#03 猫
~ルタ カザ:商店街~
「これください!」
「あいよ!!」
魚屋の男に安物の青魚とお金を渡すと男は魚を袋に詰める。
「嬢ちゃん見ねぇ顔だな。この町に来たばかりかい?」
袋に魚を詰めながら魚屋は私に話しかけてきた。
「はい、つい先日西区の端の方に。」
「おいおいあの辺は塀の近くだろ! 自警団の目も届きにくい場所だしゴブリンが塀を越えたりすることもあるし、危ないんじゃないか?」
「大丈夫です。家族に冒険者がいますから。」
「え? あの辺の冒険者って確か・・・。」
「ウルド! 私の兄なんです!」
「そうだウルド! あいつ妹がいたのか! しかもこんな可愛らしい・・・。」
「やだ、やめて下さいよぉ!」
魚屋の茶化しにわざと顔を赤くしながら愛想笑いをして話を合わせる。
「他所の町からわざわざお兄さんのとこに引っ越してきたのかい!」
「ええ、色々事情があって。」
「へぇ、道中魔物に襲われたりしなかったかい?」
「ああ、いましたよ! 此処に来る途中、馬車に乗せてもらったんですけどゴブリンに襲われて・・・たまたま運よく逃げ切れましたけど。」
「おいおい、運がねぇなぁ! そんなんで西区に住んでて大丈夫か?」
「大丈夫です! ふふ♪」
魚屋に笑いかける。
「兄が守ってくれますから!」
「ははは! ウルドの奴、よっぽど信頼されてんじゃねぇか! 責任重大だなあいつも!」
「ふふ♪ ところで兄と知り合いみたいですけど、兄もよく此処に?」
「そうなんだよ! あいつ、いつも夕方に来ちゃ安い魚ばっかり買ってくんだよ! 売れ残りでもいいやつあるからそれ勧めても『金がないから』ってケチって逃げるんだよな!」
「あはは! 今度兄にたまには買うように言っときますね!」
「おう! 頼むよぉ! がはは!」
「ふふ♪」
魚屋の豪快な笑いに愛想笑いを返すとその場を後にする。
「・・・?」
ガァと声が聞こえて上を見ると、町の街灯の上に一羽の鴉が乗っていた。
鴉はこちらが気づいてみた事に気づくと路地裏とこちらを交互に見た後に路地裏へ飛び去る。
「・・・ハァ。」
私はため息をついて、鴉に案内されるまま、路地裏へ入って行った。
---しばらく路地裏を歩いて行くと、鴉がゴミ箱の上に立ってこちらを見ていた。
「コルボー、報告まで猶予はあった筈ですが?」
私は鴉に話しかけた。
「思ったより早くターゲットに接触したようだな。まぁ、お前なら当然の結果だろう。」
鴉は最低でも四~五十代は年を取ってそうな野太い男の声で話し始める。
「腕輪は渡しました。彼、怪しんでましたけどちゃんと着けましたよ。」
「ふむ。」
コルボーは私の腕輪を見ながら目を細める。
「親愛なる絆の証・・・効果が出るまで上手く行くかは分からん代物だ。それに、そもそもの発動条件を満たさなければ話にもならん。」
「分かっていますよ。それは今遂行中です。」
「急げよ? いつ『奴』が仕掛けて来るか分からんからな。」
「ええ、条件は早めに満たします。」
「だからと言ってあまり焦って強引な手段に出るなよ? 今回の任務はいささか勝手が違う。」
「大丈夫です。この手の場数は踏んでますから。」
「任せたぞ。『猫』。」
吐き捨てるように言い残してコルボーは飛び去る。
「その肩に世界の命運がかかっている事を忘れるな。」
「・・・。」
コルボーが去ってから、辺りには僅かな鴉の黒い羽根だけが残る。
「・・・。」
懐からある物を取り出す。
ペンダントだ。
鳩をモチーフにした銀製のシンプルなデザインだが、所々黒ずんでおり、メッキが剝がれている部分もある。
「お兄ちゃん・・・か。」
吐き出た言葉と共にペンダントを握りしめた。
~ウルド カザ:ギルド~
全く昨晩から散々だ。
胸糞悪い事思い出させられる上に無理矢理見ず知らずの女のお兄ちゃんにさせられるし、意味の分からん腕輪着けさせられるしで心が休まる時間もない。
そんな状況でも仕事をしないといけないのが冒険者、いや、冒険者でなくてもそれはみんな一緒か。
ったく、なんか感傷に浸ること増えて来てねぇ?
