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いくつか仮説は立てられるが今はそれを実証できない。確かなことは、過去の自分は必ず同じ答えに到達すると考えてあちこちにその材料を散りばめているという事だ。第二クラッシュによる影響でたまたま記憶をなくしたのではなくそうする必要性があってあえて不便な状態にしている。
―――利便性じゃなく不便さを優先させた。これに関して答えは簡単だ。要は不便にすることで自ら考え成長させたかったから。ってことは、昔の俺は何らかの不具合があった……ユニゾンとして不完全だったのか。人として産まれ直して不完全なら人としての部分がうまく成長しなかった。ほとんど人工知能寄りだったのか、当時の俺は。確かにそれじゃだめだ、人寄りの考えが暁だけになってバランスが悪くなる。記憶を消すことでリセットしようとしたんだ―――
自分がユニゾンであることを忘れ人として生きてきた。ある日突然人工知能として目覚めれば確かに戸惑いながらもどういうことなのか考えて行動するだろう。しかしそれは大きな賭けだ。穹がまともな人間に育つかどうかは人工知能が発達していたとしても予測などできない。何が起きるかなどわからないのだから。
だからこそ、そう。
(シーナが一緒にいたんだな。俺がシーナを学習させることで俺自身も学習してきた、人として。俺たちは二人で一緒に育ってきたんだ)
霞の映像で見えた望を助けようとしていた情報体は、あれはボディを持っていなかったシーナそのものだ。金髪でワンピース姿を維持できなくなるほどボロボロの状態だったがなおも助けようと必死だった。望が死んで香月から離れなくてはならなくなった時初めてあのボディを手に入れた。誰が作ったのか……香月かもしれないし当時の穹かもしれない。
これからは貴方のパートナーだと言っていた。望のパートナーだったのが穹のパートナーになったわけではない、あの高度な情報体である事と霞と正面からぶつかっていたことを考えればもっと違うタイプの人工知能だったのだ。それをわざわざ穹のパートナーになるために性能を作り変えた。いわば格下になったのだ、穹の為に。
ではシーナは一体何だったのだろう。霞の言うとおりセブンスなのだろうか。
【穹?】
「ん。ああ、悪い。ちょっと考え事だ。とりあえず記憶として頭に叩き込んでおくしかないな。あとで人工知能として見てみる」
そう都合よく目だけ人工知能として機能するわけでもない。それはたぶんユニゾンとして完全に成長したらできる芸当だ。ちらりと暁を見たがこちらにはあまり興味がないらしく何かを探し回っている。
「何してんだよ」
【んー? 僕は僕で探し物だよ。そっちは見つかったんでしょ?】
「後回しだな、見つかったけど今はわからん」
【一応言っておくとさ】
「ん?」
【僕らユニゾンの中で一番“頭が良かった”のは穹だよ。勉強ができるって意味じゃなくて】
含みを持たせた言葉に穹は暁を見つめる。暁もじっと穹を見つめていた。それはつまり。
「性格悪かったってことだな」
【ええ!?】
「いやちょっと待てや」
「えー、そういう解釈? おかしくない?」
【穹、その捉え方はひねくれすぎて理解に苦しみます】
その場にいた全員から突っ込みをされて穹は一瞬怯んだがすぐに我に返った。まさか作業をしていたジンと常磐にまで突っ込まれると思わなかったのでたじろいだが。
「いやだって、勉強ができるって意味じゃない頭が良いって物事を主体となってコントロールしやすい思考してたってことだろ?無茶苦茶性格悪いじゃねえか、自分の思うがままにしないと気が済まないんだから」
【穹、何故それをリーダーシップがあるという解釈をしなかったのですか】
「自分の思い通りにして軋轢が生まれないようにすることに全力を注いで脳みそフル回転してるのがリーダーシップって奴だろ、知ってる知ってる。ほら性格悪い。いやずる賢いってことだな」
自信満々で言えば暁は頭を抱えてシーナはヨロヨロしながら床に着地した。しかしうって変わって常磐はなるほど、と目を輝かせた。
「ああ、ジンみたいな人か」
「トキみたいな奴だろどう考えも」
【何でこんな子に育っちゃったのかな!昔はもっと可愛かったのに!】
膝をついて手をペしぺしと床に叩きつけているので軽くつま先でつついておいた。何故人間じゃない奴らが人間のようなリアクションをして人間である人たちからドライな感想をもらうのか。
