#10 閃光
~ウルド カザ周辺:平地~
「グアアアァゥアァッ!!!」
「ッ!!?」
狂戦士の悲痛な叫び声と共に気がつくと夜の平地に立っていた!
思い出した!!
俺、確か狂戦士と戦って・・・いや待て!?
なんで無事なんだ!?
確か霧魔の霧を受けたはずなのに・・・!
「グゥ・・・ウアァゥ・・・!」
「!!」
狂戦士は顔を抑え、立ってはいるものの蹲るようにして苦しんでいた!
意識を取り戻したばかりでよく状況がわかっていないが本能的に察知する。
奴を倒すには今しかない!!
「ッ!!」
俺はすぐさま剣に手をかざす。
意識を集中し、自分の体の胸の奥、さらに奥・・・さらに奥へと沈むように意識を集中する。
すると意識は此処ではない何処かへ飛ばされる---
---「・・・!」
意識を覚醒させるとそこは周り一面が闇の中、だが目の前にはっきり見える物があった。
扉だ。
しかも城の城門のような巨大な扉だ。
『魔導の扉』、魔法の根源であり、己の精神の真理にたどり着いた者だけがたどり着ける固有の世界に通じる扉だ。
「・・・。」
俺は扉の前に立つと右手を伸ばし、目を閉じる。
そして・・・。
「解錠!!」
言葉を発すると扉はガチャリと鍵が外れた音がする。
【力を求めるのか? 『王』よ。】
「!」
不意に声が聞こえて来る。
頭の中に直接語り掛けて来る声だが、間違いなく声の主は扉の向こうにいる。
だが・・・。
「ああ。」
【俺達と別れておきながら、今更か?】
「虫が良いのは分かってる。でも・・・!」
【守りたいものの為?】
「ああ。」
【勝手な奴だ。】
「すまん・・・。」
【良いだろう。扉を開け。】
「・・・。」
負い目を感じながらも扉に意識を集中する。
「天の怒り 裁きの鉄槌 断罪の使命を 彼の剣にて 代行せん」
魔法を詠唱する。
本来、魔法の詠唱は魔術言語を使う物だが、この魔法は特別な物だ。
詠唱を完了すると扉がゴゴゴと重苦しい音を立てながら独りでに開く。
そして完全に扉が開くと扉の向こうから眩しい光が放たれて---
---「ッ!!」
現実世界に意識を覚醒する。
ああ、この感じ・・・久しぶりだ。
魔力が渦巻き、力が満ち溢れる感覚・・・!
「・・・。」
剣を軽く持ち上げるように目の前に翳す。
「雷光 剣 結合」
魔法を詠唱すると剣が独りでに浮いて輝く。
「転換 創造 覚醒」
詠唱を続けると剣は何かに飲み込まれるように突然消えた。
そして・・・。
「裁きの雷たれ魔ノ刃」
~ワット カザ西区~
「くそっ!! 何処まで逃げたんだよウルドの奴!」
ウルドの逃げた方角を追いかけたがウルドは何処にも見当たらない!
「魔覚にも反応しない・・・町の外に逃げたの!?」
ネカネは米噛みに指を当てて集中するがウルドの魔力を感知出来ないみたいだ!
「ったく最悪だぁッ!! ルッカ連れてくれば良かった!!」
「愚痴ってもしょうがないでしょ! それにもしかしたらリィナが上手いこと合流して・・・ッ!!?」
ネカネが宥めるように言ってきたその時だった!
突如雷のような轟音が響き渡る!
なんだ!?
雨の一つも降ってないのに!!
「!!?」
音のする方を向くと嵐のような大きな雲が渦を巻きながら星空を覆い隠していた!
その雲は僅かに数回光ったあと、怒りを天から撃ち落とすように雷を落とす!
「うッ!?」
「何!!?」
俺とネカネは同時に腕で顔面を覆う!
雷が落ちた辺りから何故か爆発するように光が広がってその影響がかなり離れていた俺達の元へも爆風となって襲い掛かったからだ!!
「・・・おいおい!」
「何・・・アレ・・・!」
俺とネカネは唖然とする。
いや、こんなもの見ないで何も思わない方が無理だろ・・・!
雷が落ちたと思われる場所には、金色の巨大な剣の形をした雷が浮いていた・・・!
