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鉈は8個、何かに当たらないと止まらないらしく避けてもすぐにぴたりと止まりすぐに穹目がけて飛んでくる。公式ルールなら避ける回数によって強制的に終わるがここはそういうわけにはいかない。このまま避け続けていても永遠に終わらないだろう。いつまでたってもこちらのターンが来ない。
―――やってみるか―――
思いついたことがあるので鉈を誘導しながら移動しランダムに大ジャンプをしながら避けていく。最初は鉈を見守っていた相手もだんだん痺れを切らしてきたのか鉈の数を増やし、プログラムに手を加えたのだろう。規則的だった鉈の動きが不規則でトリッキーな物へと変わり動きが読みづらくなってきた。
―――鉈の動きのプログラムを変えたってことは、こいつ今このスキルと直結してるな―――
それを確信してから一気に動きを加速して駆け抜けた。今の速度ではぎりぎり間に合わない。
―――遅い、もっと速く―――
わずかにかばうと回避スキルの内容が歪み、0と1の配列が変わる。ほんの少し、時間にすれば1秒もないくらいだが少しだけ回避速度が変わった。視界に0と1の羅列が一瞬映り回避モードのコードが変わったことを示した。シーナが穹の顔を見上げ息をのんだようだ。
【穹、目が】
「夜みたいだって言いたいんだろ、“知ってる”よ」
【やはり、今のあなたは】
仕様スキルのコード変更など今この場で普通はできない。このスキルを作ったのが穹だったからできて当然なのだが、回避運動モードという集中力を欠かせない状態の中でそれができるのは人ではない、人工知能だけだ。今相手の人工知能だってそれをやってみせたのだ、不可能ではないしこの場所ではそれがルール違反ではない。
一気に速度を上げるとすさまじい速度で、相手の人工知能へとつっこむ。そしてすれ違う瞬間、ぴたりと止まった。
《え》
【え?】
人工知能とシーナが戸惑った反応を示す。穹が何をしようとしているのか理解できないのだろう。
「人なら読めるぞ、この後の展開」
そう告げると再びトップスピードでその場を飛んだ。相手には消えたように見えたかもしれない。体勢を低くして相手の斜め後ろへと飛んだのだ。その場には一斉に鉈が飛んでくる。穹の回避速度に追いつけず、鉈は止まることなく沙綾型目がけて突っ込んできた。
一瞬迷ったようだ。軌道を変えるのと自分が避けるのと、そこまで考えて自分に当たってもダメージはない事に気づきこのままでもいいのではないかと。結局ソレは動かずに鉈がすべて飛んでくるのをそのまま放置した。
すさまじい音とともに鉈がすべて相手のいるところに突き刺さる。相手のライフはまったく減っていないのは穹にもわかっている。止めたかっただけだ、鉈の動きを。
あの鉈は何かに当たるまで動き続けるというプログラムを組まれていたはずだ。昔のゲームならもっと単純なプログラムで、相手が攻撃を仕掛けた時対戦相手のライフを攻撃力分削るという指定だった。もしこのパターンだったら絶対に穹にダメージがいっていた。
しかしアンリーシュのような脳直結型ゲームはより演出を重視しており、攻撃開始からダメージ判定、ライフの減少率とコードが細分化されている。このダメージ判定部分というのはターン制なら確実に相手に攻撃がいくという前提のもと組まれているので使ったプレイヤーにその攻撃が来るという事はありえない。その前提が成立しないこの場所ならダメージ判定の部分は「攻撃が当たる」というだけになっている。
それは誰に、何に当たってもいいのだ。攻撃は使った人工知能目がけて飛んでいき、人工知能が判定に迷いが出たので対処が遅れた。結局人工知能に当たったが当然ダメージまではいかないが、攻撃が当たったと判定され鉈は止まったのだ。
人なら、あの展開は読めたはずだ。漫画で、どこかのバトルで、必ず一度は目にしている。しかし相手もシーナもわからなかった。当然だ、人工知能はそういう教育をしていなければデータとして入っていない。
