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アンリーシュ  作者: aqri
unleash<アンリーシュ>
95/105

2

 そんなことを延々考えながら試合は進んでいく。試合が5分しかないという事で全員全力だ、お互いをフォローしあっている暇もない。とにかく全力でスキルをぶつけ、大急ぎで突破口を探している。


―――時間がないなら必ず人工知能たちが仕掛けるはずだ―――


 今この条件が厳しい状態であれば試合の進め方はすべて采のシナリオがあるはず。何もしなくても勝手にこちらチームが勝つようにできているはずだ、と思った瞬間に対戦相手にちらりと雪輪が見え隠れするプレイヤーがいた。


「……んなわけねえか」


 顔が引きつるのを自覚した。おいおい、初戦の相手になんつうもんブッこんできてんだ、と驚きや舌打ちを通り越して逆に笑えてくる。猫ではないしぽっちょでもない。リッヒテンの使い捨てのアカウントだ。ちらりと仲間を見れば瞬時につけていたスキルを変えるプレイヤーが二人いた。コルクと舞風、一撃必殺のスキルから相手の行動に制限をつけるものとカウンターも使える罠のついた攻撃に変えた。

 リッヒテンに下手な攻撃をすればこちらの不利になると学習したうえでの予防線だ。つまり、采の支配下にはあるが情報共有をしていないのだ。各個人自分の演算のみで戦っているということになる。さらなる高みを目指し、采のパーツとして精度の高いものにした。だからこそリッヒテンは雪輪を見せたのか。


―――気色悪い。自分を食って成長するウロボロスじゃあるまいし―――


 采の、神という定義は果たしてどんなものになっているのだろうか。采に信仰はなく最初から不要物として切り捨てて考えているはずなので演算するまでもないのだろうが。

 2人のプレイヤーが一歩下がる形の攻撃をしたことで他のプレイヤーが前に出て相手チームに強力な攻撃を仕掛ける。それに合わせて相手も罠やカウンターを発動させ一気にお互いのライフがごっそりと削れた。追加条件の攻撃が次々と発動されまだ1ターン目だというのに攻撃が目まぐるしい。こういうのを待っていたと言わんばかりに観客は盛り上がっているが戦っている方はそれどころではない。何せ相手の攻撃と味方の防御やトラップをすべて見ながら戦わなければいけないのだ。下手に自分が動けば有利な手間でつぶしかねないが相談している暇などない。それどころか自分のチームは次の試合では敵になるのだ。あまり自分の手の内をさらすわけにもいかず、かといって負けるわけにもいかず。おかしな攻撃や行動に出てしまっている者もいて完全にパニックに陥っているようだ。パニックになっている者は放置して穹もフォローに回る。


 このターン穹は攻撃スキルを使用していない。敵と味方の間でカウンターと追加効果の悪循環に陥って互いのライフを延々削りあう不毛な状況になると踏んで1ターン効果をすべて打ち消すスキルをセットしていた。本当は発動にいくつか条件があり発動条件も厳しいのだが、同じチームの者がその条件をクリアしていると使えるようで使用可能となっている。勝敗はクリエイティブポイントの高さとなっているのでライフがなくなっても負けではない。負けではないが、加点のみではなく減点もあった場合は大幅にポイントが削られる可能性もある。

 穹が発動したスキル打消し効果によって一度すべての罠やカウンターが止まり、相手の攻撃ターンとなる。このスキルは相手にしか効かないため穹と同じチームのメンバーには影響がない。

 相手の行動は一つ確実に読めることがある。それは効果打消しのスキルを持つ穹を攻撃してくるということだ。スキル打消しは強力なスキルで発動条件が厳しいため使える機会はあまりない。しかしこの乱闘状態となった複数名チームならそれもあっさりクリアできるということは今証明された。また使われては厄介この上ないのでまずは穹を潰そうとしてくるはずだ。そしてそれは当然チームメイトもわかっているし、スキル打消しを失うわけにはいかないので穹を守ろうとしてくる。