~ウルド カザ周辺:平地~
「ハァ・・・ハァ・・・!」
巨大な剣の雷が浮く下で、俺は触れてはいないが、それを支えるように手を翳していた。
無論、これは魔法だ。
だがただの魔法じゃない。
『深淵魔法』、己の中に眠る魔導の真理に行きついた者だけが使える究極魔法だ。
魔導の扉を開き、己の精神を解放することにより、大量に魔力を発現させ、超規模の魔法を使うことができる。
「グゥ!?」
「よう、起きたか。けどこっちはもうあいにくと準備万端だ。」
先程の謎の立ち眩みから治った狂戦士に対して皮肉を吐く。
「ガアァッ!!」
狂戦士は走り出す。
察してるな?
俺の雷の剣がヤバいものだって・・・。
「グアアアァッ!!!」
勢い良く走って近づいてきた狂戦士はその走る勢いを助走にして跳び、飛びかかるようにして襲いかかる。
「いい覚悟だ。」
確かに見た目からして大振りの武器相手に懐に飛び込むのは理にかなっている。
「けど無駄だ。」
俺は剣を翳していない左手を狂戦士に向けて翳す。
すると剣からまるで植物の芽が生えるように雷が無数に出現する。
更にそれはすぐに龍の頭のような形となり、雷の龍達は群を成して狂戦士に襲いかかる。
「ガアアアァァッ!!!」
狂戦士は龍達を避け、払い除けながら迫って来る。
本来雷は触れられる物ではないが、魔断体質の影響でああして払い除けられるんだろう。
だが・・・。
「グアゥッ!?」
多勢に無勢、全て捌き切ることは出来ず、一匹、また一匹と龍が狂戦士の身体に食い付き、遂には動きを止めてしまう。
だが・・・。
「グウウゥッ・・・!」
それでも組み伏せられることはなく、龍に押されながらもジリジリと前進してくる。
「・・・本当にスゲェよ、お前。」
皮肉ではなく純粋にこれは敬意だ。
確かに狂戦士は強い。
魔法も効かないし白兵戦も圧倒的に強い。
だが真に恐れるべきなのはその勝利に対する貪欲な精神、餓えた獣の如く倒すべき相手に喰らいつこうとする執念だろう。
「けどな・・・!」
俺だって譲れないものがある。
こいつの執念に負けない想い、守りたいものがあるんだ!!
「俺だって・・・負けられねえんだよォッ!!!」
俺は雷の大剣を魔法で支えていた右手を前に突き出す。
すると雷の大剣は切っ先を前方に向けたまま、矢の如く真っ直ぐに狂戦士に向かって飛んで行く。
図らずも雷の龍に押さえつけられていた狂戦士に回避の手段はない。
だが・・・。
「グッ・・・ウウゥッ!!」
「!!」
なんと狂戦士は雷の大剣の刃を両手で挟む様に受け止め、白刃取りで持ちこたえた!!
なんてやつだ!
数で抑え込まれてるってのにまだ抵抗ができるってのか!!
「・・・へっ。」
だが魔法が効かなかった狂戦士がこうやって防御するっていうことは俺が考えた通りってことだ!
「『魔断体質』・・・確かにお前は魔法が効きにくい・・・。」
俺は右手に力を込める。
「だが効きにくいってだけだ!!」
すると雷の大剣の進む力がさらに強くなり、狂戦士の脳天に刃がさらに迫る!!
「つまりそれ以上の火力の魔法をぶちかませばお前もひとたまりがないってわけだ!!」
要はゴリ押しだ。
だがことこいつにおいてはそれが最も有効だと言える。
弱点がないのならこっちが持ってる全力の手段で相手を超えるだけだ!!
そうすりゃ弱点なんざ関係ねぇッ!!
「グゥ・・・グゥアァァ・・・!!」
「!?」
だが狂戦士もただ押されているだけじゃない・・。
持ち前の馬鹿力で更に押し返し、刃を止めたまま前進し、迫ってくる!!
押し負ければたちまち奴に掴まれて再びあの時の様に奴の餌食になるだろう。
正真正銘、最後の意地と意地のぶつけ合いだ!!
「グゥアアアアアアアアァァァァァァ!!!」
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺と狂戦士は同時に叫びながら全力をぶつけあった!!
