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アンリーシュ  作者: aqri
グロード
28/105

14

 いつもと違う場所から入ったせいで店が少し遠い場所から地下へと入る。馬鹿正直に道なりに歩いていら時間がかかるので建物の非常階段やビル同士の屋上を飛び乗って近道をする。途中で下に降りて裏の路地を駆け抜けていくと、目の焦点があまり合っていないチンピラが追いかけてきたが鼻で笑って速度を上げて撒く。


【相変わらず危険な事をしますね】

「あんなヤクやってぼろ雑巾みたになった奴に捕まるかっつーの」

【捕まる可能性はゼロではありません。中毒者は力の加減もできませんし話が通じません。穹が負けることも起こりえます】

「そうかあ? これでも喧嘩にはちょい自信あるぞ?」

【体格差はどうしようもありませんから。穹は同年代の男子平均よりち、小柄ですし】

「今ち、って言ったよな。ちってなんだ、チビと小さい以外だったら許すから言ってみろ」

【答え言ってるじゃないですか。あと最終的にいきつく答えは同じですよ。要するに小人ってことです】

「小人ってお前……そう来るか。あと俺そこまでちっちゃくねーぞ、四捨五入すれば170センチだ」


怒る気も失せてむしろ脱力する。どうせ国語辞典を検索したのだろうが少し予想の斜め上だったので突っ込むタイミングをなくした。


【計算するならともかく事実として出ている身長を何故わざわざ四捨五入するのですか】

「あ、ハイ」


 もっともな事を言われて返す言葉もない。コンプレックスというものをシーナに説明してもわからないだろうしシーナが分かっても何の得もない。これでシーナが学習して身長の事を励ましたり慰めたりしても虚しいだけだ。

 はあ、とため息をついていつも通る大通へと抜ける。ようやく通り慣れた道へと出たので小走りで店へと向かったが、シャッターが閉まっていた。


「やってないのか」


珍しい光景に思わずつぶやいた。穹がこの店に来るようになって3年ほど経つがシャッターが閉まっていることなど初めてだ。来れば必ず開いていたし定休日など特になかったのでなんだか年中無休なイメージだった。


「出かけてんのか?」

【店主もご高齢ですし、疲れるときもあるのでは】

「そーいや忘れてたけどおっさん結構年だった」


なんとなく最強なイメージがあったので具合が悪いとか疲れたとか考え付かなかった。穹でさえ気が乗らない時もあれば疲れ切っている時もある。個人経営なのでいつ休むかは店主の自由だ、これくらいは普通の事だ。


―――本当に?―――


【穹?】

「……。ちょっと常連客探してみるか」


 店に行くと誰かしらは必ずいた。品ぞろえもよく閑古鳥状態ではなかったのだ、何か事情を知っている人がいるかもしれない。周囲を見渡したが見覚えのある顔はいない。少し歩いて探したり店の近くで誰か通らないか待ってみたが、結局顔見知りは見つからなかった。


【穹、何か気になるのですか】

「いや……なんだろうな。別におかしなことじゃないはずなのに妙に不安っつーか」

【店主が心配だということですか】

「体調とかじゃなく。そうだな……何かあったんじゃないかって。何かある材料なんざ知らねーけど」


そう話す穹の心境は嘘ではないようで確かにひどくストレスを感じているようだ。生体データの乱れをシーナは感知した。


【穹、今日はもう帰りましょう。先ほどの事もありますし、今日は休むべきです】


 シーナの提案に少し迷う。もともと常連客たちの名前も知らなければ店主が普段店以外で何をしているのか知らない。このまま待っていても何かわかるとは思えなかった。まず現状何とかするためにも寝るときにつけられるパーツの入手は必要だ。地下街で手に入らないのなら多少高いが普通の店で買ってしまうのも手だ。


「そうだな。今日はやめとくか」


踵を返して元来た道を歩き始める。店の前を通ったとき改めて店の外観を見たが、2階もなく住居スペースがあるとは思えない。あの店主は店とは違う場所に住んでいるのだろうか。


