#01 侵入者
~とある冒険者 辺境の町:カザ~
晴れ渡る空の下、俺は町の門を潜る。
丁度仕事が終わって帰って来たところだ。
「おっす、おつかれー!」
門の前で槍を片手にコートを羽織った男が俺に対し、気さくに挨拶する。
町の自警団の男だ。
「おう、ご苦労さん!」
俺もそれに気軽に挨拶を返す。
この町では珍しい事じゃない。
カザ、ルヴァーナ国の中の王都からかなり離れた辺境に位置する町。
都会でやっていけなくなった者、流れ者などが集まって自然と出来た町、早い話が村一歩手前のド田舎の町だ。
そんな田舎もあってか、住民の少なさも相まって人と人の距離が近いのがこの町の良さでもある。
「よっ! ウルド!」
「!!」
町に入って早速と言わんばかりに背中を叩かれて声をかけられる。
振り向くとそこには体の上半身ほどある大きめの剣を背負った金髪の男と、少し民族風の武術家のような装束を羽織った黒髪の女、その後ろに少し小柄な可愛らしいローブ服の少女、冒険者の三人組だ。
剣の男はワット、武術家の女はネカネ、ローブ服の少女はリィナ、よく三人でつるんでいる固定徒党の顔見知りだ。
先ほど背中を叩いてきたのはおそらく、この中で一番のお調子者のワットだろう。
「お前ら先に戻ってたのか!」
「あたぼうよ! なんたって俺がいるからな!」
ワットは革の胸当てをつけた胸を張って誇らしげに語る。
「調子いいこと言っちゃって! いつもどおり突っ走って敵に囲まれて悲鳴上げてたのは誰?」
「そうそう!! フォローする方の身にもなってよ!」
「おぉい言うなよそれぇ!!」
ネカネとリィナが呆れながら水を差すとワットが食ってかかる。
「ッハハハ、まぁたいつものパターンか。」
俺はその風景を見て愛想笑い程度に笑いながら茶化す。
「ウルド! お前も男だろ!? ならここは俺サイドで援護するべきじゃねぇの!?」
「断る。」
「ウルドォ!!」
強引に味方に引き入れようとしたワットを冷たくあしらうとワットは嘆くように叫ぶ。
確かにネカネとリィナの言ってる事が正しいからだ。
俺もたまに臨時で一緒に討伐に行ったことはあるがまさに二人の言うとおりワットが調子に乗って突っ走るのをネカネとリィナがフォローしてあげていた。
だが女子二人は知らない。
ワットが敵を引き付けているからこそ、フォローをするという体で大勢の敵を処理しやすい。
俺も実際組んでみてそういう意味ではやりやすかったし、こいつはこいつでいいところがある。
とはいえワットも不死身ではないし、達人って程の実力者でもない。
フォローするネカネとリィナかがいなければワットも命がいくつあっても足りないだろう。
そういう意味ではお互いに持ちつ持たれつないい徒党だ。
「あ、そうだウルド! 俺ら今度遠征してでかい仕事受けようと思ってるんだよ!」
「へぇ、またどうして?」
「この馬鹿がいつものムーブで防具壊すから財政難。」
「あー。」
訳を聞くとネカネにやれやれとばかりに説明されて納得する。
「お前だって仕事終わった直後に飯バクバク食ってんじゃねぇか! あれだって食費相当食ってるぞ!」
「な!? し、仕方ないじゃない!! あんたのフォロー兼ねて前線で戦って疲れてんだからちょっとくらいご褒美あったっていいでしょ!」
「料理五皿全部大盛りがちょっとくらいかお前の腹は!! 太るぞ!!」
「太・・・! あんたぁ!! 女の子に一番言ったらいけない台詞でしょそれ!!」
「オークを一対一の素手勝負でぶっ飛ばすゴリラ女にそんなデリカシー必要か?」
「んだとぉぉ? あんた、覚悟はできてんでしょうねぇぇ!」
「おおやんのか?」
ネカネとワットはすぐにでも取っ組み合いそうになりそうな程ガンを飛ばし合っている。
「・・・ハァ。」
だが俺は敢えてそれを止めない。
