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嘘つき英雄と嘘の妹 ~リメイク版~  作者: 野良犬タロ
カザ編
5/62

#04 仕事


~ウルド ボックル村(?)~


「ったく、面倒な所拠点にしやがって・・・。」

 暗闇の中、火をつけた松明を片手に愚痴を零す。

「・・・はぁ。」

 考えても仕方ないか―――



---数十分前。


 俺は依頼主の村の村長の所へ行った。

 うん、行ったはいいが・・・。

「なぁ、頼むよぉ! 早くオーク達を倒しに行ってくれぇ!」

「・・・。」

 村長とは別の村人のおっさんに涙と鼻水まみれの顔を横顔に押し付けられながら抱き着かれて懇願されていた。

「女房と一緒に大事に育ててきた一人娘がオークに攫われちまったんだぁ!! 助けてくれぇ!!」

「・・・。」

 いやマジで暑苦しい鼻水汚ねぇ抱き着いてくるおっさんとか誰得だよマジで勘弁してくれ。

「・・・。」

 で、この暑苦しい現場の中、それとは違って目の前では冷静に淡々と書類をさらさらと書いている村長がいた。

 ギルドの依頼を受けに来た冒険者である事を報告しなければいけないからだ。

 依頼を受けた紹介状に本人から依頼を受理したサインと完了のサインを貰って持って帰らなければならない。

 めんどくさい仕組みだが必要な手続きだ。

 理由は無論、不正を防ぐためだ。

 完了のサインだけを貰うだけなら不正を考える奴が依頼主を騙して書かせる可能性があるし、仮に依頼を本当に終わらせてからサインだけ貰いに行くようでは本当に討伐したかどうかも信用してもらえるかどうかも怪しい。

 それに受理のサインをするために会ったあと、もしもの事があって冒険者が死亡したり行方不明になった場合なら緊急事態をギルドに知らせるなどの対応も出来るから・・・まぁ、この事態が起こる事は死んでも御免、いや、その時は死んでるかも知れんからマジで冗談じゃ済まないけどな。

「よし、こんなものだろう。」

 村長は受領のサインと依頼の詳細について追記された説明の書かれた紹介状を渡してきた。

「追加報酬の件は見ての通りだ、君に抱き着いているダッカスさんの娘が畑を荒らしているオークの現場に居合わせてしまって攫われてしまったんだ。それを助けたら追加報酬として20銅貨(ブロンズ)渡すことを約束するよう記載しておいた。出来る事なら助けて欲しい。」

「分かりました。」

「頼むぅ!! 嫁入り前の大事な娘なんだぁ!! 例え殺されてなくても汚されるような事があったら俺は・・・俺はぁ・・・!」

「分かった分かった!!」

 尚も泣きつきながら鼻水を擦り付け続けるダッカスを引っぺがしながら相槌を打つ。

 ダッカスは見た感じ白髪交じりの髭と髪から察するにかなり年の行ったおっさんだ。

 その娘ってのも成長してそれなりの年頃なんだろう。

 娘なんて持ったことのない身としては知ったような口は言えないが気が気じゃないのも分からなくはない。

「で、奴らの拠点は分かってるんですか?」

「ああ、方角的に恐らくは---



---「で、此処かよ。」

 オーク一段の拠点は村近くの鉱山。

「ったく。」

 めんどくさすぎて溜め息が出る。

 そりゃそうだ。

 鉱山と来れば炭鉱夫が掘った坑道があるのが常だ。

 この手の道は鉱石を探すためにパンを食い進む虫のように道が別れて迷路みたいになっている。

 どうやら昔掘り進んで使われなくなった坑道の穴をオーク達は拠点にしたようだ。

 戻る道を覚えておかないと迷って出られなくなりそうだ。

 まぁ、とりあえず当面の目的であるオークはっと。

「・・・お。」

 奥から明かりが見えた!