アンリーシュは「人」が行うバトルだ。人工知能をバトル特化した教育することは禁止されているしパートナーにそういう教育はできない作りにもなっている。だから人工知能は何度戦っても戦い方を学ぶことができない。しかしそれはあくまでシーナのような通常の人工知能だ。人の制限から外れた沙綾型は過去何度も数多くのバトルを見てきて学ぶ機会があったはずだ。実際熊はそれをうまく使おうとしていた。
コレは何も学ぼうとしなかった。プレイヤーたちを散々戦わせておいてその戦略を見ようともしていなかった。だから前のトーナメント式の戦いの時穹が人とは思えないようなスキル破壊をした時もおかしいと気づかなかったのだ。
「相手の攻撃は失敗、俺の番」
かばうを使うと次のターンに制限が起きる。防御ができなくなるのだ。今は穹のターンになったので穹とシーナのスキルを交換することができない。次に相手が穹に本気で攻撃してきたら確実に穹は攻撃を受けダメージを受ける。
穹は持っていたライフルを右手だけで拳銃のように構えて見せる。現実であれば銃身や重さで真っすぐ構えることなどできないがそこはゲームの世界だ、まるで怪力にでもなったかのようにしっかりと掴んで目の前に構えている。いつの間にか瞳も元の色に戻っていた。
―――自分の戦略じゃないのが―――
「なんか癪だけど、まあいいか」
そういうと銃スキルを使うことなく、一気に沙綾型目がけて突っ込んだ。
《え》
まさか銃を持ったまま突っ込んでくるなど思わなかっただろう。そして距離が目と鼻の先まで迫ったところで相手は防御を選択する。防御は非常に細かい沙綾型の壁のようなものだ。それを銃で思い切り殴りつけた。
【穹!】
シーナも思わず声が出たのだろう。銃の武器を持ったまま「殴る」スキルを使ったのだ。銃を持っていても殴るのは打撃武器でなければ意味がない。銃で殴った演出になっているが実際は素手で殴った威力しか反映されない。穹の攻撃を受けたことで相手のカウンターが発動する。
―――カウンターは全部で129種類。防御をしてから使えるのは補助効果の41種類、今この場で有効なカウンターは能力値アップ以外とすると1ターン捕縛、攻撃力半分の反射、毒、相手スキル把握、ターン制時限式異常効果が12種類。この中で使うとすれば―――
「反射攻撃」
穹の言葉が終わると同時に壁が光り穹が持っているライフルと同じものが現れる。そして勢いよく穹に向かって横なぎをするように大きく動いた。攻撃ターンの穹は回避できない。脇腹に思い切りライフルのバレルが当たる。
衝撃としてはそれなりに固い棒でひっぱたかれたという感じだ。殴るスキルには攻撃力増加や追加効果など一切つけていない、ただ殴っただけだ。そして反射は攻撃をそのまま返すのではなく相手の反射する攻撃の攻撃力半分の値を相手に返す。殴るだけの攻撃はもともと大したことないうえその半分となると何も問題ないレベルだ。一応痛みはあるが激痛ではない。これで他のスキルをつけていたら骨折くらいはしていただろう。
穹が銃攻撃をしてくると思ってつけていたのだろう。貫通など諸々着いた射撃スキルを使っていたら今頃穹はハチの巣だ。ダメージが大したことなくても重傷を負っていた。
沙綾型は何も言葉を発しない。目まぐるしく戦略図が変わっていき、最初のころよりもだいぶ戦略パターンが増えた。一つを思いつくとまたすぐに変え、また変えてを繰り返す。
(ああいうのを動揺してるっていうのかな)
ぼんやりとそんなことを考える。
―――人工知能が動揺。笑い話にもならない―――
馬鹿馬鹿しい、とその考えを切り捨てる。自分の持っているデータにないものと対峙をするとき答えが出るまで選択し続けるのが人工知能だ。じゃんけんをグー、チョキー、パーを使って勝負をするとプログラムをした場合、どれにも当てはまらない4種類目の何かを相手が出して来たら勝ちも負けもあいこも判断することができない。
