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嘘つき英雄と嘘の妹 ~リメイク版~  作者: 野良犬タロ
カザ編
13/63

#12 看病


~レレ カザ:ギルド~


 あれからやることは山積みだ。

 魔物や悪人が街中に入ってきた時の事後処理で事務仕事はいっぱいある。

 あるん、だけど・・・。



「ぶはあああああぁぁ・・・・・・。」



 時間は夕方、冒険者達が依頼を終えて戻ってくる頃合いなのに全然仕事が捗らない。

 何と言うか、胸の奥がモヤモヤするというか・・・落ち着かないと言うか・・・。

「うぅ・・・!」

 ついにはペンも動かなくなり、デスクに突っ伏してうなだれる。

「なんでぇ・・・!」

 やることいっぱいなのに・・・!



「そのお悩みの原因! 教えてあげましょうかぁ!?」



「げ。」

 正直今疲れてる。

 その疲れてる状況で一番出会いたくないやつが目の前にいた。

「帰れ。」

「第一声がそれってひどくない?」

「どうせあんたの話に付き合ったらろくなことないから。」

「まあ!! 嫌われちゃってまあ!!」

「今やること多くて忙しいの。あんたのおちょくりに付き合ってる暇なんてないんだから。さっさと帰れ。」

「捗らない仕事なんていくらやったって無駄無駄! だからそのお悩み解決に協力してあげようって言うのに、この友人の気持ちがわからないのかね!」

「はいはい。じゃあさっさと言うこと言ったら帰りなさい。」

 正直めんどくさい。

 めんどくさいのでさっさと満足させてから帰った方が得だと思って付き合う。

「・・・。」

 けど冷ややかな表情のまま羊毛師にペンを走らせる。

 理由は当然まともに聞く気がないからだ。

「ではでは教えてご覧に入れましょう! 悩みの原因、それは・・・。」

「・・・。」



「ウルドだッ!!!」

「ぶッ!?」



 ルッカの突拍子もない言葉に思わず上半身だけずっこけてデスクに頭を打ち付ける。

「何バカなこと言ってんのあんたッ!!」

「あんたがそうやって悩む理由なんてだいたいウルドでしょ? まあ、この辺りは私じゃなくたってだいたい誰でも気づく。」

「違うからッ!!」

「さらに言えば? ウルドはシスターさんに回復してもらったとはいえ一日療養中兼妹ちゃんの看病。」

「話聞きなさいよッ!!」

「どうしようもない理由とはいえウルドが女の子と一日中一つ屋根の下の状況ができてしまったわけだ。」

「変なこと言うなッ!! それは仕方のないことでしょ!?」

「そうそう! 仕方ないこと! でもあんたのそのモヤモヤはそんな当たり前の倫理観で納得できるもんじゃないでしょ?」

「何が言いたいのあんた!! 私が考えてることが分かるって言いたいわけ!?」

「そうそう! 分かる分かる! っていうかあんた分かりやすいから。」

「うッさい!!」

「まあ何はともあれ、間違いが起こらないとは限らないと思うよ?」

「は? 何言ってんのあんた。あの二人に限ってそんなことあるわけないでしょ?」

 そう、どう考えても考えられない。

 ウルドはドがつくほどの朴念仁だし、恋愛とかそういう女の子関連に関しては全くの無頓着だ。

 加えて妹のルタさんも前にギルドに顔出してきた時に見たけどすごくいい子だったし、純朴で控えめな、オシャレしてるけど無理してやってる感じの大人しい雰囲気の女の子だった。

