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アンリーシュ  作者: aqri
グロード
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7

 最初のおかしな夢、あれもモジュレートからきた映像だとすれば答えが出る。何かを探していた男たち、見つかったと焦った「自分」。もちろんこれは穹が焦ったのではない、おそらく同じ体質の者とリンクして自分の意識として見ていただけだ。見つけた、と会議のようなことをしていたのはアンリーシュ運営陣だとすれば今回の事も辻褄は合う。


「材料はいろいろあるんだがレシピがないのと同じだな。これだけじゃ答えが導き出せない。とりあえず俺は運営に目つけられたらアウトっつーことだけどどうなるんだ? 人体実験でもされんのか」


 あの様子からすると是非ご協力を、などという和やかな雰囲気ではない。強制拉致なのは間違いなさそうだ、リアルとオンラインを見張れと言っていた気がする。


「あの機材に莫大な金かけて開発したとして、特殊体質の奴がいるとその設定がブレブレになるとする。それを運営が知ってたとすると経営の邪魔になる特殊体質の奴を排除したいって線もあるが……なんかしっくりこねーな」

【では過剰な光演出はわざとという事になりますね。穹の最初の夢の会話から推測すると大会が始まったら退席する者がいないか見張っていたようですし。たびたび穹はゲーム内で光を眩しいと感じていましたが、他のゲームやオンラインでそれを感じたことはありません。あの演出自体が穹のような人をあぶりだすための演出なのでは】

「それな。たぶんほぼ正解だ。光演出をどこで使うか限定してとけば監視しやすいし、あっちはかなりのAI持ってるだろうから会員が何万人いようとたぶん問題ない。会員数が多いからこんな手間かかることやってんのか? 探すにしても宝くじ当たる方が確率高くね?」


―――本当に? 何か勘違いをしていないか―――


 どこか冷静にそんな考えが浮かぶ。もやもやとした漠然とした要素がいくつか転がっているからつなぎ合わせてみたものの、なんだかいまいちしっくりこない。絡まった糸をほどこうとして、ほとんど解けたが一か所だけ団子結びになっているところが解けずにいるような。一番重要なところがおそらく抜けているのだ、それがわからない限り本当にしなければいけない、知らなければいけないことがわからない。


―――最初から思い出せ、見逃していることがあるんじゃないのか―――


【穹?】


 急に黙り込んだ穹にシーナが問いかけるが穹は応えない。穹は昔から考え込むと周囲の音など聞こえていないかのように没頭することがあるので、今何か重要なことを考えているのだろう。


―――1+1=2の、2だけしか見ていない。本当にその答えを導き出す材料は1+1だけか―――


「シーナ」

【はい】

「いつものあの音聞きたい」


 ふう、と一息ついてヘッドセットをつける。シーナのスピーカーから聞くこともできるがヘッドセットを使うとより頭の中にこもる感じがして聞き入ることができる。あくまで音や音楽を聴くだけなら最初から持っている方のヘッドセットでも問題ない。機能で言えばやはりこちらの方が上なので音質が格段に良いのだ。

 シーナからデータが転送され、雑踏の中のざわめきのような雨音のような不愉快にならない程度の静かな雑音が聞こえる。心がすっと落ち着き先ほどまでの答えが出そうで出ない不快感が消えていった。

 最初から見つめ直す必要があるのならモヤモヤとした気分を落ち着かせ客観的に判断する必要がある。あくまで最近起きている妙な出来事は大規模なモジュレートだというのが前提だ。


 最初に起きた事はアンリーシュの大会観戦した後に見た夢。複数人の男たちが大会ログアウトをしたやつを見つけたから監視をつけろと言っていた。その会話を当人は聞いていて焦っていた、バレたから逃げないといけないという緊張感があった。あれはアンリーシュ運営と同じ体質者という見解でほぼ間違いない。穹にヘッドセットをつけさせて設定を変えて様子を見たのだから特殊なタイプの人間を探しているのは確定だ。

