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アンリーシュ  作者: aqri
ユニゾン
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1

―――どれだけ試行錯誤しても最終的判断は是か否か。選択肢が多かろうが少なかろうが選ばなきゃいけない。選択肢が多いことが優秀ってことじゃない―――


 選択肢がいくら多くても、何が最善で正解かなど誰にもわからない。自分にとって良いことが最善なのか、大衆から見て良いことが最善なのか。一個人としての存在を認められず大勢の為に作られた人工知能という観点から見たら一体何をどうするのが正解なのか。その明確な答えなどどこにもないのかもしれない。初期型人工知能の正解はいつだって人が導き出す。人の考えが正義であり正解であると教え込まれる。それがない次世代型というのは、ただひたすら思考するだけの存在だ。


―――何のために考える。何のために存在する。そいつは一体どんな答えを導き出しているんだ―――


 例えばメリットもデメリットも大差ない、違う結末を迎える選択肢が3つあったとして、果たしてどれを選ぶだろうか。人ならその時の気分や面白そうなものなど理由が曖昧なものから、後でダメージの少ないものというような具体的な選定理由があるものまで多種にわたる。それは経験の差、人格の差など選ぶ材料となる物は様々だ。初期型人工知能ならおそらく答えは常に一つしか選ばない。選択の材料は過去同じようなことがあったかどうか、それを選んでどうなったかという“過去”を材料にしたものだ。その時成功したか失敗したか、事例で物事を判断する。こういう時こうだった、は人工知能の基礎となっている。


 では次世代型は。未来の可能性を瞬時に想定し、数十種類もある未来の可能性をすべて計算で出すことができるものは、何を理由にその答えを選ぶのだろうか。初期型とは真逆の考えだ。過去どうだったから、ではなく未来を見据える。それを選んだらどんな未来がまっているのかをすべて計算しつくす。

 パンドラの箱の中身をすべて知っているようなものだ。知っていたら開けるだろうか?災いばかりでなく希望もちゃんと入っていると知っていたら、最後まで開けてちゃんと中身をすべて出すのだろうか。それともろくなものがない、たった一つしかプラス要素がない希望の為にそんなリスクは負わないと開けないだろうか。

目に見えず考えていることもわからない。理解できない相手程、恐怖を感じる。


「ま、ビビったら負けだよな」

【恐怖を感じたら冷静で正常な判断が鈍ります。穹はいつものようにふてぶてしくいれば良いと思います】

「ありがとよ。聞き逃しそうになったけど今の褒めてないよな」

【褒めるつもりでは言っていないので確かにそうですが貶す意味で言ったのでもありません】

「可愛くねえなあ」

【私に可愛げを求めるのならまず穹が可愛くならないと無理です。私は穹を参考……に……すみません、可愛い穹を想定したら思いのほか気持ち悪いのでやっぱりいいです】

「殺すぞ」


弾んで逃げようとしたシーナを捕まえて両手で挟むとぎりぎりと力を込める。逃げようと必死に羽を動かしているが当然びくともしない。そんな何気ないやり取りが今の穹にとっては救いだ。

忘れることも、なかったことにもできないのだから。


【そういえば穹、結局寝ている間に着ける予定のパーツなどはどうしますか、まだ買っていませんが】

「そっちはあんまり意味ないっぽいからいい。アンリーシュやるときにあのヘッドセット使えばだいたいなんとかなるし、無理に引っ張り込まれるのは夜か宵だ。こっちはもうどうしようもないからな」


アンリーシュが光と音を使って”変えて“来るのならそれを遮断するほかにない。それができるのは現状あのヘッドセットだけだ。


「シーナ、ヘッドセットの設定内容出せるか」

【はい】


 シーナに頼んで穹のパソコンに出してもらうとかなり細かい設定が並んでいる。店で扱っているヘッドセットなどおもちゃのように感じてしまうくらい複雑で専門用語も多かった。シーナに同期を頼んだ時あっさりできたので簡単なのかと思ったがそういうわけでもないらしい。


【何をするのですか?】

「この設定はヘッドセットの心臓だ。万が一ハッキングされたり俺以外の奴がモジュレートして勝手に設定変更されたらたまらないからな、プロテクトかけておく。あと音響機能の一部をイヤーカフに移しておく。これで音に関してはこのヘッドセットしてなくてもカフだけで調整できるはずだ」


 イヤーカフに設定を移そうとすると、設定上ではこのヘッドセットかなりの高音域まで対応していることが分かった。念のために使用履歴を見てみれば、この高音域に達したことが何回かある。日時を見るとすべてアンリーシュをやっていた時だ。眩しいと感じている時は異常だと思ったが、聞こえない音には気づくことができない。


「特定の音域を聞こえにくくする設定に変える必要がありそうだな」

【補聴器の逆ですね。その設定は私がします】

「俺のイヤホン頼む」


 シーナがヘッドセットの設定をコピーし、穹の持っている骨伝導イヤホンと同期をする。耳から音が入った場合耳の中で空気が振動して鼓膜が音を拾い脳の聴覚神経へ音を伝える。しかし骨伝導はこの振動を直接頭蓋骨に伝えて聴覚神経に伝えるので通常のイヤホンのように耳の穴をふさぐ必要がない。外部の音とスピーカーの音両方を聞ける特徴があり、自転車や歩行者の間で広まっている。昔は耳の近くでなければ使えなかったので耳や首にひっかけるタイプが主流だったが、技術の進歩によりアンクレット型なども出ているくらいだ。穹が持っていたのは安物なので首に着けるタイプだったが、これはこれで都合が良い。


