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嘘つき英雄と嘘の妹 ~リメイク版~  作者: 野良犬タロ
アステリオン編
62/63

#61 弱点


~ウルド マカ村~



「ん・・・んん?」

 なんか明かりが・・・太陽?

 空・・・?



「あ・・・!」

「師匠!!」

 気がつくとメロとルタが倒れている俺の横で左右に座りながら心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

「ん・・・!」

 二人に気づくとすぐに俺は起き上がる。

「ッ!?」

 周りには獣人たちがいた!

「・・・。」

「・・・。」

 獣人たちは黙ったまま俺達を取り囲みながら武器を向けていた。

 いかにも抵抗は許さないと言った感じだ。

「・・・。」

 ざっと状況を見渡す。

 数は十数人単位で槍やら斧やら武器を零距離まで突きつけている。

 俺達が全力で今から全力で抵抗したところで殺されるのは目に見えていた。

「・・・これどういう状況だよ。」

 訳も分からずルタとメロに問いただす。

「分かんないです。」

「お兄ちゃんと私たちを連れてきてからこいつらずっとこの状態。」

「ホント訳が分かんないです・・・なんなのですかぁ・・・!」

「・・・。」

 同感だ。

 俺達が考える限りこいつらのイメージとしては村に入るなり金品を強奪するなりして、すぐに殺してるはずだ。

 なのによく分からない場所に連れてこられている。

「・・・。」

 獣人たちが取り囲んでいる位置の反対側からは大きな穴が空いていた。

 石造りで四角く囲ったいかにも人工物といった感じの穴だ。

 ここから見ても全然底とかが見えない。

 かなり深い穴だ。



「よぉ! ようやく起きたか、寝坊助め!」

「ッ!!?」 

 聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと獣人たちを掻き分けてグラが現れた!



「おいグラ、こりゃ一体どういうつもりだ?」

「まさか裏切ったのですか!?」

「へへ・・・。」

 俺らの非難はどこ吹く風かとばかりにグラは笑いながら俺の前に立つ。

 すっかり先程の先頭による負荷の反動は無くなったようで、まるで何事もなかったかのように元気に日本の足で立っていた。

「これがお前ら獣人たちの歓迎の仕方か? 恩を仇で返しやがってよ。」

「本当にそう思うか?」

「??」

 グラは奇妙なことを言う。

「何が言いてぇんだ。」

()()()分かるよ。」



「行く? 何を言っ・・・ッ!!?」

 疑問を投げかけようとした瞬間、目の前から衝撃が走り、俺の体は中に浮いて後ろに跳ぶ!



 グラに腹部を蹴られて突き飛ばされた!!



「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 穴の底の闇の中に吸い込まれるように後頭部から落下して行く!!



 ヤバイッ!!

 マズイマズイ!!

 ヤバイってこの落ち方はッ!!

 死ぬって絶対ッ!!!!

 死ぬ!!

 死ぬ死ぬ死ぬ!!!!



「ッ!!!!!!????」

 冷たい何かに包み込まれるような感覚とともに小さな泡が背中を通り抜け、落下が和らいだかと思うと、体が浮き始める!



(水の、中・・・? ッ!!?)

 そう思った瞬間、周りからもザブン、ザブゥンと二つ何かが落ちる音がした!!

 落ちたものに大体察しは着くが、そんなことよりさっさと水面まで泳いで上がる!

「ブハッ!!」

 水面から顔を出すとすぐに吐き出した空気を思いっきりす吸い込む!

「くそッ!! あいつら何のつもりだッ!!?」

 恨めしい気持ちを目線に集めて俺を突き落としたグラ達の居ると思われる上の穴から見える小さな外光を見上げる。

「ぷあッ!!」

 メロもちょうど浮き上がってきて水面から顔を出す!

「師匠!!」

 すぐに俺に声をかける。

「無事みたいだな。」

「は、ハイです・・・!」

 手足を仰ぐように動かしながら水面に身体を浮かせつつお互いに声を掛けあって安否をしあったその時だ!

「「!!」」

 近くからバシャバシャと激しい水しぶきが聞こえてくる!



「え?」

 そっちを見ると近くで何かが物凄く暴れるように激しく水しぶきを上げていた!!



「ルタ!?」

 水しぶきの犯人と思われる相手の名前を呼びながらメロが目を丸くしてそっちを見る!

「まさかあいつ・・・!」

 すぐにルタのほうに泳いでいく!

