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アンリーシュ  作者: aqri
ユニゾン
37/105

3

防御の壁に阻まれて糸は壁を越すことができず、すぐに本体の方へと引っ込んでいく。


「次はあっちの番か。ターン制はそのまんまなんだな」


 穹の言葉に前を向けば、沙綾型がぐにゃりと歪み次々と織り込まれていく。そして何かの形へと変化していく様子が見えた。織り込まれた沙綾型は一本の糸のようになり、それが複雑に編み込まれ丸い形が作られていく。ボールかと思ったが違う。人の頭部だった。


【人?】

「さっきの写真の奴、かな」


 見れば確かに写真の人物と顔が似ている。写真自体はわかりづらかったし今目の前にできた顔も光の線の集合体で骨格だけを表しているような状態なので同じ顔かどうかの判別はつきにくい。しかしその顔に目ができると真っすぐ空を射抜いてきた。


《君か。あの時いたのに気が付かないだなんて》


淡々と話しているようだがどこか悔しそうな雰囲気ではある。それはそうだろう、極上の獲物を自ら帰してしまったのだから。


《この状況でそれだけ冷静でいるってことは。君はお仲間か、ユニゾンかな?》


 ユニゾン。その言葉は初めて聞くが、おそらく人工知能と人の中間の存在を言っているのだろうというのはわかる。特殊体質者だったらここはどこなのかと慌てたり、先ほどの糸を避けることもできず呆然としているうちに体を奪われそうになっていただろう。それを避けて防御までしたのだ。どれだけ頭が悪くても自分と同系列だということには気づく。


―――さっきのコンソールで会話してたのを感知されてたんだな。画像確認とコンソールについてたマイクが勝手にオンにされてて音まで拾われてたってことか。俺が沙綾型を知ってるってことは過去招き入れた人間だから体を乗っ取れる素質の持ち主だと思って強制介入してきたってところかな―――


 本来はゲームを通してじっくり自分と相性のいい人間を選別しているのにそれをせず穹を引っ張り込んだ。今思えばあの沙綾型の刻印は特殊体質者すべてに痛みが伴ったわけではないのだろう。特殊体質者の中でもあの刻印に痛みを感じた者がより相性が良かったのかもしれない。そしてバトルを重ねることでさらに感度が増すか、他の素質者たちも特殊体質に変化させておくことで何かあったときの体のスペアとしてキープしておくつもりだったのだ。それだけじっくり時間をかけて選別しているのに今回のこの事態は手あたり次第になっている、焦っているのだ。そこまで慌てる必要があるというのは死者が出ている時点で予測がつく。急がなければならない事態が発生しているのだ、今現在も。


「あー、リッヒテンに見つかって壊されちゃったか」

《……》


 穹が退出した後、たぶんあのバトルがリッヒテンに見つかったのだろう。この顔の持ち主の体を使おうとしたところで先手を打たれて殺されてしまった。そこで慌てて近くのセキュリティに逃げ込んだのだ。

 リッヒテンは殺意を持ってはいない。余計なものを排除しただけだ。しかしAPの時のように実際に人を殺す事をまったく厭わない。人を傷つけている、殺しているという認識そのものがないのだ。データをデリートするように、そこに在る物を“どうにかしている”に過ぎない。


―――人を傷つけない制限がまるでない。そういう人工知能がもう生まれてしまってる。これでリッヒテンに人に対する悪意が芽生えたら最悪なことになる―――


いや、おかしい。これは矛盾している。APの時はまったく意識せず考えようともしていなかったがこれは重大な事実だ。


―――どうしてリッヒテンは人を殺せる。人工知能を探す役割なら人が制御しているはずなのに。人工知能を探すためなら人殺しをしていいってアンリーシュ運営が容認しているのか? 特殊体質者も探しているのに。おかしい。リッヒテンは一体誰のモノなんだ―――


