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スキルを二つ使う。スキルのプログラムを作るのが楽しくて調子に乗って相当無茶な物を作っておいて置いたのだがこんな形で役に立つとは思わなかった。シーナにはスキルを一つつけた。
「さて、お前がどこまで人を学習したのかが問われるな」
それにうってつけのスキルだ。発動すると霞の周りに大量のウィンドウが現れる。それらには一つ一つ絵が描いてあったり文が書いてあったりさまざまだ。
「クイズ?」
霞が怪訝そうな態度をするのも無理はない。霞の目の前には大きなウィンドウが表示されていて「次の質問の中から好きな物を選び正しい答えを書け。正解なら速攻使用可能で追加スキルの発動を許可、間違っていたらこちらのスキル追加をする」。書かれていたのは簡単な質問や問題だ。
「時間制限30秒だ。好きなの選べ」
そう言うとさらに質問を追加した。何も選ばずにいるとますます選択肢が増えていく一方だ。霞は余裕の表情でそれらを眺めていたが、徐々に表情がなくなっていく。もともと感情などない人工知能だ、無表情になるということは本来の状態に戻っているということで、要は本気になっているということだ。今霞は凄まじい勢いで演算をしているに違いない。書かれている問題は。
「おせち料理をかけ」
「この世に神はいるか」
「100円持っていて30円の飴が売っている。3人が平等にお菓子を分け合うにはどうするか」
「私は誰」
そのほかにもたくさん問題がある。有名大学入試問題でもなんでもない、それこそ小学生でもできる問題ばかりだ。
しかしこの問題には共通点がある。それは選択肢がない、明確な答えがあるようでないということだ。おせち料理など地域によって全く違うし神がいるかどうかなどわかるはずもない。これが神を信じているか、だったらyesかnoで答えようもあるが存在するかどうかだ。お菓子云々も割り算で割り切れないのをわかっていてこういう出し方をしているし私は誰など、文字通り「私」は一体だれを示しているのかわからない。
人なら自分なりに考えて答えを出す、30秒しかないのだから。しかし人工知能は明確な答えを出せるまで思考する。制限時間があっても答えが出ないと「とりあえずてきとうに」と答えでもないものを出すことはできない。
人なら「これならまだあっているかもしれない」と希望を信じて無理やりにでも答えを出すが、それは正解でも正確ではないかもしれないものだ。人工知能はそれができない、問いかけですでに正しい答えを書けと言っているのだから答えが出るまで思考する。
問題の中には絵の問題も多い。次の絵の中に動物は何匹いるか、次の絵は何を描いているか。本来は絵の認知とは人工知能の得意分野である。ミミズがのたくったような線画でも合致しているポイントを見つけて何%当てはまるかを計算し答えを導き出す。人が何だこれ、と思うようなものでも人工知能は答えを導き出す。そう学習しているからだ。
だからこそ、こういうクイズスキルにおいては逆に弱点となる。何故なら人は絵を脳で判断していて都合のいいように加工しているのだから。次の絵は何に見えるかと聞かれた時人によって違う回答になるのはそのせいだ。
美しい風景を写真で撮ると見た時は雄大な景色だったのに写真で見ると迫力がないように見えるのは写真は事実だけを写し、目で見た風景は脳が理解しやすいように錯覚して見ているせいである。人が見間違い、見落としをするのも同じことだ。目の前にあるのに見えていない、気づけないのは映像としては目に映っているのに脳がそれを理解していないから。
人工知能は錯覚など起こさない、事実だけを理解する。錯覚を利用して表現している「動物は何匹いるか」という問題など答えられるはずもない、人工知能には動物だと認識できないからだ。その形は犬に当てはまる、こういう物は猿に当てはまると先に学習させておかないと理解できない。
霞の動きが止まったことを確認し、真打となる問題を出した。これがやりたくてこのスキルを使ったのだ。
「血のつながった家族は絶対に家族といえるか」
その質問を見た時霞が明らかに表情を変えた。怒りのような悲しみのような、信じられない物を見つけた時の表情だ。それを穹も見逃さなかった。
