#20 逃走
~ウルド 森林~
「どうですかッ!! 私の戦いッ!!」
弟子娘は目をキラキラさせて俺に迫って来る。
「・・・。」
まぁ正直面喰らってる。
上昇と魔法をどっちも使う冒険者なんて奴は普通はいない。
何せどっちも修行に時間が掛かるし習得も困難だ。
何より適性が無ければそもそも習得する事も不可能、だから俺だって相当苦労したんだ!!
この弟子娘の年で両方出来るなんてどう考えても不可能なのは身をもって理解してるつもりだ!
だからこそ思う。
こいつ、何者だ!?
「・・・ッ!」
とにかくだ!
此処は冷静に・・・!
「上昇と魔法・・・両方使えるなんてすげぇな、どうやって覚えた?」
コイツの前では俺は上昇も魔法も使えないただの斥候だ。
とりあえず驚いたフリをしてのらりくらりと
「またまた~!」
「あ?」
弟子娘は『何言ってんの~!』とばかりに茶化すように笑い出す。
「なんだよ。」
「私知ってるんですよ?」
「知ってる? 何が?」
「師匠、私と同じ戦い方が出来るんですよね!」
「ッ!!」
こいつ・・・!
「・・・なんの話だ?」
すぐにシラを切る。
薄々そんな気がしたがやっぱりそうか!
まさかこいつ・・・!
「私は見たのです! 師匠が巨大な雷の剣を出して戦ってたところを!」
「・・・。」
やっぱりだ。
あの現場を見られてる・・・!
マズいな・・・!
「私は探していたのです! 私のこの戦い方の師になってくれる人を!!」
「あんな滅茶苦茶な戦い方のか? 普通いる訳ねぇだろ、上昇と魔法を一緒に使う冒険者とか・・・。」
そう、普通は居ない。
上昇と魔法の才能はハッキリ別れる事が多いし、万一、もし奇跡的に両方に適性があったとして習得出来たとしてもだ。
それらを一緒に使って戦った後の負荷は馬鹿にならない。
下手をすれば命に係わるものだ!
俺だって何度もそれで死にかけたからよく分かる!
「それに充分戦えてるだろ。」
「いいえ。残念ながら未完成なのです・・・。」
「そうなのか?」
「そうです! その・・・言いにくいのですが・・・。」
弟子娘は気まずそうに視線を逸らす。
「なんだ?」
「故郷を出て色んな町で冒険者をやっていたのですが・・・見習いのまま出て行っちゃったので、巧く戦えず、何度も仲間の足を引っ張ってパーティをたらい回しにされたのです・・・。」
弟子娘はシュンと視線を落とす。
だがすぐに拳を握り・・・。
「それが悔しかったのです・・・! だから、ちゃんと師匠を探して弟子入りして一人前になりたいのです!!」
「だったら師匠に出来そうな奴なんていくらでもいるだろ。」
「ダメなのです!」
「なんで?」
「ベテランの冒険者はみんな戦士職と魔法職に分かれてる人ばっかりだから、師匠になってもらっても上昇か魔法のどちらかしか教えて貰えないのです!!」
「・・・。」
まぁ確かにそうだ。
理由は先ほどの説明通り、才能が別れる事が多いし、負荷が馬鹿にならないからな。
長い目で見たらどんな冒険者ですらどっちかに専念する。
「そんなにこだわる事か? どっちかだけ覚えても冒険者としてやっていけるだろ。」
「この戦い方じゃないとダメなのですッ!!」
「ッ!?」
弟子娘は顔を上げて食って掛かるように叫ぶ。
「なんでそんなにこだわるんだ?」
「だって・・・!」
弟子娘は再び目を伏せる。
「ッ!! そ、そんなことはどうでもいいじゃないですかッ!!」
急に再び顔を上げたかと思うとまた食って掛かるように叫ぶ。
「えぇ・・・!」
強引にはぐらかされた。
なんだこいつ・・・。
「けどそんな冒険者なんてそうそう見つかる訳ないだろ、まさか当てもなく大陸中歩き回ったとでもいうのか?」
「いいえ、当てはあったのです!!」
「は?」
「吟遊詩人の唄で聞いたのです! 『閃光の剣で魔王を倒した英雄』がいるって!」
「・・・!」
まさかこいつ・・・!
