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アンリーシュ  作者: aqri
大海の一滴
56/105

5

 送った内容はこうだ。角村がデータを盗んだ店の者だが角村は捕まえ警察に出す。お前も通報するから覚悟しておけ、こいつの端末はすでに確保した、という内容で送った。するとすぐに返事が来て最初はとぼけたようだが角村がすべてしゃべりお前がハッキングしたんだろうと送る。


「こうなると当然証拠は、ってことになるよな。もうしょうがねえか」


 ジンたちの方はかなり盛り上がっているようだ。女を挟んで男二人がもめているという図にしか見えない。ただし角村はいまだ外には出てきていないし、どうやら外にいるのがジンだとは思っていないようだ。頭に血が上っているのもあるだろうがジンと角村はシフト上あまり関わったことがない。単純にジンの声を忘れているのだろう。


「ジンさん、店長、いいですよ。角村引っ張り出して」

『あ、そう?』


店長が楽しそうに言うとジンに何か合図をしたようだ。


『つーか、中にいる奴。その声お前もしかして角村?』

『え?』

『おい、ふざけんなよ。何でこんな犯罪者と一緒にいるんだ』


優しい声が一気に怒りを含んだ険しい声へと変わる。


『店長? 俺です。今角村がいるっぽいところを見つけました。ええ、朝話した……え、今来てるんですか? じゃあ警察に通報したら来てください』


携帯で店長と会話をして見せていきなり玄関を殴りつける。ドゴン、という鈍い音が響いた。


『ひっ』


ジンの変わりように女性は怯えたようだ。角村もマズイというリアクションをして慌てて家の中へと引っ込む。


『ちょっと!?』


女性の慌てた声がしたがジンはさらに大きな声で怒鳴る。


『開けろ! 中にいる奴な、会社のデータバンク荒らした犯罪者なんだよ! ぜってー許さねえからな! お前そいつ匿ってたな? 知ってたんならテメエも同罪だからなクソが!』

『ち、違う! 知らないそんなの!』

「コエーよ。ヤクザかアンタは」


 巻き舌が入った怒号は完全にその筋の職業の人にしか聞こえない。いくら演技とはいえ穹もジンがここまで怒りをあらわにする姿は見たことがない。ジンを怒らせるような真似はしないでおこうと決意するくらいには迫力があった。

 おそらく女性と付き合っていた時もこんな怒りを見せたことがないのだろう、完全に動揺している。しかも同罪と言われパニックになっているようだ。今の世の中一度でも前科がついたらあっという間に情報が拡散される。普通に暮らしていくのは難しくなってしまう。


『ちょっと、静かにして!』

『ああ!? 俺に命令すんのかよこの犯罪者!』

『違うってば! 近所に変な誤解受けるからやめてよ!』

『じゃあ開けろよ!』


かなり盛り上がっているが石垣からの返事がきた。角村とはただの知り合いでハッキングした証拠はあるのかと聞いてきた。案の定の回答に緩く笑うと意を決して返事をする。


《こっちにはちょっとパソコンに詳しいのがいるから調べはついてる。まあでもこっちも調べるのにちょっと人には言えない方法とったし、警察には通報すると面倒になりそうだからあんまりこのことは言いたくない。お前が二度とちょっかい出してこないって誓うなら見逃してやってもいいよ》


「気づいてくれるかな、この内容で」

【見逃してやる、という内容が石垣を見逃したときと似たような内容ですね。意図的に侵入した時に出会った人物だと臭わせているのですか】

「ああ。あの時の奴か、って思えば個人情報が握られてる事も気づく。さっき店のデータ盗んだって言っただけでピンポイントで死亡者に関する事とは言ってないから、この間侵入した奴と石垣が同一人物だってこっちがまだ気づいてない、って勘違いしてくれりゃ期待通りなんだけど。あと、やたら警察を避けようとしてるしこいつもハッカーか、じゃあ派手に動けないんだなー勝機がきた! と思っても欲しい」


餌は撒いた、後は魚が食いついてくれるかどうかだ。


【ちなみに現段階ではどういう作戦ですか】

「フィッシャーの駒ならうろついてほしくないから最終的にはサツ行き。たださっきも言ったけど証拠がないから相手のぼろ出すのを誘うしかない。あいつがハッキングした形跡はたぶん追っても無駄だ、海外サーバー経由してたら追うのはすげー時間かかる。サツは時間かかる捜査はしたくないだろうから有耶無耶のうちに釈放されちまう。それじゃ元通りだから意味ないし。一行でも証拠になる文章だしてくりゃあ保存するんだけどな」

