表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンリーシュ  作者: aqri
ユニゾン
36/105

2

「死んだって、何で」

『さあ? 時間過ぎても出てこないなーと思って確認したらぐったりしてたから救急車呼んだ。誰か警察呼んでくれたみたいでいい迷惑、やっとさっき帰ったんだ。お片付け手伝って』


 お片付け、とは掃除をしてくれという意味ではない。ゲームセンターのゲームは違法データを使う客も少なくない為店に迷惑がかかりそうな記録やデータはすべて消している。それがたとえ個人情報であろうがまっとうな重要データだろうが「面倒ごとになりそうな種はすべて消す」が店のモットーである。


「俺に言うってことは、つまりそういう客?」

『海外サーバーをいくつか経由して台湾からアクセスしてたみたいなんだけど、なんかハッキングされたっぽいんだよね』

「先に言え」


 通話を切ってチョーカーをつけると急いで店へと向かった。入口には本日は閉店しましたと表示されている。騒ぎがあり警察も来たので運営どころではなかったのだろう。店員用の裏口から入ればバイトが一人と店長がスタッフルームでモニターを見ていた。穹に気がつくときらきらと輝く笑顔で迎える。


「よくぞ参られた、我が精鋭よ」

「どんな状況?」

「穹クン冷たい」


店長を完全に無視してバイト仲間にそう聞けば彼は重い溜息をついた。


「侵入されたのは間違いないんだけど何か被害があったかっつーとそれはないんだよな。アラート機能とかあらかた壊していったみたいだけど」


 穹が操作を代わりいくつか確認したが、確かに重要部分には来ていない。セキュリティがいくつか壊されていて穴だらけなのでひとまずそれは埋め、診断プログラムを並列して調べたが拍子抜けするほど何もなかった。


「店に被害はないな。セキュリティくぐってくるほどだからそうとう腕はいいんだろうが。っていうかこれ、ハッキングされた時間って結構前だぞ」


穹の言葉に店長が時間をチェックする。


「あー、ちょうどお客さんが死んでるってわかってバタバタしてる頃だ」


呑気にそんなことを言われたが穹はじっと画面を見つめたまま黙り込む。


「お、穹クン特有の考える人モード」

「なんですかそれ」

「穹クンって考え込むときじっと一点見つめて黙るんだよね。だいたいそういう時って名探偵みたいないい案浮かぶから重宝してます」


 店長とバイト仲間の会話は一応聞こえているが無視して穹は店のセキュリティレベルの設定を変更した。これまでのセキュリティ管理は管理会社による設定の下だ。一番スタンダードで当たり障りのない設定だったが、一度ハッカーに目をつけられるとしばらく侵入を繰り返される可能性もある。そういった事を管理会社に連絡しても形だけの対応をされて終わるだけのような気がするので、一応侵入者対策の対応を変えておくことにした。


「じゃあ俺このまま後片付け入ります」

「はーい、お願いねー。あ、先帰っていい? 今日見たいテレビあって」

「あっはっは、死ね」


 そんな店長と穹のやり取りを笑いながら見ていたバイト仲間は先に帰り、店長は本当に先に帰った。店長もそれなりに機材や電子関連に強いのだが一応店長と穹の得意分野は分かれていてデータの整理やセキュリティは穹が担当だ。こういうことを任せているのだから当然穹がハッカーであることは気づいているだろう。ただそれをはっきりと聞かれたことはない。気づいていて、深くは突っ込まずにお互い利用しているだけだ。

 穹がたまに店の機材を使って裏取引やハッキングをしていることも黙認しているようだし、面倒なことを避けるのが二人の間にできている暗黙のルールだった。見たいテレビがあるのが本当かどうかは知らないが、表面上は「ここには自分はいなかったから穹が何をしていたか知らない」というための方便でもある。


 誰もいなくなったゲームセンターの中、コンソールを使って機材の設定を確認していく。死んだ客が使っていた部屋の機材と履歴を見れば、最後にアクセスしていたものの記録がごっそり抜けていた。ゲームを開始して1時間何もアクセスしていないはずはない。消したのか、消されたのか。消される意味もわからないので誰かに見つからないよう履歴などが残らないようにしていたのかもしれないが不自然だ。

 もう少し掘り下げて調べてみれば誰かとチャットをしていたようだ。ログを追おうとしたがそれも消されていた。これだけきれいに消されていれば人に見られたくないことをしていたと宣伝しているようなものだ。

 嫌な予感がしてアンリーシュにアクセスしたか確認したがその形跡はなかった。念のためヘッドセットの設定も見てみるが、これといっておかしな設定にはなっていない。という事はこの客は特殊体質者ではなかったという事か。


―――設定を勝手に変えられてなければ、だけどな―――


「シーナ、客が死んだ事ニュースになってないか」

【検索します。……なっていますが、オカルト関連のジョークニュースになっています。詳しい内容よりもこの店が呪われているようなことが書かれていますが】

「いいよ、内容は?」

【この店の詳しい場所や名前は出ていませんが、死亡した人の写真が上がっていますね。救急車が来るまで人だかりができてしまったようです】


 シーナが画面をコンソールに転送しそれを確認する。誰かが小型端末で撮ったものをネット上に載せ、どんどん転載されてニュース記事にまでなったようだ。写真には人だかりの隙間から個室で倒れこんでいる人が見えるが、野次馬が多く手ぶれもあってあまりうまく映っていない。


