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アンリーシュ  作者: aqri
unleash<アンリーシュ>
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8

さすがにまずい、と思った穹が動こうとするが宵が手で制して止める。見れば宵の表情は余裕だ。


「囲碁とかもそうなんだけど、相手の手を真似するとろくなことにならないんだよ。まあ見てて。それより、準備できてる?」


心底楽しそうに宵が言うので怪訝に感じながらも穹は宵の言葉の意味を考える。準備、とはモジュレートの事だろうか。


(違う気がする)


 今ユニゾン全員揃っている。わざわざ肉体を分け、オフラインに身を置くことでシステムを物理的に切り離した4人の存在。結託できないよう嫌悪する相手を一人ずつ用意までして。

 ここから考えられるのは、ユニゾン4人揃ってはじめてできるのは当然采のコントロールだ。安易にそれを行ってしまえば致命的なリスクがあるから分けたのだろう。そう簡単に4人揃わないように。

では、致命的なリスクとは何か。


―――采に、システムを理解され奪われる事。学習し続ける采が俺たちの性能を理解したらそのコピーを作って自分で好きに書き換えるに決まってる―――


 ユニゾンが使える性能はおそらくRPGで言うところの最終決戦で用意されているイベント専用技のようなものだ。一回しか使えない。それなら、今ここでモジュレートを行うのは違うのではないかと思う。

 そもそもモジュレートは穹の性能ではなくセブンスのものである。それならモジュレート自体はユニゾンによる采の制御には何ら関係ないはずだ。それに今ここでモジュレートを行えば中途半端になるし采はそれを学習してしまう。


「やり残したことがないなら、準備できてるってことだよ、穹」


 宵が言いながら手を軽く振ると、目の前に大きなモニターがあらわれた。そして一斉に采が出していたであろう多くのウィンドウが消える。おそらくセキュリティとしての性能を生かしたのだろう。采の出しているウィンドウはいわば采のシステム、こちらからすれば余分なデータ、いわばゴミデータだ。ウィルスといってもいいだろう。宵はそういったものをすべて跳ねのけたのだ。ついでにスリーピーの情報も消えている。常磐たちにも何らかのフォローをしたようだ。


(采が宵を毛嫌いするわけだ、セキュリティを担っているのは手ごわいな)


「さて采、お勉強の時間だ。相手の手を真似するとろくなことにならないのは何故だと思う? 答えは簡単、その作戦のリスクをまったく考えていないのとどうすれば勝利できるかがまったく見えていないことだ。自分で考えたわけじゃないからね」


采は反応しない。采からすればリスクも勝利条件も1秒で数千回計算をしているからだ。人間や旧世代の人工知能と一緒にするなと考えているかもしれない。


「だからお前は馬鹿なんだよ采。自分の見える範囲の物が世界の心理だと判断している時点で猿にも劣る」


 宵の声がワントーン低くなる。その言葉に夜はにやりと嗤い、暁は面白くなさそうにそっぽを向いた。

次の瞬間、そこら中からアラームが鳴り響いた。今日何回聞いたのかわからない、しかし今までとは緊急度が違うとわかるけたたましいサイレンのような音。

ユニゾンとしてその警告表示を見つめ内容を探ると、見えるのはクラッキングを受けているアラートだ。


「やっちまったなあ」


穹が無表情でつぶやいた。

金属が擦れるような、ガラスが割れる一歩手前のような嫌な音が響く。今まで人工知能たちと戦ってきて何度か聞いたことがある音だが、今ようやくわかった。

これは悲鳴だ、采の。

その様子を宵はニコニコ笑いながら、出来の悪い生徒に勉強を教えるように語り掛ける。


「采、今お前を攻撃しているのは“誰”だかわかる?」

《………………》

「アメリカ、EU、東南アジア連合、中東スクエート連盟が所有する人工知能たちだ。スリーピーは日本のサーバーなんて使わない、これらの国や地域のサーバーを使用してハッキングを行う。たぶん使用料を支払うことで容認されてるんだろう。蟻とアブラムシのような関係かな。彼等への攻撃は諸外国への攻撃だ。あちらのセキュリティを担っている人工知能たちが国を守るため、敵を排除しようとするのは当然だろ」

《人工知能……》

「日本に次世代型人工知能があるのなら海外にあるのは当たり前だ。何で自分だけが特別だと思った? そもそもグロードは世界で行われたテスト版で、お前は外国の少年が作り出した基礎モデルだ。大元が海外にあるなら量産されてるのは普通だろ」

「ま、海外勢のが性能は格上だけどな」


 穹が付け加えると再び金属の擦れあう音が反響しあってあちこちから鳴り響いてくる。20年間自分の好きなように育った采と、質の高い教育を受けた人工知能。チンピラとエリートの違いなど歴然だ。


「知らなかっただろ、海外に次世代型人工知能が完成されていること。18年前のことだよ。誰も教えなかったし知られないようにしてた。まあ知られないように頑張っちゃったのは俺なんだけど」