「『閃光の剣』・・・それはきっと魔法を纏った剣だと思ったのです! その人ならきっと、私の理想の冒険者としての戦い方を教えてくれるって!」
「・・・。」
「あの雷の剣を見てピンと来たのです!! きっとあなただって!!」
「!!」
そう言って弟子娘は俺を真っ直ぐに指さす。
「あなたが『英雄アルト』ですね!!」
「・・・。」
完全にネタが上がっている以上、言い逃れは厳しい。
だが・・・。
「人違いじゃねぇか?」
それでもシラを切る。
正直意地があった。
俺は自分の事を英雄呼ばわりしてくる奴が大嫌いだ。
そんな奴にそうそう『アルト』として話をしてやるつもりはない。
「いいえ、間違いなくあなたなのです!!」
「見間違いじゃねぇか? どこからその現場見てた?」
「山の麓の森の木の上からです! 山の上で小さな光が見えて望遠鏡でも見えにくくて降りて見に行ったら丁度師匠があの雷の剣を出していたのです!!」
「はっ、ほらな!」
「?? え???」
突然呆れたかのように鼻で笑ってやると弟子娘は目を丸くして困惑する。
「師匠?」
「望遠鏡でギリギリ見える距離だろ? それに俺も見てたけどあの巨大な雷の下だ。眩しすぎてよく見えなかったんじゃないか?」
「み、見間違う訳ないのです!! 上昇でよぉ~~く近づいて見たのですッ!!」
「・・・。」
チッ、効果が薄いか。
何か別の言い回しを・・・あ、そうだ。
「だったら魔覚で俺の事視てみろよ。」
「へ??」
「あの規模の魔法だろ? だったら魔力も相当なもんだ。やった奴だったら魔力見れば一発だろ。」
「むむ!! そうなのです!! それなら師匠だって言い逃れ出来ないのです!!」
そう言って弟子娘は喜んで目を閉じて魔覚に意識を集中する。
だが・・・。
「・・・アレ?」
弟子娘はぽかんと口を開けて目を開ける。
あまりに上手く騙せたせいで間抜けな姿に顔がニヤけそうになるがなんとか耐える。
「クソみたいな魔力が煙みたいに出て来てるだけなのです・・・。」
「クソみたいって・・・! ま、まぁそう言う事だ。とても魔法を使えるような魔力じゃないって魔術師の知り合いにも烙印押されたよ。」
まぁリィナもつい最近まで騙されてたんだけどな。
「うぅ・・・!」
いよいよ詰んできた弟子娘は目を逸らして黙り込む。
流石にもう諦めるだろうな、やれやれ。
「でも・・・やっぱりあなただと思うのです!!」
まぁだ食い下がるのかよめんどくせぇな!!
いやいや落ち着け?
状況は俄然こっちが有利なんだ。
毅然と対処すれば大丈夫大丈夫。
「無理があるだろいくらなんでも、魔法が使えないんだぞ俺? どう考えたって人違いだ。」
「そ、それは・・・その・・・うぅ・・・!」
弟子娘は必死に両側頭部に人差し指を当てて蹲って考え込む。
「あッ!!」
何か思いついたかのようにパッと顔を上げる。
けど無駄だ。
何言ったって当てずっぽうだし、真実に行きつくわけが
「師匠は何かしらの方法で力を封印してるのですッ!!」
「ッ!!」
ギックゥゥッ!!!!!!
