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私は親不孝者です。

作者: 相澤 ちょこ


 家族とうまくやっていますか?


私は三姉妹の長女です。

父と母、私と妹2人の5人家族。


私は今まで、うまくやってきたつもりでした。


病気がちの母と次女。

少し歳の離れた三女。

仕事が大変な父。


これでも家族のために立ち回ってきたと思っています。



 三女が生まれたばかりのころ、姉として面倒をみることが多かったと思います。

おむつも替えました。

ひきつけをおこす子で、母が救急車を呼ぶ間、父に電話してと携帯を渡されて、泣きながら父に帰ってきてと電話をしたこともあります。


姉だから、妹の面倒をみなければならない。

妹に手がかかるので、我儘を言ってはいけない。

できる限り、良い子に。

そうやって親に気をつかっていたと思います。



 父の会社が倒産したのは、中学3年生の秋でした。

父の就活のために、3月に引っ越しをすることに。

都道府県をまたぐため、第一志望の高校には行けなくなりました。


慌てて転居先にある高校の受験対策をすることになり、かなりストレスを感じました。

公立高校は内申点も影響します。

しかし、別の県の中学の内申点など無いに等しいようなものらしいですね。


当時、担任の先生が主張して転居先の高校をまわってくれましたが、どこも厳しいと言われました。

父は失業してますから、私立の選択肢はありません。

もはや志望校なんてものはなく、安全圏と言われた高校を受験して通うことになりました。


それでも、父に対して何も言いませんでした。

働く先を失った父のほうが大変だと思っていたからです。

中学時代に暮らしていた田舎よりも、転居先のほうが職があるのは事実。

家族を養わねばならない父の負担を思うと、受験ストレス、志望校が変わる不安、中学の友人たちと離れる寂しさ、そんなものは我慢するべきだと思いました。



 母がお腹が痛いと訴えるようになったのは高校生のとき。

最初は単なる腹痛だと思っていましたが、1週間経っても治らず、ついに病院に行くことになりました。

躊躇するというか、どこか怯える母に付き添って総合病院へ行きました。


検査の結果、腸に穴が空いており、手術をすることに。

そのまま即入院だったので、自宅から必要なものを取ってきたり、入院着などを買ってきたのは私です。

この時も、当たり前のように私がやらねば、という気持ちであったと思います。



 大学に進学したあたりから、自分の携帯料金と大学までの交通費をアルバイト代から捻出するようになりました。

大学までの交通費は高く、学割3ヶ月定期で3万ちょっと。

自宅から遠かったので仕方がないのですが、携帯料金と合わせると1ヶ月のバイト代が全て無くなってしまうことも。

それでも、親に負担をかけてはいけないという思いで頑張りました。


もちろん、大学の学費は奨学金です。

国公立大に入るような頭はないので、苦しくても私立大に行くしかありません。


奨学金は1年ごとに申請が必要です。

いつだったか、奨学金の来年度の延長申請をすっかり忘れてしまっていたことがあります。

自分のことは自分でするよう育ってきました。

当然、奨学金の延長申請は私がしなければなりません。

青ざめて大学に掛け合ったところ、延長申請の締切日は大学で設けていた期限なので大丈夫、と言われました。


このときの私の心境は、親に迷惑をかけることにならなくてよかった、でした。



 これらのエピソードからわかっていただけるかと思いますが、私は良い子でいたかったのです。


優等生の長女。

家族思いの長女。


そう思われたかったのです。

良い子だと褒められたい一心でした。


でも、ある日、気がついてしまったのです。

こんな努力、意味がなかったのでは、と。



 次女の反抗期は過激でした。

数日、自宅に戻らないなんてことも。

高校も中退して、家を飛び出し、水商売をしていたこともあったようです。


現在は後悔しているらしく、高卒認定を受けたあと、通信制の大学にも進学しました。


ただ、当時の次女は両親の悩みの種であったことは確かです。

落ち着くまで時間もかかりました。


社会人になったあと、次女と2人暮らしをすることになったのは、彼女が反抗期を引きずっていたからだと思います。

母とは合わない、と。


昔の次女は、ママっ子でした。

ママ大好きっ子。

祖父母の家に泊まりに行っても、次女がホームシックで泣くので祖父がタクシーに乗せて帰ることも多かったくらいです。

私から見ても、ベッタリでした。

2人でくっついているのを、少し離れて見ていた記憶があります。


それなのに、いつの間にか母と次女の関係に亀裂が入っていたらしいのです。

次女いわく、母はわかってくれない。

共感してくれない。


次女は母に対する不満が募っていたようです。

成人してからは、もう反抗期ではなく不信感だったのかもしれません。