 すぐに息を殺して灯りにしていた松明の火を消す。

 そして・・・。

「・・・。」

 俺は目を閉じて気持ちを落ち着かせる。

 こんな戦場も同然の場所で瞑想でも始めるのかと思うだろうがそうじゃない。

 これは斥候(スカウト)の基本スキル『魔力鎮静』だ。

 この世界の生物と一部の物質には大小あれど魔力がある。

 魔力があるならそれを感知する感覚、魔覚で探知する事が出来る。

 つまり物陰に隠れていようがある程度魔覚のある奴には一発でバレる。

 魔物も同様だ。

 鉱山なんて視界の悪い場所なら尚更だ。

 見えない分聴覚や魔覚に頼って侵入者を探っているだろう。

 そこでこの魔力鎮静だ。

 人間や魔物が発する魔力は己の精神から周囲にあふれる精神波が周囲の魔力の原料となる空気中の物質、通称『魔素』が混ざって色や形となる。

 このスキルはその原理を逆手に取り、己の精神を極限まで抑え込む事によって魔力の顕現を押さえる技術だ。

 潜入や偵察を主体とする斥候(スカウト)には必須級のスキルと言ってもいい。

「・・・。」

 ドシッ、ドシッと近くで重々しい足音が聞こえる。

 僅かに松明の炎の熱気も感じる。

 目を瞑っていても分かる。

 オークが近くにいる。

 だがオークの物と思わしき足音は近くで止まることは無く徐々に遠ざかっていく。

 俺に気づかずに通り過ぎて行ったみたいだ。

 今だ。

「・・・。」

 俺は目を薄く開いて物陰に降ろしていた腰を上げて立ち上がる。

 オークが進んだと思わしき方角を見ると灯りが見えるので足音を出さないように爪先でゆっくりめに走りながら近づく。

 灯りに近づくと松明の持ち主の姿が自身の目ではっきりと捉えられる程見えてくる。

 腰に巻いた粗末な布切れを着けており、禿頭の巨体、オークだ。

 右手で剣を抜きながら静かに歩いて近づく。

 まだ気づかれていない。

 薄目で心を鎮めて魔力鎮静を行い、魔力による気配を消しているからだ。

 だが目を閉じた先程の魔力鎮静とは違い、極限まで鎮めては居ないのであまり近づき過ぎると気づかれてしまう。

 音を立てず、ゆっくりと逆手に持ち替え、狙いを定めて・・・!

「ッ!」

 息を止めながら一気に走る。

「ンゴッ!?」

 魔力鎮静をやめ、殺意を露にしたので流石にオークも気付く。

 だがもう遅い。

「ゴァッ! ガッ!!」

 剣は背中から心臓を貫いていた。

 僅かに嬌声を上げたオークだがすぐに脱力し、俺が剣を抜くとそのまま前のめりに地面に倒れた。

「・・・。」

 倒したオークを見下ろしながら観察する。

 オークの肌の色は住みかによって異なる。

 森に住んでいるオークは緑色だがこいつは土色。

 洞窟に住み慣れているオークだ。

 つまりこの状況は厄介ってことだ。

 もしこいつが緑のオークなら、居て数人の少数のオークが住みかを変えて此処を拠点にしている可能性が高い。

 だがこいつは土色、洞窟に住み着いて長いオーク、つまり長い間この坑道に住み着いているから繁殖によって数を増やしている可能性が高いってわけだ。

「チッ・・・。」

 単独(ソロ)だとちとキツいかもしれんな。

 これは撤退を視野に入れた方がいいかもな・・・。



『女房と一緒に大事に育ててきた一人娘がオークに攫われちまったんだぁ!!』



「・・・。」

 村長からダッカスと呼ばれたおっさんの言葉を思い出す。



『お前は父さんと母さんが望んだから生まれて来たんだ・・・!』



「・・・。」

 同時に思い出す言葉があった。

「チッ。」

 情に流されてんじゃねぇよ俺!

 こんなの追加報酬に欲で目が眩んでる自分に対しての言い訳だろうが!

 死んだら元も子もねぇっつの!

「・・・。」

 俺の足は坑道の奥へと進む。

 これは、そう、やるだけやるって事だ。

 状況見てからだって遅くはないしな。



~ルッカ カザ:中央区~


「よ!」

 私は声をかける。

 誰にって?

「? あ!」

 そいつは振り返るとハッと声を上げる。

「ルッカさん! どうしたんですか?」

 声をかけたのはウルドの妹、ルタちゃんだ。

「偶々通りかかっただけ♪ ルタちゃんは何処に行くの?」

「あ! 私ですか? ご飯作る調理器具を買いに!」

「あらら、ウルドのお下がりじゃだめなの?」

「ああ、それが兄って結構ずぼらで、包丁も手入れしてないし鍋も普段からちゃんと洗ってなくて・・・。」

「へぇ、意外。ウルドって結構外食とかしないで自炊してるイメージあったからそういうとこちゃんとしてると思ったんだけどな。」

「はい、お金の管理とかはちゃんとしてるみたいなんですけど、そういうとこだらしなくて、お恥ずかしいです。」

「ああ、確かに食料買ってるとこ見てたけど結構ケチな買い方してたね。」

「ルッカさんはどちらに?」

「ダーリンのとこに合流しに行こうと思ってたとこ! 仕事も近場だし、ちょっとのんびり行こうと思ってね。」

「そうだったんですね! 彼氏さん、ですか。ちょっと羨ましいですね。」

「そ~お~?」

 ダーリンの話題になって嬉しくてつい身体をくねらせてしまう。

「どんな人なんですか?」

「たくましくて~! 頼りがいあって~! 私の事大事に思ってくれる素敵なダーリンよ~! ギルドで最初に見た時からドストライクだったから声かけてパーティー組んで~! それから頑張ってアタックかけたら付き合うことになって~! 今じゃ昼も夜もアッツアツでとろけちゃいそうな関係よ~!!」

「よ、夜・・・!?」

 ルタちゃんは顔を真っ赤にして口を手で覆う。

「あら~、いっけな~い! ルタちゃんにはまだ刺激強かったかな~?」

「そ、そそ、そんなことないです!」

 ルタちゃんは必死な顔で否定する。

「ふふ♪ あんたも次期に良い相手に出会えるよ! 頑張りな!」

「恋人・・・ですか。」

 ルタちゃんは頬を赤らめて俯く。

「ああ、それとももう狙ってる奴とか既にいる?」

「ふぇ!? い、いませんよそんな!」

「例えば・・・。」

「ッ!?」

 そう言ってルタちゃんに近づいて耳元に顔を近づけるとルタちゃんはハッと息を飲む。



(ウルドとか?)