それもこれもルタのせいだ。
いや、いかん。
あいつのことを考えるとまたおんなじループに堕ちるのが目に見えてる。
さっさと仕事に考え切り替えよう!
「さぁて仕事仕事・・・。」
ギルドに入ってすぐに掲示板に向かう。
掲示板には討伐依頼の張り紙が何枚もあり、その中から討伐依頼を探す。
大型魔物の討伐は・・・無いな。
まぁこの辺は世の中平和で何よりってことで、えーと他には?
「・・・お。」
一つの依頼が目に留まった。
『ボックル村にてオーク襲撃発生、近くに一団の拠点有り、討伐報酬70銅貨、内容によって追加報酬有り』・・・か、悪くないな。
「よし。」
俺は依頼の張り紙をはぎ取ってレレのいるカウンターに持っていく。
「レレ、仕事。」
「・・・。」
いつもの調子でレレに書類を渡すと、レレは黙ったまま受け取り、そのまま書類にサラサラとペンを走らせる。
「・・・?」
何か違和感を感じる。
あ、そうだ!
いつもなら俺が声をかけた瞬間に何故か慌てて書類をぶちまけたりするのに、何故か今日のレレは冷静だ!
「ハイ。」
「お、おう・・・。」
書類をかき上げるとレレは次の書類に視線を向けたまま書き上げた依頼人への紹介状を渡してきたので受け取る。
「・・・。」
レレは無表情、まるでそんな表情の仮面でも被ってんのかってくらい表情の変化がない。
・・・もしかして機嫌が悪いのか?
だとすると下手に何か話しかけたら変な飛び火でいらん説教喰らいそうだ。
さっさと仕事に
「ねぇ。」
「・・・!」
やべぇ、話しかけられた。
面倒事の予感・・・!
「・・・どうした?」
話が長引くと面倒そうだから敢えて振り向かず、身体をギルドの出入口側に向けたまま返事をする。
「聞いたけど妹さんが引っ越してきたんだって?」
「あ、ああ・・・。」
ルタの奴・・・!
いや、あいつが特に吹聴しなくてもこれは仕方ないか。
この町の人間は妙に耳が早い。
恐らくは朝市でルタが出かけた先の店の人達が珍しがって声かけて事情を知って話を広げたんだろう。
・・・にしたって早すぎだろ。
ルタが出かけて俺がギルド来るまでの数時間だぞ?
どんだけみんなお喋りなんだよ!
「どんな子?」
「ああ、えーと。」
あざとい妹キャラの皮を被っておきながらその実、会って間もない赤の他人の心の傷を容赦なくえぐり尽くすえげつないサイコパス。
しかも、それで怒らせた相手に剣を向けられても平然とそれで自傷するイカレマゾ女・・・とか言えねぇ。
なんとか誤魔化さないと・・・!
「なんというか・・・。」
「なんというか?」
「・・・上手く言えない。」
うん、これダメだな。
絶対怪しまれたわ!!
ああもうくそったれッ!!
こんなことなら朝にルタと話してた時点で色々嘘のネタ用意しとくんだった!!
「ふーん。」
「・・・。」
いやなに『ふーん』って!!
つかなんだよこの空気!!
浮気詮索されてる男みたいな雰囲気出てんだけど!?
別に俺とレレそんな関係じゃないよね!?
「あー、俺、とりあえず仕事
「可愛い? その子。」
いや引き留めんなよめんどくせぇなぁ!!
「ま、まぁ・・・。」
確かに顔は可愛い。
ちょっと小悪魔寄りだが童顔であどけなさのある顔だ。
無邪気に笑ってる顔とか子供と大差ないくらい可愛い。
あの外道な悪魔の顔さえ知らなければ素直にそう思えるんだけどな!!
