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嘘つき英雄と嘘の妹 ~リメイク版~  作者: 野良犬タロ
プロテア編
39/69

#38 姫と猫


~ウルド 王都プロテア 城門前~

 

「むッ!? 誰だお前は!!」

「・・・。」

 城の前の門に着くと案の定というか、門の両脇にいた門番にめちゃくちゃ警戒されて槍を構えられる。

「覆面なんぞしおって!! 見るからに怪しいぞお前!!」

「・・・。」

 まぁ仕方ないよな。

 うん。

 正体隠す為とはいえ、こんなグルグルに布を顔に巻き付けた奴が門を通ろうとしたらこの反応はなんらおかしくない。

「だから言ったじゃん。『門の前までに覆面(それ)取りなよ』って。」

「るせ。」

 仕方ねぇだろ。

 いつ町の奴に顔見られるか分かったもんじゃねぇんだから。

 まぁそんな理由でギリギリまで被っててこのザマじゃ言い訳のしようもないのは分かるけど。

「有名人も大変だねぇ。」

「不愉快だ。」

「またまた~!」

「黙れ。」

 身勝手な評判で有名になるのなんざ俺にとっちゃ不快でしかない。

「何をコソコソ喋ってる!!」

「「!!」」

 話してたせいで注意が逸れてたが、相も変わらず門番たちは俺達をがなり立てていた。

「益々怪しいぞ!! 門に近づくなぁッ!!」

「気合い入ってんな~。」

 場違いなのは分かるが感心する。

 まぁ王様人望厚かったし、そんだけ部下もやる気が出るもんなんだな。

 とにかくだ。

「しゃあねぇ。」

 やりたくはないが一先ず『怪しくないですよ~』ってアピールはしとかないとな。

 そう思って自分の顔に手を伸ばしたその時だ。

「?」

 何故か横からルタが俺の目の前に手の平を翳す。

『待て』って意味だろうか??

「フッフッフ!」

「???」

 ルタは何故か不適に鼻で笑いだす。

「くッ!!」

 門番達はより一層警戒して構える。

「・・・。」

 なんとなく分かる。

 まぁた何か良からぬことを・・・。



「この無礼者どもぉッ!!」

「「「!!!?」」」



 ルタの一喝に門番、とついでに俺も訳が分からず目を丸くする!

「こちらに逐わす御方を誰と心得る!!」

「ヲイ。」

 こいつ・・・!

 いつにもましてわざとらしく舞台役者のように語りだすルタだが、こいつのやりたいことを薄々察する。

「誰も彼もあるか!!」

「顔も分からんのに誰かなんて分かるわけないだろ!!」

 門番たちはかなり立てる。

 無論全部正論だ。

 反論の余地はない。

「ならばこのご尊顔を拝むがいい!!」

「・・・。」

 だというのにルタ(この馬鹿)は尚もキザ ったらしい台詞で門番たちを煽り散らす。

「では、お顔をどうぞ? 我が主(マイマスター)?」

「誰が(マスター)だ。」

 いちいちいらん演出入れやがって・・・!

「・・・。」

 正直最悪のノリだが渋々顔の布を取る。

 すると・・・。

「「!!!??」」

 門番たちは目を見開いてビクッと体を震わせ・・・。

「「ええええええぇぇぇッ!!??」」

 揃いも揃って間抜けな叫び声を上げる。

「お前は・・・いや、()()()()は・・・!」



「『英雄アルト』ッ!!」

「チッ・・・!」



 うんざりしながら目を閉じて右手で右目を覆う。

 数年振りに見るリアクションだ。

 相も変わらずクソ忌々しい・・・!

「このクソ妹が・・・!」

 わざわざいらんことしやがって・・・!

「い、今まで何処に行っておられたんですか!!」

 何が『行っておられた』だ。

 貴族か俺は。

「この王都の大スターであられるあなた様の帰りを待つ者がどれほどいた事か!」

 その『大スター』って扱いが嫌で逃げたんだよッ!!

