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嘘つき英雄と嘘の妹 ~リメイク版~  作者: 野良犬タロ
プロテア編
41/63

#40 神子


~ウルド プロテア王宮:バルコニー~

 

「フゥ・・・フゥ・・・!」

 息を切らしながら行き場のない怒りの視線を大理石の床に映った自分の顔に向ける。

 吐き出される息は怒りで体温が上がったせいか、生暖かかく、炎を吐いているような気分だった。

「・・・。」

 そんな俺をグランツ王は黙って見ていた。

「そんなの分かってたら・・・分かってたらッ!!」

 俺は視線を上げる。



「父さんと母さんは国から逃げて死ななかった!!」



「・・・だからこそだ。」

「ッ!!」

 怒り狂う俺を王様は更に煽る!

「国を背負った者として分かる。国とは土地と建造物だけでは成り立たない。結局は『人』が居ないとそれは『国』とは呼べない。知っていたとしても、王も秘密を公表しないだろう。」

「なんだよ、それじゃあ・・・!」

「ああ、イングリット国の王もこれを知っていた可能性もある。まぁ、当の本人がこの世に居ないとあれば、確かめようもないがな。」

「くそッ・・・!」

「分かっただろう? 聖堂教会は一見聖女を戦地に送り、世界の為に尽力したような姿をしているが、その実、『魔王』という存在を知っていながら秘匿していた卑劣な集団でもある。現に聖女が魔王を倒した手柄を盾に世界に発言力を高め、気に入らない者を排除している傾向もある。」

「ふざけやがって・・・! セレスはそんな奴らの為に・・・!」

 余計に怒りがこみ上げて来る。

「私も愚かだったよ。」

 王様は視線を落とす。

「今から七年前、友がこの事実を教えてくれなかったら何も知らないまま、聖堂教会を妄信していたところだ。」

「・・・。」

 俺は黙って視線を上げて王様を見る。

 先程煽られたせいもあって怒りの炎は胸の奥で僅かに燃え上がっている。



「私の国も利用されたような物なんだ。」



「え・・・?」

 唐突な言葉に頭が真っ白になる。

「王家に伝わる『月の結界』、魔を退ける事の出来るこの結界は霧魔(ミストエビル)すら退けた。その意味が分かるか?」

「まさか・・・!」

「そうだ。」

 グランツ王は薄く目を見開き・・・!



「この王都は万が一、霧魔(ミストエビル)が世界に蔓延した時の『避難所』・・・我が王家も、聖女と同じ、魔王が復活した時の備えだったんだよ。」



「・・・!」

「ッ・・・。」

 唖然とする俺を尻目に王様は視線をおとして歯軋りをする。

「今のお前と同じだ、私も良いように利用されて腹立たしいんだ・・・!」

「王様・・・。」

 先程の怒りがすっかり冷めて哀れな気持ちになってくる。

 この人も聖堂教会の被害者だ。

「・・・。」

「・・・。」

 再び何とも言えない、いたたまれない沈黙が始まる。

「一旦この話はやめにしよう。」

「そう・・・ですね。」

 王様の言うことはごもっともだ。

 これ以上続けてもお互い良い事なさそうだしな。

「そういえば報告で聞いた。ここ数年、カザに居たそうだな。」

「はい。」

「・・・。」

「??」

 王様は何故か黙ったまま優しい笑みを向けてくる。

「余程そこでは人の出会いに恵まれたんだな。」

「・・・!」

 何故か見透かされたような事を言われる、まぁ、言われてみれば・・・。

「ハ、ハイ。」

 まぁ、バカな連中やめんどくさい受付やら、トラブルメーカーも居たけど、いざ離れてみると物足りなさを感じたりするのは否定できない。

 何より、最後まで俺に親身に面倒見てくれたサンドラさん、俺の正体を知っても俺を『ウルド』として受け入れてくれた町のみんな。

 あんなものを見せられたら俺にとってもうあの街は故郷とも呼べる場所だ。

「でも、どうして・・・!」

「お前の顔を見れば分かる。数年前の顔とは大違いだからな。」

「!!」



『ホントあの時さ、焦ったよ? 不死族(アンデッド)でも来たのかって思ったくらい死人みたいな顔してたんだよ? 気づいてなかっただろうけどさ!』



「・・・。」

 またこの話か・・・。

 レレと言い、王様と言い、俺そんなに酷い顔だったのか?

 全然身に覚えがねぇんだけど。



「なら、お前の故郷は守ってやらんとな。」



「・・・え?」

 王様??