「うッ! お、おいルタッ!!」

 激しい水しぶきに怯みながら現場を見るとやはりルタは暴れていた!

 どう考えても溺れてる!!

「ルタッ!!」

 落ち着かせようと手を伸ばす!

 しかし・・・!



「うえッ!? ぶがッ!!」

 いきなりルタが俺の腕をつかんだかと思うと体が一気に沈み込む!!



「がぼぼがぼぼぼッ!!」

 しかも、頭を水の底まで押し込まれる!!

 恐らくルタは俺を浮き替わりにして水面に浮き上がろうとしているんだろうが・・・。

「ぷぁッ、がぼ、ごぼがぼぼッ!!」

 パニックになっているのかルタはジタバタと暴れているためうまくバランスが取れず、顔が水面に浮き上がらずそのまま沈んでいく!

「ごぼ、かはっ、ごぼぼ!!」

 再び俺を水中に沈めるが、何度もバランスを崩しての繰り返しで溺れ続けるばかりだ!

「ッ・・・!」

 くそがッ!!

 このままじゃ無意味に二人とも溺れるだけだ!!

 仕方ない!

 許せルタッ!!



「ッ!!」

 俺は思いっきりルタの頬を殴り飛ばしてルタを追い払う!



 殴り飛ばされたルタは倒れ込むように水の中に沈んでいき、またバシャバシャと水しぶきを上げながら無様にもがく!

「ぷはッ!!」

 すぐに水面に浮かび上がって危うく無くなりかけていた酸素を口から取り込む!

「師匠!! 大丈夫ですか!!?」

「あぁ・・・大丈夫だ、けど・・・。」

 未だにパニック状態で溺れているルタから視線を動かさなかった。

「ルタ・・・!」

 メロも心配そうにルタを見ている。

 まずいな。

 この状況は全くもって予想外だった・・・!

 このままだとルタが溺れ死ぬ!

「どうするのですか!?」

「・・・。」

「師匠ッ!!」

 メロが焦って俺を急かす。

 確かに助けたいのは山々だが闇雲に助けようと思って手を伸ばせばさっきみたいに捕まって一緒に溺れるのがオチだ!

 どうする・・・!

「・・・チッ。」

 考えつきはしたが()()()()()()()だ。

 だが手段なんて今は選んでられない!



「すうううぅぅ・・・ッ!!」

 息を思いっきり吸い込んだ後、水に顔を突っ込んで潜る!



 ルタの元まで泳いでいく!

「・・・ッ!」

 暴れてジタバタとしているルタの足を掴むと水をかき分けながら泳いで()に潜っていく!

 そう、ルタ共々沈むつもりだ!

「ッ!!! ~~~ッ!!!!」

 ますますパニックになってルタは大暴れして俺の服の裾を掴んだ!!



「ッ!!」

 だが俺はルタを抱きしめた!!



「~~~ッ!!!」

 口から思いっきり泡を吐きながらパニックになって暴れるルタを必死に抱きしめながら動きを封じる。

 そして・・・!



【落ち着けッ!!】

 ルタに向かって念話で話しかける!



 無駄かもしれないが何とか説得を試みる!



【いやだッ!!】

「!」

 ルタから返答が返ってきた!!

 だが・・・!



【なんで!?】    【どうして!?】

  【ひどいこんなの!!】 【どうして落としたの!?】   【なんで!!?】

 パニックになっているのか言葉がまとまっていない!



 しかも聞こえてくる言葉も声の大きさが大きくなったり小さくなったり、まるで色んな方向に別々に叫び散らしているような感じにも聞こえてくる!

【いやだッ!!】 【なんで!?】  【私何もしてな

【落ち着けっつってんだろ!!!】



【捨てないでッ!!!!】

「ッ!!?」



 ・・・は?

【どうしてッ!!?】   【ひどいッ!!!】 【私悪くないッ!!!】

「!!」

 再び支離滅裂な言葉の応酬が俺の脳内に響いてくる!

 先程の言葉が気になるが、とにかくこいつを落ち着かせるためにはこれしかないッ!!



「ッ!!!!??」

 ルタは目を見開く!

 その口が俺の口で塞がれたからだ!



「~~~ッ!」

 つなぎ合わせた口からすぐに俺は息を吹き込む!

 ルタの体内に空気を送り込むためだ!

 そして・・・。



【俺は此処にいるッ!! 此処にいるぞッ!!】

 念話でルタに言葉を送る!



 突拍子もない言葉だったが、何故かこの言葉が一番ルタを安心させられる言葉だと思ったからだ!

