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アンリーシュ  作者: aqri
unleash<アンリーシュ>
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4

 今この状況で考えられるのは一つだけだ、穹に情報を与えることで穹が導き出す答えが欲しい。情報は教育だ。そして問いかけは答えを求めるための手段である。采がこういう計画でいる、という話を聞いた穹が次にどのような言動をするか答えを求めている。

 先ほど「こういう掛け合いは学ばなかったのか」と言ったので穹との会話を望んでいるということだ。穹は人工知能であり人でもあり、昔は繋がっていた相手でもある。昔の穹と今の穹の違いを学ぼうとしている。


「上手くいくと良いな、ガラクタ」


 は、と思わず鼻で嗤う。当然采は無反応だ。ゴーグルをしたままなので細かい表情はわからないが口元も頬もぴくりともしていない。ただ、ほんの一瞬。采の体にまとわりついている黒い霧のようなものが違う動きをした気がした。不規則にうねっているその動きは蝗害を起こす虫の大飛翔を思わせていたが、先ほど一瞬ピクリと反射反応のように震えたように見えたのだ。全身ではない、たった一か所だが。

 あの霧のようなもの、ただの演出というわけではなさそうだ。言葉に反応したのなら演算だ、初期型達と同じように会話をして今なお試行錯誤をしている。それも初期型達のように戦略図をフローチャートのような図式で描くのではなく粒子のような点と点が大量に集まり複雑に形を変えている。それだけでも初期型達の数百倍の計算容量だ。さすがは次世代型だ、演算の仕方が初期型達と根本的に違う。

 先ほどの言葉、何故采は反応したのだろうか。希望的観測と罵倒しかしていない。何も答えなど出していない、回答ですらないあの言葉に。


(腹立った、とか)

―――それはない。自分にない学習内容だったから思考パターンをインプットしただけだ―――


人としての考えと人工知能としての考えが真正面からぶつかる。当然だ、そのようにできている。


(じゃあ、もしも)

―――その両方だったら?―――


 試してみるか


「で、俺をここに招待したのは何でだ」

《ここで見ていろ、最高の茶番を》


 采がそう言うと采の周りに檻のようなものが現れた。これらは視覚でわかりやすいように表示されているが実際はプログラムか何かだろう。檻が采の周りを覆うとまるで生き物のように采に絡みつき、采を拘束する。その檻をよく見れば大量の0と1の集合体だ。何のデータなのかはわからないが采が拘束されているイメージを描いているという事はこれが五十貝派の用意した采対策のプログラムなのだろう。

 今五十貝派が采の中枢にプログラムを送り込み「次世代型人工知能 采」を不活動にしようとしている。しかし采はこれに「乗る」といっていたし今から起こることを茶番とも言っていた。それをされても采にとってまったく問題ないということだ。

 そもそもこの行為は采に対するハッキングと言える。采にとって重要な部分を変えるには五十貝派も重要なプログラムを開放するという事になる。


―――アンリーシュにおいて大切なのは指揮系統じゃない、決定権だ。采はプログラムを実行には移すが最終決定権がない―――


《決定権を持っているのはレーベリックレコード企画部所持コンソール コードHS3005PSO。ここからのシグナル以外私は受け付けない》


 穹の思考を完璧に読んでいるタイミングで采が口を挟んだ。先ほどの采の発言から穹がどう考えるか演算で出しているようだ。穹が、というよりユニゾンや人工知能ならこう考えるという事をすでにパターン化しているようだが。それはそうだ、昔は皆で一つの存在だったのだから。

 采に対するシステムはいつも一方通行だ、采からシステムに介入することは絶対にできない。だからこそ、その介入できる道であるシステム変更という手段を……


《この手段を使えば私は私の決定権を手に入れることができる》


 ゲームなどにありがちだ。強力なボスの弱点を探すと、大技を使うためにわざわざ開放する部分を攻撃する必要がある。重要な事をしようとすると重要な部分をさらけ出す事となる。普段はそこからの逆流が絶対に起きないよう対策がされているのだろうが采にはそれに対して対抗策があるということだ。