「はは、よく分かってない顔だな!」

「す、すみません。」

 つい謝る。

 いや、仕方無いよな?

 訳分かんねぇし・・・。

「考えても見ろ。敵はお前が今までカザに隠れ潜んで居たことを既に知っているはずだ。」

「あ・・・!」

 そうだ!

 そりゃそうだ!!

「お前が大事に思っている町の者達を連中がそのままにしておくわけも無いだろう?」

「う・・・!」

『カザの人達を巻き込みたくないから』って理由で旅に出たけど、こうやって指摘されると考えが安易過ぎた・・・!

 俺が居なくなったら寧ろ今のカザは無防備・・・って言い方はワット達に失礼かな?

 いや、でもあいつら信用してない訳じゃないが、流石に魔王関連の連中をあいつらに相手させるのは荷が重すぎる・・・!

 だったら・・・!



「だったら()()()()()・・・と言う手もあるだろうが、状況は変わらんぞ?」

「ッ!!?」



 また王様に考えを見透かされた!!

「連中にとってカザはお前を脅す『人質の宝庫』だ。お前が戻って防衛しようが、カザの者達を攫おうと狙う動きが変わることは無い。」

「・・・。」

 ぐうの音も出ない。

「確かにお前が戻れば撃退をし続けることも出来ないことは無いかもしれん、だがお前は旅に出て奴らを倒さねばいつまで経っても根源を絶つことは出来ずジリ貧だ。」

「・・・。」

 確かに言ってる事はごもっともだ・・・。

 けど・・・!

「だったら・・・だったらどうすれば・・・!」



「カザに騎士団を一団派遣してやる。」



「・・・え?」

 いや、え?

 聞き間違い??

「えっと・・・?」

「聞こえなかったか?『カザに騎士団を派遣してやる』と言ったんだ。」

「え、えぇええ!!!??」

 いや、待って!!?

 嘘でしょ!!?

「不服か?」

「い、いやいやいやいや!!! 寧ろありがたい話なんですけど・・・!」

 平然と聞いてくる王様に対し、自分の目の前に翳した直立横向きの手を必死に振りながら一緒に首も横に振って誤解を解く!

「だったらどうした?」

「いや・・・いいんですか!!?」

「当たり前だ、私をなんだと思ってる? この国の王だぞ?」

「・・・!」

 いやマジかよ!

 こんな改まっても無い場の口約束で兵隊を動かすなんて本来だったらとんでもない話だ!!

 職権乱用もいい所だろ!!

 いくら国王って立場でも俺だったら絶対躊躇うよ!?

 それをなんの躊躇いもなしにオーケー出しちゃうとか王様どんだけ肝っ玉座ってんだよ!!

「あ・・・でも・・・。」

 待て?

 待て待て??

「どうした?」

「いや、その・・・騎士って言ったらその人達も貴族とかの人達ですよね・・・?」

「ふむ。」

「言っちゃ悪いですけどカザって流れ者だらけの町ですし、庶民も庶民の連中ですし・・・。」

 言いにくい事だが、やっぱり言っとかないといけない。

 貴族って言ったら平民を見下してるのが大半だろうし、そう言うのが突然押しかけようもんなら反りも会わないだろう。

 そう言うのにのさばられたらきっとカザの人達も肩身が狭い思いするかもしれないし・・・!

「なんだ、そう言う事か! 大丈夫だ、安心しろ!」

「・・・?」

「騎士団長の中には平民から実力で上がってきた者もいる。そう言う事が心配なら、その辺りの団長が指揮する騎士団に任せよう!」

「・・・!」

 マジかよ・・・!

「い、いいんですか?」

「任せろ! ちゃんとした奴を送ってやる!」

「・・・あ、ありがとうございます!」

 王様めっちゃ良い人じゃん!!

 正直無礼も承知で話した事なのにこんな快く聞いてくれると思ってなかった・・・!

 ・・・いや、って言うか。

「あの・・・。」

「なんだ?」

「いや、その・・・。」

「・・・言ってみろ。」

 言葉が詰まる俺に、王様は優しく微笑みながら聞いてくる。

 なんか『聞いて欲しい』ってフリを図らずもしてしまったが、やってしまったものは仕方無い。

 聞くしかないな。



「どうして俺に、ここまでしてくれるんですか?」



「・・・何故そう思う?」

 王様は途端に表情を消して俺に聞き返す。

 突拍子もない言葉だったんだろう。

 だが気になって仕方無かった。

 だって・・・。



『言ってくれ。お前は今、何を望む?』



「俺が騎士団の話を断った時も、わざわざ玉座から降りてまで俺の望みを聞きに来てくれた。なんか・・・その・・・。」

 言葉が詰まる。

 いや、言わないとダメだ!

