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嘘つき英雄と嘘の妹 ~リメイク版~  作者: 野良犬タロ
カザ編
12/63

#11 疲労


~??? カザ:西門前~


 あれから夜が明けて、私は今、カザの門の前に立っているのです!

「・・・? え、なに?」

 自警団らしき男がちょっと困惑気味に門の横から見てるけど気にしないのです!

「此処が・・・!」

 本当に、此処に---



---昨夜。


「・・・?」

 星を眺めていたらなんか小さな雷のような音が聞こえて来たのです。

「???」

 望遠鏡を動かして空のあちこちを見てみるのです。

 何処も曇ってないのです。

 おかしいのです。

 雷の音がしたのに・・・。

「・・・?」

 望遠鏡から顔を外して音のする方を見てみるのです。

「・・・???」

 山のふもとの平地の辺りがなんか光ってるのです。

 何かあるのですか?

 望遠鏡を向けて光ってる辺りを見てみるのです。

「・・・!」

 なんかピカピカ眩しく光ってるのです!

 なんですか!?

「うむむむ・・・!」

 望遠鏡のピントを光ってる場所に合わせてよく見てみるのです。

「ッ!!」

 光に照らされてて僅かに見えるのです!

 人です!!

 光ってるもの・・・その誰かが持ってる何かなのです!

 しかも激しく動いて・・・もしかしてそれを使って何かと戦ってるのですか!?

 良く見えないけど光は何度も動いて弾けるように強く光ってるのです、まるで何かとぶつけ合うように・・・!

 もしかして・・・!

「うぅ・・・!」

 望遠鏡のピントが限界なのです・・・!

 よく見えないのです!

 こうなったら・・・!

「ッ!」

 上昇(ライズ)を使って思いっきり走るのです!!

「!!」

 目の前に崖が見えるのです!!

 でも構うもんかです!!

「ほっ!!」

 思いっきり走って跳躍して崖から飛び降りるのです!!

「うむむ・・・!」

 着地地点に出来そうな場所・・・考えてなかったのです・・・あ!!

「むふっ!」

 見つけたのです!

 丁度尖がってる大きな木があったのです!

 落下しながら身体をずらして落ちる位置を調整するのです!

「ここですッ!!」

 葉っぱの生い茂る木の中に飛び込むとその中で太い枝を掴んで半回転して枝の上に着地するのです!!

「フォヴォォ!」

「あっ! ごめんです!!」

 丁度木に止まってた(フクロウ)がびっくりして飛んでっちゃったのです!

 あの子には悪い事したけどそれどころじゃないのです!

「ふぬんっ!!」

 すぐに木から飛び降りるのです!

 ちょっと高い木だったから数秒したあと、地面が迫って来たけど受け身はよく知ってるのです!

「ほっ!」

 右手右足を地面に着けてすぐに左手、左足を着けてから右手足を地面から放して左に転がって・・・!

「・・・んむぅ。」

 ちょっと痛かったですけどおおむね成功なのです!

 すぐに起き上がって、方角は・・・星を見てたから分かるのです!

「確か東南東です! ふぬんっ!」

 コンパスで方角を確認してからもういっちょ上昇(ライズ)を使って走るのです!

 山中の森だったから木が邪魔ですけど方角を変える訳にもいかないのです!

「む!」

 前方に矮小狼(ドワフウルフ)が数体いるのです!!

 構うもんかです!!

 そのまま突破するのです!

「ヴォフ!!」

「ゴァフ!!」

 矮小狼(ドワフウルフ)が吠えると追いかけて来たのです!!

 でも構わずに走るのです!!

「何処かいい場所いい場所・・・!」

 出来れば前方にあると・・・あ!

 あったのです!!

 かなり太くて大きい立派な木がそびえたっていたのです!!

 ()()も充分!!

「ここにするのです!!」

 木に走るとそのまま()()()()()()()()登って行くのです!!

「ヴァフ!!」

「ヴォアフ!!」

 矮小狼(ドワフウルフ)はちょっと斜めの根っこに近い部分までは登って来れたけど傾斜が急な木の幹は登れず、負け惜しみに吠え掛かることしかできなかったのです!

「ほっ!! ふんッ!」

 枝のある所まで登ると枝を飛び移りながら木のてっぺんまで登って行ったのです!

