#19 弟子
~ウルド 森林~
あれからどれだけ時間が経っただろう。
「ハァ・・・ハァ・・・!」
ワットは剣を杖にして身体を支えながら、膝を着きつつもなんとか倒れずにいた。
だが顔はすでにボコボコで痣すら浮き出ている状態だ。
あの啖呵を切ってからこいつが俺に一矢でも報いることが出来たかと言えば・・・。
いや、言わなくても分かると思う。
「う、うああぁ!!」
ワットは諦めずに斬りかかる。
だがその足取りはフラフラで全然進行方向が真っ直ぐに定まっていない。
正直見るに堪えない状態だ。
「・・・。」
当然俺はそんな相手の斬撃に後れを取る筈もなく、縦振りを躱し、横振りを躱し・・・。
「うぐっ、ゴハッ!!」
腹に膝蹴りをお見舞いするとワットは思いっきり胃液混じりの唾液を口から吐き出して苦悶の表情を露にする。
戦いの知識を着ければ自ずと喧嘩のやり方も覚えて来る。
喧嘩は顔を殴れば倒せると思われがちだが実際はワットみたいに根性のある奴はそれでも向かって来る。
そんな相手の気力を奪うのに効果があるのが腹部だ。
内臓に響くダメージはすぐには効果は出ないが、長い時間をかけてじわじわと効いてくる痛みは戦いが長引くほど想像を絶するほど被弾者を苦しめる。
こっちも既に何発か喰らわせてる。
その結果・・・。
「ぐっ・・・がぁ・・・あぐっ・・・!」
ワットは膝を着き、蹲りながら腹を押さえて苦しみ悶える。
「・・・もうやめろ。」
「まだ・・・だ・・・!」
剣を杖にして腕の力だけで自身の身体を支え上げて立ち上がる。
だが既に足の力が抜けて来ているせいで二、三歩よろける。
「・・・ッ!」
いい加減うんざり、というかイライラしてきた。
「いい加減にしろッ!! 死にてぇのかお前ッ!!」
「・・・。」
「これ以上やったらホントに死んじま
「死んだ方が・・・マシだ・・・!」
「・・・は?」
こいつ・・・何言ってんだ!??
「だって・・・お前・・・俺とそんなに・・・年・・・変わんねぇのに・・・なんでそんな・・・強ぇんだよ・・・!」
「・・・色々、あったんだよ。」
俺は目を逸らしながら答える。
そう、本当に色々あったからだ。
「やらなきゃいけないことがあったから、沢山修行して・・・それで
「俺だってやったよ!! 修行ッ!!」
「ッ!!」
ワットが急に吠え掛かってきた。
「誰にも負けないくらい・・・強くなりたくて・・・修行したのに・・・年の近いお前にこんなに差ぁつけられて・・・ッ!!」
「!?」
ワットは顔を上げる。
「俺が今までやってきたことが無駄だったんなら・・・死んだ方がマシだぁッ!!」
「・・・ッ!!」
なんだよそれ・・・!
なんだよそれッ!!