止めても無駄だと言うわけではない。
止める必要がないからだ。
何故なら・・・。
「二人とも! 夫婦喧嘩は二人っきりの時だけやって!!」
「「夫婦じゃないッ!!」」
こうやってきちんと止める奴がいるからだ。
リィナがとんでもないことを口走りながら割って入るとワットとネカネは顔を真っ赤にして食って掛かる。
「にしても・・・。」
リィナは目をぎらりと光らせる。
視線の先はネカネだ。
「ひゃ!? ちょ!? リィナ!?」
「ネカネちゃんあれだけ食べてるのにどうして太らないの?」
突如リィナがネカネのおなかやわき腹を探るようにまさぐり始める。
「しかも・・・。」
「んひぃ!?」
ネカネが更に声を上げる。
何故なら・・・。
「ちゃっかりこっちには栄養行ってるし、許せん。」
リィナがネカネの胸を鷲掴みにしているからだ。
確かにリィナの言う通りネカネは胸が大きく、リィナの小さい手では下半分くらいしか掴めていない。
「ちょ、やめ、う、ウルドも見てんだから!!」
「そうだぁ!! 見るなウルドォ!!」
「ぬわっ!?」
言われて俺の視界は暗転する。
言わずもがなワットが両手で目を塞いだからだ。
「ワット!! お前は見てもいいのか!!」
「俺は良いんだよ!! 固定メンバーの特権!!」
「いや、それただの横暴じゃね!?」
「大丈夫! 嫁の艶姿を旦那が見るのは別におかしな事じゃないからね!」
「誰が嫁だ!!」
「誰が旦那だッ!!」
「あ、なるほど。」
「「納得するなッ!!」」
リィナの茶化しに相槌を打つと何故かワットとネカネにめっちゃ怒られた。
そのまま数秒目を塞がれながらネカネのなんとも言えない荒い息が収まった頃に俺の視界は解放された。
「ゼェ・・・ハァ・・・!」
両手と両膝を突きながらネカネは尚も息を切らしていた。
「まぁ、話逸れたけど今度の遠征、手伝ってよ! 人手欲しいからさ!」
「お、おう・・・考えとくよ。」
ネカネのいたたまれない姿を尻目に苦笑いを浮かべながらリィナへ相槌を打つ。
「絶対だかんな!」
「分かった分かった。とりあえず腹減ってるからギルドに金貰ってくるわ。じゃあな。」
「そりゃ悪かったね引き止めて。」
「またな!」
「おお。」
軽く挨拶を交わして三人と別れた。
ーーーそれから俺はギルドに向かった。
依頼を終えてギルドに報告を入れるためだ。
仕事の内容はいたって簡単、ゴブリン討伐だ。
「レレェ!! 終わったぞ!」
ギルドに入るなり俺はすぐに受付のカウンターに向かって受付の女に声をかける。
「ウルド!? わわ!?」
声をかけるなり受付の女は慌てた拍子に自分の手元にあった書類を大量に巻き上げる。
「ったく、あわてんなよ。」
「ご、ゴメン!!」
いつもの事なので呆れながら床に散らばった書類を拾ってやって渡す。
「あ、ありがと・・・。」
「いいって、それより手続き。」
「はいはいお仕事お疲れ様! ちょっと待ってて!」
そう言うと女はそそくさと奥から書類を持ってくる。
「はいよ。」
「ん。」
戻ってくると同時に俺は中身の大量に詰まった袋をギルドのカウンターに置く。
「はいそれじゃあ確認するね!」
そう言うと女は袋を開く。
中に入っていたのは人のような肌質だが、色は緑のとんがった耳、ゴブリンの耳だ。
しかも全て右耳だ。
傍からみればグロテスクで気持ち悪い光景だが、ギルドのルールで決められていることだ。
かなり昔の話だが虚偽の討伐報告で報酬をちょろまかす悪質な冒険者がいたため、こういった不正を防ぐために物的証拠をギルドに持って行くことを冒険者は義務付けられている。
「全部で十二体、大きい耳が二つ、『ホブ』がいたんだね。」
「ああ。」
受付の女の質問に俺は淡々と答える。
