#13 真実
~ウルド カザ:自宅~
料理を作って持ってきてくれる。
上昇の反動で動けなくなった身体でこれは非常にありがたいことだ。
けど・・・。
「なぁ・・・レレ。」
「な、何?」
「料理持ってきてくれるのはいいんだけどさ・・・。」
うん、まずはこの状況にツッコませてくれ。
「別にお前ら・・・ここで食べる必要なくね?」
ルタとレレはそれぞれ自分の食事をトレーに持ってきて近くのテーブルに置いていた。
「いやお兄ちゃん今動けないじゃん?」
ああそれは分かる!
この際ツッコまねえ!
「けど二人持ってくる必要なくね!? レレ、お前はどうなんだよ!」
「いやその・・・。」
レレはまたもじもじしだして言葉を濁す。
なんなんだ今日のレレ・・・!
「!」
突如何か思いついたかのようにレレはハッとすると・・・。
「そう! 見張ってるの! あんたが看病されるのに託けてルタさんに変なことしないか!!」
「いやなんでだよ!! それさっきされてたの俺の方だろ!! なんでそうなるんだよッ!!」
「お兄ちゃん? 『男は狼』って言葉知ってる? 密室で男女が二人っきり、そんな状況で何かあった時に第一に疑われるのはいつだって男の方なんだよ?」
「羊の皮をかぶった狼がいけしゃあしゃあとよくも言いやがりますなぁオイ!! なんならてめえは化けの皮剥がれてるだろうがッ!!」
「そう! 私は狼! オオカミ娘って結構可愛くない? 食べちゃうぞ~♡ がうがう~♡」
「うるせぇ、開き直ってんじゃねぇッ!!」
「ふ た り と も ?」
「「ごめんなさい。」」
レレの方向からただならぬオーラと圧を感じて俺とルタは咄嗟に同じ判断でそっちを向かず謝罪する。
「全くあんたたちはほっとけばすぐ喧嘩するんだから・・・。」
レレは呆れ気味に溜め息をつく。
その姿はまるで十年来の幼馴染みたいだった。
「ごめんなさい。」
「悪かったよ。」
「とにかく! さっさと食べるよ! 冷めちゃうんだから!」
「そうそう! 冷めちゃうからね~♪」
「・・・! おい。」
「うん?」
ルタは小動物のような雰囲気の笑みで首を傾げる。
「何の真似だ。」
俺がツッコむ理由は『冷めちゃうからね~♪』の後にルタがやった行動だ。
台詞の直後、すぐに椅子から体を起き上がらせて俺の料理のトレーからスープのカップを取り出しスプーンで中身を掬って俺の前に差し出したからだ。
「あーん。」
「・・・。」
ルタの行動に俺は顔が強張り片目が細まり、目尻をヒクつかせてしまう。
「おい。」
「あーん。」
「やらねぇぞ?」
「停戦条約。」
「ぐっ・・・!」
こいつ・・・!
ここぞとばかりにさっきの話引っ張ってきやがって・・・!
「あーん。」
「くっぬ・・・!」
くそぉ・・・!
「あ、あぁ・・・!」
腹の底から溶岩のようにフツフツと湧き上がる怒りを抑え、嫌々ながら口を開ける。
その時だ。
「あ・・・あぁぁ・・・!!」
「・・・?」
声?
「レレ?」
何故か悲痛な声が聞こえてレレの方を見ると、何故かレレは悲しそうに眉をひそめて口を半開きさせていた。
「あ!」
俺の視線に気付いたレレはハッとして視線を逸らす。
だが・・・。
「ッ・・・!」
視線を逸らした後も目をギュッと閉じ、椅子に腰掛けた両膝をギュッと閉じ、その上に両拳を押し付けて力んでいた。
「どうした? レレ。」
「な、なんでもない! なんでもないから! 早く食べさせてもらいなさいよ!」
何故か顔をそらしたままレレは視線だけこっちに向け、必死に今にも泣きそうな声で吐きかけるように言ってくる。
「何なんだよお前さっきから・・・。」
今更だけど朝からずっと挙動がおかしいぞ。
「ルタ、お前また変なこと吹き込んだんじゃ・・・ッ!?」
言いかけてルタに視線を移すがすぐに異変に気づいて固まってしまう。
「あははぁ・・・☆」
「・・・ッ!」
なんだこいつッ!
何その悪そうな笑みッ!!
「レレさん♪」
「な、何?」
「やります?」
「!!」
ルタが言った謎の提案にレレは目を見開いてピクリと肩を震わせる。
「え、本当に!?」
レレは何故かすぐにこっちに向き直ってパッと明るい子供のような笑みを向けてくる。
「あ! や、えぇと・・・。」
だがすぐにハッとして縮こまって椅子に戻り両手の人差し指を合わせながらもじもじする。
「やっぱり・・・いい・・・。」
なぜか弱々しくルタの提案を拒否する。
なんなんださっきから???
意味が分からんッ!
「チッ・・・もういいよ! あれからだいぶ経って筋肉痛も治ってきてるし、手足ぐらい動かせ・・・。」
言いながらルタの持っていたスープのカップをひったくろうとしたその時だ。
「・・・・・あれ?」
なんか手が動かない・・・?