「無駄なわけねぇだろッ!!!」
「ッ!!」
がむしゃらに斬りかかって来ていたワットが目を見開いて止まる。
「俺だってお前らと一緒に依頼言った事あるから分かるよ・・・。」
「なんだよ・・・嫌味か?」
「嫌味じゃねぇ!! お前・・・どんなに大型の魔物相手にぶっ飛ばされても立ち上がるし、どんなに怪我してもへこたれずに生きて帰って来るだろ・・・!」
「それがどうしたよ!」
「・・・。」
「!!」
視線をリィナに向けると俺の視線に気づいたリィナはハッとする。
多分、俺の言いたいことを理解してるんだろう。
「修行時代の師匠に散々しごかれて着いた根性だろ・・・! それがどんなにお前の仲間を守って来たか分かってんのか!?」
「何が言いてぇんだ!!」
「俺が出来なかったことお前がやってんだよッ!!」
「は?」
「俺は仲間を・・・守れなかった・・・!」
「あ・・・!」
ワットも察したみたいだ。
流石にこいつも数年前から吟遊詩人が広めたあのバカな歌を聞いたことがあるみたいだな。
「!」
俺が肩に手を置くとワットは困惑気味に俺を見る。
「お前は充分強いよ・・・!」
「・・・はッ。」
ワットは馬鹿馬鹿しそうな表情を浮かべるが、全てを諦めたように後ろに倒れ、手を大きく広げて苔の生えた地面に寝そべる。
「・・・仕事取っちまったか? ネカネ。」
「!」
俺が皮肉を吐くとワットも視線を上げて後ろに立っていたネカネに気づく。
「別に、やらなきゃやらないに越したことないし。」
ネカネはけろっとした様子で立っていた。
恐らくさっきの魔法をまともに喰らってなかったんだろう。
リィナを庇ってたけど結局ワットが庇ってたからな。
「ネカネ、てめぇ・・・!」
ワットは苦虫を噛み潰したかのような顔でネカネを見上げる。
恐らくは加勢しなかったことに対する非難の視線だろう。
けどそれは恐らく諦めの悪いワットを見かねてのことだろう。
あのままワットが斬りかかっていれば恐らく後ろから首筋に手刀でも入れて気絶させてでも止めに入ってたはずだ。
「お前もワットと同じクチで俺に挑んだんじゃねぇのか?」
「いいや、私は今の自分の実力がどの程度の物か知りたかっただけ。もう充分分かったし満足してる。」
「・・・なるほど。」
恐らくはリィナが最後に魔法を撃ってトドメを刺しに行っても仕留められない時点で実力差を理解してこれ以上は不毛だと思ってやめたんだろう。
冷静で対局の見えるネカネらしい判断だ。
「ったく、諦め早すぎんだろ・・・!」
「あんたが諦め悪すぎるだけでしょ!! そんなボロボロになってまでみっともなく斬りかかっちゃってさ!!」
ワットが割って入るとネカネはいつもの喧嘩腰でワットを小馬鹿にする。
「うるせぇ!!」
「けど・・・まあ・・・。」
「あ?」
ネカネは何故かワットから視線を逸らし・・・。
「ウルドの話聞いてて思ったけどさ・・・。」
何故か照れくさそうに頬を指で掻き始めるネカネ。
「私も女の子だし? その・・・ってもら・・・ぃかなって・・・。」
「なんだよ! ゴニョゴニョ言いやがって、何が言いてぇ!」
「・・・守ってもらうのも、悪くないかなって。」
「は?」
「な、何でもない! 今の忘れろバカ!!」
「ネカネちゃぁん・・・!」
「うっ・・・!」
ネカネが真っ赤な顔でワットに罵声を浴びせていると変な声が聞こえ、そっちに視線を向けるとリィナがその様子をニマニマと見ながら笑っていた。
「何!! リィナ!! 違うから!! 変な意味じゃないからッ!!」
「まだ何も言ってないけど~?」
必死に弁解するネカネを此処ぞとばかりに茶化しまくるリィナ。
「ウルドからも何か言ってよ!!」
「お幸せに。」
「殺す・・・!」
「おおコエ!」
ネカネの異常な殺気から逃げる為、すぐに上半身だけ起き上がらせていたリィナの影に隠れるように後ろに回ってしゃがみ込む。
「おう加勢すんぞネカネ・・・!」
「あんたはそのまま寝てろッ!!」
「ぐへッ!!」
無理して起き上がろうとするワットを止めるようにネカネはワットの腹を踏みつけて阻止する。
「おいおい、ワット死ぬぞ!」
「うるさいッ!!」
いやホント必死すぎだろネカネ・・・!