 馬鹿かこいつらッ!!

「どうでもいいけど王様に用事があるんだ。通して貰っていいか?」

 怒りを抑えつつ用件を手短に伝える。

「ああ、その・・・通して差し上げたいのは山々なのですが・・・。」

「なんだよ。」

 門番のは悩まし気に視線を逸らす。

「職務上の決まりでして、城内の関係者の推薦状などが無いとお通し出来ない事になっておりまして・・・。」

「なるほどな。」

 一応その辺は変に特別扱いしないようで安心だが、困った事になったな。

『城内』って訳だからほとんどが城の中にいるようなもんだし、出てきて貰わないと話にならな

「ああ、その辺は大丈夫♪」

「は?」

 突拍子もない言葉で訳が分からない俺なんか何処吹く風かのようにルタが満面の笑みで門番の元へ歩いて行く。



「これなーんだ♪」



「?」

 門番の前に立つとルタは懐から得意げに何かを取り出す。

 かなり小さなもので、人差し指と親指で摘まむように顔の横に翳すように持っているが・・・。

「そ、それは・・・!」



「『特級(スペシャル)許可証(グレードパス)』!!?」



「???」

 ルタが持っているものは金色のバッジだ。

「何故お前のような者がそれを!!?」

「城内関係者の許可も何も、私が『城内関係者』って事だよ♪」

「し、しかし貴様のような者など見た事も・・・!」

「何者だ貴様・・・!」

「あ~・・・。」

 門番がどよめきながら問いただすとルタは気の抜けた声を出し・・・。



「あんまり深入りすると()()()()()()よ?」



「「ッ!!!?」」

 笑顔のまま鋭く睨みながら静かにルタが恐ろしい事を言うと門番はどちらも顔を真っ青にして固まる。

「通してくれるよね♪」

「・・・・・・お通り下さい。」

 元のあざといキャラでルタが問うと、生唾を呑みながら片方の門番が返事をしながら門番は二人ともお互いに身体の向きを相手に向けながら下がって道を開けてくれた。

「・・・はぁ。」

 なんか無駄に疲れを感じながら溜め息をついてさっさと門を通ろうと歩き出す。

「あの・・・。」

「?」

 丁度門番の前を通ろうとすると右側にいた門番に声を掛けられる。

「もしよろしければ・・・あとでサイン貰っても?」



「あ”ぁ?」

「ヒィッ!!?」



 クソ台詞に殺意が湧いて睨みつけると、門番はビビッて震え上がる。

「お兄ちゃん! 抑えて! どーどー!」

 すぐにルタが察して必死に肩を優しく叩きながら宥めてきた。

「チッ・・・。」

 流石にこんなとこで事を荒げるのは得策じゃないのは分かり切ってるので自重する。

 命拾いしたなクソ門番。

 こんな状況じゃなかったら上昇(ライズ)使って思いっきりぶん殴ってたところだ。

「え? えぇ・・・?」

 俺が通り過ぎた背後で門番は『なんで? 自分なにか悪い事した?』みたいな間抜けな声を上げていた。

 