「あの時はただ、俺が魔王を倒したからって理由だけだと思ってたんです。けど、今のカザに騎士団を送ってくれる話を聞くと・・・それだけじゃない気がして・・・。」

 変な勘繰りかもしれない。

 けど気になって仕方無かった。

 一言でシンプルに言い表すなら、()()()()()()()気がするからだ。

「『お前を気に入ったから』・・・と言う理由じゃダメか?」

「・・・。」

 王様は微笑みかけるが、なんか違う気がする。

「俺、王様には色々失礼な態度取ってましたし、気に入られるなんてことは・・・。」

「自覚はあったんだな。」

「うっ・・・!」

 改めて自分がやべぇ事してる事実を思い知る。

 今だってせっかくの好意で色々面倒見て貰っておいて変な勘ぐりするとか調子乗りすぎだろ俺ッ!!

 ヤバイッ!!

 考えて見たらヤバイッ!!

 やっぱ処刑?

 処刑か!!?

「・・・。」

「・・・?」

 俺の様子を察してか、王様は何故か呆れたように笑う。

 いや、何その微妙なリアクション!!

 怒ってんの!?

 怒ってないの!!?

 どっち!!?



「ほっとけなかったからだよ。」



「・・・え?」

 何?

 どういうこと???

「謁見の時、お前の眼を見た時にな。」

「眼?」

 眼が・・・どういうことだ?

「あの時のお前と同じ眼をしていた人間を一人知っている。」

「あの時の俺・・・?」

 謁見の時の俺は・・・。

「・・・。」

 思い出したくもない事を思い出した。

 あの時はとにかく頭の中が真っ暗で、何も考えたくない状態だった。



「少なくとも私の知っている人間のあの眼は、『絶望的な地獄の中で更に絶望を味わった者』の眼だった。」



「・・・。」

 言い得て妙だった。

 多分あの時の俺もそうだった。

 ただでさえ父さんと母さんを奪ったクソ魔王に対する復讐の為に何年もの年月を捧げたのに、いざ復讐を果たせば、親と同じくらい大事だった家族同然に一緒に過ごした仲間を失った。

 まさに地獄の底で更に地獄へ叩き落されたかのような状態だった。

「お節介なのは百も承知だ。だがあの眼をした者を放って置くのは私が私自身を許せない・・・身勝手な理由だろう?」

「いや、そ、そんなこと無いです!」

 無論本心だ!

「はは、そうか。」

 王様は愉快そうに笑う。

「もしかして騎士団に誘ったのも・・・。」

「ああ、居場所でも与えて少しでも気が晴れればと思ってな。」

「すみません、そんな配慮も知らずに・・・。」

「いや、寧ろ断られて良かったよ。今のお前を見ているとな。」

「王様・・・!」

「安心しろ、もうこの話は持ちかけない。」

「はい、ありがとうございます!」

 精一杯お礼を言うと王様は優しく微笑みかける。

 だがすぐに顔を伏せ・・・。



「・・・墓参りには行ったのか?」



「!」

 王様の言葉にすぐハッとするが、すぐに眼を伏せ・・・。

「・・・一回だけ。」

「この数年の間にか?」

「すみません・・・折角墓を立てて貰ったのに。」

「全くだ、町の名工に頼んで良い物をつくらせたのにな!」

「・・・すみません。」

「ははは!」

 意地悪に俺の非を責めるが、王様は楽しそうに笑っている辺り、本気で怒ってはいないみたいだ。

「まあ、カザに移り住めばこっちに来るのも一苦労だろうからな。」

「ええ、まぁ・・・。」

 本当は()()()()()()()んだけど・・・まぁいいか。

 それなりに理解があるみたいだし、やっぱりこの人、良い人だ。

 頼りになるし!

「はは、やはりこうして話してみるとお前と話すのは楽しいな! やはり謁見の間で話さなくてよかったよ!」

「はぁ・・・。」

 楽しそうに笑う王様に苦笑いを浮かべて相槌を打つ。

 いやいや、俺ただ相槌打ってただけですけど?