 そんな二人がルッカの言うようにひとつ屋根の下にいるからって、互いに不埒なことをするとは考えにくい。

 いくらルッカが観察力がいいと言っても今回ばかりは信じがたい。

「あんたあのルタちゃんが本当に普通にいい子だと思ってる?」

「は? どういうことよ。」

「あの子ああ見えて・・・。」

 そう言ってルッカは私の肩に手を置き、顔を耳元に近づけてくる。



「油断ならないからね。」



「?」

 耳打ちするように言ってきたルッカの表情はどこかしら冷ややかだった。



~ウルド 自宅~


 今朝倒れた原因は言わずもがな、魔法と上昇(ライズ)の反動だ。

 まず魔法の負担は言うまでも無く精神の負担だ。

 身体を動かす気力を奪う精神の負荷は使ったばかりの時よりも寧ろ今みたいな使って少し後の方がかなり来る。

 どんなに『動かさないと』と思っていても身体に力が入らない。

 ただでさえこんなキツい状態に更に追い打ちをかけているのが上昇(ライズ)の負荷だ。

 運動機能を強化する上昇(ライズ)だが、あくまでそれは神経を強化するだけで肉体を強化するわけじゃない。

 つまり常人の身体で超人的な運動をするようなものだ。

 当然そんな無茶を身体に強いてしまえば身体的な負荷は免れず、限界が来れば筋肉痛は免れない。

 で、その両方を使って怪力の化け物と上昇(ライズ)()り合った上に深淵魔法なんてバカでかい魔法使った俺の運命はと言うと・・・。

「うぅ・・・うおぉ・・・!」

 ベッドの中で横になったまま、俺は唸り声を上げていた。

 理由は先ほどの説明で分かるだろう、全身筋肉痛の上軽い鬱病状態だ。

 こうなってしまうからこそ上昇(ライズ)の負荷に耐える為に筋力鍛錬をしたり、魔法の精神負荷に耐えられるように過酷な環境での瞑想したり、冒険者にとって鍛錬は必須な訳だ。

 無論、俺だってちゃんと鍛錬はしている。

 けど鍛錬しててこれだ。

 いかに魔法や上昇(ライズ)の負荷が恐ろしいか分かるだろう。



「お兄ちゃぁんッ!! 妹がお体を拭きに来ましたよぉッ!!」

「来んな。」



 いきなり元気よく入ってきたルタを雑にあしらう。

 昨晩何故衰弱していたかはよく分からんが、ルタはすっかり回復しているみたいだ。

 良かったと喜ぶべきか、あるいはあのまま大人しくしていて欲しかったと嘆くべきか。

「お腹空いてる!? 喉乾いてない!? 大丈夫!?」

「うぜぇ・・・!」

「それじゃあ脱ぎ脱ぎしようか~♪」

「黙れ・・・! 体拭くぐらい自分ででき、痛ててててッ!!」

「強がったって無駄無駄ぁ♪ お兄ちゃん魔法と上昇(ライズ)で動けない状態でしょ? 観念して妹にその身を委ねなさぁい?」

 手をワキワキさせ、目を怪しく光らせながらルタは笑って迫り来る。

「うるせえッ!! 誰がお前みたいな変態に委ねるかバカ!!」

「えー? その言い方ひどくな~い? それにぃ、エッチな女の子に色々やってもらえるなんて、そこらのオジサンだったらお金を払ってでもお願いしちゃうと思うんだけどなぁ~?」

「やめろ!! 生々しい!!」

「強情だなぁ。まあどうせ拒否られてもするんだけど?」

「やめろ!!」

「今のお兄ちゃんに拒否権あると思う? そんな動けない体でさ?」

「てめぇ、朝と昨夜の仕返しか・・・!」

「当たり前じゃん♪ あんな弱ってる女の子の首絞めたり、翌朝の病み上がりに腹パンとかさ?」

「だからそれに関しては謝っただろうがッ!!」

「まあそれに関してはお兄ちゃんの鬼畜さが垣間見れてちょっと興奮しちゃったんだけどね?」

「おいお前のそういうところだぞ? このイカレ変態女!」

 右頬に手を当て、左手を腹部に巻きつけ、若干ヨダレの出た口で嬉しそうな表情を浮かべてくねくねしだすルタに容赦なくツッコむ。

「お兄ちゃん結構Sの素質あると思うよ?」

「黙れッ!! てめえの変態性癖に俺を巻き込むんじゃねぇッ!!」

「ふふふ・・・いくら罵倒してくれたっていいんだよ? その方が余計興奮するから♪」

「マジでタチ悪いなお前・・・!」

 無敵かこいつ!

