#30 共闘
~弟子娘 ヨグ村~
「ん、んん・・・!」
ゆっくり目を開けると視界が明るくなって家の天井が見えるのです。
寝室に吊るされたハンモックの上で目を覚ますのです。
「ん・・・?」
部屋を見渡すけど師匠達がいないのです。
「んん、おはようですぅ・・・。」
寝室の扉を開けて部屋を出るのです。
師匠、村長の部屋にでもいるのですか?
「・・・あれ?」
部屋を出てすぐのリビングを見ても誰もいないのです。
おかしいのです。
師匠どころか村長の気配すらないのです。
「?」
不意に家の出入口のドアが開くのです。
「おお! 嬢ぢゃん、起ぎだが!」
「んん?」
村長だったのです。
私に気づくとこっちに歩いてくるのです。
「おはようです村長。」
「はっはっは! 寝坊助だなぁ嬢ぢゃん!」
「朝苦手なのです・・・。」
「早起ぎは得だぞ! わすなんかもう一仕事やってぎだんでな!」
言った通りに何か仕事してたみたいで肩にかけてたタオルで顔を拭ってたのです。
「んん・・・。」
頭がよく回らないのです・・・。
あ、そうだ・・・。
「師匠はどこです?」
「ああ、先さ起ぎでな! ちょっとそごら辺ぶらつぐって言っちゃーよ!」
「そうですか・・・。」
「お、そういえば!」
「?」
村長が何か思い出したかのようにパッと一瞬だけ顔を上げてわたしの上を見るです。
「なんです??」
「あの兄っちゃに頼まぃで渡すてぐれって言われでだんだ。」
「なんです???」
「えぇっと・・・ほれ、これだ!」
「??」
村長が渡してきたのは紙だったのです。
何が書かれてるか分からないようにしてるのか、四つに折ってあったのです。
「何がの伝言がね?『伝言だばわすから伝える』どは言ったんだが兄っちゃは『見ぃば分がる』って言っちゃーんだよ。」
「????」
どういうことです???
「ああ、中身は見でねじゃ。そったのは良ぐねんでな!」
「・・・。」
とりあえず紙を開いて中身を見てみるのです。
〔達者でな!!〕
~ウルド 平地~
朝一で王都の方角に位置する町、『デミオ』に作物を配達する牛車があるって聞いてそれに便乗させて貰っていた。
村長には心苦しいが黙って出て行った。
理由は当然あの弟子娘を村に置いていくためだ。
「痛っててて・・・!」
作物を保護するために書けてある藁の上で俺は背中を押さえる。
「大丈夫お兄ちゃん? 寝違えた?」
「どの口が言いやがんだてめぇ・・・!」
わざとらしい顔で隣から心配してくる犯人を恨みがましい目で睨む。
理由なんて言うまでもないだろ・・・!
「それにしても牛車しかなかったなんて災難だねぇ、馬車のほうが良かったのに。」
「贅沢言うな。馬は高いんだ。村の人間がおいそれと買えるようなもんじゃねぇだろ。」
そう、こういう移動手段に使う動物は牛よりも馬の方が高い。
理由は至ってシンプル、速いからだ。
そしてこの差は一日に行ける移動距離にも影響する。
当然需要も多く、一般人だけでなく貴族や騎士の御用達でもあり、すぐ品薄になることから自ずと値段も高くなってくる。
それに村人は牛を足にする連中が多いのも分かる。
家畜としての価値もあるからだ。
単にあの村が貧しいって訳でもなく、適材適所ってことだろうな。
「いい天気だねぇ。」
「ったく、人をこんな目に合わせてよくもまぁいけしゃあしゃあと・・・。」
「んん?」
「ナンデモナイデス・・・。」
笑顔のまま怖い目でルタに睨まれて目を逸らしながら心にも無い言葉で押し黙る。
理由は当然昨日の負い目だ。
完全に一方的に押し付けられた上、かなり個人的な理由で強引にさせられた約束だったが、それが守れなかったのが元でルタが助けに行った弟子娘共々命の危機にさらされたのは事実だ。
これに関しては弁解の余地もないし言い訳するつもりもない。
「まぁいっか、今回はアレでチャラね♪ 天気もいいから♪」
「チッ・・・。」
昨日の制裁でスッキリしたせいなのか、機嫌がよかったルタは手で太陽の直射を防ぎながら快晴の空を見上げていた。
まぁ確かに、この移動中に大雨だったら最悪だったろうし、少しはマシなのは分からなくもな
「師ぃぃぃぃぃぃ匠ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!!」
「ッ!!?」
声が聞こえて何気なくルタと一緒に見上げていた空から視線を落とし、牛車の後方を見ると結構離れたところからよぉく見知った姿の人影が全速力でこっちに走って来ていた!!