 マジでダメ元だ、けどこれでダメだったらもうどうすることも・・・!



【・・・。】

 ルタの先程の訳の分からない言葉が止まる!



「・・・。」

 しかもルタは段々薄目になって目をとろんとさせるとゆっくりと目を閉じ、暴れて強張っていた背中が弛緩したように柔らかくなり、バタバタと動かしていた手もその動きを止めた。

 どうやら全身を脱力させて俺に身を任せて来たようだ。

「・・・。」

 やれやれ、手こずらせやがって。

 ようやく暴れるじゃじゃ馬をおとなしくさせたところで俺はルタを抱えたまま水面に上がっていく。

「ぷはぁッ!! ケホッ、ケホッ!!」

 水面に顔を出して息を落ち着かせる。

「師匠!」

「!!」

 メロの声がしてそっちを向くと・・・!

「こっちです!」

 メロは既に気をきかせていたようだ。

 どうやらこの水は高い囲いに囲まれていたようだが出入りできるように水面から階段状になっている出入口があり、メロは既にそれを見つけてそこに手をかけていた。

「よし!」

 俺は泳いでそっちに向かう!

「・・・。」

 ルタは完全に身を任せているらしく手足を一切動かさず、まるで布切れのように俺に抱き抱えられながら脱力していた。

「師匠!」

「サンキュウ! よッ!」

 メロが先に水から上がって手を差し出すので俺はその手をつかみ、ルタと一緒に水面に上がる。

「ッ!! よいっせッと!」

 石床と思われる陸の少し広めのスペースに出てルタをそこに寝かせた。

「くッ! ハァ・・・ハァ・・・!」

 同時に崩れる四つん這いになって地面に突っ伏して息を落ち着かせる。

「ふぅ・・・ふぅ・・・。」

 メロも石床に尻餅を着き、足を大の字に開いたまま手を後ろの床について天を仰ぎ、息を落ち着かせる。

「ハァ・・・なんだよ、ったく・・・!」

 息が落ち着いて来たところで考えを巡らせる。

 急にこんな場所に落としてあいつらどういうつもりだ!

 全く持って意味が分からん!

「よく分かんないけどグラ酷いです・・・。」

「・・・。」

 まぁ確かにメロとしては少なからずショックだろうな。

 せっかく仲良くなった相手に裏切られたようなもんだ、こんなの。

「それにしても・・・。」

 思うことがあって視線をルタに移す。

「・・・。」

 メロも同じことを考えてるみたいで同じ方向を見る。



「ルタ・・・カナヅチだったんですね。」

「・・・。」

 メロの指摘に思わず左目の目じりがヒクつく。



 マジで意外な弱点だった。

 いつも人のことを小馬鹿にする割には料理ができたり、戦闘でもそれ以外の旅のトラブルでも憎たらしいほど小器用に何でもこなすこいつからは全く思いもしなかった部分だった。

「・・・。」

 ルタは何も答えない。

 いや、別段おかしくないことかもしれない。

 この状態で下手に何かを言う方がバカかもしれない。

 自分の恥ずかしい弱点を知られたようなものだ。

 下手に何かを言っても見苦しい抵抗にしか見えないだろう。

 だが・・・。



「ふふ・・・ふふふふ・・・ふふふ・・・!」

「??」

 ルタはなぜか気味が悪い笑い声を漏らす。



「なんだお前、頭狂ったか??」

 溺れてパニックになってたから何の不思議もないとは思うが、冗談も交えつつルタの様子を伺う。

「・・・。」

 ルタが(おもむろ)にゆっくり唇を開くと・・・。



「奪われちゃった・・・。」

「ッ!!!?」



「へ?」

 ルタの突然の言葉に俺とメロは全く違う反応をする!

「???」

 メロは頭にハテナマークを浮かべて何が何やらといった感じだが・・・。

「な・・・ッ!」

 俺にはその言葉が完全に理解できてしまっていた!!

「何言ってるのですか? 何を奪われたのですか??」

「女の子の大事なもの。」

「え!!?」

「・・・!」

「師匠!!? ルタに一体何をしたのですかッ!!?」

 メロは完全に理解した訳ではなさそうだが顔を真っ赤にして俺を見る!

 恐らくその奪われたものと言うのは・・・。

「バカッ!!! あれは緊急処置だッ!!! 変な風に考えんじゃねぇッ!!!」

「変な風ってどういう風~??」

「ぐッ・・・!」

 体を起き上がらせていつもの子悪魔的な生意気な笑みで俺を見ながらからかってくるルタ・・・!