『ホブゴブリン』、体格的に成長したゴブリンの上位種で大きさ的には人と変わらず、種類によっては 大の男より大きいやつもいる。
「それじゃ、経緯教えて。」
「ああ。」
受付の女に言われて俺は相槌を打つ。
討伐内容の報告も義務だ。
先ほどの不正防止の件もあるが、討伐の成功や失敗の例を記録するのはギルドの魔物を討伐する方針の参考にもなるし、冒険者の新人の教育にも使えるからだとか。
そんなこんなで俺はありのままゴブリンの討伐の一部始終を説明する。
奴らは山のふもとの洞窟を拠点に構えており、見張りが二体いた。
それを山の上から奇襲をかけて殺し、そのまま洞窟の中へ。
ある程度進むとその場で待機しホブ一体を含めた巡回役の見張りのゴブリンを六体、不意打ちで殺した。
だがその途中、死体を隠しきれず二体のゴブリンに発見されたため口封じに一体殺すも、もう一体には逃げられ、仲間に報告されて侵入がバレてしまう。
結局最後はもう一体のホブゴブリンを含めた三体と正面戦闘になる。
取り巻きの普通のゴブリンを二体殺すと、最後の残された一体のホブが近くの村から攫ってきた村娘を人質に取ってきた。
そこで俺は武器を捨て、降参するふりをした。
それを見たホブは油断して人質を手放して殺しにかかってきたので隙を突いて隠し持っていたナイフで急所を突いて殺した。
「報告は以上だ。」
「・・・はぁ。」
報告の一部始終を終えると受付の女はため息をつく。
「全く、途中でヘマなんかしちゃってさ・・・もし最後の生き残り集団が五十体もいたらあんた、どうしてたわけ?」
「う・・・。」
確かにありえない話ではない。
ゴブリンは本来、数の暴力で襲ってくる魔物だ。
洞窟の入り口に一体いたら中には五十体ぐらいはいると考えてもなんらおかしな話ではない。
しかも今回の件に関しては攫われた村娘もいた。
奴らは繁殖用に人間の女を使うこともある。
今回の討伐が一日でも遅れていれば、それこそ五十体以上を相手にしなければならなかったかもしれない。
こうして指摘されれば俺は運が良かったとも言える。
「斥候単体の討伐は不意打ち以外は自殺行為よ! 見張りにバレたのなら無理に深追いせずに逃げなさいよ!」
「し、仕方ねぇだろ! 攫われた村娘だっていたんだぞ!? ほっとくわけにもいかねぇだろ!」
「ハァ、ったく、あんたはそういうとこお人好しよね。斥候向いてないんじゃない?」
「うるせぇ!」
「大体あんたは固定徒党も組まずにいつも無茶して---
ああまた始まったよガミガミいつもの説教タイム。
で、今更だがこの説教臭い受付女はレレ。
この町に来てからすぐに顔馴染みになったギルドの受付で、父親と二人だけでこの田舎町のギルドを切り盛りしている文字通りの看板娘だ。
数年前にこの町に来た俺を色々気にかけてくれたのでなんだかんだ面倒見がいいのはよく知っている。
・・・にしてもだ。
「だいたい分かってる!? あんたのクラスでも単独で無茶して死んでるやつなんて結構いるんだよ!? それなのにあんたは---
おかんでもないのによくもまあガミガミガミガミと家族でもない男に説教とかホントこいつは・・・。
「嫁かよ。」
「・・・は?」
「?」
レレが突然口を止め、ポカンとする。
だがすぐに・・・。
「誰が嫁だ!!」
「あ、やべ。」
レレが顔を真っ赤にして怒鳴ってきたのを見て自分の口からポロっと本音が漏れたと言うヘマに気づく。
「私がガミガミガミガミうるさいから鬼嫁みたいって言いたいんでしょ!!」
「い、いや別にそういうつもりじゃ・・・。」
はい当たってマース!!
十中八九とも言わずズバリその通りデース!!
「あんたがいつも無茶するからこういうこと言ってるんでしょ!? 説教されたくないなら変な無茶しないでもっと慎重に---
う~わ最悪だ。
うっかりとはいえ余計に墓穴掘ったよ・・・!