「ぬんっ!!」

 木のてっぺんまで登ると丁度目の前に月が見えたのです!!

「よし!」

 ある程度近づけたのです!!

「あの光、あの光・・・!」

 望遠鏡を持ってさっきの方向を見てみるのです!

「・・・あれ?」

 光ってないのです!

 もしかしてさっきの戦い、終わっちゃったのですか!?

「・・・はぁ。」

 せっかく見れたと思ったのに・・・。

 ため息をついてがっかりした時なのです。



「んひゃッ!!?」



 突然雷が鳴ったのです!!

 あれ!?

 おかしいのです!!

 今は星が見えるほど晴れてるはずなのです!!

 雷なんて・・・!

「ッ!!?」

 さっきの戦ってた場所の方向に物凄く雨雲が集中してるのです!!

 しかも僅かに光ってて今にも雷が・・・!



「うひぃ!!?」



 雷が落ちたかと思ったら落ちた場所に物凄い爆発が起こってこっちにまで爆風が来たのです!!

 なんなのですか!!?

「えぇ!!?」

 なんですか・・・アレ・・・!

 剣です!!

 雷で出来た巨大な剣が浮かんでるのです!!

「っ!!」

 一刻も早く状況が知りたくて望遠鏡でその現場をよく見てみるのです!!

「・・・あ!!」

 雷の剣の下、人がいるのです!!

 手を翳してる辺り、あの人が操ってるのです!!

 さっきよぉく見えるように近づいたから姿がハッキリ見えるのです!

 膝丈までの大きめのコートを着た冒険者らしき姿、どう見ても魔術師(メイジ)には見えないのです!

 けど間違いないのです!

 きっとさっき雷を使った武器を使って戦ってた人なのです!!

「あ、ああ・・・!」

 思わず望遠鏡を持つ手が震えるのです・・・!

 あの姿であの戦い方・・・間違いないのです!!

「あ・・・あぅ・・・!」

 望遠鏡で見るのをやめてそのままその場に崩れるのです・・・!

「あぁ・・・神様ぁ・・・!」

 神様・・・ありがとうです・・・!

 何度も流れ星にお願いしてずっと旅してきた努力が今実ったのです・・・!

 あの人こそ間違いないのです!!



---現在。


 この町、あの現場に一番近い町なのです。

 だからきっと此処にあの人がいるのです!!

「ふんッ!!」

 両頬を思いっきりバシバシ叩いて気合を入れるのです!!



「今、会いに行くのです・・・『師匠』!!」




~ウルド カザ:ギルド~


「全くもう、あんたはいっつも一人で無茶して!! 分かってる!? 町に侵入してくるタイプの敵は力を隠してるタイプが多いんだから一体だからってタイマン張れると思って油断してる奴がすぐ足元掬われて---」

「・・・。」

 はい、お察しの通り、絶賛レレのお説教タイムだ。

 しかもギルドの朝っぱらから・・・マジ勘弁してくれ。

「・・・。」



『あんた一人の命じゃないんだからぁ・・・馬鹿ぁ・・・!』



 でもまぁ・・・。

「悪かった。」

「!?」

 レレの頭に手を置く。

「確かにあの時は自分一人でなんとかしようとして無茶しすぎた。」

 弁解しながら頭を撫でる。

「ッ!!?」

「?」

 撫でた途端にレレの頭がびくっと跳ねる。

「な・・・な・・・!」

「レレ?」

 レレの様子がおかしい。

 目を見開いたまま、口を間抜けに半開きさせている。

「どうしたんだよレレ。」

「なんで撫でるの・・・!」

「あ? 別に意味なんてねぇよ、ただ・・・悪かったなって・・・。」

「何がよ!」

「お前があそこまで心配すると思ってなかったから・・・その・・・。」

「何・・・!」

「悪かった。心配かけたな。」

 レレに微笑みかけながら謝罪する。

 すると・・・。



「ッ!!!」



「??」

 何故かレレが目を見開きながら顔を真っ赤にしている。

 なんだ??

 どうしたんだ???

「なぁ、レレ、顔赤いぞ?」

「な!? ち、違うからッ!!」

「・・・???」

 何故か両手を突き出して慌てふためくレレ。

 ホントになんなんだ???