「うるせぇッ!! 助けて貰った奴が恩を仇で返してんじゃねぇッ!!」

「あぁ~かっこよかったなぁ! さっきのお兄ちゃん♡」

「ッ!!?」

 ルタはわざとらしく自分の両手の指を絡ませて固めながらそれを自分の左頬に当ててうっとりとした顔で語りだす!!

「凄く真剣な顔でさ? 『絶対にお前を死なせるもんかぁ!!』って必死そうなのがひしひしと伝わってきてさぁ♡」

「だあああぁぁぁぁぁぁもうやめろぉッ!!! マジで助けるんじゃなかったお前なんかぁぁぁッ!!!」

「そんなこと言って本当は安心しちゃってるんじゃないの~?」

「黙れッ!!!」

 ルタの言葉を掻き消すために必死に罵声を浴びせる!!

「師匠ッ!! 一体ルタの何を奪ったのですか!!? 女の子の大事なものって・・・!」

「お前は黙ってろッ!!」

 ついでに野次馬になったメロも黙らせる!

 だが、本当に安心している自分がいた・・・!

 今この時ばかりはそれが一番ムカつくッ!!

 だが・・・。



「・・・。」

 やはり疑問に思うことがあった。



【捨てないでッ!!!!】

 あれ・・・どういう意味だったんだ?



~グランツ王 王宮:書斎~



「王よ。」

「!」

 いつもの声が窓から聞こえてそっちを向くとそこにはいつもの一羽の鴉がいた。



「コルボーか、どうした?」

「マズい事態が起こった。」

「なんだ?」

「北側の関所が破られた。なんとか生きている者を一人見つけて情報は得た。下手人はどうやらアステリオンの獣人のようだ。」

「獣人・・・。」

 妙な疑問が残った。

「獣人は蛮族と聞く。だが彼らは我々が想像しているより賢い。」

「・・・。」

 私の話をコルボーは黙って静聴する。

「二十年前の先代王の時代、北側の関所が出来た当初こそ破ろう荒らしに来た獣人はいたが、我が国に充分に戦える戦力があると分かると襲撃を諦めて以降、向こうからの侵略は無かったと聞いている。彼らは好戦的だが、勝算のない無駄な戦いはしない賢さくらいはあったはずだ。」