「おいオッサン!! 飛ばせッ!! 牛を全力で走らせろッ!!」
「はあ!? なんだ兄っちゃ!! どうすたんだ!!」
「いいからッ!!」
運び屋のおっさんの肩を掴んで揺さぶりながら全力で催促する。
「無理だって!! 牛だよ!? そったスピード出ねって!!」
「なんでもいいから速くッ!!」
「とぁッ!!」
「!!?」
おっさんと揉めてるうちに結局追いつかれ、追跡者は勢いよく跳び上がって荷車の藁に大の字で飛び込んだ。
「師匠ぉ~! よくも私をコケにしてくれたですねぇ~!」
「ぐっ・・・!」
こいつ・・・!
うつ伏せのまま顔だけ上げた弟子娘は恨めしそうな目で俺を睨みながらもしてやったり顔でほくそ笑んでいた。
「私を出し抜けると思ったら大間違いなのです!」
「よくここが分かったねぇ。」
「フン!! 村の人達に師匠が何処に行ったかしらみつぶしに聞いたらこっちの方角の牛車で移動してるって聞いたのです!!」
ルタが関心していると弟子娘は上半身を起き上がらせて鼻を鳴らしながらドヤ顔する。
「くそ・・・!」
上手い事村の連中に口止めしとくんだった・・・!
「ったく、しつこいなぁお前は・・・!」
「師匠が勝手に逃げるからです!!」
「仕方ねぇだろ! お前が勝手について来るんだからな!!」
「逃げるから追いかけてるだけなのです!!」
「言ってる事野生の動物と変わんねぇだろ!!」
「なんで逃げるのですか!!」
「お前が変な言いがかり着けて追って来るからだろうが!!」
「ストォップ二人とも!!」
「「!!?」」
急にルタが止めに入る。
「なんだよ! 悪いのどう考えてもこいつだろ!」
「師匠です!!」
「そういう話じゃなーい!」
「「え??」」
ルタのやつ、何言ってるんだ?
「お兄ちゃん、魔覚で索敵。」
「はあ?」
魔覚?
「・・・。」
とりあえず米噛みに指を当てて魔覚に意識を集中すると・・・。
「!」
魔力だ。
数は複数、かなり多い数でしかも位置が怪しい。
どれも道の脇の少し離れた所に生えてる木や転がっている岩の陰からだ。
この感じ、まるで隠れてこちらの様子を伺っているみたいだ・・・!
「・・・。」
剣を抜いて臨戦態勢を取る。
木や岩に隠れるような連中だ。
大方おっさんが運んでる食料狙いの山賊かゴブリン・・・前者はついこの間近くのアジトを根絶やしにしたばかりだから普通に考えりゃ後者だろう。
「むぅ・・・!」
弟子娘も気づいて構える。
流石に一人で旅してただけあってこの辺の場数は踏んでるみたいだ。
「・・・。」
俺達が気づいて構えてるのを知ってか、仕掛けて来る気配はない。
まぁ連中も子供の悪知恵くらいの頭はある。
不意討ちの奇襲にならない襲撃なんてやりたくないだろう。
警戒しつつ何も知らないおっさんにこのまま牛車を動かさせる。
このまま構えてやり過ごせば・・・!
