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アンリーシュ  作者: aqri
グロード
31/105

17

「なあ」

【はい?】

「俺って人の体を乗っ取った人工知能だと思うか」

【……】


その問いにシーナはすぐには応えなかった。おそらく今までの情報を整理してその可能性があるか演算しているのだろう。シーナは人工知能だ、気遣ったり嘘をついたりしない。事実そのままを言ってくれる。


【様々なパターンを考えましたが、行きつく答えは同じでした】

「へえ?」

【こんなてきとうな性格設定の人工知能がいるはずありません】

「ひでえ言い方だな」


思わず吹き出してシーナを抱き上げた。少し撫でるとパタパタと羽を動かす。


【穹、あなたは確かに人工知能のような考え方をするときがありますが、それはあくまで人工知能っぽい考え方であって人工知能そのものではないように思えます。あなたの言動や判断には常に感情が入ります。時には私が理解できない、人間であるが故の非効率的考えや誤った選択をすることがありました。それが人として生きることで得られたというのなら、あなたと共に長年過ごしてきた私もまったく同じ性格になっているはずです。しかし私は貴方と同じ考えだとは思いません】

「そうか? 結構同じ考えに行きつくことあっただろ」

【私は肉じゃがを作ろうとして肉がないからと言ってサバ缶を入れませんし、サボテンに水をやらなさ過ぎて枯らせることもありません。洗濯後の服やタオルを毛布代わりに寝ようと思いませんし、何よりオンラインネームをたこ焼き太郎にはしません】

「お前のたこ焼き太郎に対するディスリはすげーな」


けらけらと笑ってシーナを撫でた。事実としては確かにそうなのだろう、シーナの回答は至極まっとうだ。


―――グロードが次世代型人工知能によるサービス、だったか。次世代型ってのがひっかかるが……―――


 自分がその次世代型だとは思っていない、それはおそらくない。ただ、自分が人工知能である可能性は保留にした。シーナはああ言ってくれたが、世間一般に出回っている人工知能と今回の件の人工知能は明らかに演算力が段違いだ。普通の人工知能の常識は通じないと思っていた方が良い。もしかしたら人間っぽい者もいるかもしれないし、それに夜が最初のハッカーと会話をしていた時に言っていた。


お前こんな状態のこいつにも負けたのか


こんな状態のこいつ、は穹の事だ。つまり今の穹は取るに足らない能力しかないという事になる。よくしゃべる九官鳥のように考えが漏れているとも言われた。自分の状態を理解せずコントロールできていないのが今の穹だ。


―――まあそれは人であっても言えることだから、やっぱりどっちだかわからないな。後回しだ――――


人ではないかもしれないという事実に少しだけ傷ついている事が、人であるが故だと思いたい。

プツンと音が鳴った。なんだ、と思い姿勢を直すとパソコンの画面が真っ青になっている。


【ブルースクリーン?】

「一定時間起動するとデータ消去でもするんじゃねーの」


穹がそういうと本当にパソコンは勝手に動き次々と英字が流れていく。書かれているコードはすべてのデータの分解だった。


「分解。デリートじゃねえんだな」

【デリートは正確には消してしまう事ではありませんからね。必ずバックアップが残っています。それを残さない完全消去の意味ではないでしょうか】


あまりデータは入っていなかったようだ。ものの1分ですべてデータを除去し最後にto completeの文字が出る。そして画面が消える瞬間、文字が見えた。


「シーナ、今の見えたか」

【はい。1秒ありませんでしたが捉えました。書かれていたのはおそらく住所です、番地がありませんので地下街のどこかでしょう。店の名前が3つ記載ありましたのでそこがすべて見える場所として検索します、……、地下街の北にある場所です。住所の最後に漢字が】

「宵闇の宵って字だな。普通に考えりゃまあ、手紙みたいな感じで名前で締めくくってるって思うべきか? ……まさか」


シーナのUSBをパソコンにつなぎ起動する。おそらくデータはすべて消えたがまだわかることがあるはずだ。


【何を調べますか】

「今このパソコンがハッキングされてたかどうか。今の住所、おっさんが残したもんじゃなく他の奴からのメッセージである可能性を調べる」


パソコンのキーボードを使いながらシーナにはセキュリティのチェックを頼み侵入された形跡を調べる。幸いデータが消えただけでネットワークは生きているようだ。しかし調べていてすぐにおかしいと気づく。


「初期化されてるな」

【はい】


まるで今初めて使う新品のパソコンのようにすべてが初期設定になっていた。様々な設定も最後に更新したのがすべて20年前になっている。初期化しただけでは更新履歴までリセットはされないはずだ。ただの初期化ではない。


【先ほどのデータ消去の際そうなるように設定されていたのでしょうか】

「そうなったらもうウィルスだろそれ。おっさんならデータ消去くらいはしそうだけどこんな変な初期化までするか? 必要ないだろ。ってことは、やっぱこれは他の誰かの仕業って考えていい。俺が調べても侵入形跡がわからないってことはもうルートクラックされてるうえに全部きれいに改ざんされてる」


