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アンリーシュ  作者: aqri
ユニゾン
43/105

9

「うおーい、そろそろ話しできそうか? 別にできなくてもいいぞ、サツにお引き取り頂くだけだから」


 コツコツ、と足で体を蹴っ飛ばせば男は悔しそうに、というよりは苦しそうに顔を歪め穹を見る。手加減なしで鳩尾に蹴りを入れたので相当痛かったに違いない。そういえば今日履いているのは安全靴だった、と今更ながらに思い出す。


「一応聞いておくけど何の用? 内容次第では見逃してやってもいいけど」

「……」

【胡散臭いですよその言葉】


 黙り込んでいる男の代弁をするようにシーナが突っ込みを入れる。それはそうだ、逆の立場だったら絶対に信用しない。しかし警察を呼んで面倒ごとに巻き込まれるのはもっと嫌だったので嘘はなかった。ただでさえ死人が出て警察が一度来ているのだ。次来られたら絶対に目をつけられる。犯罪を誘発しているとかなんとか理由をつけて営業停止処分にしてくる気がする。かといって男をただ逃がすことなどできない。

 一応警備システムをくぐってドアを開けてきたのだからそれなりの腕を持つハッカーなのだろう。ウロウロしていた相手のパートナーを掴み電源を落としておく。音声や合図でセキュリティをハッキングされたらたまったものではない。その考えは合っていたようで、電源を切られてあからさまに顔をしかめ舌打ちをした。

適当に脅しておくのは必要だろうな、とどんな手を使おうか考えているとようやく男が口を開く。


「……死人が出ただろ、この店」

「出たらしいな、俺はいなかったけど」

「そいつ、知り合いだったから。何かこの店に手掛かりないかと思って……」

「一応言っておくけどな、嘘はいかんぞ少年」


腕を掴んで背中に回しそのまま地面へと押さえつけた。警察が犯人を取り押さえるときに使う体勢だ。わざと曲げる方向をきつくすればバタバタと足を動かし必死に逃れようとする。


「いて! 痛い痛い!」

「俺がここにいなかったって聞いてカマかけたんだろうがそう甘くねえなあ。使用記録や個人登録見たけど誰かと連絡とってなかったしこそこそ隠れて何かやってからバレたくないことしてたんだろ。そいつがいつどこで何するってわざわざ誰かに言うか?」

「もともと教えてもらってたんだよ!」

「ほー? じゃあその死んだ奴が違法行為してたのも知ってるな、店の機材設定いじって隠れ蓑にしてたみてえだけど。じゃあお前はお仲間で、やっぱ犯罪者ってことになるな。不法侵入と偽計業務妨害と電子計算機損壊等業務妨害罪と信用棄損罪で前科付きになるな、おめでとう。少年法は適用されない年齢で良かった」


 穹の言葉に男はみるみる青ざめていく。先ほどの誰かと連絡を取っていた様子はないというのも使用者が犯罪行為をしていたというのは嘘だし、口にした犯罪名はほとんど適用されないだろうとわかっている。せいぜい不法侵入と計算機損壊の業務妨害くらいか。

