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宮廷の扉

 ここはどこだ。

 

 一人でポツンと通路を行き来する。

 思思(スースー)の言う通り確かにどこかへ繋がる通路に出たはずなのに、そこからまったく脱出できていない。


 それに人気もない。

 かれこれ何時間が過ぎたのか。どこを移動しているのやら皆目検討もつかなく、日も暮れて来たので早く行かなければ宦官の人も痺れをきらしてどこかへ行ってしまう。それだけは避けたい。

 おろおろしていると微かに人の足音が聞こえたので、音がする方へ視線を向けた。


「あら貴女、腕を見せてちょうだい」


 最初に会った女官とは別の女官が、人気のない通路に現れた。

 私が入ってきた場所から来たようなので、やっと出会えた後宮の人間に嬉しくなり洗濯室はどこなのかを聞こうとしたが、腕輪を見せてくれと言うので先に大人しく見せた。


 良かった、これで帰れる。(ユン)も今頃心配しているに違いない。


「良いでしょう。今日の所は初めて?」

「はい」

「案内するわ」


 案内? 場所は言っていないはずだが、腕輪を見たから私が行く場所を特定できたのかもしれない。


 しかし着くまでにはかなり遠いのか、歩いても歩いても中々着くことができなかった。建物内の雰囲気も後宮のそれとは違い落ち着いた色になってきている気がするし、先に迷子になっていたので余計に長く感じる。


 耐えかねてまだ着きませんかねと聞いてみようとした時、ひと際大きな扉の前で女官が止まった。分厚い扉の前には護衛の宦官が二人立っている。

 ここが洗濯室?

 いいや絶対に違うだろう。


 女官は護衛に耳打ちをすると、私を手招いて部屋の中へ入るように言った。


夜伽(よとぎ)が終わったら宦官と後宮へ戻るように」

「夜伽!?」

「今日は水色の番ですからね、待合せ場にいたのだから貴女なんでしょう?」

「いやっ違」


 背中を押され、任せましたよと扉を閉められる。


 夜伽って、夜伽……?

 無理無理無理無理無理無理無理!!


「違うのにっ……」


 夜伽ってそんな、経験もないのにどうしろと?!

 駄目駄目やだやだやだ絶対に無理だ。

 こんなことになるのなら最初から後宮に行くのなんてやめれば良かったのに、給金になんて釣られた私が馬鹿だった。あの時の自分をビンタして更正させてやりたい。思えば色気のなかった人生だが、だからといって知らない誰かと一夜を越えるなんてことは神様が憐れに思って機会をくれたのだとしても全力で拒否する。それに女官もあんなんでいいのか! もし私が暗殺者とかだったらどうするんだ!


 けれど冷や汗がだらだらとこめかみを伝うと同時に、そもそもここは誰の部屋なのかとふと考えた。


 護衛の服装や警備の点から考えると(人が入る場合にはもっと護衛がいるはず)たぶん皇帝の寝所ではないはずだ。ならば後宮の女を他の男に触らせることになるが、皇帝のものを譲られる、そんな権利を持つ人がこの王宮にいるのだろうか。皇太子でさえ自分の後宮を持っているのに。



「そこは冷えるからこちらへおいで」


 扉の前から動かないでいると、艶気を含んだ低くも心地好い声が部屋に静かに響いた。

 想像していた声よりも厳つい感じではなかった。


 声をかけられては致し方あるまいと、死にに行く気持ちで扉から少しずつ離れる。自分が後宮の人間なら諦めが多少なりともつくが、私は後宮外の文官である。見習いだが。明日の朝は泣き腫らした顔で帰ることになるだろう。

 でも事情を相手に話せば分かってくれるかもしれない。

 本当は私ではなく違う人が来るはずだったということを伝えれば、さっきの女官を呼んで帰らせてくれるかもしれない。


 寝台の上に男の人がいるのは見えるが、顔の部分は薄暗くて近くに行かないと見えなかった。

 部屋の中は蝋燭の明かりでほのかに照らされている。


 だんだん近づいていった。




 するとそこには書物を読みふける、長い銀髪を肩に流した美しい男がいた。

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