 雪輪を持つプレイヤーが一歩下がり他のプレイヤーたちが前に出て攻撃を仕掛けてくる。全員穹に集中攻撃だ、7名同時に攻撃スキルを発動してくる。プレイヤーはシーナに設定してあるので穹が直接ダメージを受けることはない。7人の攻撃がシーナに向かった瞬間スキルを発動しようとしたが、雪輪を持つプレイヤーが何かを発動させた。


《プレイヤー交代》


 そう采が宣言するとプレイヤーがシーナから穹に変更される。向かってきた攻撃がシーナの直前で消えて穹に向かってくる。穹がプレイヤーでない以上シーナを倒せばスキル無効化を使わせないことはできるが、それには肝心の穹がシーナのフォローをするため時間がかかる。それなら穹本人を引っ張りだして一撃で沈めるのが手っ取り早い。実に人工知能らしい合理的な策略だ。

 しまった、と思うと同時に一瞬で対処を頭の中で計算する。プレイヤーをシーナに設定していたせいで今攻撃系のスキルはすべてシーナがもっている。穹がもっているのはフォロー系、バックアップなどが多い。

まずはスキル交換を実施し回避運動モードへと移る。これだけの観客がいる中回避運動で避けようものならなんだアレおかしくないかと騒がれてしまうだろう。


―――構わない、数秒でいい―――


7つ同時をすべて避けるのはさすがに骨だがフォローは必ずあるはずだ。

まず物理攻撃である直接攻撃、武器攻撃を軽くかわして後ろに飛ぶと射撃の攻撃が3人同時に仕掛けてくる。射撃は攻撃威力こそ弱いが命中率が高い。避けようかと思ったが穹の周囲に防御のエフェクトが出て穹を守った。


「ナイス」


 目の前に現れて穹守ったのは舞風だ。さすが初期型人工知能、反応速度が普通の人間の比ではない。かばうスキルを使い、なおかつカウンター発動まで付けていたようで攻撃をしてきた射撃相手3人全員に反撃の効果が飛ぶ。その効果は二人に通ったが一人はアンチカウンターでも付けていたようで完全防御に成功した。最後の一人の攻撃はサイキック系の範囲攻撃だったが穹の前にはシーナが立ちはだかり攻撃を受けるモーションの肩代わりをし、チームメイトの連携で完全に防がれ無効に終わる。追加効果をお見舞いしたプレイヤーもいたがそれはリッヒテンに完全に防がれていた。リッヒテンはこの試合では攻撃よりもサポートスキルを多く持っているようだ。


―――作戦は同じか―――


【完全防御を使おうと思ったのですが先を越されました】

「舞風とコルクのが性能は上だからな」


 本当はとっくにスキル交換をしているので穹を守っても意味はないのだが、それを伝えている暇もないし囮としての役割くらいはできる。プレイヤー交代が限られたターンなのか永続なのか不明のため穹が戦うつもりでいくしかない。

 現在はほぼ五分五分で最後の評価がどう傾くかがわからない。それに他のプライヤーたちはスキル打消しに意識がいっているようだが、勝敗がクリエイティブポイントで決まるのだから同じスキルを2回使うのは評価としては決して高くない。先ほど以上の使いどころがあれば別だが、それを使うのは穹ではないので今穹が考えても仕方のない事だ。


 穹のチームの手番となり時間も残り半分を切った。皆瞬時にスキルを決定して攻撃開始となる。一人が全体攻撃を仕掛けると相手チームの4人同時にカウンターが発動する。全員いっぺんに攻撃しなくなったのは1ターン目で学んだからだ、まず攻撃をずらしてカウンターを発動させてしまった方が楽だと。

 アンチカウンターが発動して二つ無効化したがもう二つは有効判定となり全員に降り注いだ。サイキック系の火の玉の雨と、銃攻撃によるスキルの封印だ。火の玉はチーム戦の場合ランダムに攻撃が行くため誰に当たるかわからないが、その代わり発動条件が簡単で何度でも使える。しかもアンチカウンターに影響されにくい特質を持つので初心者向きのスキルではあるが高ランク者も好んで使う者も多い。今の攻撃でターゲットとなったのは穹以外のメンバーで二人だ。サイキック能力は大した攻撃力ではないのでそれほどライフには響かないが、炎が当たった瞬間二人から悲鳴が上がる。二人とも明らかに動揺した様子できょろきょろと当たりを見たりパートナーに何かを話しかけたりしている。


