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アンリーシュ  作者: aqri
地下の戦い
77/105

13

 そもそも派閥がある時点で足の引っ張り合いなど日常茶飯事のはずだ。多少過激な内容が多くとも何とかなる範囲の事しかしてこなかったはずだ、目に見える範囲では。例えどんな理由であっても人工知能に人への危害をプログラムしてしまえば制御は困難だ。


「レーベリックの奴らに気づかれない程度にやってることなんだろう。リッヒテンはレーベリックの作ったプログラム通り初期型や俺らを探してるんだとしても納品先は采になってるんだ。そしてそのことにレーベリックは気づいてない可能性が高い。気づいてたらリッヒテンを使ってないしもっと大騒ぎになってるだろうからな。文字通り、人間が人工知能を管理できてない時代がとっくに来てたってわけだ」

【穹】


何でもないことのように話したつもりだったがジンも常磐も真剣な顔をしている。名を呼ばれてシーナを見れば瞳の色が心配している時に灯る色をしている。


【酷い顔をしていますよ】

「どんな?」

【過去のデータにありませんので例えるのが難しいですが。強いて言うならおそらく“ししょう”でしょうか】

「なんだそれ、どういう字だ」

【あざけ笑う意味の嗤うと普通の意味での笑うで“嗤笑”です。相手を馬鹿にするように笑うのは穹がよくやる手法ですけど今までで一番酷い顔をしています】

「そりゃそんな顔にもなるわ。まあそれはともかくだ、たぶん夜と宵はこの結論に至ってたんだろう。夜からは釘もさされてたしな」


 リッヒテンに見つかったら終わりだと思え、とはこういう事だったのだろう。同じユニゾンである暁は今気づき夜と宵は気づいていたとなると人工知能として考えれば答えに到達していたという事だ。答えそのものを教えなかったのは役割分担が明確だっただけだ。これで二人がそれを穹や暁に話していれば全員が同じ結論となりせっかく人に重点を置いた考え方である穹と暁の考えが台無しになってしまう。


―――それぞれの特性の者に過干渉しないっていうルールでも設定されてるのかもな―――


 これには苦笑するしかない。結局夜も宵も自分の役割を果たしているに過ぎない。夜が穹に対してのらりくらりだったのもそれが理由だったのかもしれない。

同じ人工知能寄りの考えである夜と宵の見解が違うのが面白いところだ。夜と宵の持っている性能と特性が違うのならそれぞれ選んだ道が一番合理的だったのだろう。


「まあこれに関しては今更あーだこーだ言ってもしょうがない、もうとっくに起きてる事態だ。それより俺らの今後の方向性について話したい。その前に暁」


名を呼ばれ暁は穹の方を向いた。暁と協力関係になれない以上計画の詳細をここで話すことはできない。リンクでばれることがあるにしても100%すべて伝わってしまうわけではないはずだ。


「お前はここで何を探したいんだ」

【ここのマスターが残したものだなあ。地下の電力消費量とデータリンクの痕跡探してた時ちょっとおかしい場所があって気になってたんだよね。そこに行ってもわかんなかったから遠隔操作ならここかなあと思ったんだけど】


言いながら暁の頭部にあるレンズ部分から映像が照射される。VRではなくMRだ。それは3Dで描かれる巨大な地図だった。


「これは……地下の地図か」


 感心したように常磐がその地図を眺める。常磐の反応からしてこの地下の完璧な地図は彼らも持っていないようだ。地下に通じる場所は大量にあるうえ分かりにくい。それを暁は完全に把握しているようだ。


【ここが今僕らのいる場所ね。で、ここがちょっと気になってる場所。電力が少し集中してる】


暁の解説に合わせて映像が光ったり説明を補助するように動いたりしている。電力の使用量が大きいほど黄色い光が集中しており、人が住んでいる場所ほど黄色い光が多い。そんな中で暁が示した場所は人が住んでいないようでやや開けた場所になっている。というより、その場所は。


【……穹】

「わかってる」


シーナが遠慮がちに声をかけてきたのも無理はない。そこは行った事があるからだ。


「人がいないのなら地下施設維持のための何かかな。何を使っているとその電気量になる?」


 自分の端末で調べながら問いかける常磐に暁が別の映像を照射する。映し出されたのは地下に存在する設備一覧とその必要電気量、人が使う家電の電気量一覧まで揃っていた。


【地下空間を維持するための設備はもっと電気量が膨大だ。この量は何かが待機モードになって省電力化している場合に見られるパターンに似てる】

「そこに何かあるって事か。行ったんだろ、何があったんだ」


ジンの問いに暁が答えようと身を乗り出しかけたが、ふと黙り込んでいる穹が気になったのか穹の方に向き直った。


【どうかした?】

「鈴城が使ってた施設はどのくらいの電気量だ」

【あそこは施設全部を使ってたわけじゃないから日によって差があるけど】


 言いながら示した電気量は穹が一か月にかかる電気量とそう変わらない。あれだけの設備を動かしていればもっとあがるはずなので、鈴城はほとんどコンソールくらいしか使っていなかったのだろう。