 一瞬、最悪の考えが浮かんだ。今までの情報を組み合わせ、今自分に起きていることとこの場所に呼び出されたことを踏まえると。


《わかったか?》


采が拘束されたまま、この時初めて感情をあらわした。口元が三日月型に歪む。嗤っているのだ。


《たぶん、その通りだ》


 ここで初めて穹の表情が変わった。自分でも眉間にしわが寄り忌々しい物を見る顔をしているのはわかる。今頃リアルの肉体も同じような表情をしているだろう。

 采は今不完全だ。それは20年前自らのコントロールたちを切り離し、自由を得ようとしたから。しかし実際は切り離すことで弱体化してしまった。采から人工知能たちが切り離された時の対策まで当時の設計者たちが組み込んでいたからだ。そのため今の采は不自由な事が多くいわば欠陥品だ。だからこそ五十貝派は今の状態の采ならシステムを変えることができると踏んだのだろう。

 しかしその不自由な原因を改善できたらどうだろうか? もし采が昔の半分以上のシステムを取り戻し、それを完璧に自分でコントロールできる状態にあったら? 五十貝派が行おうとしているシステム変更に対抗できるだけの能力を取り戻したら、絶対的な指示系統であるあちら側に侵入することができる可能性が高い。何せ采のキャラは何百とあるのだ。つまり采は数百人のハッカークラスの駒を常備していることとなる。そんなことになったら五十貝派が勝てるはずもない。リッヒテン、セルケト、セクメト、アリスはすべて采の駒なのだから。

 では昔の状態に戻る改善とは? そんなもの逃げた人工知能を手に入れることだ。半数は今采がもっていて、重要なプロトコルは消去したのでいないが代わりにサブで使えるユニゾンがいる。そのユニゾンにある程度人工知能を渡しておいて後で丸ごと吸収すればいい。


「全部の初期型を渡したら万が一でも俺の実力が底上げされて対抗されたら面倒だし、ある程度の量を仕込んでおけば俺の存在を探しやすいから逃げられる心配もないか。リジョイに押し込んでおけば……」

「まあ、俺が来るだろうよ」


穹の言葉に自然に割って入ってきたのは夜だった。まるで最初からそこにいたかのように自然だ。


「お前が来ること計算に入れてるだろ、采は」


迷惑そうにそういえば夜は余裕の表情で、しかし采を見据えたまま小さく鼻で嗤う。


「この局面になってもまだ勘違いかましてるからムカついて来ちまったんだよ」

「何だよ勘違いって」

「それは後でな。それよりタイムリミットは決まった。五十貝派が采のプログラムを完全に変更したらお前は采の腹ン中に自動で納まるからな。籠目と麻の葉、アイツらは釣り針だ。お前に取り込まれた時点でもうお前は采の一部になりつつあると思え。それまでに宵を引っ張り出さねえと俺も一緒に食われる」


 夜は穹とリンクで繋がっているし双子のような存在なので関連が深い。穹に何かあれば自分にも影響があるというようなことも言っていたので夜にとっても死活問題だ。

夜は五十貝派が探している事もあり、采を分解させないためにも確保しておきたい存在だ。穹をゲームに招待してこの場所に放り込んだのは夜を釣るためでもあったのだ。


「もう一匹くるぞ」

「匹ってさあ……」


 夜の言葉に返したのは暁だ。暁もまたまるで最初からそこにいたかのように自然に姿を現した。リジョイの為見た目はロボット型パートナーではなく人の姿の方だった。危機的状況ではあるが穹、夜、暁は特に焦った様子もなく普通だ。やることは決まっているし今更焦っても仕方ない。