で、結局俺はそのままヒートアップしたレレに小一時間説教された後にようやく解放され、報酬を受け取ってギルドを後にした。
「ハァ・・・まったくあいつは・・・。」
この町の自由すぎる奴らにしては珍しく真面目なのは良いことだけど、やたらと俺にだけは説教臭いんだよな。
ある意味魔物の討伐よりもこっちの方が疲れるかもしれん。
そんなこんなで俺はボロボロメンタルの重い足取りで今度は商店街に足を運ぶ。
時間は午後の夕方五時、そろそろ閉める店も結構ある中、こんな時間でも開いてくれている良心的な店を俺は一件知っている。
俺は一軒の店の前に止まると、そのまま店の入り口のドアまで足を運ぶ。
『フレンズ』と看板のかかったその店はパン屋だ。
言わずもがな俺は食料を買いに来た。
「あらウルド、ご無沙汰ねぇ。」
店に入ると店主のおばさんは気さくに声をかけてくる。
「たったの三日がご無沙汰なのか? あんたの中では。」
店のおばさんに呆れながらため息をつきつつ、俺は店の入り口にあるトレーとトングを取って店内に並んであるパンを掴んでトレーに乗せ始める。
さすがに夕方ともあって結構買い漁られた跡があり、パンはほとんど残っていないがそれでもその中から好みのクロワッサンや菓子パン、調理パンなどをトレーに乗せる。
「客商売なんて常連さんが三日も来ないと寂しいもんよ?」
「それ懐の話してる?」
「うん、それもある!」
「あるのかよ・・・!」
やれやれと言った具合にトレーに乗せたパンをおばさんのいるカウンターに持っていく。
「窶れてんね、口から魂出てるみたいな顔よ?」
「どんな顔だよ。」
「まぁたレレちゃんに絞られたんでしょ。」
「大きなお世話。」
「ほんとあんたら仲いいよね。」
「はあ? どこをどう見たらそんな風に見えるんだよぉ。」
「だってあんたくらいよ? あの子がそこまではっきり物言う相手。」
「・・・。」
確かにレレは基本的には協調性もあり、めんどくさい相手でも聞き上手に色々聞いてあげたり他人と足並み合わせて会話もできる。
だがこと俺に於いては結構はっきりと不満とかをぶつけて来る。
「考えすぎだっつの。あいつが説教してくる理由なんて、俺が単独で無茶してるからってそんなとこだよ大体。」
「なんだ、説教だから聞き流してると思ったけどちゃんと聞いてるんじゃない。」
「そりゃ毎度ガミガミガミガミ言われてりゃな。」
「やっぱり仲良いんじゃない。」
「なんでそうなるんだよぉ。」
マジで勘弁してくれよ。
「ふふっ!」
「! ちょっと待てよ。」
愛想笑いしながらおばさんのやってることを止める。
先程持って来たパンを袋に詰めてたおばさんだが、何故か奥の棚からパンを取ってそれも袋に詰めていた。
「おまけだよ。あんたをからかったお詫びと可哀想なあんたへの施し。代金はいらないよ。」
「・・・本音は?」
「売り物にならなくなった奴だから処分のついで。」
「だと思ったよ・・・。」
~レレ カザ:冒険者ギルド~
「うあぁぁ・・・!」
やらかした・・・!
なんで毎度毎度あいつに対してだけこうも言っちゃうかなぁぁ!!!
あいつだって単独でもそれなりに頑張ってるんだから「お疲れ様~!」とか「頑張ったね!」とか合間合間に普通そういう言葉かけてやるもんでしょ!?
なんでいつもあんなキツくガミガミガミガミ言っちゃうんだよ本当私のバカバカバカ!!!
こんなことしてたら嫌われるに決まってるじゃん!!!
「ああもうバカバカバカバカ・・・!」
自己嫌悪に陥りながら机に頭を伏せ両手の拳で自分の側頭部を殴り続ける。
しばらくして冷静さを取り戻すと、顔の向きを横に変えて虚ろな目で虚空を見つめる。
「なんでうまくいかないんだろう・・・。」
他の冒険者相手だったらここまでやらかさない。
冒険者の中には癖の強い奴はいっぱいいる。
いや訂正。
ほぼそういう奴しかいない!!
でもそういう相手は聞くなり合わせるなりして対応できている。
けどウルドに関しては良くも悪くもそういう癖の強いところはない。
むしろ常識的だと思う。
そのせいなんだろうなぁ・・・。
ついついあいつの前じゃ思ったことがすぐ口に出てしまう。
ダメだって分かってるのに言ってしまう。
「バカだな・・・私。」
口からため息のように自己嫌悪を吐き出す。
「・・・。」
『嫁かよ。』
「へへ・・・うへへ・・・!」
「何笑ってるんだレレ?」
「うわぁぁぁ何でもないッ!! ていうか何で戻ってきてんのウル・・・ド?」
慌てて書類をぶちまけて上体を起こすが目の前にいたのは・・・。
「・・・。」
「よ!」
目の前にいたのは、弓を背負っているが露出が多めの軽装備の女。
恐らく先程のウルドらしき声はこいつの声マネだ。
「・・・ルッカ。」
「似てた?」
「全ッ然!!」
「で? さっきウルドと何があったのかな?」
「はあ!? 別に! てかウルドまだ帰ってきてないしぃ!?」
「おやおや、私に嘘をつくのかい? それは愚策ってわかってるんじゃないかな?」
「べ、別に嘘ついてないしぃ!?」
「私の足元にあるこの書類! あんたが今ぶちまける前からあったものだよ?」
「!?」
ルッカがしゃがんですぐに起き上がるとその手には一枚の書類があった。
「あんたが出合い頭に書類をぶちまける相手なんてウルドぐらいでしょ?」
「ぐっ・・・!」
拾いきれてなかったのか・・・!