「あのおっさんってどこに住んでたんだろうな」

【店だと思います】

「え、なんで」

【穹が物色している時暇なので店の中をくまなく探索していたことがあるのですが、カウンターの向こう側に生活に必要な最低限のユーティリティルームのようなものがありました。本当に小さいですが。足元には毛布がありましたし、あの場所で寝泊りしているのだと思います】

「マジで」


 カウンターはかなり小さい。店主一人が座っているだけでスペースがいっぱいだ。カウンターの奥に何かスペースがあるだろうとは思っていたがバックヤードかと思っていた。外から見ても住居があるとは思えない狭さだからだ。


【私がうろついていても特に何も言いませんでしたが、一か所だけ咎められた場所があります】

「どこだ」

【店主の足元です。蹴飛ばすからそこには行くなと言われました】

「まあお前丸いし」

【しかし穹。あの方は足がかなり悪かったと思います】

「……なんだって?」


シーナの言葉に穹は足を止めた。今、おかしなことを聞いた。


【椅子の後ろに杖がありましたし、私が初めて店主の足元に行ったときしばらく何も言わなかったのですがいたのか、と言われました。私がいたことに気づかなかったのではないでしょうか。そうなると足にあまり感覚がないのかもしれません】

「……その事実からお前は今おかしいとは思わないのか」

【いいえ。何かありましたか】


 こういうところが人工知能はまだまだなのだと思う。矛盾した事実がありながら疑問を提示しない、疑問だと思わない。そういう柔らかい部分の判断はこの先もっと学習しなければいけないのだろう。


「何で足悪い奴がお前を蹴飛ばせるんだよ」

【そうですね、何故でしょう。足が時折痙攣するのでしょうか】

「どこのエイリアンハンド症候群だ。あのな、俺がヘッドセット探しに行ったときあの店主どうやって探してた」

【箱を漁って段ボールを二つ蹴飛ばしていました。あ、蹴飛ばせるんですね】

「ってことは足が悪いってのが間違ってるってことだろ。杖もお前がいたことに気づかなかったのも他に理由があったんだろうが」


人工知能が推理小説を読んで犯人とトリックを解き明かすのは当分先だな、と思いつつ一応シーナに確認する。


「お前どんだけ店の中ウロついたんだ」

【先ほど言った通り店の中からカウンター側、在庫があるバックヤード、店主の足元と手元と頭の上です。PCは個人情報もあると思い画面は見ていません】

「ウロつきすぎだろ……いや普段俺が腹とか足とか頭の上に乗っても何も言わないせいか。つーか。頭の上に乗っても何もねえのに足元行くと注意されるのか」


 なんだか妙な話だ。いつもパソコンを使っていて何かに熱中していたなら確かに気づかなかったのかもしれないが、あの日は店主から話しかけてきた。穹が店中漁っていてうるさくて集中できないと言っていたはずだ。それならシーナがウロついているのもわかっていただろう。まして人の頭の上に乗ったら鬱陶しいはずだ。


―――足元だけ注意した。日頃カウンターから出てくる事がないのにあの日は自分から店の在庫を取って見せた―――


 シーナは穹にとって重要な事だと判断すればすぐに報告するが、穹に直接関係ないと判断したものは今回のようにすぐには報告しない。もし今回の件、店主が自ら動いていなければ穹もシーナの話を信じていただろう。店主はカウンターから出ることはなかったし歩き回ることもなかった。シーナが足元にいてすぐに注意せず「いたのか」と言われれば気づかなかったのかと思うのは普通だ。シーナが店主は足が悪いと思っても当然で何も間違っていない。


―――まるでシーナにそういう誤解をさせたかったみたいだ―――


シーナの発言も行動も学習も最終的に穹に行く。シーナが勘違いをしていても穹がおかしいと気づくのは当然だ。


―――つまり俺に気づかせたいのか―――


 おそらく一連の事はわざとだ。店主は足が悪いわけではないが、あえてシーナにそう誤解させるようにしたとしたら。足が悪くないのに悪いかのような言動をしたのなら蹴飛ばす云々はすぐに違和感を覚える。蹴飛ばすから近寄ってほしくないのではなく、別の理由があって近寄ってほしくないということになる。それをシーナにいったのなら、本当に伝えたい相手は。


―――俺か。俺におかしいと気づけ、そこに何かあるって言いたいのか。俺だけに―――

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