「ああ、だが()()()奴らは正常では無かった。」

「?」



 コルボーは妙なことを口走った。 

「どういうことだ?」

「兵士の話によれば、獣人は正気を失っていた。それこそ、理性を失った獣のようにな。」

狂戦士(バーサーカー)になった、ということか?」

「ああ。」

「・・・。」

 狂戦士(バーサーカー)になる要因はいくつもある。

 魔力の暴走、違法な薬物、戦場の空気による精神崩壊、全てを上げればキリがないくらいだ。

 現状、原因を推理するには材料が圧倒的に足りない。

 いや、それよりも。

「不味いな。」

 恐らくは近隣の町に留まらず各地に散って被害を増やすだろう。

「既に近くのエルマが陥落した、こちらに来るのも時間の問題だろう。」

「数は分かるか?」

「五十体ほどだが、関所に配置した百二十の兵を壊滅させたほどだ。一体の戦力を人間の兵一人の戦力と考えない方がいい。」

「・・・。」

 数百単位の兵で相手をしても勝てるか怪しい。

 だがそんな兵力もいくら王都の戦力をかき集めたとしても国の各地にそれらを配置するのも無理がある。

 まぁ、これに関してはコルボーや他の斥候に見回らせてその都度兵を派遣するにしても、問題は例の破られた関所だ。

 このままあそこを放置すれば獣人達は無限にこちらに侵攻してきて被害を増やすだろう。

 一刻も早く建て直さなくてはならない。

 だが例の獣人達が際限なく侵攻してくる可能性を考えれば、それらから守りつつ工事をする、などという考えはあまり賢いやり方ではない。

 ならば・・・。

「元を絶つ必要があるな。」

 現状守ってばかりではこちらが疲弊してジリ貧だ。

 であれば二度と攻め入れないように襲ってくる戦力を元から絶ち、二度と侵攻出来ないようにする必要がある。

「であればアステリオンに攻め入るか?」

「待て、それは得策じゃない。」

「ふむ、確かにな。」

 こちらに侵攻する獣人の戦力を根こそぎ失くすとなればアステリオンと全面戦争になると言っても過言ではない。

 それは相手の国に対して刃を向ける事、必然として相手もこちらに刃を向けて来る。

 そうなれば真っ先に脅かされるのは国の民の命だ。

 一国を背負う者として、それは最も愚かな選択と言える。

狂戦士(バーサーカー)を生み出す原因は何か・・・それらを現地に赴いて調べる必要がありそうだ。」

 現状、これが最善手と言えるだろう。

 彼らが狂戦士(バーサーカー)となる原因を突き止め、それらを解消出来るのであれば、あるいは彼らが正常に戻って国への侵攻をする理由を失うかもしれない。

 賭けに近いが、流す血を最小限に抑えるにはこれしかない。

(キャット)に調査を頼むか?」

「いや、彼女にとって今一番重要なのはアルトをエルガイムまで連れていくことだ。余計な仕事は頼みたくない。」

「ならばどうする?」

「・・・。」

 他の斥候に頼むにしてもそれらも襲ってくる獣人の対処のために回す余裕は無い。

 


「さて・・・どうするか・・・。」




~ウルド マカ村:地下~


「・・・にしても此処、何処だ?」

 俺達が辺りを見渡すと・・・。

「・・・ん? アレ、なんだろう?」

 ルタが目を細めて何かを見る。

「!」

 その視線の先を一緒に見ると何やら明かりのような物が見えた。

 しかもその明かりは等間隔で道を作るように奥へ続いていた。

 まるで奥へ続く道へ案内するかのようだった。

「・・・。」

 明らかに何かがあるのは分かる。

 だがあからさまだ。

 罠だって可能性もある。

 だが・・・。

「行くしかないんじゃない?」

「・・・ハァ。」

 ルタが呆れ気味に鼻を鳴らしながら言うと俺自身もやれやれって気持ちでため息が出る。



「しゃあねぇか。」

「れっつごー☆」

「なんでも来い来いです!!」

 渋々歩いていくとルタとメロも何故かノリノリで後に続いた。



「!」

 燭台の明かりに照らされた道を通っていくと妙なものが目に入る。



「これ・・・。」

 道明かりの燭台を何本か通り過ぎた後か、そのくらいになると燭台の横に石造りの箱が置かれていた。

 上蓋が開いていた箱で、そこには誰かが気軽に置いたかのように剣、槍、杖など、武器が置かれていた。

「・・・どういうことだ?」

「『使え』って事じゃない?」

「・・・。」

 確かに()()()()を見るに妙な言い方だが『ありがたい』とも言える代物ではある。

 村の奴らに拘束される際、どうやら武器を取り上げられていたようで、今の俺達は丸腰も同然の状態だった。

「ありがたく貰っちゃおうよ♪」

「・・・。」

 確かにこの先何があるか分かったもんじゃない。

 護身用に何か持っててもいいかもしれない。

「じゃ、私はこれ~♪」

 ルタは人の腕くらいの長さの杖を取った。

「・・・。」

 俺は同じくらいの長さの剣を取った。

「私はやっぱりこれです!」

 メロは俺が取った剣の半分くらいの長さの剣を二本取った。

「にしても、これ・・・。」

 俺が目に余ったのは武器の材質だ。

 俺らが普通に使うような金属の刃とかではなく、何かの動物の骨で作ったような武器だ。

 ちゃんと鍛冶屋のような奴が作ったようでちゃんと剣の切れ味などはありそうで武器としての体は成しているようだがやはり骨から作ったとあって耐久は見るからに心もとなかった。

「無いよりマシマシ♪」

「・・・だな。」

 ルタに諭されると特に反論する言葉も意味も無く、仕方なく手に持って歩き出す。

 そのまま奥へ進んでいくと・・・。



「・・・!」

 一番奥と思われる所まで進むと大きな扉があった!



「なんだぁ? あからさまに『入口です』って感じだな。」

 扉は左右から道を塞ぐように建てられた二枚扉で、その間の丁度境目辺りで俺たちの腰くらいの高さの位置に水晶玉があった。

 恐らくは開閉用に使われている魔石か何かだろう。

「・・・。」

 とりあえず奥に進めばいいんだろう。

 そう思って魔力を送ろうと手を伸ばすが・・・。



「待って。」

「!」

 何故か俺の手首を掴んでルタが止めてきた。



「あ? なんだよ。」

(フラム) (カーン) 発現(エクスプレッション) 停滞(スタグネーション)

「??」

 何故かルタは杖を掲げて魔法詠唱を始める。

赤の灯(レッドライト)

「!!」

 掲げたルタの杖から炎が現れて扉を照らした、すると・・・。



「なんだ???」

 扉には文字が彫られていた。



 い、いや、待て?