とにかく母と離れたい、しかし金銭的な問題があるとのことで、私と同居することになりました。

表向き家賃折半でしたが、密かに無理だろうと思っていたので、私1人でも支払える物件を探しました。


そのとき、両親が言った言葉がこちら。


「次女をたのむ。」


つまり、保護者として頼まれたわけです。

2歳しか離れていないのに。

案の定、すぐに家賃を支払えなくなった次女。

病気がちなこともあって、職が安定しません。

その後、月に2万ほどおこづかいを渡すようになりました。


そんな生活は、次女も辛かったのでしょう。

すぐに同居を解消して、実家に帰っていきました。


「帰ってはきたが、やはりママとは合わないかもしれないから、何かあったときは次女の避難場所になってやってくれ。」


父の言葉です。

両親は次女を気にかけていました。

本当に心配でたまらなかったんでしょう。

病気がちでしたからね。

良い子として振る舞う私なんかよりも、遥かに気がかりだったことでしょう。



 父が自宅を売ることにしたとき、私に連絡がきました。

自宅を売っても、少しローンが残ってしまうのです。

大きな金額ではありませんでしたが、両親には一括で支払えるほどの蓄えはありませんでした。


中学生のときの父の会社の倒産、母と次女が病気がちで入退院を繰り返す状況であったことが、貯蓄計画を狂わせたようです。

私は社会人になって3年目。

普通口座には大してお金はありませんが、財形をやっていたので、そちらにはまとまったお金がありました。


「もし、お金があるなら貸してほしい。」


そう言われて、財形を崩しました。

困っているから、仕方のないこと。

ここでも、私は良い子を無意識に実践したわけです。


しかし、後日その話を友人にしたところ、ありえないと言われてしまいました。

それどころか、当時の彼氏にまで。


「搾取子なの?」


その言葉は衝撃でした。

ここではじめて、自分の立ち位置に疑問を覚えたのです。



 思えば三女が成人するときも、振袖の料金をクレジットカードで支払っています。

驚くことに、三女は自分の成人式だというのに秋まで振袖を決めていませんでした。


秋ですよ?

我が家の財産では、購入できるほどの余裕はありません。

だからレンタルです。

同世代が一斉に同じ日に着るものなので、レンタルは競争が激しいのです。

秋なんて、ほとんど残っていません。


「あの子、小さいから仕方がないわね。」


自分でやりなさいと言いつつ、やっていなかった三女に対する母の言葉がこれ。


小さい?

成人を迎える子が小さい??


「お姉ちゃん、ちょっと三女と一緒に行ってあげて。」


そう言われて2人でレンタルショップに行きました。

三女が気に入ったものを見つけたまではいいものの、契約をしなければ着物を予約できません。

そのお店では支払いイコール契約でした。

そのため、私がクレジットカードを出したわけです。


誤解がないよう言っておきますが、ローンのお金も振袖のお金も後日返してもらっています。

だから、搾取子というわけではありません。

ですが、私はただの都合が良いだけの存在なのでは、という疑惑が芽生えてしまったのです。


良い子として頑張ってきたけれど、その結果は?

思えば、妹たちは学生時代に交通費も携帯電話料金も支払っていません。

彼女たちは親に言いたいことを自由に言っているように見える。

辛ければ、辛いと言っている。


それでも親から心配され、気にかけられてきた妹たち。

私の見えないところで、本当は歯を食いしばって耐えているのかもしれないけれど。

私には不公平に思えて仕方がありませんでした。



 現在、父は仕事の都合で東京勤務です。

母と次女は、父に付いて行きました。


東京への転居が決まったとき、三女は専門学校卒業前。

すでに、会社からも内定をもらっていました。

だから、私のところへ話が来たのです。


「お姉ちゃんと暮らしたい。」


貯めていたバイト代では1人暮らしは厳しいと思ったのでしょう。

入社しても、新入社員の給料ではカツカツ。


「三女を頼む。」


私は、またしても保護者役です。

最初は家賃生活費折半だったから問題ありませんでした。


しかし、入社して半年。

三女は退職しました。

職場が合わなかったようです。


そこから、三女はバイトで食いつないでいましたが、やはり家賃が滞りがちです。

家賃生活費を私が全額支払う月も少なくありません。


そして、両親からは妹を心配する連絡がきます。

たしかに、心配でしょう。

ただでさえ可愛い末っ子の職が安定しないわけですから。

気持ちはわかります。


母からの電話は、大抵の場合、愚痴と妹たちの話です。

正直、妹のことは本人に聞けば良いのではと思ってしまいます。

愚痴に関しても、祖母の愚痴を聞くのが嫌だったと言いながら、自分も娘に同じことをしているのが不思議でなりません。


私になら、何をしても良いということでしょうか?