「ぷ・・・ははは!!」
「笑うなッ!!」
「あははは!!」
「リィナまで!!」
たまらず吹き出して笑うとリィナが釣られて笑い、ネカネは益々顔を真っ赤にして唾を撒き散らしながら怒鳴り倒す。
だが・・・。
「どうだった?」
「はは・・・あ?」
急にリィナから言われて笑いが止まる。
「なんだよ。」
「『どんな見送り方にしようかな』ってさ・・・三人で話し合ってたんだ!」
俺の方へ振り向かず、リィナは言いにくそうに言葉を絞り出す。
「それで、戦闘?」
「あはは・・・。」
俺が問いただすとリィナは弱々しく愛想笑いをする。
「ワットが先に言いだしたのはホント! 『ウルドが実力隠してたのが許せねぇ!』って! ネカネちゃんもさっき本人が言ってた理由でノリ気だった。でも私は・・・。」
「お前はノリ気じゃなかったのか?」
「ううん!」
リィナは必死に首を横に振る。
「理由が別ってだけ!」
「なんだよ。」
「こうやって別れ際にドンパチやった方が、ウルドの記憶に残るかなって・・・。」
「なるほどね。」
「だから・・・。」
「!!」
リィナは振り向いて俺に満面の笑みを向ける。
「どうだった? 私たちの事、覚えていられる?」
「・・・!」
真っ直ぐに向けられた、しかもゼロ距離からの女の子の笑みに面食らうが・・・。
「・・・はぁ。」
呆れて溜め息が出る。
「ウルド?」
途端に不安そうな顔をするリィナ。
恐らく歯が立たな過ぎて覚えて貰えないとでも思ったんだろうがそうじゃない。
「こんなことしなくてもお前ら、忘れるようなキャラじゃねぇよ!」
「・・・それってどういう意味?」
「そのまんまの意味だよ! ワットは向こう見ずな馬鹿だし、ネカネは山賊張りに食い意地張ってるし、お前に至っては大して年食ってもねぇのにオバハンみたいに下世話すぎるしな!」
「・・・!」
無遠慮にベラベラ語ると口を開けてぽかんとした顔でリィナは俺を見ていた。
「そんなパンチの強すぎる三人組、忘れる方が無理って話だろ!!」
「オォバァハァンン~~???」
「オバハンじゃねぇか!」
「焼き殺されたい?」
「ッ!!?」
いつの間にかリィナの顔は鬼のような形相に変わっていた。
「おい馬鹿よせって! お前も魔力使い過ぎて死ぬぞ!」
「やっぱもう一戦!!」
急にリィナは立ち上がり、ネカネの横で杖を構える。
「よっしゃぁ!! やるよリィナ!!」
そう言ってネカネも拳を平手で叩いてすぐに構える。
「お、俺も・・・!」
「「あんたは寝てろ!!」」
「ぐぇッ!!」
なんとか復活して起き上がろうとするワットをネカネとリィナが同時に踏みつけて鎮圧する。
「やめろお前らッ!! ああ、そうだ!!」
「「何!!」」
「帰ったら!! 帰ったらもう一戦!!」
「「・・・は?」」
「だから、帰ったらもう一戦受ける!! だから今はやめろ? な?」
「「・・・。」」
咄嗟の思いつきだったが、思いのほか納得してくれたみたいで、ネカネもリィナも拳と杖を下ろす。
「・・・分かった。」
目を閉じていかにもやれやれな顔で吐き捨てるように言うネカネ。
「ふぅ・・・。」
一先ず場は納まったな。
「その代わり覚悟しときなよ? 絶対今より強くなってるからね!」
片目を開けて得意気にネカネは啖呵を切る。
「おお、おっかねぇ。俺もオチオチしてらんねぇな。」
「そうそう! あんたも今以上に実力着けとかないと私もワットもリィナもあんた追い抜いちゃうからね!」
「そりゃ楽しみだ。」
「あんたも頑張ってね! 帰って来なかったらぶっ飛ばしに行くかんね!」