そして・・・。
~ルッカ カザ:西区~
「ルッカ! ウルドの位置わかる!?」
「黙ってて!!」
リィナに催促されながら米噛みに指を当て、魔力感知をするが・・・。
「・・・ダメ、あいつかなり遠くまで引き付けたみたい。」
「嘘でしょ・・・!」
リィナはうんざりしながら頭を抱える。
あれから私たちは自警団のやつらと一緒に馬を使って町中走り回りながら一緒にウルドを探していた。
「・・・けど朗報。」
「何!?」
「ワットの魔力があった。」
「何処!!」
「西の門の前。」
「よし、合流しよ
「おい!! なんだあれ!!」
「「!!?」」
会話の途中に自警団の一人が何かを叫ぶ。
何かと思ったが聞くよりも先に答えが前方の視界の中にあった。
「え・・・!」
「何、あれ・・・!」
目の前にあったのはまるで上に登って行くかのように真っ直ぐに伸びた光だった!
「なんだあの光は!?」
それは金色に輝く美しい光だった。
だが光は消えていく残像の如くゆっくりと消えていった。
眩しく、真っ直ぐに進み、それでいて一瞬で消えていく儚い光、それはまるで・・・。
「閃、光・・・・・・ッ!!?」
思わず自分の口から洩れた言葉でハッとした・・・!
『アァ・・・・ルゥゥ・・・・・トォ・・・!』
あの時の狂戦士の言葉だ!
ウルドの事を指さして『アルト』って・・・!
「『閃光』・・・『アルト』・・・!」
全てが繋がっ・・・いや、待って!?
そんなことありえるの!?
だって、そうだとしたら・・・!
~ウルド カザ周辺:平地~
カランと金属が固いものに打ち付けられる音と共に目の前に一本の剣が転がる。
さっき俺が魔法の触媒に使った剣だ。
魔法を使うための役目を終えたことによりまたこうして現れた訳だ。
「ハァ・・・ハァ・・・!」
やった・・・!
なんとか奴に押し勝ち、魔法を喰らわせてやった!!
正直あとが無かった。
深淵魔法の弱点、と言うかリスクと言うべきなのは膨大な魔力の行使だ。
本来魔法は術者の精神波と混ざった大気中の魔素を魔力として消費することによって行使が出来るものだ。
使った魔力と一緒に消費された精神波はその空間を補うように術者の精神から強制的に放出される。
つまり魔法は使えば使う分だけ精神がすり減っていく訳だ。
しかも深淵魔法は己の精神を限界まで精神波として放出して魔力にする技なので精神の消費がえげつない。
そして精神力が無くなった時の症状は・・・。
「ぐッ・・・!」
胸が苦しくなって胸を押さえる。
胸に大きな穴が空いたような、実際そんな事にはなってはいないが、体の中の何か大部分をごっそり持っていかれたような痛みと苦しみが身体全体を襲う。
そして胸を抑える手の力も 思ったように入らず、足にも力が入らない。
生物は手足を動かすにも、無意識に『気力』と言う精神を使っている。
それが無くなれば身体の運動に大きく影響が出るのは必然である。
つまり精神がすり減る影響というのは、これほどまでにひどいのだ。
これが魔法を使った時に起こりうる体への負荷だ。
だが、これをしなければならない事態があったのは言うまでも無いだろう。
「ッ!!?」
魔法の爆発により辺りを覆っていた土煙が晴れると目の前の光景に目を疑う。
「ウウゥゥゥ・・・!」
「マジかよ・・・!」
ありえない光景だった。
狂戦士は立っていた。
鎧もボロボロで兜もヒビだらけ、相当なダメージを 受けていた。
腕は力なく垂れ、足も生まれたての子鹿のようなろくに立つ力もままならない猫足立ちだったが、それでも立っていた。
「どんだけタフなんだよ・・!」
自慢じゃないがさっきの深淵魔法は、そこいらの魔物だったらたとえ大型でも一瞬で消し炭になるようなものだぞ!?
それを受けて原型を留めるどころか、倒れずに立ってるなんて・・・!
まったく、とんだ化け物だ。
「まだやんのか・・・?」
正直もう打つ手がない。
深淵魔法の負担がでかすぎるせいでろくに手足も動かない。
上昇で付け焼き刃の強化をしたところで人並みの動きができるかどうかも怪しいぐらいだ。
だがそれは奴も同じようで、鎧も手足もボロボロ、なんとか立ってるのがやっとの状態、つまりは状況は五分だ。
まだやる気なら俺だって受けて立ってやるつもりだ。
「ウウゥゥ・・・!」
「!?」
狂戦士が唸り声を上げると、その体から先ほどと同じような霧が吹き始めた!