【何か気になった?】

「いや。地下自体成り立ちが胡散臭い場所だからもう一か所くらいはサブ施設があったりするのかなって思っただけ。でもこれじゃ電気量少なすぎて当てはまらないか」

「これくらいの量なら店にあるような大型ゲーム機一機分だ」


 ぽつりとジンがつぶやいた。言われて穹も一か月にかかっている店の電気代から稼働しているゲーム機の台数で頭割りをする。管理する側のコンソールや店内の照明などの電気代など微々たるものだ、ほぼゲーム機が電気代を占めている。休日などはすべてのゲーム機がフル稼働し、一日の電気代は常にチェックされているので計算は簡単にできる。


「確かに計算するとそれくらいですね」

【君らは脳だけでそこまで可能性見出して計算できるんだからすごいよまったく。合ってるよ、そこに在るのは廃棄されてる機材の山だ。その中に最初の頃の脳直結システムがある】


 言いながら電気量の映像を消して違う映像を映し出した。それは資料でしか見たことがないような初期に開発された脳直結システムの機材が転がっている写真だ。おそらく暁がその場所で撮ってきた実際の風景だろう。周囲には他にも粗大ごみのような物が散乱している。


【使おうとしたけど使えなかった。でも電源が入ってるみたいだし、今も何かの役割はあるのかなって。で、調べたんだけどこの辺りってこの店の店主さんがたまーに来てたみたいなんだよね、監視カメラ映像に残ってる】


―――ああ、だからあんなところで最後を迎えたのか―――


「穹、どうした」


穹の微妙な心境の変化を見て取ったのかジンが問いかけてくる。シーナが穹の替わりにこたえようとしたようだが手で制した。


「その場所はあの人が亡くなった場所に近い」

「知ってたんだ」


 常磐が静かに言う。ということは常磐も香月の死因など詳細は把握していたのだろう。初めて会った時はそれを言うつもりはなかったようだが。あの時はお互いが腹の探り合いだったのだから仕方ない。


「つまりあの時あの人はそこに行って何かをしようとしていたか、何かをした後だったか。暁、電力が使われ始めたのは?」

【店主さんが亡くなった後。何かした後、ってことになるかな。あそこにあるのはあくまで端末であって大元はこっちっぽいんだ】


 そうはいっても香月が使っていたパソコンはデータがすべて消えている。暁が電力をチェックしたなら地下や天井裏に秘密のパソコンがあって起動していればわかるはずだ。それがないのなら香月が使っていたパソコンはここにある一台だけだとみていい。そうなると本当にすべて消えた可能性はあるが今暁がいるならデータ復元はできる可能性はある。


「二手に分かれようか。穹君とジン、僕と暁君でチーム分けして対応しよう。あと今更だけど、君は普通の人工知能じゃないんだよね?」


常磐が暁を見つめながら言うと暁は大きく頷いた。


【穹と同じ】

「ま、そうだよね。じゃなきゃ変だ。それにしてもいるんだかいないんだかわからなかった存在が一気に二人もいると変な気分だな」


 そういえばジンは霞との対戦に割って入るために暁と話をしたが、常磐には状況を説明していなかったなと今更気づく。とはいっても暁が普通の人間のように掛け合いをして、今までの会話の内容からあの空間を作ったのが暁だという時点でユニゾンか初期型人工知能だとは思っていただろうが。


「そういや常磐さんは話の仕方がちょっと宵と似てるな」


穹がなんとなくそう言うと暁がペしぺしと穹の足を叩いてくる。まったく痛くないが雰囲気からすると相当嫌がっているようだ。


【一緒にしないでよ。確かにしゃべり方は似てるよ、ちょっとだけ。でも全然違うから。常磐は壊れてる系、宵はイカレてる系だよ】

「同じじゃね?」

【どこが。壊れてる人は考えが極端だからわかりやすいけどイカレてる系は捻じれてややこしいことにしかならないから気持ち悪いだろ】


ふん、と腕を組んでそっぽを向く暁に常磐が目を丸くしてジンが拍手をする。


「初めて褒められた」

【いや褒めてない。むしろ貶されたとは思わないわけ】

「会ったばっかりでここまで的確にトキを表現できた奴初めてみた。お前スゲーな」

【あんなの見せられたらこういう結論にしかならないじゃないか。で、どっちが向こうに行く?】


常磐とジンにそれぞれつっこみを入れてから改めて地図を表示する。店からあの場所は遠くない。


「俺があっち、暁はここだろどう考えても」

【ま、そうだよね】


 穹は直接その場所に行っていないし機材も見ていない。ここでパソコンデータを復帰するなら再構築できる暁の能力が必要だ。それでなくても穹はまだ人工知能としての性能が不十分なのだ。ここに残ってもできることはない。それにこの場所に何らかの装置があるとなるとレーベリック関連で使われていた可能性もある。当時施設にいた穹なら初期の脳直結システムに何らかの適応があるかもしれない。