「さてと・・・。」

「おい、何してんだ?」

 何故かルタはベッドに上がってきて俺の身体の上に馬乗りになる。

「何やってんだよ、体拭くだけだろ?」

「いやさ? 思ったんだよね?」

 腕組みをしながら急にルタは冷静に表情を消す。

「何がだよ。」

「いくら私にMの毛があるとしても、さすがに二度もひどい目に遭わされて何の仕返しもなしっていうのも筋が通らないかなって。」

「今朝のことはお互いの為にどうしよもなくてやった事だって説明はちゃんとしたし、謝っただろうが!」

「いや、でもさ? やっぱりこんな仕返しするのに絶好のシチュエーション、逃すわけにもいかないし?」

「やめろ!!」

「さぁて・・・。」

「!?」

 ルタは上半身を前のめりに倒して俺の頭の両サイドに手を突き、四つん這いの状態でほぼ零距離まで顔を近づけながら俺を見下ろす。



「どんな仕返ししちゃおうかなぁ~?」



 ルタの表情は意地悪そうだが何処かしら恍惚とした表情だった。

「ふざけんな!! そんなやばい顔で迫るなこの変態!! いやちょっと待って? マジで待ってホント謝るからマジで待



~レレ カザ:ウルド宅前~


「はぁ・・・。」

 結局ルッカの口車に乗せられる形になっちゃったけど、仕事の能率が上がらないから渋々早めに切り上げてウルドの家の前にいる。

 いや、これは別に二人のことを疑ってるってわけじゃないからね!?

 あくまで療養中ながら妹さんの看病をしてあげてるウルドが大変だから仕方なく手伝ってあげるために来てるんだからね!?

 そう自分に言い聞かせて玄関のドアノブに手をかけようとするが止まる。

「・・・。」

 いや恥ずかしいとかじゃないよ?

 普通に考えてみてよ。

 女が一人恋人でもない男の家に押しかけるって、絶対変に思われるじゃん!?

「どうしよう・・・!」

 今更ながら自分のやってることがとんでもない誤解を招きそうなことだってことに気づいて頭が沸騰しそうになって頭を抱える。

 でも今更引き下がれない・・・お見舞い用に食料とか色々買っちゃったし!

 なんで私こんなことしてんのマジで!?

 いやそんなんじゃないからね!!?

 本当にウルドが怪我してるのに無理して大変だから手伝ってあげるってだけだからね!!?

「・・・ふぅ。」

 どうにか息を落ち着かせる。

 いや、まあでも考えてみたら別にウルドの家に入るの()()()()()()()んだよね。

 あいつがこの町に来て右も左も 分からない時荷物の整理とか色々世話してやったことあったし、何意識してんだか・・・。

「ハァ・・・。」

 だいぶ気持ちが落ち着いてきたので意を決して ドアの前に一歩出る。



「こんばん

「アッーーーーーーーーーーーーー!!!!!」



「!!!?」

 何今の声!?

 ウルドの声!!?

 中で何か起きてるの!!!?

「ちょ、入るよ!?」

 ドアには鍵がかかっていなかったようなので急いで家の中に入る。

「確か声は二階から・・・!」

 急いで階段を上がっていく。

 二階の部屋、確か寝室だったっけ?

 一体何が!?

 すぐに状況を確認したくてドアノブに手を掛けた時だ。



(おいマジふざけんな!! こんなこと許されると思ってんのか!?)



 中からウルドの声がする。

 何か非難しているみたいだ。

「・・・?」

 ドアに耳を当てて聞き耳を立ててみる。



(いくら泣き叫んだっていいんだよ? どうせ誰も来ないからね♪)



「!?」

 今の声、ルタさんの声?

 いやでもおかしい!

 すごく意地悪そうな声だ。

 あのギルドに顔を出してきた時の清純そうな女の子とはとても思えない、悪女みたいな声だ。

(こんなことして恥ずかしくないのか!!)

 恥ずかしい?

 一体何をやってんの?

(観念して私に全てを委ねなさい? お・に・い・ちゃん?)

「!!?」

 待ってこれって・・・!



『間違いが起こらないとは限らないと思うよ?』



 不意にルッカの言葉を思い出す。

 いやいやないない!!!

 あの二人に限ってそんなことは・・・!

(待て!! 早まるな!! いくら何でもそれはやっちゃだめだろ!! おい聞いてんのか!!)

(動けないのに必死に言葉だけで抵抗しちゃってカ~ワイ♪)

(うるせぇッ!!)

(ここまでやっちゃったんだからさ、行くとこまで行っちゃおうよ♪)

 ()()()()()()!?

(正気かお前!? 自分が何しようとしてるのか分かってんのか!!? うわァッ、や、やめろぉ!!)

(ほぉら、入ってくよ~? よ~く見てて♪) 

 ()()()()!!?