【あの二人体質変異者だったのですか】

「正確には今なったばっかだ、動揺してるし。この戦いは特別だって采が言ってたろ。この戦いに使われてる光も演出も音も全部体質変異を加速させる信号が入ってるんだ」


 采は五十貝らの持ち物だが演出の命令系統を含めたシステムそのものを采は自由に使うことができるようだ。

 おそらく采はシステムを学習して自分なりにプログラムを構築してる。いわばプログラムのコピーをしているのだ。采が使っているのはオリジナルを真似ているだけなのでハッキングではない。だから五十貝たちは気づかないのだ、采が好き勝手動いていると。


【なるほど、合点が行きました。穹、少々人工知能寄りの脳波になりやすくなっていますので気を付けて】

「俺にはそういう形で影響あるのか」


目まぐるしく変わる状況と素早く戦略を練らなければならないので致し方ないと思っていたが、この演出たちがなおさら思考を偏らせてしまうとなると穹にとってはやっかいだ。


―――それについては……っと、こっちじゃないか―――


(思考の人工化はまあなんとかなるか。シーナもいるしな)


人工知能として考えるのではなく人として考える。人工知能として戦うな、人として戦うな、ユニゾンとして戦わなくては。

まだこちら側は一人しか攻撃していないのであと7人攻撃可能だ。時間がないならやることは一つ、全員考えは同じだろう。


【穹】

「一斉攻撃だ」


その声を聴いたというわけでもないだろうが穹が言い終わると同時にチームメンバーが一斉に攻撃を仕掛けた。動いていないのはコルクと舞風だ。


―――なんだ?―――


(待ってるのか、俺の動きを)


 2人は穹がユニゾンだと気付いているのだ。そして穹の動きに合わせて攻撃しようと待っている。リッヒテンに無茶苦茶な総当たり戦をしかけたところで着実に一つずつ対処されるに決まっている。ユニゾン、人工知能と合わせてどこまでリッヒテンに対処できるか。采は余計な小細工はしないはずだ、絶対にリアルなデータ収集として本気でぶつけ合わせるつもりだろう。他の4人の攻撃は最初にカウンターをいくつか発動させたおかげでかなり相手のライフを削っている。ライフがゼロになった者はいないが半分まで削れたものもいた。しかもダメージが痛みとして感じとられたようで相手も動揺が広がっている。


「んじゃ、やってみるか」


 今プレイヤーは穹だ。攻撃主体のスキルはシーナがもっており穹はバックアップのスキルが多かった。采が仕切っている大会ならこういう事態もあるだろうと攻撃スキルはいくつか持っていたが今最高の戦略で戦える状態とは言い難い。しかしそれもチーム戦であるならフォローがしあえるはずだ。その確信が一つだけある。

シーナにスキルを掲示して持っていたスキルを発動させる。他の4人が攻撃を仕掛け相手チームとの攻防を見ながらタイミングを計って一気に攻撃を仕掛けた。

 発動したのは攻撃力増加効果が付いた蹴り攻撃だ。殴る攻撃と違って連続攻撃ができない分一撃の威力が高いうえ、回避がしづらい。地味だが確実にライフを削る攻撃だ。今この状況なら相手チームにも痛みが直接伝わる体質に変異しているのでリッヒテン以外を狙って更なる動揺を招きたたみかけるのが一番良い手だろう。

穹がまっすぐ向かったのはライフが一番削れているプレイヤー、ではなく。


「とりあえずあいつムカツクから蹴る!」

【穹!?】


 叫びながら真っすぐ雪輪を持つプレイヤー、リッヒテンに向かった。シーナが焦った声を上げたのは無理もない、小細工なしに真正面からつっこんだのだ。しかもシーナには特に指示が出ていない。

