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アンリーシュ  作者: aqri
地下の戦い
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79/105

15

本来は人工知能の分解ではなく采、プロトコル、初期型達が全員繋がっていたころに不要となったデータやプログラムを完全に消す役割だったのだろうと思う。データはデリートしても復元が可能だ。間違った情報を学習させないように人が不要物を選別して夜が分解、暁が作り直して穹が調整する。そういう役割だったなら個々の性能に辻褄があう。


「要は、アイツらは夜ってユニゾンを手に入れたいってことか?」

「そうです。人工知能を処理したい五十貝派が人工知能を飼いならすような真似をしているのは夜をおびき出したいからです。エサなんですよ、初期型達は。夜を手に入れればまとめて処理もできますし。だからリッヒテン、探査型人工知能を使って夜を探しているんでしょう。逆に宗方派は人工知能を取り戻したいので俺や暁を手に入れたい。それがごちゃ混ぜになってたからわかりにくかったんですけどね」


 正直フィッシャーとキャプチャーに分けなかったらわからなかった。派手な動きをしているわりに何がしたいのかよくわからない動きが多かったが、派手な行動は夜を罠に誘い出すための演出でもあった。人工知能を本腰入れて探しているとアピールすれば夜がフィッシャー達の動きを観察するはずだと踏んでいたのだろう。


「まあ説得力はあるけど、それ本当に合ってる?」


常磐が素朴な疑問を口にするが穹はもちろん、と相槌を打った。


「夜本人からの情報提供ですから」


その言葉にその場にいる全員がガクリとうなだれる。シーナはふわふわ飛んでいたが矢に落とされた鳥のようにポトっとその場に落ちた。


「良いリアクションするようになったなお前」

【ターゲットにばれすぎじゃないですか】

「どんだけ夜が馬鹿だと思ってんだって話な。ユニゾンが半分人間だって忘れてるんじゃないか。まあ夜はいいんだ、それは夜が気張ればいい話で俺には関係ない」


―――酷くねえか―――


くすくす笑う声が頭の中に聞こえたが無視だ。どうせ聞いていると思っていた。


「問題はリッヒテンの方。五十貝派は初期型人工知能と采の中間くらいの性能の人工知能を作り出した。初期型達を上回る性能がないと捕まえられないから。でもリッヒテンはとっくに采の管理にあると言っていい。五十貝派は気づいてないでしょうけど」


その言葉に常磐がきょとんとした顔になりジンをちらりと見る。するとジンは黙って首を振った。


【あれ冗談で言ってるの? というのをアイコンタクトして残念ながら本気だ、というリアクションをしたという事であっていますか】

【あっているぞ。声に出さずに意思疎通ができるのは俺たちからすれば不思議な光景だな】


 シーナと扶桑の会話を聞いた穹は苦笑する。長年二人と一緒にいる扶桑ならまだしもシーナに状況を冷静に言われると不思議な気分だ。この短時間で常磐とジンの相性や性格をよくとらえていると思う。いや、捉えすぎだ。持ち主の性格を分析するのに1年かけて学習をするというのにたった数時間で答えを出せるようになったという事になる。


「君はさらっと凄い事言うんだもんなあ。つまり五十貝派はやろうとしてることが筒抜けで後手になってる上人工知能に上手い事使われてるのに気づいてもいないってこと。なにこれ、もう勢力図から外れていいんじゃないか」

「裏を返せば、警戒しなきゃいかんのは宗方派ってことだろ」


 ジンの一言に穹も頷いた。鈴城が宗方派なので大したことないようなイメージになってしまうが、行動が目立たず裏で動くことに長けている宗方派はどんなことを考えて何をしようとしているのか全く情報がない。


「俺も何回か探ってみたけど宗方派の動きは全然つかめなかったし、最悪の場合五十貝派の現状を正確に把握していて放置してる可能性もあります。そのうえで初期型や俺らを横取りするくらいは考えてるかもしれないですし。ジンさんと常磐さんは宗方派とは?」

「かかわったことないな。なかなか尻尾がつかめなかったってのもある」

「彼らは慎重だし隠すのもごまかすのも上手い。会社の実態がわからないよう運営しているのは宗方派なんだよ」


 厄介な相手だ。今まで動きが派手な五十貝派ばかりに目が行っていたが宗方派も視野に入れておかないといけない。レーベリックに所属していたジンたちでさえ接触できなかったのなら相当手ごわいのかもしれない。つまり宗方派から警戒されていたのだろう、ジンと常磐は。尻尾を掴まれないように上手く立ち回っていたのだ。