というか手に違和感が・・・はぁ!!?
「なんじゃこりゃああぁぁぁぁッ!!!!!」
俺の両手がベッドの後ろの骨組みにタオルで縛られていた!!
「ルタッ!! てめえッ!! 何の真似だッ!!」
すぐに犯人をとっちめる!!
「んふふふ♪」
だが当の本人は大人をバカにしたクソガキのような舐めた笑顔で俺を見ながら・・・。
「ダメじゃなぁい♪ 勝手に動いたら♪ けが人は安静にしてなきゃ♪」
「だからってここまですることねぇだろ!!!」
「こうでもしないと勝手に動きそうだからね♪ 必要な処置です!」
「うるせぇッ!! どうせ半分以上イタズラでやってるだろうがてめぇッ!!」
「え!? なんで分かったの!!?」
「開き直って小馬鹿にしてんじゃねぇッ!! もうアッタマきた!! そっちがその気なら、断固として俺は食わないことをここに宣言する!!」
「えぇ!!? それはあんまりだよぉ!! せっかくレレさんも作ってくれたのにぃ!!」
「こんなもん誰が作ったって一緒だッ!!」
「ッ!!!!」
「お兄ちゃんそれはあまりにもひどいよ!! 女の子が作ってくれた手料理を残飯にする気!? いくらなんでも鬼畜が過ぎるでしょ!! そんなに私を興奮させたいの!?」
「黙れイカレ変態女ッ!! 裁判長!? 訴訟しまぁすッ!! こいつまた悪ふざけしてまぁすッ!!」
「意義あり!! 先に看病拒んでだだこねてご飯食べないお兄ちゃんが原因でーす!!」
「誰が作っても・・・一緒・・・?」
「「え????」」
何故かレレが俯いたまま立ち上がる。
「どうした? レレ?」
「あ・・・。」
「? ルタ?」
「~~♪ ~♪」
何かを察したかのように声を上げたルタの方に視線を移すとなぜかルタは口笛を吹きながら視線を逸らす。
「おいお前何を知ってる。」
「あんなに・・・。」
「?」
「あんなに勇気出して・・・お見舞いに来て・・・作ったのに・・・!」
「レレ?? どうした???」
明らかにレレの様子がおかしい。
俯いているせいで前髪で目元は見えないが、口元がへの字に歪んで下唇を噛んでいるようにも見える。
だが・・・。
「はぁ・・・。」
すぐにため息をついて脱力する。
本当にどうしたんレレ????
「なあ、大丈夫か?」
「ウ~ル~ド♪」
「ッ!?」
レレは顔を上げる。
するとその顔は何故かすごく幸せそうに明るい天使のような笑顔だ。
なんだ!?
よくわからんが背筋から寒気がする・・・!
つうかこんな顔のレレ見た事ねぇ!
その意味の分からなさが逆にコワイ!
「!?」
困惑する俺を他所にレレは俺の寝ているベッドに腰掛けて顔を近づけてくる。
「ウルド♪」
「え、な、何?」
「今から私の言うこと復唱。」
「ふ、復唱?」
「『怪我人は、絶対安静』。はい♪」
言わせたい台詞を言うとレレは合いの手を求めて来る。
「いやだから! こんな拘束されてなかったらすぐにでも動けッ!!?」
言いかけた途端に予想外のことが起こる。
突然レレが胸倉を掴み、俺の顔をほぼゼロ距離まで自分の顔に引き寄せてきた。
「『怪我人は』・・・『絶対安静』・・・はい♪」
「・・・!」
なんだ!?
笑顔だけどめちゃくちゃ圧を感じる・・・!
「け、怪我人は・・・絶対安静・・・!」
気圧されて思わず心にもない言葉を言う。
「『怪我人は絶対安静』。」
「『怪我人は絶対安静』。」
なんか洗脳されてる気分なんですけど・・・!
「よしよしえらいえらい♪ ちゃんと分かったね♪」
なぜか優しい言葉で頭を撫でてくるレレ。
普段やらない行動だけに不気味過ぎる・・・!