「物騒なエールありがとさん。」
拳を突き出して激を飛ばすネカネに皮肉を吐いてやる。
「さて!」
意気揚々と声を上げるとネカネはリィナを腰に、ワットを肩に抱える。
「二人も抱えて帰んのか・・・。」
「大丈夫! これでも修業時代、大岩抱えて山一周した事あんだから!」
「スパルタだなぁ・・・!」
呆れてつい苦笑いになってしまう。
「やっぱゴリラ女・・・ぐぇ!」
ワットが口を滑らせるように言うと肩から降ろされる。
「行こっかリィナ♪」
「待て待て待て悪かった!! 置いてかないでッ!!」
本当に置いて行こうと一歩踏み出したネカネを必死に足を掴んで引き摺られながら引き留めるワットだった。
相変わらず後先考えないバカだなこいつ・・・。
「まだ余裕ありそうだな。」
「あんた一人で歩けるんじゃない?」
「おいおいそりゃねぇだろこのザマでよぉ!」
「あはは!」
ネカネの非情な言葉にワットは必死に食い下がり、リィナはそれを見て笑う。
「ははは!」
ホントにいいな、こいつら。
「・・・。」
けどいつまでも甘えてここにいる訳にもいかないよな。
「じゃあ、俺いくよ。」
「おう!」
「頑張って!」
「またね!」
踵を返して歩き出しながら言うとすぐにワット達はそれぞれの言葉で俺を見送ってくれた。
そうして俺は三人と別れた。
~??? 暗闇の空間~
「・・・。」
目の前に小型のテーブル、そしてその上にはクッションで転がらないように固定された手のひらサイズの水晶玉。
その中には一人の男の姿が映っていた。
生傷の絶えない顔で清々しく森を歩く姿がはっきりと浮かんでいた。
「町を出たようね。」
近くの女が私に声をかける。
その姿はローブを身にまとっており、顔も仮面で隠しているため、本人の身体的な特徴の一切合切が隠されている。
私も同じような姿なので人の事は言えないが・・・。
「ええ。」
「様子見とは言え、『剛毅』を追い払えるなんて予想外ね。」
「今の彼は私達の想定以上の実力なんでしょう。決して甘く見てはいけません。」
「あらそう? だったらどうする? もっと数送る?」
「いいえ。兵となった皆も私の想いについてきてくれた大事な同志、悪戯に捨て駒にするつもりはありません。」
「はは、『世界』様はお優しいことで。」
「茶化さないで下さい、『月』。」
「だったらどうする?」
「今は様子を見ましょう。」
「へぇ? このまま指くわえて見てろって?」
「今は事を大きくするべきではありません。彼は秘密裏に捕らえる方が得策でしょう。」
「対局を見ての事・・・ね。私はてっきり
「『月』。」
「・・・。」
私が口を挟むように言うと仮面の女、『月』は黙り込む。
「・・・私は行きますよ。」
「お好きにどうぞ。」
『月』に見送られ、私は速足で部屋を出ていく。
「・・・英雄。」
回廊を歩く中、仮面に触れながら思いを巡らせると、つい言葉が漏れた。
~ウルド 森林~
ワット達との別れを終え、ルタの元へ戻ると・・・。
「・・・。」
俺はつい足を止めてしまう。
「うぎぎぎぎ!!」
ルタはとある人物と両頬の抓り合いをしていた。
その人物というのが・・・。
「むぎぎぎぎ!!」
カザで出会った自称弟子の妙なちびっ子だった。
「お前らなにやってんだよ・・・。」
目の前の光景に頭を抱えずに居られなくなる。
「あ!! お兄ちゃん!!」
「師匠!!?」
二人は俺に気づくと抓り合いをやめて俺の元へ駆け寄って来る。
双方とも両頬は余程全力で抓り合ったらしく、かなり腫れあがっている。
見れば見る程アホらしい。
とにかくだ!