「わ、わぁッ!!」
「「「!!?」」」
ドシンという重々しい音と共におっさんが驚いて牛車を止めた!
「あぁ!!」
「チッ・・・!」
目の前の光景に弟子娘は間抜けな声を上げ、俺も面倒な状況に思わず舌打ちしてしまう。
「ホブゴブリン・・・!」
2メートルほどの大きさのホブゴブリンが棍棒を片手に仁王立ちしていた。
恐らくは近くの少し高い崖から跳躍して降って来たんだろう。
「ギギィ・・・!」
「!」
先程隠れていたゴブリン達もここぞとばかりに木や岩から顔を出す。
隠れてたのはこうやって足止めして取り囲むためだったか。
「囲まれたのです・・・!」
「ひぃぃ!」
不安そうな顔をする弟子娘とその脇で『もう駄目だ』とばかりに荷車の上でおっさんは頭を抱えていた。
「チッ。」
めんどくせぇ護衛対象がいる状態でこの布陣はマズイな・・・!
「業火 杖 天」
「!!」
隙を見てルタが取り出していた杖を上に向かって構え、魔法を詠唱していた。
「ギヒァッ!!」
そうはさせまいとゴブリンが一匹、ナイフを持ってルタに飛び掛かって来る。
「ッ!!」
「ギギャァッ!!」
俺はゴブリンを斬り払う。
「拡散 射出」
「「ゲギャァ!!」」
「くっ、このッ!!」
詠唱を続けるルタに続いて二体が同じように跳びかかって来るのでなんとか一匹に切りつけるが、二匹目に対処できず、ルタに迫っていた!
マズイ!
「ふぬんッ!!」
「!!」
弟子娘が持っていた剣でゴブリンを斬り払った!
その隙に・・・!
「砕炎 拡散!」
ルタが魔法を完成させると俺達の十数メートル上空から炎が砕け散った岩のように弾けて俺達の乗っている牛車の周りに降り注ぐ。
「グギィ・・・!」
「ギヒィッ!」
ゴブリンは勿論のこと、前方の道を塞いでいたホブゴブリンもたまらず怯む。
「ルタ!!」
「うん!」
俺が声を掛けるとルタは察しておっさんが持っていた牛の手綱を掴み・・・。
「ハイヤァッ!!」
「ブモォッ!!」
ルタが手綱をしならせ、牛の尻を鞭のように叩くと痛みでパニックになったか、あるいは元々この場から逃走したいという意思があってか、牛は勢いよく走り出した。
馬ほどではないとはいえ、それなりに速い!
「グギィ、グガァッ!!」
ホブゴブリンの脇を抜けようとすると、そうはさせまいとばかりに奴はルタに手を伸ばす。
「させっかっつのッ!!」
「グギャァッ!!」
奴の手を剣で斬り払うと手のひらを斬られて奴は痛みに顔を歪ませて怯む。
咄嗟の連携とは言え、上手くいって奴らの包囲網を抜ける。
だが・・・!
「グガァッ!!」
「ギギィッ!!」
せっかく取り囲んだ獲物を逃すまいと奴等は全速力で走って追ってくる。
「!!」
予想以上に奴等の足は速く、どんどん距離が縮まってくる!
「おい追いつかれてるぞ!? 」
「無理!! これがこの子の限界みたい!」
「チッ!」
流石に馬程速くないし、しかも荷車引いてる状態じゃこのスピードも無理ないか!