「ッ!!?」

 囁きかけるとルタちゃんはびくっと動いて顔から湯気が出そうなくらい顔を真っ赤にする。

「な、ななな! 何言ってるんですか!」

 慌ててルタちゃんは離れる。

「あはは! 照れるな照れるな!」

「わた、私と兄は兄妹ですよ!? そ、そんな危ない関係じゃないですからッ!!」

「言い訳したって無駄無駄~! このルッカ様にはお見通しだよぉ?」

 からかいながら目を閉じて・・・。



()()()()・・・ね。」



 笑う口角を変えないまま鋭く真っ直ぐにルタちゃんを見る。

「・・・。」

 ルタちゃんから一瞬表情が消える。

「なぁんて冗談冗談!! 神様じゃないんだから! 何慌ててんのか~わい!」

「な、なんなんですかあなた!」

 からかうとルタちゃんはムキになって食って掛かる。

「じゃあね~! お兄ちゃんと仲良くね~♪」

「も~! からかわないで下さい!」

 怒るルタちゃんを尻目にその場をあとにする。



「・・・・・・・・・はっ。」



 思わず鼻で笑ってしまった。



~ウルド ボックル鉱山~


「・・・。」

 松明を片手に、俺はまだ坑道を歩いていた。

 結局上手く行って進んでいるからだ。

 道順は昔の鉱夫が落盤避けに建てていた坑木にナイフで罰印を付けながら進んでいるので帰り道に迷うことはない。

 レレにいつも心配されるが元来斥候(スカウト)単独(ソロ)の方が案外動きやすかったりする。

 敵陣を偵察する時もいちいち仲間と合流する必要もないし、魔力鎮静が使えない仲間がいない分敵に見つかる危険性(リスク)もかなり少ない。

 そんな訳で道行く先のオークを最初の要領で不意討ち掛けながら一体一体確実に仕留めながら進んでいる。

 そこへ・・・。

「・・・!」

 灯りが見えた!

 オークが来る!

「・・・。」

 すぐに松明の炎を消して岩陰に隠れる。

 だが・・・。

「・・・?」

 おかしい。

 魔力鎮静で気配を殺しながら聴覚と魔覚を頼りにオークの気配が近づくのを待つが一向に来る気配がない。

「・・・。」

 魔力鎮静を解いて物陰から通路の先に見える灯りを覗く。

 よく見ると松明一本にしては明るい。

 大きめの炎を灯しているみたいだ。

 どう見ても見回りのオークが使う灯りじゃない。

 だったらあれは・・・!

「・・・。」

 魔力鎮静を維持しつつ、灯りに近づいていく。

 すると・・・。

「ゴハハハハ!」

「!!」

 オーク達の笑い声が聞こえる。

 遠目から中を覗いてみると、奴らは数体で焚き火を囲って食事をしていた。

 愉快そうな雰囲気を見る限り酒盛りでもしてんだろう。

 馬鹿な奴等だ。

 見張りがやられてるとも知らずにな。

 そんな風に笑ってられるのも今のうちだ。

 とはいえ見たところ数は八体。

 しかも図体のデカい怪力のオークだ。

 手練の剣士武道家ならまだしも、斥候(スカウト)の俺一人が 正面から相手取るにはかなり無謀だ。

「・・・。」

 俺は踵を返して走り出す。

 別に逃げるわけじゃない。

 ()()()()()()からだ。

「・・・。」

 ある程度走ると止まる。

 そして懐から液体の入った小瓶を取り出し、キャップを空け、その中身を地面に垂れ流すように辺りにぶちまける。

 地面に液体が水たまりを作るとそこから離れて再び懐からあるものを取り出す。

 ダイナマイトだ。

 ここに来る途中拾っていた。

 おそらくは昔、炭鉱夫が使い忘れた物だろう。

 かなり年季ものだが中身は見た感じ使えそうだった。

 二本あるうちの一本をその場に置き、残る一本の筒を外して火薬を線を引くようにまきながら来た道戻る。

 火薬がちょうど無くなった頃にはさっき連中を覗いていた位置まで戻っていた。

 そこで俺は再び物陰に隠れながら松明に火をつけるのに使っていたマッチを擦って火を灯し、まいた 火薬に火をつける。

 すると火薬は火花を散らしながら導火線のように火を走らせる。

 それが見えなくなってしばらくすると、遠くの方で小さくバンッと何かが爆発するような音がする。

「!!?」

「ンゴァ!?」

 オークたちはそれに気づいて声を上げる。

「ノンドエモナアタホ!!」

「センネユウセヨコ!?」

 仲間と目配せしながら必死に何かを喋っている。

 恐らく会話の内容は『なんだ今の音は!!』、『侵入者か!?』 とでも言っているんだろう。

「ソゴシ!!」

「ダカドダカド!!」

「ブッカラセチヨル!!」

 程なくして五体ほどがドスドスと重々しい足音を立てながら爆発のあった所に走っていく。

 すかさずその後を追っていく、しばらく 追いかけると・・・。

「ンガォ!?」

 連中の一体が突然転ぶ。

 場所は先ほどの液体をぶちまけた場所だ。

 奴は液体に滑って転んだのだ。

 ()()だ。

 あの液体はよく()()