「な、何言ってんだよ!! 劇場作家の描いた脚本じゃあるまいし、そんな都合のいい設定がある訳ねぇだろ!! 第一どうやって封印してるってんだよ!?」
動揺を悟られまいと必死に弟子娘に言葉を吐きかける。
「それは・・・うぐぅ・・・!」
弟子娘は再び頭に人差し指を当てた変なポーズで考える。
「うぐぅ・・・!」
だが何も考えつかないみたいだ。
「ほ、ほら見ろ。何変な勘違いしてんだか・・・。」
やれやれとばかりに両手を肩の高さに上げて広げながらため息をつく。
「?」
だが弟子娘の様子がおかしい。
俺を注意深く見ている?
「それです!!」
「あ?」
弟子娘は真っ直ぐに何かを指さす。
その先は・・・。
「その左手に嵌められた指輪ですッ!!」
「・・・。」
あー。
昨日何食ったっけ?
魚の照り焼きだったっけ?
えーっと。
「その指輪がきっと師匠の力を封印する指輪なのです!!」
「・・・あははは。」
固まったまま笑いが零れる。
いや待て落ち着け?
こいつはアホだ。
当てずっぽうで推理してるだけだ。
適当いってとにかく俺がアルトだって証拠上げたいだけ。
真実に行きつくわけがない。
ないんだ。
それがなんで?
ねぇなんで??
「・・・!!」
なんで当てずっぽうだけで此処まで行きつくんだよッ!!!!
マズいマズいマズい!!!!!
どうにか言いくるめて注意を逸らさないと・・・!
「ハッ、馬鹿も休み休み言え! 第一なんでそんなことする必要がある? 魔法が使えるのにわざわざ自分の魔力封じて何かメリットでもあんのか?」
「それは・・・その・・・!」
上手く論破されて気圧される弟子娘だが今度はこちらを睨む目を緩めない。
恐らく自分が追い詰めて来ている状況に気づいてる・・・!
「うぅ・・・!」
弟子娘は言葉が思いつかず行き詰まる。
どうやら俺のブラフが効いてるみたいだ。
だが油断するな・・・!
こいつさっきからまぐれ連発で此処まで行きついてる!
此処で畳みかけないと・・・!
「大体そんな英雄様がこんな辺境の魔物相手にしてるわけないだろ。この国にいるとしたらそれこそ王都とかじゃないか?」
「うぐぅ・・・!」
追い打ちをかけるとどんどん弟子娘は勢いを失う。
よし諦めろ!!
偶然なんてそうそう何度も起こるわけじゃないんだ!!
これでチェックメイ
「とにかくッ!! その指輪を取るのですッ!!」
「・・・ッ!!」
ヤバイ・・・ヤバイヤバイヤバイッ!!
こいつなんでアホっぽい癖にこんなルッカみたいに鋭いんだよ!!
どうにか誤魔化さないと・・・!
考えろ考えろ考えろ!!
「・・・一ついいか?」
「なんですかッ!!」
「もし指輪取って何もないんだったらどう責任とるんだ?」
「そ、それは・・・ちゃんと責任取るのです! 土下座でもなんでもするのです!!」
「そんなもので済むと思ってんのか?」
「へ?」
弟子娘は目を丸くする。
「お前は俺を捕まえて此処までめんどくさく絡んだんだぞ? 謝って済むわけねぇだろ?」
「じゃ、じゃあどう責任取れって言うのですか!」
「お前を奴隷商に売り飛ばす。」
「えぇ!!?」
「いいのか? 奴隷になったら冒険者の夢云々言えないだろうなぁ、酷い目に合わされて毎日やりたくもない仕事させられて惨めな人生送るんだぞ?」
「な、ななな、なんでこれぐらいの事でそこまで責任取らないといけないのですか!!?」
勿論弟子娘の言ってる事が正論だし、俺の言ってることはどう考えても頭のイカれた狂人の要求だ。
だが流石に倫理的にそれは大問題だろう。
第一、奴隷商売自体この国じゃ違法の取引だ。
仮にも俺だって日の下を歩いてる人間だし、本当にやる訳がない。
完全なハッタリ、コケ脅しだ。
だが・・・。
「何言ってんだ? この状況、どう考えたって俺が被害者だろ。加害者のお前に責任の取り方決める権利があると思ってんのか?」
あくまで引かない。
脅しは度胸が命だ。
言うなれば今にも切れそうな綱で綱引きをするようなギリギリのせめぎ合い。
ビビッて綱を放した方が負けのチキンレースだ。
「今諦めるなら許してやる。それともこんな不毛な賭け、まだやるか?」
「うぅ・・・!」
弟子娘はかなり顔を青くして目を伏せる。
脅しが効いてかなりビビっているみたいだな!