「おい。」

「ッ!!?」

 レレの手を払ってレレの肩を掴んで引き寄せ・・・。



「熱でもあんのか?」

「ッ!!!???」



 レレの額に俺の額を合わせて熱が無いか確認する。

「おい、やっぱり熱あるじゃねぇか。」

 額が熱い。

 やっぱりか。

「お前風邪引いてんのか! なんで急に拗らせたんだよ!」

「か、風邪じゃないッ!! 風邪なんか引いてないから!!」

「じゃあなんだよ。」

 ますます分からん。

「これは・・・その・・・えと・・・!」

 何故かモジモジしだすレレ。

「!!」

 もしかして・・・!

「レレ、お前・・・!」

「ち、違・・・!」

 急に顔を上げて慌てふためくレレ。

 やっぱりだ!!



「ションベンだな!? だったら早く行けよ!!」



「・・・・・・・・・は?」

「・・・え?」

 え?

 なんで?

 急にレレが無表情になって冷静になった。

 あれ?

 なんだ?

 なんか俺、変なこと言った?

 何?

 この間違ったこと言ったみたいな雰囲気・・・。



「んな訳あるかぁぁッ!!!」

「ぶげっ!!?」



 何故かレレに思いっきりグーパン喰らって無様にギルドの床に背中を打ち付ける。

()ぃってぇ!! 何すんだよ!! 俺なんか間違ったこと言ったか!!?」

「思いっきり言ってるでしょ!! あと女の子に面と向かって『ションベン』とかどんだけデリカシーないのあんた!!」

「無理して漏らされるよりマシだろうが!! 早くトイレ行けって!!」

「あぁもうッ!! だからそんなんじゃないっつってんでしょ!!」

「だったらなんなんだよ!!」

「それは・・・その・・・!」

 また何か思い出したかのようにモジモジしだすレレ。

 いやこれどう考えてもションベンだろ!!

「だからやっぱりションベ



「ハァイ!! ストップストォップ!!」



「!?」

 誰かが後ろから割り込むように声をかけて俺の前に手を翳してレレとの間を遮断する。

「ウルド? その辺にしといてやりな?」

 ルッカだ。

 え?

 何言ってんだこいつ??

「なんだよ、俺が加害者みたいな言い方しやがって。」

「いや、充分加害者だと思うけど・・・。」

 俺の返しにルッカが何故か苦笑いを浮かべながら皮肉気味に言って来る。

「いや、なんでだよ!! つうかさっきから俺めっちゃ説教喰らってたんだけど!? どっちかと言えば被害者俺じゃね!?」

「ハァ・・・。」

 何故かルッカはため息を吐きながらやれやれとばかりに両手を上げて首を振る。

「なんだよ。」

「『真の加害者』ってやつは、自分が加害者って事に気づかないもんだねぇ。」

「なんだよ!! 意味わかんねぇよ!! 説明しろ!!」

「え、説明した方がいい? マジで?」

 俺が食って掛かるとこれまた何故かルッカは若干嬉しそうに笑みを浮かべながらちらちらレレの方を見る。

「レレはあんたのこと

「バカッ!! ルッカ!! やめなさいよッ!!」

「え~。」

「???」

 ルッカが説明し始めると何故かレレが声を荒げながら止めにかかる。

「だからなんなんだよ、言いかけたんなら言えよ!」

「ハイハイ、レレがあんた

「ルッカァッ!!!」

「・・・ハァ。」

 尚も同様にレレの制止が入り、それにルッカが呆れたように溜め息をつく。

「で? なんなんだよ。」

「ウルドォッ!!」

「いや、あんたよくこの状況で平然と聞けるね。」

「なんなんだよさっきから・・・!」

 ますます意味が分からん。

「見ての通り! 残念だけど、当事者の意向により教えられませぇん!」

「はぁ!? なんだよそれ!!」

 俺とレレを謎の天秤にかけた結果、結局ルッカは妥協したかのように口止めに来るレレを選んで説明を拒否。

「気持ち悪いだろ!! 言いかけてやめるの!! 何なんだよレレ!! さっきからぁ!!」

「女の子には色々秘密があるの!! いちいち詮索すると嫌われるんだから!! バカァ!!」

 レレが身を乗り出しながら人差し指を立てて食ってかかるように罵倒してくるんですけど!?