まだやる気か!?
そう思ったのも束の間・・・!
「!!」
ピシピシと何か亀裂が走るような音がしたかと思うと奴の兜の一部が砕け落ちた。
丁度片目辺りだろうか。
「ッ!!?」
その兜の中身を見た瞬間、背筋に寒気が走る。
奴の霧のせいか、中身は全く見えないが、目だけはハッキリと見えた。
その目はカッと見開いて俺を凝視していた。
だがその目はすぐに変わった。
「ッ!!!?」
俺はそれを見てさらに背筋が凍った!
「グウウゥゥ・・・!」
狂戦士は唸り声を上げると更に霧が奴を覆い、完全に奴の姿を隠してしまう。
「ッ!」
そのまま何か仕掛けるかと思って俺は身構える。
だが霧はそのまま晴れ、霧に覆われていた奴の姿も その場には残っていなかった。
逃げ、た・・・ってことでいいんだよな?
とりあえず目の前の剣を拾って不意打ちが来ないか 警戒する。
「・・・・・・・・・。」
しばらく構えたが何も仕掛けてくる気配はない。
本当に逃げたみたいだな。
「・・・はぁぁぁ。」
俺は思いっきり息を吐き、先ほどまで張り詰めていた緊張の糸を緩める。
正直そのまま後ろに倒れ込んでしまいたい衝動に駆られそうだがそうもいかない。
「・・・。」
米噛みに指を当てて、魔覚に意識を集中し、魔力を探る。
近くに魔力が一つ、黒い中心に吸い込まれるように集まっていくような赤い魔力があった。
恐らくそいつの魔力は・・・。
「・・・。」
俺は黙ったままその魔力のもとに近づく。
案の定そこにいたのはルタだった。
何をやったかは分からないがかなり疲弊していたようで前のめりに倒れていた。
すぐにルタの前まで歩き、上体を下げてしゃがむとルタの上半身を抱きかかえる。
「おい、生きてるか?」
「お兄・・・ちゃん・・・。」
ルタは薄めを開き.表情を作る余裕もないであろうその顔で力ない笑みを浮かべていた。
何故かは分からないがかなり疲弊しているみたいだ。
目立った外傷が無い辺り、精神的なものによる疲弊だろう。
「へへ、さすが英雄・・・だね。」
「英雄って呼ぶのやめろ・・・ッ!?」
茶化すようなルタの言葉に呆れながら返事を返すと、突如ルタが抱きついてきた。
「ルタ!?」
「ありがとう・・・。」
「何がだよ。」
「『家族』って・・・認めてくれて・・・。」
「・・・。」
先ほどの悪夢のような変な空間でのことを思い出す。
何も出来ず、どうしようもなかった俺を必死に助けてくれていた。
「・・・。」
本来なら礼を言うべきなんだろう。
だが今はそれどころじゃないッ!!
「ッ!!」
「ぐがッ!?」
ルタの首を掴んでそのいけ好かない顔を自分の眼前に引き寄せる。
「吐け。」
「がっ・・・ぐ・・・お兄ッ・・・ちゃんッ・・・?」
苦悶の声を上げながら『何故こんな事を?』とばかりに非難の視線を向けて来る。
いや、そんな意思表示だってこいつの芝居だってのは分かり切ってる!
こいつはそんな女だ!!