―――「ったく。」

 門を通って城の外堀を跨ぐように掛かっている橋を渡りながら頭を抱えて溜め息をつく。

「なになに? 私がお城に自由に入れるエラい人って分かって驚いた!?」

「うるせぇ馬鹿ッ!! わざわざ顔見せる前にいらん過剰演出しやがって・・・!」

「どうせ普通に取ったって反応同じだったんだからいいじゃん! どうせなら楽しんだもん勝ちでしょ♪」

「お前のせいでこっちは余計イライラしたわ。」

「うん? イライラしたら何するの? もしかして分からせてくれるの?♡」

「嬉しそうにすんじゃねぇ!! ああもう・・・!」

 ムカつかせるくせに怒りをぶつけようとしたらマゾ反応で喜ぶこいつの好守の高さにいい加減うんざりしながら歩いていた。

「・・・。」

「・・・。」

 しばらく無言でレンガ造りの橋の上を歩いていたが・・・。

「・・・なぁ。」

「なに?」

 沈黙を切ってルタに話しかける。

「さっき門番の前に見せたバッジ、なんなんだ?」

「もぉ! 結局気になるんじゃん!」

「うるせ、知らない事そのままにするとむず痒いんだよ!」

「しょうがないな~!」

「くっ・・・!」

 なんか『お願いします! 教えてください!』って頼み込んでるみたいで癪だな・・・!

「言いたくないなら別にいいよ、歩くのが暇で聞いただけだし。」

「もー! 意地っ張りなんだからー!」

「・・・。」

「ほい!!」

「!!」

 わざとらしく呆れたルタの声を無視していると目の前にルタが何かを突き出すように見せつけてくる。

 目の前にあったのはさっき門番の前に見せたと思われる金色のバッジだ。

 良く見ると剣の両脇に翼が生えたかのようなデザインでかなり細かい装飾だった。

「『特級(スペシャル)許可証(グレードパス)』、お城に入れる通行許可証の中でも最上級の許可証なんだよ♪」

「最上級? 許可証って階級があるのか?」

「そうだよ~? 階級(ランク)別に分けると、『初級』、『下級』、『中級』、『上級』『特級』の五段階だね♪ 私のはその中でも最上級の金バッジ、『特級』なんだよ♪」

「階級によって何が違うんだ?」

「低い階級(ランク)ほど行ける場所が制限されるんだよ♪」

「随分と手の込んだルールだな。上流階級様が城の中でも自分の身分をひけらかす為か?」

「まぁ、そんな風に考えてるお偉いさんもいるけど、本来は王様が自衛用に考えたルールだよ♪」

「自衛用?」

「お城に暗殺者(アサシン)密偵(スパイ)が居ないとは限らないからね♪ そういうのにあっちこっち自由にお城の中歩かれたら、情報も盗まれるし、もしくは自分の食べる物に毒入れられちゃったり、とかね♪」

「なるほど、信用出来ない奴には城の中自由に歩かせないって考えか。」

「そゆこと♪」

「随分と用心深いんだな、王様ってのは。」

「民草に善政を行う王様ほど、貴族や上流階級のお偉いさんには恨まれやすいからね♪ なんたってそう言った連中が派手な生活してんのは、民衆から搾り取った血税が大半の資金源だからね♪」

「命狙う敵と常に同じ屋根の下か、そりゃオチオチ眠れやしないな。」

「ね♪ 信用できない相手に難癖着けるのも納得でしょ?」

「確かに・・・。」

 だが腑に落ちない所がある。

 俺にとっちゃ目の前のルタ(こいつ)が一番信用出来ない。

 だと言うのに王様はなんでこいつに城の中を自由に歩ける程の権限与えてるんだ?

 その辺王様の神経が分からん!

「着いた♪」

「!」

 ルタの言葉で目の前の風景にハッとする。

 俺達は既に開いていた城の大扉の前に立っていた。

「話しながらだとあっという間だったね♪」

 城の内門を潜って城に入った。

 すると・・・。



「お待ちしておりました。」



 だだっ広いエントランスの中、両脇に衛兵が立っている奥の階段から降りてきたのは身なりの良い執事の服を着た老人だった。

 階段を一番下まで降りて俺の目の前に来るなり腹に手を添え、丁寧にお辞儀をする。

「ど、どうも・・・。」

 流石に城の中で無礼を働くわけにもいかず、作法が分からないなりに畏まって挨拶を返す。

 しかし・・・。



「やっほ~♪ 久し振り~♪ クラウスさん♪」

「ッ!!?」



 ルタが手をヒラヒラさせながら馴れ馴れしく挨拶をする。

 明らかに偉い立場の相手になんて奴だ!!

