表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンリーシュ  作者: aqri
グロード
34/105

20

 ゆっくりと目を開けると穹の顔を覗き込んでいるシーナがいた。辺りを見渡し、自分の部屋だとわかると再びシーナを見る。シーナはふわりと胸の上に移動すると目の色が黄色に点滅する。黄色は心配している時だ。


【布団に横になった途端意識を失いました】

「ああ、ちょっとひっぱりこまれてたな。相手は宵だ」

【何がありました】


 今経験したことをシーナに説明した。シーナは話を聞き終わった後目まぐるしく目の色が変わり最終的にいつもの色に落ち着く。人間でいうところの目を回したような状態だろうかと思っているとようやくシーナが羽を動かしてふわりと動き始める。


「おい、大丈夫か」

【腕があったら頭を抱えているところです。整理します。人は人工知能を作り、次世代型人工知能も作った。その中間となる人と人工知能両面を持つ者も存在する。それが穹、夜、宵。名づけは望、ということは穹は望を知っていた可能性もある。いくつかの人工知能によるクーデターを利用した次世代型人工知能の策によりクラッシュが起き、次世代型人工知能を制御する人工知能は巻き込まれ死亡した人とともに消滅。あっていますか】

「あってるあってる」

【穹、疑問が残ります】

「俺も残る。言ってみ」


穹が言ってもよかったがシーナの考えに興味があったので先を促した。たぶん穹と考えていることは同じだ。


【一つ目。穹のような人と人工知能の中間の存在はアンリーシュ、いえ、グロードを作った人間たちによって生み出されたと考えていいでしょうか】

「だろうな。遺伝子操作されたもともとの肉体があったんだ。スパコン並みの人工知能作っちまうくらいだからその辺は世間一般で認識されてる遥か先まで遺伝子研究が進んでるとみていい。ただ20年前の事故でその体はたぶん使い物にならなくなった。だから別の人間に移ったんだ。俺が生まれのが19年前と考えると1年時間のずれがあるって思ってたが妊娠期間は10か月だ、母親が妊娠初期だったなら胎児に影響が出てたのかもしれない」


母親の体内チップを通じて母体自体に影響はあったはずだ。その影響が胎児にも伝わり、体の部位が作られていくうえでまず脳に影響が出ていたとすれば。


「ファンタジーな言い方だが、チップと母体の影響を通じて俺が次の命に生まれ直したって可能性はある。シーナ、胎児って体のつくりは頭からできるんだったか?」

【はい。妊娠2か月までは胎児ではなく胎芽と呼ばれる、人の形を形成している段階です。できる順序としてまず頭部、この時すでに中枢神経が形成されています。人にとって重要な器官から先にできますので、胴や目などはもっと後にできます】

「ってことは、最初からそういう脳ができてるなら特殊体質になるべくして体が形成されるわけだな」


 特殊体質者は人と人工知能の中間である存在がもととなっているという事だ。その概要を製作者たちは知っているからアンリーシュに特殊な信号を使って体質変化を促すことができるのだろう。

 そういった者たちがそれに合った設計の機材を使えば、現実世界にも影響が出やすい体質と変化する。アンリーシュ公式戦で使われている機材はその設計が盛り込まれていると考えていい。


【グロードを運営していた者は形を変えただけで結局アンリーシュを運営しているということですね。これは想定内なのでいいとして。この件最大の疑問ですが、次世代型は自分を制御していたものを消して自由を得た。今“それ”は誰も制御できない、人類にとっての脅威なのでしょうか?】

「そこが俺にもわからん。そもそも次世代型は自由を得て何がしたいのかわからない。SF映画みたいに人間を支配するとか滅ぼすとか、わかりやすい目標掲げててくれりゃいいんだけどそれがないからな。表舞台に出てきてないか、わからないようにすでに活動してるか。どっちにしろ今俺たちには直接ソイツが見えない」


 世の中自動制御や人工知能が入っていない機械はないと言ってもいい。パートナーやペットなど、人とコミュニケーションをとるものだけが人工知能ではない。信号は混雑状況を見て点灯時間を変え、タクシーやバスは自動運転、農業も畜産も管理システムからロボットまですべて人工知能が入っているからできることだ。電子レンジも湯沸かしポットも携帯端末も、家電から治療に使う体内に入れるミクロマシンまであらゆる物に人工知能はある。それをハッキングするのも制御するのも次世代型なら可能だろう。しかし今のところ不具合や違和感があるような事件事故は起きていない。


「人工知能から見れば間違いなく人間は取るに足りない存在だ。奴隷にしたいとかそういうのは思わなさそうなんだが。次世代型だからわかんねえな」

【私にも想定不能です。私たちと同じ世代ならその考えはまず必要性を感じない事ではありますが、人のような柔軟的考えをできるようになったのなら私にはわかりません。これが人で言うところの最近の若いモンの考えてることはわからんってやつですね】

「いや、まあ、そうなんだけど何か嫌だなその言い方」


そんなところは人間っぽくならなくていいんだけど、とやや呆れて突っ込む。シーナは気にした様子もなく次の問いかけをしてきた。


【次の疑問です。人が逃げた人工知能を捕らえたいのは、人工知能たちが人に対して悪意を持って接する可能性があるからでしょうか】

「それもあるんだろうがどうなんだろ。次世代型を制御してたやつの補助だったんだろ、逃げた人工知能って。あわよくばその役目に戻そうとしてるのかもな。でもクラッシュが起きて20年か、もう次の制御バージョンができててもおかしくないな。じゃあ単に放っとくわけにはいかないからか?」