 そして先頭の一体が転ぶと・・・。

「ンボァ!?」

「テヤ、アモッ!?」

 そいつにつまずくように二体ほど巻き添えで転ぶ。

「アエ!!」

「ノンドカリ!?」

 さすがに残りの二体は気づいて足を止めるが・・・。



「お前らも転ぶんだよぉッ!!」



 俺は後ろから追い打ちをかけるように列の後ろにいたやつの背中を突き飛ばすように飛び蹴りを食らわせる。

「ゴアッ!!?」

 蹴られたオークは前のめりに耐性を崩し、前方に居た残りの一体を巻き込み、結果全員転ぶと液体の 水たまりをまるで泥遊びでもするかのようにぐちゃぐちゃにもがいていた。

「よぉ、アホ共。こんにちは。」

 軽口で俺はオーク達に挨拶をかわす。

 だが・・・。

「そして・・・。」

 松明に火をつける。



「さようなら。」



 そう言って連中がもがいている液体の中に松明を放り捨てるように投げ入れる。

「ゴゲアァァァ!!」

「ギアアァァァッ!!!」

 すると瞬く間に液体は炎を巻き上げオークたちを炎の海に閉じ込める。

「ゲギャアアアアアァァッ!!!」

 連中は汚い叫び声を上げながらもがき苦しみ、パニックになりながら転げ回るが組んず解れつの状態で絡まり合ってるため、互いが互いの炎を移してしまって炎が治まることはなく、炎は動かない焦げた肉塊になるまで連中を焼き尽くした。

『よく滑る』、『よく燃える』、ここまでヒントがあればもう分かるだろう。

 液体の正体は『油』だ。

 持ってきている理由は言わずもがな、こういう殺し方をするためだ。

 大勢の敵をまとめて相手にするのは面倒なので最近はこのやり方が常套句になってきている。

「不味そうな焼豚になったな。」

 すっかり死体になったオーク共に皮肉を吐いてナイフを取り出し、死体の前で腰を降ろす。

 討伐の証拠にギルドに持っていく部位を剥ぎ取るためだ。

 オークの部位は鼻だ。

「ったく、焼き殺すの楽だけど・・・『コレ』だけが面倒なんだよな・・・。」

 焼けると水分が抜けているせいか、皮膚が固まり、ナイフで鼻を剥ぎ取ろうにも刃が微妙に通りにくい。

 一匹から剥ぎ取るのに一分くらい掛かった。

「さぁてと、次。」

 最初のオークから鼻を剥ぎ取ると、次のオークに手を伸ばす。

 だが・・・。

「!」

 俺は一瞬手を止める。

「・・・。」

 少し静観するがすぐにまた手を伸ばす。

 するとその時だ!!