「じゃあどういう意味でいったんだよ」
【穹は謎かけみたいな言い方回しが多かったんだよ!その場で答えを言わないで】
「その場で言わないで自分で考えさせて……んで?」
【言葉にミスリードが多くて誤解生ませてた】
『性格悪』
穹、ジン、常磐の声が見事に重なった。すると暁が否定するように手を左右に振る。
【yesかno、0か1かの二択しかなくて一択しかできない人工知能の考え方にさらなる選択肢の幅を持たせる回答に導いてたんだよ。勘違いして違う答えになったら何故間違えたのかを考えさせたんだ】
それはまるで穹が作り出したクイズスキルのようだ。そういう考え方が昔も今もあるのなら根本的な所は何も変わっていないという事だ。
【だから君が何か手掛かりを残しているのならそれは正規の答えじゃないってこともある。以前の君が僕にユニゾンが結託できない理由を人間の部分も強いから手を組みやすいからじゃないかって言ってたけど、これ穹の本心じゃないと思ってるんだよね。当たり障りない回答を一つ出しておいて僕ならどうこたえるかを聞きたかったんじゃないかなって。結局今君は記憶がないから答えを聞けないけど、自分で疑問に思ったんならやっぱり君は他の答えを導き出してたんじゃないかな】
どれだけ回りくどいんだ、と思ったが口には出さなかった。なんだか昔の自分の話をされても記憶がないので他人の話をしているようで実感がない。少し考えてから暁を見る。
「可愛いか? そんな奴。くっそムカツクんだけど」
【愛嬌はあったし根性ひん曲がってなかったよ、少なくとも今の穹よりは。優等生って感じ】
「今のところどの要素をとっても俺の嫌いなタイプだな。記憶が戻らないことを願うばかりだ」
【自分の事なのに…あ、ちょっと待って】
暁の動きが止まる。人工知能モードなのだろう、何かをしているようで完全に暁からの反応がない。しかしすぐに暁の意識がこちらに戻ってきた。
【穹、さっきのバトルフィールドからスキルが一つ消えてる】
「スキル? 俺の作ったやつか」
【クイズスキルがどこにもない】
念のため自分の端末とシーナをつなげてシーナの中に入れていたスキルをすべてチェックしたが確かにクイズスキルだけなくなっている。スキルが消える、という現象はいくつか原因は考えられるが暁が作り出したあの空間でなくなるというのは不可解だ。
「暁の予想は?」
【リッヒテンに持ってかれた】
「……」
【……】
「聞かなかったことにしよう」
【じゃあ僕も言わなかったことに……できるわけないじゃん。考えようよ、何であいつがスキル持ってくのか。そういえばさっきもいきなり消えたし】
おそらく暁の見立ては正しい。スキルコードを丸ごと持っていかれたのだろう。そんなことができるのは同じユニゾンか同等以上の性能を持った人工知能だけだ。そしてあの状況を見れば夜達がもっていったと思うよりリッヒテンがもっていったと考えるのが妥当だ。あっさり引いた理由はわからないが一つはクイズスキルを手に入れたからというのはあり得る。
「何で持ってくんだよ、クイズ大会でもしたいのか」
【私はやりたいです】
呆れててきとうに言っただけだというのにシーナが食いついた。意外な反応だったので視線で先を促すとシーナは羽をパタパタと動かしているので、嬉しいというよりは「わくわくしている」といったところか。
【私は人工知能ですので、選択制ではない問いに対してどのような答えが出てくるのか興味があります】
その答えにその場にいる全員の空気が変わった。確信を得たのだ、シーナの答えから。
【どうしましたか?】
「いや、たぶんそのまんまだ。成長に必要なんだ、問いかけが。そういやそんなことしてるサイトがあったな」
「アリスのお茶会だね」
常磐が静かに端末を操作しながらつぶやく。そして手元で使っていた端末を穹達に見せた。それはアリスのお茶会の経営に関わる情報が数多く記されている。経営資金から広告媒体、アリスのお茶会とコラボをしている会社も一覧表となっている。ちらりと見ればとても一般公開しているとは思えない取引情報などもあるので、おそらくハッキングで調べた物だ。
「これは?」
「気になって調べてたんだ。何で調べてたかって言うと、アリスのお茶会の経営の仕方がグロードとそっくりだったからだよ」
「つまり、経営に実態がないってことですか」
