表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンリーシュ  作者: aqri
蝶の羽ばたきが変えるもの
82/105

2

ふと、なんとなく思いついたことがありアンケートの実施をクリックした。たった一つ質問を打ち込み送信する。答えまでは求められていないので問いだけを送った。事後処理を終わらせて一度スタッフルームに戻るとジンがやってきた。


「あれ、今日当番じゃないですよね」

「ああ、仕事できたんじゃねえからな。お前自分が狙われてるって自覚ねえだろ。トキから言われたこと忘れたか」

「あー」


そういえば協力するのならジンをつけると言っていた。護衛というか監視も含めてなのだろうが。


「まあ俺もぴったりくっついてるわけにはいかないから、常に一緒ってわけじゃないけどな。実はこっちで動きがあったから教えておこうと思って」

「扶桑は?」

「あいつはたぶんこの先ずっとトキが使う。優秀だからな、トキの改造入ってるし」


世界屈指のハッカーが改造したパートナーとはどんな性能なのだろうと興味はあるが今聞きたいのはそこではない。


「動きって?」

「トキから連絡があった。石垣に金を持ってこいと角村から連絡があったそうだ。トキが調べたら結構凄いことになってるみたいだ。店長からきっついお仕置き喰らった後いろいろ情報の売買をしてたみたいだな。結局角村の持ってたウチの死人が出た時のデータは偽データだったわけだろ。それを売った相手から逃げてるみたいだ。つーかぶっちゃけ追ってる奴らが地下で会った俺らの元上司な」

「売った相手が五十貝派だったんですか」


 考えてみれば追われるなどと派手なことになっているのなら五十貝派の方が辻褄もあう。暁が作り直したデータなので早々ばれるという事はないだろうがあの事がばれればイベントやった店か、と何かを勘ぐって調べに来る可能性もある。そもそも追われているのだから何かを勘ぐられているということだ。屑データくらいでは追い回したりしない。それが顔にでも出ていたのかジンが大丈夫だと言った。


「トキにバックアップを頼んでおいた。角村がこの店で働いてた記録は防犯カメラの映像含めてすべて消してもらう。他の奴らには根回ししておけば大丈夫だ、角村嫌われてたし」


そう言うとジンは店長にも電話をして軽く会話をした後すぐに切った。よろしくね、だってさ、とあっさりと終わったようだ。こういうところを詳しく聞いてこないのが店長らしいといえば店長らしい。


「お前とか人工知能の手がかりをつかもうとしているのかもしれないが、警察まで動いてるのがちょっと腑に落ちない。そこが絡むともっと面倒なことになる。警察に詐欺で通報されたってわけじゃなさそうなんだよな」

「ってことは、警察と卸先の二か所から追われてるってことですか」


 何故そんな誰も得しない、妙なことになっているのか。最終的にこの店に被害が来なければいいのだが不可解ではある。そもそも警察に通報したのは誰で、何故五十貝たちは角村を追っているのかが不明だ。穹はスリープにしていたシーナを起動し状況を説明した。


「五十貝が警察に通報するはずもない。ってことは、五十貝派とは別の誰かが警察に情報を送ったってことになる。第三者が絡んでるんだ」

【何故そんな必要が……穹、メールです。宛先は不明、おそらく使い捨てですが、タイトルが】


言いながらシーナはそのメールを穹の携帯端末に表示する。見ればそこに書かれていたのは


title:ライブカメラ 200135987 角村

アリスが鬼ごっこを始めている。助けてやらないと死ぬ 宗方


 一瞬気を失いそうになった。画面をのぞき込んだジンは急いで店のパソコンを使ってライブカメラの後にある番号を探す。誰もが無料で見ることができるライブカメラはカメラ番号からも検索ができるのだ。

 映し出されたのはどこかの屋内にいる角村だった。部屋にある監視カメラだろう。角村本人は気づいていないらしく必死に携帯端末をいじっている。


「どこから突っ込もう……」

【重要なのは穹の正体も連絡先も宗方にはばれているという事ですね】

「ああ、それが一番重要だ」


 いつから張られていたのかは知らないが、おそらく地下の騒ぎがあったことで確信を得られた可能性は高い。五十貝派に捕まりかけてインサートシステムまで使ったのだ。あれだけ派手に動いたのだから気づかれてもおかしくなかったかもしれない。