 なんだ今日のレレ!!?

 いつも以上にめんどくせぇ!!

「分かった!! 分かった!! 悪かったよ!! もう詮索しない!!」

 結局レレに根負けして何もわからないまま詮索を諦めた。

 正直めッちゃくちゃ気になるけど仕方がない。

 けどさすがに慣れた知り合いとはいえこれ以上デリカシーのないやつと思われるのもなんか嫌だしな。

「さぁて☆」

 ルッカが合唱するように手をパンとあわせる、

「とりあえずウルドは洗いざらい全部報告して、レレも言いたいこと言うだけ言ったしこの話はお開きだね!」

「???」

 なぜか急にルッカが仕切って話を終わらせに来た。

 まぁ正直レレからの説教は勘弁して欲しいから助かるちゃあ助かる。

 でも・・・。

「ちょっと!! 勝手に話終わらせないでよ!!」

 レレがルッカに食ってかかる。

 まあそうなるよな。

「レレ・・・あんたのためにもやってあげてるんだけどなぁ。」

「くっ・・・!」

 ルッカが意味のわからない言葉でレレをなだめるように説得すると、レレはなぜかそれに言い返せないみたいに悔しそうに歯噛みして元のデスクに腰掛ける。

 いやホントこのやり取り謎すぎる。

「ウルド、あんたこの後も色々大変なんでしょ? そんだけボロボロになってまだ治療もろくにしてないんだし、 何より妹ちゃんのことも見てあげなきゃいけないんだからね。」

「あ、ああ、そうだな。」

 よくわからないことだらけだが早く終われるなら願ったり叶ったりだ。

「ならお言葉に甘えて帰るわ、またな。」

「おーう! またね~!」

 ギルドを出て行く俺をルッカが軽く挨拶を返しながら手をひらひらさせて見送った。

「・・・。」

 気になって目線だけ後ろに向けると、レレはデスクに突っ伏して項垂れてるみたいだった。




~レレ カザ:ギルド~


「・・・・・・・・・。」

「・・・レレェ? 大丈夫?」

 デスクに顔をうずめながら黙り込む私に、ルッカは心配というより呆れたような声で聞いてくる。

「で?」

 すぐに楽し気な声色に変え、デスクに身を乗り出して私の耳元に囁きかける。

「どうだった? 頭なでなで&おでこ検温はぁ。」

「・・・うるさい。」

「いや~! 朴念仁だと思ってたけどまさか天然であんなことするなんてね!」

「うッさいッ!!」

 顔を上げてルッカに牙を向く。

「いやぁこっちも面白いものが見れて眼福ぷ・・・?」

 ルッカは尚も楽しげに茶化してくるがなぜか私の顔を見て目を見開いたまま硬直する。

「・・・何。」



「プププププププ・・・!」



「・・・? 何笑ってんのよ! 私の顔に何かついてんの!?」

「ついてるも何も・・・! ぷくくく・・・!」

 ルッカは物凄く笑いを堪えていた。

 いや、何してんのこいつ??

「だぁから! ハッキリ言いなさいよ!!」

「ん!」

 ルッカは自分の鼻と口の間をトントンと人差し指で叩いて場所を教えてくる。

「・・・?」

 そういえば上唇のちょっと右側あたりがしょっぱい感じがする。

「!!」

 もしやと思ってルッカの指示されたところを手で触ってみると・・・。

「・・・!!!」

 血がついていた!