だが・・・。
「ちゃんと分かったんなら、さっさと食べろォッ!!!」
「ぶがぁッ!!?」
急にレレの顔は天使のような笑みから鬼のような怒りの形相に変わり、ブチギレの怒りにまかせて即座に俺の料理のトレーからパンを取って俺の口に突っ込む。
「ほらスープッ!! パンッ!! サラダッ!! 魚ッ!! ちゃんと食べなきゃ治んないぞぉッ!!?」
「レ、レレぶぐぁッ!! そんなッ!! 一気にッ!! 詰め込んッ!! でも入ッらないッ!! ていうかッ!! この魚ッ!! ちょっと焦げッ!! てッ!!」
「うるさい黙って食えぇぇぇッ!!!!」
口に詰めるだけ詰められて喋りにくいながらの必死の講義も虚しく、レレからの謎の制裁は続いた。
~ルヴァーナ王 王宮:書斎~
「入ってよろしい。」
書斎で書類に目を通しているとノックの音が聞こえたので音の主を部屋に入れる。
「失礼致します。」
入ってきたのは大臣の男だ。
「クラウスか。用件は?」
「はっ、イルメキア国より届きましたので、こちらに。」
「ふむ。」
大臣が歩いてきてお辞儀をしながら手紙を渡してくるので受け取る。
「他には何通あった?」
「ッ!!?」
その言葉に大臣はギクリとする。
「責めはしない、教えてくれ。」
「・・・。」
大臣は言いにくそうに口を紡ぐが、私に言われて嫌々ながら重々しい口を開く。
「今日だけでも・・・二百通ほど・・・。」
「・・・。」
「申し訳ありません。」
「いや、いい・・・どうせ同じ内容だったのだろう?」
「はっ・・・。」
大臣は申し訳なさそうに深々と頭を下げる。
だが別に大臣を責めるつもりはない。
おそらくは大臣のやっていることは私を気遣ってのことだろう。
どの手紙も言い回しは違うが大体 言ってることは同じだ。
要約するとこうだ。
『魔王を倒すほどの力は脅威だ。』
『世界を救った英雄を殺すという非道な行いをしたくないのであれば誰かが管理するべきだ。』
『そちらにできないのであれば我が国が。』
そんな内容だ。
だがこの手紙の送り主たちはあまりにも無知な連中ばかりである。
これはそう言う次元の話ではない。
それ以上に世界にとって危険なことなのだ。
万が一何も知らない国の手に彼が渡ればそれこそ取り返しのつかない事態になるだろう。
「手紙は後で全て確認する。」
「よろしいのですか?」
「良い。準備ができ次第持ってきてくれ。用件は以上だな?」
「はっ。」
「ならば下がれ。」
「はっ。」
大臣は腹部に軽く手を添えて一礼すると、そそくさと部屋から出て行った。
「・・・・・・!」
少しするとコンコンとまたドアをノックする音が聞こえる。
「入ってよろしい。」
私が言うとノックの主は入ってくる。
私より一回り小柄で、栗毛の身なりのいい少女だ。
「カトレア!」
先ほどまでの重々しい気持ちがすっかり霧のように晴れ、目の前の少女に目いっぱいの喜びを込めた声をあげる。
彼女はカトレア私にとっての自慢の妹だ!
歳は私より十一歳も離れているがそれでもしっかりとした、国王の私が言うのもあれだがもったいないほどの妹だ!
だがしっかりとしていながらも幼い少女特有の不器用で思考が少し未熟なところもまた可愛くて・・・っといかんいかん!!
「兄上。」
「どうしたカトレア! そんな浮かない顔をして!」
今日はどうしたんだろうか。
表情が訝しげだ。
何か機嫌が悪いんだろうか。
何か良くない事でもあったのか?
であればすぐにでも
「先ほど大臣が申し訳なさそうな顔で慌てて部屋から出て行きました。」
「あー・・・それは・・・。」
別に悪いことをしているわけでもないが、カトレアの機嫌を損ねているという罪悪感で少し硬い表情で苦笑いを浮かべて視線を逸らして右手の人差し指で頬を掻く。
「分かっています。いつもの迷惑な大量の手紙でしょう?」
「そういう言い方をしなくてもいいだろう? 仮にも他国の国王や国の要人で私も慎重に対応しなければならない交渉相手だ。無下な言い方は良くないぞカトレア。」
「ですが彼らは無知と蒙昧が過ぎます! 兄上が懸念していることも一切知らないですし、何より兄上がどれほど胃を痛める程の苦労をされているかも分からないのですよ?」
「なんだ、心配してくれているのか?」
「な!?」
カトレアは顔を赤くして慌てる。
「そ、それは・・・そうですよ? 私は兄上の妹ですし? 家族の苦労は私が一番分か・・・って、あ!?」
カトレアは更に顔を赤くして慌てる。
動揺するまいと視線を逸らしながら必死に平静を取り繕って語る間に私がすぐ目の前まで迫って頭の真横の壁に手を突いたからだ。
「あ、ああ、兄上!?」
「こんな健気な妹を持てて、兄は幸せだぞ?」
「や、ちょ、兄上!! お戯れが過ぎま・・・うぅ・・・!」
指の裏で優しく横髪を撫で、そこから頬を撫でる度に気持ち良さそうにぴくりと肩を跳ね上げるカトレア。
怒りながらもそれに抵抗できず、意図せず徐々に身を任せている姿が実に愛らしい。
ああ、駄目だ。
愛おしすぎる。
「ッ!?」
カトレアは目を見開く。
私が後ろ頭を掴んで引き寄せ、唇を奪ったからだ。
柔らかな唇を堪能して数秒後、口を放す。
「可愛いぞ、妹。」
「あ・・・。」
人差し指と親指でカトレアの顎を掴んで少し上げ、私に視線を合わさせて真っ直ぐに見つめながら囁きかかけると、カトレアの目はとろんと力が抜ける。
「お、お兄様・・・!」
すっかり蕩けきった顔でカトレアは笑みを浮かべた。
~ウルド カザ:自宅~
きちんと掃除され、綺麗になった部屋。
ベッドのシーツも整い、俺の額には替えたばかりの濡れたタオルを乗せられている。
そんな至れり尽くせりな状態で俺は・・・。
「う・・・ぉぉ・・・!」
白目を向いて唸り声を上げていた。
「さぁて! やれることは全てやった感じかな? 後はこのバカが治るのを待つだけでいいわね!」
大の字で立ちながら腰に手を当て何もやりかもやりきったかのようにいたけだかに鼻を鳴らすレレ。
掃除の途中だったせいか、いつのまにか上着も脱いでおり、シャツの長袖を肘までまくり上げていた。
「何から何までありがとうございます! おかげで助かりました!」
そんなレレに嬉しそうに感謝の言葉を送るルタ。
「いいっていいって! それより、このバカをちゃんと見てあげなさいね、ルタさん!」
「はい、頑張ります!」
お互いに助け合い、友情が生まれたかのような爽やかでいい光景に見えるだろうが実際はそんなものとんでもない!