 むしろ穹が傷害罪で訴えられてもおかしくないのだが、この状況でそこまで頭は回らないだろうしそんな余裕を与えるつもりはない。


「もう一回だけ言うぞ。嘘はやめろクソガキ。何しに来たんだ」


腕に力をこめれば悲鳴が上がる。やりすぎると骨が折れるかもしれない。


「イテエよ! 知り合いなのは嘘だったけど店調べに来たのは本当だって!」

「何でお前が店調べる必要がある」

「死んだ奴と同じふうになるかもしれないから! 死にたくないから! そいつがその時何してたのかとか調べたくて!」


痛いから話してくれ、と涙声で訴える声がうるさいので少しだけ力を緩める。それより今かなり気になることを言っていた。


「意味わからん、病院行ってこい。頭の方な」

「本当なんだよ! ゲームやってたらそいつ死んで、調べたらリアルでも死んでたから! 俺も同じ状況だから!」


―――なるほど。沙綾型のゲーム舞台にいた奴か―――


 ちらりと手を見れば手の甲に赤い傷跡のようなものがある。形ははっきりしないが沙綾型の文様だったのだろう。あの時痛みを感じていたのは二人だが、おそらくどちらもリッヒテンに殺されている。となると普通の参加者だったのだろうが手にうっすら跡が残っているのならそういう体質に変化しつつあるのかもしれない。傷ができたことでVRの出来事がリアルでも起こると知り、VRで死ねばリアルでも死ぬと思いついていてもたってもいられなくなったのだ。


―――どうするかな。こいつ調べても何も得られることはなさそうだが、うろつかれても面倒だ―――


「データ類は全部消したしここ調べに来ても特に何もない。うちは死人が出て大迷惑かぶったばっかだからな、この件でこれ以上何かするつもりならマジでサツにブチこむ」


 そういうと言い返しはしなかったが悔しそうだ。できれば自分で調べたいのだろうがデータを消されたとなると復元が必要となる。そんなことを許すつもりはない。何がどう転んで穹の情報が漏れだすかわからない。先ほども店のセキュリティ内でいろいろやったばかりだ。


「よくわからん事言ってたけど、死ぬかもしれないならそのゲームやらなきゃいいだけだろ。お前はゲームやらねえと死ぬのかよ」

「……」

「わかったらお家へ帰んな。窃盗目的じゃないなら見逃してやる。今回だけな」


反撃が来ないよう気をつけながら男の上からどいた。そして捕まえていたパートナーを少しいじり男の方へと放り投げる。


「今何したんだよ」

「お前の個人情報をコピーして保管した。これくらいの保険はかけておいてもいいだろ。何かあった時用に」


 しっしっ、と追い払う仕草をすると男は唇をかみしめると無言で走って出ていった。ドアについたままの器具もちゃっかり回収していく。ドアを乱暴に閉めていく様を見て一応しめるんだな、と変な感心をしてしまった。

しん、と静まり返る中シーナがふわふわと飛んで穹の目の高さまで来る。


【よくあれだけスラスラと法律名が出ましたね】

「何をするとどんな罪で捕まるのか調べておくのは常識だろ」

【覚えるきっかけになった経緯を考えると威張れることではありません。それより良かったのですか、これで】

「今回はしゃーないだろ、警察絡む方が本当に嫌だ。リッヒテン目撃したにしてもあの様子じゃ何もされないままお開きになったみたいだし。あいつがこの後ゲーム続けて死のうが生きようが知ったこっちゃねえよ。さて、今度こそ帰るか」


腹減ったし、とドアに近づけばボゴ、と鈍い音がした。


「……」

【……】


 今度の音は小さい。しかも割と下の方から聞こえるので、小さな子供が体当たりでもしているかのようだ。ボゴ、ボゴとリズミカルに一定の間隔で音が聞こえてくる。靴などの固いもので蹴っているという感じでない、音が先ほどと違うので少し柔らかいものが当たっているような感じだ。


「ちびっこいガキがヘドバンしてたらどうしよう」

【ドアを閉めて帰ればいいと思います】

「さっきくらいの奴は全然気にしないけど、さすがに年端も行かない幼児を無視するのはちょっと」

【オカルト話に出てくる人形みたいなのが相手でも同じこと言えますか】

「それはまず蹴る。よーしわかった、蹴る準備しとくわ」


 無意味に蹴りの素振りをしてボゴ、という音が聞こえた瞬間を見計らい勢いよく扉を開けた。建物側に開くので相手に激突することはなかったが、何かがコロンと転がってきた。それは止まることなくコロコロと転がっていき、ぺしょっと手足を投げ出して止まった。


「パートナー?」


 姿を見せたのは小型ロボットだった。全長は膝の高さまでもないだろう。丸いフォルムをしたいかにもロボットのお手本のような姿をしている。手足は伸び縮みが可能なワイヤーの束のような素材らしく柔軟性がある。器用に手足を動かしむくりと起き上がった。


