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『庶民に追放なら良いかと思っていたら』シリーズ

アイシャはルルドくんと仲良くなりたい

作者: 天川ひつじ

「庶民に追放なら良いかと思っていたら殺害ルートがあるそうです」シリーズ9作目。

特に、4作目の『ルルド=アドミリードと家族たち』を読んでいないと分かりません。

人物紹介:https://ncode.syosetu.com/n3107gu/

今日はアイシャの8歳の誕生日。

夕食に、アイシャは誕生日パーティをして貰った。とても嬉しい良い日だ。


そして夜。湖の下を通る滑り台で行くことができる遺跡の奥の部屋にて。

今、アイシャは、ノルラとたくさんのぬいぐるみから出てきている幽霊のような白い人たち誕生日を祝ってもらっていた。


ちなみに、今12歳のドルノは随分前にふっくらして、今11歳のイーシスも背が伸びてきて、つまり今、滑り台でこの部屋に来れるのは、今9歳の小柄なノルラと今日で8歳になったばかりのアイシャだけだ。


ノルラは、アイシャのためにイーシスと一緒に作った、という焼き菓子を持ってきてくれていて、アイシャはプレゼントしてくれたノルラと一緒にそれを食べながら、いつものようにお喋りに花を咲かせた。

そんな中で、アイシャはうっかりこう言ってしまったのだ。

「ルルドお兄様・・がくれた地面を歩く鳥のオモチャも嬉しかったの!」


するとノルラは面白そうに笑って指摘した。

「アイシャちゃん、『ルルドお兄様』なんて変ー! ルルドお兄様はノルラのお兄様で、アイシャちゃんのお兄様じゃないわ!」

「えっ、あっ、間違えちゃった・・・」

アイシャはすぐに自分の言い間違いを訂正して顔を赤くした。


アイシャは普段、ノルラと、ノルラの姉ドルノと一緒に仲良く遊んでいる。

遊び相手の姉妹がいつも『ルルドお兄様』と言うので、つい自分もそう呼んでしまったのだ。


指摘に恥ずかしい思いをしたアイシャだが、すぐに寂しくなってノルラに聞いた。

「私も、ルルドお兄様、って言っちゃ、駄目?」

「えーっ、駄目よそんなの。だってアイシャちゃんのお兄様じゃないでしょ。アイシャちゃんが言うとしたら、『ディアンお兄様』と、『イーシスお兄様』よ。ルルドお兄様は駄目」

「・・・ディアンはディアンで、イーシスはイーシスだもん」

誰もディアンやイーシスをそんな風に呼ぶ人はいない。


ルルドを兄と呼ばせてくれないノルラに向かって、アイシャは拗ねた。

するとノルラはすぐに何に拗ねているか分かったらしい。

「駄目! だってルルドお兄様は私たちのお兄様だもの。私たち別の家族なんだから」

ノルラが重ねて注意した。常識が無いの、というような言い方だ。


正論には違いないが、アイシャは落ちこんだ。


すると傍で二人のやりとりを見守っていたぬいぐるみの人たちが取りなしてきた。

『まぁまぁ。良いじゃないか。呼び方ぐらい』

『そうよ。ルルドくんだって気にしないわ』


「駄目よ。アイシャちゃんだってもう8歳なのに、そんなの変よ」

とノルラはぬいぐるみの人たちを叱った。

アイシャはまた悲しくなった。


『良いじゃないか、ルルドくんだってアイシャちゃんを妹の一人に思ってるよ、絶対』

『あらでも、そうなると困るのはアイシャちゃんだと思うけれど』

『それはそうかもね』


ぬいぐるみの人たちの言葉に、アイシャは顔を上げた。

「何が困るの?」

『アイシャちゃんはルルドくんのお嫁さんになりたいんだよね』

「うん」

コクリ、とアイシャは頷いた。

アイシャはもっと、ノルラたちの兄のルルドに構って欲しいと思っている。


小さな頃は、ドルノやノルラを抱えあげて遊ぶ時、アイシャも一緒に遊んでくれた。

ドルノやノルラが抱き付きに行くので、アイシャも一緒に抱き付きに行った。


だけどドルノやノルラは『ルルドお兄様』と呼ぶのに、アイシャはそう呼んではいけないのだ。


そうでなくても、ルルドはアイシャの兄ディアンといつも遊んでいて、あまりアイシャに構ってくれない。

ノルラやドルノなら、兄妹だから、もっと遊んでいるのに。陸の船や湖の船に乗せてもらったり。

でもアイシャだけ、そういう話がしづらい。


アイシャも仲良くして欲しい。


ノルラが不出来な子に諭すように言った。

「アイシャちゃん、お兄様と妹は結婚できないのよ。妹じゃないから結婚できるの。良い? つまりね、アイシャちゃんは『ルルドお兄様』なんて呼ばない方が良いの。結婚できなくなっちゃうわ」