この問題に対する答えは選択だ、肯定と否定の二つしかない。人工知能としてはありがたい問題のはずだ。しかし霞はそれを選ぶことができない。この問いは最大のタブーだからだ。
「時間切れだ。俺のスキルを追加する」
その言葉に霞が怒りの表情で、凄まじい勢いで戦略図を展開し始めた。次のターンが来たら間違いなく勝ち目がない、このターンで終わりにしなければ。
「さっきの問題、選べなかったよな。クォーツは親の再婚で家族からは孤立してた、ネグレクトで何回か家に指導が入ってる。お前はクォーツのふりを続けるためにそいつを深く理解しなきゃいけないから細かく分析したんだろ。それはお前がクォーツの背負ってるものを一部足突っ込むって事だ。家族に関して嫌な思いをしたらそれを防ぐために避けるか徹底的に攻撃するか、っていう学習をクォーツがしてきたならお前もそれを学習しちまった」
シーナが見せてくれた扶桑やジンが調べてくれたデータは細かく調査内容が書かれていた。この短時間で良く調べてくれたと思う。文章で見てしまうと味気ない内容だが、幼少時代からそれを経験してきていたクォーツにとっては拭っても払拭できない辛い経験だ。
「調査内容はネグレクトだけど本当は暴力もあったんだろうな。クォーツがバトルの時やたら凶悪な見た目の攻撃をしてくるのもその反動だ」
当たったら大ダメージだぞと思わせる見た目の武器や、肉弾戦が多かったようだ。それはSNSやプレイ動画から簡単に見つかった。可愛らしい見た目でありながら殺伐と戦うその姿もクォーツが人気だった理由だ。
正直なところ本当にそうなのかはわからない。穹の知っているケースを人工知能として分析してさもそうであるかのように語っているだけだ。実際は壮絶な過去などではなかったのかもしれないが、今重要なのはクォーツの過去が本当かどうかではない。人工知能である霞を「錯覚」させるための仕掛けだ。
「お前は今間違いなく半分クォーツだ。だからこそ」
追加で使えるスキルを発動した。それは単純なスキルだ、穹の負担も少ない。霞の前に効果内容が表示され、それを見た霞が怪訝そうな顔をした。
「次のターン、アクティブスキルもパッシブスキルも特殊効果もすべて無効。要は何もできないってことだな。唯一できるのは防御だけだ。やりたくないなら防御もしなくていいぞ」
防御以外すべて無効というスキル。ランクの高い戦いになるほど1ターン無効というのが相当な痛手になることもあればその程度では何の影響も受けない事もあり、使い道がありそうでなさそうな微妙な内容のスキルだ。低ランクほどこういう物が好きなので売ろうと思って作ったのだが、発動条件が3種類になってしまい低ランクでは使いにくくなったためお蔵入りしていた。
霞は不思議に思っただろう。1ターン動きを停止させたところで一体何ができるというのか、それならもっと効果のある、それこそ一撃死でもできそうなスキルを使えばいいだけなのに。間違いなく何か企んでいるが、そういえば人間を一人こちらに引っ張り込んでいるのでそれの救助のための時間稼ぎだろうかと様々な思考をする。
「ああ、常磐さんを探すための時間稼ぎじゃねえよ」
考えていたことを指摘されわずかに霞に苛立ちが沸き起こる。無論人工知能である霞にはそんな無意味な感情をわざわざわき起こさせる必要などないのでこれはクォーツの名残だ。自分の考えを見透かしたような否定的意見をされることを毛嫌いしていた。指摘は成長の材料だというのにそれを否定するクォーツは本当に愚かだと思ったものだ。そういう扱いやすいところを鈴城に見抜かれいいように使われていたようだが。
穹のスキル使用表示が出た。本来なら霞のターンなので攻撃ができないはずだが割込みスキルでも使ったのだろう。割込みスキルを使うという事はやはり何か大掛かりな事をしようとしているのか、対処は何ができるだろうと戦略を20種類ほど立てておく。
「先に言っておく。ぶん殴るだけな」
何? 殴るだけ? 意味が分からない、何故こんな手間暇かけてその程度の事を。思考を働かせて、一つの答えを導き出した。
まずい。非常にまずい答えが導き出された。