「あいつは一体なんだ? お前は何を知ってる?」
「なんのッ・・・事かなッ・・・!」
顔に血管が浮くほど絞められているのにルタはそれでも小馬鹿にしたように笑う。
「とぼけられるとでも思ってんのか? 魔王を倒して居なくなったかと思ったら現れた霧魔、そんな奴の前に的確に対処法を持って現れたお前・・・!」
これだけネタが上がってんのに何とも思わない奴は子供か馬鹿くらいだ。
「まるで来るのが分かってたみてぇじゃねぇかッ!!」
「・・・ふ。」
ルタは呆れたように笑う。
恐らくは誤魔化しきれないのを察しているのだろう。
「こんな状態の女の子にッ・・・拷問ッ・・・中々の鬼畜だねッ・・・! サディストさんッ・・・かなッ・・・!」
「誤魔化すな、さっさと言え。」
「教えてあげてもッ・・・いいよッ・・・? けどッ・・・今はやめてッ・・・!」
「なんだ、はぐらかす気なら・・・!」
「がぐぅッ・・・!」
ルタの首をさらに絞める。
「もうすぐッ・・・誰かッ・・・来るんじゃないかなッ・・・!」
「!!」
「あれだけッ・・・派手に暴れたんだよッ・・・! アイツをッ・・・追ってた自警団がッ・・・今にも此処に来るんじゃないかなッ・・・!」
「・・・。」
確かに言われてみればさっきの深淵魔法の剣は派手にやりすぎた。
ワット達も追ってきてるかもしれないし、もしかするともう目と鼻の先の辺りまで来てるかもしれない。
「チッ・・・。」
忌々しいがルタの首から手を放す。
「かはッ・・・ケホッ、ゴホッ・・・!」
ようやく空気を吸えるようになってか、ルタは派手に咳込む。
「ちゃんと場が整ったらきっちり話して貰うからな。」
ルタの腕を背中に回し、そのままルタを背中に背負って立ち上がる。
「ハイハイ・・・しっかり言質取られましたよ。」
「ウゼェ・・・。」
あんな目にあっても余裕な態度のルタにうんざりしながら歩き出す。
「あ・・・。」
そうだ、うっかり忘れてた。
ルタを背負いながらコートの胸裏のポケットを漁る。
「チッ・・・。」
背負いながらだとやりづらいな。
「どうしたの・・・?」
「町に戻る前にすることがあんだよ。」
取り出したのは先ほど自分の指から外していた胴の指輪だ。
「・・・『戒僧の指輪』。」
ルタは知っているみたいだ。
だがそんなこともお構いなしに俺は指輪を指に嵌める。
「グッ・・・うっ・・・うぅ・・・!」
頭が重くなり、身体もずしんと重くなる。
魔力が弱まり、魔覚も大きく鈍くなったからだ。
「それで、力・・・誤魔化してたんだね・・・。」
「うるせぇ・・・。」
「嘘つくのも・・・大変だね。」
「黙って寝てろ。」
「やぁだよ・・・お兄ちゃんからかうの、楽しい・・・から・・・。」
「ルタ? おい。」
「・・・・・・・・・・スゥ。」
「・・・!」
背中から静かな息遣いが聞こえて察する。
「・・・寝たフリか? バレバレなんだよ、バァカ。」
わざと小馬鹿にしたように言ってみる。
別に嘘って確信があるわけじゃない。
カマをかけてるだけだ。
だが・・・。
「スゥ・・・スゥ・・・。」
本当に寝てるみたいだ。
「ったく・・・。」
呆れてため息が出る。
「黙ってりゃ可愛いのにな・・・」
寝てるとわかって安心しきったせいか、つい口からポロッと本音が出る。
「・・・。」
会って早々えげつないこと言ってくるし、おちょくられたりからかわれたり、散々だったがなんだかんだ助けてくれたのは事実なんだよな。
けど礼なんか言ってやるもんか、こいつムカつくし。
「・・・。」
礼なんか絶対言わない。
「ありがとな・・・妹。」
俺は何も言っていない・・・何も言ってない、絶対に。
今のは俺だけが聞こえた空耳だ。
「!!」
前から大量の馬の足音が聞こえてくる!
足音が近づいてくるとそれが何なのか察した。
ワットたちだ。
さっきルタが言ってた通り、自警団の奴らと一緒に俺を追ってきていたみたいだ。
「ウルド!! 無事だったのか!!」
「ああ、ちょっとやばかったけどな。」
「遠くからしか見えなかったけど、さっき馬鹿でかい 剣が出てきてたぞ!? あれ、お前がやったのか!?」
「!」
ヤバい!
誤魔化さないと!!