「え、そうなの?」

驚いたアイシャは尋ねた。

そんなアイシャの反応にノルラは満足したらしく、大きく頷いて見せた。

「そうよ。常識よ」

「じゃあ、呼ばない。ルルドくんって言う。それに、さっきのは、ノルラちゃんにつられて、そう言っちゃっただけだし・・・」

「その後『自分もルルドお兄様って呼びたい』って言ったくせに」

「う、うん・・・」

ノルラの厳しい指摘にアイシャは言葉を返せなくなってしまったが、それをまたぬいぐるみの人たちが取りなした。

『まぁまぁ』

『今日はアイシャちゃんの誕生日なのよ。もっと楽しくお祝いしましょう』


***


眠たくなってきたころに、ぬいぐるみの人たちに促されて、空飛ぶ船に乗り込んでいつものように部屋に戻る。

『おやすみ、アイシャちゃん。良い夢を見てね。おたんじょうびおめでとう!』

一緒に部屋で眠ってくれるたくさんのぬいぐるみたちに埋もれるようになりながら、すでに半分以上眠ってしまっているアイシャはなんとか、うん、ありがとう、と返事したつもりだ。


『アリア様とノアの末の子がもう8歳なんて感慨深いね』

とぬいぐるみたちが話している。

『きっともうあっという間に時間は経って行くのよ。瞬きしたらもう大人になってそう』


僕たちはどう過ごしていると思う?


さぁね。ぬいぐるみの暮らしも良いものよ


アイシャちゃんはすごく美人だから、運命持っていそうだよね。安心な暮らしだったら良いんだけど


そうだねぇ・・・


ぬいぐるみたちの話し声を聞きながら、眠っていた。


***


アイシャは不思議な夢を見る。

まるでそこにいるみたいに色鮮やかで、いつも会う人がいる。会ったことが無いけれど夢ではいつも会っている。

兄ディアンとは違うけれど、整った顔立ちだ。今は王子様。すぐに王様になる未来が来ると、夢だからアイシャは分かっている。

アイシャは少し大人になっている。

アイシャを見つけて、王子様は嬉しそうに笑う。周りに虹色のシャボン玉が浮かぶ。


やっと会えて嬉しい、と言って手を差し出す。


その人の手を取るのが正しい、と分かるけれど、その先が不安で、その通りに進みたくなくて、アイシャは手を出そうとして迷ってしまう。


どうして? と王子様が悲しそうになる。手を取って欲しい、とアイシャに頼む。


アイシャは言おうと思う。

「本当は、だって、ルルドくんのほうが好きなの。起きている私は、あなたなんか知らないもの」


言おうとすると、虹色のシャボン玉が次々と赤黒い刺々した生き物に変わる。

王子様の目も吊り上がる。

夢の中の世界が赤黒い紫色に変わる。


裏切り者! 敵だ! 逃がさない! 捕まえろ!


