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防御をしているにも関わらずダメージはかなりのものだった。三分の一近く減っている。2ターン目にきて相手の発動スキルが何か始まったのだろう。
―――ターン数が増えるごとに攻撃力増加。それに防御があまり効果を出していない、防御無視系のスキルか。長引けば長引くほど対処ができなくなって後でまとめて攻撃力が大きい一撃を喰らう。ターン数が少ないうちに負けておかないとまずい―――
このまま素直に防御していてもダメージを受けるという終わり方をすればいいがそれだけで終わらない気がする。
―――これだけ戦略を立てているならバトルに関してプライドはあるはず。自分があの豚に選ばれなかったことを不服に思っているはずだ。それならここで自分の凄さをアピールしようとしてくる―――
それに対処するスキルを使いたいところだがそれには時間がかかる。発動できるかどうかというところで相手の手番が有利になる可能性の方が高い。2ターン目に入ったのだ、ここからが相手の本番だ。
穹のターンとなり貫通の威力を上げる。以前は貫通の威力そのものを%で上げていたが今回は特殊効果の貫通だ。ターン数経過でも発動できるのだが今回はあまりゆっくり待ってられないので違う手段を取った。
「ライフの4割を貫通に換算する」
【了解】
ライフをコストとして支払う事でスキル発動条件をクリアできるものもある。複雑な条件であればあるほど支払う量が多くなるので、あまり大したことないスキルに使う場合が多い。それにライフを削って使うというのはあまりにリスクが大きい、相手の強力な攻撃を受けたらそれが命取りになるからだ。高ランクの戦い程ライフ支払いを嫌がり、それが行われた時は必殺技並みに自信があるときだ。
シーナが穹の言った条件を実行しライフルに効果が追加される。すると目の前にアラートが現れた。
「相手のスキル発動、1ターンパートナーの行動不能。条件発動スキルか」
クォーツのスキル条件を満たしたのだ。おそらく向こうが指定したターン数内に穹がスキルをいくつ使ったかで発動する条件だったのだろう。シーナのスキルが封じられるというのは防御ができなくなるということではない。防御はあくまで穹の通常行動として持っていることであり、演出としてシーナが穹を守っているかのような映像になっているだけだ。だから本来は問題ないのだが今この状況でそれはまずい。穹が自分に攻撃を受けていると認識せざるを得ない。防御演出はシーナと同じく壁を作る事だ。直接肉体に攻撃を受ける内容でないにしてもそれを痛みとして感じるかどうかはやってみないとわからない。
―――それに今このタイミングでシーナを封じたなら次に来るのはとどめ刺すために畳み掛けてくる―――
先ほど発動した貫通のスキルはコストとしてライフ4割を支払った。最初に受けたダメージからコスト支払いにより穹のライフは今半分に届かないほどまで減っている。シーナのスキルを封じたのなら目的は補助スキルの無効、つまり回復やステータス上昇をさせないため。回復を封じるという事は今の穹のライフを次のターンでほぼ削り切り、その次で確実に倒せると思う戦略が相手にはあるのだ。
―――まあ、そういう手段に来るだろうと思ったから特殊貫通しておいたんだけどな―――
【穹】
「大丈夫だ」
自分が防御エフェクトを使えないことに焦ったシーナが声をかけてくるが穹は淡々と返す。右手に持ったライフルを構えスコープ覗いた。つけた特殊スキルは相手のスキル破壊だ。本当はもっと条件が満たされれば武器破壊ができるのだが今回は間に合いそうにないのでスキル破壊にしておいた。どんな効果があるのかわからないが、最初の映像では確かにあのナイフは小型ナイフだった。何かスキルをつけて巨大化したのならそのスキルを壊せば少なくともあの大きさだけはなんとかできる。目的は倒す事ではなく自分への表面上のダメージを軽減することなのだからこれで十分だ。