「ぷははははは!!!」

 ルッカはとうとう堪えきれずに爆笑しだす。

「~~~~~~~ッ!!!」

 恥ずかしさと怒りのあまりに鼻血のついた手と自分の肩がわなわなと言わんばかりに震え出す。

「よかったねレレ!! ウルドの前で出さないで!!」

「うッさい黙れぇッ!!」

「ほぉらレレ! そんなに興奮すると余計出ちゃうよ? さっさと鼻にティッシュ詰めてきな! そんなんで仕事してたら、それこそ他のやつらにも笑われるよ?」

「うッさい!! そんなのティッシュ詰めてたって一緒でしょうがッ!! 洗って拭いてくるからその間に出てけ!!」

「やぁだよ♪ まだギルドの仕事もらってないも~ん♪」

「あぁもう!! うざい!!」

 今にも(はらわた)が煮えくり返りそうな怒りを腹に抱えたまま、私はギルドの奥の部屋に入って行った。



~ウルド 自宅~


「おかえりぃ、お兄ちゃん。」

 ドアを開けるとすでにルタが出待ちしていた。

「・・・。」

 昨日までの俺なら無下にしているんだろうが・・・。

「お、おう・・・ただいま・・・。」

 流石に昨夜助けられたこともあって無下にも出来ず、挨拶を返す。

「報告、終わったんだね・・・。」

「ああ、レレに散々説教くらった。」

 ルタの言葉に応対しつつ、片目でルタを観察する。

 ちょっとやつれているみたいで壁に手を当てて身体を支えている辺り、立つ力もままならないみたいだ。

 恐らくは俺と自分に着けたこの妙な腕輪の力の影響か何かだろう。

「ははは・・・レレさんっていい人そうだったけど、お兄ちゃんにはきついんだね。」

「大丈夫か、お前。」

「大丈夫・・・使い慣れてない力、使ったからちょっと色々消耗が激しかっただけ・・・。」

「そうか。」

 俺は安堵のため息をつくとそのまま()()()()()

「お兄ちゃん???」

 俺の行動が意味が分からないようで、ルタは目を丸くする。

「ルタ。」

 俺は目を軽く閉じ、ルタの肩に手を置く。

「な、何!? お兄ちゃん!?」

何を勘違いしているのか、ルタは顔を赤くしながら戸惑っている。

「先に謝っとく。」

「え・・・?」

 ルタが目を丸くしている()()・・・。



「おごッ!!?」



 ルタは汚い声を上げて悶絶する。

 俺がわき腹を思いっきり殴ったからだ。

「・・・すまん。」

「が・・・ぁぐ・・・!」

 ルタはその場に崩れて倒れ、目を見開いたまま苦悶の声を上げていた。




---数分後。


「こ~んに~ちは~!」

 家の玄関のドアがガチャリと開くと、修道服に身を纏った三つ編みの女が入ってきた。

「相変わらず頭が緩そうな喋り方だな、リテルさん。」

「む~! 怪我治しに来てくれた人にその言い方はないんじゃないです~?」

 目の前のシスターは開いてるのかどうかも怪しい糸目で頬を膨らませながら妙に威力の無い怒りをぶつけて来る。

「悪かったよ。」

 流石に呼んどいて機嫌を損ねられても面倒なので謝罪する。

 この人はリテルさん。

 教会・・・いや、正確に言えば聖堂教会が管理する支部に所属するシスターだ。

 教会は神の加護を受けた力、聖法気によって冒険者の傷を治し、民間人の病気などを治してくれる貴重な医療機関だ。

 俺も何度もお世話になっている場所だから当然この人とも顔馴染みだ。

 リテルさんは治療の腕は教会の中でもいい方で、包容力があると言うのか、優しい性格が評判で町の住人達、主に若い男共には『憧れのお姉さん』的な存在で人気だ。

 ・・・呑気で頭が緩そうなのが難点だが。

「とりあえずこっちだ。」

 俺は寝室まで案内する。

「ルター、入るぞー。」

 寝室のドアを開けるとそこには・・・。

「う・・・うぅ・・・!」

 ルタがベッドに横たわった状態で唸っていた。

 こうなった原因は誰なんだろうな!

 許せねぇな!