「・・・。」
とりあえず動揺を悟られないように表情を消す。
そして・・・。
「ワット・・・お前馬鹿か? 俺に魔法が使えるわけねぇだろ。」
わざと呆れたようにため息をつきながら嘘をつく。
「そ、そうだよね・・・魔覚で魔力見たことあるけど 、魔法が使えるような魔力じゃなかったよね。」
リィナは困惑気味に俺の言葉に納得する。
この辺りは抜かりない。
普段から魔力や魔覚を封印して魔法も上昇も使えない斥候を演じてるからな。
「じゃああの魔法って何だったんだ一体・・・。」
自警団のやつらは揃ってガヤガヤと一緒になってぼやき始める。
そりゃそうだ。
あの現場には俺とルタ以外いない。
俺がやってないって言っても説明がつかない。
これも誤魔化さないといけないな。
「あー、説明するとややこしいんだけどな・・・。」
のらりくらり言い回しながら即席の嘘を考える。
・・・うん、よし、こうしよう。
「途中まで俺だけで奴と戦ってた。けどめちゃくちゃ強かったからもうだめかと思ってた。けど近くで野営してた別の冒険者のパーティーがいたんだよ。すごく身なりが良くてかなり強そうだった。っていうか、実際強かった。お前らが見たっていうでかい剣は、その中の魔術師が俺の前で出してた。かなりヤバそうな魔法だった。」
「じゃあどうしてその人たち今いないの?」
「・・・。」
ネカネが的確に返してくる。
まぁ、そうなるよな。
けど・・・。
「狂戦士がそいつらに圧倒されて途中で逃げたんだよ。で、その人たちがそいつを追って行った。礼、言いそびれたな。」
「そっか、とにかくあんたが無事でよかった。」
ネカネは俺の話に納得し、俺の安否を気遣いながら 安心する。
よし、なんとか全部上手く誤魔化せ
「おい、というかさっきから気になってたけど、何でルタちゃんがここにいるんだよ!」
「・・・。」
空気読めよワットこの野郎・・・!
けどそりゃそうだ。
仮にもルタはこいつらの前じゃ一般人だ。
めんどくさいけどこれもなんとか誤魔化さないと・・・!
「こいつ、多分俺が家を出たのに気づいて途中から追ってきてたんだよ。戦ってる途中で俺がやられそうになった時に急にかばって奴の攻撃を受けた。幸い奴の攻撃が打撃だったから命に別状はない。」
「どうやって追いかけてきてたの? こんな街の外まで逃げてきてたのに?」
「ルッカの魔力感知ですら探せない距離だよ?」
「・・・。」
ネカネとリィナが余計なこと言ってさらに面倒なことになった。
さっき狂戦士と戦ってる途中に腕輪が光り出してた。
おそらくはそれで俺の居場所がわかったんだろう。
けど正直に言うわけにはいかない。
そんな特殊な腕輪をつけてるなんてただの兄弟がするにはあまりにも怪しすぎる。
「偶然町の門の近くで俺を見つけたみたいでな、そこから追ってきてたみたいだ。魔覚で誰かがついてきてたのは気づいてたけどまさかこいつだったとはな。」
もちろんこれも嘘だ。
ルタがいるのに気づいたのはついさっきだ。
だがこいつらの様子を見るに、おそらくルタの姿は 全然見られていないんだろう。
だからこの嘘も通る筈だ。
「あんな危ないやつ相手に追いかけてきたのか? 無茶するなぁ!」
ワットが呆れ気味にルタを見る。
まぁ、奇しくもそれに関しては同感だ。
それなりに無茶しやがったからなこいつは。
「ああそうだ、ほんとバカだよ。戦えもしないくせにな。」
「もう! そういうこと言わないの!」
「!?」
俺が呆れ気味に皮肉を吐くとリィナが叱りつけるように諭してくる。
「そうだぞウルド!! ルタちゃんにとってあんたは もうこの世で頼れるたった一人の家族なんだからね! あんたにもしもの事があったら嫌なの分かるでしょ!」
リィナに続いてネカネも援護するように諭してくる。
「!!」
ふとルタとのやり取りを思い出す。
わざと風呂覗かせてからかってきたり、飯作ってたら勝手に手伝ってきたり、食卓を囲みながら何気無い会話したり・・・なんだかんだ家族っぽいやり取りだった。
いや、こんなのはただの家族ごっこだ。
「うるせえよ。」
リィナとネカネの言葉を蹴飛ばすようにぞんざいに返す。
「何その言い方!! ルタちゃんにひどくない!?」
「無茶して死なれたら元も子もねえだろうが。そうなったら逆に俺の方が迷惑だ。」
「そんな言い方しなくても
「俺にとってもこいつは家族だ。これ以上、家族が死ぬのはこりごりだ。」