「な、なんだ?? これ???」

 いや、これ()()か?

「なんですか?? このくねくね??」

 メロも文字につられて体を捻じ曲げて変なポーズを取る。

 何やら蛇が体をくねらせて無理やり作ったポーズのような形もあれば、動物の骨が寝そべったような奇妙な形の文字が並んでいた。

 見方によっては図形の為に作った絵のようにも見える。



「『聖地に殉ずる戦士よ、試練を受けしその志、我等は確かに受け取った』」

「!!?」

 ルタが何やら読み上げるように語りだした!!



「お、お前、読めるのか!!?」

「古代文字の『獣文字』・・・多分間違いない。」

「・・・!」

 さっき泳げなかったくせに、また謎にスペックの高い知識・・・マジでこいつなんなんだ・・・!

「そ、それで、なんて書いてあるのです?」

「・・・。」

 メロも恐る恐るルタに聞くとルタは再び文字に視線を戻し・・・。



「『試練は聖地の神、『ミノス』が開いた道を歩む物、神の道を進むと共に汝はその背中を見て知ることになる』」

「聖地の神・・・。」

「ミノス・・・?」

「・・・。」

 ルタは視線を右の扉から左に移し・・・。



「『神ミノスは城を攻め落とす時、その剛力で城を落とす事も出来たがある時、敵の城の主に挑発を受けた、『無礼なる獣よ、我が首取りたくば自ら王の間へ赴け』。誇り高き神は敢えてその挑戦を受けた。』」

「挑発、ですか?」

「煽られてそれに乗せられたってのか??」



 偉く美化して書かれちゃいるが、要はその気になりゃ簡単に城をぶっ壊せるけど、城の王様からいちゃもんつけられたって話だよな?

 で、挙げ句挑発に乗ってまんまとルールで縛られたと・・・くっだらねぇ。

 この神様とやらは戦争をガキの喧嘩と間違えてんじゃねぇか?

「・・・扉の文面は此処で終わりだね。」

「結局これ、どう言う意味ですか???」

 メロはアホな顔で首を傾げる。

 だが俺は・・・。

「ハァ・・・。」

 呆れてため息が出る。

 なんとなく分かってきた。

 

 

『俺達がなんでこんな場所に落とされたのか』がな。

 


「んふ♪」

 薄目でルタは俺を見ながら怪しく笑う。

 恐らくはこいつも俺と同じ、薄々気づいてる。

「とにかく、要は進めば良いって事だろ?」

「多分ね。」

「ったく。」

 淡々と相槌を打つルタを尻目にため息混じえながら扉に取り付けられた水晶に手のひらを当てる。

 手のひらから魔力を感じ取った水晶は、ボゥっと怪しげな音を出しながらぼんやりした光を一瞬発する。

 すると・・・。



「おぉ・・・!」

「・・・。」

 メロがわずかに驚いたような声を上げる横で俺は呆れ気味にため息をつく。



 ゴゴゴゴと重々しい音が聞こえて来たのと同時に左右から閉じられていた扉が俺達が手を掛けた訳でもないのにゆっくりと開いていく。

 メロは物珍しそうに目を見開いて居たが俺に取っちゃ見慣れた風景だ。

 昔、路銀稼ぎに遺跡の調査をする学者の護衛もした事あるからな。

 この手の仕掛けは目が腐るほど見てるから今更何も感じない。

 だが・・・。



「ッ!!」

 俺はすぐに目の前の光景に目を見開く!



 扉の奥の風景の中には小さな赤い光があった。

 遺跡の松明の灯りじゃない。

 血の様な球体の怪しい光だ。

 しかも一つだけじゃなく、複数個あった。

 十個あるかないかだが・・・。

 やがてその赤い光はそれぞれ二個ずつ隣り合うように並びあって止まった。

 ()()()()()

「・・・。」

 目が慣れて扉の奥の闇の中の何かの正体を理解する。



 それは虫だった。



 だがただの虫じゃない。

 それぞれが普通の人間の大きさ程ある。

 明らかに魔物だ。



「・・・はッ。」

 俺が鼻で笑いながら剣を構えるとルタとメロも続いて構える。



「『第一の試練』・・・。」

「スタートだね☆」

 皮肉交じりに俺とルタは言葉を合わせた。



 


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