三人はリンクで繋がっている。これからやること、タイミングは「わかる」はずだ。


「さて、宵をどうやってひっぺがすか」


口元が緩く笑っている夜に暁が呆れたように返した。


「そんなの、夜が采から分解して取り戻すしかないじゃん」


 2人とも声に出して会話をする。どうせ采の演算ですべて計算しつくされているに決まっている。黙っていようが声に出そうが同じだ。夜が単に分解したところでセキュリティである宵に勝るかどうかは今ここでは答えが出ない。


《揃ったな。では暇つぶしでもしていろ。ゲーム再開だ》


 采がそういうと空間に亀裂が入る。穹は無表情、夜は楽しそうに目を細め暁は顔を顰めた。亀裂からはにゅっと腕が入ってきてその姿を現した。

 出てきたのは女だ、髪がかかとまで付きそうなくらい長い。服装は古代エジプトを思わせる特徴的なもので腰は細く胸は大きい。下から上に視線を移してくと絶世の美女なのかと思えば顔はライオンだった。


「まんまセクメトか」


夜のつぶやきに情報が頭に入る。セクメトはエジプトの神話に登場する女神だ。姿も信仰されているものそのままだった。様々な逸話があるが、一言でいうなら戦いの神である。


「こいつもしかしてアンリーシュやらせたらむっちゃくちゃ強いんじゃね?」


半眼になりながら穹がつぶやけば夜と暁はノーリアクションだった。その態度が肯定を意味している。

システムの役割としてはハッカー、ウィルス対策と言ったところか。探査型と言われていたので異常を察知し相手を攻撃する事が役割なのだろう。


「もう一人はセルケトだっけか」


 セルケトも古代エジプトの神話に出てくる守護の女神である。守護という事はセキュリティ、いわば宵と同じポジションだ。頭に浮かぶイメージは同じように古代エジプトの女性のような恰好をしているが、頭にはサソリが乗っている。サソリそのものの姿とされていることもあるようだ。

 亀裂からさらにもう一つ腕が伸びてきた。腕がある、という事は頭にサソリを乗せた女性の姿で現れるのだろうと思っていると、長い長い腕が亀裂から伸びてくるだけで姿は出てこない。結局数メートルの腕が亀裂から伸びた所でぴたりと止まった。どうやら腕だけがセルケトの姿のようだ。


「なんでやねん」


 思わず穹が突っ込む。しかしすぐに夜と暁の警戒が伝わりその姿を見据えた。腕しか伸びてきていないのなら、まだ全体図が出ていないだけでセクメトは今別の場所から繋がっているのではないか、アンリーシュ以外の直接的なシステム攻撃をしてくる可能性がよぎった。これはおそらく暁の考えだ。短い付き合いだが夜は可能性の考え方をしないのはわかっている。人工知能寄りの考えなのではっきりとした答えを導き出そうとするはずだ。


「正解」

「あのな。リンクで思考理解すんのキモイからやめようや。もっと正確に言うならお前と繋がってるのがキモイ」

「言い方がエロいぞ兄弟」

「お前マジで死ね」


 吐き捨てるように言ってから辺りを見渡せばいつの間にかアンリーシュのステータスが表示されている。セルケトとセクメトも当然対戦相手としての表示がされており、穹、夜、暁のチーム戦となっている。采による時間稼ぎと自分の邪魔をされないための予防措置だ。試合をさせればどうやったって意識がそちらに向く。采に対する試行錯誤ができなくなるからだ。


(ま、そんなこと今更する気もないけどな)


仕込みは済ませてきた。あとは自動で事が起こるのを待つのみだ。


「問題はやる気満々のこいつらどうしようかな」


 スキルを調整しながらセルケトとセクメトを見据える。二人とも非常に見づらいが戦略図を高速で組み立てており長丁場になりそうだ。その内容はち密で穹が立てる戦略など子供だましにもならない。それでも複雑に組み立てているのは夜が分解を、暁が再構成をする役割だからだ。下手をすれば試合が永遠に終わらない。それこそ采の狙いなのだが。