「お、おいッ!!」

 どう考えてもおかしいルタの態度に居ても立っても居られず、ツッコミを入れる。

 だが・・・。



「・・・。」



 ルタにクラウスと呼ばれた執事は顔を上げると怒りもせず、薄目でだが真っ直ぐにルタを見ていた。

 そして・・・。

「はぁ・・・。」

 何故か溜め息をつく。

 呆れてるのか?

 いや、当たり前だよな!!

 ルタ(こいつ)の無礼な態度見たらそりゃな!!



「すみませ

「今回はそう言う役柄なのだな、『(キャット)』。」



「へ?」

 何言ってるんだ?

 この人??

「クラウスさん! しーッ!」

「?」

 ルタが何やら必死そうに執事に制止を促す様に言ってるのが聞こえてそっちを見ると、口元に人差し指を当てていた。

 だが・・・。

「!!?」

 その表情が妙だった。

 必死な声とは裏腹に口元は笑っており、目は落ちついた様子で薄目で真っ直ぐに睨み返す様に執事を見ていた。

「・・・フン、まぁ良かろう。」

 執事は何を察したのか、納得したように目を閉じる。

 そして・・・。

「ご無礼を、お客人。」

「!?」

 急に俺に向かって柔和な表情で俺に話しかけてきた!

「い、いえ・・・!」

 な、なんか急な空気の変わり方で調子狂うな・・・。

「王より話は伺っております。さ、こちらへ。」

 そう言うと執事は踵を返して目線だけ俺に向けて移動を促す。

「はぁ。」

 反応に困って生返事を返しつつ、着いていこうと一歩を踏み出すが・・・。

「?」

 違和感に気づく。

「ルタ?」

 ルタと一歩分距離が開いていた。

「♪」

 ルタは何故か歩く気配もなく、顔の横で手をヒラヒラさせていた。

「お前は行かないのか?」

「王様が用事あるのは、お兄ちゃんだからね♪」

「じゃあ此処で待つのか?」

「私は私で行くとこあるから♪」

「なんだそりゃ。」

「じゃ♪ またあとでね♪」

 笑顔のまま、ルタは手だけ俺に向かってヒラヒラ動かしながら階段とは別の右脇の廊下へ歩いていった。

「・・・。」

 なんなんだ?

「よろしいですかな?」

「あ、す、すみません。」

 執事を待たせてる事に気づいてすぐに謝罪する。

「では此方(こちら)へ。」

「はい。」

 執事に案内されるまま、一緒に階段を上がる。

 階段を上がると左右と正面に別れた大きな廊下へ出るが執事は真っ直ぐ正面に歩くのでついていく。

「!」

 それなりに人がいるようで、歩いていると兵士やら学者やら、身なりの良い騎士ともすれ違う。

「?」

 これまた違和感を感じる。

「・・・。」

 正面から歩いている騎士は執事の顔を見ると道を開け、正面を執事に向け続けたまま無言で頭を下げていた。

 脇の兵士も緊張したように槍を垂直に立てたまま背筋を伸ばしていた。

「・・・。」

 この執事、そんなに偉い人なのか?

 そんな疑問の中・・・。

(おい、アレ・・・!)

「??」

 通り過ぎた道の脇からコソコソと話す兵士の声が聞こえる。

(英雄アルトじゃねえか・・・?)

(うわ、マジだよ・・・!)

「・・・。」

 ・・・なるほど。

「ッ!!」

 睨むように後ろを見る。

(こっち見た!)

(うわ、俺達英雄アルトに顔知られちゃったな!)

「・・・。」

 非難の視線すらあいつらには有名人からのファンサービスかよ。

 相変わらず不快だな。



「真っ直ぐ私だけを見てついて来なさい。」



「!!?」

 急に執事からお叱りの言葉を受ける!

「す、すみません。」

 兵士に喧嘩売ったのバレたか!

 やべぇな、罰とかあんのかな・・・!