『俺』という一人の敵を前に一蓮托生で二対一の虐めをやっていただけだ!
男一人に対して女の子複数人のハーレムなんて幻想をこの世界の第一に語り出した馬鹿はどこのどいつだ?
そんな幻想に騙された世の中の数多の男たちがどれだけ涙したかお前は知っているのか?
現実はあまりにも残酷だ!
結局同性異性の派閥による数的優劣が現れ、数で勝る女どもの女尊男卑に男が泣かされるのがオチなんだよッ!!
今ワットの苦労がよぉく分かった気がする!
今度会った時は優しくしてやろう!
「ウルド! ちゃんと安静にしてなさいよ? あんまりルタさん困らせたらダメだからね!」
「・・・はい。」
最早逆らう気力もなく返事を返す。
何もかも理不尽すぎる・・・!
あまりにも非情すぎる現実に涙も出ねぇぜ・・・!
「さてと気が済ん、オホン、お見舞いの食料も消化してやることやったし、私帰るね!」
おい今何て言おうとした。
「それじゃ、お大事に!」
レレは満足げに手を振ると、そのままそそくさと部屋から出て行った。
「・・・。」
「・・・。」
騒がしい奴がいなくなったせいか、部屋があまりにも静かになって辺りに沈黙が流れる。
「すごい人だったね。」
「さっき俺がSって言った話訂正しろ。あいつの方がよっぽどお似合いだ。」
「だね。お兄ちゃんあの人と結婚したら多分、いや、絶対尻に敷かれる。」
「悪夢みたいな話すんじゃねぇ。」
「『悪夢』、ね・・・。」
何故か溜め息を吐くルタ。
「何が言いてぇ。」
「さぁてね♪ それより、みんなが寝静まる夜時、そして今この場にいるのは私とお兄ちゃんだけ。やりたいことあるんじゃない?」
「・・・あぁ、そうだな。」
戦いが終わって治療も終わり、十分な休養も取った。
ならすることは一つ。
「エッチなことしようか!!あがッ!!?」
空気も読まず変なことを言うルタのトンチキ思考ヘッドに思いっきりチョップをかます。
「はぐらかすな。」
「もう! ちょっと場を和ませようと思っただけなのに!」
「さっきバカなことやりすぎてもう十分肩の力抜けてるよ。さっさと本題に入るぞ。」
「しょうがないなぁ。 で?」
ルタはチョップされた額を抑えるのをやめ、椅子に腰掛けた足の膝に両拳を乗せる。
「何から聞きたい?」
相変わらず口元が緩んで笑っているが、その目は薄目でまっすぐ俺を射抜くように見ていた。
「お前の真の目的だ。」
「即答! まぁそうなるよね。」
俺の質問が予想できていたようで、ルタは呆れ気味にやれやれとばかりに溜め息を吐く。
「お前は・・・いや元をたどれば王様か。王様は一体何と戦ってるんだ?」
「ふふ♪」
またルタはいつものように不敵に笑い出す。
そしてゆっくり口を開くと・・・。
「お兄ちゃんが真に戦うべき相手。」
「・・・。」
うん、分からん。
「何だそりゃ。」
「お兄ちゃんが倒した魔王、それが何者かによって作られたものだとしたら・・・どうする?」
「は?」
急展開すぎて頭が追いつかなかった。
「なんだそりゃ? この世界にあんなクソッタレな化け物を作った馬鹿野郎がいるっていうのか?」
「そういうこと♪」
「ふざけんな! もしそれが本当だとしたら、そいつを放置すればまた魔王が作られるかもしれないってことじゃねえか!」
「理解が早いね♪ 説明の手間が省けて助かるよ♪」
「けど・・・。」
俺は視線を逸らす。
「俺に関係あるのか?」
「・・・。」
ルタは目を細めたまま黙り込む。
「魔王を作り出す奴・・・そりゃやべぇ奴さ。世界規模でやべぇのは分かる。けどそれは国とかデカイ組織が動いて解決する問題であって、俺個人にどうこうできる問題じゃないだろ。」
「・・・。」
ルタは尚も俺を静観している。
「悪い、突然無責任な事言ってるかもしれないけどさ・・・。」
「ふっ。」
俺が弁解しようとするとルタは鼻で笑い・・・。
「分かりますよ。」
「・・・。」
裏の口調になって冷静に話始めるルタ。
どうやら事情を知っているみたいだ。
おおかた、俺に会う前に事前に調べてたんだろうな。
「貴方にとって魔王は『最初の家族の仇』、新しく魔王を作られようがそれは他の地震や荒波の災害とと同じ、『ただの厄災』、出来れば首を突っ込みたくない・・・そうですよね?」
「よく調べてることで・・・。」