「しゃあねぇ、ルタ! このまま牛車走らせてろ!」
「!」
俺が身を乗り出したのに気づいてルタはハッと振り向いてこっちを見る。
「足止めするの!?」
「ああ、護衛を背中に着けて闘うにゃ数が多すぎる! ひとまずおっさんの安全が第一だ!」
「分かった! 気をつけてねぇ!!」
「言われなくともッ!!」
ルタに減らず口を吐きながら荷車から飛び降りる。
「グギィ!?」
俺が立ちはだかったのに気づいて ゴブリン達は足を止める。
「さて、いっちょ遊んでもらおうか!」
ボウガンを前方に、剣を横に構える。
「ググゥ・・・!」
「ギギィ・・・!」
ゴブリン達は忌々しそうに構える。
「ゴアァッ!!」
ホブが棍棒で襲い掛かる。
それを横に躱して円を描くように奴らの周りを走る。
奴らを引っ掻き回す為だ。
「・・・。」
走りながら思考を巡らせる。
敵はホブ一体含めて・・・十九体、か?
まぁやれない数じゃないが別に特別倒さないといけないわけじゃない。
親玉のホブを倒せば戦意を削ぐには充分、撤退するだろう。
「ギギィ!」
「!」
手下のゴブリン達が散らばり始める。
隊列を乱した訳じゃない、その証拠に俺をしっかり視界に収めながら走っている。
「チッ。」
気づけばあっという間に囲まれた。
「やべ。」
マズイな、何処を見ても背後を取られる。
なら・・・。
「・・・。」
目を閉じて魔覚での感知に切り替える。
さて、どいつから仕掛けて来る?
「・・・!」
いや、待て!
ちょっと離れたところから魔力が近づいて来てる!
この見覚えのある青白い魔力、まさか・・・!
「ハァッ!!」
「ギギャァッ!!」
魔力の持ち主の声が聞こえて目を開くとすでにそこには背後からゴブリンを一体斬りつけていた弟子娘がいた。
「師匠!!」
「チッ。」
弟子娘が駆け寄るとすぐにお互いに背中を預けて周りに構える。
「なんで戻ってきた。」
「師匠に私の実力を見せたいです!!」
「勝手にしろ!」
「ハイです!! 勝手にするです!」
一通りやり取りを済ませると俺と弟子娘は互いに正反対の前方の敵に斬りかかる。
「ギィァッ!!」
ゴブリンが二体ナイフを持って飛び掛かって来る。
「ッ!」
俺は地面を蹴って左に跳び、右のゴブリンの攻撃範囲から逃れる。
「こッのッ!」
「ギャァッ!!」
左のゴブリンのナイフの手を掴んで封じ、そのまま胸に剣を突き刺して殺す。
そしてそれを・・・!
「オラッ!!」
振りかぶって投げるように剣を振るって串刺しのゴブリンの死体をホブゴブリンの方へ投げ飛ばす。
「グゥッ!!」
丁度俺に向かって棍棒を振り下ろそうとしていたホブはうっとおしそうに死体を手で弾き飛ばす。
「師匠!!」
「!?」
「ギギャァッ!!」
弟子娘に声を掛けられて後ろを向くと先程回避して放置していたゴブリンが襲い掛かって来ていた。
「くッ!」
咄嗟に剣でナイフを止めて後ろを見るが・・・。
「ウゥゥ・・・!」
「くそッ!」
体勢を立て直したホブが俺に向かって横薙ぎに構えていた。
マズイ!
「このッ!!」
「ゲギャァッ!!」
弟子娘が後ろから俺を足止めしていたゴブリンの背中を剣で斬り裂く。
しめた!
