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飛ばされた衝撃で穹のライフは少し減った。防ぎきれずダメージが少し通ったという演出がこういう形で出てくれて助かったというのが本音だ。もし追加攻撃のナイフにも貫通が付いていて防御をこえてきていたら刺さっていた。
―――相手は俺の事安易にライフを使う考え足りない馬鹿だって思ってくれてるといいな―――
一応そう思い込ませるために下手な戦略で戦っているのだが。取るに足らない、雑魚だと思ってあっという間に終わらせてほしいからわざと追いつめられるようにスキルを使っている。ただすべての攻撃を受けるわけにもいかないのでそれなりに防御やカウンターなどは使うのだが、防ぎきれなかったりその次はもたないというギリギリな使い方をしてはいる。
穹のターンとなりシーナのスキルが使用可能となった。
【穹、どうしますか。回復しないのは不自然です、ライフが少なすぎます。しかし回復すると長引きます】
「大丈夫だろ。ここで回復してもたぶん次の一撃で俺の負けだ。カウンターとか特殊効果でさっきのターン内に回復とか防御上昇されちゃ困るからあのタイミングでシーナを封じたんだろうしな」
次のターンはシーナが攻撃から庇う形で演出されるので穹には問題ない。ただ回復しても回復量が少なすぎるのは目に見えているので一応効果倍増のスキルをつけてから回復をした。
シーナが魔法を使うかのような演出に入り、穹の手を治療する。手を貫通した時のダメージ量と同じ量を回復することで完治し、“手の怪我が治った”という演出のおかげで穹の手から痛みがなくなった。
「回復はした。さて、最後の締めが来るから俺を庇えよ」
【最後の締めですか?】
「さっきのターンで回復させたくないのは余計なスキル使わせたくないからと、何が何でもここで回復させたい意図もあるんだろ。補助効果発動専用のカウンターか罠が来るに決まってる。手についてる的もまだ消えてないしな」
穹がそう言い終わると同時に二人の目の前に警告が出た。クォーツの特殊攻撃が表示される。
【回復スキル使用時のトラップ?】
シーナが周囲を見ればアーチェリーのようなものが3つ出ていて一気に発射される。シーナは穹の上に覆いかぶさるように穹をかばった。無論行動パターンとしては反映されない、ただのパートナーによるモーションに過ぎない。それだけでも十分だ。
シーナの体に鉄の矢が3本刺さり穹のライフへと反映される。もともとほとんどなくなっていたライフだ、この攻撃によってゼロになった。これがクォーツの立てていた戦略だった。回復を封じた状態で大ダメージを与えれば次のターンで回復するに決まっている。回復するとわかっていれば回復をすることによって使えるカウンターをつけておけばいい。穹に攻撃力2倍を破壊されていなければもっと早く片が付いたし、穹がライフを削って攻撃をするパターンをしていなければ正直長引くところだった。
「こっちの意図通りに負かせてくれたな。臨機応変しないアホで助かった。シーナにつけてたスキルも使わずに済んだし」
シーナの着ている服は一見ゴスロリドレスだが実際はスキルの集合体だ。服のように見せることでスキルを多量に持っていることを隠していた。一戦に使えるスキル数は限られているが、付けているすべてのスキルをすべて捨てることで他のスキルを追加できる特殊スキルを穹はつけていた。
攻撃モーションで大怪我をしそうだったらその手を使い他の防御を使うつもりだった。シーナに今ついているスキルはすべて防御につけられるスキルばかりだ。使えば使うほどオリジナルスキルをたくさんもっていることを知られることになり、相手を本気にさせてしまう可能性があったのであまり使いたくなかったがそうならずに済んだ。
試合が終わりシーナに刺さった矢も消えた。穹とシーナが立ち上がると自分たちの目の前にはloseの文字、クォーツにはwinの文字が出ている。
《あれえ、もう終わったところがあるね。勝った子はこっちにおいで、負けた子はお帰りください。出口はあっち》
豚がシュタっとポーズを決めて腕で指示した方向に出口と大きく書かれた扉がある。そちらに向かいながら一応気になったので聞いてみる。
「見学できねーの?」
《敗者にはそんな権利ありません。弱い子は去るべし去るべし》
―――よかった、残れとか言われたらどうしようかと思った―――
ほっとして出口に向かっていくと丁度今試合が終わったらしいピリオドが鼻で嗤って穹を見た。
「なんだよ、お前負けてんの? しかもちょっと見てたけど完全に自爆っぽいし馬鹿じゃねーの。ダッセ」
そんなピリオドを素通りして穹は左手を見る。傷は完全に治っているし的も消えている。あの豚の文様もなくなっていた。
「文様消えたな。あれがバトル参加証ってことか」
【敗者には残らないということですか。通常なら悔しかったり悲しかったりするのでしょう】
こそこそと二人で会話していると後ろから肩を掴まれた。振り返ればピリオドが穹を睨んでいる。
「無視すんな」
「つーか、お前誰」
「俺のチームと戦っただろ」
「誰、って聞いてんだから回りくどく説明から入らねえで素直に名前言えばいいだろ、句読点」
そういうと一瞬ピリオドは固まり、乱暴な仕草で突き飛ばしてきた。こういうのも律義に反映されてしまうのが脳直結型VRの良いところでもあり鬱陶しいところでもある。
何やら穹を前にぎゃんぎゃん吠えているが、本当に犬がぎゃんぎゃん言ってるみたいだなという感想しか抱かない。帰ろうかな、とちらりと出口を見ればそれもまた気に入らなかったらしく胸ぐらをつかまれさらに大声で何かをわめきたてる。シーナが何かしようとしたが手で制し、遠くにいる豚に大声で聞いてみた。
「おーい、コイツ俺と一緒に出口にぶち込んだら負けになるの?」
その言葉にピリオドが一瞬止まった。その隙に鳩尾に思い切り蹴りを入れてピリオドを突き放す。相手は痛みを感じないとわかっていてもつい弱点を攻めてしまう。
《そうだね、よそでやってほしいし負けにしちゃおうかな》
その言葉にピリオドは思い切り舌打ちをしたがそれ以上何かをすることもなく歩き出した。穹に対してまだ怒りが収まっていないようだがここで負けにされるのはあまりにも馬鹿らしいと思ったのだろう。穹も興味をなくし再び出口に向かって歩き出す。
【随分と怒っていましたね、彼】
「せっかく嫌味言ってんのに俺が全然気にしてないのが気に入らなかったんだろ。正面からの嫌味ってのは相手が嫌がって初めて効果あるからな。効果ないとわかると言ってる本人がストレスたまるだけだし、悪口ってハイリスクハイリターンだよな。よくやりたいと思うわ、理解できん」
【同感です】
二人の会話が聞こえたのか後ろから何かを蹴飛ばすような音が聞こえた。ピリオドの八つ当たりだろう。まさに今の穹の言葉がピリオドに嫌味として刺さったようだ。穹は嫌味のつもりで言っていないので勝手にピリオドが自分で自分の首を絞めたとしか思えない。
何やってんのあいつ、と思いながら出口の扉を開けると真っ白な光に包まれた。一歩前に出れば扉がギイっと音を立てて閉まる。
《君、さっき僕の文様潰したよね?》
「え?」
《僕の文様、潰したよね?》
そんな会話が聞こえてきた。え、といったのはクォーツだろう。なんだ?と思っているとシーナが少し振り返り、すぐに後ろの方から。
ごぎん、と鈍い音がした。




