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宮廷の探し物係

 こんなにどうしろというのか。

 朝から山積みに置かれた書巻の数々を見てあんぐりと口を開ける。


「なんです? この山」


 同じく起部の部屋に入ってそれを見た天が、中であたふたとしていた上官に向かって質問をしていた。

 本当になんだろう、この山。

 

「この中に皇帝陛下の大事な大事な、それはもう大事な政策が書かれたものが紛れているらしいんだ!」


 天の言葉に上官が泣きべそをかきながら訴える。


「紛れてる?」

「いいから探してくれ!」


 あれでもないこれでもないと、躍起になって書巻を放り投げていた。もっと大事に扱っていただきたい。

 

 話を聞くと門下省の人間が中書省から預かった文書を他の書巻と共に置いていたのか、気づいた時にはどこにあるのかまったく分からなくなったようで、もしかして保管庫に一緒に片付けてしまったのではないかということで私達起部に探すように頼んだらしいということだった。


 ようは門下省の尻拭いを手伝っているということか、と上官の騒ぎ様を見て目を据わらせる。

 

「内容はどんな物なんですか?」

「内容など教えられるわけがないだろうが」

「じゃあ分からないじゃないですか!」

「日付が二日の物をかき集めればいい!」


 特徴が分からないので聞けば、いいから探せぇい!! と怒られる。


 文書の中身が教えられないのなら最初から門下省の人が探せば良いのにと呟くと、一緒に作業をしていた春光(シュンコウ)は俺達は下っ端だから上の人間の手足になるしかないんだよとため息を溢して天井を見ていた。

 門下省は皇帝の政策に対して是非の判断を任されている所だ。私達より重要な仕事をしているのは間違いないけれど、なんだか悔しくてしょうがない。皆だって何でもできる凄い人達なのに、これでは私が見習いの時にしていた雑用と変わりないじゃないか。


「そもそも二日の物が一個も見当たらないですよ」

「本当にあるのか? この中に」


 前提としてこの中に紛れているのかも怪しい。

 門下省の人達は探すこともせず、今日もいつも通りに審議や議論に明け暮れているらしいが本当に丸投げである。大事な文書を無くしたという危機感はないのか。


 どうしたものかと巻物を手に眺めていると、おお! そうだ! と上官がパッと顔をあげて何か閃いたように明るい声を出す。


「推、お前分からないか?」

「何がですか」

「占いでここをなんとか」

「言っておきますが探し物を探す便利なものじゃありません!」


 言うと思ったのでここぞとばかりに否定をさせてもらう。

 昔の犯人探しもそうだけれど、占いは便利道具でも何でもない。

 ただの確率と運で左右される願掛けみたいなものでほとんどが『かもしれない』で構成されている、当たったらいいなぁ、みたいなそんな不確かな度胸試しのようなものだ。

 

 真剣に熱弁すると、じゃあ試しに一回だけやってみろと天に頼まれる。

 え、今の聞いてた? と目が点になるが、上官や他の起部の人達も試しにやってみてくれたらいいと先程の話はなかったかのように懇願された。遊びでもいいからやらないよりマシなんだそうだ。

 まぁ占いをまったく信じていない天が言うなら気も軽いなと、じゃあとやってみることにする。


 机の上に置いてあった筆を持って、それを床に立てる。

 三つ数えてゆっくりと筆から手を放す。


「山の左を指してます。そっちを探してみましょう」


 パタンと倒れた筆の先を見て岐路を見出した私に、皆は黙った。

 どうせそんな簡単なことで見つかれば苦労はしないとか何とか思っていそうだけれど、こんなので見つかれば私だってこんな男だらけのところで働いてなんかいない。冒険家にでもなって宝探しに勤しんでいたいものである。


 沈黙が続く中とりあえず山の左を探そうと、春光を筆頭に手当たり次第調べ始めた。

 天も微妙な面持ちでその場所に手を突っ込んでいく。

 

「お、おいこれ」

「これじゃねぇか?!」


 それから十秒も経たない内に、誰かが二日の文書を見つけたと声をあげた。全員が一斉に見つけた人の側に寄ってどれどれと日付けを確認する。確かに二日だ。しかも一番最近の二日。

 いつの二日かは分からないけれど、なくして焦るのだからつい最近の日付の物に違いないため門下省が探していものはこれだろう。上官もそれを確かめて小躍りをしていた。上の失敗とはいえ余程胃にきていたのかもしれない。よかったよかった。


「ええ、嘘だろ……」


 奇妙なものでも見るように、眉を歪めた天が私と巻物を交互に見ていた。嘘というか、今回も確率でどうにかなっただけで運がいいだけである。


「その筆を俺にくれっ」

「俺にも!」


 文官達は我先にと私が持つ筆を奪おうと手をのばしてきた。筆は特別なものでもないし、それにこれは上官の私物であって私の筆ではない。勝手に渡すことはできないので先端を引っ張る文官達から取られまいと自分のほうへと寄せる。大の大人がこれしきの筆に群がるなんて情けない。


「これは上官の筆なんです!」


――バキッ


 手にしていた筆を取り返そうと引っ張ったら、力強くしたせいか真ん中から真っ二つに折れてしまった。

 え、あれ。

 短くなったそれを見て、私も文官達もしばらく無言になる。


「推、お前たち……」


 その後私と文官達は上官に怒られた。私達では到底買うことのできない上質な物だったらしい。

 給金が出る日には弁償代として三分の一を上官に徴収された。

 なんだかとても理不尽である。

次話の未編集の物を一時的にあげてしまっていたようなので、さげています。

報告していただいた方、ありがとうございます。

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