 それにユニゾンが近くにいすぎて良いことはない。暁が調整してくれたとはいえ完全ではないと言っていたしそろそろ距離的にも離れるべきだ。


「んじゃちょっと行ってくる。連絡は端末な」

【わかったよ。まあ完全に協力することはできないし必要な情報手に入れたら僕は移動するから】


軽く片手をあげてジンとともに店を出る。来る時同様人の姿はほとんどなくぽつぽつと移動する人がいるくらいだ。店の類はあまり開いていない。


「何かあったんですかね」

「また死人が出たらしいな。こんな場所だからニュースにはならない。相当ひどい死に方したらしく殺人事件として警察がまた出張って来たんだ。トキが調べた感じじゃ体質者だったみたいだ」

「そんなことまでわかるんですかあの人」


 さすがに地下で起きたことを詳しく調べるとなると聞き込みか警察へのハッキングしかない。しかし警察へのハッキングはリスクが大きすぎる。日本の警察だけでなくFBIまで出てきかねないのだ。過去痛い目を見ている身としては驚きを隠せなかった。


「お前もスリーピーってハッカー知ってるだろ」

「え、まさか」

「それトキ」

「マジですかい」


 その名を聞いて穹の顔が引きつりそうになる。スリーピーは日本で、というよりも世界で有名なハッカーである。有名なので偽物も多く、それがかえってスリーピーを捕まえられない材料となっているくらいだ。眉唾物の噂や逸話が多い人物だがハッカーの間で有名になったいくつかのエピソードはある。政治討論番組をハッキングしておかしな演出を勝手にやったり、何かのイベント時巨大モニターに全く関係ない映像と音声を流したりと話題になりやすい行為が中心で、基本的に愉快犯とされており悪質なクラッキング行為をするわけではない。

 それでもハッカーたちが一目置くのは犯罪に関しては時折検挙の手助けになるようなことをするのだ。別のハッカーが犯罪を起こそうとしたとき何度も止めてきた。起きていたら大惨事になっているようなこともあったのだ。今や拳銃一つもオンラインに繋がる時代である。テロリストの計画をすべてハッキングしてFBIに届け、テロリストたちがもっていた武器すべてハッキングをしてロックをかけテロを未然に防いだという功績が一番有名だ。あれだけの事を一人でやるには無理があるのではないかと思っていたが、常磐だと思えば納得がいくことがある。


「そっか、スリーピーって常磐さんだけじゃなくて」

「優秀な奴誘って活動してるチームだな。人集め上手いからあいつ」


 おそらくスリーピーとしての活動はレーベリックとしての活動なのだ。いくら優秀でも一個人がやるには無理がある。愉快犯的な活動は何かをするときの目くらましか、その後の効果によりレーベリックが何か得をすることがあるのだろう。石垣が慕うはずだ、彼のやりたいことが体現されているのだから。


「今回死んだ奴は特に重要なことに絡んでたわけじゃなく普通に体質変化しただけだ、たぶん。思ったよりも体質変化していってる奴らのペースが速い」

「それって今回でかいイベントがあることと関係ありますか」

「たぶんな。末端である俺たちにはイベントの目的も一切知らされてない。アンリーシュでのイベントなら体質変異者が関わるのは間違いない」

「その話はあとで常磐さんがいる場所で話しましょうか。なんとなくですけど、五十貝派のやりたいことが分かったと思うので」


 なんとなくそう言ったのだが、穹の言葉にシーナとジンがぴたりと動きを止める。不思議に思って振り返るとジンは苦笑い、シーナは一瞬止まった後に体当たりをしてきた。さすが高性能になっただけある勢いが腹に激突する。


「割と本気で痛いんだけど」

【痛くしています。何故そんな大切な事をさっき言わなかったのですか】


 ボスボスと体当たりをやめないシーナを両手で挟み込んで止めると尻尾で反撃をしてくる。今までになかったがこれはたぶん呆れるのを通り越して普通に怒っている。シーナに注意されることはあっても怒られることはなかったなと、そんなことを考えてしまう。


「さっき言っただろ、順番が違うんだよ。目的は今言おうが後で言おうが言わなきゃいけないことだし対策は同じだ。でも暁の探し物は時間制限がある可能性がある。もしあの人が残したものがそれなりに重要で采なりレーベリックに嗅ぎつけられたら持ってかれるか壊されるかもしれないんだからな」

「まあそうだとしても。お前は重要な事を今日の夕飯何食べようかなくらいなノリで言うんだもんなあ」

「俺にとってそんなに重要なことじゃないですから。あいつらが考えることなんてくだらないかろくでもないかつまらない事ですし」

「あー、なるほどな。そりゃ確かに言えてる」


 そんな軽口を叩きながら自然と二人とも駆け足になってきている。悠長にしていていい事ではないしレーベリックの者たちもまだ地下にいるはずだ。彼らに先を越されないことも重要となる。人通りが少ないとはいえ若者が駆け抜けていけば目立つし、穹はシーナを連れてきているのでシーナは目立つ。あまり目撃者を作りたくないので建物の中を通ったり入り組んだ路地を使って目立たないように目的地へと急いだ。

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