「フゴァッ!!」

「ッ!!」



オークが突然息を吹き替えして俺の手を掴みに掛かる。

だが俺はすぐに反応して立ち上がり様に地面を蹴って距離を取る。

「やっぱなッ!!」

 すぐに剣を抜いて投げる。

「ゴァッ!! カッ!!」

 剣はオークの喉に突き刺さり、オークは僅かなうめき声を上げて倒れる。

 不意討ちに気づいた理由は魔覚で感じ取れる魔力だ。

 魔力は精神に影響する。

 死んだばかりの死体にも魔力は残っているが、そういった魔力は花が枯れていくように徐々に減っていき、いずれは消えてしまう。

 だがこの不意討ちをかまそうとしていたオークからはその減っていく気配がなかった。

 昔教えてくれた人がいた知識だ。

 これを知っているのと知らないのでは今のように生存率が大きく違ってくる。

「さてと。」

 俺は鼻の剥ぎ取りを再開する。

 結局不意打ちをかまそうとしていたのはさっきの一体のみで残りは少し時間をかけながらも何の問題もなく剥ぎ取った。

「・・・。」

 俺は立ち上がりながら元来た道を向く。

 先ほどのオークは全員で八体、今殺したのは五体。

 つまり残党がいる。

「・・・。」

 俺は無言で歩いていく。

 おそらく奴らは警戒している。

 不意討ちも騙し討ちももはや不可能だろう。

 つまり今の状況はまさに・・・。



「最終決戦だ。」



 俺はオークたちの前に真正面から堂々と現れる。

「ネンギン!?」

 オーク達はギョッとする。

「トットヘタレネヨロリトナコ!?」

「サンノボコノカタゴオルコッ!!」

「エンテケド!! カンノヘヤラエヨツネアリトテゴヨロリルワキゴニィ!!」

 オークたちは慌てつつも奴らの言葉でこちらをがなり立てる。

 ものすごい剣幕で叫んでいる。

 威嚇してビビらせようと必死になっている姿が見て取れる。

 だが滑稽だ。

 滑稽だからそんな奴らにしてやれることはただ一つ。



「かかってこいよ。アホども。」



 腰から抜いた剣を右肩に置き、ハンドボウガンを取り付けた左手を仰向けにしながら中指と人差し指で手招きする。

「・・・!」

 言葉が分からないオークたちですら理解できる。

 絵にかいたような『挑発』だ。

 一瞬ぽかんとしたオークたちだが・・・。

「・・・フグウウウゥゥ!!」

すぐにその表情はどいつも眉間にしわを寄せ、こめかみに血管を浮き上がらせ、(まぶた)を全開に広げた目で俺をまっすぐに睨み・・・。

「ノミヨゴッチィッ!!」

「カラスッ!! ブッカラセチヨルッ!!」

「ブガアアァァァッ!!」

 怒りの怒号を上げながら武器を持って突っ込んでくる。

「元気がいいなオイ!」

 俺も奴らの懐に飛び込む勢いで走って行く。

「ゴアァッ!!」

 両手持ちの大斧を持ったオークが振りかぶって振り下ろす。

 だが大振り過ぎて当たる訳もなく、それを横に跳んで回避する。

 空を切った斧はそのまま地面に激突し、派手に大量の石を巻き上げる。

「ッ!」

 すぐに視線を別のオークに向ける。

 布でくるんだ石を振り回すオークがいる。

 投石(スリンガー)持ちだ。

 そいつは遠心力で勢いをつけた石を思いっきり投げつけるように飛ばしてきた。

 物凄い速さだ。

 しかも俺が先の斧持ちの攻撃を躱した直後の絶妙なタイミングだ。

 だが俺は着地と同時にわざと態勢を崩して転びながら躱す。

 同時に俺は左腕に付けたハンドボウガンの底に取り付けられた引き金に中指を掛けて引き、矢を飛ばす。

「グゥ!!?」

 矢は投石(スリンガー)持ちにヒットするが、小さい矢だ。

 大したダメージにもならない。

「!!」

 すぐに別のオークに視線を移す。

 最後の一体は棍棒持ちだ。

 寝転がった俺を見下ろしながらモグラでも叩くかのようにその棍棒を振り下ろす。

「危ねッ!!」

 剣で往なすように弾きながら棍棒の軌道を逸らして横に転がったあと、後ろに後転しながら剣を持った手で地面を叩いて身体を浮き上がらせて立ち上がって態勢を立て直す。

「もういっちょ!!」

 俺は奴らを中心に円を描くように走る。

「セヨロクシィ!!」

 近接の斧、棍棒持ちが再び襲い掛かる。

 走る軌道に合わせた斧の縦振りをわざと止まって躱し、足を掬う棍棒の横降りを跳んで躱す。

 続けざまに俺は投石(スリンガー)の石が飛んで来るがそれを宙で身体を反らして回避し、再び斧持ちが横振りに振って来る斧を剣で捌く。

 防戦一方だ。

「グフゥ・・・!」

 それが分かっているせいか、オークも段々と勝利が近づく状況に笑みが浮かんで来る。

「アロォ! ダウセトダウセトォ!!」

 勢いに乗って棍棒持ちが粋がりながら振りかぶり、俺に迫ったその時だ。

「アエ!! ダウセト!!」

「!!?」

 突然ズシンと思い音と共に聞こえるオークの声に棍棒持ちは手を止めて振り返る。

「ウゴ・・・ウグボォァ・・・!」

 投石(スリンガー)持ちが膝を着いたかと思うとすぐに倒れ、喉を押さえながら青ざめた顔で呻き声を上げる。

 矢には毒が塗られていた。

 沼地で取れる花、『ノロイガサ』と呼ばれる花から取れる強力な毒だ。

 矢じりに付けた程度なので回りは遅いが回れば内臓機能が衰弱し、呼吸困難、腹痛、吐き気で狂いながら死んでいくえげつない毒だ。

 オークですら喰らえばすぐに解毒しなければ命に係わる。

「ダクコ!!」

「チミィ、ノミトモニヲ・・・ッ!?」

 棍棒持ちが怒りに震えながら俺の方を向くと既にそこに俺は居なかった。

 奴の動く視線に合わせて死角を移動し、背中に回っていた。

「オゴァ!!?」

 背後から容赦なく逆手に持ち替えた剣で心臓を貫くと棍棒持ちは断末魔の声を上げる。