***


アイシャはパチッと目を覚ました。

目の前に、見慣れたぬいぐるみがあって、ホッとした。


またあの夢を見ちゃった。


アイシャはたくさんのぬいぐるみに当たらないように注意しながら体を動かしてベッドから降りた。


初めに見た時に、お父様とお母様に泣きついて、

『大丈夫、それは夢よ』

と慰めてもらった。

『夢なんて、嘘よ。本当の事じゃないから、大丈夫よ』

と。


その後にも、また同じ夢を見た。

再び怖がったアイシャに、母は言った。

『じゃあ、クシャクシャって、手で丸めて、ポイッて外に投げて捨ててしまいましょ。ゴミだもの』


母は少し面白そうに笑って教えてくれた。

『一緒にしましょう。お母様もね、昨日、怖い夢を見ちゃったの。湖にオバケが住んでいて、バクッと全部を食べてしまうの。怖かったわ』

『怖い夢だな』

と一緒にいた父も言った。アイシャは一人部屋が与えられているが、怖い夢に起きて、父と母の部屋を訪ねていた。


『お父様も怖い夢を見たかしら?』

母がアイシャの傍に寄りながら言い、父を見やる。

父は笑ってから、肩をすくめて悲しそうになった。

『そうだな。アイシャが、「お父様なんて大嫌い」と家出する夢を見た。泣いた』

『まぁ大変』

と大げさに息を飲む母。


『お父様もお母様も怖い夢を見るの?』

とアイシャは聞いた。

『そうよ。でも大丈夫。怖い夢なんて捨てちゃえば良いの。お母様が教えるから、アイシャもお父様も一緒にやってみましょう?』


アイシャはそれ以来、怖い夢を見たら、母が教えてくれたようにする。


窓のカーテンを開けると今日は曇り空のようだ。暗くて少し怖い。

「怖い夢なんてこうだ」

昔の母の言葉をなぞりながら、アイシャは胸の前でギュギュっと手を動かし、見えない悪夢をクシャクシャに丸める動作をした。

「ギュギュッ、ギュー!」

小さくギュッと閉じ込めて。


「えーい! 無くなれ!」

アイシャは、ギュッと小さくした悪夢、実際には空気だけれど、を、閉じたままの窓の外に向かって投げつける真似をした。

「あっちに行け! 悪い運命なんて大嫌い! 消えてしまえ!」

これは母の通りでは無くて、アイシャが悪口を追加した。

母のは、「えーい、無くなれ! 運命なんて関係ない!」だった。似たような言葉なら大丈夫よ、とその時母は言ったので、気分で変える。


これで悪夢は丸めて外に投げ捨てた。

すると、不思議とスッキリした気分になれる。


母はその日、悪夢を投げ終わった父とアイシャに向かってこうも教えた。

『投げ捨てちゃった夢の分、楽しいことを考えましょ。こうなれば良いなぁって、良い夢を自分で考えるのよ』

どこか歌うように楽しそうに言うので、アイシャも明るい気持ちになってくる。

『お母様はねぇ、美味しいゼリーを食べる夢を見たいわ。大きくてプルプルで冷たーいのよ。アイシャはどういうのにする? 一緒に考えてあげても良いわよ』

『うん。楽しいのが良い』

『皆で遊びに行くのはどうだ?』

『うん! どこに連れて行ってくれるの!?』


アイシャが本当の提案だと間違えて目を輝かせたので、父は少し驚いて苦笑した。

『夢の話なんだが。いや、現実に行くのも良いな。どこに行こうか』

『動物園に行きたい!』

『分かった。じゃあ行こう』

『やったぁ』

『さっそくいい事があったわね、アイシャ』

母が楽しそうに、優しい手つきでアイシャの頭を撫でてくれた。


『どうする? 今日はこのままお父様とお母様と一緒に寝るので良いぞ?』

と父も頭を撫でてきた。

『うん』

アイシャは嬉しくてニコニコ笑った。


その日はお父様とお母様に挟まれて眠った。


今はその日よりアイシャは大人になったので、わざわざ父と母の部屋に訪れる事もしないし、一緒に寝て欲しいと頼むこともしない。


「楽しい事を考えようっと」

アイシャは悪夢を投げ捨てた先である、家の傍の湖を見つめ、ガラス窓に触れた。


「明日、ルルドくんと遊べたら良いなぁ」


アイシャの憧れるルルドは、アイシャより随分年上のお兄さんだ。

なぜ憧れているかと言うと、アイシャの兄ディアンが、ルルドといつも楽しそうだから。

アイシャのもう一人の兄イーシスも、兄ディアンが仲良く楽しくしているのでルルドが気になるらしく、それから困った時に助けてもらったのが頼もしかったそうで、もう一人の兄だとルルドを慕っている。


そしてアイシャがいつも遊んでいるノルラとドルノにとって、ルルドは本当の『お兄様』。気軽に船の運転をルルドに頼んでおでかけに連れて行ってもらったりと可愛がってもらっている。


アイシャだって可愛がってもらいたいのに。

なのに、主に兄ディアンが原因で、アイシャが遊んでもらう隙がないのだ。

アイシャが8歳でルルドが16歳、という年齢差もあって、ルルドの視界と思考にアイシャが入り込む隙も無い、と、ノルラやぬいぐるみたちから指摘も受けている。


「明日、ルルドくんに、湖の船に乗せてもらいたいなぁ」


せめてせめて、そんな夢が見れますように。


アイシャはそんな希望を今度はギュッと胸に詰める真似をして、ベッドにまたそっと戻った。

ぬいぐるみたちは変わらず寝ている。


希望する夢を胸に詰めたおかげか、スゥっとまた眠ることができた。


ただ、朝起きた時に見た夢は、ルルドとディアンがアイシャを置いて遊びに行ってしまう、よくある毎日の夢だった。

投げ捨てるほどでは無かったのだけど、つまらなかったので、クシャッと丸めて、エイッと窓の外に投げ捨てた。


「どうしたらルルドくんと遊んでもらえるかなぁ?」

とぬいぐるみたちに相談してみる。


***


アイシャがルルドに、夢で良く見た王様から救い出してもらうのは、まだ5年半ほど後の未来。



(完)

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