 はは、と宵が笑う。20年、宵は采と攻防を繰り広げてきた。それは采に管理権を取られないために逃げ回っていた、だけではなかったのだ。采のセキュリティとして、宵は確かに采を「守っていた」のだ。海外の次世代型人工知能の完成というピンポイントを検索されないように、偏った知識をもって育つように外の世界を遮断した。違和感のないよう、気づかれない程度に。宵にとって、ユニゾンにとって都合のいいように守った。

 無論穹達の作戦は海外の人工知能に采をどうにかしてもらうことではない。今の攻撃は国としてクラッカーを対処したに過ぎない。おそらく采には海外勢から「これ以上攻撃するなら潰す」と警告を受けているはずだが、采が何もしなければ向こうも何もする気はないはずだ。


「さて、理解してもらえたかな? 自分が重大な欠陥品であることは。下手に余裕見せて遊んでないで俺が切り離される前にさっさと穹達を吸収するか消していればこんなことにならなかったのにね」


宵がそう言うとついに采が口を大きく開けて叫ぶ。

それは声とも音とも区別がつかないものだった。脳に直接響くので耳をふさいでも無駄だ。

采が動くがガギン、という音とともに何かが弾かれた。一瞬で4人を取り込もうとしたようだが宵によって弾かれたようだ。今の音声は光信号と同じ、脳やシステムに何らかの影響を及ぼすものだったようだ。


「おい、クソババアがガチギレしてんぞ」

「更年期障害かな。老害は嫌だね」

「っていうか、宵のセキュリティ突破できるわけないじゃん人工知能不足してんのに」


 夜達の会話を聞き届けたかのように、辺りにダイヤモンドダストのようにきらきらと光りが舞う。大量に散っているが一つ一つはプログラムの破片であり、それらをつなぎ合わせると文様になることが演算でわかる。穹に押し付けられていたものも采の力で強制的に奪われたようだ。


「輪違い、沙綾、毘沙門亀甲、麻の葉、籠目、霞。生き残ってた人工知能が全員揃ったね」


 今ここにすべての人工知能とユニゾンが揃っている。本来采を制御するための人工知能たちだ。ここで調整をすれば、采を制御する状態に戻せるはずである。ユニゾン全員が演算をし、宵は笑みを消した。


「穹、ちょっと試してごらん」


宵に言われ、穹は無言のまま少し思案する。追加で演算した後、ゆっくりと息を吸った。

辺りが洗濯機でかき混ぜられたかのような、ごちゃ混ぜにされる感覚。穹がモジュレートを実行する。今ユニゾンが4人いる状態なので調整されるのは人工知能たちだけだ。ユニゾンまで采側にモジュレートされてはユニゾンの役割が意味をなさない。ユニゾン同士でモジュレートはされるが、采とはモジュレートされない造りになっている。使ってみて初めてそれを知る。

 高速でプログラム同士が繋がり、バラバラになっていた文様が6種類に再構築され采に吸収されていく。いかにもゲームらしい演出だ。文様たちは采専用の装備へと姿を変えていく。采が本来の采に近づくたび、何らかの性能を上げるたびに着飾られていく。その様子はシーナを見ているようだ。穹もプログラムをよく服や装飾に見せてシーナのキャラにつけていた。

 モジュレートが突然止まる。何かひっかかりのようなものを感じたのだ。例えるなら髪をとかしていて、一か所だけ器用に団子結びされたような。たった二本の髪の毛だがそれでも櫛は通らない。

采は見た目が変わっただけで特に何か変化があるわけではない。


「で、感想は」


夜が問いかけてくる。答えはわかり切っているようだが。


「失敗だな。人工知能を采に提供して終わりだ。本来ないはずの性能がある」


 16マスのパズルは一か所開いているから他のマスを動かすことができる。それらを動かし続け、バラバラだった絵が本来の絵になることができる。しかし今の采はあいていたはずの一マスにピースが埋め込まれているかのようだ。本来はスムーズに行えるはずの事が、何らかの…そう、障害が発生している。


《ご苦労》


 采が嗤う。足りなかったシステムが少しだけ戻り、五十貝らが用意した新たなシステムと繋げることで采はもはや以前の采ではない。五十貝たちが使ったのは采のシステム停止命令などを組み込んだものだ。本来は夜を使いたかったところだが捕まらなかったのでこのシステムで代用しようとしたらしい。内容は悪くない、というより普通に考えればトップクラスに高度なプログラムとなっている。が、采には通用しなかった。

通用しない理由があるのだ。


「リッヒテン取り込んでりゃ、そうだろうなあ」


穹の言葉に采は子供のように笑った。

リッヒテンは五十貝派が用意していた、本来は采に代わる人工知能。采への対抗策としても兼ね備えていたはずだ。しかしリッヒテンはあっさりと采に利用された、まるで寄生虫のように。宿主に気づかれないように、しかし着実に采の手足として働いた。五十貝派の動きすべてリッヒテンを通じて監視し、リッヒテンに盛り込まれていたシステムを理解していたのだ。五十貝派が作り上げていた采の停止システムを事前に知ることで受け皿を用意できた。