「薄々分かっちゃいたけどやっぱりお前か・・・。」
弟子娘に向かって呆れ混じりの言葉を投げつける。
正直後をつけられてるのは勘づいていた。
先程ワット達に会う前、魔覚で周囲を索敵していたのは言うまでもない。
だが指輪を外していない俺の魔覚の索敵はたかが知れており、出来て数メートル程だ。
それに尾行が上手い奴は魔力鎮静を使って魔力の索敵を逃れる事も出来るからそんな奴につけられよう物ならまず気づかない。
だがこのチビ助の尾行と来たら魔力が駄々漏れだし尾行するにも距離が近すぎる。
気づかない方がおかしいくらいだ。
「師匠!! なんなのですかこの貧乳女!!」
「ああ”ッ!!?」
「ぐぇッ!!?」
弟子娘がルタへの悪口混じりの非難を俺に投げかけるとルタが物凄い恐ろしい顔で弟子娘を睨んで即座に首に腕を回して絞め上げる。
「まだ口が減らねぇかコラ!! あぁん!!?」
「お前だっでわだじの禁句言いまぐりやがっだ癖にぃッ!! ごのぉッ!!」
鬼の形相のルタに弟子娘は負けじと頬を抓り返す。
「幼児体型のガキにちんちくりんって言って何が悪いッ!!」
「まだ言いやがっだでずぅッ!! ごの絶壁ぃッ!!」
「ああ”!!?」
「・・・。」
場違いに変な事を考えてしまう。
なんか知らんがルタの奴滅茶苦茶キレてやがる。
俺の前じゃどんなに罵倒されてもマゾなせいか開き直って悦んでたくせに、この弟子娘にはかなりマジでブチギレてる。
ってそれどころじゃなかったッ!!
「やめろって!! 何があったんだお前ら!!」
即座に二人を引き剥がす。
「聞いてよお兄ちゃん!!」
「師匠、こいつ酷いですよ!?」
~弟子娘 森林(数分前)~
「ぐぅッ!! むぐぅッ!!」
羽交い絞めにされ、口を塞がれながらも必死に暴れて脱出を試みるのです!!
「ほらッ暴れないッ!! 大人しくッお兄ちゃん待ってようねッ!!」
抵抗も虚しく元の師匠達がいた場所まで引き戻されたのです!!
「むぐぅッ!! ぶはぁッ!!」
抵抗の末、何とか口を塞ぐ手から逃れたのです!!
「放せですこの貧乳!!」
「ッ!!」
私を押さえつけていた女はびくりと一瞬身体を震わせて固まったのです!
「ッ!」
その隙に女の拘束から逃げてやったのです!!
ざまぁ見ろです!!
このまま師匠の所まで・・・!
「ぐぇッ!?」
走り出そうとしたら女は私の首の後ろ襟元を外套越しに掴んで来たのです!!
「・・・今、なんつった?」
「ッ! 貧乳って言ったのです!!」
すぐに後ろを向いてハッキリ言ってやったのです!!
「後ろからしがみつかれても全然柔らかい感触なんかしなンヒィッ!!?」
女が突然私の両頬を掴んで引っ張って来たのです!!
「んいひぃぃ!!?」
めっちゃ力いっぱい抓って来るのです!!
痛いですッ!!!
「他人の事言うより自分の事気にした方が良いんじゃないかなぁぁ? あんただって成長しきってない幼児体型でしょぉぉぉ?」
「ッ!!?」
ムカァッ!!
この女ァッ!!
「んぎぃ!!」
「んぃ!!?」
貧乳女に向かって同じように抓り返すのですッ!!
「私の気にしてること言いやがったですねぇ!!?」
「お前が先に言ったんだろうがこのクソガキぃぃ・・・!」
~ウルド 森林~
「・・・はぁ。」
アホくせぇ・・・!
「貧乳ッ!!」
「ちんちくりんッ!!」
「絶壁ッ!!」
「幼児体型ッ!!」
「まな板ッ!!」
「チビッ!!」
「・・・。」
状況を説明して怒りが再燃したのか、二人はお互いにガンを飛ばし合ってガキ丸出しの言葉で罵り合っている。
それが余計に見てて哀れすぎる。
とりあえずだ。
「やめぃッ!!」
「あん♡」
「ひぐッ!!」
睨み合う二人の脳天にチョップをかます。
「痛いよお兄ちゃぁん♡♡」
「悦ぶなッ!!」
「痛いです師匠~・・・!」
「自業自得だ!!」
頭を押さえながらハート目で嬉しそうに言うルタには容赦なくツッコミを入れ、涙目で非難する弟子娘には容赦なく叱咤を入れる。
ったくめんどくせぇなこいつら!!