そうだ!!
そのまま潰れろ!!
諦めて勝負を降りろ!!
大人の怖さも知らないクソガ
「やるのですッ!!」
「・・・!」
・・・聞き間違いだよな?
「・・・すまん、今、何て言った?」
「だから!! やるのです!! 指輪を取るのを見て間違ってたら・・・ど・・・どど・・・!」
「ど?」
「すぅぅぅぅ・・・!」
弟子娘は大きく息を吸いこんで・・・。
「奴隷にだってなんだってなってやるのですッ!!」
「・・・。」
おいおい、なんかすげぇ罪悪感があるんだけど?
勿論奴隷云々はハッタリ。
本当にそんなことする訳が無い。
けど目の前の年端もいかない女の子、つまりは幼女に『奴隷になる』って言わせるとかさぁ・・・。
俺めっちゃアブない奴じゃんッ!!?
って、んな事どうでもいいわッ!!
現実逃避しとる場合か俺の馬鹿ッ!!
マズいマズいマズいッ!!
なんでこいつこんな肝っ玉座ってんだよッ!!
いや、なんか決意が固いってやつか!?
何がこいつを此処まで駆り立てるんだッ!!
「本当に・・・いいんだな?」
「いいですッ!! さっさと指輪を外すのですッ!!」
「・・・。」
くそ・・・こうなったら!
「分かった・・・。」
俺は弟子娘に見えるように左手を翳し、指輪に手を掛けた。
~とある村人 ヨグ村~
「コラ! タザクぅ! 袋足りねぇぞ!! さっさともってごい!!」
近ぐで作物運び疲れだせがれに激飛ばす。
「そった急がさねでも作物は逃げねぇよ!!」
「そうやって怠げでると日が暮れるまで収穫できねぞ!! シャキっとせい!!」
今の季節は作物の収穫時だ。
今年はむったどよりすっかり野菜も育ってるし忙しい!
人手がもっと欲しいくれぇだ!
「んんだぁぁ・・・!」
せがれは嫌な顔しながらも走ってぐ。
まぁ、もうちとしたら休まへげやるかな?
「んぉ?」
太陽の光昇りぎっでながたせいか、陽の影見えで人いるごとに気づいてそっちを見る。
「なんだおめんら、この村さ何が用が?」
見るどそこには数人の男だぢがいだ。
しかも柄が悪りぃ。
いや、もしかすっと・・・!
「おめんら・・・!」
~ウルド 森林~
「・・・外すぞ?」
「・・・は、はいですッ!!」
弟子娘は目を泳がせ、汗をだらだら流しながらも真剣に指輪を凝視する。
「・・・。」
俺は指輪を抜
「・・・くっ!」
こうとするが、指輪は動かない。
あれぇ?
おかしいなぁ!
全然抜けないぞぉ?
なんでかなぁ?