 次はハッカーによる強制ログインからのバトル。采はいないアンリーシュでルール無視のバトルがあった。強制シャットダウンすることで終わりにしたが、最後に相手と思われる奴と暗闇の中で会話した。長期間使ってるならよこせと言っていたと思う。


―――最初の疑問はここだ。何をよこせと言っていた?―――


 あの時はパートナーかと思ったが違う気がする。人工知能を指すならよこせとわざわざ言わなくても力ずくで奪えるはずだ。人工知能の根本はオンライン用とオフライン用の二つのチップにより制御されている。パートナーがハッキングやクラッキングされたという事件は昔からあるので奪おうと思えば奪える。穹の任意がなくても強制的にどうにかできるものなら「よこせ」とは言わない。

それなら絶対に穹でなければいけない物をよこせと言っていたのだ。一体それは何なのか?


―――ここはまだ不明だ、後回し――


 次。夜と戦い、妙な戦いではあったが最後にシーナが腕を噛まれ痛みを感じた。この時夜はバトルが終わる直前に穹が特殊体質者だと推測しその確認行為を行った。バトル終了直前という通常ではありえないタイミングだったがそれ自体はいい、おそらく夜もハッカーなので何かしたのだろう。重要なのはそこではない。

 夢で夜と最初のハッカーが対峙していた。そこはアンリーシュのようだったが采はいない。しかもプレイヤーは仮想空間時の姿ではなくリアルな姿をしていた。キャラで戦っていたものの最終的にハッカーがロボットに直接攻撃を受けて全身が食いちぎられていた。普通はショック状態になるが彼は耐えていた。


―――ああいうことに慣れていた? だから耐えた? いいや違う、どんなに痛みに強くても無理だ―――


悲鳴を上げて痛がっていたのだからハッカーが穹と同じ体質なのは間違いない。それなのにあの痛みに耐えたというのか。


―――耐えられるだけの特殊な理由があった、と推測して。あの後も言っていた―――


よこせ、と。穹の存在に気づき必死によこせと言っていた。

そんな状況でよこせと言われたらもう。


―――肉体以外、ありえない。あのハッカーは自分の意識を他人に移せるか、人工知能だった可能性が高い―――


笑えない冗談だ。パートナーのボディとはわけが違う、人間の体をよこせなど。自分の意識を他人に移せるというのもご都合主義の映画のようだ。


―――でも不可能ではない、しょせんデータは0と1の羅列に過ぎない。人間の思考も脳の伝達信号回路のパターンによって決まっているだけだ。魂などというものがないとすれば同じ信号パターンを構築できれば、違う肉体でよく似た思考回路の人間を再現することはできる、理論上は―――


 それはまるで肉体への痛みの再現であるかのように。この体質者同士なら……。夢のような、悪夢のような話だが。


 次。APとぽっちょのバトル。公式戦で気になったのはAPの逆転劇の不自然さだ。それまでは確かにぽっちょが優勢だった。ぽっちょは恐ろしいまでの攻撃パターンと戦略を持っていた、ぽっちょの実力は本物だ。しかしAPはそこまでではないだろうというのは穹の分析でも出ている。詰めが甘い、あのランクには少々実力不足な感じがした。

 しかし突如ぽっちょに大ダメージを与え逆転に成功した。何度計算してもあのダメージは弱点をクリティカルで突いた時に似ている。弱点を知るすべなどあっただろうか?