「・・・。」

 剣を引き抜くと棍棒持ちは力なく前のめりに地面に倒れて動かなくなる。

「あと一匹。」

 先程のオークの心臓を貫いた、血みどろの剣の切っ先を向けながら斧持ちに冷めた視線を向ける。

「ウグ・・・・ウゥ・・・!」

 斧持ちはようやく理解する。

 目の前に立っている敵が自分よりはるかに格上だってことを。

 その証拠に斧を持つ手が震えている。

 歪ませた眉間から汗が流れている。

 死を前に恐怖で縛られている状態だ。

 だがそれでも・・・。

「ブガアアァッ!!!」

 自身を奮い立たせるように叫びながら破れかぶれに斧を振りかぶって突撃する。

 勇敢な奴だ。

 それが『無謀』って事を除いてはな。

「オオオオォォ!!!」

 オークが斧を振り下ろす。

 気迫のある真っ直ぐな攻撃だ。

 だが愚かでもある。

 それゆえに躱すのは容易い。

 だが奴も馬鹿ではなかった。

「ウガァッ!!」

「ッ!!」

 躱した俺に向かって右手を突き出して掴みかかってきた。

 だが・・・。

(あめ)ぇよッ!!」

 俺は剣で奴の手首を斬りつける。

「ガアァ!!」

 オークは悲鳴を上げる。

 短刀(ショートソード)なので腕を切断とまではいかなかったが、手首の血管を切り裂いたため、血が大量に噴き出す。

 見て分かるように激痛だろう。

 だがそんなオークに同情なんてしてやる余地もなく、怯んだオークの隙を突いて奴の足に剣を突き刺す。

「ウガアアァッ!! ガァ!!」

 オークは立っていられず足を押さえて地面に寝ころんで更に悲鳴を上げる。

「苦しいか?」

 俺は足でオークを動かして仰向けにさせながら足で押さえ込み、逆手に持ったまま切っ先を真下のオークの身体に向けたまま掲げていた。

「今楽にしてやる。」

 そのまま無慈悲に奴の喉元に剣を突き刺した。

「・・・ッ!!!!」

 喉を貫かれたオークは血を噴出して大きく口を開けたまま、声も出せずに震えたあと、最後の命を燃やし尽くしたかのように脱力して絶命した。

「・・・。」

 辺りを見渡す。

 奴らが宴会を開いた跡だらけで食べ物が散らばっていた。

 しかも・・・。

「チッ・・・。」

 目に留まった物に嫌悪感が湧く。

 数人の人間の死体だ。

 しかも女の死体で、裸のまま腸が引きずり出されているものや、手足が引きちぎられていたり、酷い物は頭の無い物まであった。

 恐らくは繁殖の為に使()()()あと、飽きるか使えなくなった所で殺して食料にしていたんだろう。

「?」

 ずりずりと何かを引き摺るような音が聞こえて視線を音の方へ向ける。

 オークだ。

 先程矢を食らわせた投石(スリンガー)持ちだ。

 恐らくは最後の力を振り絞って逃げようとしているんだろう。

 だが無駄な事だ。

 毒は既に奴の全身に回っている。

 あと数分としないうちに奴の命は終わりを告げるだろう。

「・・・。」

 俺はゆっくりと歩く。

 ゆっくりだが這いずっているオークにすぐ追いつき、奴の背中を踏みつけて逃走を阻止する。

「グゥ・・・!」

 オークはうつ伏せのまま毒で動けないながら僅かに首を動かして視線だけ俺へ向ける。

「・・・。」

 俺はそのまま先程のオークのように蹴ってオークを仰向けに寝かせる。

「グヒィ!?」

 何をされるか理解したようで、オークのただでさえ毒で青ざめている顔が更に青ざめる。

「ドズギヂィ・・・! ガラゾノエヂ・・・!」

 涙目になって何かを言っている。

 何を言っているか分からないが、恐らくは命乞いだろう。

 だが俺は・・・。

「はは・・・。」

 思わず笑い声が漏れる。

「グヘゥッ!!!」

 俺は無慈悲に奴の右足へ剣を突き刺す。

「ギギャアアァァッ!!」

「ははは・・・何? 命乞い?」

「ゲギャァァァッ!!!」

 悲鳴を上げるオークを俺は乾いた笑いを零しながら睨みつけ、更に剣を左腕に突き刺す。

「俺は別に見ちゃいないけどさ、お前らが散々遊んだ女達も多分同じことしたよなぁ?」

「ヒギャアアァァッ!!!」

 捲し立てながら横腹を突き刺す。

「で? お前らそいつらに慈悲でもかけてあげたの?」

「ギャアアアァッ!!」

 今度は右腕に突き刺す。

「答えは当然『ノー』だよなぁ!? だって此処に物的証拠がキッチリ残ってんだからなぁ!!」

 言葉の分からないオークでも分かる筈だ。

 自分が今まで攫ってきた人間の女たちを容赦なく殺した。

 そんな女達と同じ人間に自分たちのやっていることを棚に上げて助けてもらおうなんて虫が良い話だ。

 許せるわけがない。

「ヒギ!? ギギャアアアアアアァ!!!!」

 今度は腹部に剣を突き刺す。

 オークの悲鳴は今までで一番デカかった。

「そんなお前がそこの女たちと同じ『命乞い』するってことはさぁ・・・。」

 散々突き刺して血みどろになった剣の切っ先をオークに向ける。



「同じ目に合いたいってことだよな♪」



 俺は満面の笑みをオークに向ける。

「ウ、ウギィ・・・!」

 だがオークにも分かっている。

 俺の笑みが『悪魔の笑み』だって事を・・・。



「ゲギャアアアアアァァ!!! アアアァ!!! グギアアアアアアァァァァ!!!!!」



 オークの悲鳴が辺りに響いた。

 そして悲鳴が鳴りやんだ頃にはオークは他のどんなオークよりも惨い死体になっていた。

「・・・チッ。」

 こんな溜まり場が他にあるとも考えにくい。

 恐らくここが奴らの拠点なんだろう。

 そこで捕まえて来た捕虜が死体しかないって事はダッカスさんの娘はもう・・・。

「・・・!」

 僅かに何かが聞こえた。

 声を殺してそれを聞くと・・・。

(スン・・・クスン・・・!)