ほんとこいつはこういうとこ鋭いから嫌い!!
弓を背負っているわけだから言わずもがなルッカは野伏だ。
しかも元々素質があったせいか、特に観察眼は異様に鋭い。
私が見栄を張って嘘を言ってもこうやって状況証拠を突きつけて容易く論破してきては事あるごとにおちょくってくる嫌な奴だ。
「それで? 愛しのウルドくんとは何があったのかな?」
「何よその言い方!! べ、別に何でもないわよ!!」
「・・・嫁かよ。」
「ッ!?」
突如ルッカがめんどくさそうに後ろ頭を掻きながら呟くように言う。
「・・・ッ!!!!!」
それはさっきのウルドの姿と全く一緒で、それを思い出すと顔面が熱湯のように熱くなる。
「ビンゴ! その真っ赤な顔は間違いなくバッチリ当たってるね!」
「あんたまさか見てたの!?」
「いや別に? あんたとウルドのやり取りってだいたいあんたが一方的に説教するっていうシチュじゃん? そんな状況でウルドがめんどくさがってつい言っちゃう台詞の中であんたの喜びそうな奴って考えたらだいたいそんな感じかな~って、当たってるでしょ?」
「ぅぐ・・・!」
言い当てられて何も言えない・・・!
ってかこんな才能あるならもっと別のことに使いなさいよこいつは・・・!
「そ、それが何? 別に喜んでないし!!」
「ホンットウルドってさぁ、絶望的に朴念仁だよね! こぉんな分かりやすいツンデレに気づかないとかさ!」
「話聞きなさいよ!! あとデレてないからッ!!」
「今はでしょ?」
「あぁもううっさいッ!! おちょくってないでさっさと報告しなさいよ!! どうせあんたも仕事終わったんでしょ!?」
「え~、そんなに聞きたい~? あたしとダーリンの愛のランデブー。」
「ハイハイ聞きたい聞きたい。」
嬉しそうにくねくねしだすルッカを見て呆れ気味に報告を催促する。
そう、こいつはこう言う話では既に勝ち組だ。
一緒に固定徒党を組んでいる盾戦士の男と恋仲だ。
「はぁ・・・。」
やだなぁ、こいつの報告聞かされるの。
~ウルド カザ:中央広場~
「・・・ん?」
ある程度買い物を済ませて帰宅途中、妙な人だかりを見つける。
「なんだ?」
よく分からないのでちょっとした野次馬心で覗きに言って見ると・・・。
「!」
近づくにつれて何やら弦を弾くような音が聞こえて来る。
音楽だ。
それで確信した。
「ひとの~世~の~だ~い~地~に~♪ 絶望~の~き~りただ~よ~う~♪」
人集りの中心に位置していたのは吟遊詩人だ。
こんな時間に街中で歌うなんて珍しい。
それにしても・・・。
「地~の底か~ら♪ あ~らわれた~る~は♪ 世~をみ~だす~異形の魔王~♪」
この歌、まだ歌われてたのか。
数年前にはそこら中で歌われていた歌だ。
今こそこの世界は平和その物だが、三年前までは絶望的な状態だった。
今から丁度十年前、世界には至るところに毒の霧が発生していた。
その原因はとある国から突如現れた異形の存在だった。
そしてその異形が現れた時の事だ。
ーーー我は地の底より蘇りし存在、也。
ーーー我は世界を魔として統べる者、也。
ーーー我は『魔王』、也。
この言葉は世界中の人々の頭に直接響いた言葉だった。
『魔王』を名乗った異形の存在は凶悪な物だった。
魔王が現れた場所から紫色の謎の霧が発生し、徐々にその地を中心に世界へ広がっていった。
霧は恐ろしい毒のような魔力を持っており、その霧を体内に取り込んだものはどんな生物であっても魔物になった。
魔物化の感染拡大は治まる事を知らず、人間の世界は徐々に終焉へと近づき、人々はただ魔に堕ちるのを待ち続けることしかできなかった。
しかし・・・。
「絶望~ふりは~らいか~がや~く~は~神に~愛さ~れし聖女の光~♪ 加護を~受け~武~器~を~と~るは~♪ 聖女~に~つ~づきし四人の勇者~♪」