「苦しそうですねぇ~、ちょっとごめんなさいねぇ~。」

 リテルさんはベッドのシーツをはぎ取るとルタが苦しそうに押さえているわき腹をめくる。

 するとそこには既に軽く痣が残っている状態の打撃跡があった。

「あら~、これはひどいですね~。一晩経った後だって言うのにダメージが結構残ってるじゃないですか~。」

「それだけ強力な相手だったんだ。なのにこいつ、戦えもしないのに無茶して

「めっ!」

「ッ?」

 リテルさんは指先で俺の鼻を小突く。

「そんなこと言っちゃダメですよ~! お兄ちゃん思いのいい妹ちゃんじゃないですか~!」

「・・・悪かったよ、とりあえず早くやってくれ。」

「はいは~い。」

 そう言うとリテルさんはルタのわき腹に手を添え、糸目だった目を薄く開く。

 そして・・・。




「聖なる主よ。全能なる主よ。敬虔なる使徒の呼びかけに応じ、慈愛の光を。治癒の恵みを。」




 リテルさんの手が光り出し、負傷したルタのわき腹を照らすと吸い込まれるように痣の部分に溶け込んで消えて行った。

「う・・・んん・・・。」

 ルタは少し楽になったようだがまだ少し苦しそうだ。

 だが別にリテルさんの力を疑うことは無い。

 聖法気は人体の治癒の力を強めるだけで直接怪我を治すわけじゃない。

 当然効き目は遅い。

 今のこの状態は別段おかしな状況じゃないわけだ。

「ふぅ・・・。」

 怪我に聖法気を流しきったリテルさんはため息をついて目を閉じ、またいつもの糸目に戻る。

「今日中には治ると思いますけどぉ、今日一日はとりあえず安静にさせといてくださいね~。」

「ああ、分かった。」

「じゃあ次はウルドくんの番ですね~。はい、脱いで脱いで~。」

「え。」

「え、じゃないですよ~。怪我してるんでしょ~?」

「いや、その・・・。」

「ふふ、もしかして照れてるんですか~?」

「そ、そんなんじゃねぇって! 分かった脱ぐよ!」

 半分自棄で服を脱いで上半身を露にして近くの椅子に座る。

「ふふ、じゃあ治しますねぇ~♪」

 先程と同じように聖法気の光を背中に当てられる。

「う~ん。」

「・・・? なんだよ、リテルさん。」

 悩まし気な声が後ろから聞こえたのでどうしたもんかと声をかけてみる。

「ウルドくん、ちょっと無理してないです~?」

「へ?」

「怪我だけって割には色々と消耗してる気がするんです~、なんというか、身体を酷使しすぎてるというか~・・・。」

「あ、ああ。確かにあの戦いは何度も死にかけたからな。」



「ウルドくんって上昇(ライズ)使えましたっけ~?」



「ッ!!?」

 やべッ!!

 油断してた!!

 何人も治療してる人に自分の身体見せるならそれくらい怪しまれて当然だろ俺の馬鹿ッ!!

ったく悔やんでても仕方ねぇ!

 なんとか誤魔化さないと・・・!

「嫌味かリテルさん?」

「ふぇ?」

上昇(ライズ)なんて使えねぇよ。昔修行してたけど結局出来なかった。だから今となっちゃ使えるワットやネカネが羨ましいよ。」

「・・・。」

 リテルさんは答えない。

 やっぱりダメか?

 即席にしちゃ上手く考えた嘘なんだが・・・。



「そうだったんですね~! 初めて聞きます~! ウルドくんのそんな話~!」

 あ、大丈夫だこの顔!!

 間違いなく信じてる顔だ!!



「はぁ・・・。」

 思った以上にチョロくて助かった・・・。

 というか逆にリテルさんが心配になってきたぞ?

 こんなに緩い頭だと悪い男とかに引っかからないか心配だ。

「あ、そうだ、ウルドくん知ってます~? ウルドくんがいつも行ってるパン屋さんで新しいパンが出てたんですよ~?」

「あ、ああ、そうなんだ。」

 急に話題変えてきた・・・いや、マイペースすぎんだろ・・・!

