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アンリーシュ  作者: aqri
ユニゾン
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16

アンリーシュ登録ユーザー数を考えれば途方もないことに思えるが、ユニゾンとしての能力と世の中にあるツールなどを使えば絞り込みは十分できる。特にユニゾンとしての能力で察知するのが一番効果は大きい。


「夜も暁も言ってたな。俺の駄々洩れどうにかしろって。ってことは、どうにかできる手段があるってことだ。それをすればモジュレートしても相手に情報を渡さずに済む。それを俺が知らないんじゃ意味ないけどな」


宵も言っていた。シーナとのリンクを強くしろと。シーナとのつながりを強くすることが手段の一つなのだろうが決定打ではない。おそらく決定的なことがあるはずだ。そう考えた時、また一通のメールが来た。


《窓開けて》


 嫌そうに顔をゆがめ窓を見れば見おぼえるのあるロボットがべったりと張り付いていた。穹が振り向いたことに気づくと嬉しそうにブンブンと手を振るが、無言で窓の透明度を0に設定して外の景色を遮断する。

何事もなかったかのようにコーヒーを入れようとするとベシベシと叩く音が聞こえてきた。


【穹】

「最近の虫は煩いな」

【穹、突っ込みどころは多々ありますが接触を避けるべきだと言っていた暁自身が来ているのなら重要な要件でしょう。あとあんな巨大な虫がいたら大変な事態です】

「はあああ~……」


 大きくため息をついて窓の透明度をもとに戻して窓を開ける。窓に張り付きながらふるふると震えていた暁はパッと嬉しそうに顔を上げると……表情がないので嬉しそうなのかは正確にはわからないが、表情などいらないくらい暁の行動はわかりやすい。誰がどう見ても嬉しそうにぴょんと飛び込んできた。そして穹に近寄ると勢いよく飛び蹴りをかましてくる。それを冷静に見つめ、ベシっと空中で叩き落せば床にバウンドして転がっていった。


「何やってんだテメーは」

【扱いが酷すぎない?】


床に大の字になりながらそう訴える暁をしっしっと手で追い払う仕草をする。


「手短に要件話してお帰り下さい」

【心配しなくても今は近寄ったり情報交換しても大丈夫だよ。絶対じゃないけど。それが目的で沙綾もらったんだし】


 転がって離れた分を歩いて近寄り、手を差し出してくる。何もしないでいると早く、とでもいうように手をぐいぐいと穹の腹に押し付けてきた。それをじっと見つめてからおもむろに右手でチョキを作ると指を動かしてハサミで切るような動きをする。


「ちょん切ればいいのか」

【違う違う違う。普通握るなり触るなりするでしょうが。その発想どうして出てきたのかちょっと興味ある】

「長いものは詰めたくなる」


 言われて穹の部屋を見渡してみれば確かに長いものが見当たらない。ほとんどの家電がコードレスになっているといえ充電器はコンセントから取る物が多い。その充電器はすべてコンパクトサイズかコード部分が収納できるタイプで長く垂れ下がっている物はなかった。


【穹の考え方として邪魔なら折るか切るか消すの3つがあります】

【消すって何、怖いんだけど】

【電子レンジがそれに含まれます】

【……】


人間であれば唖然としているといえるのかもしれないが、何せ相手はロボットの風貌なので充電が切れて止まっているようにしか見えない。シーナがちょい、と足でつつけばハっとしたように暁が動き出した。


「おい、本題」

【あ、そうだった。今からもう一回僕の場所にアクセスするから、ちょっと待っててね】


 シーナに向かってそう言うと穹を見る。暁は味方ではないので一瞬言うことを聞くか迷ったが、もうこの際何もしないと何も変わらないと腹をくくる。何か言いたげにじっと穹を見つめるシーナに一度うなずいて見せてからそっと暁の手を掴めば意識が持っていかれるのがわかった。



 目を開くとそこは暗闇だ。宵でも夜でもない覚えのない感覚。ちらりと目だけ横にやればもう一人立っている。そこにいたのは一人の少年だ。年は10代半ば、中学生くらいだろうか。ずいぶんと愛嬌のある顔で一瞬ボーイッシュな女子にも見えるが、骨格が男だと分かる。