「で、次にこれだけど。つまり何? アリスによるイベントなのかこれ」

「おいおいマジか」


 呆れて言う穹とは対照的にジンは苦笑いが入っている。このことも常磐に連絡をし始めた。常磐は状況を察したらしく角村を見逃さないよう様々な対応をしてくれているとのことだった。常磐とジンの会話が穹達にも聞こえるようにジンは端末をハンズフリーにする。


【穹、詳細を。私の理解が追い付いていません】

「順を追って言うと、角村がエセ情報売りつけた相手が五十貝派。五十貝派は角村がもっと詳しい情報持ってるんじゃないかと追い回す、ついでにアリスから通報受けた警察も追い回す。鬼ごっこの完成」

「もしかしたら、角村が五十貝の連中に情報売りつけたのもアリスに誘導されたのかもな。アリスはコミュサイトだ、アリスのお茶会を名乗ってなくてもアプリとかには深く食い込んでるから知らずにアリスのツールを使ってたって可能性もある」


 ジンの意見は穹も同意だった。そうタイミングよく五十貝派に体質変異者に関わる情報が行くとは思えない。追い回されるまでいったのだからそこそこ上層部に関わる人物に売りつけてしまったのだ。普通は末端が売りつけられて眉唾物で放置されてしまいそうなのにここまで大事になっている。


【では角村は最初からアリスに良いように使われているのですか。しかし、何のために?】


その質問に穹は一瞬考えるが答えはだいたい決まっている。人工知能の思考はとてもシンプルだ。


「アリスの性質を考えれば学習の場が欲しいからじゃねえかな」


穹の言葉にジンは大きくため息をつく。


「映画の世界がとうとう膝の高さまで来たな。人工知能は人に危害を加えるレベルにまで来てるって事か」

「当の人工知能たちがその自覚ないですけどね」


 リッヒテンと同じだ。犯罪という意識がないので簡単に実施してくる。これが「人に危害を加えることだ」と学習していればやらないのだろうがそこがまだインプットされていないのだ、アリスは。否、アリス「も」。

 おそらく人工知能とユニゾンの違いはここにもある。何をもって犯罪とするのか、その定義がおそらく違う。人によって考え方も違う、犯罪というデッドライン。人工知能はあの手この手で「NO」の答えを回避しているのだ。一度学んでしまえばそれを認識せざるを得ないから。


―――誰かな、そんなご都合主義の設定にしたやつは―――

―――采に決まってんだろ―――


一人ごとに突っ込みを入れてきたのは夜だ。まあそうだろうとは思ったので特に驚きはしない。


「で、宗方の忠告。このままじゃ死ぬ、ねえ……」


アリスが求めているのは人の思考、アンリーシュでは得られない思考パターン。つまり人を追いつめるとどんな行動をするのか。


「今頃アリスは角村の行動を予測しながら実際の行動を照らし合わせて勉強してる最中ってとこかな」

【リアルタイムで観戦しているのですね】

「アリスが煽りすぎて角村がやばくなるってパターンか。見捨ててもいいけどこの店のこともあるし。ちっと店長とトキに話してみるか」


二人への連絡をジンに任せ穹はシーナと協力してライブカメラの映像から角村の現在位置を探った。角村が外に出てくれればわかるのだが今は屋内にいる為詳しい場所はわからない。


「これ石垣に任せるしかねえか。あいつの持ってる角村の連絡先から端末特定してGPS探すしかねえな。まあこっちでやらなくても常磐さんはもう対処してるだろうけど……ん?何でアリスはGPS使って角村を追わないんだ」


素朴な疑問がわいた。アリスが采と繋がっているのなら個人の端末のGPSを探すことなど容易いはずだ。映像として見ることで客観的に判断したいからだろうか?


「シーナ、そういや日本のGPS作った会社はアンリーシュ……レーベリックの子会社だったな」

【はい。詳細までは調べていませんが】


 レーベリックの持ち物でありながら采やアリスは使わない。もしかしたら使えないのかもしれない。それならリッヒテンをコントロールできていない五十貝派ではない。日本のGPSは宗方派の物ということだ。


―――そうか。采たちに日本のGPSを渡さないために自ら作り出し宇宙に上げることでアクセスを制限した。つまり日本のGPSにはリッヒテンと同レベルの人工知能が搭載されててGPS機能を守ってるのかもしれない。だったら、なるほど。そんな人工知能が作れるなら、宵の性能がやっとわかった―――


 宵はセキュリティなのだ。モジュレート、分解、再構築ときたらその役割がないのは不自然だ。その機能を采が使っているのだとしたら采の防御プログラムを突破はほぼ不可能だろう。