【……お? おおお? 開いた! やった、努力の賜物!】

「俺が開けたんだ」


足で後ろから踏みつけると【ぶげっ!】と謎の声を発してその場にうつぶせのまま踏まれる。そして手足をバタバタと動かして一応抵抗らしい動作を見せた。


「へえ、珍しいな。攻撃されて悲鳴を上げるっていう学習してんのかこいつ。持ち主の趣味か?」


 人工知能は痛みを感じないので悲鳴を上げたり思わず声を上げるという事はしない。わざわざそういう設定にしておけば出すが、基本悲鳴や痛がる様子など見たい人間はいないのでそんな設定をする者はいない。いるとすれば究極のリアリティを求めているスキモノだけだ。


【こら、誰だか知らないけど足をどけなさい、失礼でしょ!】

「人工知能に説教された……」

【とりあえず足をどけてみてはいかがですか。無害でしょうし、話をしてみましょう】


 シーナに言われ足を退けるとロボットはむくりと起き上がって穹を見上げる。そして器用に腕を組み足は大きく開く。それはまさに世間一般で言うところの「これから説教をする母親」のようなポーズだった。妙に人間臭い仕草でふんぞり返るその姿は、はっきり言ってまったく迫力がない。


【君ね、いきなり後ろから踏みつけるとかどういうつもりなんだ】

「お前は人の店に体当たりしていったいどういう了見だ」

【さっきの人はドアを殴りまくっていたら開けてもらえたみたいだから同じことすれば開けてもらえるかなと。ああこら、掴むな掴むな】


 ぐわしっと頭頂部を鷲掴みにして持ち上げるとプラプラと手足が揺れる。この個体も軽量化が進んでいるようだがさすがにシーナほど軽くはない。シーナは必要最低限の性能しか持っていないのでかなり軽量化されているが、ある程度生活に必要な機能を搭載したボディとなるとそれなりに重さがある。ボーリングの玉並には重いので家事機能がついているのかもしれない。


「お前のご主人様はどこだ、引き取ってもらうから連絡しろ」


 パートナーは基本持ち主から離れることはない。遠距離操作ができるようにすれば離れて別行動をすることもできるがパートナーは持ち主の個人情報の宝庫だ。そんなものを独り歩きさせる猛者はいない。性能を制限して子供に着ける親はいるが、こんな行動をするのが子供につけておくパートナーとは思いにくい。


【いないよ】

「はあ? 何でお前は活動してるんだよ」

【パートナーは持ち主が死亡すると自治体が回収して個人情報をリセットした後廃棄処分になるはずですよね。何故あなたは動いているのですか】

【持ち主が死んだという意味じゃなく、最初からいないんだよ】


手を器用にぐっと親指を立てる形にすると得意げだ。それを見届け、穹は電話を準備する。


「えーっと、廃棄処分場……」

【待て待て、ちょっと待ちなさい】


手足を振り回しながら一応抵抗しているようだ。穹の手には届かないのでまったく抵抗になっていないのだが。ひょいっと顔の前まで持ち上げるとさらに暴れる。


「お前は今法令違反だ。大人しくリサイクルされて人感センサーついた便座の蓋にでもなってろ」

【そこはせめて次の人工知能として生まれかわれとかじゃないかな! ちょっと、君の持ち主かなり失礼だよ】

ビシっと穹を指さすとシーナに向かってそう言った。

「やかましいわ」

【すみません。彼の思考は一般人のものと若干異なるので慣れるまでは話の5割を差し引いて聞いてください】

「お前も乗るんじゃねえよ」


ふわりと飛んで逃げようとするシーナの尻尾をもう片方の手でつかむ。おかげで電話はできなくなったが最初から電話する気はない。ジタバタともがく2体の丸っこい物体を掴みながら穹はため息をついた。

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