(悪かった!! 謝るからッ!! あ、ああ、駄目だって、や、やめ



「コラああああぁぁぁぁッ!!! 兄妹で何してんのあんたらあぁぁぁぁッ!!!」



 いても立ってもいられず、一気にドアを開けて部屋の中に突撃する。

「!!!」

 目の前にすぐに映ったのは床に散りばめられたウルドの服と下着。

 やっぱり・・・!

「あんたた・・・!」

 すぐに視線を上げて 今にも二人に罵声を浴びせようかとした瞬間・・・。



「ち・・・?」



 言葉が詰まる。

「「え?」」

 そこにはベッドの上で横たわりながらなぜか女の子のような服を着ていたウルドと、そんなウルドの足元でスカートの下から女物のショーツを今にも履かせようとしていたルタさんの姿があった。

「レ、レレさん!?」

「おま、何でこんなところに!?」

「・・・いや、マジで何してんのあんたら。」

 一気に力が抜けた。



~??? カザ:街中~


「うぅ・・・。」

 来て早々自信がなくなって来たのです・・・。



---数分前。


「町はずれに出てきた巨大な雷の剣? ああ、確かに見たよ。」

「ホントですか!?」

 やっぱり間違いないのです!

 師匠はこの町に・・・!

「けど噂だとその巨大な魔法の剣って何処か他所の冒険者が使ったらしいんだ。」

「え?」

「かなり身なりのいい徒党(パーティ)で、そのうちの魔術士(メイジ)がやったそうだ。」



ーーー「うぅ・・・。」


 さっきからずっとこんな調子で段々気持ちが沈んできて町の中をトボトボ歩いていたのです。

 けど・・・。

「ふんッ!!」

 前屈みになってた身体を起こして気合いを入れなおすのです!

 諦めないのです!

 絶対に師匠はこの町にいるのです!

 そんな気がしてならないのです!!

 だから絶対諦めないのです!!

「師匠は何処ですか!!?」

「?」

 道行く人に声をかけるのです!

「誰? あんた。」

「あなた、師匠を知らないですか!!?」

「いや、話が見えてこないんだけど?」

 話しかけたのは金髪の弓を背負った女の人なのです!

 この人もきっと 冒険者だからきっと知ってるのです!

「昨日の夜この町の近くで巨大な雷の剣が出てきたのです! 何か知ってるですか!?」

「雷の剣? あー! 知ってる知ってる! 確か冒険者の徒党(パーティ)

「ぬぁん!! もう!! だからッ!! そんな話はもういろんな人から聞いたのです!!」

「えぇ・・・何この子・・・!」

 私が起こると女の人は苦笑いを浮かべてよく分からない非難の表情をしてるのです!

 心外です!!

「けど絶対に違うのです!!」

「違う??」

「私は望遠鏡で現場を見てたのです!! 雷の剣の下にいたのは一人のコートを着た男の人で、とても魔術師(メイジ)には見えなかったのです!! 剣士みたいな見た目だったのです!!」

魔術士(メイジ)じゃない?」

「あの剣士のような身なりであんな戦い方ができるのは私の師匠以外ありえないのですッ!!」

「雷の剣を使っていたのが・・・徒党(パーティ)じゃなくて、一人?」

 女の人は何故か目を細めて私を見るのです。

 けどそんな事はどうでもいいのです!!

「そうですッ!!」

「それで、その一人の男があんたの師匠?」

「そうですッ!! 師匠ですッ!!」

「へぇ・・・。」

「?」

 女の人は口元に手を当てると、その当てられた口元が微妙ににやって笑い始めたのです。

「興味深いね、その話・・・詳しく聞かせてくれるかな?」

「?????」

 女はなぜか怪しく笑っていたのです。

 なんかよく分からないけど気持ち悪いのです!!



~ウルド カザ:自宅~


「・・・。」

 たまたまベッドの近くにあった椅子、それに腕組み、足組みをしながら腰掛けて黙ったまま目を閉じているレレ。

「「・・・。」」

 その目の前で正座で座らされている俺とルタ。

 いやホント、なんでこうなった・・・!