人類は反撃の術を手に入れていた。
それが『聖女の加護』だ。
聖女の加護を受けた者は霧の影響を受けずに敵地に侵入する事が出来、唯一魔王の脅威に対抗できる存在だった。
そしてその結末は今の平和な世界を見れば分かるだろう。
勝利に終わったのだ。
かくして世界を脅かす異形、『魔王』の脅威は聖女と四人の勇者によって霧と共に払われたという訳だ。
そんな規模の英雄譚を吟遊詩人たちが放って置くわけもなく、こぞって作られた歌は世界の各地に歌われた。
万人に取って素晴らしい歌かもしれない。
だが・・・。
「チッ・・・。」
俺はこの歌が死ぬほど嫌いだ。
「・・・。」
歌っている吟遊詩人に周囲の目が行っているのを良い事に、俺は心を殺しながら決して走り出さず、早歩きで足早にその場を去った。
---そしてしばらくして。
あの胸糞悪い歌が聞こえなくなってしばらくして俺は家に着く。
町の隅の塀ギリギリ辺りの家。
地元の地主からの借家だが、塀の外に近く、魔物に襲われる危険性が高いと言う立地の都合上、格安の家賃で借りれた家だ。
「・・・はぁ。」
家の前に立つと息を一息吐く。
「・・・。」
この町に来て二年になる。
今ではこうして知り合いもたくさんできてそれなりに居場所もある。
やっぱり俺はこの町が好きだ。
本当にそう思える。
「・・・なぁんて、何浸ってんだか。」
つい独り言が漏れる。
あんな歌を聞いたせいだな。
気分切り替えっか!
さっさと飯作ってそれから・・・。
「ただいま~っと。」
考えが纏まらないまま誰に聞かせるわけでもないただいまを言いながらドアを開けて家に入る。
「おかえりなさい!」
「・・・?」
あれ?
気のせいか?
返事???
いや、あり得ないよな!
だって俺一人暮らしだもん!
同居人なんかいるわけないしもし家の中に居たらそれは・・・。
「・・・!?」
いや、気のせいじゃない!!
なんかパタパタ足音が聞こえてきた!!?
「お疲れ様!! お兄ちゃん♪」
「・・・。」
左腕に抱えていたパンの袋が床に落ちる。
出て来たのはセミロングの髪にサイドテールを下げた茶色の髪で、灰色の瞳の明るい雰囲気の少女だ。
エプロンを付けながらおたまを持っていたその姿は如何にもつい先ほどまで料理してましたよと言わんばかり格好だ。
「お兄ちゃん遅いよも~! ご飯とっくの昔に出来てるよ! ほらこっち!」
「・・・。」
妹に手を引っ張られて連れられるまま俺はリビングへ。
「・・・。」
そこには既に料理が二人分向かい合うように並んでいた。
俺が昨日買ってきたと思われる魚はムニエルとして温野菜と共に皿に並んでおり、その隣にはパンが綺麗に二個皿に乗せられている。
そして二人分の料理の間にはシチューの入った鍋が置いてあり、ご丁寧に取り皿も用意されていた。
まさに料理が完成して今にも食べる準備万端な状態だ。
「・・・。」
「ほぉら! こっち座って!」
妹に誘導されるまま俺は手前の椅子に座らされる。
「あ~もうおなかすいた! 早く食べちゃお! いっただっきまーす!」
言いながら妹は俺の向かいに座り、手を合わせながら元気に合掌する。
「・・・。」
俺は動かない。
「お兄ちゃん、『いただきます』は!?」
「・・・いただきます。」
俺は淡々と手を合わせて合掌する。
「んふ♪ よろしい♫」
それを見て妹は満足そうにパンを手に取って一口食べてシチューをよそう。
「ほら、お兄ちゃんの分♫」
そう言って妹はよそったシチューを俺に差し出すように突き出す。
「・・・。」
「お兄ちゃん?」
「すぅ~~~・・・はぁ~~~・・・。」
俺は息を深く吸って吐く。
「どうしたの?」
妹はきょとんとして首を傾げる。
俺の挙動がおかしいって言いたいんだろう。
うん、そうだよな。
この状況で行動がおかしいのは明らかに俺だ。
それは分かる。
でもな?
