やられっぱなしのお前が悪い
「ステータス……。」
おもむろに読み上げたらステータス画面が現れた。
水無月 純30歳 会社員
レベル1 魔法使い
体力 1
腕力 1
俊敏 1
魔力 30
スキル
なし
魔法
なし
「え?????」
俺は、突然現れたステータスを見て戸惑うが気になる事が二つあった。
「魔法使い?」
いつの間に魔法使いになっていたんだ。
そう言えば、職場や回りの人間に「もう少しで魔法使いだね」と言われた事を思い出す。
「そう言うことか……。」
携帯で検索してみると、30歳を過ぎて童貞だと魔法使いになれるらしい、他にも色々書いてあるが、そこら辺は、良くわからないからスルーした。
「それにしても、低いな。」
基準がわからないが俺のステータス低すぎないか?
それに、魔法使いなのに使える魔法がひとつもないのは、どうしてなんだ。
ステータスが表示されたばかりでレベル1だから、レベルが上がったりしたら魔法を覚えるかも知れない。
「でも、この世界には魔物がいないけど、どうやってレベル上げれば良いんだろう。」
こんな平和な世界で何を倒してレベルを上げる事が出来るのか、それとも、神奈の謎の失踪と何か関係があるのかも知れない。
わからない事だらけだが、その内分かることが出てくるかも知れない。
会社についていたので、現場の豚小屋へ向かう事にした。
いつもの光景であったが、そこには、「がっちゅも先輩」と「ひぃ~先輩」がケンカ?の様な事をしていた。
「がっちゅも! お前は、出荷前の豚が10頭も死んでるじゃねーか! ないをせよったか!!」
「ひぃ~!」
「がっちゅ、じゃっでお前は、やっせんたっど。」
「ひぃ~!」
「がっちゅ、もうよかっ!!」
「ひぃ~!」
見慣れた光景である。
ひぃ~先輩は、いくら怒られてもケロッとしている。
怒る側も「ひぃ~!」しか言わないから、それ以上なにも言えないから呆れて追求しない。
究極の回避方法じゃないかと思う。
ひぃ~先輩に何があったのか聞いてみるが「ひぃ~!」しか言わない。
「あ……はい。」
それ以上何も聞く気になれず、「こいつ実は、魔物なんじゃないか?」と勘違いしそうになる。
こんなどうしようもない日常を過ごしていたら、先日二代目から三代目に変わった社長が挨拶に現れた。
パパからレゴブロック兵隊もらったと喜んでいた新しい社長だ。
ちなみに、レゴブロックは、俺達の事を指すらしい。
「え~、今日から残業代カット、成績悪くなったら給料減らしま~す。」
回りのみんなが黙っている中、俺だけが抗議する。
「君、嫌い、左遷」
不機嫌になった社長は、そう言い放ち帰ってしまった。
その場の空気が凍り付き静寂が広がる中、「ひぃ~」と、誰かの声がして、静まり返っていたはずの現場に爆笑の渦が起こる。
「がっちゅ、黙っちょったらよかもんを!」
「黙ってれば、良いものを」
「バッカだ~抗議しても意味ないのに」
「ひぃ~!」
ゲラゲラと大きな笑い声は、収まることを知らない。
言いたい放題である。
大人は、みんな賢い。
賢いから権力者には、逆らわない。
言いたい事を口に出来ない。
口にしてしまったら、バカを見るのが社会でありその縮図がここにあった。
挫いた人間を見つけ、弱った所を一人が叩く。
一度叩いて、反撃がないか確かめる。
反撃出来ないと分かれば、次から俺もと見ていた回りの人間も参加し皆で叩く。
次第にエスカレートして、ストレス発散先へと変わる。
そんな絶望的な状況にいると上司の課長が話しかけて来た。
「お前のせいで上司である俺の評価が下がるだろ! それに、被害者面してるが、やられっぱなしのお前悪いんだ。」
声を出し泣く事も出来ない、生きながら死ぬ。
この会社にいる人間、全員の目が死んでいた事に12年勤めてようやく気付いた。
まるで、本当に人間でないように感じた。
ここまで、この小説を読んで頂きありがとうございます。
頑張って連載していくので、楽しく読んでもらえると嬉しいです。