「底辺同士で争ってんじゃねぇっ!! お互い無い物一緒なんだから争ったってしょうがねぇだろッ!!」
「お兄ちゃぁん?」
「師匠ぉ?」
「ッ!!?」
ルタと弟子娘が突如目をギラリと光らせて無表情のまま俺に迫り来る。
「ねぇ『無い物』って何? 何が無いのかなぁ? ねぇ? ねぇねぇねぇ?」
「『底辺』って何をもって『底辺』なのですか師匠? ねぇねぇねぇねぇ?」
「ッ!!?」
なんだこいつら・・・!
「おいお前ら、とりあえず落ち着
「「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ???」」
「ぃい!!?」
最悪だぁッ!!!!
完全に地雷踏んだぁぁッ!!!!
「悪かったッ!!! 俺が悪かったから落ち着けぇッ!!! マジで話が進まんからッ!!!」
「「・・・・・・・・・ふん。」」
俺の言い分で状況を察したか、二人は徐々にお互いを見合い、お互いに悪態をつく様に鼻をならしてそっぽを向く。
「はぁ・・・。」
やれやれ、とりあえず場が落ち着いたみたいだ。
「・・・。」
とはいえ意外な発見だった。
ルタの奴、胸の事気にしてたんだな。
まぁ言われてみれば前に一回、こいつのふざけたイタズラで不意に裸見せられたけど、確かに胸はなかった。
こいつ、結構気にしてたんだな・・・。
「そりゃそうと? コイツお兄ちゃんの事知ってるみたいだけど?」
「みたいだな。」
「って言うか『師匠』?お兄ちゃん弟子いたの? しかもこんなちっちゃい子弟子にするとかロリコン・・・?」
「違ぇよ馬鹿ッ!! つうかコイツが誰かも知らねぇしッ!!」
「もーお兄ちゃんってば必死に言い訳しちゃってまぁ!!」
「言い訳じゃねぇよぶっ飛ばすぞッ!! 嘘偽りなく真実だッ!! 金貨百枚賭けたっていいぞ!!」
「ほおう? 大きく出たねぇ! じゃあ私は倍プッシュでそれプラス自分の体をかけちゃおうかなぁ? やだぁ♡ 負けたら何されちゃうんだろう♡」
「勝手にやってろ・・・! とりあえず話戻すぞ?」
「!」
ルタに呆れながら弟子娘に視線を移す。
「この際ハッキリ言うけど、前々から『師匠』『師匠』って言ってるけどお前、本当に俺、お前の師匠か? 人違いじゃねえのか?」
「いいえッ!! 絶対違うですッ!!」
弟子娘は自信満々に答えて来る。
「間違いなくあなたこそが師匠ですッ!!」
「何を根拠に・・・。」
「それは・・・んぇ?」
弟子娘が答えようとしたその時だ。
突然草むらからガサゴソと音が聞こえる。
「ッ!!」
「ふぇッ!!?」
何かが飛び出すと同時に弟子娘を抱えて飛び出した何かの軌道から逃れる。
「ギヒィ・・・!」
出て来たのは緑色の肌の子供の背丈ぐらいで耳の尖った魔物、ゴブリンだ。
しかも矮小狼に乗っている。
知恵を着けて騎馬技術を覚えたゴブリン、『ゴブリンライダー』だ。
しかも一匹が飛び出すと同時に続いて三体ほど草むらから姿を現してきた。
しかもその後に真打登場とばかりに後ろからゆっくりと木々の間を縫って出て来たのは大男ぐらいの背丈を持ったゴブリン、『ホブゴブリン』だ。
先程の不意討ちも見る限りどう考えても森に来た俺達お客さんをもてなしに来た雰囲気には見えない。