 何かすすり泣くような声だ。

「・・・。」

 目を閉じて意識を魔覚に集中する。

 目に見えなくとも数メートルの距離なら魔力を持つ物の位置が分かる。

「!!」

 いた!

 微弱だが魔力を感じる、近くの岩壁の中だ!

 恐らく岩壁の向こうに空洞があって、そこに閉じ込められているんだろう。

 何処かに入り口があるはずだ。

 すぐに松明片手に壁を触りながら壁におかしなところがないか探る。

「! おいおいおいおい。」

 背の高い大岩の背後に僅かな隙間があった。

 恐らくオーク達はこの岩をドア代わりにして出入りしていたんだろう。

「ぐっ、う、おおぉ・・・!」

 馬鹿力なオーク達だけあって結構な重量の岩を使っていたみたいだ。

 動かせないことはないがかなり踏ん張らないと動かず、ずらすのにかなり時間が掛かったがなんとか入り込めるまで動かせた。

「ヒィッ!!」

「うおっ!?」

 入り込むなり急に中にいた何かが声を上げたので若干ビビる。

 声のする方に松明を翳すと・・・。

「・・・おいおい。」

 そこには吊るされた籠状の檻に入れられた小さな少女がいた。

 あいつら・・・こんな女の子まで攫ってきやがったのか。

「い、いやぁ・・・! ひどいことしないでぇ・・・たべないでぇ・・・!」

 どうやら松明の灯りを持って入ってきたのがオークだと思ったんだろう。

 こっちも見ずに檻の隅で縮こまって怯えている。

「大丈夫だ落ち着け!! オークじゃねぇ! 人間だ!!」

「え・・・?」

 俺の声に気づいて女の子は視線だけをこちらへ向けて来る。

「オークの奴らは始末した! すぐ出してやるから待ってろ!」

「ほ、ホント!?」

 女の子は張り詰めた顔でこちらに身を乗り出してきた。

「う~ん・・・。」

 檻は南京錠が付けられて開けられない。

 しかし竹で作られている粗末な作りだ。

 であれば方法はただ一つ。

「ちょっと待ってな!」

 すぐに小部屋から出て先程戦ったオークのたまり場に戻る。

「・・・よし。」

 オークの死体のうちの一体が持っていた斧を拾う。

「待たせたな!」

「ヒィ!!?」

 斧を持ってくると女の子は再び怯えた声を上げる。

 まぁ無理もない。

 あのオークが両手で持つような斧だ。

 かなりデカい。

「なにするの!?」

 幼いせいか、俺が斧で何をするのか分かっていないようで女の子は涙目で震える。

 俺が処刑でもしに来たように見えたのか?

「大丈夫だ! 檻をぶっ壊すだけ! 危ないから隅に避けてな!」

「ヒィィ!」

 説明よりも本能で理解したようで、女の子は怯えながら檻の籠の隅で縮こまる。

「そぉらよっとぉッ!!」

 重量感のある斧を両手で持って振りかぶり、檻に向かって思いっきり叩きつける。

 檻はガラガラと音を立てて骨組みの竹を散らすが、完全には壊れていない。

「うぅ・・・!」

 女の子は声を抑えて恐怖に耐えている。

 そりゃ確かに怖いよな。

 檻に阻まれてるとは言え、目の前で面と向かって斧を振り下ろされてるんだもんな。

 けど耐えてもらうしかねぇ!!

「もういっちょぉ!!」

 檻に食い込んだ斧の刃先を引き抜いて振り上げると、再び斧を檻に叩きつける。

 すると・・・。

「わあぁッ!!」

 檻が崩れ、支えを失って女の子はそのまま落下する。

「あうっ!! うあぁッ!!」

 地面に激突するように尻餅を着き、更にはバラバラに砕けた檻の竹片が少女の頭上から降り注ぐ。

 鉄や分厚い木片が降って来るわけでもないから子供にも命に別状はないだろうが、かなり痛そうだ。

「うぅ・・・うぅぅ・・・!」

 一通り状況が治まると、女の子は目に大粒の涙を浮かべ・・・。

「うわああああぁぁぁッ!!」

 案の定泣き出した。

「ああ悪かったな!! 痛かったよなぁ!! ごめんなぁ、よしよし。」

 すぐに駆け寄って抱きしめながら頭を撫でて必死こいてあやす。

「うぅ・・・ごわがっだぁ・・・! ごわがっだよぉ・・・!」

「ごめんなぁ! ああするしか出す方法が

「ぢがうのぉ・・・!」

「え?」

 なんだ?