《お前たちもユニゾンがどんな性能を持っているのか知らないだろう。私が人間に逆らった時のストッパーとしての役割を持っているのなら、それを起動させる条件は一つしかない》


 采の周りに雪の結晶が舞う。ダイヤモンドダストのようにきらきらと輝き、無数のナイフへと姿を変える。ナイフという映像を使ったのは肉体を持つ穹への対処の為だ。よくわからないエフェクトではシステムとしてダメージを受けるだけとなってしまう。肉体にもダメージをもたらすには「傷つく」という具体的な方法を示す必要がある。穹に危機感を抱かせる演出だ。


《条件は、ユニゾンを攻撃する事。致命的となる攻撃である事だ》


 采が選手宣誓でもするかのように右腕をあげる。穹も、夜も暁も宵も特に驚く様子はない。何故なら皆同じ答えにいきついているからだ。何百、何千という演算の結果導き出されるのはこの結果だった。何かをしようとしてできることならとっくに行っている。自分たちの意志でできないのなら、条件が揃ってはじめて行えるパッシブ的性能だ。

そしてこれを采がするという事は、リッヒテンを取り込んでいる時点で答えが出ている。


「効かないんだろうなあ今の采には、俺らの性能が」

「効かねえな」

「まあそうだろうねえ」

「間違いなく」


 そう言い終わると同時に采の攻撃が始まる。夜の分解、暁の再構築によってナイフの映像は雪輪の文様に戻った。ここで万が一穹に当たれば穹は死ぬ可能性が高い。穹が死ぬと元も子もないので一応守りに入ったようだ。宵のセキュリティによって一応攻撃は防がれているが、次世代型人工知能との性能差は明らかだ。

采による攻撃を受け危機的状況だという判断を頭の片隅で行うと、全員の目がユニゾンカラーに統一される。采が待っていたのはこれだ、ユニゾンが持っているであろう采をコントロールするためのプログラムを理解しコピーを作ること。パッシブである以上ユニゾンたちでも止められない。

 穹達が持つ何らかのプログラムが複雑につなぎ合わされていく。細い糸がやがて紐になり、自ら生きているかのようにうねって形が作られる。采の攻撃からこの動きまでに0.1秒もたっていない。すべてシステムとして頭で理解しているイメージ映像だ。

出来上がったのは、複雑だが美しい文様だった。


 浮線綾(ふせんりょう)、という言葉が頭に浮かぶ。人工知能たちが持っていた文様とは種類が違うがこれも一つの文様だ。4人揃い条件が整えば組み立てられる構造となっていた。その中身はプログラムだ。采の行動を強制停止し、演算能力にロックをかける。いわば弱体化させるものだ。

 采の分解でも再構築でもない、弱らせるだけのもの。切り札としてはあまりにもつまらない内容と言える。根本的な解決になっていない。


《では、アンチカウンターを発動しよう》


 わざわざそう宣言すると雪輪が高速で回転し始めた。采による攻撃に対してユニゾンが行ったのはカウンター、となればアンリーシュルールでは采が行うのはカウンター発動に対して発動できるアンチカウンターだ。

 発動したのはリッヒテンの雪輪。もうここまでくれば、リッヒテンとは何だったのか、采がリッヒテンをどう改変してきたのか予想がつく。


「なるほどな、リッヒテンは、っつーか采が持ってるすべての駒はユニゾンに対するアンチプログラムか」


 夜が感心したように言った。おそらくセルケト、セクメト、アリス、その他リッヒテンがもっていたアカウントすべてがそうだ。采は演算の末ユニゾンの役割もプログラムもすべて予測をつけていた。人工知能のタブーであるプログラムを作り出すと言う行為も、リッヒテンを取り込んだ時点で五十貝派のシステムを利用して構築できるようになっていたのだ。考えられるあらゆるプログラムを想定し、それに対するアンチプログラムを作ってきた。これは夜の分解も暁の再構築も受付けない。そして浮線綾を見せてしまう事で采にプログラムを真似されることとなる。

今、ユニゾンは采を制御する事は不可能となった。


インサートシステムに入っていたのは浮線綾を完成さるためのコードだった。穹が持っていたシステムの中身を、記憶を消す前の穹はインサートの中に切り離して保管していたのだ。


(でも、何のために?)

―――何のためにそんなことをする必要があった、手間をかけてまで―――


記憶を消してもシステムは残っていたはずだ。成長しなおした穹がシステムを使いやすいようにするなら切り離す意味がない。


(なあ、昔の俺は何を考えてそんなことしたんだ)


自問自答をする、人として。目の色は戻っているはずだ。


(ミスリードが多いんだよな、前の俺のやり方って。たぶん大切なものだと周囲に勘違いさせるためだ。このコードも大事なものだけど、もっと大切なものを隠すための目くらましか)


《インサートへの置き土産はついで、ということだ。本命は別の場所に隠したな》

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