・・・いや、これがこいつらなりの盛大なおもてなしなんだろう。
特にホブゴブリンに至っては俺達、というかルタと弟子娘に目配せして涎を垂らしながら舌なめずりをしている。
もう既に勝った後にどんな風に遊んでやろうか考えているんだろう。
図々しい奴だ。
「ったく、話の途中だったのに・・・。」
空気の読めないゴブリンどもに呆れながら剣を構える。
「・・・むふ!」
「?」
へんな笑い声が聞こえる方を見ると弟子娘が得意げな笑みを浮かべていた。
なんだこいつ。
「丁度いいのです!! 私があなたの弟子にふさわしいというところ、見せてやるのです!!」
弟子娘も武器を構えた。
「ハァ、勝手にやってろ。」
「来るよ!!」
ため息を吐いて呆れる間もなく魔物達は襲い掛かって来る。
ゴブリンライダー達は散開するように散っていき、ホブゴブリンが真っ直ぐに俺に向かって走って来る。
ホブゴブリンの武器は大鉈二刀、横の一振り目を躱すと既に構えていた縦振りを放って来るのでそれを軽く剣で往なす。
「・・・。」
そしてそのまま剣を逆手に持ち替えて奴の肩に向かって突き出す。
「グヒィ・・・!」
「!!」
笑った?
まさか・・・!
「ッ!!」
すぐに攻撃を止めて身体を後ろに跳ぶと目の前を槍を突き出したゴブリンライダーが通り過ぎていく。
「チッ!」
視線を周りに移すと二体目、三体目が俺を狙って左右から突撃してくるのでそれを躱す。
なるほど、女を生け捕りにしたいから男から始末しようってハラか。
ゴブリンらしい下衆な考えだ。
「ゴアアアァッ!!」
俺が怯んだのを隙と取ったか、ホブゴブリンが突撃して斬りかかって来る。
「チッ!」
避け切れずなんとか剣で大鉈を止める。
「グヒヒ!!」
「ぐっ・・・!」
ホブゴブリンが楽しそうに笑いながら大鉈の二撃目を放って来る。
その笑いで狙いが分かる。
「チッ・・・!」
右からゴブリンライダーが迫って来る!
ホブと同時攻撃で仕掛けてくるつもりだ!
捌ききれねぇ!!
「炎球!!」
「ッ!!?」
魔法の詠唱が聞こえると・・・。
「ゲギャッ!!」
ゴブリンライダーに当たり、その拍子に騎手のゴブリンが狼から落ちて地面に転がる。
「ッ!!」
瞬間のチャンスを逃さず、俺はホブゴブリンの鉈の二撃目を剣をずらして止め、そのまま捌いて離れ、すぐに落ちたゴブリンの元へ駆け寄って剣を突き落す。
「グギャァッ!!」
腹部を思いっきり刺されたゴブリンは断末魔を上げて絶命する。
「ゴアアァッ!!」
「ッ!」
仲間をやられた怒りで後ろから襲い掛かるホブゴブリンの横振りの一撃を跳ぶように前転して回避しながら距離を取り、そのまま起き上がってホブゴブリンへと向き直る。
「・・・!」
丁度横に立っていたルタを見ると・・・。
「お前・・・!」
ルタはマジシャンが手品で使うようなロッド状の杖を突き出すように構えていた。
恐らくはさっき魔法を使った犯人だろう。
「にひ♪ かじった程度だけど出来るんだ♪」
「はっ、頼もしいことで。」
皮肉交じりの言葉を投げかけながらホブゴブリンにルタと一緒に構え直す。
「・・・。」
にしてもあのチビ助どこ行った?
『実力見せてやるのです!』とかなんとかほざいてた割にちっとも戦ってるとこ見てないぞ?