「・・・。」

 視線を戻すと執事は振り返らず、無言で淡々と歩いていた。

 ・・・ふぅ、良かった。

 とりあえずお咎めは無しみたいだ。

「事情は察しております。」

「え?」

 何言ってるんだ?

 この人??



「どうか()()()()()はお気になさらず。」

「・・・!」



 この言葉で察した。

 この人、俺がああ言う扱いを嫌がってるの察して気を遣ってくれたんだ・・・!

「あ、あの・・・。」

「如何しましたか?」

 俺が声をかけると執事は歩きながらだが、振り返る。

「ありがとう。」

「・・・。」

 礼を言うと執事は無言のまま、優しい笑みを向けてきたあと、再び前に向き直った。

 クラウスさん、だっけ?

 この人、多分良い人だ。



~カトレア 執務室~

 

「財務官! これは一体どういう事ですか!?」

「申し訳ありません・・・。」

 私が激を飛ばすと机の前に立っていた執務官はしょんぼりした顔で俯いていた。

 理由は書類に書かれていた予算の分配が会議で話していた内容と違っていたことだ。

「先月の台風で損壊した店が多数あるから建て直しの経費の為に商業区の予算を他所から少しずつ分配する話だったでしょう!? 何故魔導研究室の建設費用の経費だけ数値が修正されてないんですか!!」

「その・・・魔導研究室の建設はもうすでに数ヶ月遅れており・・・配属予定の各騎士団長にせっつかれておりまして・・・。」

「はぁ・・・。」

 呆れてため息が出る。

「『現状の土台無くして未来の建設への道はない』、王のその意向のもと、研究室の経費カットは決定したはずです! 圧をかけられたぐらいで折れて改ざんするなんて、意思が弱すぎです!!」

「返す言葉もございません・・・。」

 私の言葉に執務官はペコペコと頭を下げて書類を受け取った。

「まぁ、その書類が王に届くまでにこちらで確認できて良かったですね。」

「え?」



「王にこれを見られて怒らせるような事があったら、私やあなたにせっついてきた騎士団長よりも恐ろしかったでしょうねぇ?」

「ヒィ・・・!」



 その言葉を聞いて執務官は顔を真っ青にする。

「すぐにッ!! 今すぐにでも訂正して参りますッ!! 申し訳ございませんでしたぁッ!!」

 精一杯謝罪して慌てて部屋から出て行った。

「全く・・・。」

 机にもたれかかりながら頬杖を突く。

 私がやっている仕事は、平たく言えば監査だ。

 兄上に届ける各執務官の書類に不備がないか、もしくは不正がないかをチェックし、必要があれば今みたいに注意して添削して貰っている。

 先ほど注意をした通り、そういったことはお金絡みが多い。

 時にはこう言ったように兄上の意向を無視して勝手に書類を改ざんする臣下もいるから困りものだ。



「姫様、少し休まれた方が・・・。」

「!」



 私の机の後ろで待機していた年老いた老婆が私に声をかける。

「クレア・・・。」

 老婆の名前を呼び、ため息をつく。

 クレアは王室付きのメイドたちを統べる侍女長だ。

「今朝から業務に入って休憩も無しにもう五時間になります、流石にお身体に障るかと・・・。」

 クレアは心配そうに声をかける。

「大丈夫です! 兄上が無茶をしているのに比べたらこれくらい!」

「ですが、『お勤め』まであと一時間に迫っております。流石にそれまでに休まれませんと・・・。」

「・・・。」

 仕方無い状況に思わず鼻を鳴らす。

 クレアが本気で心配してくれるのは分かる。

 それに言うことは確かだ。

「分かりました。ではお言葉に甘えて。」

 仕方無く折れ、クレアの提案に乗って机から立ち上がる。

「姫様・・・!」

 クレアはそれを見てほっと胸をなでおろす。

「では、お部屋までお茶菓子を手配致しますね。」

「ありがとう。」

 気を利かせてくれるクレアに礼を言いつつ、部屋を出る。

「・・・。」

 廊下を歩きながら物思いに耽る。

 考えてみると先ほどの執務官に対しては強く言い過ぎた。

 いつもならもう少し諭すように言えるのに、今日は加減が効かなかった。

 これではダメだ。

 仮にも私は王族なのだから、兄上の顔に泥を塗るような立ち振る舞いは控えないと・・・!