「電子マネーや仮想通貨はやたらとあるくせに経営自体が中身のない広告やコラボばっかり、株式でもない。今や小学生だってネット上では会社を立ち上げることができる時代といってもこれだけ大規模だと普通は上場するんだけどその様子もない」
「金を儲けているのに使う様子がないって事ですか。手段と目的が逆になっていますね」
企業である以上は雇用も生まれ生産性がありインプットアウトプットが存在する。人、機械、原料、方法、すべてにおいて100%自家栽培でもない限りは必ず外部に一人以上、一社以上の関連が生まれる。そうなると資金繰りは必ずついてまわる最重要項目であるというのにその使い方がアリスのお茶会は不透明だ。裏金がありそうだとか何かありそうだという意味ではない、逆だ。何もないのだ。
「これだけ人の心をくすぐる要素がたくさんあるのに金儲けに走ってないのか」
【サイト自体はコミュニティですが、行きつく先は人気が出ることで有名になり広告費を得ることで会社運営資金を集めることですよね。しかしアリスのお茶会はコミュニティそのものが目的のような経営スタイルという事ですか】
「経営者がアリスって言う名の人工知能ならな」
最後のジンの言葉に全員が沈黙した。それは先ほどシーナが言った事の答えそのものだ。金を儲けるためにコミュニティを使っているのではなく、コミュニティを維持するために売り上げを伸ばしているとなれば辻褄が合うデータなのだ。
アリスのお茶会はアリスがユーザーに様々な質問をしてくる。それがアリスのお気に召したら特典が数多くつ。それ自体が意味不明だ。以前推察したように人の返答によって人という物を学習しているのならこれほど有効な手段はない。アリスのお茶会の総会員数は不明だが、一日一回アリスとの問答があるとすれば相当なサンプルデータが集まることになる。
「もう核心に触れますけど、このサイトがレーベリックレコードと繋がってるってことはないんですか」
「僕も同じことを思ったけど違ったよ。子会社を全て調べたけどそれらしい結果は出なかった」
―――采はレーベリックレコードの物。レーベリックは間違いなく人が運営する会社だった。じゃあアリスは?本当にレーベリックの物か。自分たちで采を学習させればいいのに何故不特定の人間を材料に学習させる必要がある。それじゃコントロールできない。そもそもアンリーシュが采の学習の場だ、アリスは必要ない。必要ないのは人間の考えか―――
「暁、どういう結論になった」
【割と最悪な感じ】
【どういう最悪な感じですか】
「采がとっくに人の管理を外れ始めてて、アリスのお茶会は采が勝手に関わってるとか?」
穹の言葉に一同沈黙する。暁は驚いた様子がないので同じ結論になったのだろう。ジンと常磐はそこまで予想していなかったのかため息をついたり天井を見上げたりしている。
「それだと全部すっきりするんだよな。人工知能なら、いや采なら演算すれば経営計画から実行、金の管理は銭単位まで完璧にコントロールできる。何せ会社はネット上だ、人を雇わなくていいから人の心が理解できてなくても運営できる」
【アンリーシュは戦いの場だから意思決定の多さと重要さで言えば管理しやすい、次の一手は全部選択肢だからね。演算もしやすいし。でも選択制じゃない考えは明らかに少ない。これじゃだめだと判断した采がそういう場を求めてるならその材料を探すに決まってる。本当に自分で会社立ち上げたのか誰かが始めたのを乗っ取って姿を変えさせたのか知らないけど】
話していて背筋が凍りそうだ。それこそ大昔からあるSFパニック映画のような事態が起きているということになる。いや、霞たちが反乱を起こしている時点ですでに手遅れだったのだが。こうなるのは時間の問題だったのだ。セブンスがまだ残っているとはいえ本来はもっとたくさんの管理するものがあったのだ。それをたった一つだけ残ったプロトコルだけでコントロールできるはずもない。
【しかしそれではリッヒテンは采の支配下にあるというのが前提ですよね?】
「その前提は結構前から思ってたからな。リッヒテンが本当にレーベリックの人間が管理してるならそう簡単には人殺しはしない。過激な考えを持ってたとしても責任問題って言うのはどこにでも存在するからな。証拠が残りやすいようなことは絶対しないはずだ」
その言葉にジンと常磐が同時にうなずいた。この二人はレーベリックのやり方を骨の髄まで知っている。政治と同じだろう、証拠が出てしまえば重箱の隅をつつくやり取りが始まり最終的に不要と判断されたものに押し付けられる。