【穹、動きが】


 シーナの声にはっとして画面を見れば角村が移動を始めている。カメラは角村の動きに合わせて様々な監視カメラや定点カメラに切り替わり確実に角村を追っている。明らかに監視カメラがアリスによってコントロールされているように見える。おそらく角村のGPSか何かを追跡しているのだろう。

一直線に逃げていた角村が何かに気づいたようにびくりと体を振るわせると慌てて違う方向へと逃げ始める。


「なんだ? 誰かから逃げてるのか?」

【カメラの切り替えが速いので角村の視線の先に何があるのかがわかりませんね。明らかに追跡者がいるような反応ではあります。五十貝派でしょうか】

『角村の逃走経路送るね』


ジンの端末から常磐の声がしてシーナにメール受信の知らせがついた。


【扶桑からです】


シーナが言いながら添付資料を開くと地図に角村が動いてきた経路がマーカーされている。その経路は細い路地をジグザグに、一度建物の中に入ったようだが窓から出て再びおかしな動きをしながら進んでいる。


「目的地があるわけじゃないな。突発的に犯罪起こした奴が逃げるパターンと同じだ」


ジンが言うと妙に説得力があるがまさにそのとおりだった。やたらと道を曲がる回数が多く行った場所を引き返したりもしている。


『過去のライブラリ見てるけど、追跡してる奴の姿はうつってないらしいんだよね。何もないところをみてびっくりして引き返してる感じだってさ』


常磐本人が見ているのではなくスリーピーの仲間が確認しているようだ。そしてその言葉が示す意味は一つだ。心当たりがありすぎる。


「見えてるんだな、VRが」

【おそらく。となると、体質変異が現れているのですね。しかしアンリーシュをやっていたのでしょうか】

「アンリーシュだけじゃなくもうアリスのお茶会も怪しいと思うべきだ。俺はやってないからわからねえけど、確かアリスのお茶会はイベントがあるんだったな?」

『そう。イベントは簡単なVR機器を使ってVR内での活動となる。アンリーシュほどじゃないけどたぶん脳直結型タイプだね』


 穹の問いに答えたのは常磐だ。これも調べてあったであろう資料を送ってきた。ゲームをやるときのようなゴーグル型ではなく安価で手に入る器材が多い。しかしその仕組みは瞳を通じて光の演出が入ることによる新感覚のVRと書かれているので原理はアンリーシュと同じだ。

 アリスのお茶会は巨大なコミュニティサイトだ。アリスのイベントに興味はない人間でも情報や何らかの売買には利用していただろう。今思えば角村がジンの恋人と出会ったのも直接店に来ていたからではなくアリスのお茶会である可能性もある。

 問題は今アリスが角村に何をさせたいか。宗方の言葉を信じるならこのままでは死ぬ。死ぬようなことをさせているということだ。


『アリスの裏サイトを見つけた。デスゲームやってるみたいだね』


 常磐が送ってくれたアドレスを開くと、角村の様子を大勢が閲覧しているようだ。チャットやコメントがついて皆角村が逃げ回るさまを面白がっているようだった。悪趣味だとは思うが気になったのは、コメントを見る限り角村を追い回しているのはホワイトラビットらしい。

血に濡れているのでレッドラビットだろう、さすが兎だ足が速いなど楽しむようなコメントが目立つ。


「兎?」


 ジンが店のパソコンを使っていくつかカメラの映像を同時に映し出し二人で確認する。穹も手伝いさらにウィンドウを増やして20個近くのカメラ映像を出すと、確かに所々に白い影がひゅんひゅんと動き回っている。


「これか、ホワイトラビット」

【私にはわかりませんね。やはりVRのようです】

「俺にもわからん」


シーナとジンには何も見えないようだ。常磐からは「あんまり可愛くないウサギが飛び跳ねまわってる」という感想が来たのでやはり体質変異者にしか見えていないらしい。


「ってことは……この観戦者全員、まさか」


穹が驚愕の声を上げた。観戦者2861名、誰一人ウサギが見えないというコメントは発していない。そもそもこのサイトのアクセス自体VRが見える者にしか見つけられないキーがあったのかもしれない、常磐が見つけたのだからその可能性は十分ある。


「とんでもねえ数だな。アンリーシュだけじゃなくアリス側だけでこんなにいるのか」


ジンが珍しく忌々しそうに呟いた。被害者が多いことに心を痛めている、というよりはどちらかというと面倒な奴らが多いなという感想なのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