 リッヒテン以外の誰かを攻撃すれば攻撃は通るはずだ。しかしそれは大した結果を残せないのは目に見えている。今リッヒテンは地味ながらもチームを援護する役割になっているのは観客からは明らかで、リッヒテンを攻撃することが盛り上がるポイントとなっているのは明らかだ。

 そしてバックアップに回っているリッヒテンは当然カウンター、特殊攻撃、アンチカウンターなどこちらの攻撃を邪魔しやすいスキルが多いのは目に見えている。それなら、時間がないこの状況ならもう直接攻撃したほうが試合は動く。コルクと舞風が穹に合わせてくれるのなら。


 穹が飛び出すと同時に一瞬リッヒテンが何かスキルを発動しようとしたようだが、自分に向かってきているとわかりスキルを変えたようだ。穹の目には一瞬だけ戦略図が見え、凄まじい速さで戦略が変わったのが見えたがあの空間ではないせいかはっきりとは捉えることはできなかった。どのみちリッヒテン相手では戦略図が見えようが見えまいが関係ない。

 穹が思い切り蹴りを放つとリッヒテンの前に防御の壁が現れる。それは電光掲示板のような見た目ではっきりと「防御」と書かれている。防ぎ切ったという表示がないので攻撃と防御が拮抗している、こちらの付属効果の影響だ。

 リッヒテンの背中から黒い霧のようなものが現れ触手のようにひも状になってうねり始める。手加減なしの本気のカウンターだ、アレに触れられたら死ぬくらいに思った方が良い。シーナが穹の右につきアンチカウンターを発動させようとする。


―――無理だな、リッヒテンのカウンターには―――


「シーナ、まだだ!」

【!? 了解!】


 その掛け声と同時にシーナはスキルをおさめ、穹の頭上にコルクが、穹の左に舞風が姿を現した。コルクがスキルを発動させるとコルクの後ろから大量の桜の花びらが溢れる。木枯らしのようにくるくると回転しながら舞ったかと思うと突然竜巻となり花びらがリッヒテンの黒い霧へと巻き付いていく。チームメイトの攻撃は全員共有できるので情報を見ると特殊効果にのみ発動するアンチカウンターだ。リッヒテンのカウンターを物理攻撃ではなく状態異常や一撃死などの特殊攻撃で来ると予測してセットしたという事になる。アンチカウンターの効果はカウンター攻撃を1ターン遅らせるというものだ。跳ね返したり無効化は非常に発動条件が厳しいのですぐには使いづらい。発動を遅らせる効果は比較的安定して発動できるし、その1ターンの間に確実に勝てる戦略があればかなり便利な効果だ。苦し紛れに使うのではなく確実に勝てると踏んだ時に使う戦略である。1ターンは穹達のターンが終われば終了、ではなく一往復を1ターンとみなす。つまり今穹達のターンが終わり、リッヒテンのターンになってもこの効果は続きまた次の穹達のターンとなったとき解放されるのだ。おそらく今回は時間的に間に合わない。実質ここで1ターン遅らせるのは無効と同じと言える。

 リッヒテンの使う防御の壁が一瞬光り、電光掲示板の形から雪輪の形へと変化した。文様を出したときは本気だ、ただの防御ではなく確実に潰すカウンターを仕掛けてくるはずだ。完全に攻撃対象を穹一人に絞っている。


【穹、アンチカウンターは】

「まだだ!」

【このままでは穹に攻撃が来ますよ!】

「受ける!」


そう叫ぶと雪輪の防御壁から今度は白い霧が現れ渦を巻いて巨大なナイフへと形を変える。見た目は派手だが穹の演算では。


「ライフ1割減の割合攻撃だ!だからこっちはライフ半分払って蹴りの威力を上げる!」


 わざとリッヒテンに聞こえるように叫んでシーナがもっている特殊効果スキルを発動する。相手のライフを3割減らしていると使える条件のスキルで、先に攻撃を仕掛けていたチームメイトの効果で発動条件を満たしていた。

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