「試しに買って食べてみたんですけど~、すごく美味しくて~!」

「へ、へぇ・・・。」―――


---そんな調子で他愛のない世間話をしながら治療は終わる。


「はい、終わりです~。」

「ありがとさん。」

 リテルさんが手を放すと早速服を着る。

「怪我の度合い的に2銀貨(シルバー)銅貨(ブロンズ)ってところですね~。」

「マジか、(たけ)ぇな! 足元見やがって!」

「む~、そういうこと言っちゃうとバチが当たりますよ~? 何せ私は~、神様に仕える身ですからね~♪」

「こんなゆるい従者がいたら神様も大変だろうな。」

「大丈夫ですよ~! 神様は心が広いですからきっと許してくれます~!」

「へっ。」

 皮肉も何処吹く風とばかりに開き直るリテルさんに呆れながら棚の中の財布を漁って言われた金額を取り出す。

「ほら。」

 金を握った握りこぶしをリテルさんの目の前に翳すと向こうもその下に掌を皿の様に翳すのでその手の上に銀貨と銅貨を落とす。

「ひぃふぅ、ひぃふぅみぃ、丁度ありますね~♪」

「当たり前だろ。バチ当たりたくないからな。」

 疑って数えるリテルさんに皮肉を吐きかける。

「ありがとうございます~! ではでは~、神のご加護があらんことを~♪」

 礼を言いながらリテルさんは立ち上がって両手を握り合わせてお辞儀をしたあと、部屋から出ていく。

「はぁ・・・。」

 さっきの微妙にヒヤッとした状況から安堵しつつため息をついていると・・・。



(あッ!! ひああぁッ!! あぅッ!!)



「ッ!!?」

 ドア越しにリテルさんの悲鳴と共にドタドタと物凄い音がしてすぐに部屋を出る。

「リテルさんッ!!?」

 何事かと思ってドアを開けて出ていくと・・・。



「ッ!!!!」



 目の前の状況に気づくとすぐに顔を逸らして手を翳して視界を遮る。

 軽く状況を説明するとだ。

 要するにリテルさんが階段から足を滑らせて落ちた現場だ。

 だがそのリテルさんの姿に問題があった。

「ううぅ・・・転んじゃいました~・・・!」

 リテルさんは前のめりに倒れており、痛そうなのには変わりないが問題はその()()()()()だ。

 いい加減言った方がいいだろう。



 ()()()が大惨事だ!!



 修道服の慎ましやかさの象徴とも言うべき丈の長いスカートでもこの身体が真っ逆さまになる惨事の前では隠すものも隠しきれず、肉付きのいいお尻とそれを包むガーターベルト付きの白レースのショーツが白日の下に晒されていた!!!

「き、気をつけろよ! 怪我治すシスターが怪我したら世話ねぇだろ!!」

「ごめんなさ~い! お騒がせしました~!」

 リテルさんはすぐに立ち上がると慌てて家から出て行った。

「ったく。」

 なんかすっげぇ罰当たりなもの見た気がする。



「おにぃ~ちゃぁん?」



「う・・・!」

 リテルさんに呆れながら部屋に戻ると更に一難待ち受けていた!

 ルタが既にベッドから起き上がって恨めしそうに俺を見ていた!!

「・・・すまん。マジで。」

 とりあえず謝罪。

「説明プリーズ。」

「分かったって! お前があれから寝てる間にルッカ達に会ってな?」

「ふ~ん、それで?」

「根掘り葉掘り聞かれて狂戦士(バーサーカー)にぶん殴られてぶっ飛ばされて気絶したって嘘ついてたんだよ。」

「だから怪我人の私がいないと困る状況だったってわけ? へぇぇぇぇ?」

「・・・すまん。」

 ルタに睨みに気圧されてつい目を逸らしながら謝罪する。

「そんな理由で弱ってる女の子に腹パン? ふぅ~ん?」

「だから悪かったって言ってんだろ!? とりあえず飯作ってく・・・」

 言いながら部屋を出ようとしたその時だ。



「・・・る・・・・・・?」



 あれ?

 視界が急に横になって、横から床が迫って・・・!

「うぐッ!」

 俺は床に倒れる。

 いや、正確には俺の身体が勝手に床に寝ころんだ。

「くっ・・・!」

 立とうとするが身体が全然動かない。

「・・・。」

 俺の様子を見ていたルタは声も上げずただ黙って無表情のまま俺を見ていた。

 そして・・・。



「あ~らら。」



 薄目に目を細めて呆れ混じりの黒い笑みで俺を静観していた。

 明らかに状況を理解している顔だ。

「くそ・・・!」

 当然俺も何故こうなったのかも知っている。



「来やがったか・・・『反動』・・・!」




~リメイク前との変更点~


・『報告を適当な嘘で誤魔化した』の部分を掘り下げて1パートに展開

理由:もっと詳細を伝えたかった&レレの乙女ハプニング書きたかった

・治療にシスターさん参入

理由:教会からの治療の描写がリメイク前になかったため、お姉さんにしたのは趣味です(くっそどうでもいい情報)

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