「・・・・・・・・ふぅ。」
一通りやってから汗をかいたかのように右拳で額を拭う。
「悪い、抜けないみたいだ。数年前に着けたせいかな? 指が太くなって抜けなくなっちまったみたいだ。」
「・・・・・・ぶはぁ。」
弟子娘は息を止めていたのか、思いっきり息を吐き出し・・・。
「な・・・なぁんですかそれぇ!!」
緊張の糸が解けたのか、急に表情が緩み切って笑みを浮かべる。
「悪いな!! あはははは!!!」
「あははははは!!」
俺が笑い出すとつられて笑い出す弟子娘。
先程の張り詰めた空気が一気に緩み、辺りに和やかな雰囲気が
「ふんッ!!!」
「くッ!!!!」
湧き上がるわけがなかった。
弟子娘が指輪に手を掛けようとしたのを俺は避け、さらには弟子娘の頭を右手で掴んだまま指輪から遠ざける。
「なッにッしッやッがッるッ!!!」
「うぎぎぎ、誤魔化さないで指輪を取るのですぅッ!!」
「取れねぇっつってんだろッ・・・!」
「ホントに取れるか私が確かめてやるだけなのですッ!!」
「ふざけんなッ!! 指輪に触んじゃねぇッ!!」
「やっぱりその指輪怪しいのですぅッ!!」
くっそォォッ!!!!
なんでこうなった!!
途中まで上手く行ってたじゃんッ!!
全部論破してほぼほぼコイツの詰みだったじゃんッ!!!
それがなんで逆転して俺が詰んでんだよチキショォッ!!!
奇跡連発の当てずっぽうの癖にィッ!!!
いや冷静になれ冷静になれぇ!!
こんな時こそ・・・!
「ッ!!」
そうだ!!
ルタだ!!
この手の駆け引きのスペシャリストいたじゃねぇか!!
初めて会った時に俺をエグい目に合わせたあいつならきっと・・・!
(な・ん・と・か・し・ろ!!)
丁度見ていたルタと目を合わせに口パクで意思を伝える。
「ふふ・・・!」
俺の意思が伝わったのか、ルタは不敵に笑い・・・!
「・・・。」
腰を少し右に傾け、逆方向の左に上半身を傾け・・・。
「・・・。」
手を肩の近くまで上げて手の平を天に向かって広げ・・・。
「・・・。」
目をぎゅっと閉じて眉をハの字にし・・・。
「~♪」
わざとらしくお茶目に口の端から舌を出して笑みを作る。
その格好の意味は・・・!
(O☆TE☆A☆GE♪)
こんのクソがああああああああぁぁぁぁッ!!!!!!
お前さっきコイツとメンチ切っていがみ合ってただろうがぁッ!!
今こそその私情ぶつける所だろうが空気読めよチキショォッ!!
くそぉ・・・こうなったら最後の手段だッ!!
「おい!! 向こうに誰かいるぞ!!」
突如俺は弟子娘の背後の先を見て叫ぶ。
「今更何言ったって騙されないです!! 大人しく指輪を
「本当だって!! 俺と同じコート着てるし、なんだったらあっちの方が強そうだぞ!?」
「もう嘘は聞き飽きたのです!! そんなわけが・・・!」
そう言いつつ弟子娘は視線が段々指輪から逸れていく。
「そんな・・・わけ・・・が・・・!」
結局気になって後ろに視線が移っていき・・・後ろを見ようとしたその時だ!!
「ハイ隙ありィッ!!!」
「ぐへぇッ!!?」
俺はその隙を逃さず弟子娘に足払いをかけ、掴んでいた弟子娘の頭をそのまま頭を地面に押し付ける様に叩き付ける。
「痛ったぁッ!!! 頭が、割れッ、これッ!! あがぁッ!!」
よっぽど打ち所が悪かったんだろう。
弟子娘は後ろ頭を手で押さえて地面を左右にゴロゴロしながら狂い悶える。
「おいッ!!」
直ぐ様ルタに掛けよって左肩を掴んで声を掛ける。
「うっわぁ、痛そぉ・・・!」
「観察しとる場合かッ!! 逃げるぞッ!!」
半ば強引にルタを引っ張る形で走る。
「やん♡ お兄ちゃんってば強引~♡」
「オーケー置いてく。」
「あぁん!! ごめんってばぁ!!」
俺が無慈悲に手を放すとルタは置いてかれまいと必死についてくるように走り始める。
ったく、最初からちゃんと真面目に走れっての!!