「こっちです!!」
「!」
声がする方を見るといた、弟子娘だ。
「狼に乗ってるくせに女の子一人も捕まえられないのですかほ~れほれ!」
見た目に違わないガキの様な言葉で挑発しながら『こっちへおいで』とばかりに剣で地面を掘るように突き立てる。
「グギィ・・・!」
「ギギィッ!!」
知能が低いゴブリンに挑発はかなり効いたようで、腹を立てたゴブリンライダー二体が槍を構えて弟子娘にむかって突撃していく。
「むふ♪」
弟子娘は余裕の表情を浮かべ、両手に持った小振りの剣で二本の槍を弾いて捌き、跳躍する。
その跳躍は人間離れしていて斜め右の少し離れた木の幹のかなり高いところに跳び移っていた。
少女の足には青白い光の筋が・・・そうだった!
コイツ、確か上昇が使えたんだったな!
「ほっ!!」
そう思うのも束の間、弟子娘は木の幹を跳んで着地すると、ゴブリンライダーやホブゴブリンの間を縫うように走り回る。
上昇を使っているのでその速さは肉眼で容易に捉えられるものではなく、ゴブリン達はキョロキョロと弟子娘を探すが、見つけられていないみたいだ。
冒険者見習いみたいだから最初は少し心配はしたが、どうやらゴブリン程度なら大丈夫そうだ。
「ゴアアアァァ!!」
「ッ!!」
ホブゴブリンがこっちに襲いかかってくる。
左右の横振り、縦振りを躱しながらふと思う事があって考える。
ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ疑問に残ることがあった。
さっきの弟子娘の行動だ。
地面を掘るように剣を突き立てる動き・・・。
まさかな。
「炎 杖 放出」
「!!」
ルタの詠唱が聞こえた。
だったら・・・!
「ぐッ!!」
敢えて攻撃の回避をやめてホブゴブリンの大鉈を剣で受け止め、踏ん張る。
よし、このまま足止めして・・・!
「氷 剣 陣 解放」
「ッ!!?」
突然別の方向から魔法の詠唱が聞こえる・・・!
同時に俺とホブゴブリン含めた周囲の地面が青白く光り始めた!!
「逃げてお兄ちゃんッ!!」
ルタが詠唱をやめて俺に警告する。
「くッ!!」
と同時に俺は光る地面の範囲の外に逃げる!
やっぱりさっきの弟子娘の剣の ザクザクはただの挑発じゃなかった!!
「氷結牢!!」
「うおおおおぉぉぉッ!!」
魔法の詠唱の完了が聞こえると同時になんとか地面を蹴ってバッタのように全力で飛んでなんとか範囲から脱出する。
すると俺のすぐ後ろ辺りまで青白く光っていた地面から急激に冷気の結晶が現れ、瞬時に辺り一帯が凍ってその氷の中にホブゴブリン、ゴブリンライダー全てを閉じ込めた!!
「マジかよ・・・!」
『陣形魔法』。
魔法の起点となる地点をマーキングして範囲を指定して発動する広範囲魔法だ!
さっきの弟子娘のやっていたザクザク地面を掘る動きは挑発をするフリして魔法の起点を作っていた訳だ!
いや嘘だろ・・・!
だってあいつ・・・!
「ほっ!」
近くの木から何者かが着地したかと思ったら弟子娘だった。
そしてそのままゴブリンたちを閉じ込めた氷に剣を軽く突きつけると・・・。
「氷 剣 座標 先端 破壊」
魔法を詠唱し始める。
そして・・・。
「氷物破壊。」
弟子娘が魔法の詠唱を完了させるとゴブリンたちを閉じ込めた氷は、閉じ込めたゴブリン達ごとバラバラに砕け散って言った。
「・・・。」
こいつ・・・!
「これで分かってくれたですか?」
振り向くと弟子娘は・・・。
「師匠♪」
得意げに満面の笑みを浮かべていた。
~リメイク前との変更点~
・ワットの戦闘シーン
理由:言わずもがな、前話の延長
・弟子娘とウルドが戦闘するシーンをゴブリン達との戦闘に変更
理由:ウルド君の連戦も流石に読者様も飽きるでしょうとw というか弟子娘メインのシーンだと思うのでw