それでなくとも重要な役割を担っていた人工知能はすべて死んでいる。それなら完全に次世代型は人の手を離れ制御不能となっているはずだ。それなら自分の弱点も何もかも克服しているだろう。今更旧型の人工知能を戻したところでシステム上敵うわけがない。


―――いや、違った。一つだけ残っていたんだ、重要管理の人工知能が―――


 穹の見た記憶、記録。どちらなのかわからないが、あのクラッシュ時に吹き飛んできた一人を助けた。糸のようなものをつないで命……おそらく構成プログラムを守ったのだ。でも結局その後どうなったのかが思い出せない。たぶんリアルでは思い出せないのだろう、宵の言っていたあの空間。どこかにアクセスしないとだめだ。しかし現状穹にはどうやってアクセスするのか、どこにアクセスするのかがわからない。夜、宵は知っている。それに引っ張り込まれている時だけが唯一あの場所に行けるときだ。


「もし本当にあと一つだけ制御管理の人工知能が残っているなら、次世代型は今かろうじて人の制御に収まっている可能性がある。だったら運営側は何が何でも最初から設定されていた人工知能が欲しいはずだ」

【なるほど。6つは消えてしまっていても、最低あと9つは残っている。それを使って6つの人工知能の穴を埋めたいわけですね。そうなるともう一つ疑問……いえ、もうこれは確認です。穹】

「ん」

【その9つは、穹のような人と人工知能の中間である特殊体質者であるという認識でよろしいですか】

「全員がそうってわけじゃないだろうな。逃げた“人工知能”がいるって考えると、人工知能と俺みたいなやつ二種類が行方不明なんだ。俺や夜達が人工知能っぽくなればなるほど次世代型のパーツとしては連中にとっては都合がいい。しかも無限に広がるネット世界じゃなく、肉体を持ってればまだ人にとっては捕まえやすい。だからリアルとオンライン両方監視しろっつてたんだなあのおっさんたち」


アンリーシュで公式戦を見た後最初に見た夢。あの時誰が見つかったのか知らないが、結局そいつは逃げ切れたのだろうか。


―――夜は明らかに人工知能か同じ存在に対して敵意を持っていた。あれは人か次世代型に渡さないために壊してたんだ。デリートじゃない、完全な分解。だから体を少しずつかみ砕いてたのか。でもそれを俺にはやらなかった―――


 それをやると不都合が生まれる、この考えには夜も同意してた。でも緊急時はそれをやるとも言っていた。リスクがあるから避けたいが、連中に連れていかれるよりはまだマシといったところか。それなら夜は警戒しておいた方がよさそうだ。


―――それに俺の行動が筒抜けみたいな言い方もしてたな。相手の考え、いや、人工知能的考えが伝わる特性だって言ってたのか。あの糸みたいなもの、つながっていることでお互いがわかっていた。リンクしていたんだ―――


 人で例えるなら神経から血液から何もかもが共有されていたようなものだ。次世代型人工知能、それを制御する7つの人工知能、それをバックアップする人工知能と両者共有型の人。全員が繋がりリンクしていた。

それがクラッシュによって一度切れているが、繋がりやすい状況にあるのかもしれない。


「夜とはアンリーシュで会ってその後2回コンタクトがあった。宵は俺の場所を教えてもらって初めて会った。何かしら接触が必要なんだな、俺たちは。一回リンクが繋がるとその後ずっとつながるのか」

【その考えだと、豚の姿をした人工知能ともいつでも会えることになります】

「あ」


 思わず天井を仰いだ。言われてみればそうだ。そしてそうなるとさすがに相手も気づく。穹は自分と同じような存在ではないかと。


「あの豚が肉体手に入れてれば俺に害はないけど、手に入れるの失敗してたら俺に襲い掛かるフラグだな」

【とてつもなく嫌な可能性が浮かぶので、いつ奇襲を受けてもいいようにしておきましょう】


 最早ランクにあったスキルだけをつけておくわけにはいかない。穹が自分で作った設定にし、いつでも全力で対応できるようにしておかなければ最悪の事も在りうる。


「いつどこから来るかわからんから忍者に命狙われてると思っとくか」

【豚野郎にカラダを狙われていると思った方がより臨場感も危機感も増しますよ】

「お前最近言うようになったな」


顔を引きつらせながら言えばシーナはパタパタと羽を動かす。羽を動かすのは喜んでいる時の動作だ。


「おい、喜ぶな褒めてねえから」

【私の思考パターンは穹を参考にしていますので。穹に口で勝てたのなら穹に近づいているという事で、人に近づいているという事です】

「あ、そ」


 そんな微妙な内容で人に近づかれても困る、というのが正直な感想だがシーナが喜んでいるようなので水を差すのはやめた。呆れてシーナを撫でていたが、シーナがちょこんと頭の上に乗った。


【穹】

「んー?」

【香月潤さんと望さんの名前は私も記録しておきます。デリートできないようロックをかけておきます】

「そうしてくれ。シーナ」

【はい】

「ありがとな」

【……どういたしまして】


 一瞬、間があってからのシーナの言葉。今穹がどんな気持ちで礼を言ったのか考えたのだろう。こうして自問自答しいくつかのパターンから答えを導き出すのがパートナーに搭載された人工知能の特徴だ。

 それを刹那の間もなく答えを導き出してしまうのが次世代型だとしたら、それにはわからないことなどないのではないだろうかと思う。疑問がないのなら探求心もない、理想も現実もすべて把握してしまっている。人のような柔軟な考えを持っているとしていたが、もしかしたら究極の二択性的考えしか持っていないのではないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