「理不尽に貧困生活を強いられながらも貴方を産み、必死に大事に育ててくれた両親を、魔王の復活と共に現れた霧魔に殺された・・・貴方にとって魔王と戦う理由は『復讐』・・・それ以外はどうでもッ!!?」
「調べすぎだ・・・!!」
俺はルタの胸倉を掴んで引き寄せながら睨みつける。
「ふっ。」
ルタはビビりもせず不敵に笑うと・・・。
「仕事なもんで☆」
ルタはいつもの妹モードに戻って舌をぺろりと出しながら開き直る。
「チッ・・・。」
凄んだところでこいつには通用しない。
ムカつく女だ。
「ところがどっこい!!」
突然ルタが手を振りほどいて右手を高く上げるとそのまま振り下ろすように俺の前まで落として真っ直ぐ俺を指さす。
「あ?」
「お兄ちゃんが『全くの無関係』って事には出来ない事情があるんだなぁこれがぁ!!」
「なんだよ。」
嘘くさいテンションにいい加減うんざりしながら問いを投げる。
「考えても見なよ、そいつの手先がこんな辺境の町をピンポイントで襲うなんておかしくない?」
「・・・。」
思い当たる節があった。
『アァ・・・・ルゥゥ・・・・・トォ・・・!』
奴は俺を知っていた。
「俺を狙って町を襲うのは分かった。」
「理由は?」
「なんでお前が聞くんだよ。」
質問してるのは俺の方なのになんで俺が解答側なんだよ意味が分からん。
「・・・前の魔王の仇討ちか?」
「ぷぷ・・・!」
「・・・。」
どうやら外れのようだ。
っていうか馬鹿にする笑いが腹立つ・・・!
「もったいぶらずに言えよ!」
「ふふ。」
ルタは不気味に笑い出した。
なんだ急に!?
こいつ、気味が悪いな!
「そいつはね・・・魔王を作るのに材料が必要なんだよ。」
「材料?」
魔王っていうのは錬金術の産物か何かなのか?
「で、その材料っていうのは?」
「まさに今、私の目の前にあります!」
そう言いながらルタは不敵な笑みを浮かべたまま、真っ直ぐに俺の方角を見ている。
「???」
俺の後ろに何かあるのか?
そう思って後ろを見ると、あるのは椅子にかかった、さっき俺が被せられていたカツラだ。
「そんなに奥じゃないよ!」
ルタに言われながら振り向くとルタは真っ直ぐに俺を指さしていた。
まさか・・・!
「俺!?」
「そういうこと♪」
「・・・。」
一瞬思考が停止する。
いやどういうことだってばよ。
俺って錬金術で使える超レア素材だったのか?
いやいやバカ言うなよ!
天命授かった聖女じゃなくてただの人間だぜ?
あ、もしかして俺って自分が知らないだけで体が希少な鉱石とかで出来てたりするのか?
なるほどなるほどそうかそうか!
「魔王はアダマンタイト鉱石で出来てるのか。」
「なんでそうなったの?」
俺のひねり出した精一杯の回答にルタは無慈悲にツッコミを入れる。
「まぁいいや。お兄ちゃんが何を勘違いしてるのか知らないけど、材料って言うにはちょっと語弊があるんだよね♪」
「語弊? って何だよ??」
「正確には『乗り移って作り変える』ってこと。」
「乗り移って・・・作り替える?」
「そう! そいつは魔王にふさわしい器を選んで乗り移るんだよ。」
「それが、俺?」
「そういうこと♪」
「なんで?」
「お兄ちゃんが魔王を倒しちゃったから。」
「それだけで!!?」
「そう! それだけで!」
「意味が分からん!!」
「その辺も含めて説明するよ。」
呆れながらため息を吐くと、ルタは目を閉じて一呼吸おいてから口を開く。
「そいつは魔王の中にいてね? 魔王の中から次に乗り移るにふさわしい『強い人間』を品定めしてたんだ。それで魔王が見て一番強い人間って言ったら?」
「・・・『自分を倒した相手』ってことか。」
「そういうこと!」
「ふざけやがって・・・じゃああの狂戦士はそいつの手下ってわけか。」
「その辺はよくわからないんだよねぇ。」
「なんで?」
「そいつは手下を集めて組織を作るなんてこと、不可能だと思うんだよねぇ。」
「なんでそう言い切れるんだ?」
「そいつはね、実態のない『魂だけの存在』だから!」
「魂だけの存在・・・『幽霊』ってことか?」
「そういう認識で大丈夫だよ♪」
「つまり『実態のない幽霊ごときが、どうしてそんな手下をけしかけるほどの組織力があるのか?』ってことか。」
「まあ、そのあたりは外部に元々協力者がいる可能性もあるし? 魔王として倒される前に眷属が既に組織を作っていたかもしれないし? 考えたところで憶測が色々飛び交ってキリが無いと思うから今は考えなくてもいいよ♪」