「ッ!!」

 思いっきり両手で頬を叩く。

「しっかりしないと!」

 自分に言い聞かせて叱咤していると丁度部屋に着く。

「はぁ・・・。」

 せめて休憩する時くらいは暗いことも考えずにゆっくりと



「ひ~めっさま♪」

「げッ!!!!」



 扉を開けて部屋に入ると、このお城の人間の中で一番会いたくない相手が私の自室に、そしてあろうことか図々しくベッドの上に腰掛けていた!!

(キャット)・・・!」

「あらら! ()()姿()()()()()()()()()のにすぐ分かっちゃうんですね!」

「勝手に私の部屋に侵入した挙句、図々しく自分の部屋のように使っている女なんてあなたぐらいです!!」

「あーちなみに今は『ルタ』って名乗ってます! 間違えないでくださいね☆」

「どうでもいいですそんなことッ!!!」

「久しぶりだからイの一番に会いたかったのに随分待っちゃいましたよ? 相も変わらず仕事熱心なんですねぇ~!」

「出て行きなさいッ!! 兵士を呼びますよッ!!?」

「あらら、ずいぶん気がたっちゃってますね~! ・・・女の子の日ですか?」

「違いますッ!!」

「うーん、じゃあ何なんでしょうね~?」

「あなたが勝手に私の部屋に入ってるからですッ!!」



「ああ!! 分かりました!! 『愛しのお兄様』の件ですね!?」

「ッ!!」



 (キャット)の言葉に図星を突かれたかのように体が跳ね上がる!

「そ、そそ、そんなわけないでしょ!!? あと兄上をそんな気安い呼び方で呼ばないで下さいッ!!」

「えー? おかしいですねぇ~? 姫様こんな呼び方じゃなかったです?」

「あなたの前でそんな呼び方した覚えはありません!!」

「そうですか? 私が城にいた時、姫様を狙う刺客が部屋に侵入してないか、時々夜に様子を見に行ったんですけどね?」

「それがどうしたんですか!! って言うかプライバシーの侵害ですッ!!」

「たまたまタイミングが良かっただけなのかもしれませんけど~?」

「何が言いたいんですかッ!!」




「毎回見に行ったら姫様、誰もいないと思ってベッドの上でシーツにくるまりながらもぞもぞ動いて『お兄様ぁ~♡ お兄様ぁ~♡』って

「わああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁやめなさいいいいいいいいいぃぃぃぃッ!!!!!!!」




 バカバカバカバカバカバカバカバカバカァッ!!!!!

 この女ッ!!!

 なんてことをぉッ!!!!

「ダメですよ~姫様~☆ まだお若いのにあんな遊び覚えちゃ~☆」

「やめなさいって言ってるでしょッ!!!!」

 咄嗟に掴みかかって押し倒し、何度も殴りかかる私に(キャット)は手で出来るだけ防御しながらもお構いなしに小馬鹿にしたような顔で笑いながらからかってくる!!