「せっかくだから色々話そう! ほら、こっちにこい!」

「え・・・!」

 王様はベンチを座りながら横に移動してズレて、一人分のスペースを開けて俺を誘う。

「い、いやいや! 王様の隣だなんてそんな・・・!」

「今はそんな堅苦しい間柄なんて抜きにしろ! 今の私は・・・そうだなぁ。」

 王様は口元に軽い拳を当てて天を仰ぐと・・・。



「うん、そうだな! お前とは『兄仲間』って事でな!」



「え・・・?」

「お前にもいるだろう? 妹が。」

「え、あ、まぁ・・・。」

 いやいやそれあなたが用意した偽妹でしょうが・・・!

「お前の前でのルタ(あいつ)はどんな感じだ?」

「あ、その・・・。」

 うん、第一印象から最悪だった!!

 何てことないカザでの日常を謳歌してたのに家へ帰ってみればいきなり押し掛けて来てて勝手に飯用意してたし!!

 当然のことながら不審者としてがなり立てりゃエグい脅迫で無理矢理兄妹の関係結ばされるし!!

 仕事帰りに疲れた状態で帰ってきた途端、しょうもないイタズラで風呂覗かせたりとか散々だ!!

「・・・色々思う所はあるようだな。」

「え!?」

「お前、結構顔に出るタイプみたいだぞ。」

「あ・・・!」

 やべぇ!!

 あのイカレ妹への不満で頭がいっぱいになってたせいで自分の表情に全然意識が行ってなかった!!

「愚痴なら聞くぞ? ほら、こっちにこい!」

 王様はポンポンとベンチの隣のスペースを右手で軽く叩く。

「は、はい・・・。」

 流され気味で断れず、結局観念して王様の隣に座る。

「さぁ、話してみろ。」

「はい、それじゃあ―――


―――それから色々話した。

 カザで狂戦士(バーサーカー)と戦ったあとに正体を隠すための偽装工作で療養中につまらんひと悶着があったこと。

 それからだったか、俺を勝手に『鬼畜なドS』とか変な設定着けて自分がドMになり切って色々気持ち悪いウザ絡みしてきて不快にさせてきた事。

 途中からもうほぼ王様にあいつの悪行をチクるような形で不満を話しまくった。



「ははは、仲良くやってるみたいだな!」

「いやいや! なんでそうなるんですか!!? あいつホント頭おかしいんですよ!!?」

「まぁ確かに、ちょっと変わってるのは私も知ってる。」

「でしょ!!?」



 楽しそうに笑いながらなんかズレた事を言って来る王様に思わずツッコむと、王様は相槌を打ってくれる。

 さっきまでの緊張しきってた状況が嘘みたいにお互い気さくに話をしていた。

「あ、そう言えば!」

「なんだ?」

「さっき『兄仲間』って言ってましたけど、王様にも妹がいるんですか?」



「おお! よくぞ聞いてくれた!!」

 王様はパァっと明るい笑顔を浮かべる。



「『カトレア』と言ってな! 結構年が離れているんだが、しっかりしててな!」

「年が離れてるんです?」

「ああ、私は二十六なんだが、あっちはまだ十五だ、結構離れてるだろ?」

「確かに、けどしっかりしてるんですね。」

「ああ! まだ若いんだから無理するなと言ってはいたんだが、私の負担を少しでも減らしたいと頑張って仕事を覚えたら、いつの間にか執務の仕事も覚えて、今では私も頭が上がらない所があってな!」

「すごいですね! そんな若さで国に関わる仕事をこなせるなんて! それにマジメそうですし、ルタ(あいつ)とは大違い!」

「ああ! それにそういうマジメな所が逆に可愛いんだ! からかい甲斐があるし、年相応、すぐムキになって子供っぽい所とかな!」

「カワイイんですね。」

「ああ、ホントに可愛いんだ!! 仕事中でも息抜きに会いに行ったら会った途端に口元緩んで嬉しい癖に照れ隠しに怒ってるのも可愛いし、あんな年なのに時々悪い夢見たら『一緒に寝てください』って言って来る甘えん坊な所もあるんだ!!」

「は、はぁ・・・。」

 あ、アレ・・・?



「さらには仕事で私がツラい時を察して素直じゃない態度を取りながら励ましに来る健気なところもあって

「はは・・・。」

 もしかしてさっきの質問・・・墓穴だった?



