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小説「日本有事戦記」  作者: 島石浩司
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(15)浅間山

(15)浅間山


 榛名山部隊四人と苗場山部隊の平井隊員とワタルとオダの七人を乗せたトラックは、夕方近くに浅間山の北にある嬬恋村に到着し、「連盟」の支援者の経営するレストランへ向かった。一行は白髪の落ち着いた様子のオーナーに快く迎えられ、レストラン裏手の宿舎に案内され、すぐに食事を与えられた。

 出迎えてくれたオーナーの言によれば、浅間山へはここ数日、各所から移動してくる連盟のメンバーが多く、苗場山の女性メンバー達も二日前に無事到着し、すぐに浅間山の避難所へと出立したらしい。


「いまは、C国軍の駐留が始まって以来の大騒動です。新潟の信濃峠、関越トンネルでC国軍が連盟の部隊に大敗北したという件は聞いています。C国軍は全力を挙げて連盟の部隊・協力者を捜索しています。ここへも、C国軍の手が伸びてくる事は考えられます。出来るだけ早く浅間山へ出発してください。浅間山へは登山のベテランがご案内します。どうかご無事で!」

と、到着したばかりだが、早くも送り出される事になった。

 浅間山の登山口からは車が使えない。運搬ロボットがあるというと、浅間山の避難所への食糧運搬を依頼される事となった。運搬ロボットを登山口までトラックで運び、夜間のうちに山登りさせるという事で、即刻浅間山へ出発する。


 夕刻を過ぎた八時ごろに登山道の入り口に到着する。同行してきたレストランの店員達は素早くトラックに乗り込み去っていく。登山のベテランの津田という男の案内で、一行は運搬ロボットに荷物を満載し、浅間山への登山道を上りはじめる。

 山道を登るにつれ、徐々に薄暮から暗闇にかわり、あたりは全く見えなくなった。懐中電灯を光らせてC国軍に見つかるわけにはいかないので、山を知っている登山のベテランの津田という男に多機能メガネを渡し、赤外線スコープでルートを確かめながら登っていく。後の者は数珠つなぎで、暗闇の中を登っていく。

 運搬ロボットは最後尾で疲れも知らず平然と「ガシャンガシャン」いわせて上ってくる。ここは浅間山登山の裏コースというらしい。石ころだらけの細い登り道が曲がりくねって続いている。前方には蛇骨岳、仙人岳、鋸岳という二千メートル級の急峻な山が連なっていて、星空を背景に山の黒いシルエットが壁のように立ちはだかっている。



 明け方になり、蛇骨岳の手前の岩陰で運搬ロボットに灰色の幌をかぶせ、全員が携帯食をとり、寝袋にくるまって仮眠をとる。


 のんびりしている場合でもなく、数時間後には起床し携帯食をとりながら、蛇骨岳の右手に見える峠に向けて出発する。途中から登山道といえるものは無くなり、ただ崖のような坂を登り続ける。四足歩行の運搬ロボットは前足を短くして、楽々と登り続ける。ワタル達はヘトヘトになって、ようやく峠へとたどり着いた。


 蛇骨岳の峠からの景色は、周りすべて山というパノラマ状態で、沖縄では見られない光景だ。ワタル達は感心していたが、すぐに反対側への下山を促され、登りより危険な下りの坂を下りていく。足下は石ころだらけで、一つ間違えば、谷底へ滑落して一巻の終わりとなる。沖縄の山のハブも恐いが、本土の山の下り坂も恐い。運搬ロボットは例によって、下り坂を右へ左への蛇行をして、器用に降りていく。人間たちがその後を恐る恐るついて降りてゆく。


 一行は途中休憩を挟んで山を下り続け、夕刻に「湯の平」と呼ばれる平地に到着した。そこは川と温泉施設が広がるのどかな草地で、数百名の「連盟」のメンバーが笑顔で待っていた。

 多くの女性や子供たちは、ワタル達人間よりも、「ガシャンガシャン」と音をたてて四足歩行する運搬ロボットに集まり、歓声を上げた。

 榛名山の女性リーダーの周りには、先に榛名山の避難所を脱出していた数十人の人々が集まり、無事を喜んで、手を取ったり抱き合ったりしている。その人達がオダとワタルを見つけて

「レキオス部隊だ!良かった生きてて、もう会えないと思ってたよ!」と声をかけてくる。

オダが「生きてる!生きてる!オレ達、新潟から日本海を回って、苗場山部隊と一緒に榛名山で戦ったんだ!」と苗場山部隊の平井隊員を前に出す。

「苗場山部隊のおかげで、ミズキさん達は戻ってこれたんだね!」

「ほんとありがとうね!」と平井隊員が榛名山の人々にもみくちゃにされる。

 オダとワタルのところには、苗場山の四人の女性達が笑顔で近づいてくる。

「メガネ、役に立ったよ!」

「バスに乗って、終点の菅平高原で降りたら、そこにいたC国兵に検問されそうになって、3人眠ってもらった。」と笑顔で言う。女性達はそこからヒッチハイクで嬬恋村のレストランに到着したという。


 ワタル達が苗場山の女性達に囲まれていると、そこへ群馬県の本部長が近づいてきて、長野県の本部長という老人を紹介する。

「レキオス部隊の活躍についての報告は受けています。新潟での日本人救出、信濃坂の戦闘、苗場山部隊への支援、たいへんな仕事をしていただいた。心から感謝する。レキオス部隊がいなかったら、C国軍に大打撃を与える今回のような作戦は不可能だった。これからも手を貸してもらいたい。お願いする!」


 榛名山の女性リーダーもようやく仲間たちの輪から抜けて、本部長たちのところへやって来る。

 それを迎える群馬県の本部長と長野県の本部長が、深々と頭を下げて出迎える。

「あら本部長たち、久しぶり!どうしたの頭なんか下げて!冗談でしょ!頭上げてよ!」

「榛名山部隊の今回の活躍には言葉もありません!あの関越トンネル内での爆破はC国軍を震え上がらせました。すごいです!恐れ入りました!」

「あれは、こちらのレキオス部隊から譲っていただいたロケット弾が凄かったのよ!それから、榛名山では、苗場山部隊が救出に駆けつけていただいて、そこでもC国軍に一発、お見舞いしたわよ!」

「そうですか、凄いです!」と本部長二人がまたもや、深々と頭を下げる。

「またまた、そんなに頭を下げると貫禄なくなるわよ!それより、C国軍はどういう事になってるのか教えてよ!」

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