「後は一か月後のイベント、これはもう予想ですけど五十貝派がやろうとしていることはたぶん大したことないです。初期型か夜を捕まえる有効手段が考えられたんでしょうね」

【大した事ないのですか】

「夜が余裕そうだからほっとく。たぶん俺を使う事でなんとかなるんだろう。もし他の人工知能たちが本当に一斉に見つかれば俺や夜は一気に自分の性能を使えるからな。対策はちゃんと考えるけどそっちは置いといて采たちの方だ。采は間違いなくプロトコルを欲しがるはずだ、それも自分の支配下に改造したうえでそうなると必要なのは暁だ。采は俺ら一個体の性能を全部知ってるはずだから」


 沙綾型のプログラムを変えて穹の欠けた性能を補うよう調整した暁も穹や夜と同じようにコードそのものを変える性能だ。システムを簡単に変えていたら本末転倒なので暁の場合はデータを変えたり一部の仕様変更留まりの性能だったのかもしれないが、これも人の管理を外れてそのあたりは制限がなくなっているのかもしれない。


【つまり、話をまとめると一か月後のイベントで五十貝派はすべての事に決着をつけるだけの作戦がある。彼らの到達点は夜を確保することで初期型やユニゾン、采の分解。ただしその作戦は采と宗方派には筒抜けで彼らの思惑も同時に動いている、ということですか】

「そういうことだな」

【穹】

「なんだ?」

【割と絶望的状況に思えるのですが】

「奇遇だな、俺もだ。つっててもしゃーないからこっちの対策な。まずインサートシステムに入ってたのはリジョインダーの情報だ」


 入っていたデータは過去のユニゾンに関する基礎データだったが、その中にリジョイという名の何かがあったという。はっきりと何なのかまではわからなかったが質疑応答のサンプルデータが多かった。


「あれだけ見るなら人工知能かプログラムを作るときに構築された学習機能の基礎ベースか何かに見えるけどわからない。なんかこう、はっきりした答えが見えないっつーかミスリードがやたら多い気がして」


そういうとジンと常磐が「ああ」と納得したようなリアクションをした。不思議に思っているとジンがケラケラと軽快に笑う。


「暁はなんて言ってたっけ? 穹君?」


 何を言われているのかと怪訝に思ったが思い至った。あえて答えを言わず考えさせるような、ミスリードをさせる言い方をよくしていた。つまり日ごろからそういう考えをしていたということで、つまりそれは。


「あー」

【一人だけで納得しないでください、説明を求めます】

【同じく、だな。どういう結論になったのだ】


 シーナと扶桑が不満そうに声を上げる。確かに今の条件だけでは人工知能値たちには推測ができないだろう。なんだか拗ねているかのようなリアクションに口元だけ笑いながらシーナを抱え上げた。


「答えを言う前に。シーナと扶桑の答えがききたい。どう思った?」

【私たちですか。そうですね、情報が少ないので本当に推測ですが。あの場所がユニゾン研究に使われていたとなると、実は5人目のユニゾンがいてリジョインダーという名だったのでしょうか】

【同じ結論だ。むしろそのリジョインダーというのがユニゾンのオリジナルになったと思ったが】

「ほほう、やっぱそういう結論になるんだな。本当、昔の俺は性格わりいのな」


 穹の反応を不思議に思いながらシーナは穹の答えを待つ。おそらく今シーナたちが導き出した答えは穹達の答えと違う、そして予想通りの答えだったのだ。何故そこで穹達は違う結論になったのかとても知りたい。


「俺の答えはリジョインダーはユニゾンでも人工知能でもないって結論だ」

【何故か、とリジョインダーとはいったい何なのかを聞いてもいいですか】

「なんなのかまではわからんが。さっきのリジョイの情報だけをもってすれば人工知能は間違いなくその結論に至る。というよりそれを狙った情報の残し方してるっぽいしな。情報ってのは必ず起承転結、時系列で経緯と結果必ずあるもんだ。でもさっきのは情報としては虫食い状態で足りない部分が多い。隠語使ってるわけでもないのに肝心な部分がほとんど何もないんだから。足りない情報だけで推察するとどうなるか」

【ああ、桃太郎が核戦争を行うのだな】


黙って聞いていた扶桑が納得したように言った。ジンが軽く笑いながらうなずく。


「足りない情報から自分の知らないことを推察するのは難しい。じゃあどうするかっていうと過去の経験と知識から最も可能性が高い答えを導き出すしかない。それは人間も人工知能も同じだが、決定的な違いは人はつじつま合わせをする、人工知能は導き出した答えをそのまま回答するってところだな」