「ゴアァッ!!」
「あらよっと!!」
ホブが棍棒を横に振るうが鍔迫り合いの拘束が解けて自由になった俺は即座に横宙返りで回避する。
だがそれだけじゃ終わらない。
「グッ!!?」
ホブは気づいた。
「おまけだ。」
俺は宙返り様にハンドボウガンで狙いを奴に定めていた。
「グゥッ!」
咄嗟に奴は腕で矢をガードしたが、矢は無慈悲にそのガードした腕に刺さる。
「グゥゥ・・・!」
流石に腕じゃ大してダメージが無かったようでホブが忌々しそうに矢を引き抜く。
「ヘッ!」
だがこれでいい。
その隙に俺はホブから距離を取る。
そしてその足ですかさず前方で弟子娘と戦っているゴブリンの背中に剣を突き刺す。
と丁度そこへ・・・。
「ギギィ!」
「ほッ!」
目の前で弟子娘は襲い掛かるゴブリンのナイフを片手の剣で止める。
そして・・・。
「ふぬんッ!!」
「ギギャァ!」
一歩踏み込んでもう一本の剣でゴブリンの腹を通り抜け様に斬り裂く。
なるほど、それなりに戦えるな。
「けど・・・。」
「!?」
「ギィィッ!!」
弟子娘はふと背後を見るとゴブリンが飛び掛かっていた。
だがそれをすかさず俺は横入り様に横腹へ剣を突き刺す。
「師匠!」
「視覚に頼り過ぎんな。ちゃんと魔覚も使え。」
突き刺したゴブリンの死体を剣を振るって捨てながら説教する。
「ハイです!」
弟子娘は目を輝かせて返事をする。
「ギギャァッ!!」
会話の最中もお構いなしに俺と弟子娘、互いの背後からゴブリンが飛び掛かって来るが・・・。
「「ギャアァッ!!」」
同時にゴブリン達は悲鳴を上げる。
俺と弟子娘が同時に振り向いてそれぞれゴブリンの腹を斬り裂いたからだ。
「行くぞ、手ぇ貸せ。」
「ハイです!」
腹を切り裂かれ、白目で 力なく地面に落ちるゴブリンを尻目に俺と弟子娘は走り出す。
「ギィッ!!」
布を巻きつけた石を使った投石のゴブリンが三体、俺達に向かって石を飛ばしてきた。
だが非力なゴブリンでは大した速さの投石にもならず、俺と弟子娘はそれぞれ走りながら横にずれて回避し、斬りかかる。
だが・・・。
「ギィ・・・!」
投石持ちのゴブリン達はにやついていた。
何故なら・・・。
「ギギァッ!!」
「!」
俺の攻撃の隙を突こうと脇からゴブリンが一体、槍を持って襲い掛かって来た。
「チッ!」
急ブレーキをかけて身体を仰け反れせて槍の軌道から逃れる。
その瞬間・・・!
「師匠!」
「!」
弟子娘が割り込んで槍持ちに斬りかかる。
「ぬんッ!」
「イギャァッ!!」
肩から胴体に渡って斬り裂かれたゴブリンは断末魔を上げて後ろに倒れる。
「ギィ・・・!」
俺を倒す目論見が外れた投石持ち達は顔を青くして俺を見上げていた。
「サァンキュッ!!」
「ギャァッ!!」
「ヒギァッ!!」
「グゲァッ!!」
弟子娘に礼を言いながら右薙ぎに左にいた一体の胸元を斬り裂き、剣を振った勢いのまま振りかぶって左薙ぎに真ん中のゴブリンの喉元を斬り裂き、剣を持ち換えて逆手持ちにして最後の右の一体のどてっ腹に深々と突き刺した。
最後の一体から剣を引き抜くと三体の投石持ちは情けなく前方に倒れる。
それを見届ける間もなくそいつらを擦りぬけて走って行く。
「ギィ・・・!」
ゴブリン達が迎え撃とうと構えているのに対し・・・。
「ギギィ!!?」
俺たちは相対する直前、左右に分かれて走り出す。
そして群れを挟み撃ちする形で同時に左右から飛び込んで行った。
「グゲェッ!!」
一匹目のゴブリンの喉元を切り裂き、返す剣でもう一体の ゴブリンの脳天に剣を突き刺す。
「・・・。」