人なら何それ、じゃんけんじゃないと笑いながら冗談で流すことができる。しかし人工知能はそれができない。まず認識できず相手が「何も出さなかった」と判断し勝負が成立しないとしてやり直しを要求してくる。決められたプログラム通りに動かない物に対して、とても弱い。
【穹、無茶をしないでください。今私には庇うスキルがないのです】
「だから一番弱い攻撃にしたんだろ。シーナ、今から指定するスキルをあと2つセットしておけ。お前からは攻撃するな。絶対カウンターが来るから」
【わかりました。……、このスキルでいいのですね】
指示したスキルを見てシーナが確認をしてくる。今持っている武器とスキルがあっていないことに疑問を感じたのだろう。シーナは武器として銃とナイフを持っている。そのどちらにもつけるスキルが入っていないのだ。
【まさか私にも同じことをやれと言わないですよね】
「言わねえよ、同じ手が通じる相手じゃない。まあカモフラージュだな」
ナイフは出していないが銃はすでに装備としてつけてしまっている。沙綾型はシーナも銃で攻撃してくると思っているはずだ。
「おい、その16番目の戦略間違ってんぞ」
すさまじい勢いで戦略を作る沙綾型に穹は突っ込みを入れた。その言葉に戦略図はぴたりと止まり作っていた戦略をすべて消し去る。
「お前さっき俺が戦略下手だのなんだのって言ったから戦略図が見えてるのかって焦ったな。だから確認するためにあえて囮の戦略図をさらしておいた。俺がそれを見てシーナを徹底的に防御する戦い方したら俺には見えてるから、囮の戦略で罠にはめる。見えてないようなら他の戦略立てる。さっき俺がシーナ庇ったから戦略が見えてるって思って必死こいて組み立てしてたみたいだけど、一応言わせてもらうとな。ちゃんと“全部”見えてるからご心配なく。あと16番目の組み立ては違う、それやったらお前ダメージ受けるから」
すらすらとそんなことを言えば沙綾型はどんどん織り込まれて小さくなっていく。やがて手のひらに乗るほどの球体になるとその中で何かを組み立てているようだ。ここからではさすがに中の様子は見えない。
「それできるなら最初からやりゃあいいのに」
―――まさか見られてるなんて思ってなかったんだろうけど―――
「おい、もう30秒経つけど終わりそうか?」
そう声をかけてすぐにシーナのターンが終わり沙綾型のターンとなる。
―――さて、ここのターンを凌げるかどうか―――
こんなにもうまくいかないとは想定していなかったはずだ。穹の体が多少傷ついてもいい、もうこれ以上時間をかけずさっさとケリをつけにくる。処理能力は相手の方が上、一体何個のスキルを発動させてくるのか。
【穹、何故あえて相手に教えたのです。あのまま勘違いさせておけばこちらの戦略が立てやすかったのでは】
「それができるのはこのターンだけだ。一回でも相手の裏をかいたら気づいて戦略変更されるからアレを次のターンで倒せる攻撃パターンがないときつい。かといって相手の戦略を知らない振りし続けて凌げるとも思えない」
【しかし教えてしまうことにメリットは? 例え一回でも凌げればまだ】
「そのメリットは後で出てくる。それが圧倒的に不利なこの状況でアレに勝てる唯一の材料だ」
圧倒的不利、という言葉にシーナが思わず穹を見る。その様子を見て穹は淡々と告げた。
「俺が有利に見えたか? そりゃ気のせいだ。水鉄砲がマシンガン相手にサシで戦ってるような状況だぞ、相手がまだ様子見してるからたまたま俺の戦略が通ってるだけだ」
【そうだったのですか。私の認識に修正が必要ですね】
―――随分と人間みたいな認識してたんだな。人工知能なら普通は俺が負けると思うはずだ。俺がユニゾンだってことを考慮してるのか。そのことをシーナはかなり柔軟に受け止めてるんだな―――
相手のターンとなり沙綾型がわずかに振動する。おそらく今かなりの数のスキルを発動しているはずだ。さすがにもう戦略図は見えないので相手がどう来るのかわからない。いくつか対策は考えてあるがあまりにも心もとない。