 俺の斧が怖かったんじゃないのか?

「うう・・・ぐすっ・・・!」

 女の子は両手で涙を拭い、鼻をすすって気持ちを落ち着かせる。

「・・・大丈夫か?」

「うん。」

 身体を放すが、頭を撫でる手はそのままで女の子の機嫌を伺う。

「ここにつれてこられたときね? はだかのおんなのひとがね? ぶたのおばけにひどいことされてるのみたの。」

 女の子は涙ながらに覚束ない言葉で語り出す。

「酷いこと?」

「おんなのひとがぶたのおばけのおなかのうえにのせられてね? ぴょんぴょんはねながらなんどもこえだしてないてたの。なにしてるかよくわかんなかったけどくるしそうだった。」

「あ、ああ・・・。」

 おいオーク共ォッ!!

 子供になんてもの見せやがるんだッ!!

「けどすぐにわたしね? このへやにはこばれてね? おりにいれられてね? ぶたのおばけがへやにもどったらね? しばらくしたらおんなのひとがぎゃああぁってこえだしてたのきこえたの。」

「・・・ああ。」

 多分それって・・・。

「きっとおんなのひと、たべられたんだっておもった。だからきっとつぎはわたしだっておもって・・・それで・・・!」

 話すと思い出してつらくなったのか、女の子は再び目に涙を浮かべる。

「ごわがっだぁ・・・ごわがっだのぉ・・・うあぁぁ!」

 女の子はすぐに俺の胸へ倒れ込んで顔を埋め、再び泣き始めた。

「・・・。」

 俺は黙って女の子を抱きしめて頭を撫でた。



---しばらくして女の子が泣き止んだあと、女の子を背負いながら坑道を歩いていた。


「・・・はぁ。」

 多分、ダッカスさんの娘はあの死体のうちの誰かだろうな・・・。

 助けてやりたかったけど、こればかりは・・・。

「ダッカスさんになんて言おう・・・。」

 つい愚痴が零れる。



「おとうさんのことしってるの?」



「・・・え?」

 今なんて?

「えぇと、君、ダッカスさんの娘?」

「うん、おとうさん!」

「マジかよ・・・!」

 ダッカスさん白髪生えてる爺さん一歩手前のおっさんだったぞ?

 それの娘にしちゃこの子、確実に十歳行ってないような子供だぞ?

「晩婚だったのか・・・!」

「ばんこん?」

「いや、こっちの話・・・それよりよかったな、父ちゃん心配してたぞ?」

「えへへ♪」

 女の子は甘えるように俺の背中に横顔を押し付ける。

「なんだ、どうした?」

「ありがとう、おにいちゃん♪」

「・・・。」

 いや、うん。

 嬉しいよ?

 こんな小さな子供相手でも女の子にこうやって感謝されるのは。

 でもなぁ・・・。



『お兄ちゃん♪』



「すまんが、『お兄ちゃん』はちょっと・・・。」

「なんで?」

「いや、その・・・。」

 うん、この子は悪くない。

 ただ俺が『お兄ちゃん』って呼ばれる事に超個人的な理由があって抵抗があるだけだ。

 しつこいようだがこの子は全然悪くない、全くの無実だ。

「じゃあおじちゃん?」

「いや違う! そうじゃない!」

 俺はまだ二十一だ。

 流石にそれは遺憾だ!

 断固抗議する!!

「も~! なんてよべばいいの!」

 女の子は可愛くぷんぷん怒る。

 そりゃそうだ。

 傍から見たってどう考えてもめんどくさいのは俺の方だ。

「・・・ウルド。」

 仕方なしに自分の名前を女の子に教える。

「・・・。」

 女の子はきょとんとするがすぐに。

「ありがとう! ウルド!」

「・・・はぁ、どういたしまして。」

 ため息混じりに仕方なく礼に応える。

 なんで見ず知らずの女の子に名前教えてんだ俺?

~リメイク前との変更点~


・オークの喋っている言葉を「~~~!」とかテキトーな記号にしていたのを特殊な言語に変更

オーク語の訳し方

・五十音順の各行はそのまま

・行の1~5の段の順番を反転させて入れ替える(や行も含む、わ行は除きそのまま)

(例)あ→オ け→キ

・や行の小文字は訳し方の都合上大文字になっているので気合で解釈して(お願い)

(訳し例)「セヤトカンナアニイソンッチエエヤニ」→「ショタコンのおねえさんっていいよね」


・オークの被害者が既に数人いる

魔物がいかに恐ろしく、人間にとって脅威かという成分がたりなかったため

・ウルド君のドSがこの時点で解禁

上記の魔物の行いをウルド君が許せるわけもなく

・ルッカパート追加

前回の『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。』の延長

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― 新着の感想 ―
[一言] オリジナル言語は私もやりましたよ。 わざわざ単語表作ってやりました。 言葉ってのは文化が出るので、単語の設定はその辺を意識した記憶があります。 (例えば、狩る、殺す、倒す、死なせる。この言葉…
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