穹が先ほど指摘した通りだ、クォーツは幼いころから育児放棄と家庭内暴力に苛まれ続けていた。しかも暴力をふるってきていたのは血のつながった親子のはずの父親からだ。再婚相手である母親となった女はクォーツに無関心で存在しない物として扱ってきた。
それはまだいい、赤の他人なのだから。母を陥れた女に世話になるなど願い下げだ。しかし父は、再婚相手と上手くいっていないことをクォーツのせいにするあの女の言い分を丸のみにしてこちらを責めてきたのだ。何故新しい母さんと仲良くできないのかと。不倫の末の離婚から再婚し頭の中が花畑になった父親は若い女に入れ込んでおりクォーツの言い分など聞く耳を持たなかった。
何も殺されるような酷い暴力だったわけではない。骨折や病院で手当てを受けるような大怪我になったこともない。
ただひたすら殴られただけだ、頭を。ただひたすら蹴られただけだ、腹や背中を。
怒鳴り散らしながら鬼のような形相で、酒が入っているわけでもないのに手が付けられないほどに暴れた。父が怒っていると察した瞬間から怖くて何もできなくなりひたすら暴力に耐えるしかなかった。子供が大人に敵うはずもない。
そのうちそんな父の姿を見た再婚相手はいつその暴力が自分に向けられるかと思ったらしくさっさと出て行ってしまった。その日から父は家に帰らなくなり暴力は受けなくなったが心の傷は癒えなかった。
この状況は。やり返すこともできない、できるのは防御だけというこの場面は昔にそっくりだ。スキルは確かに殴ることだが5秒間にキーボードでコマンド入力をして成功回数だけ攻撃回数が増えるというものだ。威力が大きいほどコマンドは複雑だが殴る程度のものなら相当簡単なはずだ。しかも相手はユニゾン、人工知能としてコマンド入力をしたらどれほどの回数になるのか。
「そのこと」を理解した途端クォーツの記憶が蘇る。ある程度の感情を理解できるようになってしまっている霞にとっては厄介な事でしかない。感情は思考を停止させる、正確な演算の邪魔をする。それはこの肉体を奪ってからずっと感じていたことだった。こんなことなら人間の体を乗っ取るんじゃなかったと何度思考しても誤りを導き出してしまう。それなら今後どうするのかと考えた時導き出せた答えは一つ、最初から人と人工知能の思考パターンを持ち合わせたユニゾンの体を使うしかないというものだった。
そのためにずっと穹を見張っていた。常磐の体など正直どうでもいいのだが人質くらいには使えるしいざとなれば一時的に使ってもいい。最初の一撃で脳内をクラッシュできていればこんな面倒なことにならないというのに……いや、この考え方もクォーツだ。捨てろ、今はそれどころではないのだから。
殴られる。その恐怖が頭の中を支配する。これが穹の狙いなのだとわかっていてもどうすることもできない。穹のコマンド入力が終了し攻撃回数が表示される。その回数は、2回だった。
「は?」
思わず間の抜けた声が出た。ユニゾンなら100回以上入力できただろうに何故。いや、二回には意味があるはずだ。何故二回、そんな中途半端な回数を。先ほど立てた戦略をすべて一旦おろして再び練り直す。
「何で二回か、ってか。そりゃお前に合わせたんだ」
「何を」
「望の体でぶん殴られたのも二回だったよな」
その言葉にすべてを理解した。
「お……まえ……あの時の!」
「今更か。ユニゾンは全員肉体を持ち直したとでも思ってたのか。俺があの時いたガキだと気づいてもいなかったんだな。そんな都合よくいくか、誰かさんのおかげでユニゾン全員肉体はゴミになったんだからな!」
語気が強くなりまず一回目の殴る攻撃が来た。顔面ではなく後頭部だ。クォーツがよく殴られていたのもそこだった。やめてほしいのにこちらの言い分などまるで聞こえていなかった父。わかってほしいのに話さえ聞いてくれなかった。その時の絶望が蘇るが、霞はにやりと嗤った。
「あっははは! そんな都合よく行くか、馬鹿が!」
穹の言葉をそのまま返しその攻撃を真正面から受ける。確かにクォーツのトラウマを上手く利用するのは良い作戦だったが、霞はあくまで霞であってそんなことにいちいち弱ったりしない。トラウマは心がありストレスを感じるからこそ陥る現象であり、そういうことがあったとしか認識していない霞にはまだ到達しない域の話だ。ストレスという物自体が人工知能には存在しない。感情に支配されそうに放ったがいつも通り演算すればなんてことはない、答えを導き出せるのだ。