「お前そんな面してるのか」

「この格好見た第一声がそれかあ。まあいいけどさ」


 あはは、と困ったように笑うのは本来の姿の暁だ。現実世界なら姿見にいろいろ突っ込んだのだろうが今の穹はそういったことに興味がない。それに答えはもう出ている。これは、昔の自分たちの肉体の映像だ。20年前のクラッシュで損傷しなくしてしまった肉体。おそらく夜の見た目もそうなのだろう。穹が今の肉体の映像なのは生身の肉体を得たからというのが大きいのかもしれない。夜と戦っていた最初の人工知能は肉体を得ていたのであの見た目だったのだ。


「じゃあグダるのも嫌だし本題ね。全部話すわけにはいかないから要点だけ。まず穹は勝手にモジュレートする現象は自分じゃ止められない。今の穹は不具合が起きてる状態だから」

「不具合?」

「不具合の原因は穹に昔の記憶がない事の原因と同じ。それを話すと穹は記憶を取り戻そうとますますモジュレートしやすくなるから言えない。人間でいうところの、お腹空いてるから手あたり次第食べまくる状態かな」


なるほど、と納得した。振り返ってみても今まで行ってきたモジュレートはすべて自分に必要な情報ばかりだ。


「だから食欲をおさえろーっていう命令を脳に出して、今は腹が減ってないのかと勘違いさせる必要があるんだけどこれは自分じゃ無理だね。それができるようになるには記憶が戻らないと無理なわけで、悪循環になってる。その錯覚させるのを僕が仕込みをしておいた。だから今は接触しても大丈夫だよ」


 その言葉に穹はある考えが浮かんだ。同じような言葉を聞いた、ヘッドセットの使い方を香月から教わったときに。ヘッドセットを使ってリアルと現実の区別をつけられるようにしなければいけないと言われた。

使う手段は違うのかもしれないが、目的は同じだ。脳に錯覚させればなんとかなるのなら、そのツールを探せばいい。


「ちなみにこの内容をさっきのリアルで言わなかった理由は、一応この段階にきたら穹とのリンクをつないでおこうと思って」

「俺と? 理由は」

「その理由は戻ったらね。いくら調整してても長時間触れ続けるのは危険だ。今は、そうだな。連絡先交換してくださいって状態だけにしておきたい」

「じゃあ戻ったら沙綾型をどうしたのかと、宵から何でお前に託されたのかを教えろよ」


暁はうなずくと再び腕を伸ばしてきた。その手に触れればとても細い糸が一本、暁と穹の触れ合った場所から垂れ下がる。そしてすぐに消え、穹の意識も遠のく。


「……」


ゆっくり目を開き、時計を見ると時間が変わっていない。ほとんど時間が経っていないようだ。しかし目の前に暁の姿はなくシーナがいるだけだ。


「暁は」

【穹が目覚める数秒前に急いで窓から出ていきました。私のボディでは性能が違いますので追いつけないと判断し追っていません】

「あー、いい。この間のあの逃げっぷり見る限りじゃ結構な速さだ」


少なくとも暁のあのボディは本気で逃げる動物並には速かったのでシーナでは無理だろう。シーナは飛ぶか跳ねるかしなければ移動できないがその速度は人が歩く速さより少し遅いくらいだ。


「何で逃げるかね。ゆっくり話していけばいいじゃねえか」

【電子レンジに入れられたくないのでは。かなり引いてましたよ】

「あ」


まだ何かあるのかと警戒したがシーナの言葉にそういえばそんなやり取りしたなと思い出す。その後にも手を差し出されて切るか、と言ってこれもひかれていたようだった。

もしかしなくても、完全に暁から変人だと思われたんだろうなと思う。ついでに言えば、電子レンジに入れられかねない内容だったということだ。


「あいつなんか言ってた?」

【メール送っておく、との事でした】


端末を見れば確かに一通メールがきている。先ほどあったことをシーナにも伝え、メール内容を記録してもらえるよう文面を読み上げた。


「連絡先交換したかったのはもう様子見できる状況じゃなくなってきてるから。イベントには気を付けて。参加しなければ問題ないってわけじゃない。あとぐちゃってなってたのは僕が便利な機能を添えて改造しておきました。僕にしかできないことだから渡されたんだよ、以上。……ふうん?」