「この個室は確かにこの店だな」

【穹、気になる箇所があるので拡大します】


 シーナが部分拡大した映像を転送してくる。それは死亡している人物のある一部を拡大したものだった。それを見て穹の目つきが変わる。


「こいつの手」

【手の甲、何か刺青のようなものがあるように見えます。このままではわかりづらいので補正をかけますか】

「いや、いい。もうわかった」


そこに写っていたのは文様だ。少し見づらいがこの形は見覚えがある。


「沙綾型だ、どう見ても」


 地下に行く途中で巻き込まれた裏バトル。まるで選ばれた者にのみ与えられる称号のように手の甲に刻まれた。ぴったりと敷き詰められたパズルのような規則正しい並びで織り込まれている模様だ。あの時痛みを感じていたのは二人だった。そのうちのどちらかという事だ。


―――何故死んでる。あの豚と体が合わなかったのか?いや、待て。問題はそこじゃない。ハッキング、消された履歴、侵入者がいなかった、穴が開いただけのセキュリティ。これは―――


 部屋の中にアラートが鳴り響く。侵入者を知らせるセキュリティが目まぐるしく防御構築をするが次々と破壊、突破された趣旨の内容が画面に出てくる。コンソールを使って対クラッカー用トラップを仕掛けるが、おそらく無駄だ。


【穹】

「シーナ、ヘッドセット設定!」


 何か言いかけたシーナを遮って穹が叫ぶ。シーナもその指示に瞬時に反応し意味を考える前にそれを実行した。穹は立ち上がりドアの方に向かおうとしたが一歩遅かった。

 コンソールから蝶が舞う。それは地下街で見た時と同じ、数えられないほどの無数の蝶だ。パタパタと飛んでくるのではない、まるで穹の後ろに強力な掃除機でもあるかのように一匹も逸れることなくすべて穹へ向かってものすごい勢いでくる。避けられるはずもない。


目をゆっくりと開く。真っ暗なそこはもう何度か来た場所だ。

今、とても頭が冷えている。冷静と言えば聞こえがいいが、心があるのかないのかよくわからない状態だ。人であり人工知能の面もあることを考えれば、現実世界が人間でこちらのVR世界では人工知能の考えになるようだ。


【穹】


シーナの姿はアンリーシュのバトルモードだ。あの時設定したままのゴスロリドレスのような恰好になっている。いつおかしなものに巻き込まれてもいいようにスキルや設定は変えておいたのは正解だった。


「ハッカーは豚だ。たぶんセキュリティに穴をあけて中でひたすらやり過ごしてたんだろう。俺たちはそれを知らずに穴に蓋をした。家の中に強盗が入ったとも知らず玄関に鍵をかけたんだな、間抜けすぎる」

【そうだったんですね。どおりで荒らした形跡がないわけです】


 データを消したのも不自然だった点もすべて豚の仕業とみて間違いない。嗅ぎつかれないように怪しいものをすべて消して、店のセキュリティの中に隠れていたのだ。スーパーコンピューターと同じ能力を持つ次世代型の探査機能から逃れるにはそれしか方法がないのだろう。考えて見れば至極当然だ。

 ふっと目の前に小さな光が現れ、光の線となって複雑に折り重なっていく。それは沙綾型だ。そして沙綾型がさらに重なっていき、やがて一つの大きな沙綾型となる。まるでDNAの二重螺旋図のようだ。


「ずいぶんとまあ、様変わりしたな。豚から幾何学模様になってやがる」

【これが、あの時の豚ですか】

「本来がこっちだ。豚は文様を隠すための外装、お前のその衣装みたいなもんだ」

【穹】


 シーナの目から見ても今の穹はいつもの穹ではない。表情はなくひどく冷めた目をしていて温かみという物がまるでない。始まる前にシーナにヘッドセット設定を指示したのでかろうじて今穹はシーナとリンクすることでヘッドセットをしている時の疑似体験ができている。しかし本当に着けている場合とはやはり感度が違う。今この空間は穹に多大な影響を与えているのだろう、完全に人工知能としての穹になっている。


それでも今こうして話している穹はシーナの持ち主「穹」である。赤の他人でも何でもない。


 紋様から糸のようなものが伸び、穹に向かって伸びてくる。それをすれすれでかわすと糸は軌道修正をして再び穹へと向かってきた。


「シーナ、スキル使ってみろ」

【アンリーシュのですか】

「ああ。たぶん効くはずだ。プログラムは融通きかないからな」


 まるで確定事項であるかのようにはっきりと言い切る。今はゲームをしていないし疑問は多々あるが、シーナは言われた通り実行をする。


【これは】


 アンリーシュであればスキル発動は条件をクリアしなければ使うことができない。しかし今条件を一切無視していきなり使うことができる状態になっている。使ったのは防御力を上げる効果で、穹の体が傷つかないことを考えての選択だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