「確かにな。」
それはそうだ。
考えたところで結論の出ないことを考えても仕方がない。
「まぁ、奴らの実態がどうあれ目的は明白。お兄ちゃんを魔物化させて連れて行って、お兄ちゃんを『次の魔王』にしてこの世に魔王を復活させようって魂胆だね。」
「ふざけやがって・・・!」
「そう! そんなふざけたそいつらの勝手をさせないために私がこの腕輪を思って現れたってことさ!」
「なるほどな。で? 何なんだよこの腕輪。」
腕輪を着けた右腕をルタに向かって翳しながら問いを投げる。
未だに腕輪の謎が多い。
見た感じ薄い銀色の糸を編み込んだだけのただの腕輪でしかないが、あの時の効果は絶大だった。
助かったことには変わりないが、やはり得体が知れないとなると警戒心は拭えないのが事実だ。
「うん! そうだね! この腕輪に関してはちゃんと説明した方がいいね!」
そういうとルタは、これ見よがしに腕輪のついた左手を突き出して見せつける。
「まずこの腕輪の名前は、『親愛なる絆の証』!」
「親愛なる絆の証?」
「そう! 聖堂協会の中でも秘蔵中の秘蔵の超激レアアイテムだよ!」
「で、その力は?」
「よくぞ聞いてくれました! この腕輪はね! 対になる腕輪を着けた者同士で様々な恩恵を与えてくれる超便利アイテムなのだぁ!!」
左腕を天に突き出して居丈高にルタは語る。
「具体的には?」
「ん? う~ん・・・。」
俺の質問に対しルタは悩ましげに右肘を左手に置き、右手を顎に当てながら天を仰いで考え込む。
「なんだよ。説明出来ねぇのか?」
「多分、多すぎていっぺんに説明しちゃうとお兄ちゃんの頭パンクしちゃうかも。」
「だったら一つや二つでいいから説明しろ。」
「うん、それならあの夜見せたあの力について説明した方がいいね♪」
「・・・。」
確かにそれが一番気になっていた。
俺の精神の片隅とも思われる場所で正体不明、意味不明な化け物に食われかけたところに現れ、あわやこれまでかと思った瞬間に腕輪が強く光ってよく分からないうちに悪夢から覚めるかのように元の状態に戻った。
おそらくは腕輪の力なんだろうが、どうあっても謎が多すぎる。
「まず『霧魔が生物を魔物に変えてしまう原理』から説明した方がいいね! お兄ちゃんが知ってるのはどれくらい?」
「確か、霧魔から発生する霧を体に取り込んだら細胞が作り替えられて魔物になるんだよな?」
「三十点ッ!!」
「何点中?」
「もちろん百点満点中!!」
「だったら残りの七十点はどうなんだ。」
「こっちで調べて分かったことなんだけどね? 霧魔の霧が生物に入った時、最初に魔物に作り変えるのは『精神』からなんだ!」
「精神?」
「おそらくは魔力に起因するからだろうね! で、心を完全に魔物にされた生物はその精神から、まるで土に貼って伸びてく根っこみたいに広がっていって体が魔物に作り変えられるんだ!」
「じゃあ、まさか・・・!」
「ご名答!!」
「まだ何も言ってないけどな。」
「いいじゃんいいじゃん! 多分あってるからさ♪」
「それで解答は?」
「つまり、精神の浸食を食い止めてしまえば魔物化は発生しない!」
「・・・。」
「まぁ、こんなの理屈だけ説明したって何の説得力もない口先だけの学者さんの空論だろうけど、実際の現場を見たら信じるしかないよね?」
「つまり、この腕輪の力っていうのは俺の精神に干渉してくる霧の病原体から俺を守る、抗体みたいな役割があるってことか。」
「理解が早くて助かるよ♪」
「はッ!」
思わず鼻で笑う。
助けられた身で言える義理じゃないが馬鹿げてる。
「ただしッ!!」
またまたルタは突然体を起き上がらせて右手を突き出し、俺の額に人差し指を押し付ける。
「ただし?」
「この腕輪にはちょぉぉぉっと特殊な発動条件があってね?」
「ちょぉっと特殊な発動条件?」
「んふふ、面白そうだからクイズにしちゃおうかな? 何でしょう!」
「ちっ、もったいぶりやがって・・・。」
いや普通に考えていきなりそんなこと言われたってわかんねえよな?
「はぁ・・・降参。 さっさと教えてくれ。」
「音を上げるの早くない?」
「だってわかんねぇもん。」
「じゃあヒント! この腕輪の名前!」
「名前?」
確か名前は親愛なる絆の証・・・ラバーズ・・・ボンド・・・親愛なる絆・・・『親愛』・・・『絆』・・・あれ?
いや待て?
待て待て?