スキル破壊は公式で売られているスキルでスコープを覗くとシューティングゲームのような映像が見える。指定された目標物を正確に撃ちぬくことができれば成功、相手にダメージを与えプラス要素としてスキルを破壊することができる。
本来目標物は赤い玉なはずなのだが、見えたのはうじゃうじゃとしたよくわからない物体たちだった。線が振動しているかのように動き回っているが、よく見れば線と図形が複雑に折り重なっているようだ。そしてその線自体は文字の集合体だ。
―――これは回路図?いや、スキル発動のオブジェクトコードか。3、4、……5重になってる。今クォーツが発動してるスキルそのものか―――
目を見開き5重に重なった図をよく見れば、一つ一つはかなり形が違う。一番複雑なものはおそらく先ほど発動したパートナーの1ターン行動不可スキルだろう。今これを破壊してもいいが根本的なものはあの武器だ。今はこのスキルを破壊する必要はないし、条件が厳しいスキルほど破壊の難易度が上がる。
大きさが変わるという演出なら攻撃力増加か命中率の各段アップがあったはずだ。そんな複雑な形ではなくもっともっと単純な、2進数程度のコードがあるはず。
―――見つけた、これだ―――
狙いを定めトリガーに指をかける。そして一気に目標物をすべて撃ちぬいた。本来このモードでは一発ずつ撃つボルトアクションが普通なのだが今穹が撃ったのは34発、まるでマシンガンを連射するように短時間で大量に発射した。そして弾はすべてスキルのコードへと当たりスキル破壊に成功する。
采がいないのでアナウンスは流れないが、目の前に掲示はされる。穹が撃ちぬいたスキルは攻撃力が2倍になり、その代わり防御が半分になるというものだった。防御が半分になってもそれをカバーできるスキルをつけているのだろう、最初のこちらの攻撃を防いでダメージがなかったことがその証拠だ。
クォーツの武器は最初の小型ナイフの大きさまで戻った。相変わらず凶悪な棘は生えたままだが、それでも迫力が先ほどとは段違いだ。
クォーツに与えたダメージは貫通効果もあったので3割ほどだ。本当はもっと少ないのだろうがこちらが支払ったコストが4割という多さだったのでそれなりにダメージに反映されている。
―――ひとまずこれで、攻撃を受けても“普通のナイフで切り付けられた”と感じることができる―――
先ほどの大きさではかすっても致命傷だ。ライフ上では大したことがなくても現実に戻ったらとんでもないことになっている。
「シーナ、演出上は今のスキル破壊どう見えた」
【穹が銃を一発撃って武器に当たり、スキル破壊が表示されました】
「じゃあ俺がライフル連射したのは相手にも回りにも見えてないな」
【……。はい】
シーナが何か言いたげなのは気づいたが今は無視した。おそらく何故ライフルで連射できたのか聞きたいのだろうが、それどころではないのをシーナもわかっているのだ。
ライフルは割と現実にそっくりな演出になっているのでボルトアクションかオートマチックを選べる。オートマチックは連射できるが、的を狙い打たなければならないのでスキル破壊で使う者はほとんどいない。使うのは通常の銃攻撃でユーザーが自分で銃を撃つ場合だ。的を狙うならよく狙えるボルトアクションが普通だ。だが今穹が使ったのはオートマチックだったのだ。連射式で別々の的をすべて撃ちぬいたことになる。
クォーツのターン、特に何かスキルを使う事もなく攻撃表示のままだ。相手にとってはなくなってもあまり影響がないスキルの破壊だったので問題なしと判断しただろう。このターンはシーナが回復スキル等使えないので文字通り穹と一騎打ちとなる。
クォーツが地を蹴り先ほどと同じように大仰なアクションでとびかかってくる。
―――馬鹿の一つ覚えじゃないな、何かある―――
穹はひとまず防御をする。手のひらを目の前にかざすと魔法陣のような壁が現れクォーツの攻撃を防いだ。ギィン、という刃物がこすれるような音が響き不愉快だ。おそらく実際は音が鳴っていないが目の前の光景から穹の脳が音を勝手に想像し感知しているのだろう。