【この様子だとあの時いたもう一人も死亡しているのでしょうね】

「そうだろうな。一度あいつに目をつけられたら逃げられない、たぶん目印でもつけられてる。だから手近なところが欲しいんだ」


呑気に二人で会話をしていると豚だった人工知能の周りに複数のウィンドウが現れる。


―――戦略図か―――


「シーナ、ライフルスキル俺にまわせ」

【穹が戦うのですか】

「この状況じゃもう俺はプレイヤーとして認識されてる。攻撃は俺、ガードはシーナ。ルール通りならチーム戦だ、俺の後にお前でいい。それにしても少ないな」


 熊がリッヒテンを相手にしたとき文様から戦略図が見えていたが、もっとあったはずだ。熊はリッヒテンと戦いあっさりと破れ連れていかれた。豚はゲームセンターのセキュリティに逃げ込むことに成功した。この差は一体どこにあったのか。


―――リッヒテンに戦略で勝てるわけがない。何をどうやっても勝てないのは人工知能ならわかるはずだ。それなら最初から戦わないという選択肢もある。そうか、戦略じゃなくて背走図が得意なのか―――


 今は穹相手に逃げる必要はない。むしろ絶対に穹を捕らえたいはずだ。それなのにこの戦略の少なさは戦うことを望んでいないように見える。

 穹のような体質者はバトルで傷を追えばそれが体に再現されてしまう。ライフが残っていても演出として致命傷となる攻撃を受けてしまえば、現実世界に戻ったときに死にかねない。


「ああ、つまりアレか。お前今俺を殺しかねないスキルしか持ってないのか。使えば俺の体が壊れかねないってことか。コエーな」

《……》

「俺が防御やろうかな」

【穹、危険です。致命傷にならない攻撃はいくらでもあるのですよ】

「大丈夫だ。当たらなきゃいいんだよ。あいつ戦略へたくそみたいだし」

《好き勝手言ってくれるよね、君》

「対リッヒテン戦しか持ってないんだろ、お前。逃げる方に特化した背走図はたくさんあっても戦略らしい戦略はあまりない。でも万が一リッヒテンと戦った時勝てるよう仕込みはしてるみたいだけど、それやると俺の体が壊れる」

《え?》


不思議そうなリアクションをされたがこの隙を逃すわけにはいかない。“ルール通り”ならば、もうアレのターンは終了だ。


「30秒経ったな、俺の番」

《!》


 言いながらライフルを構えプログラムの一つに狙いを定める。相手は素早く移動して照準を合わせられないようにしているが、別に動き回る相手を追わなくても次にどの場所に来るか予測すればいいだけだ。

 数秒間スコープを見つめ相手の行動パターンを見てからトリガーを引いた。今穹は相手のスキル破壊をつけている。たった一発しか撃っていない。それでもその一発は相手の糸の一本に当たる。


《どうして!》


動揺した声が響く。当たると思っていなかったのか、当たったスキルが一番当ててほしくないスキルのコードだったのか。間違いなく両方だ。


「ああ、一発じゃだめかやっぱ。じゃあ消えるまで撃つまでだ」


スキル発動の制限はない。命中上昇、攻撃力2倍、貫通を発動させ改めてトリガーを引く。スコープから見える映像の他に穹の周囲に言葉では説明できない情報の集合体が現れ一斉に動き出す。


―――スキルのプログラム。スキル発動に制限がないのはすべて自分で処理しなければならないからか―――


 アンリーシュはプログラムが重いせいで処理を分けるために条件があり、その処理をアンリーシュが行っている。この空間はアンリーシュではない為自分でその処理を行うのだ。人工知能が限りなく有利で、人は通常通りにしか戦えない。人工知能の為の空間だ。


―――4個並列が今の俺の限界だな。5個目以降は俺一人じゃ無理だ。シーナにやらせたらプログラムの処理だけでバトルそのものができなくなる―――


 プログラムを処理しつつ考え事をしながらバトルをするのはそれなりに骨が折れる作業だ。それでも穹は狙いを定めるとトリガーを引いた。ボルトアクションだというのにまるでオートマチックのようにすさまじい数の弾が撃たれていく。人間相手ならオートマチックでもいいが相手は人工知能だ、大人しくスキル破壊を見守るわけもないのでボルトアクションで攻撃する。