「ふーん、可愛いんだ。」
「あ、ああ・・・。」
「ねぇ。」
「なんだよ。」
「手ぇ出したりしてないでしょうね?」
「ッ!?」
ちょっと待てや。
流石にこれは『ふざけんな案件』だわ。
「馬鹿ッ!! んなことするかッ!!」
振り返って食って掛かるようにレレに叫ぶ。
「俺達は兄妹だっ---
---実は先日の夕方。
「例えば・・・。」
言いながらルタは俺の腹部を触る。
なんだ?
殺す気はないって言ってるから害が無いのは分かるが何がしたいんだ?
「私みたいな『年頃の女』を使って・・・。」
後ろに回るなりもう一つの手で俺の首筋に手を這わせる。
あ、待ってこれって・・・!
(籠絡しちゃったりとか。)
いやらしく耳元で囁きながらルタは密着して俺の腹部を弄り、首筋の手はすりすりと指の腹で俺の首筋を撫で上げる。
「・・・。」
氷の様な無表情を作ってるが正直ヤバイ。
いい匂いするし触られてる体温が生々しくてめっちゃ意識してしまう!
密着されてるとコート越しでも人肌の柔らかい感じが同様に生々しく伝わって来る!!
「!」
さらに追い打ちをかけるかのようにルタは右足を大胆に上げて俺の太ももに巻き付ける。
いやその短いスカートでやんなよッ!
太ももとか見えるだろうがッ!!
恥ずかしいとか思わねぇのかこいつはッ!!!
「!」
瞬間的に脳裏に危険信号が走る。
腹部を弄っていたルタの手が徐々に下の方へ行くからだ。
行先は間違いなくズボンの中・・・マズイッ!!
今ズボンの中に手ぇ突っ込まれたらヤバイッ!!!
ある部分でめっちゃ動揺してるのがバレるッ!!!!
「っは!」
鼻で笑いながらルタを払いのける。
「悪いがその手の交渉は却下だ。好きでもない女を抱く趣味はないし、色恋沙汰に関わるつもりもない。」
あッッぶねぇぇぇぇ!!
コンマ数秒でも対処が遅れてたら手遅れだった!!
---て・・・。」
昨日の事を思い出してつい言葉が詰まり、目だけレレから逸らしてしまう。
「何? どうかした?」
「いやホントねぇから。」
視線をレレに戻して誤解を解こうとするが、言葉の勢いが失速したせいでつい弱く言ってしまう。
「何? あんたまさか・・・!」
やべぇ!!
一応は誤解だし解かないと!!!
「んなことするわけねぇじゃん!!? 兄妹だっつってんだろ!! ガキの頃のハナタレ面から見てる相手だぞ!? 今更欲情とかするか!!」
必死に息を吐くような嘘八百を口からぶちまける。
だが・・・。
「あ、そう・・・!」
レレは口元をヒクつかせながら俺を見ている。
明らかに信用を頂けてないご様子だ。
「ま! あんたと妹さんがイチャついてようがそういうことしてようがぁ!? 私には関係ないしぃ!?」
両手を両肩まで上げてやれやれポーズをしながら大袈裟にレレは悪態をついてくる。
「何勝手にそっち方面で話進めてんだよ!! それに関係ないんなら首突っ込むなよ!!」
「首突っ込んでないしぃ!? 勝手にすればぁ!?」
「だったらこの話はもう終わりだ!! もう行くからな!!」
「ハイハイいってらっしゃぁーい!!」
レレは尚も謎の悪態をつくがとりあえず逃げれそうなのでさっさとギルドから出ていく。
~レレ カザ:冒険者ギルド~
「・・・。」
ウルドが出て行って数秒間ほど、さっきの悪態ポーズのまま固まるが・・・。
「うぐあぁぁ・・・!」
すぐに頭を抱えて蹲る。
やっちゃった・・・!
だって仕方ないでしょ気になるもん!!
あいつに妹いたとか知らなかったし!!
そんな矢先に一つ屋根の下で一緒に暮らしてるとかたとえ初日だったとしても間違いが起きてないかとか気になるじゃん!!