【しかし相手もハッカーです。穹がハッカーだという情報は与えましたし、そうとう警戒してくるのでは】

「だから時間との勝負なんだよ。今なら切羽詰まってるだろうからあの手この手使って短期決戦してくるはずだ。これ以上面倒ごとはかけたくないから、たぶんこいつなら俺を利用しようとすり寄ってくるはずだ」

【そういえばチーム戦後もそうでした】


ジンたちの会話に耳を傾ければこちらはクライマックスが近い。ジンの迫力と我が身可愛さに女性は玄関を開け、ジンが勢いよく家に入っていったようだ。


「すげー、ちょっとサツっぽい」

【場を荒らさないだけ警察よりもまだ穏やかなのでは】

「そういやそうだ」


最終的に裏口から逃げようとしていたところをスタンバイしていた店長に見つかった。多少押し問答があり、角村の悲鳴が聞こえ静かになる。裏口はドア付近にしかカメラがないので二人の姿は映っていない。


「おーい?」

『店長が沈めた』

「あ、やっぱり」


ジンの冷静な声に穹も冷静に返す。やっぱり強いんだなあの人、と思いながらパソコン画面を見ると石垣からの返事が来ている。


「わかった、データはもう追わないから警察は勘弁してくれ。これだけじゃ信用してもらえないだろうから後日ちゃんと話がしたい……か。時間稼ぎにきたな、まあいいけど」


 現時点ですでに信用できない、お前に選択肢を与えたつもりはない、面倒だけど警察行きかな、とちらつかせれば慌てて返事をしてくる。一度警察に目をつけられているのでこれ以上の騒動は絶対に避けたいはずだと踏んでいたがその通りの行動だ。

 金かスリルに興味はないか、今稼げる話があり協力者を探している、成功すれば分け前を多めに支払うのでどうだろうかというような内容だった。一応いろいろ経験して下手に出るという事は学んだようだ。ジンたちの音声を拾っていると向こうはそれなりに収束しつつある。角村を引き取る方向で話がまとまり店長がタクシーを呼んだようだ。


『じゃ、行きますか』

『そうだね。角村君には聞きたいこといっぱいあるし。警察もじきにくるだろうし』


 警察になど通報していないだろうが、こう言っておかないとつじつまが合わなくなるし不審だ。女性はほとんど何もしゃべらなくなっていたが、ジンたちが行こうとすると思い出したように引き留める。しかしジンの声は冷たい。


『お前、自分の立場わかってる?』

『だから、私は何も……』

『万が一無関係だとしてもこんなのと付き合うとか馬鹿すぎて一発芸のネタにしかならねえよ。そんな底辺な女、俺に釣りあうわけないだろ。今後俺に付きまとったら通報するからな』


冷たくそう言うと女性は何も言わなくなった。逃がした魚は大きかったと後悔しているに違いない。タクシーに乗ったことを音で確認し石垣への返信をしながらジンに話しかけた。


「そっちはご対応よろしく」

『おう。んで、そっちは? 一応角村の端末は手に入れたけど』

「もうこっちで操作してるからいりません。あと、協力者も連絡はできました。まだハッキングの証拠がないので引っ張り出すのには時間かかりそうですけど」

『そっちは任せるよ、穹クン上手くやって。こっちはちょっと帰るまでに時間かかるかなあ、ほら、こうい事が今後起きないようにちゃんと世の中の厳しさを教えてあげないと』


店長はのほほんと言っているがどんな内容なのかはだいたい想像がつくし、想像がつかないことも予定されていそうなので関わるつもりはない。


「んじゃあこっちは深入りしない程度に探ってみます。データは渡ってないので最悪逃がしちゃっても?」

『んー。まあできれば尻尾はつかんでおきたいけど仕方ないか。やりすぎるとこっちが取り締まられるから』


 はっきりとハッキングという言葉を使って会話していないが二人とも穹がハッキング行為をしているのは百も承知だ。本格的に捜査をされたらこの店からハッキングしていることがばれて後後面倒となる。面倒ごとには関わらない、店長のモットーだ。

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