「いいじゃないですか! この部屋には私たち以外いないんですから♪」

「そういう問題じゃありませんッ!!!」

「まあとにかく?」

 そう言って(キャット)は押し倒されたまま鋭く私を見る。



「気に入らないんでしょ? 愛しのお兄様に気に入られてる彼がお兄様に会っているのが。」



「・・・ふん。」

 気に食わないことを言われて相手にしたくないので鼻を鳴らしてベッドの端に座る。

「分かりますよ♪ 私も今『兄』を王様に取られてる状態ですから、およよ・・・。」

 そう言ってわざとらしく(キャット)は嘘泣きをする。



「今回の『役』は『英雄の妹』ってことですか?」




「ふふ♪」

 無邪気に笑いながら(キャット)は起き上がって私の横に座る。

「まあ端的に言えばそうなりますね♪ だから姫様とは晴れて『妹仲間』ってことになりマース♪ 嬉しいですね~☆」

「私は嬉しくありませんッ!!」

 抱き着こうとする(キャット)を必死に引き剥がそうとして互いに攻防戦になる。

「あなたと同類なんて死んでもごめんですッ!!」

「あらら、ひどーい! それに『妹』の称号を捨てるんですか!? あんなにお兄様がだぁ~い好きなのに!!」

「だからあなたが兄上のことを『お兄様』って呼ばないでくださいッ!!」

「もしかして心配してます?」

「はあ?」

「お兄様と彼の間に~、芽生えちゃいけないものが芽生えて~、起こっちゃいけない間違いが起こっちゃうとか♪」

「何を言ってるんですかあなたはッ!!! 」

「いや、ま、まぁ私的にはぁ別に? そういう、ジャンルも大好物ですから? 別にぃとやかく言うつもりはぁございませんけど?」

「あなたの趣味趣向なんてどうでもいいですッ!! 変なこと言わないでくださいッ!!」

「えー、姫様絶対興味あると思ったのに~!」

「ありませんッ!!」

「まぁとにかく、王と彼が会うのは国の・・・いえ、『世界規模』で重要なことなんです。お話をすることくらい、大人の対応で待ってあげましょうよ。」

「・・・ふん。」

 少し(キャット)を見た後、すぐにそっぽを向いて視線を逸らす。

「そんなこと、あなたに言われなくても分かってます!!」

「あらあら! いらぬ心配でしたか♪ すみませんねぇ☆」

「余計な事言ってる暇があったらさっさと出て行ってくだ・・・ん?」



「姫様、お茶菓子をお持ちいたしました。」



 ドアをコンコンとノックした音の後にクレアが茶菓子の乗ったカート型のテーブルを押して入ってくる。

「クレア!! この無礼者をつまみ出してください!!」

「はい!? 私、何か無礼をいたしましたか!?」

 私の言ってることがわからないのか、 クレアは気まずそうにオロオロする。

「そうじゃありませんッ!! ここにいるでしょッ!! 図々しくて無礼な輩が・・・!」

 真横を指さしながらそう言って視線を戻すと・・・!



「あれ!!?」

 (キャット)の姿はいつの間にか消えていた!!




「・・・姫様。少しお疲れなのでしょう。ゆっくり休まれてください。」

「え、ええ・・・ありがとう、クレア。」

 心配そうに私を見るクレアに誤解とは言え心配をかけたくなくて苦笑いで礼を言った。

 くっ・・・!

 あの女・・・!



~ウルド プロテア城:バルコニー~

 

 クラウスさんに案内されるまま行った先は、庭園にでもできそうなくらいの広さを持ったバルコニーだった。

 左右対称を意識したかのような綺麗な並びの鉢の置かれた花壇が道を作り、その道の先にある細かく 彫刻された装飾の細かいベンチに例の人物が腰掛けていた。

「わざわざバルコニーに呼んですまなかった。謁見の間だと臣下に囲まれて落ち着いて話も出来んからな。」

「いえ、お気遣いありがとうございます。」

 そう言って俺は花壇に囲まれた道を歩き、その人物に深々と頭を下げる。



「お久しぶりです、『グランツ王』。」

「ふ。」



 俺の挨拶にまるで皮肉を吐きかけるかのように王様は鼻を鳴らした。

~リメイク前との変更点~

・門の前でのやり取りをテコ入れ

理由:覆面状態のウルド通すのおかしいだろってことで

・クラウスさんの案内パート追加

理由:王様の元へ着くまでの道筋の作りが甘かったため

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