いやこれは近親相愛とか不謹慎でいけませんそんな奴がギルドの冒険者とかギルドの品位が下がりますとかそういう意味だからね別に変な意味ありませんから!!
「レェレ♪」
「ッ!」
突然聞き覚えのある声と共に顔を上げると・・・。
「・・・出やがったわね。」
目の前に居たのはルッカだ。
正直このタイミングで絶対現れると思っていた。
「そんな言い方しなくてもいいじゃん♪」
「またおちょくりに来たの? そんな暇があるなら掲示板にでも行って仕事を
「聞いたよぉ? ウルドの妹が引っ越してきたんだってね♪」
「ぐっ・・・!」
こいつ・・・的確に嫌な話題を・・・!
「ライバル登場なんじゃない? 噂じゃ可愛くて自警団の奴らも既に数人は狙ってるって話だし♪」
「勝手にナンパでもなんでもしてりゃいいじゃない!」
「あらら、ひょっとして期待してる? 自警団の奴らの誰かとくっついて勝手にライバルから消えてくれるのを。」
「だからなんであんたはそう言う話で勝手に進めんのよ!」
「私はねぇ、その線は薄いって睨んでるんだよねぇ。」
「何それ。」
「おかしいと思わない? あの年頃だし、大方一人で引っ越して来る理由なんて親元離れて働き口探してるとかそんなとこだろうけどさ、それだったらわざわざこんな田舎にまで来る必要ないじゃん?」
「何が言いたいのよあんたは。」
「わざわざウルドの家に引っ越すのには理由があるんじゃないかなぁって。」
「はぁ?」
意味が分からない。
「ウルドってさ、色々悪態はつくけど困った相手をほっとけないお人好しじゃん?」
「なんで急にウルドの話になんのよ。」
「ああいうとこがあんたのウルドの好きなとこよねぇ。」
「何言ってんのよ! 違うし話がズレてんじゃないの!?」
「もし妹ちゃんと一緒に居た時も同じだったら? 妹ちゃんにとってお兄ちゃんはどう見えるんでしょーか!」
「・・・。」
なんとなくこいつの言いたいことが分かってきた気がする。
「先に親元を離れて別の町で冒険者をやってるウルドお兄ちゃん! 自分も自立して親元離れて働ける年になった! ようやく愛しのお兄ちゃんの元へ
「バッカじゃないのあんた!?」
ついカッとなって受付用のカウンターを叩いて立ち上がる。
「おーや焦った? 危機感沸いちゃった?」
「だからそう言う意味じゃない!! 見ず知らずの妹を憶測だけで勝手にブラコン扱いすんのが失礼だって言ってんの!!」
「でもあり得ない話じゃないじゃん? 状況証拠だって揃ってるし♪」
「憶測は憶測でしょ! 勝手なこと言うもんじゃな
「おぉいレレぇ! 仕事持って来たぞー! って何してんだ?」
「!」
ルッカの後ろから声がしたかと思うとそこにはワットがいた。
仲間のネカネとリィナも一緒だ。
「レレまたルッカにいじめられてんの?」
「心外! これは愛あるイジりってもんよ!」
リィナが笑いながら茶化すとルッカは調子のいい言い方で開き直る。
「で? 今回もまたウルド?」
「ちょっと違~う! 実は・・・。」
「すみませ~ん!」
「!」
ワットたちの後ろから声が聞こえて来たのでこの場に居た全員がそっちを見ると女の子がいた。
身なりからして冒険者のようには見えないし、町では見ない顔の子だ。
「ウルドの所属しているギルドってここで合ってますか?」
「はい、そうですが?」
「そうだったんですね! よかったー!」
聞きたい事を聞けると嬉しそうに女の子は笑う。
その雰囲気は何処かあどけないと言うか垢抜けしてない感じがある。
「あのぉ、失礼ですが・・・あなたは一体?」
「あ! ごめんなさい!! 私ったら急に押しかけて名前も名乗らずに!!」
女の子は急に慌てて取り乱す。
「私、ルタっていいます! ウルドの妹です!」
「え!?」
噂の張本人来たあぁぁぁぁ!!!