「なあ。」
「?」
俺からも言わせてくれ。
というか・・・。
「そろそろツッコんでいいか?」
「なに?」
「誰だお前はッ!!!!」
テーブルをバンッと叩いて立ち上がり、目の前の不審者にどなり立てる。
「えぇ!!? なに、急に!!?」
「『なに、急に』は俺の台詞だッ!!!」
もうさ!?
目の前にこいつが出て来てから思考が追いつかなかったよ!!
最初にいきなり『お兄ちゃん』とか呼ばれたときとか『え? なにこいつ? お兄ちゃん?? 俺に言ってんの?? いや、妹?? 誰???』って感じだったし!!
手ぇ引っ張られてたときなんか『え? え?? どこに連れてかれるの?? 俺ん家???』とか意味わかんねぇこと考えるくらい思考纏まってなかったし!!
『ここまで我慢する俺えらくね!?』って逆に自分褒めてやりたくなったくらいだわ!!!
「何言ってるの? お兄ちゃん?」
「はいそこぉ!! まず俺に妹とかいねぇからッ!!」
そう、俺は親すらいない天涯孤独の身だ。
まず『妹』という存在すらあり得ない。
「お前は誰だ!!」
「ははっ、誰って! ルタだよ? お兄ちゃんの妹の! 頭大丈夫?」
ルタと名乗る目の前の少女はさも自分が当然かのように依然として妹であることを主張してくる。
「『頭大丈夫?』はそっちだろ!! 俺の妹だってんなら証拠出してみろよ!! 出る訳ねぇだろうけどな!!」
「証拠? あ、うーん・・・。」
ルタは何かを考えるように人差し指を唇に付けて天を仰ぐ。
「そ、それ見ろ! 俺に妹なんかいる訳ないんだ!! 証拠なんかあるわけ
「これって証拠になるのかな~?」
「なんだよ!!」
「ねぇお兄ちゃん。」
「あぁ!? 気安くお兄ちゃんとか呼
「どうして『ウルド』なんて名乗ってるの?」
「・・・・・・・・・・・は?」
ルタの一言で思考が一瞬停止する。
「だってお兄ちゃん
「なんだそりゃ!! まるで俺が別人になりすましてるみてぇじゃねぇか!!」
「『みてぇ』じゃなくて・・・本当になりすましてるよね?」
「・・・!」
背中から血の気が引いて寒気が走る。
「・・・ふ。」
ルタは薄ら笑いを浮かべて立ち上がる。
「駄目だよ? 嘘ついちゃあ・・・。」
「ッ!!」
ルタがゆらりと近づいてきたので即座に椅子の足を後ろに蹴り、さらに地面を蹴って距離を開けながら腰の剣に手を掛ける。
「何の話だ・・・!」
「もうとぼけるのは無理があるんじゃない? そんなに怯えちゃってさ♪」
「お前が怪しすぎるからだ!!」
「ひどいなぁ、そんな言い方。」
「さっさと正体現せ!! この不審者!!」
「正体現すのはお兄ちゃんじゃない?」
「・・・!」
冷や汗が頬を通り、顎から落ちた。
「そうだよね♪ アルトお兄ちゃん♪」
ルタは無邪気に笑っていた。
※リメイク前との変更点※
今回からこんな感じでリメイク前との違いを此処で語って行こうと思います!
そして今回の変更点は何を置いてもワット君たちのパーティですね!
お調子者のワット、苦労人のネカネ、茶化し担当のリィナの三人組です!
それとパン屋のおばさんのパートもありませんでしたね
で、上記の変更理由はウルドのカザでの日常感を出す為です
あと、ワット君たちを出した理由は別にありますが後々あると思うのでそれが出て来た時は「これですこれ!!」って言うと思いますw
あと微妙に変えたのがレレの性格ですね!
思ったんですがレレってキャラが薄かったので思いっきり説教臭くしてツンツンさせてみました!
まぁどうせデレると思いますがその辺は楽しみにしていてくださいw