「まさか・・・!」
つい心の声が漏れながらルタから視線を逸らし、わなわなと震える手で片目を覆う。
「分かっちゃった?」
「まさかこの兄妹ごっこに関係あるとか言わないよな?」
「あはは、『ごっこ』なんてひどいな!」
ルタは呆れ気味に笑う。
「そうか? ははは!」
俺もつられて笑う。
「はははは!」
「あはははは!」
「で? どうなんだよ。」
「うん正解!」
「・・・。」
すぐに笑いが消えて片手で顔面を覆いながら項垂れる。
「この腕輪は着けた者同士が、相手に対して『家族の感情』を持ってないと駄目なんだ!」
「仲間とか友達とかじゃダメなのか?」
「駄目駄目! 『家族』じゃないと駄目なんだ!」
「何か違うのか?」
「多分繋がりが薄いからだと思う。」
「・・・。」
「ということで!」
ルタは手を広げてハグの姿勢を取る。
「特に難しいこといろいろ考えずに、この妹に甘えていいんだよ? お兄ちゃん♪」
「・・・。」
「お兄ちゃん?」
黙り込む俺にルタは何事かと首を傾げる。
だがその『分かんない』って顔は絶対嘘だ・・・!
全部分かってる!!
「ふざけんなぁッ!!」
怒りに任せてルタの胸倉を掴む。
まだ上昇による筋肉痛が抜けきっておらず、腕に激痛が走るが怒りで頭に血が登った今の俺には関係ない!!
「ああ確かにスゲェ腕輪だよ!! それで今俺は無事なんだからな!! けどなぁッ!!」
更に絞め上げるように腕を上げる。
「『家族』って物はなぁ!! 弄んじゃいけないんだよッ!!」
こいつにはきっと分からない!!
家族って奴がどれ程大切なもので、汚してはならないものかを!!
「やっぱそうなるよね。」
「ッ!!?」
今の言葉で完全にキレた。
「なんだその言い方ッ!!」
腕の激痛を無視して強引にルタをベッドに引き寄せて倒し、馬乗りになってのしかかる。
「じゃあアレか!? お前、こうなるの最初から分かって全部やってたのか!!」
「うん、分かっててやった。」
「てめぇ・・・!」
開き直りやがった!!
煽ってんのか!?
「舐めやがって!! このアマ
「でも謝らないよ?」
「・・・!?」
今、なんつった?
「確かにお兄ちゃんを助けるためにやったけど、『家族』って物を大事に思ってるお兄ちゃんに対してそれを利用するのは最低なのは分かってる。それを『助けるため』だとか、言い訳するつもりもないよ。」
「はぁ!?」
意味が分からねぇ!!
『謝らない』とか言った矢先にこんな自分の非を認めるような言い方・・・!
「何が言いたいんだお前ッ!!」
「今に分かるよ。」
「・・・?」
訳の分からない事を言いながらルタは目を閉じ、腕輪を着けた左手を握りしめる。
「感応開始。」
「!!?」
ルタが何か変な言葉を唱えるとルタの腕輪と俺の腕輪が同時に光り出す。
「聖なる主に乞い願う 親愛なる君を助けんが為 我が心 我が身 彼の地へ送り届けん」
「な、なんだ!!?」
腕輪が光り、余りに強い光で周りが見えなくなる。
「・・・?」
光が治まり、辺りが見えるようになる。
腕輪は未だにその腕輪自身が見えなくなるほどに輝き続けていた。
だが・・・。
「!!?」
目の前の光景に目を疑う。
俺とルタが今いる場所は岩山の上だった。
「なんで・・・!」
俺にはこの岩山の風景には見覚えがあった。
山の麓に生えている瑠璃色の木・・・この山々の特殊な魔素を取り込むことによって変色した樹、『海洋樹』。
それが生えている山なんて一つしかなかった。
「アパラヴィアスト山・・・!」
巨大な龍が潜むと言われている山で、その地を侵す者を襲うことから『龍神の山』とも呼ばれ、麓の人間たちから恐れられていた山だ。
「へぇ・・・綺麗な山ぁ。こんな所に来てたんだね。」
体を起き上がらせながらルタは感心そうに山を眺める。
「なんだよ・・・これ、どういうことだよ!!」
「それじゃ、他のとこも見てみよっか、ハイ!」
「くッ!?」
ルタが指を鳴らすとまた腕輪が激しく光り・・・!
「ッ!!?」
今度は夜の薄暗い町だ。
だがこの町にも見覚えがある。
「ここは・・・!」
「ギレディの町、うわぁ・・・! こんな陰険な所にも来てたの?」
『ギレディの町』、アークヴォルグって国の王都近くにある町で貴族と平民の住居の中間地点にある事から、貴族がよく奴隷を買いに来る町だ。
「なんなんだよこれ!!」
「あの時見せたこの腕輪の能力だよ?」
「腕輪の能力?」
「こっちの方が本来の使い方に近いかな?」
「・・・。」
ルタに言われて思い出す。
狂戦士の霧に襲われた時のあの能力だ。
おそらくはその状況のことを言ってるんだろう。
「発動者が相手の精神に入り込む能力。上手く使えばこうやって相手の記憶も見ることができるんだ♪」
「・・・。」
「ふ。」
黙り込む俺をルタは黒い笑みで微笑みながら静観する。
「こんなもの見せて何が言いたいんだ!!」
「・・・とりあえず解除しようか。」
「ッ!!?」
ルタが指をパチンと鳴らすと腕輪がまた眩しく光り出す。
「!」
再び光が晴れると元の俺の部屋のベッドの上に戻っていた。
「とりあえずさっきの質問の答えね? 『腕輪の能力を見せたかっただけ』。」
「だからッ!! 能力見せて何が言いたいんだよ!!」
再び俺はルタに掴みかかる。
「分からない?」
「?」
「この腕輪が発動したってことは、腕輪の発動条件を満たしているってこと。」
「!!?」
まさか・・・!