「ふ・・・ふふふ・・・!」
「!!」
弟子娘は変な笑い声を上げて立ち上がる。
くそッ、もう復活しやがっ
「ふははははははッ!!!」
「!!!?」
気味悪い高笑いで走ってきたかと思ったら瞬時に追い付いて横に着いて来やがった!!!
「師ぃぃぃ匠ぉぉぉ? 私を本気にさせやがったですねぇぇぇ!!」
弟子娘は鬼の形相で笑いながらその頬には下から這うように青白い光の筋が浮かんでいた。
「くっそぉッ!!」
そうだった!!
コイツ、上昇使えるんだった!!
だったらこっちも・・・ってそれもダメだッ!!
そんなことすりゃコイツに『俺がアルトです!』って認めてるようなもんだ!!
やべぇ・・・このままだと・・・!
「ッ!!」
「ふっふっふ!!」
悪い予感を立てる間もなく追い抜かれて回り込まれてしまった!
「!!」
だが俺はある異変に気づく!
「観念して私を弟子に
「へッ・・・!」
俺は不敵に笑う。
「? 師匠?」
「なぁお前・・・。」
「なんですか? 今更何言ったって私は
「『足』・・・大丈夫か?」
俺は弟子娘の足を指さして警告した。
「は? 何の話ですか?」
弟子娘は気づいていないが既にその足はがくがくと僅かに震えていた。
俺にはこのあとの展開が予想出来た。
「ふふ♪」
無論、ルタも一緒だろう。
何故なら・・・。
「騙した矢先にハッタリなんて
「ルタ、行くぞ!」
「あいさー♪」
ルタに合図して走ると俺とルタは弟子娘の左右を通り過ぎて更に逃げる。
「な!? 逃げられるとでも・・・!」
弟子娘が振り返って走ろうとしたその時だ!!
「いぎッ!!!?」
弟子娘は目が飛び出るほど見開き、悲鳴にも似たうめき声を上げて倒れる。
「へへ・・・!」
俺は走るのをやめて振り返り、弟子娘の無様な姿を眺める。
「あ、足が・・・動かな・・・た、立てないのです・・・!」
弟子娘は必死に立ち上がろうとして地面に手を突いて上半身を起き上がらせるが肝心の足に力が入らないせいか、それ以上身体を立ち上がらせることが出来ないみたいだ。
「ふふふふ・・・!」
「ぷぷぷ・・・!」
あまりの無様さに俺もルタも意地の悪い笑みが抑えきれなくなる。
「師匠・・・!?」
「ッッバァァァァァカッ!!!!」
口いっぱいに溜めてから一気に言葉を吐き出して弟子娘を罵倒する。
「師匠!!?」
「上昇の使い過ぎだぁ!! 反動が来て動かなくなったんだよぉッ!!」
上昇は使い過ぎ注意の諸刃の剣とも言える能力だ。
運動神経を超人的にさせる代わりに肉体に大きな負担を掛ける。
当然使い過ぎれば身体を壊すのは理論的に明らかな話だ。
弟子娘はさっきゴブリン達との戦闘でかなり上昇を使って走り回ったはずだ。
その上で俺達の追跡に上昇を使えば当然誰でもこの運命は予想出来ただろう。
「そんなことないのですッ!! 私はまだ動け・・・痛い・・・痛ったああああぁぁぁ!!!?」
弟子娘は悲鳴を上げる。
当然だ。
酷使された肉体が悲鳴を上げれば激痛を全身に伝えるのはガキでも分かるだろう。
「うぷぷ!! 無様だね♪ さっきまであんなにイキってたくせに♪」
ルタもここぞとばかりに弟子娘を馬鹿にする。
「黙れです貧乳女!!」
「ああ”!?」
「もう良いだろッ!! 行くぞ!!」
弟子娘がルタに喰ってかかるのを真に受けてまた掴みかかろうとしたので腕で進路を塞いで止める。
「『行く』・・・って師匠!?」
「なんだよ!」