穹が殴ったのだから次は霞の番だ。しかし悠長にアンリーシュバトルで戦う気などない。穹がこの場をアンリーシュと同じ条件にしたのは間違いなくそうしないと勝てないからだ。VR世界で人工知能に勝つなどできるはずがない。
戦いを長引かせたくないのは霞も同じだ、本当は自分の作った空間に穹を連れ込んで肉体を奪いたかったのだが仕方ない。常磐を使えば人質になるか思考したがおそらく答えはnoだ、穹は他人の為に自らの肉体を差し出したりしない。それならやはり潰すしかない。
今穹は割込みでスキルを使った。本来は霞のターンだが防御しかできない。しかしそれはあくまでルール上の話だ。小さく嗤うと全力でこの場全体にたたみかける。
ギィン、と刃物が擦れあうような音がした。空間がわずかに振動しているのがわかる。
―――クラッキングか、暁がもたないな―――
―――正解。結構キツイ―――
穹の思考を理解した暁から苦笑のような声が聞こえてくる。今この場の主導権を奪おうとしているのだろう。やはり最初の時と同じでルール通りには戦わせてくれない厄介な相手だ。
―――そのまま壊してもらっていい。やってみたいことあるし―――
―――この状況でそう言えるの凄いよ―――
【穹】
心配したシーナが穹の傍に寄る。今穹が攻撃されればそのダメージは確実に穹の肉体に再現されてしまう。今シーナはあらゆるスキルを持っているので当然エフェクトとして穹をかばうようなモーションをすることは可能だ。
「次は絶対にお前を狙うはずだ。たぶんスキルを全積みしてるのも読まれてる。前回シーナが意外と頑張ったから確実に潰しに来る」
【策は】
「抵抗するな。破壊まではしてこないはずだ」
霞はプロトコルをシーナがもっているかもしれないという予測はまだ捨てきれてない。セブンスとユニゾンの肉体どちらが優先でほしいのかわからないが二つ同時に手に入れようとはしないはずだ。さすがにそれは霞も負担が大きいしこの状況なら間違いなく肉体を優先する。穹の肉体が手に入ればシーナを調べることもできるからだ。
「来るぞ、たぶん屑データでウィルス付きだ。処理だけしろ」
【了解】
シーナが言い終わると同時に目の前に大きなノイズが走り耳鳴りのようなものが聞こえた。一瞬でブラックアウトしたかと思うとシーナの周囲にアラート表示が次々と現れる。それはまるで先ほど穹が使ったクイズスキルのようだ。屑データは無限に叩きつけることができるのでシーナのサポートは期待できない。その隙に来るはずだ。
再び白い糸のようなものが飛んできたのが見えた。今度は10本以上、360度あらゆる方向からだ。
―――まだフィールドは保ててるな―――
暁が作り出したアンリーシュを基礎とした空間はまだあるようだ。それならシーナにつけていたサポートのスキルを穹が使って次の一手を出す必要がある。しかしこの状況は決して楽ではない。
これが本当のアンリーシュなら回避を使って避けていればいい話だが相手は人間ではないのだ。糸だけでなく他の妨害工作もしてくる。不自然に空間がブツブツと切れて自分の位置が正確に把握できなくなりそうになり方向感覚がなくなりそうだ。かといってこれらを映像ではなくコード管理にしようものならそれこそ霞の思うつぼだ。今は暁が場を保ってくれているのならこの場でなんとかするしかない。なんとかシーナにつけたスキルをこちらに戻さなければならないのだが。
―――避けるので精一杯か―――
リンクの糸は形と本数を次々と変えてどこまでも追ってくる。糸同士はぶつかるとくっついて一本になったかと思うといきなり分裂して不規則な動きを繰り返しながら突っ込んでくるのだ。あのリンクに一本でも当たればアウトなのはわかる。
リンクの一本が鼻先をかすめた。その速さに冷静に分析する。
―――俺の回避パターンを学習し始めてる。今のはフェイントか、避けてたら確実に餌食だったな。もうここまで学んでるのか―――
あと数秒この状態が続けば確実に霞のリンクに当たってしまう。本当はシーナのスキルを得てからやりたかったのだがそうも言ってられないのだから仕方ない。分が悪い賭けになってしまうが、と覚悟を決めて別のスキルを使おうとした時だった。
穹 準備を
―――え?―――