―――分かる術がなくても、他に方法があるとすれば。それは弱点を作ってしまう事だ―――


 自分の得意な属性を使いフィールド条件を変えることはよく使う手だ。機械は水辺フィールドにいると5%回避が下がるし命中率が高い相手に命中率を下げる効果のスキルを使えば当然相手のその後の戦略に影響が出る。つい別の事として考えてしまうが、それらもいわば弱点への攻撃だ。相手の不利な状況にすること自体が相手の弱点を突くのとは逆の、弱点を作り出す事であれば不可能ではない。あのダメージをたたき出すなら相当な条件があったのだろうが。


―――それを実現したのが、APと一緒にいたあの熊をかたどった奴か―――


 その後の夢で見たあの光景。APと熊が最初話をしていて、途中でぽっちょが乱入してきたが。あの二人の会話からするとAPは熊からバトルで勝てるよう特別なスキルか戦略をもらっていた。ぽっちょにとどめを刺せたのは熊のおかげで間違いない。そしてAPは穹と同じ特殊体質者で熊はAPに頂戴と要求していた。


―――同じだ、最初のハッカーと―――


 APと熊が一体化になっていくかのようなあの光景、熊は間違いなくAPの肉体を要求していた。もう少しと言っていた事、APが俺に何をしたと叫んでいたこと、こんな戦い方自分の戦い方じゃないと訴えていたこと。これらをまとめると、APは熊に少しずつ肉体を奪われていたことになる。熊に力を貸してもらっていただけなのがいつの間にか主導権まで握られつつあった。


―――APは特殊体質者だった。では熊は? あいつも特殊体質者だったのか?―――


ぽっちょはおそらく人工知能だった。あの尋常ではない戦略図は人間に実行は不可能だ。そしてぽっちょと熊には共通点がある。


―――文様―――


 ぽっちょは雪輪、熊は毘沙門亀甲。詳細は不明だがこれが出た時は普通とは違っていた。陳腐な言い方をしてしまえば、この文様が出ている時は本気だったように見えた。様子を窺う事もなく全力で戦いあらがっていたように思える。ただの効果などではなく、ぽっちょの戦略図が系統樹のように広がったようにあの文様自体が数百のプログラムの集合体か何かかもしれない。


―――文様が出たら人工知能? じゃあ熊も人工知能ってことになる―――


最初のハッカーも人工知能だったのだろうか。いや、あの戦いだけではわからないし夜と戦った時文様は見えなかった。


―――特殊体質者と人工知能。この二つがオンライン上の特殊なフィールドに行けるとしてアンリーシュ運営が探しているのはどっちなんだ? 両方だろうか。いいや、運営は最初の夢でリアルとオンライン両方監視しろと言っていた。あの言い方は人間に対してだ―――




「ちょっと惜しいな」


 目を開けて、いつの間にか目を閉じていたのだと知る。そこはあの暗闇の空間だ。また来てしまった。

 鼻と鼻がくっつきそうな距離でこちらを覗き込んでいる夜はどこか楽しそうだ。長い前髪から垣間見える夜の目は相変わらず不思議な色の光彩をしている。


「近い、離れろ」

「別にいいだろ、ちゅーするわけでもねえし。近い方が良い事いろいろあるぜ? 今のお前にはまだわからないだろうがそのうちわかる。まあそれより、間違えるな。似てるものが多いからごっちゃになっちまうのはしょうがねえけど、お前が間違えると腹立つ」

「何で」

「何が、何を、じゃなく何で、って。くく、面白いよなお前。特殊体質の人間は確かにいるが、モジュレートが起きるのは別件だ。APは特殊体質の方、お前は別件の方。モジュレートを起こすのが別件の方、モジュレート起こされて引っ張り込まれるのが特殊体質の方。お前はその自覚がなさすぎてなんでもかんでも首突っ込みまくってるだけだ」


――――今、さらりとものすごいことを言わなかったか―――


「そこまで凄くねえよ」


また考えていることに対しての返答だ。不思議と気味悪さや不快感はない。純粋に何故、という疑問がわくだけだ。


「この間もそうだったけど、お前は考えてること読めるのか」

「読むんじゃねえよ、伝わるんだよ。特にお前はよくしゃべる九官鳥みてえにダダ漏れだからちょっと蛇口閉めろ」


 閉めろと言われても。釈然としないが夜に言われたことがストンと入ってきてああなるほどと思った。ごちゃごちゃ考えていた時にひっかかっていたつっかえが取れたような気分だ。

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