丁度その時近くに生きているゴブリンはいなかったのでボウガンの矢を取り出して装填
「ギギィァッ!!」
しようとした矢先にそうはさせまいと一匹のゴブリンが勢いよく両手で持った槍で突撃してくる。
「おっとぉッ!」
それを宙返りで回避しながら矢の装填を終わらせる。
「そらよっとォッ!」
「ギャアッ!」
子供の背丈しかないゴブリンの頭上を通過しながら剣を持ち直して背中を切り裂く。
「グゲッ!!」
そのまま空中で少し離れたゴブリンに向かって即座に矢を放つと丁度脳天に食らったゴブリンは間抜けな断末魔をあげて後ろに倒れた。
「!」
丁度その奥で弟子娘が戦っていた。
「ギィッ!!」
「こっちです!!」
鉈を振り下ろすゴブリンの攻撃に対し、地面を蹴った横移動で回避する。
だがそれだけじゃない。
「ふぬんッ!」
すぐに地面を反対方向に蹴って戻り、ゴブリン側面に回り込んだ。
「ぬんッ!」
「ギヒェァッ!!」
そのまますり抜け様にゴブリンの背中を斬り裂く。
「!!」
「「ゲェァッ!!」」
弟子娘が背後に気づいてすぐに振り向くと槍持ち二体が前方に槍を構えたまま突撃し、今にも突き刺そうとしていた。
だが・・・。
「ギィ!!?」
弟子娘の姿がすぐに消えてゴブリン達は目を見開いて間抜けな声を上げる。
だが離れていた俺はすぐに分かった。
弟子娘は上にいた。
足に上昇の光筋を浮かべながら勢いよく地面を蹴っており、その強すぎる勢いを逃がすように宙返りをして未だに気づいていない一体のゴブリンの元へ落下し・・・。
「後ろばっかりとって・・・!」
「ギヘァッ!!」
ゴブリンの肩に足を着ける形で着地しながら片手の剣で脳天に剣をブッ刺し、剣を引き抜いて倒れるゴブリンを蹴るように跳んでまた宙返りで地面に着地し・・・。
「ずるいのですッ!!」
「ギギャァッ!!」
着地と同時に地面を蹴ってもう一体に襲い掛かり、なんとか弟子娘を視界に収めて体勢を立て直そうとしたゴブリンに反撃の隙も与えず通り過ぎ様に腋腹を斬り裂いた。
「どうですか!? 師匠!! 私の戦いか
「ッ!!」
「へ?」
目をキラキラさせて俺を見る弟子娘の肩を即座に掴んで横に跳ぶ。
「ゴアァッ!!」
丁度弟子娘がいた辺りにホブゴブリンが思いっきり地面にめり込む程の勢いで棍棒を叩きつけていた。
「わッ! わッ!」
思いっきり跳んだ拍子に地面に寝ころんでいたので慌てる弟子娘と一緒に即座に立ち上がってホブゴブリンから距離を取る。
「油断すんな。」
「ご、ごめんなさいです・・・。」
ホブに向かって構えながら弟子娘を叱咤すると弟子娘は構えながらだが顔をしゅんとさせていた。
「おい。」
「へ?」
「前方放出系の魔法、撃てるか?」
「・・・!」
俺が作戦を提案すると弟子娘は曇った表情を急に明るくさせる。
「ハイです! 撃てるのです!」
「じゃあ頼む。」
「ハイです!」
「よし。」
弟子娘が作戦を承諾すると俺はすぐにホブに向かって走り出す。
「ゴアァッ!!」
咆哮しながらホブは棍棒を振り下ろして来る。
俺は左に跳んで回避する。
「氷 剣」
「ッ!!?」
弟子娘が魔法を詠唱し始めるとホブはそっちを向く。
どうやらこっちの狙いに気づいたようだ!
「グギァァッ!!」
すぐに魔法を阻止しようと弟子娘に向かって走り出そうとするが・・・。
「おい。」
「グゥッ!!?」
斬りかかる俺に気づいてホブは棍棒で俺の剣を止める。
「つれないじゃんかよ。」
わざと構って欲しそうな台詞を吐きながら鍔迫り合いに持ち込んでホブの進行を阻止する。
「放出」
その隙に弟子娘は詠唱を完成させ・・・!
