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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

恋愛ファンタジー短編集

悪役令嬢は振り返らない!~私が愛したのは貴方ではありません。吸血鬼です。~

作者: 花月夜れん

本作はヤンデレ要素、少量の吸血要素を含みます。苦手な方はご注意下さい。

短編読み切り作品です。

 婚約破棄? 追放? 別に構わないわ。(わたくし)が大好きなあの人が戻ってくるわけじゃない。

 あなた達がくっつこうが離れようが私には関係ないのよ。

 だって、私が本当に愛していたのは…。


 ガタガタと規則的に動いていた馬車が急にスピードをだして走り出した。


 ギギギギーーーガシャン!


 どぷんっ!!


 冷たい水底に沈んでいく。私は今からあの人の処に行けるのね。待っていて下さい、クリム様。いまお(そば)に行きます。


 私はそっと意識を手放した。


 ーーー


「マリー様、マリー様」


 誰?邪魔をするのは。


「起きて下さいませ、マリー様!」


 私はもうクリム様の処へと。


「マリー様!」


 その声は、キャロッタ?


「やっと、起きましたか」


 やれやれと、キャロッタは私の着替えやら朝の支度をはじめる。

 あれ、なんで私、小さくなっているの?


「マリー様、まだボーッとしていらっしゃいますね」


 キャロッタはてきぱきと着替えや髪をとかし終えていく。

 そういえばキャロッタもなんだか若い気がする。


「マリー様はもう六つになるのですから、一人で起きられるようになりませんと。この国の王の妃になられるのですから」


 六つ?どういうこと…?

 私はたしか水底に沈んで、そして。


「キャロッタ! 今日は何月何日?」

「十月一日ですよ」


 私が六つの十月一日。それは、私がクリム様に初めて出会った日だ。


 ーーー


 満月の夜、私はなぜか外の風に当たりたくなってバルコニーから外にでた。心地好い風が吹く日だった。


「あら?」


 蝙蝠が数匹飛んでいるのが見えた。その中にひときわ大きな影が飛んでいた。

 あれは何だろう?

 私は気になって、バルコニーの手すりに登って手を伸ばした。


 ツルッ


 一瞬の出来事だった。私はゆっくりと落下していく。

 眼を閉じて、落下が終わる時を待つ。


 バサリ


 思ったほどの衝撃はなかった。

 何故?