「あんたがウルドの妹さん!?」
「はい! あの、私のこと、知ってるんですか?」
「ちょうど町中あなたの噂で持ちきりになってたんだよ!!」
さっそくルッカとリィナが絡む。
「え!? そうだったんですか!?」
「そうそう! 急に朝市に可愛い女の子が現れたと思ったらウルドの妹だったってね!」
「そんな!! 可愛いだなんて!!」
ルタさんは顔を赤くして恥ずかしそうに顔を手で覆う。
「おうおーう! 照れちゃってかーわい!」
「あぅぅ・・・!」
ルッカが茶化すとルタさんは益々恥ずかしそうに手で覆った顔からくぐもった声を上げる。
・・・確かに可愛いかも。
ってそうじゃない!!
「やめなさいよルッカ! 妹さん困ってるでしょ!」
「おやおやぁ? 早速ポイント稼ぎかぁいレレぇ!」
「な!?」
ルッカがまた変なことを言い出した。
「ポイント、稼ぎ・・・?」
ルタさんはよく分かっていないようでぽかんとしている。
「ちょっとルッカ!! 変なこと言わないでよ!!」
「このレレって子はねぇ、将来あんたのお姉さんになるかもしれない子だよ!」
「お姉さん? って、もしかして・・・。」
「ルッカ!! 早速誤解してるじゃないの!! それにワットやネカネまでいるのに!!」
「あ? 何言ってんだよ。」
「へ?」
何故かワットが片目を細めて変な返答を返す。
まるで私がおかしなことを言ってるかのように。
「うちらも知ってるよ? あんたがウルド好きなこと。」
「はぁ!!?」
ネカネまでとんでもないことを言い出す。
「て言うかぁ、このギルドの冒険者の九割型知ってるしぃ、知らないのウルドくらいじゃない?」
「何よそれぇ!!」
リィナにとんでもない事実を聞かされる。
「大体毎度毎度報告に来たウルドをあんなに説教しながら捕まえとくとか典型的な嫁ムーブだしな。」
「な!?」
「それに時々服装の乱れ見つけちゃ憎まれ口叩きながら直してあげる所とか奥さんかって感じだし。」
「ちょ・・・!」
「第一ウルドの前だけ出会い頭に取り乱して書類ぶちまけるとか一番分かりやすいし。」
「ッ!!?」
「レレ?」
ワットたちが畳みかけるように言うとルッカが肩に手を置いてくる。
「いい加減わかったでしょ? あいつがどんだけ朴念仁かって!」
「~~~~~ッ!!!」
恥ずかし過ぎて頭が沸騰するぅ!!
「ちっがああぁうッ!!」
ギルドに響き渡る程の大声で叫びながら立ち上がる。
「違うからッ!! あいつを叱ってるのだってあいつが固定パーティーも組まずに無茶ばっかりしてるからだからッ!! 冒険者は危険と隣り合わせ!! 安全第一!! 危険を顧みずに無茶ばっかりしてる奴を注意するのは当然でしょ!! 決してッ!! 断じてッ!! 絶対ッ!! あいつのことがす、すす、好きなわけじゃ・・・!!」
ダメだ!
一番言わなきゃいけない言葉が詰まってしまう・・・!
落ち着かなきゃ!
「すぅ~~~!!」
いったん落ち着いて息を吸い込んで・・・!
「別に!! あいつの事が好きな訳じゃないんだからね!!?」
「レレ・・・。」
リィナが呆れ気味に私を見ながら声をかける。
「それツンデレのテンプレって分かってる?」
「うっさいッ!! 違うからッ!! 勘違いしないでッ!!」
「へぇ・・・そうなんですね・・・。」
「ッ!!!?」
ルタさんの声が聞こえて一瞬寒気がした!?
今この子、怖い言い方した!?
「「・・・!!」」
「??」
ネカネやリィナも気づいてゾッとしてるけどワットだけは気づいてないっぽい。
「レレさん♪」
「え? あ、はい・・・?」
ルタさんの方を見るけど無邪気な笑みだ。
気のせい・・・?
「兄のこと心配してくれてありがとうございます♪ これからも兄のこと、よく見てあげてくださいね♪」
「え、あ、うん・・・。」
き、気のせいだよね・・・何考えてんだろ私・・・!
