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小説「日本有事戦記」  作者: 島石浩司
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(13)榛名山の戦闘

(13)榛名山の戦闘


 そんな和やかな雰囲気で過ごしていた苗場山の避難所に、突然、南へ移動するという連絡が来た。

 富山、関越トンネル、信濃坂で予期せぬ被害を受けたC国軍が本格的に、この地域の掃討作戦を準備しているという。群馬北部の関越道・榛名山や湯沢温泉・苗場山方面に、C国軍が近づきつつある。この事態に、「連盟」の中心メンバーは、C国軍に大被害を与えた今、一旦、群馬・長野地域の部隊を南に撤退させて、新たな武器調達の方法を探り、再度の攻勢を期すという様な考えらしい。


 連絡によれば、レキオス部隊の芸能人救出組は東京湾に到達し、レキオス号に乗船したが、それから無事に東京湾を脱出できたのかは不明、レキオス号の三発のロケット弾を積んだバス・冷凍車の所在も不明という事だ。


 苗場山の避難所のメンバーは、南へ向かい浅間山方面に撤退という指示を受けた。

 先発隊として、まず女性達が苗場山を下り、志賀高原、草津温泉、北軽井沢を通り、浅間山へ、目立たないようにバラバラに、バス・タクシーあるいは徒歩で向かう事になった。女性達は地味な格好をすると逆に怪しまれるという事で、普通の衣装と普通の化粧をする様に指示された。C国軍に見つかった時に、不自然な感じを与えないためだ。

 サブリーダーと十数名の隊員そしてワタルとオダは偵察隊として、苗場山を下りる迄、女性達と同行し、それから鳥甲山に向かい、野沢温泉方面を偵察けん制、場合によっては攻撃せよという指示を受けた。



 五月二十八日早朝、偵察隊は、運搬ロボットに小型迫撃砲とレーザー銃を装備して、苗場山を西に下り、中津川の流れる温泉街へ到着した。そこでワタル達は女性達と別れる。女性達は、ワタル達に手を振りつつ、川沿いに遠ざかって行った。

 偵察隊の隊員とワタル達は、鳥甲山方面へ向かう。隊員たちはバイクに乗り込み、ワタル達は中型トラックに、運搬ロボットとともに乗り込んだ。

 バイクとトラックは鳥甲山への上りの山道を走行し、山の中腹を西に回り込み、二時間程で野沢温泉が見渡せる場所に出た。

 鳥甲山の中腹からは、野沢温泉の要所をC国軍の軍用車両、兵員が取り囲んでいるのが見える。信濃峠でC国軍にロケット弾を発射し被害を与えたトラックが、野沢温泉に逃げ込んでいる可能性があると、進駐して来たのだろう。野沢温泉の住民に危害が及んでいる事も考えられる。


 到着した偵察隊は、サブリーダーの指示で、野沢温泉を取り囲んでいるC国軍の部隊に向けて、迫撃砲弾を一発発射する。こうする事で、C国軍の注意を鳥甲山に向けさせ、野沢温泉の住民を守ろうという事だ。

 砲弾はC国軍部隊のかなり手前に落ちたが、それなりの効果があったようで、C国軍が反応し始め、鳥甲山に向けて機銃弾を撃ってくる。ワタルとオダがレーザー銃で応戦し、前進してくるC国軍部隊に損害を与えていく。

 レーザー銃が数台の軍用車を破壊し、かなりの兵員を倒した後、サブリーダーの指示で撤退する。ここへはすぐ、敵のミサイル攻撃が来ると予想される。ゆっくりとレーザー銃の射撃をしている場合ではない。

 ワタル達は運搬ロボットに小型迫撃砲とレーザー銃を回収し、トラックに乗り込んだ。偵察隊のバイクとトラックはそこから、鳥甲山の中腹の山道を、朝来た南の方向へ、すばやく引き返して行く。


 移動の途中で、予想通りさきほどまで偵察隊がいた場所に敵のミサイルが数発着弾し、轟音をたてる。偵察隊がバイクとトラックで鳥甲山を下り、徒歩と運搬ロボットで再び苗場山を登り避難所に戻ったのは、夕刻を過ぎた薄暗い頃だった。