 眼を開けるとその理由がわかった。

 透き通った白い肌、流れるような青みがかった銀色の髪、真紅のルビーのような瞳、口からのぞく小さな牙、そして背中には大きな蝙蝠の羽……。


 吸血鬼(ヴァンパイア)……。


 恐ろしい魔物が落下した私を空中で抱きとめていたのだ。


「何をしている、愚か者! 僕が通りかからなければ真っ赤な薔薇が咲いていたぞ」


 そう言って、吸血鬼は私を抱いたままバルコニーへと運んでくれた。


「あの…、ありがとうございます」


 恐る恐る、お礼を言うと彼はプイっと空にいる仲間達のもとへと戻っていった。

 私は急いで彼に問うた。


「貴方の、お名前は!」


 返事をまっていたけれど、何かが返ってくることはなかった。


 私は彼にもう一度逢いたくて、次の日、同じ時間にもう一度バルコニーにでて、手すりを登る。


「懲りないのか、お前は?」


 今日は落下する前に、彼が現れた。私と十程(とうほど)違う位の見た目の彼が腕を組みながら眼前で優雅に飛んでいる。吸血鬼に年齢があるのかは知らないけれど。


「貴方にお逢いしたくて、私、愚か者になってしまったみたいです」


 手すりからおりて、スカートの裾を掴み、お辞儀する。


「昨日は私を助けていただきありがとうございました」

「たまたまだ」

「それでも貴方は私の命の恩人です。貴方のお名前をお聞きしたいのですが」


 そう言って、私は手すりに手をかける。


「クリムだ」

「クリム様!」


 素敵なお名前だわ。私は心の奥に何度も何度も彼の名前を刻み込む。


「クリム様、私を花嫁にして下さいませんか?」


 唐突の質問に彼は眼を見開いた。


「そんな小さな喰いでのないカラダのお前に興味などない」

「それは仕方がありませんわ。私はまだ六つですから。では、大きくなったら花嫁にしてくださると?」


 そう言うと、彼は私の目の前に降り立ち、上から見下ろしながら言った。


「吸血鬼の花嫁になるという意味がわかっているのか?お前のカラダはもちろんのこと、その流れる血の一滴までも僕に捧げるということだぞ!」


 キツイ眼差しで睨まれる。


「もちろん、承知の上です。私はクリム様に助けてもらわなければあのまま尽きていたことでしょう。この命、すべて貴方に捧げます」


 じっと、私も彼を睨み返す。

 少しの間の後に、彼は諦めたかのように眼をふせた。


「十六になってまだ同じ気持ちならばその命貰ってやる」


 そう言って、自分の首に掛けていた黒い宝石のネックレスを渡してくれた。

 私は嬉しくなって、さっそく自分の首にかけようとすると、彼がそっと近寄ってきてネックレスの留め具をとめてくれた。

 微かに触れる彼の冷たい指先が少しだけくすぐったい。


「明日もお逢い出来ますか?」

「毎日落下しようとされては困る。あれを止めるなら考えてやる」

「クリム様に逢えるのでしたら、お約束致します」


 ふっと、笑いながら彼はまた空中に戻った。


「おかしな奴だ」


 それから私と彼の逢瀬は毎日、あの時間のほんの一時だけだけれど続いた。そう、あの日まで。


 ーーー


「クリム様、私もう十五です。いつになったら花嫁にしていただけますの?」

「十六の約束だろう」

「あと一年、待つのが辛すぎます。私はすぐにでもクリム様のものになりたいのに」


 フッと、彼は苦笑いを浮かべる。


「一年なぞ、ほんの一瞬だ。(まばた)きすれば通り過ぎる」


 この言葉は彼と私の生きている時間の流れの差を感じた。

 出会った日と変わらぬ容貌。彼はいったい何年の時を生きているんだろう。


「あと一年、頑張れるようにクリム様の印を私にいただけませんか?」


 聞いて貰えるかわからないけれど、お願いしてみる。彼はきっと何時ものように子供の戯れ言ととって、笑って飛び去っていってしまうんだろう。そうわかっていたけれど。


「左手をだせ」


 何時もと違う返答に戸惑う。


「僕の印が欲しいのだろう?」


 私は、左手を彼に差し出した。ヒヤリとした彼の手と繋がった私の左手は彼の顔へと引き寄せられる。


「何を? っ!」


 つぷり


 結婚指輪がおさまるその場所に、彼の牙がゆっくりと侵入する。

 それは、痛みよりも快感を覚えた。

 スッと、彼の牙が引き抜かれるとそこには小さな赤色の宝石が二つ並んでいた。


「僕のものだ」


 彼の牙にも、赤色がついている。私の赤色だ。


「ありがとうございます。私、あと一年頑張りますわ」


 彼は、ふっと笑ってまた何時ものように空へと消えていった。

 残された私は左手の小さな赤色の宝石を愛おしげに抱きしめた。


 ーーー


「貴方の婚約者が魔物にとりつかれています」


 異世界からきた聖女が、私と王子に告げる。


「この国を、ヒース様を守る為、私は貴女を救って差し上げます」


 貴女は何を言っているの?私の婚約者は、


「サクラ!! 捕らえてきたぞ」


 王子付きの騎士が、聖女に告げると、私達の前に大きな蝙蝠の魔物を連れてきた。青みがかった銀色の蝙蝠だ。


「マリー様、今この魔物を私が浄化します! そうすれば貴女は魔物の魔法から解放されます」


 ヤメテ


「この国を守る為! 消えなさい!」


 ヤメテ!ヤメテ!!


 聖女が魔法の言葉を唱えると、大きな蝙蝠の魔物は光の粒子になって消えていく。


「ダメェェェェ!」


 駆けつけたいのに、王子が私の手を掴んで放さない。光の粒子が消える瞬間、彼が何時ものようにふっと笑った。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ーーー


「マリー、魔物の魔法で魅了されていたとはいえ、国を危険に晒した罪、」


 イイエ、魔法になんてかかっていません。


「この日、この時をもってお前との婚約は破棄する」


 何を言っているの?私の愛する人は、


「そして、お前は追放処分とする」


 ーーー


 そうだ、思い出した。私は、選択を間違えたのだ。

 今度は絶対に間違わない。約束を果たして貰うために、私は貴方を守ってみせる。

 だけど、貴方に出会う今日この日。これだけは許して欲しい。


「何をしている愚か者!」


 貴方と出会わない選択なんて私には出来ない。たとえそれがバッドエンドの決定打だとしても、……私の生きる意味だから。

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