あ、そうだ本題!!
「ところで今日はどうしてギルドに?」
「あ! そうだった! 先日引っ越してきた時に、兄がここのお世話になっていると聞いて挨拶に伺いました!」
「あらあら、それはご丁寧にどうも。」
ルタさんがお辞儀をするので私も応えるように頭を下げる。
それにしても・・・見た目はカジュアルだけど派手すぎず地味すぎずな格好、けどどことなく明るい雰囲気の見た目なのに真面目で礼儀正しい子だ。
それに髪と目は茶髪と灰色の瞳ウルドと同じ。
確かにあいつの妹っていうのも納得がいくかもしれない。
「皆さん兄の知り合いなんですか?」
「ああ! 俺たち、俺とこのネカネとリィナは固定パーティ! ウルドとは時々臨時でパーティ組ませてもらってるんだよ!」
「私も別で組んでるけど時々手伝ってもらってるよ!」
「そうだったんですね! 兄の交友関係とか知らなかったから、なんか新鮮です! あ、そうだ!」
「?」
ルタさんが何かを思い出して何かをテーブルに置く。
「挨拶がてらに配ろうと思ってたんです! これ!」
テーブルに置かれたのはピクニックにでも持っていきそうなバスケットだ。
その中から何かを取り出すと私達に差し出して見せる。
何かを包んでいるような小袋だ。
「えと、お菓子?」
「パンケーキです♪ ギルドの職員さんがどれだけいるか分からなかったので多めに作ってきました♪」
「ああ、それはありがたいんだけど・・・。」
「どうしたんです?」
きょとんとするルタさんを尻目に全員事情が分かってるようで、互いに視線を合わせ合う。
「ギルドの職員、私とお父さんだけなんだ。」
「え! そうだったんですか!?」
「まぁ、こんな田舎で冒険者も少ないから特に人員増やさなくてもなんとか回せるからね。」
「でも大変じゃないですか? 職員が少ないと。」
「ああ、確かにね・・・冒険者ってクセが強いしぃ~?」
皮肉を込めた視線をルッカやワットたちに向ける。
「よせやい!」
「褒めないでよ♪」
「褒めてないッ!!」
「あっ、えと、とりあえずレレさん達で食べきれないようでしたらそっちの冒険者の、えぇと・・・。」
ルタさんはワット達の事を呼ぼうとすると口ごもる。
ああ、そう言えばワットとルッカは名乗ってなかったっけ?
「ああ、俺、ワット!」
「あたしはルッカ!」
「ワットさんとルッカさんですね! それと、そちらがリィナさんと、ネカネさんでしたっけ?」
「おお、記憶力いいね!」
「え? あ、うんうん!」
リィナが感心していると傍にいたネカネがハッとして相槌を打つ。
「ネカネ、お前今パンケーキに釘付けだったろ。」
「うっさいッ!!」
「なぁルタちゃん、こいつに食べ物渡すときは気を付けろよ? あんまりに食い意地張ってるから下手したら腕ごとガブっていかれるからな!」
「変なこと教えんなッ!!」
ワットがルタさんに忠告するとネカネが食って掛かる。
「ふふ♪ じゃあ今度多めにお菓子作って持ってきますね♪」
「え、ホントに・・・?」
「ネカネちゃん、ヨダレ。」
「あ、ち、ちち、違うから!!」
「ふふ♪」
色々とボロが出て取り乱すネカネを見てルタさんは楽しそうに笑う。
「あはは! ネカネってばボロ出すぎ!」
「ルッカまでうっさいッ!!」
「ところで・・・。」
ルッカは笑いながら何故か怪しい視線をルタさんに向ける。
「その首の包帯、何?」
「!」
言われて気づいた。
ルタさんの首には包帯が巻かれていた。
「・・・。」
何故かルタさんの顔から表情が消える。
「え、もしかしてウルドに・・・?」
リィナがポロっと言葉を零す。
「ちょ、ちょっとリィナ!」
そんなわけない!