防いでいるがやけに防御演出が長い。おかしいと思ったがすぐに気づいた。相手の刃が黒く変色し徐々に壁を貫いてきている。まるで飴細工を熱した包丁で溶かしているかのように少しずつ刃が近づいてきた。
―――貫通か、こういう演出もあるのか。俺が貫通で攻撃したから仕返しに貫通つけた、ってわけでもないか。最初からつけてたな―――
刃が半分ほど壁を通ったとき派手な音を立てて防御の壁が粉々に散った。そのまま真っすぐナイフが穹の眼前に迫る。
―――カウンター発動はまだだ。いけるか? 演出的に―――
演出効果がどうなるかわからないが防御発動のためにかざしていた左手をそのままナイフの前に広げる。こちらの任意なしに好きな個所を攻撃されるとまずいが、ダメージを受ける場所を自分で決められるのならここしかない。
幸い手を出すというモーションは問題なく通ったようだ。ナイフが穹の手のひらに突き刺さって止まる。手からは血が飛び散る様子がはっきりと見えた。
「……」
切り傷ならともかく肉体を貫通する痛みに耐えるというのは難しいかと思っていたが、案外そうでもないなというのが穹の感想だった。ナイフが刺さった手は痛い、激痛だ。血が出る演出までついていて今確かにナイフが突き刺さっていると理解している。本当なら悲鳴を上げて苦痛に顔を歪ませているところだろうが、自分が今どんな表情をしているのかはわかっている。
無表情だ。じっと見つめながら冷静に次の一手を考えている。
―――貫通攻撃だけで終わるならシーナを封じないはずだ、まだ来る。カウンターは発動準備できているが相手もあるはず、攻撃系のカウンターを使えばカウンタートラップを使われる可能性が高い―――
ライフは今の貫通で半分ほどまで減った。攻撃力2倍がついていたらもっと減っていたのだろう。クォーツはナイフを引き抜くと大きく後ろに下がる。
―――特殊武器の攻撃が通ったことによる追加効果発動、これが狙いか―――
そう先読みすると穹の前に敵の攻撃の追加効果が表示された。相手の特殊武器による直接攻撃が通ったことによる武器の特殊効果が追加効果として発動可能となったのだ。穹の手の傷、先ほど豚が刻印した妙な文様は見事にナイフに貫かれて血まみれになって見えなくなっているのだが、手に光の演出で何かがまとわりついている。それはあっという間に円の形になり手の甲の上に二重丸となった。内側の円は塗りつぶされていて、誰がどう見てもそれは的だ。
周囲を見渡せば穹の周りに5つほど光の玉が現れ、それは先ほどの棘のついたナイフを同じ形となった。宙に浮いたそれらは不規則な動きをして一斉に四方八方へと飛んでいく。
―――追加攻撃か、全部命中だとパワーバランスが壊れるし発動条件がもっと難しいはずだ、たぶん確率で決まるタイプか―――
弧を描いて軌道修正をしたナイフが一斉に穹めがけて飛んできた。そのうち3つは軌道がぶれている。
―――当たるのは2つ―――
こちらに向かってくる2つを見極めると穹はカウンターを使った。ちゃんとした攻撃ではなく特殊効果による追加攻撃にカウンターが有効かわからなかったが使えたので問題ないようだ。
―――公式ルールじゃないな、だいぶ規制がゆるい。本来は通らないはずだ。思う存分戦えって言ってたな、そういうことか―――
穹のカウンターは現状のライフから半分コストを支払う事で追加攻撃かもう一度防御をするというものだ。現在穹のライフは少ない。勝つつもりならこんなところで使っても意味がない選択だがナイフを防ぐことが目的なので防御を選択した。
穹の前に再び防御の壁が現れナイフを防ぐ。支払いコストが多ければ効果も大きいのだが今回は気休め程度の防御しかできないだろう。貫通効果はないようで、ナイフは一応壁で一度止まったが壁が大きく歪んで弾けた。その衝撃で前から突風のようなものが発生し、穹は後ろへと吹っ飛ばされる。無駄とは知りつつ一応受け身の態勢を取った。ゲーム上ではダメージ緩和されないが穹の脳はあくまで受け身を認識する、痛みは少しだけ違うはずだ。