「こんな所に私を置いて行く気ですか!?」
「お前がしつこく追い回してきたからだろうが! 自業自得だ!」
「こんな森の中動けない女の子一人置いてく気ですか!? あなたそれでも人間ですか!!?」
「一人前の冒険者目指してた奴が都合の良い時だけ女を武器にしてんじゃねぇよ。」
「うぐぅ・・・!」
真っ向からの俺の正論パンチに弟子娘はぐうの音も出ないみたいだ。
「じゃあな。」
俺は踵を返し、無慈悲に歩き出す。
「お兄ちゃんの鬼畜~♡」
「うるせぇ。」
ルタも茶化しながらついて行く。
「ちょ、ちょちょ、本当に!!?」
「大丈夫だ、ちょっとすりゃ痛むけど身体動かせるくらいには回復する。」
弟子娘が慌てた声で後ろから声をかけて来るが歩を止めず、そのまま淡々と返す。
「その間に魔物に襲われたらどうするんですか!?」
「まぁ、その時は運がなかったと思ってくれ。」
「もしそうなったら三代先まで呪ってやるのですッ!!」
「あ~・・・一代先も続かないかな。相手いねぇし。」
「もしいなかったら私が作ってあげようか♪ 一代先♡」
言いながらいちゃつくように腕に手を回してくっついてくるルタ。
恐らくは弟子娘に見せつけるための嫌がらせだろう。
「危ない発言やめろ! 仮にも妹だろうが!」
「お兄ちゃんなら私、どんなハードな鬼畜プレイでもオーケーだよ♡」
「黙れイカレ変態女ッ!!」
「この鬼畜ぅぅぅぅぅぅッ!!!」
「「聞コエマセーン!!」」
弟子娘の叫びに俺とルタは一緒に耳を塞いで誤魔化した。
~弟子娘 森林~
「ふぎっ!! んぬぅっ!!」
足が痛くて動かせないけど手で地べたを這いずりながら頑張って進むのです・・・!
師匠とかなり距離を離されたけど何もしないよりマシなのです・・・!
「諦めないのです・・・!」
絶対に諦めないのです・・・!
ずっとずっと探してたのです・・・!
ようやく巡ってきたチャンスなのです!
絶対に逃してたまるかです!!
「ッ!!!?」
近くからガサガサ草を掻き分ける音が聞こえて近づいて来るのです・・・!
「嘘・・・!」
きっと魔物ですッ!!
嫌ですッ!!
死にたくな
「おんやぁ? そこに居るのは誰だぁ?」
「!!?」
人の声!?
そうして草陰から出てきたのは・・・!
「あ・・・!」
人です!!
男の人です!!
「そんなとこで寝そべって何やってんだ?」
男の人が私の状態に気づいて聞いてきたのです!
ああ、助かったのです・・・!
「あの、私、上昇の使いすぎで動けなくて・・・!」
「へぇ?」
男の人が何故か笑うのです。
「!?」
ガサガサまた草の音が聞こえると目の前の男の人とは別に数人男の人が出てきたのです!
「へへへ。」
男の人達はみんな楽しそうに笑い始めるのです!
柄の悪い格好のせいで余計それが怖いのです!
「そいつは災難だったなぁ。」
男の人達はジリジリと近寄って来るのです!
「あ・・・!」
近くの町で聞いたのです・・・!
「俺達が安全な場所まで連れていってやるよ。」
「ああ・・・!」
マズいです!!
確かこの辺って・・・!
~リメイク前との変更点~
・ヨグ村に例の奴らが来るシーン追加
理由:弟子娘だけではちょっと不穏の要素薄いかなと思ったため味付けw
・弟子娘の問い詰め方が当てずっぽう
理由:リメイク前の例の現場が夜ではなく夕方だったのでウルドのやったことを細かく見れていたけど夜だと見えない部分もあるため、同じようには言及できないため