「氷弾!!」
弟子娘が前方に構えた剣の先から青白い光が弾けたかと思うとそこから氷の塊が弾丸のようにホブゴブリンに飛んで行く。
「グガゥゥッ!!」
氷の弾丸はホブゴブリンの左の上腕に命中した。
だがそれだけじゃない。
「ウグゲェ!!?」
命中した箇所が凍り、そこから侵食するように氷結が広がり、ホブゴブリンの肩から手首にかけての全てが真っ白い氷の塊になってしまう。
「ウギ、ギギィ!!」
必死に動かそうとするが固まってしまった腕は上手く動かせないみたいだ。
「これで片腕は封じたのです!!」
「いや、違う。」
「へ?」
俺が否定すると弟子娘は間抜けな声を上げる。
そんな弟子娘の様子なんてそっちのけで俺は右口角を微妙に吊り上げてほくそ笑んでホブを見ながら・・・。
「両腕だ。」
「グウゥ!!?」
ホブも異変に気付いた。
凍っていない右腕がだらんとぶら下がっている。
「グギ、グガァ・・・!」
こちらも必死に動かそうと身体を揺するが腕はまるで腕の通ってない服の袖のようにぶらんぶらんとホブの動きに合わせてぶら下がっているだけだった。
「どうしちゃったのです?」
「さっき『毒』仕込んどいたんだよ。」
「い、いつの間に・・・!」
「へ。」
仕込みはさっき奴に撃った矢だ。
実は矢じりに神経毒の元になる『ヌマゴケアナバチ』を原料に作った毒液を塗った自家製の毒矢だ。
回りは遅いが効いてくるとかなり広い範囲の部位を麻痺させて動けなくするえげつない代物だ。
さっき奴が利き腕と思われる右腕で矢を防御したのはかえってそれが好都合だった。
こうなるのが分かっていて戦う位置取りを考えて弟子娘が奴の左腕に魔法を当てるようにも仕向けた。
これでこいつは戦う手段の大部分を失った。
とはいえだ。
「ガアアァァッ!!」
ホブはやぶれかぶれに突っ込んでくる。
まだ負けを認めるつもりはないみたいだ。
だが結果は既に見えていた。
「バカが。」
もうそれはただ無様で見苦しい抵抗だ。
俺と弟子娘は同時にホブに向かって行く。
「おらよッ!」
俺は走る勢いを利用して足を突き出して地面を滑りながらホブの左を抜け、すり抜け様に奴の右脚を斬り裂く。
「グギッ!」
ホブはよろけるが奴にとっての不幸はまだまだ終わらない。
「ぬんッ!」
「グォッ!?」
弟子娘が右にすり抜け様にホブの左腋腹を斬り裂き、奴は更によろける。
その隙に俺は身体を起き上がらせながら奴の方へ向き直り、思いっきり跳躍して奴の背後に飛び掛かって虫のように奴に組み付き・・・。
「ご苦労さんッ!!」
奴の頭を押さえてうなじを晒し、そこに思いっきり剣をブッ刺す。
「グギィ、ゴッ・・・ゴアァ・・・!」
更に剣先の刃をグリッと動かして奴の肉、血管、神経細胞を念入りにグチャグチャにしてやると奴は血を吐きながらうめき声を上げて倒れた。
「・・・ふぅ。」
ホブゴブリンから剣を抜いて辺りを見渡すともう生きているゴブリンはいなかった。
やれやれ、ホブだけ倒して撤退の予定が大幅に狂っちまったみたいだ。
「どうですか!! 師匠!! 私、戦えるのです!! 私、弟子になれるですよね!?」
剣を持った両手を広げながら無邪気に聞いて来る弟子娘。
それに対し俺の返答は・・・。
「却下。」
・・・まぁ、当然の返答だよな。
~リメイク前との変更点~
・ウルド達の移動手段が徒歩から牛車
理由:もう既にヨグ村始め辺りからフラグ立ててたため
・ゴブリン軍団との戦闘追加
理由:道中が平和過ぎてつまらなかったため