「まずはルタさん? 自分がウルドに何したか素直に言いなさい?」

 目を開けず、淡々と、それでいて何処かしら圧のある声でルタに問いただすレレ。

「・・・筋肉痛で動けないのをいいことに悪ふざけで女装させてました。」

 ルタはシュンした顔で言いにくそうにありのまま説明する。

 無論、反省のあるような態度は演技だろうが・・・。

「うん、大変素直!」

 それを聞いてレレは満足げな笑みでルタの行動を称賛する。

「己に不利になることだと分かっていても正直に話して誠意を見せる。その姿勢には非常に好感が持てますね♪」

 優しく微笑むがその顔は仮面でもつけてんのかってぐらい嘘くさい笑みだった。

 それが逆に不気味で怖い。

「では、その素晴らしい素直さに免じてこの場に弁解の機会を与えます。何か釈明があるならどうぞ?」

「看病で体拭こうとしたら『出て行け』って・・・。」

「な~るほどなるほどぉ! そ~ですか~!」

 わざとらしく余所余所しい言い方でレレは片目を開けて()()()を見てくる。

「くっ・・・!」

 その視線はいかにも『ほれ見なさい! やっぱりあんたにも非があるんじゃない!』と言いたげな意志がありありと俺に向けられていた。

 いや俺にも言い分あるよ!!?

 そもそもルタ(こいつ)が言ったことは嘘じゃないけどほんの一割にも満たない理由だ!!

 本当は今朝俺が理不尽に腹パンした事に対する仕返しだけど、腹パンしたことに関してはしっかり謝ってるし、納得のいく説明もした!!

 その上でこいつはゴリ押しで仕返ししようとしてるんだ!!


 って言いたいけどそもそも根本的に元をたどれば町のみんなに秘密にしてることだから言うに言えない・・・!

 畜生!!!

 絶妙にもどかしい!!!!

「へっ・・・。」

 流し目で心底馬鹿にしたようにほくそ笑むルタ。

 くそっ、こいつ・・・!

 俺が何も言えない理由わかってて笑ってやがる・・・!

 ムカつくのにどうすることもできないのがめちゃくちゃ腹立つ・・・!



「「ッ!!!?」」



 突然ドンと派手な音が聞こえて俺とルタは同時に肩を跳ね上げる。

 レレが近くのテーブルに拳をハンマーのように打ち付けたからだ。

「二人とも?」

「「はいッ!!」」

「今私が話してるでしょ? 勝手に目線で喧嘩しない。」

「「はい・・・!」」

「ハァ・・・。」

 俺とルタがしっかりレレに視線を集め、『ちゃんと聞いてます』の意思を示すと、レレは呆れ気味に溜め息を吐く。

「つまり話を整理すると? なんで看病する立場が逆転してるのかはこの際この場では追求しないけど 、ルタさんの看病をウルドが意地張って拒否、それで怒ったルタさんが今回の犯行に及んだ。そういうことでいいわね?」

「はい・・・。」

「・・・。」

「ハァ・・・いい年してあんたらは・・・。」

 レレは再び大きくため息を吐く。

「こうやってちゃんと話整理したら、どっちにも非があるのわかるでしょ?」

「はい。」

「・・・。」

「無理にお互いに謝れとは言わないけど、お互い喧嘩にならない程度にちゃんと折り合いつけなさい? いいわね?」

「はい。」

「・・・。」

「まずルタさん? なんでウルドがこんな動けない状態になってるのかは知らないけど、ウルドは一応病人みたいなもんなんだから、例え看病でも悪ふざけしないこと!」

「はい。」

「ウルド? あんたは看病してくれてるルタさんの気持ちを尊重して、甘んじて看病を受けること! いいわね?」

「・・・。」

「ウぅルぅド?」

「ハイ。」

 レレに気圧されて心にも無い返事を返す。

 正直納得いかねえ!

「はい! これで停戦条約が結ばれましたので、これにて裁判は閉・廷!」

 レレは腕組みを解いてパンと手を叩く。

「さてと!」

 話が終わって早速とばかりにレレは足踏みを解いて立ち上がる。

「ウルド! 台所借りるよ?」

「あ? 別に構わねえけど何すんだよ。」

「何って、決まってんじゃん! お見舞いに来たんだから料理作ってやるの! それ用に食料も買ってきたし!」

 レレはテーブルに置いてあった食料入りの紙袋を片手で取って持ち上げて見せる。

「いいって!」

「あんたが遠慮しても勝手にやる! だからそこで待ってなさい?」

「あの、レレさん! 料理だったら私が・・・。」

「そ、じゃあ手伝って!」

「あ、はい。」

 あまりのレレのサバサバした対応にルタもうまく拒否できず、流されるように返事を返す。

 というか意外だ。

 会ってからずっと俺を手玉にとってたようなルタだったけどレレにはペースを握られてる。

 なんか新鮮だ。

「あと、ウルド・・・。」

「あ? なんだよ。」

「・・・。」

 レレが急に振り返るとじっと見て固まっている。

「・・・。」

 何故かレレは俺の方に歩いてくる。

 そして俺の前にしゃがむとキョロキョロと辺りを見渡す。

 何がしたいんだこいつは??