「腕輪はお互いに家族の感情を持っていないと発動できない。だから発動したってことは
「嘘だッ!!」
ルタの言葉を切って即座に否定する。
あり得ないからだ!!
そんなこと・・・ある訳が・・・!
「ならもう一回使う?」
「その『発動条件』っていうのが嘘っぱちなんだろッ!! お前の言うことなんて信用できるかッ!!」
「嘘と思うなら別にいいよ? でも私には分かる。」
「?」
そう言いながらルタは俺の胸にそっと手を触れる。
「レレさんから聞いたよ? この町に来たお兄ちゃんのこと、魂の抜けきった死人みたいな顔だったってね。まぁ、大事な物全て失ったあとじゃ当然だよね。」
「なんだよ・・・それがどうした!!」
「・・・。」
ルタは目を閉じ、再び薄く開くと・・・。
「この町で過ごした時間が貴方を癒した。」
「!」
大人びた口調で話し始めるルタ。
「でも・・・それでも心の隙間は埋まらなかった。何故だと思います?」
「そんなもの、分かる訳ねぇだろッ!!」
「いいえ、分かるはずです。」
「何だよッ!!」
「貴方がいくらこの町で平和な日常を謳歌しようと、町の仲間と楽しく過ごそうと、心の隙間は埋まらなかったはずです。」
「・・・。」
ムカつくがかなり的を得た指摘だった。
確かにこの町に来てから憎まれ口叩いてくるレレに色々世話されたり、ワットやルッカたちに出会ってなんてことないやり取りするのに居場所を感じちゃいたが、どこかしら、何か虚しいものを感じてた。
「パズルのピースが正しい形でないと穴に埋まらないように、その隙間は的確なものを埋めないと埋まることはない。」
ルタの手は俺の胸から徐々に上に移動し、首筋を通って頬に達するともう片方の手で反対側の俺の頬に触れる。
「貴方が本当に欲しかったのは、家族に等しいものだったんじゃないんですか?」
「ッ!!」
ルタの言葉が槍のように俺の胸奥を通過したような気がした。
だが・・・!
「ふざけんなッ!!」
俺は言葉を突っぱねて自身を奮い立たせる。
「ふざけんなッ!! 俺にはもう家族なんて必要ねぇんだよッ!!」
「それは何故ですか?」
「なんでって・・・そりゃ・・・。」
ルタに言われて言葉が詰まる。
「失うのが怖いからでしょう?」
「ッ!!!」
再びルタの言葉が俺の胸を貫く。
「家族を失ったからこそ、『家族の大事さ』を分かっているし、失ったからこそ『失う怖さ』も知っている。だからどんなに家族が恋しくてもそれを手に入れようとすることが出来ない。家族の様に受け入れてくれるこの町の人達すら、失うのが怖くて無意識に突き放すあまり、『赤の他人』に見えてしまう。」
「黙れ・・・!」
ルタの手を払いのけて再び胸ぐらを掴む。
「お前に何が分かるッ!! そうやって人の心に土足で踏み込んでッ!! 弄んで踏み砕くお前ごときにッ!!」
「こんな私ごときでも、一度『家族』と認めてしまったら手放せなくなってしまう・・・あなたはそういう人間なんですよ。」
「ッ!!」
ルタの言葉に全身が凍りついたかのように体が動かなくなり、胸倉を掴んだ手が力なくベッドの上に落ちる。
心の奥底にある確信を突かれた図星みたいに・・・!
いやそんなわけあるか、ふざけるなッ!!
こんなことが俺の心の奥底なわけが・・・!
「ふふ♪」
ルタは不敵に笑った後に目を閉じると・・・。
「言ったよね? 逃さないって・・・。」
「う・・・うぅ・・・!」
ルタの言葉には俺の体を縛り付けるような妙な力があった。
何故か蜘蛛の糸に絡め取られた蝶になったのを身をもって体験したかのような気分だった。
「大丈夫・・・。」
そう言ってルタは俺の頬に両手を添えると、もう片方の頬に顔を寄せて・・・。
「何があっても、お兄ちゃんは私が守るから。」
耳元で囁きかけた後、身体を引かせたかと思うと俺の頭を自分の胸元に引き寄せ、俺の後頭部と背中に手を回して頭の上に自分の頬を乗せて抱きしめた。
そんなルタに対し・・・。
「てめぇ・・・!」
慈愛の言葉を吐きかけるルタに対して俺は憎悪の感情で拳を握りながら憎しみの炎を胸の奥に滾らせ続けていた。
誰がどう見ても明らかに異質な状況だろう。
だが俺にはどうすることもできない。
全てはこいつの思うままに動いている。
「くそっ・・・!」
改めて思う。
この女・・・とんでもねぇ『悪女』だ!
~リメイク前との変更点~
・王様パート追加
理由:場繋ぎのため、あとちょっとカトレアとの関係性をアブナイ感じにw
・国云々の話を削除
理由:二話で既にしているため
・腕輪の力の話を追加
理由:ウルドがルタを拒絶できないお話にする都合上