 何故つじつま合わせが行われるのか。一般的な教育を受けていればネタとしか思えない事、トリッキーなことはありえないと笑ったり突っ込みをいれたりするものだ。それは人には学校、義務教育という共通の標準化された教育レベルがあるからである。家庭の違いなどで多少の「常識」の差はあれど昔話に核爆弾が登場すれば絶対に「おかしい」という考えが生まれるはずだ。しかし人工知能はそれがない。

 最初から答えが決まっている問題に対しては答えを出すのは簡単だ。間違ってもどこで間違ったのか振り返ることができる。しかし答えがわからない、選択肢ではない場合は「あっているかどうか」が争点であり「自然か不自然か」は重要ではない、というより論ずるべきことですらない。そもそも人工知能は人ではないのだから人の考える自然不自然を備えていない。それを今後備えることが最大の課題で、今は学習途中なのだから。


「さてさて、リジョイの存在はミスリードなのか実はビッグバン的なとんでもないものなのか。まあ面白そうだから結論は出さないでおこうかな」

【出さないのですか】

「人と人工知能で答えが違う以上は水掛け論だ。人からすればお前たちの答えはトンデモ回答だけど、それは人の常識とか感情とか入った結論付けだろ。可能性としてはあり得るんだからここであーだこーだいってもしゃーない」


 もし仮に、本当にリジョイがユニゾンや人工知能だったとしたらレーベリックが放っておくことはありえない。そうなると取るに足らない存在か、とっくに存在しないかのどちらかだ。過去の記憶を照らし合わせてみても別のユニゾンがいるとは思えないが、どうだろうか。穹がアクセスをしたらお帰りリジョイ、と表示された。


(絶対何かの皮肉だと思うんだよなあ)


それも自分に対しての。それはともかく、早くあそこをレーベリックが見つけてくれるといいのだが。


「あそこまで大掛かりな仕掛けをしておいて得たのはリジョイだけ?」

「まさか。一応切り札は手に入れましたよ。使い方わからないですけど」

「意味ねえじゃん。いや、お前がもってるってことに意味があるのかな」


本当に常磐とジンは話が速くて助かるなと心底思う。不思議そうにしているシーナと扶桑には一応説明をした。


「あれにアクセスしたらいくつか質問があったんだよな。それに答えたら正解したみたいで景品をもらえた。答えた種類によってもらえる景品が違ったみたいだ。一等賞だと思うんだけど使い方がわからん」

【何を手に入れたのだ】

「ユニゾン専用装備ってところか。システム使ってる時はあーなるほどって思ったけど、脳で考えてる今の状態じゃ上手く説明できない。けど、使い方がわからないとなると今の俺じゃだめか、そもそも一人じゃ使えないかだ。でも手に入れることはできたんだから持ってること自体は意味があるんだろう」


 間違いなく切り札の一つだ。では何に対しての切り札なのか、それがはっきりしない。今穹の立場で言えば敵は多いが、根本は采に連れ戻されないことだ。レーベリックは所詮采の駒に過ぎない。宗方派も立場は違えど似たような物だろう。となると采に対する切り札と考えていい。穹はユニゾンである以上采の管理が存在理由そのものだ。となれば、本来の状態ではない采をどうにかするための策を考えていたはずだ。

 ゴミ捨て場で手に入れたもの、インサートシステムで手に入れた物。心もとないが今穹がもっているカードはこの二つだけだ。あとはシーナとジンや常磐などのわずかな協力者、協力者ですらないが他に存在するユニゾンたちが今持てる穹のすべての手札となる。


「後は一番伝えたかった事。夜の目的が……」

「あ、ちょっとまった。それは僕はいいよ」


常磐に止められて穹は驚いて常磐を見た。


「たぶんユニゾンの目的や手段は僕には直接関連はないと思うんだけど、どう?」

「まあ確かにそうですけど。知っておいて損はないと思うんですけどね」

「やめといたほうがいい。僕の体質考えればいつ他の人工知能に乗っ取られそうになるかわからない。核心に迫る情報は聞かない方が良い、余計な情報を向こうに伝えることになる。さっきのリジョインダーの情報は面白そうだからいいけど」


 確かに霞は乗っ取った人物の記憶を共有したがために自滅した。霞は人工知能としての枠を超えつつあったのでそこまでできたのは霞だからだろうとは思うが、もし人工知能すべてそれが出来たら確かにやっかいだ。


「その重要情報はユニゾンの心臓部となるんだろう、それは君のパートナーだけの教えておくといい。ちょっと情報の整理もしたいし地下の後処理もあるから、今日は一度解散しよう。3日以内には必ず連絡を取り合う事でいいかな?」

「そうですね、今はそれが最善なら」


忘れかけていたがレーベリックも本格的にユニゾン探しを行動に移している。穹の個人情報がばれたとは思えないしそこは常磐たちが何とかするだろうがやはり人手と時間は必要だ。

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