「「・・・!!」」
最後に俺が行った言葉にリィナとネカネは黙り込む。
心にもない言葉だ。
こいつらを黙らせるにはこの言葉が最善だと思ったからだ。
「・・・。」
くどいようだがこれは俺の本心じゃない。
絶対に。
「まあまあま! とりあえずはウルドもルタちゃんも無事で良かったじゃない!!」
「!!」
突然止めに入ったのはルッカだ。
「ウルドもさ、あいつに散々ボッコボコにされてボロボロだし、みじめにやられてムカついて気が立ってるだけでしょ?」
「うるせぇ! いちいち嫌味な言い方しやがって!」
「とーにーかーく! ここで立ち話してたら余計疲れるし、さっさと帰ろ? 私も眠いしぃ、ダーリンが心配だしぃ?」
「・・・まぁ、そうだね。」
「だな。」
わざとらしくぶうたれながらルッカが言うとリィナとワットも納得したように相槌を打ち、ネカネや他の連中も頷いたり目配せしながら仕方なさそうに納得の意思を示す。
「・・・。」
なんか珍しい気もする。
このメンツの中ではおそらく一番のトラブルメーカーのルッカだ。
さっきのネカネやリィナたちの尋問だって、こいつが率先してやりそうなことだったのに大人しかった。
いや、今は下手な事考えるのはよそう。
俺とルタの正体がバレなきゃなんだっていい。
「ほら、丁度あたしの馬が二人分空いてるから!」
ルッカが手を差し出して来る。
「・・・あいよ。」
仕方なしにその手を取った。
---十数分後。
「・・・!」
町の門の近くまで戻ると門の前に灯りが見えた。
「・・・あれは!」
レレだった。
着替える余裕もなかったせいか、寝巻姿だ。
手には小型の蛍光炉が入ったランタンを持っていた。
俺達が戻ってきたのに気づいてか、こちらに向かって必死に手を振っていた。
「レレ! 迎えに来てたの!」
レレの前に全員が到着するなり、リィナが嬉しそうに声をかける。
「みんな無事!?」
「ああ!」
「まぁ、無茶してボロボロなのが二人いるけどね。」
「ッ!!」
ルッカが嫌味そうな笑みと視線を俺に向けて来るとレレがカッと目を見開いてすぐに馬の前に駆け寄って来る。
「・・・。」
これは・・・甘んじて受けるしかないな、いつものアレ。
「・・・。」
何も言わず、と言うか何も言えないまま馬から降りる。
「バカッ!!!!」
レレが罵声と共に殴
「ッ!?」
るかと思ったら俺の胸に飛び込んで拳を弱々しく打ち付けた。
「またあんたはッ!! 無茶してッ!! いつも言ってるでしょバカぁ・・・!」
「・・・!」
泣いてる?
「・・・。」
視線だけルッカに向けてアイコンタクトを送る。
おいルッカ!
なんだよこの状況!
正確に伝わらないかもしれんがそれっぽい意思は伝わるはずだ!
「・・・へ。」
「!!?」
ルッカからの返答は非情だった。
小馬鹿にしたように傍観者を決め込んだような見下ろし方で笑っていた。
「ッ・・・!」
くっそぉあの女ァ・・・!
完全にこの状況楽しんでやがるな!?
「ッ、レレ、とりあえず離れ
「あんた一人の命じゃないんだからぁ・・・馬鹿ぁ・・・!」
「・・・。」
いよいよ泣くのを隠せなくなったレレを見て察する。
本気で心配してくれてたんだな。
「・・・悪かった。」
「!」
そっとレレの頭に手を乗せて優しく撫でる。
「確かに今回のはヤバかったよ。」
流石にこんな状態のレレに悪態はつけん。
「・・・。」
誠心誠意謝ったつもりだが、レレは何も答えない。
ったく、これどうすりゃ
「朝になったらギルドに顔出しなさい・・・話はちゃんと聞くからね。」
「・・・。」
ったく、仮にも俺怪我人なんだけど?
そんな奴に鞭打って報告の催促とか鬼かよ。
でもま。
「あいよ。」
生返事しながら再びレレの頭を撫でる。
今回ばかりは無茶してレレにもこんな想いさせた罰だって受け入れよう。
でも後悔はしてない。
この町を守ったんだからな。
けど・・・。
「・・・。」
胸の奥が重い。
さっき深淵魔法を撃ったからって訳じゃない。
モヤモヤもする。
きっと罪悪感だろうな。
これからもこうして町のみんなを騙し続けないといけないんだから・・・。
~リメイク前との変更点~
・戦いを外から見てる面々のパート追加
・色々問い詰められるパート追加
理由:あれだけ派手に暴れてんのに誰も来ないのおかしいだろうがよ、と言う訳で