 そんな感じで意味のわからないレレの行動に困惑していると・・・。

「!」

 レレは何かを見つけたかのように目を見開いた後、その視線の先にあった長い髪のカツラを手に取る。

 おそらくだがルタがさっきの女装で俺に被せようとしていた奴だ。

「・・・。」

「?????」

 それをレレは俺に被せ、かつらを横に回しながらズレを直し、髪を手櫛(てぐし)でといて整える。

「なんだよ。」

「・・・ぷぷ。」

「おい。」

 すぐに視線を逸らしながら噴き出しそうな口を手で押さえ、プルプルと震え出すレレ。

 いやマジふざけんなよこいつ・・・!

「ちゃんと安静にしてなさいよッ・・・!! 無理して動いたらッ・・・! 治るの遅くなっちゃうからねッ・・・!」

「笑い堪えながら言ってんじゃねえッ!!!」

 なんッだよ!!

 結局こいつだって悪ふざけしてんじゃねえか!!

「すぐ戻るから待ってなさいッ・・・!」

「だから笑ってんじゃねぇッ!!」

 口を抑えて笑いをこらえながら足早に部屋から去って行くレレ。

「・・・。」

 そんなレレを見送るとルタは俺の方に視線を移し・・・。

「・・・ふっ。」

 呆れ気味に鼻で苦笑いしながら両手を肩の高さまで上げた後レレについて行った。



~レレ カザ:ウルド宅~


「・・・。」

「・・・。」

 調理場には私とルタさん、お湯を沸かしている鍋と魚をフライパンで焼いているコンロの横で二人は並んで料理をしていた。

 ルタさんはじゃがいもの皮をピーラーで剥き、私はキャベツを刻んでいた。

「あの、レレさん。」

「?」

 沈黙を破るようにルタさんは話しかけてくる。

「何?」

「怒って・・・ます?」

「・・・。」

 多分さっきの女装事件のことだろう。

「別に? 怒ってないよ。」

 まぁ、ちょっと驚きはしたけど・・・。

「でも、兄にあんなことしてましたし・・・。」

 ルタさんはシュンとしながら辛そうにペースを落としながらも皮むきを続ける。

「いいのいいの! むしろ普段から単独(ソロ)で無茶して馬鹿やってるんだからいい薬! それに・・・。」

「?」

 私が視線をルタさんに移すとルタさんはきょとんとして首を傾げながら視線を向けて来る。



「くすっ、ふふっ!」



 思わず噴き出し笑いが出る。

「ど、どうしたんです??? 急に笑い出して。」

「いや、ギルドに顔出してきた時はあんなに大人しそうな子だったから、てっきりウルドに色々遠慮してるかと思ったら、なんだかんだちゃんと兄妹やってるなぁって! あはは!」