【穹、設定するまでもなくこのイヤホンではこの高音域は出すことができません】

「マジで。買っとくもんだな安物」

【せっかくなのでイヤホンの設定は私の中に入れておきます。バイト先のようなことがあってもいつでもこれで同期できますし】

「ああ」


 今できるのはこれくらいだ。一度変わり始めた体質はおそらくもう戻らない。それならこれ以上悪化しないようにするしかない。チョーカーなら寝ている時つけていても気にならないし、一日中つけていても違和感ないだろう。音響設備を使えばゲームの外でも特定の音を出せるのだから町中にいるときも気を付ける必要がある。となると、チョーカーはずっとつけていなければならない。


「あんま好きじゃねえんだけどな、首に何かつけるの。首輪みてえだし」

【何故買ったのですか】

「首にかけるタイプはダサくて人気がないから一番安かった」

【そういう考えがまだまだ私には理解できません。安くても好みでないのなら買うという選択肢はありませんけどね】

「失礼な。聞けりゃなんでもいいっていう考えのもとならおかしくないだろ。金があったらお前自分のボディを最新型にしたいと思うか」

【確かに使えれば特にこだわりはありません。なるほど、そういう言い方であれば納得できます】


軽く流したがそろそろシーナの性能も上げておかなければならない。何せ相手は大企業で技術においても格段に上、しかも一部は人間ではない。たった一人と人工知能一つでどうにかなるとは思えない。


―――性能上げて勝てるわけじゃない。上げれば上げるほど不利になることもある―――


 スポーツで弱い相手に勝っていけばいずれ周りは強い相手しかいなくなってしまう。そのなかで頂点に立てる者などごく限られている。ハッカーを相手にするときと同じだ。強固なセキュリティにすればするほど相手はこの先に何があるのだろうとムキになって破ろうとしてくる。これだけすごいものに守られているのならさぞ大切な物があるのだろうと好奇心をくすぐってしまう。程よくごまかすには。


「結局最後はケースバイケースなんだよな。相手にいかに俺があほで相手にするだけ無駄だって思わせるかは俺の小細工にかかってるってことだ」

【今後の方針ですか?】

「そ。まあ何事も力技でねじ伏せるより嘘ついたりごまかしたり隠したり最終的に逃げるのが一番楽」

【他の人工知能たちもそうしていますね】

「やり方は下手だけどな、見つかってるしわかりやすいし」


 日本紋様が次世代型に関わっていた人工知能たち特有のものならわざわざそれをさらけ出すのは何故なのかが理解できない。隠しておけばいいものをと思うがそれくらい彼らにもわかっているはずだ。


―――本気出す時あの文様出るんだよな。演算力上げたりセキュリティ上げると自動的に出てくるものなのか―――


 猫と熊は公式戦で対峙した時お互いの文様を認識したはずだ。だから熊はAPの体を使うのに少々強引な手に出たのだろう。結局リッヒテンには見つかったようだが。肉体を得る為の手段がアンリーシュしかない人工知能たちにとってはハイリスクハイリターンな手段だと思う。


―――だいたい肉体を得ることがそこまで合理的で有効な手段か?いや、これは俺が肉体を持っていて完全な人工知能じゃないから言えることか。ネットのプールに埋もれることがもっとハイリスクな可能性もある。次世代型が想像つかないほど優秀なら、そいつの体内にいるようなものだ。デメリットというよりも、単純に恐ろしいだけなのか。感情があるとは思えないが―――


人工知能の感情はあくまで形式的なもの。この状況ではこういう感情を表現するのが正しいと、プログラムの元動いているに過ぎない。人のように冷静な判断ができなくなったりトラウマになったりという事はない。


―――恐怖は感じなくても、脅威は理解しているか―――


 絶対に勝てない相手。どうすれば勝てるかを考えるだけ時間の無駄とさえ言える、電子世界の絶対的存在だ。だったら同じ舞台から降りるしかない。そういう判断をしなければならない学び方をしてしまっているのだ、人工知能たちは。

 シーナが保存した人工知能が持っていると思われる文様をすべて見る。熊が持っていた毘沙門亀甲、豚が持っていた沙綾型の他に「輪違い」「麻の葉」「籠目」「七宝」「霞」がある。


「霞も人工知能のマークなのか」


 あの店でパスワードを見つけるきっかけとなった「霞」。てっきり木目に一番近い模様を選んだだけなのかと思っていたが違った。大切なものにわざわざつけたくらいだ、この文様を持つ人工知能は何か意味があるように思える。良い意味でなのか、悪い意味でなのかは知らないが。


【穹、バイト先から連絡が来ています】


考え込んでいるとシーナがふわりと飛んで傍までくる。内容は明日シフトに入ってほしいという内容だ。


「また急だな」

【先日のイベントの影響で利用者が増えたのでは】

「利用者っつっても個室にブチこめば後は利用時間まで出てこないようなのばっかだぞ、受付は自動だし俺らがやることってそんなにないはずだけどな」


言いながら一応確認のために店長に連絡を入れる。文章のやり取りが面倒なので穹は直接話す派だ。通話アプリを起動させるとすぐにつながった。


『あ、穹クンよかったー。明日と言わず今来てくれると助かるかな!』

「おやすみなさーい」

『ああああ待って待って待ってください!お願いします来てください』

「何スか」

『客が一人死んだ』

「おやすみ」


そう言って本当に通信を切れば速攻かけ直してくる。ウゼエと思いつつ取れば「特別手当出します!」と叫んできたので一応話を聞く。

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