迷宮王宮(仮)を受け、サイズのおかしい大型の虫の魔物が蔓延る迷宮を探索し続けてしばらく時間が経った頃・・・。
「・・・おかしい。」
俺はある違和感を覚えていた。
それもその筈。
「フゥ・・・フゥ・・・。」
「ハァ・・・ハァ・・・♡」
横でメロもルタも息を切らしていた。(※ルタの悪ふざけはとりあえずスルー)
そりゃそうだ。
戦いながら長時間迷宮の出口を求めて歩き続けたんだ。
体も頭も疲れ切ってる。
おまけにこんな薄暗いところに長時間居るせいで神的にも気が滅入りそうなぐらい限界。
それは分かる。
だがそれこそが今の俺のこの『おかしい』と思う考えに直結するものだった。
「ハァ・・・♡ もしかして・・・んっ♡ お兄ちゃんも・・・♡ 気づいた・・・?♡」
「息切れに託けて喘ぐな。」
結局ツッコミ入れつつだが、ルタの口ぶりは明らかに俺と同じぐらい事態に気づいている状況だった。
「どういうことです・・・?」
メロはまだ分かってないみたいだ。
「ったく。」
流石半人前だけあってこの辺はまだまだだな。
「ハァ・・・。」
呆れてため息をつきながら俺は近くの石を拾う。
そして・・・。
「よく見てろ。」
俺はその場で地面に座り、拾った石のとがった部分で床にガリガリ引っ掻くように線で道を書き始める。
それは地図の図形だ。
「おお!」
メロは目をキラキラさせる。
「師匠、歩きながら道を覚えてたのですか!?」
「ハァ・・・。」
俺は呆れながらため息をつく。
「洞窟とかダンジョンとか探索するのに地図作成は基本中の基本だ。冒険者やるんならそれぐらい覚えとけ。」
「ハイです!! 勉強になるのです!!」
メロは真剣だが笑顔のまま元気よく返事をする。
「お~♪ またしっかり『お師匠様』やってるねぇ♪」
「うるせぇ茶化すな。」
正直ムカつくが、ルタのその『また』というのも嫌なくらい納得できてしまう。
この頃毎朝の鍛錬とかそんな合間にこいつに稽古つけたりもしてたし、こういう冒険者として教える場面があるとついつい老婆心というか先達者としてアドバイスまでしてしまう。
まるで本当に師匠になったかのように面倒を見てしまっている自覚がこの頃ある。
「チッ。」
やってしまっておいてあれだが、『このままじゃダメだ』ってのも自分で分かってるつもりだ。
俺たちの旅の目的は見習いの半人前を連れて歩けるような生易しいもんじゃない。
いずれはちゃんとしたこいつの新しい師匠を見つけて別れないといけない。
あんまり面倒見続けてそれこそ『愛着』みたいなのが湧いてしまったら面倒だ!
ああもうッ!!
「よし!!」
そんな考えを振り払うように声を上げて書いていた地図の図形を見る!
「お~完成~!」
ルタが小馬鹿にしたような声で感心そうに声をあげる。
別に絵を生業としているわけでもなく地図を書く本職でもないから拙い図形だが概ね頭の中にあるこの遺跡の地図は書ききったと自負している。
「それで師匠!! 出口は何処ですか!!?」
「バカ! 今まで歩いてきた道に出口がなかったんだ! この地図の中に出口があるわけねぇだろ!」
散歩前の犬の様に興奮しながら聞いてくるメロを叱りつける。
「それに・・・。」
俺は地図の何箇所かにバツをつける。
「???」
どういう意味なのか分からずにメロが首を傾げるので。
「此処も・・・此処も此処も・・・。」
俺はバツ印がついたところをそれぞれ指さす。
そして・・・。
「此処も・・・全部行き止まりだ。」
「・・・?」
俺の言葉にメロは地図を見て目を丸くして固まる。
「え、ちょっと待ってくださいです師匠・・・。」
ようやくメロは気づいたみたいだ。
「じゃあ・・・『出口はない』ってことですか!?」
「・・・そういうことだ。」
理不尽でありえないことだが、事実だ。
「お兄ちゃんの記憶違いだったりして~?」
「だったらもう一回探索してみるか?」
「それはめんどいからパス・・・。」
苦笑いを浮かべながら俺の提案を却下するルタ。
まぁめんどくさいっていうのも本当なんだろうけど恐らくはこいつも同じように地形を覚えてたから同じことをやっても無駄な二度手間だって分かってるんだろう。
「むむむ・・・!」
メロは不満そうに頬を膨らませると・・・。
「じゃあインチキってことじゃないですか!! 脱出できない迷路の中に閉じ込めて、あいつらは私たちが死ぬまでずっとこの中にいるのを楽しんでるって事ですか!?」
「・・・いや、それはないだろう。」
「本当に~?」
ルタは笑みを浮かべたままジト目で茶化してくる。
「さっきの入り口の扉の前に書いてあった文字は大昔の言語を使ってたろ? だよな? ルタ。」
「そうだね♪ 因みに獣文字は三千年以上前の言語だよ♪」
「そんな大昔に建てられた遺跡に『試練』なんて書いてあったんだ。信仰深そうな部族の獣人共に大昔の試練を装って理不尽で悪趣味な殺し方をするなんて到底考えづらい。」
恐らくは『不可能に近い無理難題』を押し付けられてる状況だ。
だが『試練』である以上突破は『百パーセント不可能』ってことはありえない。
必ず抜け道はあるはずだ。
「それに・・・なんかきな臭いんだよな。」
「師匠?」
「・・・。」
きょとんとするメロを尻目に黙って立ち上がる。
「例の行き止まりのとこ、片っ端から当たるぞ。」
「了解♪」
「は、ハイです!!」
俺が歩き出すと同時にルタとメロは順々に後から続いた。