 もしそうなら先ほど送られてきた住所、今このタイミングでそれが送られてきたのなら、今そこを調べることに意味があるはずだ。調べると何がわかるのだろうか、今でなければならない意味は。

 罠だろうか、とかそもそも誰がこんなことを、そんなことは確かに頭に浮かんだ。しかし気づけば体が動いていた。シーナをパソコンから自分のベルトに繋ぎシャッターを少しだけ開けて外の様子を窺う。誰もいないことを確認すると急いで外に出て、念のため建物の中を通りながら目的の場所へと走った。


【穹、大通りを行った方が早いです】

「わかってる」


 それだけ答え、大通りには出ずにそのまま建物同士を勝手に入りながら進む。一応念のための配慮だ。わけのわからないメッセージを頼りに行くのだから待ち伏せや罠を考えて、人目のつかないところを選んでいく必要はある。窓から窓へ飛び移り階段を降りて隣のビルの裏口から入ると使われていないフロアを突っ切っていく。

 二階に上がり走っているところでふと外を見れば自然と目に着いた。店の常連客が数名、店の方に走って行く。それはやけに目立った。顔見知りが急いで走り抜けるさまだったからかもしれないが、今穹が行こうとしているところから走ってきたからだ。そして全員の表情が見たことのないものだった。


必死だ、歯を食いしばり眉間にしわを寄せている。その顔に嫌な予感を抱きながらとにかく急いで目的の場所へと向かった。


 たどり着いた場所は人が出入りをしていない、地下街の中でも特に荒れた場所だった。書かれていた3つの店はとっくに潰れていて看板が残っているだけだ。ゴーストタウンのように荒れ果てた建物と薄汚い道路があるだけの、本当にゴミ溜めだ。3つの店の看板が見える場所というのは案外広い。半径100メートル以上はありそうだ。

 自然と穹は目立たない場所、見づらい場所を中心に歩き回っていた。何かを示していたのなら大っぴらに見える場所ではなく目立たないところだと思った。何を探しているのかもわからないまま歩いたが、ある一角に複数の足跡があるのを見つける。何故足跡があるとわかったのか、それは足跡が濡れていたからだ。何か液体を踏んだのだろう。その湿った部分を指でこすってみれば、土と混ざって入るが赤茶色の液体であることがわかる。


調べるまでもない。血だ。


 すぅっと心が冷たくなる感じがした。何の感情もわかない、頭の中がやけに冷え切っていて寒い。

 足跡の方へと歩いていく。丁度小さなビルとビルの間、袋小路となっている場所だった。その場所のさらに死角となっている大きなコンデンサーらしき物の影に……彼はいた。横たわっているが足はおかしな方向に曲がっているし口からも鼻からも血が溢れている。そんな彼のいる場所はまるで雨上がりの水たまりのように赤い液体がたまっていた。

 明らかに致死量とわかる量だ。まるでペンキをぶちまけたかのように地面にもそうだが壁にも飛び散っている。ここまで散るのは頸動脈が切れたのだろう、首のあたりがどす黒くなっていた。


「……」


 今ここに来なければならなかった理由。店に入ってパソコンを調べてる時からしていた嫌な予感。それらがきれいにぴたりとはまる。式から答えが得られたかのような、そんな清々しいとさえ言える完璧な「答え」だ。


【……穹。まだ、息があります】


一瞬ためらったようだがシーナがそう告げる。熱センサーから生体反応を見たのだろう。穹は静かに彼に近寄ると耳元に口を寄せた。

何を言おうか考えたが、これしか思い浮かばなかった。


「俺は望みたいにならないようにする。大丈夫だ」


その言葉が聞こえたのかはわからない。ひゅー、と空気の漏れる音をさせながら一回大きく息を吸って、そのまま。

彼は動かなくなった。それを見届けると穹は踵を返す。


【穹?】

「店に戻る。あいつらなのは間違いない」

【彼は】

「このまま」

【しかし】


何か言いたげなシーナを静かに見下ろす。そこに表情はない。


「埋葬でもするか? それとも今警察呼んで現場検証でもしてもらうか」

【……。いいえ】


 それだけ言うとシーナは黙った。穹もそれ以上は語らず大通りを通って店へと向かう。そんなことをしている場合ではないし、無意味だ。優先順位は今店に戻って確かめることだし埋葬も警察も余計なトラブルを作るだけなのでやるべきではない。警察など関わったら穹を犯人に仕立てていつ刑務所から出れるかわかったものではない。しかしそれは人工知能の考えだ。


【穹。貴方の心は今人ですか、人工知能ですか】


心がどちらか、など。人工知能に心などないというのにおかしなことを聞くな、と思ったが口には出さなかった。今はそんなことどうでもいいから。


「さあな? 別にどっちでもいいけどな。ただ」

【ただ?】

「人工知能なら、ああいうことをしたやつをブチ殺してやりたいとは思わないんじゃねえの」

【……、はい】


シーナを一度撫でると脇に抱えて一気に走り出す。店までそれほど遠くはない。

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