 1秒間に8発という数が当たり相手も緊急性に気づいてカウンターを使ってきた。途中で防がれてしまったが先ほどのスキルに3秒間あてられた、24発撃ち込めたはずだ。


―――仕込みは済んだが、どう出るかな―――


《やってくれる。やっぱりユニゾンは一筋縄じゃいかないか》


相手の形が変わる。人の頭の形から再び沙綾型へと変化した。本気になった、ということだろう。


【穹、今まで人工知能と本気で戦ったことはありません。十分注意を】

「そうなんだよな。今まで俺は見てきただけだ」


―――参考にできるものはない。夜とハッカーは夜が一方的過ぎたし夜はスキルを一つしか使ってない。熊とリッヒテンは実力が違いすぎて俺には無理だ―――


 順番で言えばシーナのターンだ。攻撃はせずにスキルを3つつけておき防御に徹した。この今この場でスキルを使うには穹による処理が必要となるが、大した条件ではないし戦っていれば達成されるものなので手はつけないでおく。むしろシーナの次に来る人工知能のターンの時の対策に他のスキルを使うためその処理をする必要がある。

 ルールなどあってないようなものであるこの場所でのバトルは今までの常識が通じないと思っていい。まして相手は演算能力で言えば穹のはるか上を行く。戦略が下手だとは言ったが、人間の戦略下手と人工知能の戦略下手はレベルが違う。唯一特徴があるとすれば。


「まあ、人工知能とプログラムは融通がきかないからな」

【先ほども言っていましたが、どういう意味ですか】

「この後の戦い全部シーナに任せたとして、俺がてきとうに勝っておいてって言ったらどう戦う」

【てきとうに、と言われましても。勝つことにてきとうはありません、100%確実に勝てる方法を組み立てます】

「そういうのだよ。負けるかも、上手くいかないかも、無意味だ、っていうのは選択肢から除外するだろ。だから扱いやすいし読みやすい。ああ、だからリッヒテンは強いのかもな。あいつは他の人工知能の一歩先を行く。次世代型ではないにしても、そういうのもすべて計算に入れてるなら」


そこまで言って穹は黙り込んだ。今、とても嫌な予想が頭に浮かんだのだ。


【穹、30秒経ちますので相手のターンが来ます】

「……。ああ」


相手を見据えるとクラゲの触手のようにウネウネと糸が動き始め戦略図を組み立てているようだ。見れば内容までしっかり表示されていて、穹ではなくシーナを攻撃し防御の役割を壊してから穹に攻撃をする戦略がいくつか書かれている。


(どうしてこう、人工知能ってバカなんだろうな)


 呆れながらライフルを肩に担いでシーナを振り返る。ついでにシーナにつけているスキルを一つ穹のものと交換した。正式ルールでもスキル交換は可能だ。ただしこちらが攻撃ターンではないことが条件だ。今は相手の攻撃ターンなので問題ない。


「シーナ」

【はい】


 相手の攻撃。二人の周囲に鉈のような刃物が現れランダムに動きながら一度弧を描いて空高く舞うと一直線に二人めがけて飛んでくる。シーナが穹に当たらないように鉈の方を向くが穹がシーナの肩を掴んだ。


「何もするなよ」

【え?】


 穹はシーナを抱き上げると回避運動モードに入る。飛んできた鉈を二つ避けると一気に空間を飛んだ。相手のターンなのに穹が動いたことに相手は理解できなかったのだろう。辺りに怒号のようなものが響く。


《ルール違反だよ!》

「ちげーよスキルだよ。実行してる時点で問題ないんだから気づけ、アホか」


穹が先ほどシーナと交換したのは庇うスキルで、こちらにつけた時に回避の自動発動をつけておいた。今攻撃ターンではない穹にとってスキル二つの処理はたやすい。

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