「お恥ずかしいところを・・・。」

 私が爆笑するとルタさんは再び視線を逸らしながら苦笑いを浮かべて皮を剥き終えたじゃがいもを切り始める。

「あいつはあいつで家族相手だといつにも増してガキっぽいし!」

「そうなんですか? 兄の町やギルドの中でのこと、よく知らないから興味あります!」

 興味津々に目を輝かせながらルタさんは切ったジャガイモをまな板ごと渡して来る。

「あいつ? う~ん・・・何て言うか・・・。」

 ジャガイモを受け取って鍋に入れ、目の前の小棚から固形のコンソメを取り出して鍋に入れる。

「ギルドの冒険者って元気が良いと言うか、わんぱくすぎてガキっぽい連中が多くてね?」

「そうなんですか?」

「そのせいでそう見えるのかもしれないけど、あの年の割に妙に大人っぽすぎるというか・・・それ通り越しておっさんみたいと言うか・・・。」

「あはは! おじさんですか! 確かに気苦労多そうな顔してますしね♪」

 鍋を少し混ぜたあと、丁度切り終わっていたキャベツを更に盛ってトマトを切り始める私の横でルタさんは楽しそうに笑いながら今度はニンジンの皮むきを始める。

「でしょ? ホント、()()()()()()()()とは大違い!」

「会ったばかりの頃?」

「あ・・・。」

 マズそうなワードを聞かれてついトマトを切る手が止まってしまう。

「この町に来たばかりの頃の、兄ですか?」

「あぁ、うん、そうなんだけど・・・言っていいのかな? これ。」

「気になります!」

「う・・・!」

 これまた目を輝かせたルタさんがニンジンそっちのけで食い入るように迫って来る。

「まぁ、口が滑っちゃったし、この際言っちゃうか!」

「どうだったんです?」

「初めてギルドに入ってきた時のあいつね? なんというか・・・魂が抜けきったみたいに虚無の顔してたんだ。」

 言いながらトマトを切るのを再開する。

「虚無の顔?」

「うん、表情って言う表情が無くてね? まるで死体みたいな顔で・・・ホント! てっきり不死族(アンデッド)が町にでも入り込んじゃったのかって疑っちゃったぐらいなんだから!」

「すごい顔だったんですね。」

 言いながらルタさんもニンジンの皮むきを再開する。

「そうそう! で、声かけても何も言わなくてね? 何かボソボソ言ってるから耳澄ませてよく聞いたら『冒険者登録を』って挨拶もナシに言ってたんだよ?」

「失礼ですね。」

「うん、今思えばそうだけど・・・あんな風になるには、それなりの過去があったんだろうね。」

「・・・。」

「!!」

 ルタさんは丁度皮を剥き終えたニンジンを切ろうとした包丁を止める。

 ミスったかも・・・!

 ウルドの過去だったらルタさんの過去とも何か関係あるかもしれないのに私ってば・・・!

「ご、ごめん! 嫌な過去とかだったら別に無理に聞いたりはしないから!」

「・・・本当にいいんですか?」

「え・・・?」

 私が呆気に取られているうちにルタさんは顔だけ向けて真っ直ぐにこっちを見る。

「私、『ウルドの妹』なんですよ? 兄の過去、知ってるかもしれないじゃないですか。」

「あ、えっと・・・。」

「知りたくないんですか?」

「・・・。」

 確かにこんな機会はめったにない。

 聞けるのなら聞いてみたい。

 けど・・・。



「知らなくていい!」



「!」

 予想外の返答にルタさんは目を見開く。

「どうして?」

「あんな顔になる過去なら・・・絶対思い出したくないことだろうし・・・私が知ったところでどうこうできることでもないと思う。だから聞かない! それに・・・。」

 トマトを切り終えて先ほどキャベツを盛った皿に持った後、フライパンで焼いている魚を木杓子で動かす。

「私に出来る事は、あいつがそんな顔になる『過去』に触れることより、この町でいろんなやつにおちょくられてギャーギャーわめいたり、やれやれ顔で笑ってるあいつの『今』を守ることだ思うし、なんてね!」

「ふふっ!」

 冗談交じりにクサいことを言うとルタさんは噴き出すように笑う。

「兄のこと、大事にしてくれてるんですね。」

「い、いや! 変な誤解しないでね!? 別にあいつとはみんなが言うような関係じゃないから!!」



「でも、この家には通い慣れてますよね?」

「え・・・?」



「だって台所に行く時も迷わずまっすぐ行きますし、調理道具の場所もよく知ってましたし♪」

「い、いやそれは・・・!」

 な、何この子・・・!

 ルッカみたいに鋭い!!

「あいつが町の中で住む場所探してる時に色々世話してやった時に来ただけだから!」

「でも今こうやってお見舞いに来て料理も作ってくれますし♪」

「いやいやいや!! お見舞いに来ただけで何もしないって言うのもアレなだけで・・・!」



「『通い妻』みたいですね♪」



「な!!?」

 通い妻・・・!?

 か、かよ・・・!

 通い・・・!

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっとやめてよ本当に!! そんな関係じゃないから!! 怒るよ!?」

「レレさん♪」

「何!?」

「ん。」

 ルタさんが私の手元を指さす。



「魚、焦げてますよ?」



「え? あ”ッ!!!!!」

~リメイク前との変更点~


・弟子っ子のシーン追加

全話の続き、及び師匠探索の描写の為


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