【こういう目的が曖昧な文章はまだ私は苦手です。どういうことか解説をお願いします】

「ああ。前半はそのままだからいいか。後半は沙綾型だな。これ見る限りじゃ作り替え、再プログラミングしたってことか? いやー人工知能にそりゃキツイな。たぶん一部をちょこっといじったんだ。モジュレートがどうのこうのって話をさんざんしてきたんだ。たぶん暁のこの行動が俺のモジュレートを抑える役割がある。俺自身じゃどうしようもできないっつってたしな。それを他の連中は知ってるから宵は暁に渡した」


―――そうなると疑問は夜だ。その方法があるなら、最初の奴をちぎり殺さないで暁に渡せばよかったんじゃないのか。夜も俺のモジュレートを何とかしろって言ってた、この方法は有効なはずだ。この事を知らないのか? いや、宵が沙綾型を手に入れようとしていたのがこのためなら、夜はどちらかと言えばそれを阻止しようと沙綾型を壊しに来てたように思える。つまりこれは手段の一つだが、夜は乗り気じゃないってことか―――


乗り気じゃない理由がある。何か一つリスクがあるのだろう。それは宵たちの方法と夜の方法、どちらのリスクが大きいかという話になるのでどちらのリスクも大差ないのかもしれない。それをそれぞれのユニゾンたちがどう考え、どうしたいかが違うだけだ。


【つまり、人工知能と戦い相手を捕らえて暁に渡せば穹のモジュレートは抑えられるということですか】

「レベルアップするにはボコボコにした人工知能というアイテムが必要ですってことだな。ただこの方法は夜はやりたくないらしい。あいつは完全に“分解”してた。リサイクルか廃棄かってことか」


―――暁は一部変えただけ。完全に作り直すのは無理なんだ。プログラムの再構築? 同じものを作るわけじゃないから再構築じゃない、修復が得意なのか。店でも穴の開いたセキュリティを真っ先に直しに来てたな。壊れた物を直すのが暁のユニゾンとしての役割なのか―――


 ユニゾンはもともと次世代型人工知能の補助をしていた。しかし補助なら人工知能に任せればいい、同じ人工知能なのだから。何故わざわざユニゾンという中途半端なモノを作り、関わらせていたのか。人と人工知能という管理方法ではなく、人であり人工知能でもあるユニゾンがいる理由は。

 穹はモジュレート、夜は分解、暁は修復。宵はまだわからないが、この分なら必ず宵にも役割があるはずだ。その役割が人工知能たちにもあったとすれば、その設定の一部を暁は変えているという事になる。


―――夜も人工知能を“分解”していた。人工知能に手が出せるってことはユニゾンは人工知能を管理する側だったんだ。次世代型人工知能を8つに分けてコントロール、それのサポートが文様を持つ人工知能たち。それらとはまったく違う目的をもって管理していたのがユニゾンか。ユニゾンは管理というより監視役だったのか―――


それなら、やはりキャプチャーもフィッシャーも欲しいのはユニゾンだ。次世代型にしろ旧型にしろ、人工知能は管理する必要がある。その役割を持つユニゾンは必要なのだ。


「さあて、この大々的なイベントはどっち勢主催なのかな」

【どちらが主催でも片方はそれを利用してきます。穹、参加しなくても万全の準備は必要です】

「ああ。これだけでかいイベント用意してきたんだ。もういろんなことが最終段階に来てるってことだ。何をしたくて、何が最終段階なのかは知らねえけど、もしかしたら俺らが会ってない人工知能のほとんどはもうあっちに捕まってんのかもな」


 改めて記録しておいた日本紋様をチェックする。熊はリッヒテンに連れていかれ豚は今暁が持つ。夜に分解された人工知能は最終的にどうなったのか不明だが、あのまま分解されたと思った方が良いだろう。

 となると、会っていない文様付人工知能はあと3つだ。あちらに捕まっているのか、人としてうまく化けて生きているのか。

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