(時間稼ぎはお互い様にしても、宵を采から引き離す他にこいつらにやられないようにするっていうノルマもあるし。暁はともかく夜と連携するのは無理だ)


好き嫌いの問題ではない。自分から歩み寄るのは無理なので夜は夜で戦ってもらうか、夜が穹を利用して戦うしかない。暁とも連携はとれないし、正直出たとこ勝負になる。


「大丈夫だよ穹。すごく王道な事言うけど、君は一人じゃないし」

「暁」

「そうそう」

「テメーは黙れ」

「俺だけ扱い雑じゃね?」


夜が楽しそうに笑ってから一瞬でスキルをセットした。夜はアンリーシュで戦ってきているはずなのでどんなスキルがあるか予想がつかない。オリジナルスキルも持っているはずだし、初めて戦った時の戦略など考えるとあまりスタンダードな戦い方はしないだろうとは思う。


(それにしても、一人じゃない、ねえ)


 暁が言った言葉。これは自分たちユニゾンが協力して……などという意味でないことくらい分かる。ユニゾンは協力できないのだから。となると現実世界の協力者の事だ。暁は地下で常磐とも会っているので彼らは彼らで何か作戦があるのかもしれない。

 穹達がスキルセットを終えるとセルケトの周りに高さ5メートル以上はあるであろう光の柱が、セクメトの周囲には光の玉が無数に現れる。


 先攻はセルケトたち、光の柱が光ったかと思うと大量の蝶が溢れ出てくる。いつも見るあの蝶とは模様が違い手の平くらい大きい。蝶は一匹二匹なら美しいのだろうが、大量にいると燃えカスが風にのって漂っているかのようで正直汚く見えた。


「なんだアレ」


 一応回避運動モードを選択しながら穹が言えば暁がスキルを3つ発動させる。相手のスキル発動条件により使えるスキルばかりだ。これを使えるかどうかで相手がどんなスキルを使ったのかわかるので穹も使ったことがある戦略である。


「3つ動かせるってことはあの蝶と光の柱かなりの数のスキル使ってるね。まあ彼らは一撃必殺はしてこないよ。ユニゾンが何なのかを知ろうとしてくるはずだ、ユニゾンと一緒に過ごしたことはないんだから」


 セルケトたちは穹達がクラッシュによりバラバラになった後作られた存在だ。采から情報はいっているだろうが、セルケトは一度穹と対峙して無茶苦茶な対処をされそうになった。人工知能ならあんなことはしないので穹と言う存在を理解できなかっただろう。わからないことは学習する、人工知能の基本である。


「400ねえ、いけるかな」


 夜が意味の分からない事をつぶやくと一斉に蝶がランダムに動き、蝶とは思えない速度で一斉に襲い掛かる。3人は回避モードで対応するが蝶の動きが細やかすぎて目で追うのがやっとだ。蝶たちはすべてセルケトのコントロールにあるようで、逃げ道も予測して蝶が迫って来るので1秒間に数十の回避パターンを計算しながら避けなければいけない。


―――30秒持たない―――


 穹の予測では18秒後に囲まれて当たる。あの蝶が爆発物だった場合手足に当たれば吹き飛ぶだろう。死にはしないだろうが穹はそのターンで終わりだ。夜達を頼ったりはしない、自分でなんとかしなくては。

 10秒が過ぎ限界のカウントダウンが始まる。その限界がわかったらしくセルケトは夜と暁への攻撃をやめて一気に穹に攻撃を集中してきた。そのせいで限界が2秒早まってしまう。この状況で発動できるカウンターは限られているし、カウンターを使うには攻撃を受けなければいけないのでそのリスクは避けたい。一撃でも受けたくはないのが本音だ。どうせ物理攻撃ではなく状態異常や効果が継続する何かが付いているに決まっている。

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