今年、コロナで世間は大変ですよね。

私もそうです。

三女もそう。


三女は5月と6月、家賃生活費を支払っていません。

ちなみに、滞った分を支払う能力も気持ちもないようです。

その月の家賃生活費を支払えればOK、支払えなければごめん、という感じでしょうか。

もはや扶養家族ですね。


それでも何とか踏ん張っていたのですが、先月、伯母に言われた言葉がキッカケで何かがガラガラと崩れてしまいました。


「ちょこちゃんは、何を考えているのかわからない。

言いたいことは言ってくれないと。」


胸に刺さりました。


きっと、親にとっては言いたいことを言う手のかかる子のほうが大事なのでしょう。

言いたいことを言うから、気持ちがわかる。

コミュニケーションをとれる、と。


どうして頑張ってきたんでしょうか。

私は搾取子ではないし、全く愛されていないわけでもないと思います。

大学まで出させてもらいました。

育ててもらった恩があります。

だから、親に恨みなどありません。


それでも、もう良い子で頑張るのはしんどくなってしまいました。

何を考えているのかわからないけれど言うことを聞く便利な子、それに価値はあるのでしょうか。

もう疲れました。

私は頑張り方を間違えてしまったんでしょうね。


「元気か?」


と親から聞かれれば、元気だという返事しかできません。

たとえ苦しくても。

他の返事を知らないのです。


今となっては、親からの連絡は苦痛でしかありません。

連絡がきても、無視しています。

何を話せばいいのかわかりませんから。


三女が経済的に自立、もしくは結婚などをしたら、私は家族と縁を切りたいと思っています。

縁を切れなくても、疎遠になりたい。

ひっそりと静かに暮らしたい。


親としても、今さら我儘を言い出した長女など鬱陶しいだけでしょう。

私も親を恨んでいるわけでもないし、対立したいわけでもありません。

ただ、都合の良い子が苦痛であるだけ。

お互いのために、疎遠になった方が良いと思っているだけです。


ただ、他の人から見れば、ただの親不孝者でしょう。

両親からの連絡を無視する、いい年した長女。

良い子だと思っていたら、急に我儘を言い出した困った長女。

歳をとった両親を心配しない親不孝者。


そのとおりです。

私は親不孝者。

反論の余地もありません。


ですが、私も精神的に疲れてしまいました。

自分の心を守りたいがゆえの行動です。


これから家庭をもつ方へのお願いです。

子供が複数になれば、良い子がいるかもしれません。

親に気をつかうタイプの子が。


親からすれば、気なんてつかわなくていいと思うでしょう。

なんでも相談してほしいと思うでしょうね。

でも、言えない子は、何も言いません。


親にだって事情はあります。

親だって人間なので、同じ自分の子でも愛情に差がでても不思議ではありません。

それは悪いことではないと思います。


それでも、ただ気持ちを言える時間を作ってあげてほしいと思います。

小さいときから正直に気持ちを伝える習慣があれば、親子関係が拗れてもコミュニケーションをとれるのではないでしょうか。

私のように、何を考えているのかわからないと言われずに済むと思います。


最後に。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


自分の感情が落ち着かず、口にもできないので文章にしました。

ただ誰かに愚痴を聞いて欲しくて、でも言える相手もいなくて。

本音を伝える方法もわからないので、エッセイとして書いてみました。

書くことなら、私にもできるので。


お見苦しい点も多々あったと思います。

ネガティブな心情、愚痴のオンパレード、伝える努力もしないという点から、批判もあるでしょう。


本当に、私は親不孝者です。


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― 新着の感想 ―
[一言] あなたが妹のことを背負う必要はないと思いますよ。 三女が自立する、結婚するのを待つ必要はありません。 あなたが三女を養う必要はありません。 気づけた今、できるだけ早く縁を切ることをお勧めしま…
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