 そこで、サブリーダーが、野沢温泉の状況と、C国軍がやがてこの山にも進出してくるだろうという報告をした。


 それを聞いた苗場山部隊のリーダーは、数十名のメンバーに次のような提案をした。

「榛名山には、数千のC国軍部隊が集結しているらしい。どうやら主戦場は榛名山になる。苗場山部隊は、今すぐに榛名山方面へ向かい、榛名山部隊の支援のために、C国軍の背後をついてもらいたい。ここ苗場山は、俺を含めた少人数でC国軍の相手をする。」

 ここで「リーダーを残しては行けない!」「いやそうしてもらいたい」・・・と長談義する愚かさは全員持ち合わせていない。

 即刻、数名の隊員がリーダーとともに残って戦うと手を上げ、残りの隊員はリーダーの提案を了解した。


 翌五月二十九日の早朝、リーダーと数名のメンバーを残し、ワタル達を含む数十人は、霧の中を苗場山の裏ルートの登山道を通って南へ向かう。西の川の流れる温泉地へ向かう表ルートでC国軍と鉢合わせするという危険は冒さない。


 裏ルートはやっと人一人が通れる登山道で、運搬ロボットが活躍し、武器物資を運んだ。運搬ロボットは人の通れる坂なら、どんな坂も歩行可能のプログラミングをされていて、下り坂を右へ数歩左へ数歩の蛇行をして、器用に降りていく。人間たちがその後をついて行く。感心した苗場山のメンバー達は運搬ロボットに、長野出身の大相撲力士「雷電爲右エ門」にちなんで「ライデン」というニックネームを付けたほどだった。 苗場山部隊は、越後山脈の佐武流山、白砂山の登山道を、驚異的な速度で南に向けて進んでいく。


 ようやく、その日の夕刻に、榛名山の北約十キロを東西に走る長野街道を見下ろす神社に到着した。近くのガソリンスタンドの駐車場には、この地域の「連盟」のメンバーが手配した車やトラック、バイクが十数台用意されていた。

 ここで合流した若手隊員二人がバイクで榛名山方面への偵察隊として派遣される。その間、他のメンバーは森の中で仮眠休憩をとり、「ライデン」は駐車場でバッテリーを充電される。

 長野街道に車の行き来は、ほとんど見られない。


 偵察隊は、翌五月三十日の夜明けに戻ってきて、状況を報告した。

「伊香保温泉は全焼中、C国軍は数千人の大部隊が、榛名山の周囲に展開し、榛名山に向けて攻撃を開始している。榛名山はC国軍のミサイル攻撃を受けた模様。榛名山部隊から反撃する気配はない。」


 苗場山部隊のサブリーダーと主だったメンバーが協議を始めた。

「C国軍が榛名山を攻撃中で、こっちに後ろを見せているんだから、この好機を逃す手はない!」

「そうだ!ここは、榛名山を囲んでいるC国軍に一発かましてやろう!」

「榛名山の女傑に、苗場山部隊の凄いところを見せてやる!」

「要は、攻撃のタイミングだ。早すぎるとC国軍が山登りする前で、さっとこっちへ向かってくる。遅すぎると、榛名山のメンバーが全滅する。」

「という事は、その中間を狙って、派手にブチかましてやろうじゃないの!」

「賛成!異議なし!」

「タイミングはサブリーダーに一任!」

「賛成!異議なし!」


 という事で、苗場山部隊は車とトラック、バイクに分乗し、即刻神社の森を出発する。

 ワタルとオダは、平井という名前の隊員の運転で中型トラックに、運搬ロボットとともに乗り込んだ。

 南へ向かう細い林道を通り、山を越え沢を下り、昼前に榛名山榛名湖を見渡す小高い丘に到達した。目の前に榛名富士の美しい姿が見える。偵察隊の報告通り、東の伊香保温泉方面からは、黒煙が大量に立ち昇っている。

 C国軍の部隊は散開して榛名山を取り囲んでいる。どうやら、一か所に集結するとロケット弾が飛んでくると学習したらしい。

 榛名山の各所には、至る所爆撃痕が見られる。前日までにC国軍の砲撃やミサイル攻撃があったらしい。右手中腹にある避難所(標高七百メートル)辺りにも爆撃痕がある。

 榛名山を取り囲んでいるC国軍の幾つかの部隊が、それぞれの方向から登り始めている。右手中腹にある榛名山避難所に動きは見られない。


 サブリーダーは、メンバー達と監視スコープで、C国軍の様子をチェックし、C国軍が榛名山の中腹の避難所付近に迫った時を待って、一斉に攻撃を開始する事を、メンバーに伝えた。

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