――ー二時間後。

 

「・・・あ、お兄ちゃーん!」

 王宮の入り口、さっきクラウスさんが降りてきていた階段を降りる途中、階段の下でルタが気づいて俺に向かって無邪気に手を振って来た。

 だが・・・。

「・・・お兄、ちゃん???」

 ルタの無邪気な笑みはすぐに困惑の混じった苦笑いに変わる。

 何故なら・・・。



「ぉ・・・うぉ・・・ぉ、ぉ・・・。」

 白目で不死族(アンデッド)のような呻き声を上げていた俺が此処に居たからだ。



「だ、大丈夫?」

 階段を降りた俺に駆け寄りながらルタは心配そうに声を掛け・・・。

「う・・・ぉぉ・・・!」

 相手が頭のおかしい変態女だろうが目の前に見知った相手が来てくれた安心感で脱力すると、ルタが上手い具合に身体を支えてくれた。

「何があったの??」

 当然ながらルタはツッコんで聞いてきた。



「王様・・・めっちゃ・・・シスコンだった・・・!」



「ああ、ね。ああ・・・。」

 ルタは察したように苦笑いの混じった相槌を打ちながら階段の上を見ていた。

 恐らくはここまで案内してくれたクラウスさんが階段の上にいるんだろう。

 で、呆れたように溜め息をついてやれやれと頭を抱えている姿が容易に想像出来た。

 どうやら被害者は俺ただ一人じゃないらしい。




~カトレア 王宮:地下~

 


「闇を照らす御君よ 夜闇の月の写し身たる御君よ 我が傍らに在る御君よ 汝が見下ろし 見上げし土を照らし 月の恵みを 守護の恩恵を」



 王宮の地下、そこには二体の女神を象った石像が、互いに大事に抱えるように一つの蒼く輝く大きな宝玉を持っていた。

 私はそれに向かって祈るように杖を円を描くような形で横に振るい・・・。



「闇を照らす御君よ。」



 両手を大きく広げて回りながら円を描くように歩き・・・。



「夜闇の月の写し身たる御君よ 我が傍らに在る御君よ。」



 元の位置に戻って杖を高く掲げ、大きく手を広げ、それをゆっくり閉じるようにして目の前に両手で杖を持ち・・・。



「見上げし土を照らし 月の恵みを 守護の恩恵を。」



 杖を立てるように持ったまま、跪いて宝玉に祈りを捧げる。

 すると宝玉が強く光り出す、だが光は宝玉の中心に吸い込まれるように小さくなる。

 しかしすぐに宝玉の表面から泡の様な光の膜が現れる。

 それは瞬時に広がり私や壁をもすり抜けて見えなくなった。

 今の光は『月の結界』。

 ルヴァーナ王家に伝わる守護の結界で、魔物の侵入を退ける結界だ。

 半径数千メートルの円状に広がり、王都を守ってくれている。

 だがその力も無尽蔵ではない。

 王家の血を引くものが舞を舞って祈りを捧げることで力を回復させなければいずれ力を失ってしまう。

 私は王家の人間であると共にこうして結界への祈りを捧げ続ける使命を受けた者、『舞月の神子』でもある。

「・・・。」

 周りを見る。



 宝玉の周りには囲うように大きな鉄格子があった。

 


 だがその鉄格子には扉はあったが、カギを掛けられては居ない。

 いや、『かつてはあったが今はない』と言う言い方が正しい。

 この鉄格子は今、()()()()()()()()()()()

 それでもこの鉄格子が残っているのには訳がある。

 ()()()()()()()()()()()()だ。

 これは兄上の決めた事・・・。



『あ~あ、壊れちまったなぁ。』



「ッ!!」

 不意に思い出す言葉があった。



『まぁいっか、こいつはもう用済みだし? 次はこっちにするか!』



「うぶッ!!」

 私は口を押さえ・・・!



「おぶッ!! おぇッ!! うえぇぇッ!! げほッ!! げほッ!!」

 嗚咽と共に咳込んでしまう!

「ハァ・・・ハァ・・・!」

 目の前の岩盤に吐き捨てられた吐しゃ物から疲労のせいで目を逸らせないまま息を切らす。

 ()()自分には分かる。

 これは『恐怖』だ。

 そしてこれは本来当たり前に()()()()()()()感覚だ。

「うッ・・・うぅッ・・・!」

 震えと共に涙が出て来る!

 そして・・・!

「うぅッ・・・!」

 すぐに走り出して鉄格子の外に出て近くの壁伝いの螺旋状に続いている階段を駆け上がって地上を目指す!

 もう一秒でもこの場所に居たくない!!

 早く・・・早くッ!!!



「兄上・・・! 兄上・・・! お兄様ァッ!!!!」



 ただただ会いたい人の名を叫びながら階段を上がった!


~リメイク前との変更点~

・カトレアの舞シーン後にグランツ王来ず、及びちょい過去の回想追加

理由:グランツ王が来なかったのは時系列の都合上、回想に関してはもうちょい掘り下げても良いかなと思ったため

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