そりゃウルドは人並みに憎まれ口叩くほどひん曲がったとこはあるけど基本的には他人に害を与えるような奴じゃない・・・けど。
「えと・・・ルタさん、無理に言わなくても
「違うんですッ!!」
「!?」
急にルタさんは必死に叫ぶ。
「実は・・・。」
「な、なに?」
「・・・っ。」
ルタさんは右手の拳を胸に当て、それを左手で強く握り、歯を食いしばるように力む。
「実はミリタの町で両親と一緒に暮らしていたんですけど・・・。」
「ミリタ・・・結構離れた所。」
『ミリタ』、この町から少し離れた東に位置する町で馬車で半日、歩きだと一日かかりそうな距離にある町、ついでに言うと此処と大差ない田舎町だ。
「母が数年前に亡くなってしまって・・・それから父が荒れてしまい、毎日のように暴力振るわれてて、耐えられなくなって家を出たんです。この首の包帯の中にはその痣が・・・。」
「父親にやられたのかよ・・・!」
ワットは青ざめながら声を上げる。
「兄が何処に住んでるかは知らなかったんですけど、風の便りで此処で冒険者をしているって聞いて・・・。」
「それでウルドのとこに?」
ネカネが問いかける。
「はい。急に押しかけちゃったんですけど・・・藁にもすがる想いで・・・『一緒に暮らしたい』って頼んだんです・・・!」
ルタさんは震えながら涙を流す。
「で、オッケーもらえたんだ?」
ちょっと嬉しそうな顔でリィナが問いかける。
「はい! 数年も会ってない間柄だったんで、ちょっと躊躇ってたんですけど、必死に頼んだら最後に向こうが折れてくれて・・・。」
「はは、ウルドらし・・・。」
「あいつなんだかんだお人好しだしな。」
ネカネとワットが呆れ気味に相槌を打つ。
この場にいる全員、ルタさんに必死に頼まれて焦ったウルドがやれやれとため息をついて『しゃあねぇなぁ』って言ってるウルドの顔が頭に浮かんでるのが用意に想像できる。
「だから兄は何も悪くないんです・・・! 兄は、すごく優しい、私の自慢です!」
「うん、ごめんね。変な誤解しちゃって。」
つい失言を漏らしたリィナは素直に謝罪する。
「い、いえそんな!」
そんな謝罪にルタさんは慌てて止めに入る。
「レェレ♪」
「?」
何故かルッカが私の方に近づいて顔を近づけて来る。
(ライバル確定だね♪)
「はぁ!? 何それ意味分からないッ!!」
(分かってるくせに♪)
こいつ・・・!
~ルッカ カザ:冒険者ギルド~
「? レレさん? どうしたんですか?」
「あ、いや、なんでもない!!」
声を掛けられてレレは慌てて誤魔化す。
「そ、それより! 何かあったら言ってね! 色々相談に乗るから!」
「ほーんと、ちゃっかりポイント稼ぎしちゃってまぁ!」
いつもの調子でレレを茶化す。
「だから違うって!!」
「俺達も何か助けてやれることあるかもしれないから言えよ!」
「うんうん! そのクソ親父が連れ戻しに来たりなんかしたら黒焦げにしちゃうから!」
ワットとリィナも一緒になって励ます。
「うんまい!」
「ネカネてめッ!! 何も言わねぇかと思ったら早速喰いやがって!」
「うんまッ!」
ネカネは幸せそうに袋に包んでいたパンケーキを開いて食べていた。
「皆さん、いい人そうで良かったです。この町に来てよかったです・・・!」
「おいおい泣くなってぇ!」
「あはは!」
辺りは暖かい笑いに包まれた。
「ははは!」
私も一緒に笑う。
「はははは。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
~リメイク前との変更点~
・本来ウルドがクエストやってる所を次回に持ち越し
理由は言わずもがな文字数です、長いw
・ウルド君の回想シーンの追加
実は情けなかったウルド君w
仕方ないよね、彼だって男の子だもん
・ルタとルッカがすれ違いにならず、ワット達と一緒に絡む
理由はルタとルッカの絡みがなかったから、正直この二人が出会ったら美味しいイベントありそうなのに書いてなかったのが悔やまれたのでリベンジ